説明

ポリビニルアルコールフィルム

【課題】高い水膨潤性を有するとともに水中に浸漬したときの形態保持性に優れ、しかも水面に浮かべたときの寸法安定性にも優れるPVAフィルムおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】PVA樹脂100質量部に対して天然セルロースを微細化してなるセルロース繊維を0.1〜55質量部の割合で含み、当該セルロース繊維の数平均繊維径が2〜150nmであるPVAフィルム、および、PVA樹脂と、天然セルロースを微細化してなり数平均繊維径が2〜150nmであるセルロース繊維とを、当該PVA樹脂100質量部に対して当該セルロース繊維が0.1〜55質量部となる割合で混合して製膜原液を調製する工程と、当該製膜原液を用いてキャスト製膜する工程とを含む、PVAフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い水膨潤性を有するとともに水中に浸漬したときの形態保持性に優れ、しかも水面に浮かべたときの寸法安定性にも優れるポリビニルアルコールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールフィルム(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略称することがある)は、力学物性、透明性、酸素バリア性、耐油性等に優れており、従来より、繊維包装材料、農業用フィルム(野菜保温用、野菜生育用等のフィルム)、ガスバリア材、フィルター、偏光膜等の光学フィルムなどの用途に使用されている。またPVA樹脂が水溶性や生分解性を有していることから、近年では、水圧転写用、包装用、農業用、土木用、医療用、工業用、日用雑貨用、玩具用などの水溶性フィルムや生分解性フィルムとしてもPVAフィルムが注目されている。
【0003】
PVAフィルムは水面に浮かべると膨潤して次第に広がり寸法安定性が悪いという欠点を有する。そこで、PVAフィルムの水による寸法変化を抑制する方法として、PVA樹脂を変性したり特定の添加剤を添加したりする方法が提案されている(例えば、特許文献1および2などを参照)。しかしながら、このような方法では、水面に浮かべたときにフィルムが収縮して皺が発生し、その後、再び広がる場合が多く、水面に浮かべた際のさらなる寸法安定性の向上が求められていた。また、熱処理や架橋処理を行う方法が一般的に知られており、これらの方法により水面に浮かべたときの寸法変化を小さくすることができるが、親水性が低下し水膨潤性が低下するという問題があった。そのため、水膨潤性を損なうことなく、水面に浮かべたときの寸法安定性に優れるPVAフィルムを得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−11590号公報
【特許文献2】特開2005−153508号公報
【特許文献3】特開2008−1728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い水膨潤性を有するとともに水中に浸漬したときの形態保持性に優れ、しかも水面に浮かべたときの寸法安定性にも優れるPVAフィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、PVA樹脂を、天然セルロースを微細化してなり特定の数平均繊維径を有するセルロース繊維により複合化してフィルムとすることにより、上記の目的が達成されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、
[1]PVA樹脂100質量部に対して天然セルロースを微細化してなるセルロース繊維を0.1〜55質量部の割合で含み、当該セルロース繊維の数平均繊維径が2〜150nmであるPVAフィルム、
[2]30℃の水中に210秒間浸漬したときの水膨潤度をX(%)とし、30℃の水面に210秒間浮かべたときの寸法変化率をY(%)とした際に、以下の式(1)を満足する、上記[1]のPVAフィルム、
Y < 100×(1.3×(X/100)−0.3)1/3−100−5 (1)
[3]前記Xが150〜750である、上記[2]のPVAフィルム、
[4]前記Yが30以下である、上記[2]または[3]のPVAフィルム、
[5]PVA樹脂と、天然セルロースを微細化してなり数平均繊維径が2〜150nmであるセルロース繊維とを、当該PVA樹脂100質量部に対して当該セルロース繊維が0.1〜55質量部となる割合で混合して製膜原液を調製する工程と、当該製膜原液を用いてキャスト製膜する工程とを含む、PVAフィルムの製造方法、
[6]前記天然セルロースが植物由来のセルロースである、上記[5]の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のPVAフィルムは、高い水膨潤性を有するとともに水中に浸漬したときの形態保持性に優れ、しかも水面に浮かべたときの寸法変化が小さくて寸法安定性にも優れる。また、本発明のPVAフィルムの製造方法によれば、上記のPVAフィルムを簡単にかつ円滑に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のPVAフィルムはPVA樹脂100質量部に対してセルロース繊維を0.1〜55質量部の割合で含む。当該割合でセルロース繊維を含むことにより、高い水膨潤性を有し、水面に浮かべたときの寸法安定性に優れるPVAフィルムとなる。本発明のPVAフィルムにおけるセルロース繊維の含有割合は、PVA樹脂100質量部に対してセルロース繊維が0.5〜50質量部の範囲内であることが好ましく、5〜30質量部の範囲内であることがより好ましい。セルロース繊維の含有割合が上記範囲よりも少ないと、得られるPVAフィルムを水面に浮かべたときの寸法変化を小さくする効果が低減する。一方、セルロース繊維の含有割合が上記範囲よりも多いと、得られるPVAフィルムをカットする際などにおいて割れが発生しやすく、取り扱い性に劣ったものとなる。
【0010】
上記のセルロース繊維の繊維径は1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。このような繊維径を有するセルロース繊維を用いることにより、水中に浸漬したときの形態保持性に一層優れ、しかも水面に浮かべたときの寸法安定性もより優れるPVAフィルムが得られる。上記のセルロース繊維の繊維径の下限に特に制限はないが、セルロース繊維の入手性などの観点から、繊維径が2nm以上のセルロース繊維を使用するのが好ましい。
【0011】
本発明のPVAフィルムが含むセルロース繊維の数平均繊維径は2〜150nmの範囲内であることが必要であり、2〜100nmの範囲内であることが好ましく、2〜50nmの範囲内であることがより好ましく、2〜10nmの範囲内であることがさらに好ましい。セルロース繊維の数平均繊維径が150nmよりも大きい場合には、PVAフィルムを水中に浸漬したときの形状保持性が十分でなく、水面に浮かべたときの寸法変化も大きくなるため、好ましくない。一方、数平均繊維径が2nm未満のセルロース繊維の使用は、入手性の観点から好ましくない。
【0012】
セルロース繊維の繊維径および数平均繊維径は以下の方法により測定することができる。すなわち、まず、PVAフィルムを水に溶解し必要に応じてさらに精製するなどして固形分率で0.05〜0.1質量%のセルロース繊維の水分散体を調製し、当該水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。また、比較的大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍および50000倍のうちのいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。これによって個々のセルロース繊維の繊維径を測定することができる。一方、数平均繊維径の測定には、まず、上記のように電子顕微鏡画像による観察を行う際に、画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定した場合に少なくとも軸に対し20本以上の繊維が軸と交差するような試料および観察条件(倍率等)とする。このような条件を満足する観察画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低、20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。こうして得られた繊維径のデータにより数平均繊維径を算出する。なお、セルロース繊維の繊維径はPVAフィルムを製造する過程でほとんど変化しないことから、原料に用いるセルロース繊維の繊維径および数平均繊維径を上記したのと同様にして予め測定しておけば、通常、それらの値がPVAフィルム中でのセルロース繊維の繊維径および数平均繊維径となる。
【0013】
本発明において使用されるセルロース繊維は、天然セルロースを微細化したものである。天然セルロースとしては、セルロースの生合成系から単離した精製セルロースを用いることができ、例えば、植物由来のセルロースや動物由来のセルロースを用いることができる。天然セルロースの具体例としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリントのような綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの天然セルロースの中でも植物由来のものが好ましい。なお、微細化する前から繊維径の小さいセルロースとして、微生物の産出するバクテリアセルロースが知られているが、微細化されたものではないバクテリアセルロースは、複雑に交差したり分岐したりしやすく、好ましくない。
【0014】
天然セルロースを微細化するための手法に特に制限はないが、例えば、特許文献3に記載されているように、天然セルロースを原料とし、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程;不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程;水を含浸させた反応物繊維を水などの溶媒に分散させる分散工程の各工程を順次経る方法が挙げられる。当該方法によれば、目的とする数平均繊維径を有するセルロース繊維を、水などの溶媒に分散された分散体の形態で容易に得ることができる。セルロース繊維は分散体の形態のまま後述するPVA樹脂と混合して使用してもよいし、あるいは、脱水や乾燥などを施して水などの溶媒の一部または全部を除去した後に後述するPVA樹脂と混合して使用してもよい。
【0015】
酸化反応工程において、酸化触媒として使用可能な上記のN−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−ホスホノオキシ−TEMPOなどが、水中および常温において充分な反応速度を示すことから好ましく例示することができる。これらのN−オキシル化合物の添加量は触媒量で十分であり、0.1〜4mmol/Lの範囲内となる量で反応液に添加することが好ましく、0.2〜2mmol/Lの範囲内となる量で反応液に添加することがより好ましい。
【0016】
共酸化剤としては、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸などを挙げることができる。これらの中でも、アルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウムがより好ましい。次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で天然セルロースを酸化することが反応速度の点で好ましい。臭化アルカリ金属の添加量は、N−オキシル化合物に対して1〜40モル倍の範囲内であることが好ましく、10〜20モル倍の範囲内であることがより好ましい。
天然セルロースを酸化する際の反応液のpHは8〜11の範囲内に維持されることが好ましい。天然セルロースを酸化する際の温度としては、例えば、4〜40℃の範囲内の温度を例示することができる。
【0017】
精製工程においては、未反応の共酸化剤や各種副生成物など、反応液中に含まれる反応物繊維および水以外の不純物を系外へ除去する。この段階において反応物繊維はナノファイバー単位にまでばらばらに分散していないことが多く、通常の精製法、すなわち、水洗と脱水を繰り返すことによって、高純度(不純物の含有率が、例えば、1質量%以下)の反応物繊維と水との分散体を得ることができる。精製工程における脱水の方法としては、必要に応じて減圧条件にしてろ過する方法、遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンター)などが挙げられる。こうして得られる水を含浸させた反応物繊維は、絞った状態で固形分(セルロース繊維)濃度として、10〜50質量%の範囲内であることが好ましい。50質量%よりも高い固形分濃度とすると、その後の分散工程において、分散に余計なエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0018】
分散工程において使用される分散機に特に制限はなく、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等の工業生産機として汎用の分散機を使用することができる。また、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダーのような、より強力で叩解能力のある装置を使用すると、目的とする数平均繊維径を有するセルロース繊維をより効率的に調製することができる。
【0019】
本発明において使用されるPVA樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体のけん化物などに代表される未変性のPVA樹脂を好ましく使用することができるが、本発明の効果を阻害しない範囲で、エチレン、プロピレン等のオレフィン類;アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミドまたはその誘導体、メタクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリル系単量体;ビニルエーテル類;ハロゲン化ビニル;マレイン酸またはその塩もしくはエステル類;ビニルシリル化合物などの単量体のうちの1種類または2種類以上が主鎖中に共重合された変性PVA樹脂であってもよい。変性PVA樹脂におけるこれらの単量体による変性量は変性PVA樹脂を構成する全構造単位のモル数に基づいて25モル%以下であることが好ましい。
【0020】
PVA樹脂の重合度は特に限定されないが、500〜8000の範囲内であることが好ましく、700〜6000の範囲内であることがより好ましく、1000〜4000の範囲内であることがさらに好ましい。PVA樹脂の重合度が500未満の場合には、フィルムとしての機械的強度が不足して使用する際にフィルムが破れることがある。一方、PVA樹脂の重合度が8000を超える場合には、後述する製膜原液を用いてPVAフィルムを製造する場合にその製膜原液の粘度が著しく増加して、得られるPVAフィルムの厚みが不均一になりやすい。なお、本明細書でいうPVA樹脂の重合度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0021】
また、PVA樹脂のけん化度は80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましい。PVA樹脂のけん化度が80モル%未満の場合には、得られるPVAフィルムの水膨潤性が低下する傾向がある。なお、本明細書におけるPVA樹脂のけん化度とは、PVA樹脂が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0022】
本発明のPVAフィルムは、PVA樹脂およびセルロース繊維とともに、用途や使用形態などに応じて、可塑剤、界面活性剤および無機フィラーのうちの1種または2種以上をさらに含むことができる。
【0023】
可塑剤の種類に特に制限はないが、グリセリン、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール系可塑剤が好ましく、特にグリセリンが好ましい。可塑剤の含有量は、PVA樹脂100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましい。可塑剤の含有量が30質量部を超えると、可塑剤がPVAフィルムの表面ににじみ出ることがある。
【0024】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、オクチルリン酸エステルカリウム塩、ラウリルリン酸エステルカリウム塩、ステアリルリン酸エステルカリウム塩、オクチルエーテルリン酸エステルカリウム塩、ドデシルリン酸エステルナトリウム塩、テトラデシルリン酸エステルナトリウム塩、ジオクチルリン酸エステルナトリウム塩、トリオクチルリン酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルリン酸エステルカリウム塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルリン酸エステルアミン塩等が挙げられる。
【0026】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型等が挙げられる。
【0027】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミン塩酸塩等のアミン類;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩類;ラウリルビリジニウムクロライド等のピリジウム塩等が挙げられる。
【0028】
両性界面活性剤としては、例えば、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン等が挙げられる。
【0029】
界面活性剤の含有量は、PVA樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜3質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0030】
無機フィラーとしては、例えば、シリカ、表面処理されていてもよい重質または軽質の炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、珪藻土、マイカ、炭酸マグネシウム、カオリン、ハロサイト、バイロフェライト、セリサイト等のクレー、タルクなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。これらのなかでも、PVA樹脂への分散性の観点から、シリカ、タルクが好ましい。無機フィラーの含有量は、PVA樹脂100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。
【0031】
本発明のPVAフィルムは、上記したもの以外にも、架橋剤、着色剤、香料、増量剤、消泡剤、剥離剤、紫外線吸収剤、澱粉、PVA樹脂以外の樹脂(例えば、PVA樹脂以外の水溶性高分子等)など、PVA樹脂、セルロース繊維、可塑剤、界面活性剤および無機フィラー以外の他の成分を必要に応じてさらに含むことができる。本発明のPVAフィルムの全質量に対する、PVA樹脂、セルロース繊維、可塑剤、界面活性剤および無機フィラーの合計の質量の占める割合は、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、90〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明のPVAフィルムの厚みに特に制限はなく、本発明のPVAフィルムの用途や使用態様などに応じて適宜設定することができるが、5〜1000μmの範囲内であることが好ましく、10〜500μmの範囲内であることがより好ましい。なお、PVAフィルムの厚みは、任意の5箇所の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0033】
本発明のPVAフィルムは高い水膨潤性を示す。PVAフィルムの水膨潤性は、水中に浸漬した後のPVAフィルムの質量を乾燥時のPVAフィルムの質量で除して得られる値の百分率として表される水膨潤度により評価することができる。本発明のPVAフィルムは、30℃の水中に210秒間浸漬したときの水膨潤度をX(%)とした際に、Xが150〜750の範囲内であることが好ましく、190〜750の範囲内であることがより好ましい。Xが150未満であると、得られるPVAフィルムの用途や使用形態などによっては水膨潤性が十分とはいえないことがある。一方、Xが750を超えると、水膨潤したPVAフィルムが破れやすくなり形態保持性が低下する傾向がある。30℃の水中に210秒間浸漬したときの水膨潤度X(%)は、PVAフィルムを30℃の水中に210秒間浸漬後、フィルム表面の水分を濾紙などでふき取ったときのフィルムの質量をW1とし、それを105℃の熱風乾燥機中で16時間乾燥したときのフィルムの質量をW2とした際に、(W1/W2)×100の式によって算出することができ、具体的には実施例の項目において後述する方法により測定することができる。なお、使用されるPVA樹脂のけん化度を向上させたり、製膜時の熱処理温度を高くしたりすることにより、上記のXの値を容易に低下させることができる。
【0034】
また、本発明のPVAフィルムは水面に浮かべたときの寸法安定性に優れる。水面に浮かべたときのPVAフィルムの寸法安定性は、水面に浮かべたときのPVAフィルムの寸法の増加量を水面に浮かべる前のPVAフィルムの寸法で除して得られる値の百分率として表される寸法変化率により評価することができる。本発明のPVAフィルムは、30℃の水面に210秒間浮かべたときの寸法変化率をY(%)とした際に、Yが30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましい。また、Yは0以上であることが好ましい。30℃の水面に210秒間浮かべたときの寸法変化率Y(%)は、PVAフィルムを30℃の水面に210秒間浮かべたときに生じる寸法の増加量の最大値をΔLとし、水面に浮かべる前のPVAフィルムにおける当該増加量の最大値を与える部分の寸法をL0とした際に、(ΔL/L0)×100の式によって算出することができ、具体的には実施例の項目において後述する方法により測定することができる。
【0035】
本発明のPVAフィルムは、高い水膨潤性を有するにも拘らず、水面に浮かべたときの寸法安定性に優れるという、一見すると相反する性質を有する。ここで、PVAフィルムが水で膨潤することにより生じる体積変化が3次元的にみて等方的に起こると仮定すると、PVA樹脂の密度として通常のPVA樹脂の密度である1.3g/cmを用いると、PVAフィルムの理論上の寸法変化率(%)は以下の式(2)により表すことができる。
[寸法変化率(%)] = 100×(1.3×([水膨潤度(%)]/100)−0.3)1/3−100 (2)
本発明においては、式(2)における水膨潤度として、上記した、30℃の水中に210秒間浸漬したときの水膨潤度X(%)を用いて以下の式(3)により理論上の寸法変化率Z(%)を表した際に、上記した、30℃の水面に210秒間浮かべたときの寸法変化率Y(%)とZ(%)とが、Y<Z−5の関係を満たすことが好ましく、Y<Z−10の関係を満たすことがより好ましく、Y<Z−15の関係を満たすことがさらに好ましい。
Z = 100×(1.3×(X/100)−0.3)1/3−100 (3)
【0036】
本発明は、PVA樹脂と上記のセルロース繊維とを、当該PVA樹脂100質量部に対して当該セルロース繊維が0.1〜55質量部(好ましくは、0.5〜50質量部、より好ましくは5〜30質量部)の範囲内となる割合で混合して製膜原液を調製する工程と、当該製膜原液を用いてキャスト製膜する工程とを含む、PVAフィルムの製造方法を包含する。当該製造方法によれば、本発明のPVAフィルムを簡単にかつ円滑に製造することができる。
【0037】
上記の製造方法によって高い水膨潤性を有するとともに水中に浸漬したときの形態保持性に優れ、しかも水面に浮かべたときの寸法安定性にも優れる本発明のPVAフィルムを簡単にかつ円滑に製造することのできる理由は定かではないが、次のように推定される。すなわち、PVA樹脂を含む製膜原液を用いてPVAフィルムをキャスト製膜すると、PVA分子鎖は面配向しやすく、特にフィルム表面においてはスキン層とよばれるPVA分子鎖の配向度が高い層が形成されると考えられる。ここで、PVA樹脂とセルロース繊維とを混合して調製した製膜原液を用いてキャスト製膜する場合であって、セルロース繊維が天然セルロースを微細化してなり、しかもその繊維径がある程度小さくて全体として本発明において規定される数平均繊維径を有している場合には、セルロース繊維はPVA分子鎖の配向に沿って面配向しやすくなると考えられる。そして、セルロース繊維が面配向すると、PVAフィルムが水膨潤したときにフィルムの厚み方向への水の吸収が阻害されることなく、しかも、フィルムの面内方向の寸法変化を抑制することができるようになると考えられる。それによって、高い水膨潤性を有するとともに水中に浸漬したときの形態保持性に優れ、しかも水面に浮かべたときの寸法安定性にも優れる本発明のPVAフィルムが簡単にかつ円滑に製造されるものと推定される。
【0038】
製膜原液を調製する工程において、PVA樹脂とセルロース繊維との混合方法に特に制限はなく、例えば、PVA樹脂のペレットと、上述したような、脱水や乾燥などを施して水などの溶媒の一部または全部を除去したセルロース繊維とを混合して混合物としこれと水などの溶媒とをさらに混合する方法;水などの溶媒に溶解させたPVA樹脂と、上述したような、脱水や乾燥などを施して水などの溶媒の一部または全部を除去したセルロース繊維とを混合する方法;PVA樹脂のペレットと、上述したような、水などの溶媒に分散された分散体の形態のセルロース繊維とを混合する方法;水などの溶媒に溶解させたPVA樹脂と水などの溶媒に分散された分散体の形態のセルロース繊維とを混合する方法などが挙げられる。これらの中でも、より均一なPVAフィルムを容易に得ることができることから、水などの溶媒に溶解させたPVA樹脂と水などの溶媒に分散された分散体の形態のセルロース繊維とを混合する方法を採用するのが好ましい。
【0039】
PVAフィルムに上記したような、可塑剤、界面活性剤、無機フィラー、架橋剤、着色剤、香料、増量剤、消泡剤、剥離剤、紫外線吸収剤、澱粉、PVA樹脂以外の樹脂(例えば、PVA樹脂以外の水溶性高分子等)などの成分のうちの1種または2種以上を配合する場合には、製膜前に予めこれらの成分を上記製膜原液に含有させておくことが好ましい。これらの成分の配合時期に特に制限はなく、上記のようにしてPVA樹脂とセルロース繊維とが混合されたものにさらに配合したり、あるいは、PVA樹脂とセルロース繊維の混合前にPVA樹脂およびセルロース繊維のうちの一方または両方に予め配合したりする方法が挙げられる。
【0040】
製膜原液を用いてキャスト製膜する工程において、その具体的な製膜方法に特に制限はなく、一般にキャストフィルムを製造する際に採用されている製膜方法を採用することができる。製膜されたフィルムには、必要に応じて熱処理を施すことができる。当該熱処理の温度は、70〜145℃の範囲内であることが好ましく、100〜135℃の範囲内であることがより好ましい。熱処理の時間としては、例えば、1秒〜1時間の範囲内が挙げられる。なお、当該熱処理をはじめとするPVAフィルムを製造する工程中で、高すぎる温度に晒されると得られるPVAフィルムの水膨潤性が低下する場合があることから、製膜原液を用いてPVAフィルムを製造するまでの間の製膜原液およびフィルムの温度を180℃以下に保つことが好ましく、150℃以下に保つことがより好ましく、145℃以下に保つことがさらに好ましく、135℃以下に保つことが特に好ましい。
【0041】
また必要に応じて、乾燥前、乾燥中または乾燥後のうちのいずれか1つまたは2つ以上の段階で一軸または二軸の延伸を行うこともできる。延伸の際の温度としては、20〜120℃の範囲内であることが好ましい。また、延伸倍率は、延伸前の長さに基づいて1.05〜5倍の範囲内であることが好ましく、1.1〜3倍の範囲内であることがより好ましい。さらに必要であれば、延伸後にフィルムを熱固定して残存応力を低下させることもできる。
【0042】
本発明の製造方法によれば、本発明のPVAフィルムを簡単にかつ円滑に製造することができるが、本発明の製造方法において、製膜原液を用いてキャスト製膜する際にフィルムの収縮を抑制するように寸法固定をして製膜を行う;乾燥の段階で延伸を行う;熱処理を行う際に寸法が変化しないような条件で行うなどの方法を採用すると、上記したYとZとの関係を満たすPVAフィルムをより効率的に製造することができる。
【0043】
本発明のPVAフィルムの用途に特に制限はないが、本発明のPVAフィルムは、高い水膨潤性を有するとともに水中に浸漬したときの形態保持性に優れ、しかも水面に浮かべたときの寸法変化が小さくて寸法安定性にも優れることから、繊維包装材料、農業用フィルム(野菜保温用、野菜生育用等のフィルム)、ガスバリア材、フィルター、偏光膜等の光学フィルムなどの用途をはじめ、水圧転写用、包装用、農業用、土木用、医療用、工業用、日用雑貨用、玩具用などの水溶性フィルムや生分解性フィルムの用途に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において、PVAフィルムの水膨潤度(X)の測定、形態保持性の評価、および、寸法変化率(Y)の測定は、それぞれ以下の方法により行った。
【0045】
[水膨潤度(X)の測定]
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムから切り出した10cm×15cmのフィルムを、30℃の純水1L中に210秒間浸漬後、取り出し、フィルム表面の水分を濾紙で拭き取った後にフィルム質量W1を測定した。次いでフィルム質量W1を測定した当該フィルムを105℃の熱風乾燥機中で16時間乾燥した時のフィルム質量W2を測定した。得られたW1およびW2を用いて、以下の式(4)により、水膨潤度(X)を算出した。
水膨潤度X(%)=(W1/W2)×100 (4)
【0046】
[形態保持性の評価]
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムから切り出した10cm×15cmのフィルムを、30℃の純水1L中に210秒間浸漬したときに、フィルムの形状を保っていた場合であって、ピンセットにより浸漬したフィルムを持ち上げたときに破れが生じなかった場合を「○」と評価し、フィルムの形状を保っていたものの、ピンセットにより浸漬したフィルムを持ち上げたときに破れが生じた場合を「△」と評価し、溶解するなどしてフィルムの形状を保っていなかった場合を「×」と評価した。
【0047】
[寸法変化率(Y)の測定]
酢酸ビニルの単独重合体をけん化することにより得られたPVA樹脂(重合度1750、けん化度88モル%)とグリセリンとから形成されるPVAフィルム(グリセリンの含有量はPVA樹脂100質量部に対して12質量部)を0.05質量%の濃度になるように水に溶解し、得られた水溶液を浴槽に入れて水温を30℃に保持した。一方、以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムから切り出した20cm×20cmの正方形のフィルムの中央に水性ペンで直径4cmの大きさの円および当該円の中心点を描き、前記水溶液の水面に浮かべた。フィルムを水面に浮かべてから収縮による皺の発生の有無を目視で確認した。さらに水面に浮かべてから210秒経過した時点において、フィルムに描かれた円について、上記の円の中心点を通過する最大径L(cm)を測定した。得られたLを用いて、以下の式(5)により、寸法変化率(Y)を算出した。
寸法変化率Y(%)={(L−4)/4}×100 (5)
【0048】
[実施例1]
(1)酢酸ビニルの単独重合体をけん化することにより得られたPVA樹脂(重合度2400、けん化度99.9モル%以上)(以下、「PVA樹脂(a)」と略称することがある)100質量部に対して、可塑剤としてグリセリンを12質量部添加し、水に溶解してPVA水溶液(A)を調製した。
(2)一方、乾燥質量で4質量部相当分の未乾燥の亜硫酸漂白針葉樹パルプ(主に1000nmを超える繊維径の繊維からなる)、0.05質量部のTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル)、および0.5質量部の臭化ナトリウムを水300質量部に分散させた後、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を5回繰り返し、水を含浸させた反応物繊維(固形分濃度は25質量%)を得た。
(3)次に、上記の水を含浸させた反応物繊維にさらに水を加えて、2質量%スラリーとし、回転刃式ミキサーで約5分間の処理を行った。処理に伴って著しくスラリーの粘度が上昇したため、少しずつ水を加えていき固形分濃度が0.15質量%となるまでミキサーによる分散処理を続けた。こうして得られたセルロース濃度が0.15質量%のセルロース繊維の分散体に対して、遠心分離により浮遊物の除去を行った後、乾燥して、微細化されたセルロース繊維の凝集体を得た。なお、セルロース繊維の繊維径の最大値は10nmであり、数平均繊維径は4nmであった。
(4)上記の微細化されたセルロース繊維の凝集体を水に添加し、撹拌して、固形分濃度が2質量%であるセルロース繊維の水分散体(B)を得た。
(5)上記のPVA水溶液(A)に、PVA樹脂(a)100質量部に対してセルロース繊維が0.2質量部になるように、上記のセルロース繊維の水分散体(B)を加え、混合・撹拌することにより、製膜原液(C)を得た。
(6)この製膜原液(C)を室温でPETフィルムで覆ったガラス板上にキャスト製膜し、75μmのフィルムを得た。さらに得られたフィルムを枠固定し、120℃で10分間熱処理をして、PVAフィルムを得た。
(7)得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、PVA樹脂(a)100質量部に対してセルロース繊維が0.2質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたことに代えて、PVA樹脂(a)100質量部に対してセルロース繊維が1質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0050】
[実施例3]
実施例2において、120℃で10分間熱処理をしたことに代えて、140℃で10分間熱処理をしたこと以外は、実施例2と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0051】
[実施例4]
実施例1において、PVA樹脂(a)100質量部に対してセルロース繊維が0.2質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたことに代えて、PVA樹脂(a)100質量部に対してセルロース繊維が30質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0052】
[実施例5]
実施例1において、PVA樹脂(a)の代わりに酢酸ビニルの単独重合体をけん化することにより得られたPVA樹脂(重合度1750、けん化度88モル%)(以下、「PVA樹脂(b)」と略称することがある)を用い、PVA樹脂(a)100質量部に対してセルロース繊維が0.2質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたことに代えて、PVA樹脂(b)100質量部に対してセルロース繊維が50質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加え、また、75μmのフィルムを得た代わりに、50μmのフィルムを得たこと以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0053】
[実施例6]
実施例5において、PVA樹脂(b)100質量部に対してセルロース繊維が50質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたことに代えて、PVA樹脂(b)100質量部に対してセルロース繊維が30質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたこと以外は、実施例5と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0054】
[実施例7]
実施例5において、PVA樹脂(b)100質量部に対してセルロース繊維が50質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたことに代えて、PVA樹脂(b)100質量部に対してセルロース繊維が15質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたこと以外は、実施例5と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0055】
[実施例8]
実施例1において、PVA樹脂(a)の代わりに酢酸ビニルの単独重合体をけん化することにより得られたPVA樹脂(重合度2400、けん化度98.7モル%)(以下、「PVA樹脂(c)」と略称することがある)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0056】
[実施例9]
実施例8において、120℃で10分間熱処理をしたことに代えて、100℃で10分間熱処理をしたこと以外は、実施例8と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0057】
[実施例10]
実施例9において、PVA樹脂(c)100質量部に対してセルロース繊維が0.2質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたことに代えて、PVA樹脂(c)100質量部に対してセルロース繊維が1質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたこと以外は、実施例9と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0058】
[実施例11]
実施例10において、100℃で10分間熱処理をしたことに代えて、120℃で10分間熱処理をしたこと以外は、実施例10と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0059】
[比較例1]
実施例1において、セルロース繊維の水分散体(B)を使用せずにPVA水溶液(A)をそのまま製膜原液(C)として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0060】
[比較例2]
比較例1において、120℃で10分間熱処理をしたことに代えて、140℃で10分間熱処理をしたこと以外は、比較例1と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0061】
[比較例3]
比較例1において、120℃で10分間熱処理をしたことに代えて、147℃で10分間熱処理をしたこと以外は、比較例1と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行った。結果を表1に示した。
【0062】
[比較例4]
実施例1において、PVA樹脂(a)100質量部に対してセルロース繊維が0.2質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたことに代えて、PVA樹脂(a)100質量部に対してセルロース繊維が60質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムは、カットの際に割れが発生し、取り扱い性に劣っていたため、その他の評価を行わなかった。
【0063】
[比較例5]
実施例5において、セルロース繊維の水分散体(B)を使用せずにPVA水溶液(A)をそのまま製膜原液(C)として用いたこと以外は、実施例5と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行ったが、水膨潤度(X)の測定においてフィルムを30℃の純水1L中に浸漬した際にフィルムが溶解したため、水膨潤度(X)の測定はできなかった。結果を表1に示した。
【0064】
[比較例6]
実施例5において、セルロース繊維の水分散体(B)の代わりに、回転刃式ミキサーで亜硫酸漂白針葉樹パルプ(主に1000nmを超える繊維径の繊維からなる)を処理して得られたセルロース繊維の水分散体(固形分濃度は2質量%であり、当該セルロース繊維の繊維径の最大値は900nmであり、数平均繊維径は300nm)を用い、また、PVA樹脂(b)100質量部に対してセルロース繊維が50質量部になるようにセルロース繊維の水分散体(B)を加えたことに代えて、PVA樹脂(b)100質量部に対してセルロース繊維が15質量部になるように上記の水分散体を加えたこと以外は、実施例5と同様にして、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により、水膨潤度(X)、形態保持性、および、寸法変化率(Y)の各測定または評価を行ったが、水膨潤度(X)の測定においてフィルムを30℃の純水1L中に浸漬した際にフィルムが溶解したため、水膨潤度(X)の測定はできなかった。結果を表1に示した。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、繊維包装材料、農業用フィルム(野菜保温用、野菜生育用等のフィルム)、ガスバリア材、フィルター、偏光膜等の光学フィルムなどの用途をはじめ、水圧転写用、包装用、農業用、土木用、医療用、工業用、日用雑貨用、玩具用などの水溶性フィルムや生分解性フィルムの用途に好ましく使用することのできるPVAフィルムが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して天然セルロースを微細化してなるセルロース繊維を0.1〜55質量部の割合で含み、当該セルロース繊維の数平均繊維径が2〜150nmであるポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
30℃の水中に210秒間浸漬したときの水膨潤度をX(%)とし、30℃の水面に210秒間浮かべたときの寸法変化率をY(%)とした際に、以下の式(1)を満足する、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
Y < 100×(1.3×(X/100)−0.3)1/3−100−5 (1)
【請求項3】
前記Xが150〜750である、請求項2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記Yが30以下である、請求項2または3に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
ポリビニルアルコール樹脂と、天然セルロースを微細化してなり数平均繊維径が2〜150nmであるセルロース繊維とを、当該ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して当該セルロース繊維が0.1〜55質量部となる割合で混合して製膜原液を調製する工程と、当該製膜原液を用いてキャスト製膜する工程とを含む、ポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記天然セルロースが植物由来のセルロースである、請求項5に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−82395(P2012−82395A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193771(P2011−193771)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】