説明

ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維及びその製造方法

【課題】ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を提供すること。
【解決手段】人工毛髪繊維は、(A)ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、及び(B)無機粒子よりなる消光剤を含み、前記PPS樹脂は溶融指数が60〜110の範囲であり、前記無機粒子消光剤はPPS樹脂100重量部に対して0.1〜2.0重量部で添加される。人工毛髪繊維は繊度が30ないし80デニールである。前記ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)はp−フェニレンサルファイド反復単位が85モル%以上である。前記無機粒子消光剤は二酸化珪素、タルクまたはこれらの混合物が用いられることができる。消光剤に用いられる無機粒子は0.01〜3.0μm範囲の平均粒径を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維及びその製造方法に関する。より具体的に本発明は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂に消光剤を含んでなるポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつら用繊維として主に用いられる人造毛髪は、鮮明な色相、自然な光沢、軽さ、軟らかい触感と柔軟性、カール形成及びカール保持性と共に難燃性と耐熱性が必須的に要求される。ここで、難燃性とは、自記消火性と溶融ポリマーの耐ドリップ性で説明される。耐熱性とは、乾燥機またはヘアアイロンでカールの形態を形成させることのできる温度で収縮変形または熱融着による繊維形態の変形なしに耐えられる性質(温度)である。耐熱性と難燃性は人毛の機能を代替する人工毛髪繊維が備えるべきの一番重要な特性である。
【0003】
従来にはかつら用繊維としてPVC繊維とモドアクリル繊維が用いられてきた。しかしながら、これら繊維は難燃性は非常に優れるが、軟化温度が低く耐熱性が劣って、消費者が家庭でヘアドライヤーまたはヘアアイロンを用いてヘアを手入れする時に糸の形態が変形されるいう問題がある。
【0004】
このような短所を解決するために熱変形温度が比較的高い樹脂を主成分とするポリエステル系人工毛髪が開発されて用いられている。該ポリエステル系人工毛髪としてPET、PBT、PPTなどの樹脂が用いられるが、これらポリエステル樹脂は耐熱性は比較的優れるが、火に燃えやすいので、人工毛髪に用いるためには難燃剤を添加して難燃性を付与すべきである。これらポリエステル樹脂を難燃化して人工毛髪に用いる多数の技術が公開されている。
【0005】
韓国特許第714782号(特許文献1)及び第577584号(特許文献2)公報でPET樹脂と高分子形ブロム難燃剤とからなる難燃人工毛髪の製造技術に関して開示されている。
【0006】
また、国際出願公開WO2005/010247号(特許文献3)にもPET、PBT、PPT樹脂100重量部に対して分子量20,000ないし80,000のブロム難燃剤5〜30重量%からなる人工毛髪が公知である。
【0007】
しかしながら、前記公開された難燃人工毛髪の場合、樹脂自体の溶融温度が220〜260℃であり、難燃剤の軟化温度は樹脂の溶融温度よりずっと低いため、前記の難燃剤を配合してなされるポリエステル人工毛髪の耐熱温度は、ポリエステル樹脂のみからなる人工毛髪繊維に比べて低いという問題がある。即ち、このような樹脂配合でなされる人工毛髪の場合、通常のヘアアイロンの適用温度の180℃の前後で繊維変形または融着が発生して人工毛髪の外見が酷く損傷されるという問題が発生する。
【0008】
通常ポリエステル難燃性人工毛髪は単独でまたは人毛と共に用いてかつら製品に作られるが、このような製品はかつら製品を製造する工程において90〜120℃に加熱されたスチムまたは空気によりカールスタイルが固定されて消費者はその製品をそのまま用い、消費者が使用中にヘアスタイルが変更したい時には家庭や美容室でカールスタイルを変更する。
【0009】
この時に用いられる機構が家庭用ヘアアイロンまたはストーブアイロンという美容機構である。家庭用ヘアアイロンの場合にはセンサがあって温度調節が比較的正確にできるが、美容室で主に用いられるストーブアイロンの場合には温度センサがなくて正確な温度制御が事実上難しい。したがって、ストーブアイロンを用いる場合、人毛より耐熱性が劣るポリエステル難燃人工毛髪は熱収縮による変形または融着による変形が生じる可能性が高い。それで、このようなストーブアイロンを用いるかつら製品の用度に適合であり、人毛より優れる耐熱性を有する人工毛髪の開発が強く要求されている。
【0010】
家庭や美容室で人工毛髪を加工する場合、ポリエステルを基本樹脂とする人工毛髪または難燃性人工毛髪はヘアアイロンを用いてカールを形成する時にカールが人毛のように速く作られない。ポリエステル人工毛髪は高温でカールを作ってヘアアイロンを除去した後、作られたカールを冷却する過程を経てこそはじめてカールが保持されるという短所がある。したがって、人毛のカールの形成に慣れている消費者に、ポリエステル樹脂で製造された人工毛髪のカールを形成する時にはカールを冷却させなければならないとの内容を熟知させるはずで正しくカールを形成することができるという問題点があった。
【0011】
今までポリフェニレンサルファイド樹脂はプラスチックハウジングや電気電子部品、光学用品の成分の一部に用いられてきて、繊維としてはドライヤーキャンバス(水気除去用)やフィルター用に適用されてきただけ、人工毛髪用としては開発されたことがない。これはPPS繊維軸方向の屈折率が1.7に至って太陽光下では繊維表面から強い金属性光沢が現して人工毛髪用繊維として不適合であるためである。
【0012】
それで、出願人は、人工毛髪繊維の基本樹脂としてポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂に適切な消光剤を適用することにより、難燃性があって耐熱性が高くて自由にカールの形成ができるだけでなく、人毛に似た光沢を有する人工毛髪繊維及びその製造方法を開発して韓国特許出願第2008−60443号(2008.6.25日出願)(特許文献4)で出願した。
【0013】
ところが、PPS樹脂は溶融指数(MI:melt index)によって紡糸工程での作業性が非常に異なることを見出し、それで本発明者は紡糸工程での作業性を最大化することができる最適の溶融指数範囲を有するPPSから本発明に係るポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を開発するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】韓国登録特許第714782号公報
【特許文献2】韓国登録特許第577584号公報
【特許文献3】国際公開特許WO2005/010247号公報
【特許文献4】韓国特許出願第2008−60443号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、人工毛髪繊維の新たな素材としてポリフェニレンサルファイド樹脂を適用して耐熱性、難燃性及び耐ドリップ性が優れた人工毛髪繊維を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、耐熱性が優れて家庭用ヘアアイロンまたはストーブアイロンの通常の使用温度で形態の変形がなく、難燃性を有するポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を提供することにある。
【0017】
本発明のまた他の目的は、人工毛髪がヘアアイロンによりカールがすぐ形成される特徴があって、消費者が家庭でヘアアイロンまたはストーブアイロンでカールを自由に形成することのできるポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を提供することにある。
【0018】
本発明のまた他の目的は、ポリフェニレンサルファイドに適合の無機粒子消光剤を適用して人毛のように自然な光沢を有するポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を提供することにある。
【0019】
本発明のまた他の目的は、既存の難燃ポリエステル人工毛髪繊維に比べて耐熱性が30℃程度高くて溶融点が280〜290℃であるPPS系人工毛髪繊維を提供することにある。
【0020】
本発明のまた他の目的は、人毛と混合して用いることのできる人工毛髪繊維を提供することにある。
【0021】
本発明のまた他の目的は、光沢性、鮮明な色相、カール形成性、カール保持性、カール弾力性が優れて、軽くて、もつれの発生が少なく、人毛と類似な物性などかつら糸として要求される基本的な特性が優れるポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を提供することにある。
【0022】
本発明のまた他の目的は、紡糸工程において糸切現象が発生されなく、巻取工程が円滑に進行されるポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維の製造方法を提供することにある。
【0023】
本発明のまた他の目的は、前記ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を適用したかつらを提供することにある。
【0024】
本発明の前記及びその他の目的は、下記で説明される本発明によりすべて達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明はポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を提供する。本発明の人工毛髪繊維は、(A)ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、及び(B)無機粒子からなる消光剤を含むのであって、前記PPS樹脂は溶融指数が60〜110の範囲であり、前記無機粒子消光剤はPPS樹脂100重量部に対して0.1〜2.0重量部の範囲で添加されることをその特徴とする。
【0026】
具体例では、前記本発明の人工毛髪繊維は繊度が30ないし80デニールである。
【0027】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)はp−フェニレンサルファイド反復単位が85モル%以上である。
【0028】
前記無機粒子消光剤は二酸化珪素、タルクまたはこれらの混合物が用いられることができる。消光剤に用いられる無機粒子は0.01〜3.0μmの平均粒径を有するのが好ましい。
【0029】
本発明の具体例では、さらに、前記ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維は、熱安定剤、光安定剤、紫外線安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃補助剤及び無機充填剤よりなる群から選択された一つ以上の添加剤を含むことができる。
【0030】
本発明は前記ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を用いたかつらを提供する。
【0031】
本発明はポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維の製造方法を提供する。前記製造方法は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂にすでに用意しておいたPPS着色用マスターバッチと無機粒子消光剤とを混合した混合物を溶融押出してペレット状に製造し、該ペレットを水分率500ppm以下になるように乾燥させ、前記乾燥されたペレットを溶融紡糸して、及び前記溶融紡糸した未延伸糸を2〜4倍の延伸比で延伸する段階よりなる。
【0032】
さらに、他の具体例では、前記延伸された延伸糸を160〜250℃の熱処理装置で熱処理する段階を含むことができる。
【0033】
さらに、本発明のまた他の具体例では、前記熱処理された延伸糸を90〜160℃の熱処理装置で熱処理する段階を含むことができる。
【0034】
以下、本発明の内容を下記のように説明する。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、人工毛髪繊維の新たな素材としてポリフェニレンサルファイド樹脂を適用して耐熱性、難燃性及び耐ドリップ性が優れて、また無機粒子消光剤を適用して人毛のように自然な光沢を有することができ、かつ鮮明な色相、カール形成性、カール保持性、カール弾力性が優れ、軽くて、もつれの発生が少なく、人毛と類似な物性などのかつら糸として要求される基本的な特性を提供する発明の効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維は、(A)ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂及び(B)消光剤を含んでなる。
【0037】
(A)ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂
本発明の人工毛髪繊維は基本樹脂としてポリフェニレンサルファイド樹脂を適用する。PPS樹脂はそのものに含有している硫黄成分のために難燃性を有しており、溶融点が285℃であるために優れる耐熱性を有している。かつ、PPSは結晶性が高くてヘアアイロンでカールを形成する時に人毛のようにカールがすぐ生じる特性があるため、ポリエステル樹脂からなる人工毛髪繊維のように冷却工程が必要ではないとの特徴がある。
【0038】
本発明でのPPS樹脂は溶融指数(MI)が60〜110の範囲であるのが好ましい。MIが60未満の場合には溶融高分子の流れ性が良好ではないため、口金から吐出された糸(filament)が易く伸張されなくて巻取しにくくなり、MIが110以上の場合には溶融高分子の流れ性が早すぎることになるためやはり巻取が難しくなる。もちろんPPS樹脂の溶融指数が60以下から50程度まで、そして110以上200程度までにはあるほど作業を行うことができる。しかしながら、糸切や巻取の難しさなしによい作業性を保持するためにはPPS樹脂の溶融指数が60〜110の範囲であるのが好ましい。PPS樹脂の溶融指数が50以下であるとか200以上である時には作業がほとんど不可能である。
【0039】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)は、p−ジクロロベンゼンに硫化ナトリウムを重縮合反応させて製造されることができ、これに制限されるのではない。
【0040】
本発明に好ましく適用されることのできるポリフェニレンサルファイド樹脂(A)は、下記化学式1で表示されるp−フェニレンサルファイド反復単位を85モル%以上、好ましくは87モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有した樹脂を用いる。
【0041】
【化1】

【0042】
他の具体例では、前記p−ジクロロベンゼンに10モル%未満のトリクロロベンゼンを分枝成分として共重合させて製造されたポリフェニレンサルファイド樹脂も可能である。
【0043】
本発明のまた他の具体例では、p−フェニレンサルファイド単位とm−フェニレンサルファイド単位の両者を含む共重合体も用いられることができる。
【0044】
その他のアリレンサルファイドや共重合可能な単量体を共重合した共重合体を用いることができるが、いずれ場合でも反復単位としてp−フェニレンサルファイド単位を85重量%以上含み、分子構造が直鎖型を有するのが好ましい。もし、p−フェニレンサルファイド単位が85モル%未満のポリフェニレンサルファイド樹脂でかつら繊維を製造する場合、強度が低くなるだけでなく、繊維がよく形成されないため本発明に適合ではなく、また架橋度が高い樹脂であるほど繊維の形成がよくできなく結晶配向性が劣るため強度が低くなる傾向を表して好ましくない。
【0045】
(B)消光剤
PPS樹脂は繊維軸方向の屈折率が1.7に至るので、太陽光下で強い金属性光沢が表して人工毛髪用繊維として不適合である。
【0046】
本発明では消光剤として無機粒子を用いることができる。消光は、無機系微粒子を溶融樹脂に混合させて消光剤そのものの乱反射により消光がなされるとか、繊維の表面に微細な突起を形成させることにより消光がなされる。この方法で重要なことは、無機微粒子の種類、平均大きさと添加量であるが、特にPPSとの相溶性が優れる粒子を選定するのが重要である。本発明では、硫酸バリウム、二酸化珪素、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、三酸化アンチモンなどの多種の微粒子をPPS樹脂に溶融混合して試験した結果、二酸化珪素とタルクが人工毛髪の色相を鮮明にしながらも消光効果に好ましい。したがって、本発明では無機粒子として二酸化珪素、タルクまたはこれらの混合物を用いる。
【0047】
前記無機粒子はPPS樹脂100重量部に対して0.1ないし2重量部で用いる。もし、消光剤を0.1重量部未満で用いる場合には消光効果が劣り、2重量部を超過する場合には着色された人工毛髪の色相を濁りにして鮮明で美しい色相の糸を得ることができないだけでなく、紡糸延伸の過程で断糸の発生が増加することができ、表面に突起が形成されてくしけずる時にもつれ現象が増加して人工毛髪繊維としては不適合である。好ましくは、前記無機粒子はPPS樹脂100重量部に対して0.2ないし1.5重量部、より好ましくは0.3ないし1.0重量部である。
【0048】
本発明の無機粒子は0.01〜3.0μmの平均粒径を有するのが好ましい。粒径が0.01μm未満の場合、コンパウンディング工程で凝集が生じて紡糸、延伸工程で糸切の発生が増加することができ、粒径が3.0μmを超過する場合、繊維の表面に粗い突起が形成されてくしけずり性が不良になるため、本発明に適合ではない。
【0049】
さらに、本発明では前記構成要素の以外にも必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、紫外線安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃補助剤、無機充填剤などの通常の添加剤を含むことができる。前記添加剤は単独でまたは2種以上混合して適用されることができる。
【0050】
本発明はポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維の製造方法を提供する。前記製造方法は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂に無機粒子消光剤とPPS着色用マスターバッチチップとを混合した混合物を溶融押出してペレット状に製造し、該ペレットを水分率500ppm以下になるように乾燥させ、前記乾燥されたペレットを溶融紡糸し、そして前記溶融紡糸した未延伸糸を2〜4倍の延伸比で延伸する段階よりなる。
【0051】
前記混合組成物は通常の方法で溶融押出してペレット形態に製造する。押出機としては二軸押出機が好ましく適用される。
【0052】
前記PPS着色用マスターバッチチップはカーボンブラックまたは顔料が含有された着色用マスターバッチチップが広範囲に用いられる。
【0053】
前記乾燥段階は特に制限はないが、通常80〜180℃、好ましくは95〜150℃で3ないし10時間、好ましくは4ないし8時間乾燥して水分率500ppm以下、好ましくは水分率100ppm以下になるようにする。
【0054】
前記のように乾燥段階を経たペレットは通常の方法で溶融紡糸されることができる。ある具体例では、先端部にノズルが取り付けられた押出機に投入して未延伸糸を製造する。紡糸口金の形態は特に制限がなく、例えば円形、ピーナッツ形、星形、楕円形、中空楕円形などが用いられることができる。紡糸温度は押出機シリンダの温度を220〜350℃、好ましくは250〜310℃にする。
【0055】
前記溶融紡糸した後、さらに2〜4倍の延伸比で延伸する段階を含むことができる。延伸装置は通常加熱ドラム延伸装置が用いられることができ、これに制限されるのではない。
【0056】
さらに、本発明の他の具体例では、前記延伸された延伸糸を150〜250℃、好ましくは200〜250℃の熱処理装置で熱処理する段階を含むことができる。前記熱処理方法及び熱処理装置は通常の方法を用いて適用することができ、本発明が属する分野の通常の知識を有する者により容易に実施されることができる。本発明のある具体例では、前記熱処理は緊張状態下で行われる。
【0057】
本発明のまた他の具体例では、さらに前記熱処理された延伸糸を90〜160℃の熱処理装置で2次熱処理する段階を含むことができる。前記2次熱処理では無緊張状態に弛緩させる場合、繊維にウエーブを与えることができる。
【0058】
前記のように熱処理して得られた最終のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維は30ないし80デニールの繊度を有する。
【0059】
本発明のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維はカールを自由に形成することができ、120〜230℃の美容熱機構(ヘアアイロン)に耐えることができ、難燃性が非常に優れるだけでなく、ドリップ性がほとんどなく、人毛と類似な自然な光沢を有し、かつ色相が鮮明であってかつらに用いるに非常に適合である。
【0060】
本発明は前記ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を用いたかつらを提供する。前記かつらは通常の方法で製造されることができ、本発明が属する分野の通常の知識を有する者により容易に製造されることができる。ある具体例では、前記ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維を単独で用いたかつらを製造することができる。他の具体例では、前記ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維と人毛とを混合して適用したウィッグ、エクステンションなどの多様なかつらの形態で製造することができる。
【0061】
本発明は下記の実施例によってより具体化され、下記実施例は本発明の具体的な例示に過ぎなく、本発明の保護範囲を限定するとか制限しようとするのではない。
【実施例】
【0062】
実施例1〜3
下記表1に記載されたMIを有するPPS樹脂100重量部に二酸化珪素消光剤を0.5〜1.0重量部添加して紡糸した。紡糸機のシリンダ温度は290℃、ヘッド温度は313℃に設定して160ホールのノズルを用いて未延伸糸を製造し、これをローラー形延伸装置で3.8倍に延伸した。この延伸糸を240℃に加熱されたローラータイプの熱処理装置で緊張状態で熱処理した。熱処理の直後、150℃に加熱されたボックス内で無緊張状態に弛緩させて繊維に若干のウエーブを形成して50デニールの人工毛髪繊維を製造した。
【0063】
比較例
比較例1
MI40のPPSを用いたことを除いては前記実施例1と同様に紡糸した。
【0064】
比較例2
消光剤を用いないことを除いては前記実施例2と同様に行った。
【0065】
比較例3
MI600のPPSを用いたことを除いては前記実施例1と同様に紡糸した。
【0066】
前記実施例1〜3及び比較例1〜3に対する組成及び物性を下記表1に表した。
【0067】
【表1】

【0068】
PPSのMIはASTM D1238−86に準じて温度316℃、荷重5kgの条件で測定した値であって、10分間流出されたポリマーのグラム数である。前記表1の物性は次のような方法で測定した。
(1)工程性:紡糸工程で5時間糸切発生回数を測定して判定した。(◎:糸切発生0回、○:糸切発生1回、△:糸切発生2〜3回、×:糸切発生4回以上)
(2)光沢:集束された糸束80,000デニール(160個×50デニール×10すじ)の人工毛髪を10cmの長さで切って太陽光下で肉眼で光沢を評価した。(◎:人毛と類似な光沢、○:人毛より強い光沢、△:人毛より少ない光沢、×:光沢が人毛より少なく濁っている)
(3)色相の鮮明性:集束された糸束80,000デニール(160個×50デニール×10すじ)の人工毛髪を10cmの長さで切って太陽光下で肉眼で鮮明性を評価した。鮮明性の判定は4段階に分けて評価した。(◎:最も鮮明、○:鮮明、△:若干鮮明でない、×:濁っている)
(4)カール形成性:集束された糸束40,000デニール(160個×50デニール×5すじ)の人工毛髪を30cmの長さで切ってクランプに固定させてから180℃に加熱した電気こて機に3回巻いた後、5秒間維持してからこて機を外してカール形成直後のカールの状態を評価した。表1に表したカール形成性は次のようである。◎:人毛で作ったカールの形成長さ(基準)と同一な場合、○:基準対比1〜2cm伸びる状態、△:基準対比3〜4cm伸びる状態、×:基準対比5cm以上伸びる状態。
(5)カール保持性:集束された糸束40,000デニール(160個×50デニール×5すじ)の人工毛髪を30cmの長さで切ってクランプに固定させてから180℃に加熱した電気こて機に3回巻いて5秒間維持してカールを形成した後、一定時間放置した後にカールの伸びる状態を評価した。試料を相対湿度65%、20℃の室内で荷重を与えない状態で垂れて24時間放置した後、カールの伸びる状態を測定して評価した。表1に表したカール保持性は次のようである。◎:1cm伸びる場合、○:2〜3cm伸びる状態、△:4〜5cm伸びる状態、×:6cm以上伸びる状態。
(6)強度、伸度:ロイドインストルメント(Lloyd Instruments)社製の引長強度測定設備のモデルLRXプラス(plus)形を用いて測定した。ピラメント160すじを集束して測定試料に作った。感知部は1kNのロードセルを装着し、試料の把持距離200mm、引長速度200mm/分で引長しながら強度及び伸度を測定した。同一な試験を5回繰り返して平均値を求めた。強度の単位はg/d、伸度の単位は%に換算した。
【0069】
前記表1の結果から、実施例1〜3のように、本発明でのMIを有するPPS樹脂の場合には紡糸工程性が良好であり、光沢と色相が鮮明なかつら用糸を得ることができた。しかしながら、比較例1のようにMIが非常に低い場合には、流れ性が不良であり、糸切が酷くて巻取が不可能であり、比較例3のようにMIが非常に高い場合には、吐出された糸の流れ性が速すぎて巻取が不可能であった。また、比較例2のように消光剤が添加されない場合には紡糸工程性は良好であって製糸ができたが、製造された糸の光沢が強すぎてきらきらとしているため、かつら用糸として用いるには不適切であった。比較例1と3の条件では未延伸糸の巻取ができなかったので、カール性と糸物性は測定することができなく、糸の光沢と色相の鮮明性は放流された糸の特性を観察することで把握した。
【0070】
本発明の単純な変形ないし変更は、この分野の通常の知識を有する者により容易に実施でき、このような変形や変更はすべて本発明の領域に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、及び(B)無機粒子からなる消光剤を含み、前記PPS樹脂は溶融指数が60〜110の範囲であり、前記無機粒子消光剤はPPS樹脂100重量部に対して0.1〜2.0重量部で添加される、ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維。
【請求項2】
前記人工毛髪繊維は繊度が30ないし80デニールである、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維。
【請求項3】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)はp−フェニレンサルファイド反復単位が85モル%以上である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維。
【請求項4】
前記無機粒子消光剤は二酸化珪素、タルクまたはこれらの混合物であり、無機粒子の平均粒径が0.01〜3.0μmの範囲である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維。
【請求項5】
さらに、前記ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維は、熱安定剤、光安定剤、紫外線安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃補助剤及び無機充填剤よりなる群から選択された一つ以上の添加剤を含む、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維。
【請求項6】
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂にすでに用意しておいたPPS着色用マスターバッチと無機粒子消光剤とを混合した混合物を溶融押出してペレット状に製造し、
該ペレットを水分率500ppm以下になるように乾燥させ、
前記乾燥されたペレットを溶融紡糸し、及び
前記溶融紡糸した未延伸糸を2〜4倍の延伸比で延伸する、
段階よりなり、前記PPS樹脂の溶融指数が60〜110の範囲である、ポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維の製造方法。
【請求項7】
前記無機粒子消光剤はPPS樹脂100重量部に対して0.1〜2.0重量部で添加され、前記無機粒子は0.01〜3.0μm範囲の平均粒径を有する、請求項6に記載のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記延伸された延伸糸を160〜250℃の熱処理装置で熱処理する段階を含む、請求項6に記載のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記延伸された延伸糸を90〜160℃の熱処理装置で熱処理する段階を含む、請求項8に記載のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維の製造方法。
【請求項10】
第1項ないし第5項中のいずれか1項に記載のポリフェニレンサルファイド系人工毛髪繊維から製造されたかつら。

【公開番号】特開2012−31548(P2012−31548A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226743(P2010−226743)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(508169432)ウノ アンド カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】UNO & COMPANY LTD.
【Fターム(参考)】