説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれを成形して得られる成形品

【課題】強化繊維の折損を抑制し、高剛性かつ高強度な成形品を容易に得ることのできるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、少なくとも次の構成要素[A]、[B]および[C]を有し、構成要素[A]と構成要素[B]を有する複合体に、構成要素[C]が接するように配置されてなる成形材料を30〜150重量部含むことを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[A]強化繊維束
[B]重量平均分子量が200〜50,000でかつ構成要素[C]よりも溶融粘度が低い熱可塑性樹脂
[C]重量平均分子量が10,000以上であるポリオレフィン樹脂

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、それを成形して得られる成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレートに繊維状フィラーを充填することにより、強度を改善することが知られている。しかしながら、繊維状フィラーが溶融加工時のせん断により折損し、強度改善効果が低下する場合がある。このため、剛性強度と耐衝撃性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法として、例えば、繊維を含有してなる第1の熱可塑性樹脂と、第1の樹脂より流動開始温度あるいは溶融温度の低い第2の樹脂を、第2の樹脂の流動開始温度あるいは溶融温度以上に加熱した後、第1の樹脂の流動開始温度あるいは溶融温度以上に加熱して、第1の樹脂、第2の樹脂および繊維が均一に混合した状態とする溶融混合工程と、成形工程とよりなる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、長繊維で補強された熱可塑性樹脂成形品の製造方法として、例えば、長繊維含有熱可塑性樹脂と、この樹脂と同種又は相溶性のある長繊維を含まない熱可塑性樹脂をドライブレンドし、射出あるいは押出成形する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。また、製造が容易で強化繊維束の分散が良好である成形材料として、少なくとも[A]連続した強化繊維束、[B]重量平均分子量が200〜50,000で、後述する[C]よりも溶融粘度が低い熱可塑性重合体、[C]重量平均分子量が10,000以上である熱可塑性樹脂からなり、[A]と[B]とからなる複合体に[C]が接するように配置された成形材料(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−286824号公報
【特許文献2】特開平1−241406号公報
【特許文献3】特開平10−138379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は優れた耐熱性、成形性、耐薬品性および電気絶縁性などを有することから、近年様々な用途に使用されている。近年では、さらなる高強度の成形材料が求められているが、特許文献1〜2の手法をポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に適用した場合、強化繊維とポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性が不十分であり、また分散性も不十分であることから強化繊維が局在化し、強化繊維による補強効果を十分に得ることが困難であった。
【0005】
よって本発明は、上述の課題を解決し、強化繊維の折損を抑制し、高剛性かつ高強度な成形品を容易に得ることのできるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有する。
1.ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、少なくとも次の構成要素[A]、[B]および[C]を有し、構成要素[A]と構成要素[B]を有する複合体に、構成要素[C]が接するように配置されてなる成形材料を30〜150重量部含むことを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[A]強化繊維束
[B]重量平均分子量が200〜50,000でかつ構成要素[C]よりも溶融粘度が低い熱可塑性樹脂
[C]重量平均分子量が10,000以上であるポリオレフィン樹脂。
2.前記1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形して得られる、海島構造を有する成形品であって、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂を含む海と、前記構成要素[C]を含む島を有し、前記島中に前記構成要素[A]が存在することを特徴とする成形品。
3.少なくとも前記ポリブチレンテレフタレート樹脂と前記構成要素[A]、[B]および[C]を有する成形材料をドライブレンドし、溶融混練工程を設けることなく直接射出成形もしくは押出成形することを特徴とする前記2に記載の成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は強化繊維の折損が抑制されており、かかる樹脂組成物を成形することにより、高剛性かつ高強度の成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1により得られた耐衝撃性評価用試験片断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真
【図2】比較例3により得られた耐衝撃性評価用試験片断面SEM観察写真
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、後述する特定の強化繊維束含有成形材料を30〜150重量部含有する。
【0010】
本発明に用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と、1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体との重縮合反応によって得られる重合体である。テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体とともに、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、シュウ酸あるいはそのエステル形成性誘導体などを共重合してもよいし、1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とともに、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、分子量400〜6000のポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールあるいはそのエステル形成性誘導体などを共重合してもよい。これら共重合成分は20モル%以下とすることが好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。なお、「/」は共重合を意味する。
【0011】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、JISK7367−5(2000)に従いo−クロロフェノール溶媒を用いて25℃で測定した固有粘度が0.36〜3.0の範囲にあるものが好ましく、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形性に優れ、成形品の耐衝撃性を向上させることができる。0.42〜2.0の範囲がより好ましい。固有粘度の異なるポリブチレンテレフタレート樹脂を2種以上含有してもよく、その場合、全てのポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度が前記範囲にあることが好ましい。
【0012】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐久性および異方性抑制効果の観点から、COOH末端基量が少ないことが好ましい。具体的には、ポリブチレンテレフタレート樹脂1トン当たりのCOOH末端基量が1〜50eq/tの範囲にあることが好ましい。ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂のCOOH末端基量は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定することにより求めることができる。
【0013】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、少なくとも構成要素[A]強化繊維束、[B]重量平均分子量が200〜50,000でかつ構成要素[C]よりも溶融粘度が低い熱可塑性樹脂および[C]重量平均分子量が10,000以上であるポリオレフィン樹脂を有し、構成要素[A]と構成要素[B]を有する複合体に、構成要素[C]が接するように配置されてなる成形材料(強化繊維束含有成形材料)を30〜150重量部含む。構成要素[A]は、複合体の強化材として成形品に高い剛性と強度を付与するものである。構成要素[C]は比較的高粘度の、例えば靭性などの物性が高いマトリックス樹脂である。構成要素[C]は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形時、構成要素[A]に含浸し、強化繊維を強固に保持する役割をもつ。構成要素[B]は、比較的低粘度の熱可塑性重合体であり、構成要素[A]と複合体を形成するとともに、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形時には、マトリックス樹脂(構成要素[C])が強化繊維束(構成要素[A])に含浸することを助け、また強化繊維がマトリックス樹脂中に分散することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つものである。
【0014】
構成要素[A]として用いられる強化繊維束を構成する強化繊維は、特に限定されない。例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維等の高強度、高弾性率繊維等が使用できる。これらを2種以上有してもよい。これらの中で、炭素繊維が剛性と強度の向上効果により優れているため好ましい。
【0015】
構成要素[B]は、重量平均分子量が200〜50,000であってかつ構成要素[C]よりも溶融粘度が低い熱可塑性重合体であり、構成要素[A]に含浸して複合体を形成する。構成要素[B]は、高粘度の熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂(構成要素[C])を強化繊維束(構成要素[A])に含浸する際に、含浸や、マトリックス樹脂中への強化繊維の分散を助ける、含浸助剤・分散助剤としての働きを示すものである。すなわち、強化繊維束(構成要素[A])が、構成要素[C]よりも溶融粘度が低い熱可塑性樹脂(構成要素[B])によってあらかじめ含浸されていることにより、例えば射出成形やプレス成形などの最終形状への成形工程において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に温度、圧力、混練が加えられた際に、マトリックス樹脂(構成要素[C])が強化繊維束(構成要素[A])に含浸することを助け、マトリックス樹脂中での強化繊維の分散性を向上させることができる。
【0016】
構成要素[B]の重量平均分子量が200より小さい場合、成形工程における熱により容易に揮発するなどして、成形品にボイドなどの欠点を生じる原因となる場合がある。また、成形後のマトリックス樹脂の耐衝撃性などの機械物性が低下する。逆に構成要素[B]の重量平均分子量が50,000より大きい場合、構成要素[B]の溶融粘度が高くなり、強化繊維束への含浸が困難となることから成形材料の生産性が低下する。14,000以下が好ましく、1,000以下がより好ましい。
【0017】
構成要素[B]の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)により測定することができ、検出器としてレーザーを用いた低角度光散乱光度計(LALLS)を使用する。
【0018】
構成要素[B]の溶融粘度は、キャピラリーレオメーターで求めることができ、260℃において7Pa・s以下であることが好ましい。なお、構成要素[B]と構成要素[C]の溶融粘度の関係は、成形する際の温度において構成要素[B]の溶融粘度が構成要素[C]の溶融粘度より小さければよい。
【0019】
構成要素[B]としては、フェノールまたはフェノールの置換基誘導体(前駆体a)と、二重結合を2個有する脂肪族炭化水素(前駆体b)の縮合により得られるオリゴマーが好ましく用いられる。縮合反応は、強酸またはルイス酸の存在下に行うことができる。また、前記前駆体aと、系内で前記前駆体bを生成する化合物を同様の条件で反応させて得られるオリゴマーも好ましく用いられる。
【0020】
フェノールの置換基誘導体としては、フェノールのベンゼン核上に、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基より選ばれる置換基を1〜3個有するものが好ましく用いられる。その具体例としては、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、ノニルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、クロロクレゾール、ヒドロキノン、レゾルシノール、オルシノールなどを挙げることができる。
【0021】
前駆体bとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエンなどの環状構造を有しない脂肪族炭化水素や、シクロヘキサジエン、ビニルシクロヘキセン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン、C1016の分子式で表される単環式モノテルペン(ジペンテン、リモネン、テルピノレン、テルピネン、フェランドレン)などの単環性化合物、2,5−ノルボルナジエン、テトラヒドロインデン、C1524の分子式で表される二環式セスキテルペン(カジネン、セリネン、カリオフィレンなど)などの二環性化合物、ジシクロペンタジエンなどの三環性化合物などの環状構造を有する脂肪族炭化水素などを挙げることができる。
【0022】
構成要素[C]は、重量平均分子量が10,000以上であるポリオレフィン樹脂である。重量平均分子量が10,000未満では、最終的に得られる成形品の剛性と強度が低くなる。構成要素[C]は重量平均分子量が10,000以上であれば特に限定されない。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・エチレンブロックコポリマーなどを挙げることができ、プロピレン・エチレンブロックコポリマーがより好ましい。
【0023】
構成要素[C]の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)により測定することができ、検出器としてレーザーを用いた低角度光散乱光度計(LALLS)を使用する。
【0024】
構成要素[C]の溶融粘度は、キャピラリーレオメーターで求めることができ、260℃において40Pa・s以上であることが好ましい。
【0025】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に用いられる成形材料は、前記構成要素[A]と構成要素[B]を有する複合体に、構成要素[C]が接するように配置されたものである。構成要素[A]と構成要素[B]を有する複合体に対して構成要素[C]がその周囲を被覆するように配置されているか、複合体と構成要素[C]が層状に配置されている構成が好ましい。構成要素[A]と構成要素[B]の複合体が構成要素[C]に接するように配置されることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形時に成形材料が可塑化された際、強化繊維をマトリックス樹脂中に容易に分散させることができ、その結果、成形品中に強化繊維を均一に良分散させることができる。
【0026】
成形材料中の構成要素[A]の含有量は、成形品の強度と剛性をより向上させるために、構成要素[C]100重量部に対して10重量部以上が好ましく、15重量部以上がより好ましく、20重量部以上がより好ましい。一方、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の溶融粘度を適度な範囲に調整する観点から、100重量部以下が好ましく、80重量部以下がより好ましく、60重量部以下がより好ましい。
【0027】
成形材料中の構成要素[B]の含有量は、含浸助剤としての効果をより高めるために、構成要素[C]100重量部に対して1重量部以上が好ましく、2重量部以上がより好ましく、3重量部以上がより好ましい。一方、成形加工時におけるガス発生量を低減する観点から、20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましく、10重量部以下がより好ましい。
【0028】
前述の強化繊維束含有成形材料は、1〜50mmの長さに切断して用いることが好ましい。かかる長さにすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性が向上し、また成形時の賦形性が大幅に向上する。切断長が短いほど、賦形性、流動性などの成形性が増すが、強化繊維による成形品の強度向上効果の観点からは1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましい。また、成形性の観点からは50mm以下が好ましく、12mm以下がより好ましい。
【0029】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、前述の強化繊維束含有成形材料の含有量は30〜150重量部である。強化繊維束含有成形材料の含有量が30重量部未満であると強化繊維束量が少なくなり、成形品の強度、剛性が低下する。50重量部以上が好ましく、70重量部以上がさらに好ましい。また、150重量部より多くなると相対的に構成要素[C]量が増加し、成形品において後述する海島構造を形成することが困難となり、強度、剛性が低下する。
【0030】
要求特性に応じて、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を含有してもよい。
【0031】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、前記ポリブチレンテレフタレートと強化繊維束含有成形材料を押出機などの混練機を用いて溶融混練することで製造することができる。しかし、後述するように押出機などによる溶融混練工程を経ると、強化繊維の折損が多く発生し、成形品の強度が低下する可能性があるため、ポリブチレンテレフタレート樹脂と強化繊維束含有成形材料をドライブレンドした後、溶融混練工程を設けることなく直接射出成形もしくは押出成形により後述する成形品を製造することが好ましい。
【0032】
次に、本発明の成形品について説明する。本発明の成形品は、上述のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形して得られる、海島構造を有する成形品であって、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂を含む海と、前記構成要素[C]を含む島を有し、前記島中に前記構成要素[A]が存在することが好ましい。
【0033】
従来公知の技術では、収束されている強化繊維束(構成要素[A])をポリブチレンテレフタレート樹脂を含む海の中に直接分散させることは困難であるが、本発明においては、強化繊維束(構成要素[A])はポリオレフィン樹脂(構成要素[C])に良好に分散するため、ポリブチレンテレフタレート樹脂の中に構成要素[C]の島を分散させることにより、構成要素[C]に含まれる構成要素[A]が島の中で分散し、結果としてポリブチレンテレフタレート樹脂の海の中に構成要素[A]が良好に分散する形態となり、高剛性、高強度を発現することができる。
【0034】
本発明の成形品は、少なくとも上述のポリブチレンテレフタレート樹脂と強化繊維束含有成形材料を機械的に混合・撹拌した後、射出成形もしくは押出成形して得ることが好ましい。押出機などによる溶融混練工程を経ることなく直接成形することで、強化繊維の折損を極力抑えることが可能であり、繊維長を長く保つことができる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。
【0035】
本発明の成形品は、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、モンキー、レンチ等の工具類、歯車などの小物に好適に用いられる。また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は流動性に優れるため、厚み0.5〜2mm程度の薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形品としては、例えば、パーソナルコンピューター、携帯電話の筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより望ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明の効果をさらに詳細に説明する。各実施例、比較例に用いた材料を以下に示す。
【0037】
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂
東レ(株)社製“トレコン(登録商標)”−1100M
【0038】
(2)強化繊維束含有成形材料
下記参考例1に記載の方法により製造した。
[参考例1]強化繊維束含有成形材料の製造方法
130℃に加熱されたロール上に、キスコーターを用いて、テルペンフェノール重合体(単環式モノテルペンとフェノールの付加物、ヤスハラケミカル(株)製YP90L、重量平均分子量460、260℃における溶融粘度(剪断速度1000s−1)0.5Pa・s)を加熱溶融した液体の被膜を形成した。このロール上を連続した炭素繊維束(東レ(株)製“トレカ(登録商標)”T700SC、炭素繊維本数12,000本、単繊維繊度0.6デニール)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のテルペンフェノール重合体を付着させた。
【0039】
テルペンフェノール重合体を付着させた炭素繊維を、180℃に加熱された、ベアリングで自由に回転する、一直線上に配置された10本の直径50mmのロールの上下を、交互に通過させた。この操作により、重合体を繊維束の内部まで含浸させ、炭素繊維とテルペンフェノール重合体よりなる連続した複合体を形成した。この連続した複合体を、直径40mmの単軸押出機の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機からダイ中に240℃で溶融させたポリオレフィン樹脂(プロピレン・エチレンブロックコポリマー、重量平均分子量180,000、260℃における溶融粘度(剪断速度1000s−1)200Pa・s)を吐出して、複合体の周囲を被覆するようにポリオレフィン樹脂を連続的に配置した。
【0040】
この複合体をポリオレフィン樹脂で被覆した成形材料を常温近くまで冷却後、ストランドカッターにより長さ7mm長にカットし、射出成形用のペレットとした。ここまでの材料製造は連続した工程によりなされ、炭素繊維束の引き取り速度は30m/分であった。また、この成形材料の組成比は、炭素繊維:テルペンフェノール重合体:ポリプロピレン樹脂=30:6:64(重量比)であった。
【0041】
なお、テルペンフェノール重合体およびポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、これらをo−ジクロロベンゼンに溶解し、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)により測定を行い、検出器としてレーザーを用いた低角度光散乱光度計(LALLS)を使用した。装置は日本分光(株)社製“HSS−2000”を使用し、検出器はRI−2031plus(日本分光)を用いた。
【0042】
(3)ポリオレフィン樹脂
プロピレン・エチレンブロックコポリマー:重量平均分子量180,000、260℃における溶融粘度200Pa・s
【0043】
(4)炭素繊維
東レ(株)社製“トレカ”T700S−12K−30E
【0044】
(5)その他材料
下記参考例2に記載の方法により製造した。
[参考例2]
炭素繊維束(東レ(株)製“トレカ”T700SC、炭素繊維本数12,000本、単繊維繊度0.6デニール)を、直径40mmの単軸押出機の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機からダイ中に260℃で溶融させたポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)社製“トレコン”−1100M)を吐出させて、炭素繊維の周囲を被覆するようにポリブチレンテレフタレート樹脂を連続的に配置した。
【0045】
この炭素繊維をポリブチレンテレフタレート樹脂で被覆した成形材料を常温近くまで冷却後、ストランドカッターにより長さ7mm長にカットし、射出成形用のペレットとした。ここまでの材料製造は連続した工程によりなされ、炭素繊維束の引き取り速度は30m/分であった。また、この成形材料の組成比は炭素繊維:ポリブチレンテレフタレート樹脂=30:70(重量比)であった。
【0046】
また、各特性の評価方法は以下の通りである。
【0047】
1.曲げ特性評価
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃の条件で厚み4mmの評価用試験片を射出成形した。曲げ強度、曲げ弾性率をISO178に従って測定した。
【0048】
2.耐衝撃性評価
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃の条件で厚み4mmの評価用試験片を射出成形した。シャルピー衝撃強度(ノッチ付)をISO179に従って測定した。
【0049】
3.重量平均繊維長測定
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃の条件で厚み4mmの評価用試験片を射出成形した。この試験片を電気炉に投入し500℃で5時間焼成し、ポリマー成分を除去した。残った強化繊維を顕微鏡用スライドガラス上に各繊維が積み重ならないように散布し、800倍の倍率で顕微鏡写真を撮影した。顕微鏡写真から無作為に選んだ100本以上の繊維長を測定し、その重量平均値を求めた。
【0050】
4.相溶性評価
前記2.耐衝撃性評価で用いた評価後の試験片の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)社製“JSM−6360LV”)により500倍の倍率で観察した。図1のように強化繊維の周りに樹脂が付着していれば、強化繊維と樹脂との相溶性は良好と評価した。図2のように強化繊維の周りに樹脂が付着していなければ、強化繊維と樹脂との相溶性は不良と評価した。
【0051】
[実施例1〜3]
ポリブチレンテレフタレート樹脂と[参考例1]で製造した強化繊維束含有成形材料を表1に示す配合比でドライブレンドした。成形品の曲げ特性、耐衝撃性、成形品中の繊維長および相溶性を簡易的に評価するため、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から前記1〜4項に記載の方法で試験片を成形し、前記方法により評価した。表1にその結果を示した。
【0052】
また、耐衝撃性評価用の試験片を切削し、断面をルテニウム染色した後、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)社製“JSM−6360LV”)により2,000倍の倍率で観察を行ったところ、いずれの実施例においても、ポリブチレンテレフタレート樹脂が海であり、ポリオレフィン樹脂が島である海島構造を有しており、炭素繊維がポリオレフィン樹脂の島の中に存在することが確認できた。
【0053】
[比較例1〜4]
組成を表1に示すとおり変更した以外は実施例1〜3と同様にして、曲げ特性、耐衝撃性、繊維長および相溶性を評価した。表1にその結果を示した。
【0054】
また、耐衝撃性評価用の試験片を切削し、断面をルテニウム染色した後、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)社製“JSM−6360LV”)により2,000倍の倍率で観察を行ったところ、比較例1ではポリブチレンテレフタレート樹脂が海であり、ポリオレフィン樹脂が島である海島構造を有しており、炭素繊維がポリオレフィン樹脂の島の中に存在することが確認できたが、比較例2ではポリオレフィン樹脂が海であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂が島である海島構造となっており、炭素繊維がポリオレフィン樹脂の海の中に存在することが確認できた。比較例3ではポリブチレンテレフタレート樹脂が海であり、ポリオレフィン樹脂が島である海島構造を有していたが炭素繊維は海、島のどちらにも存在していることが確認された。比較例4ではポリオレフィン樹脂が海であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂が島である海島構造を有していたが炭素繊維は海、島のどちらにも存在していることが確認された。
【0055】
【表1】

【0056】
表1からも明らかなように、本発明の実施例1〜3のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、比較例1〜4に示したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に比較して、強化繊維が長繊維の状態で残っており、高剛性かつ高強度な成形品が得られた。
【0057】
実施例1、比較例3により得られた耐衝撃性評価用試験片の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真を、それぞれ図1〜2に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、少なくとも次の構成要素[A]、[B]および[C]を有し、構成要素[A]と構成要素[B]を有する複合体に、構成要素[C]が接するように配置されてなる成形材料を30〜150重量部含むことを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[A]強化繊維束
[B]重量平均分子量が200〜50,000でかつ構成要素[C]よりも溶融粘度が低い熱可塑性樹脂
[C]重量平均分子量が10,000以上であるポリオレフィン樹脂
【請求項2】
請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形して得られる、海島構造を有する成形品であって、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂を含む海と、前記構成要素[C]を含む島を有し、前記島中に前記構成要素[A]が存在することを特徴とする成形品。
【請求項3】
少なくとも前記ポリブチレンテレフタレート樹脂と前記構成要素[A]、[B]および[C]を有する成形材料をドライブレンドし、溶融混練工程を設けることなく直接射出成形もしくは押出成形することを特徴とする請求項2に記載の成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46684(P2012−46684A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191969(P2010−191969)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】