説明

ポリビニルピロリドンの製造方法

【課題】過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法であって、重合時や保存時におけるポリビニルピロリドンの着色を抑制しつつ、分子量が比較的低いポリビニルピロリドンを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリビニルピロリドンの製造方法は、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法であって、該重合反応中および/または該重合反応後に陽イオン交換樹脂によって処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルピロリドンの製造方法に関する。詳しくは、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルピロリドンは、安全な機能性ポリマーとして、幅広い分野で用いられている。例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途や、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に用いられている。低分子量のポリビニルピロリドンは、上記各種用途に有用である。
【0003】
低分子量のポリビニルピロリドンは、一般的に、水媒体中、金属触媒の存在下で、過酸化水素を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合することにより製造される(特許文献1、2、3参照)。特に、各種用途に有用な、分子量が比較的低いポリビニルピロリドンを、低温・短時間で、安全に製造する方法として、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法が報告されている(特許文献3参照)
【0004】
しかし、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物を用いる上記製造方法においては、生成するポリビニルピロリドンが重合時や保存時に茶色や黄色に着色するという問題がある。このような着色したポリビニルピロリドンは、特に化粧品用途等において製品価値を落としてしまうという問題が生じる。このような着色の原因は、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の併用系において、過酸化水素による生成物の酸化反応、アミン化合物の酸化、アンモニアによる生成物の酸化反応の促進が原因であると考えられる。
【特許文献1】特開昭62−62804号公報
【特許文献2】特開平11−71414号公報
【特許文献3】特開2002−155108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法であって、重合時や保存時におけるポリビニルピロリドンの着色を抑制しつつ、分子量が比較的低いポリビニルピロリドンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリビニルピロリドンの製造方法は、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法であって、該重合反応中および/または該重合反応後に陽イオン交換樹脂によって処理を行う。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記重合反応中における陽イオン交換樹脂による処理が、上記単量体成分の重合反応が行われている反応容器中への該陽イオン交換樹脂の添加である。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記重合反応後における陽イオン交換樹脂による処理が、上記重合反応後に得られる反応溶液と該陽イオン交換樹脂との接触である。
【0009】
好ましい実施形態においては、得られるポリビニルピロリドンのフィケンチャー法によるK値が70以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法であって、重合時や保存時におけるポリビニルピロリドンの着色を抑制しつつ、分子量が比較的低いポリビニルピロリドンを製造する方法を提供できる。
【0011】
このような効果は、重合反応中および/または重合反応後に陽イオン交換樹脂によって処理を行うことによって発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のポリビニルピロリドンの製造方法においては、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する。ポリビニルピロリドンは、ビニルピロリドンの単独重合体およびビニルピロリドンと他の単量体との共重合体(好ましくはビニルピロリドン由来の構造単位を20重量%以上、より好ましくはビニルピロリドン由来の構造単位を30重量%以上含有する共重合体)が包含される。
【0013】
本発明のポリビニルピロリドンの製造方法においては、水媒体中での溶液重合によって行なうことが好ましい。すなわち、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物、およびビニルピロリドンを含むビニルピロリドン水溶液を、反応容器中で混合しながら重合反応を行うことが好ましい。
【0014】
上記反応溶液中のビニルピロリドンの濃度は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な濃度に設定し得る。例えば、10〜60重量%が好ましく、20〜50重量%がより好ましい。上記濃度が低いと、生産性が悪く、高コストとなるおそれがある。上記濃度が高いと、重合中、経時的に粘度が高くなって撹拌が困難となるおそれがある。
【0015】
本発明において用いるビニルピロリドンは、好ましくはN−ビニル−2−ピロリドンである。
【0016】
上記他の単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のアルキルエステル(メチルアクリレート、エチルアクリレートなど)、メタクリル酸のアルキルエステル(メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなど)、アクリル酸のアミノアルキルエステル(ジエチルアミノエチルアクリレートなど)、メタクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリル酸とグリコールとのモノエステル、メタクリル酸とグリコールとのモノエステル(ヒドロキシエチルメタクリレートなど)、アクリル酸のアルカリ金属塩、メタクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩、メタクリル酸のアンモニウム塩、アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、メタクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアンモニウム塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸塩、酢酸ビニル、ビニルステアレート、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカルバゾール、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテルなどが挙げられる。
【0017】
上記過酸化水素の使用量は、本発明の効果を発現できる量であれば、任意の適切な量を採用し得る。
【0018】
上記重合反応においては、重合反応の促進等を目的として、任意の適切な遷移金属塩を使用し得る。遷移金属塩としては、例えば、銅、鉄、コバルト、ニッケル等の硫酸塩、カルボン酸塩、塩化物等が挙げられる。これらは、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。好ましくは、硫酸銅である。上記遷移金属塩は、水和物であっても良い。
【0019】
上記遷移金属塩の金属イオン量は、ビニルピロリドンに対して1〜1000ppbが好ましく、5〜500ppbがより好ましい。金属イオン量が1000ppbを超えると、重合開始剤(特に、過酸化水素)の分解が促進され、単量体の分解反応が促進されて不純物が増加するおそれや、重合体の架橋反応が促進されて所望の分子量よりも大きくなるおそれがある。
【0020】
上記重合反応においては、重合反応の促進やビニルピロリドンの加水分解の防止等を目的として、アンモニアおよび/またはアミン化合物を用い得る。アンモニアおよび/またはアミン化合物は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0021】
上記アンモニアおよび/またはアミン化合物は、重合反応の反応系において、助触媒として機能し得る。すなわち、アンモニアおよび/またはアミン化合物が反応系に含まれると、含まれない場合と比較して、重合反応の進行がより一層促進され得る。上記アンモニアおよび/またはアミン化合物は、重合反応の反応系において、塩基性pH調節剤としても機能し得る。
【0022】
上記アンモニアおよび/またはアミン化合物の添加は、任意の適切な方法で行うことができ、例えば、重合初期より反応容器内に仕込んでおいてもよいし、重合中に反応容器中に逐次添加してもよい。
【0023】
上記アンモニアは、常温にて気体状の単体としてそのまま用いても良いし、水溶液(アンモニア水)として用いても良い。
【0024】
上記アミン化合物としては、任意の適切なアミン化合物を採用し得る。具体的には、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。上記アミン化合物は、1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0025】
上記第1級アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、アリルアミン、イソプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、エチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−メトキシプロピルアミンが挙げられる。上記第1級アミンは、1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0026】
上記第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N−メチルエチルアミン、N−メチルプロピルアミン、N−メチルイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、N−メチルイソブチルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルプロピルアミン、N−エチルイソプロピルアミン、N−エチルブチルアミン、N−エチルイソブチルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N−メチルビニルアミン、N−メチルアリルアミンなどの脂肪族第2級アミン;N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N−メチルトリメチレンジアミン、N−エチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジメチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンなどの脂肪族ジアミンおよびトリアミン;N−メチルベンジルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−メチルフェニチルアミン、N−エチルフェネチルアミンなどの芳香族アミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−イソブチルエタノールアミンなどのモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミンなどのジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリンなどの環状アミン;が挙げられる。上記第2級アミンは、1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミンおよびジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、中でもジエタノールアミンが特に好適である。
【0027】
上記第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミンなどのトリアルカノールアミンが挙げられる。上記第3級アミンは、1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの第3級アミンのうち、トリアルカノールアミンが好ましく、中でもトリエタノールアミンが特に好適である。
【0028】
上記アンモニアおよびアミン化合物の合計量は、ビニルピロリドンに対して、0.04重量%以上であることが好ましく、0.1〜1重量%であることがより好ましい。アンモニアおよびアミン化合物の合計量が0.04重量%未満の場合、反応速度が遅くなるおそれや、反応中のpHが低下しすぎてビニルピロリドンが加水分解したり着色が起こったりするおそれがある。アンモニアおよびアミン化合物の合計量が1重量%を超えると、pHが高くなり、架橋などの副反応が起こるおそれがある。
【0029】
上記遷移金属塩として銅塩を用い、さらに上記アンモニアを用いる場合、銅のアンミン錯塩が形成し得る。銅のアンミン錯塩としては、例えば、ジアンミン銅塩([Cu(NHSO・HO、[Cu(NH]Clなど)、テトラアンミン銅塩([Cu(NH]SO・HO、[Cu(NH]Clなど)が挙げられる。
【0030】
上記重合反応においては、必要に応じて、任意の適切なその他の添加剤を用い得る。例えば、連鎖移動剤、緩衝剤などが挙げられる。
【0031】
上記重合反応においては、上記の各仕込み成分は、任意の適切な方法で添加し得る。例えば、回分式や連続式などの方法が挙げられる。好ましい添加方法の1つの実施形態としては、例えば、反応容器に、水と銅塩を仕込み、撹拌下で、ビニルピロリドンとアンモニアと水の混合溶液(A)、過酸化水素と水の混合溶液(B)を滴下する。滴下終了後、必要に応じ、アンモニアと水の混合溶液(C)や過酸化水素と水の混合溶液(D)をさらに滴下する。
【0032】
本発明の製造方法においては、重合反応の反応溶媒として、水を必須に用いる。水以外の水性溶媒を水と併用しても良い。水以外の水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等のアルコール類が挙げられる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0033】
本発明の製造方法においては、重合温度は、重合時の最高温度が60〜95℃となるように調節することが好ましい。重合時の最高温度が60℃未満では、反応速度が遅くなり、反応時間が長くなるおそれがある。重合時の最高温度が95℃を超えると、着色、架橋反応などの副反応が起こるおそれがある。
【0034】
重合反応液のpHは、4〜11に保持することが好ましい。pHが低いと、反応速度が遅くなり、さらにビニルピロリドンが加水分解したり着色が起こったりするおそれがある。pHが高いと、架橋などの副反応が起こるおそれがある。
【0035】
重合開始から任意の適切な時間後、さらに重合開始剤(例えば、過酸化水素)を添加し、残存するビニルピロリドンを重合させることが好ましい。
【0036】
上記のとき、重合温度を60〜100℃に保持することが好ましく、塩基(例えば、アンモニア、アミン化合物、苛性ソーダ、炭酸グアニジンなど)によりpH4〜11に保持することが好ましい。上記重合温度が60℃未満では、残存するビニルピロリドンを重合させることが困難になるおそれがある。上記重合温度が100℃を超えると、着色、架橋といった副反応が起こるおそれがある。pHが低いと、反応速度が遅くなり、さらにビニルピロリドンが加水分解したり着色が起こったりするおそれがある。pHが高いと、架橋などの副反応が起こるおそれがある。
【0037】
本発明の製造方法においては、重合反応中および/または重合反応後に陽イオン交換樹脂によって処理を行う。この処理を行うことにより、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行ってポリビニルピロリドンを製造する際に、過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で重合反応を行う場合であっても、重合時や保存時におけるポリビニルピロリドンの着色を抑制しつつ、分子量が比較的低いポリビニルピロリドンを、低温・短時間で、安全に製造することができる。
【0038】
上記重合反応中における陽イオン交換樹脂による処理は、任意の適切な方法で処理し得る。好ましくは、上記単量体成分の重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加する。ここで「重合反応が行われている反応容器中へ添加」とは、重合反応の開始から終了までの間に反応容器中へ添加することを意味する。具体的には、例えば、重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加して微細に懸濁させ、その後に濾過する形態が挙げられる。
【0039】
上記重合反応後における陽イオン交換樹脂による処理は、任意の適切な方法で処理し得る。好ましくは、上記重合反応後に得られる反応溶液と陽イオン交換樹脂との接触である。ここで「重合反応後に得られる反応溶液」とは、重合時反応が終了して得られる反応溶液を意味する。また、「反応溶液と陽イオン交換樹脂との接触」とは、反応溶液と陽イオン交換樹脂とが接触する形態であれば、任意の適切な形態を採用し得る。例えば、反応溶液に陽イオン交換樹脂を添加する形態や、陽イオン交換樹脂を固定床としてそこに反応溶液を流す形態や、別の容器中に反応溶液と陽イオン交換樹脂をそれぞれ添加する形態などが挙げられる。
【0040】
上記陽イオン交換樹脂としては、任意の適切な陽イオン交換樹脂を採用し得る。好ましくは、スチレン系重合体、スチレン系共重合体が挙げられる。
【0041】
上記スチレン系重合体としては、例えば、イオン交換基を芳香環に備えたポリスチレンが挙げられる。上記イオン交換基としては、任意の適切なイオン交換基が挙げられる。例えば、スルホン酸(−SO)やカルボン酸(−COO)が好ましく挙げられる。市販品としては、例えば、三菱化学社製のダイヤイオンSKシリーズ、ダイヤイオンPKシリーズ、ダイヤイオンHPKシリーズなどが挙げられる。
【0042】
上記陽イオン交換樹脂の構造は、ゲルタイプ、マクロポーラスタイプ、ポーラスタイプ、ハイポーラスタイプなど、任意の適切な構造を採用し得る。本発明においては、単位重量当たりの交換容量が大きくかつ低コストである点で、ゲルタイプが好ましい。
【0043】
上記陽イオン交換樹脂の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な量を採用し得る。好ましくは、原料のビニルピロリドンに対して、0.1重量%以上であり、より好ましくは、1〜100重量%である。
【0044】
上記陽イオン交換樹脂の形状としては、任意の適切な形状を採用し得る。例えば、粒径0.01〜5mmの球状であることが好ましく、粒径0.1〜1.5mmの球状であることがより好ましい。粒径が小さい陽イオン交換樹脂では、陽イオン交換樹脂とポリマー水溶液の分離が困難となる傾向があり、粒径が大きい陽イオン交換樹脂では、処理時間が長くなる場合や、陽イオン交換樹脂の使用量が増加する場合がある。
【0045】
上記陽イオン交換樹脂による処理温度(接触温度)は、任意の適切な温度を採用し得る。好ましくは5〜100℃であり、より好ましくは10〜90℃である。処理温度が低いと処理時間が長くなるおそれがあり、処理温度が高いと重合物が着色または架橋するおそれがある。
【0046】
上記陽イオン交換樹脂による処理の時間は、任意の適切な時間を採用し得る。好ましくは1分〜24時間であり、より好ましくは3分〜12時間であり、さらに好ましくは5分〜2時間である。処理時間が短すぎると本発明の効果が十分に発現できないおそれがある。処理時間が長すぎると生産性が悪くなるおそれがある。
【0047】
本発明の製造方法においては、好ましくは、得られるポリビニルピロリドンのフィケンチャー法によるK値が70以下である。K値は、より好ましくは10〜60、さらに好ましくは10〜40、特に好ましくは10〜30である。
【0048】
フィケンチャー法によるK値は、以下の測定方法によって求めることができる。K値が20未満である場合には5%(g/100ml)溶液の粘度を測定し、K値が20以上の場合は1%(g/100ml)溶液の粘度を測定する。試料濃度は乾燥物換算する。K値が20以上の場合、試料は1.0gを精密に計りとり、100mlのメスフラスコに入れ、室温で蒸留水を加え、振とうしながら完全に溶かして蒸留水を加えて正確に100mlとする。この試料溶液を恒温槽(25±0.2℃)で30分放置後、ウベローデ型粘度計を用いて測定する。溶液が2つの印線の間を流れる時間を測定する。数回測定し、平均値をとる。相対粘度を測定するために、蒸留水についても同様に測定する。2つの得られた流動時間をハーゲンバッハ−キュッテ(Hagenbach−Couette)の補正に基づいて補正する。
【0049】
【数1】

【0050】
上記式中、Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)、Cは濃度(%:g/100ml)である。
【0051】
相対粘度ηrelは次式により得られる。
ηrel=(溶液の流動時間)÷(水の流動時間)
【0052】
本発明の製造方法によって得られるビニルピロリドン重合体は、溶液状態であるが、一般的な方法、たとえば、噴霧乾燥、凍結乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥、ベルト式乾燥などにより、粉末に移行させることができる。
【0053】
本発明の製造方法によって得られるビニルピロリドン重合体は、任意の適切な用途に用いることができる。その用途の一例を挙げれば、各種無機物や有機物の分散剤、凝集剤、増粘剤、粘着剤、接着剤、表面コーティング剤、架橋性組成物等であり、より具体的には、泥土分散剤、セメント材料分散剤、セメント材料用増粘剤、洗剤用ビルダー、洗剤用色移り防止剤、重金属補足剤、金属表面処理剤、染色助剤、染料定着剤、泡安定剤、乳化安定剤、インク染料分散剤、水性インク安定剤、塗料用顔料分散剤、塗料用シックナー、感圧接着剤、紙用接着剤、スティック糊、医療用接着剤、貼付剤用粘着剤、化粧パック用粘着剤、樹脂用フィラー分散剤、記録紙用コーティング剤、インクジェット紙用表面処理剤、感光性樹脂用分散剤、帯電防止剤、保湿剤、吸水性樹脂用原料、肥料用バインダー、高分子架橋剤、樹脂相溶化剤、写真薬添加剤、化粧用調剤添加剤、整髪料助剤、ヘアスプレー添加剤、サンスクリーン組成物用添加剤、あるいは、種々の工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に用いられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は重量基準である。
【0055】
<固形分>
重合により得られたポリマー水溶液約5gを精秤し、150℃で1時間乾燥させ、蒸発残分を固形分とした。
【0056】
<K値>
フィケンチャー法により測定した。
【0057】
<色相(5%APHA)>
JIS K3331に従い、固形分5重量%に調整したポリマー水溶液のAPHAを測定した。
【0058】
<アンモニア含有量>
ポリビニルピロリドン水溶液中のアンモニア含有量を、イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス株式会社製、「イオンクロマトグラフシステムICS2000」、塩基性物質測定用カラム:IonpacCS17、溶離液:メタンスルホン酸、流量:1.4mL/min)を用いて定量し、別途算出した水溶液中のポリビニルピロリドンの全量に対する重量ppmとしてアンモニア含有量を算出した。
【0059】
〔実施例1〕
反応装置に、0.025%硫酸銅(II)・5水和物水溶液0.6重量部と水1200重量部を仕込み、80℃まで昇温した。80℃を維持しながら、N−ビニル−2−ピロリドン600重量部と25%アンモニア水4.8重量部と水79.8重量部を混合したもの、および、35%過酸化水素水68.3重量部を、それぞれ180分かけて滴下した。
反応開始3時間後に、25%アンモニア水1.2重量部を添加した。さらに反応開始3時間後から1時間間隔で、35%過酸化水素水6重量部を均等に分割添加した。
反応開始から9時間後、得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、固形分が29.8重量%、K値が14.5、色相(5%APHA)が30であった。
ガラス製カラム(カラム直径7cm)に、強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオンSK1BH)を高さが6cmになるまで充填し、上記の得られたポリビニルピロリドン水溶液を10回濾過した。
得られたポリビニルピロリドン水溶液中のアンモニア含有量を測定したところ、ポリビニルピロリドンに対して2ppmであった。また、得られたポリビニルピロリドン水溶液を80℃で24時間静置した後の色相(5%APHA)が30であった。
【0060】
〔実施例2〕
反応装置に、0.025%硫酸銅(II)・5水和物水溶液1.8重量部と水1162重量部を仕込み、80℃まで昇温した。80℃を維持しながら、N−ビニル−2−ピロリドン600重量部と25%アンモニア水4.8重量部と水79.8重量部を混合したもの、および、35%過酸化水素水79.8重量部を、それぞれ180分かけて滴下した。
反応開始3時間後に、25%アンモニア水12重量部と水34.8重量部を混合したものを180分かけて滴下した。さらに反応開始5時間後、35%過酸化水素水10.8重量部と水12.6重量部を混合したものを60分かけて滴下した。
反応開始から7時間後、強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオンSK1BH)を100重量部添加し、60分撹拌し、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。
得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、固形分が29.5重量%、K値が14.2、色相(5%APHA)が30、アンモニア含有量がポリビニルピロリドンに対して169ppmであった。また、得られたポリビニルピロリドン水溶液を80℃で24時間静置した後の色相(5%APHA)が50であった。
【0061】
〔比較例1〕
反応装置に、0.025%硫酸銅(II)・5水和物水溶液0.6重量部と水1200重量部を仕込み、80℃まで昇温した。80℃を維持しながら、N−ビニル−2−ピロリドン600重量部と25%アンモニア水4.8重量部と水79.8重量部を混合したもの、および、35%過酸化水素水68.3重量部を、それぞれ180分かけて滴下した。
反応開始3時間後に、25%アンモニア水1.2重量部を添加した。さらに反応開始3時間後から1時間間隔で、35%過酸化水素水6重量部を均等に分割添加した。
反応開始から9時間後、得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、固形分が29.8重量%、K値が14.5、色相(5%APHA)が30、アンモニア含有量がポリビニルピロリドンに対して2468ppmであった。
得られたポリビニルピロリドン水溶液を80℃で24時間静置した後の色相(5%APHA)が160であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の製造方法によって得られるビニルピロリドン重合体は、例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途や、種々の特殊工業用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素、金属触媒、アンモニアおよび/またはアミン化合物の存在下で、ビニルピロリドンを含む単量体成分の重合反応を行い、ポリビニルピロリドンを製造する方法であって、該重合反応中および/または該重合反応後に陽イオン交換樹脂によって処理を行う、ポリビニルピロリドンの製造方法。
【請求項2】
前記重合反応中における陽イオン交換樹脂による処理が、前記単量体成分の重合反応が行われている反応容器中への該陽イオン交換樹脂の添加である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重合反応後における陽イオン交換樹脂による処理が、前記重合反応後に得られる反応溶液と該陽イオン交換樹脂との接触である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
得られるポリビニルピロリドンのフィケンチャー法によるK値が70以下である、請求項1から3までのいずれかに記載の製造方法。