説明

ポリプロピレンフィルム用グラビアインキ

【課題】 インキ溶剤中にトルエンを含まないポリプロピレンフィルム用のグラビアインキを提供すること。
【解決手段】 着色剤、バインダー樹脂およびインキ溶剤からなるグラビアインキにおいて、バインダー樹脂が塩素化ポリプロピレンおよび塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)からなり、インキ溶剤中にトルエンを含まないことを特徴とするポリプロピレンフィルム用グラビアインキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレンフィルム用のグラビアインキに関する。さらに詳しくは、インキ溶剤にトルエンを用いずに、トルエンを用いた場合と同等の印刷適性を有するポリプロピレンフィルム用のグラビアインキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリプロピレンフィルム用のグラビアインキの溶剤として、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、イソプロピルアルコールなどを組み合わせた混合溶剤が使用されてきた。これらの溶剤のなかではトルエンは安価で、しかも印刷時の適切な乾燥性およびインキに使用される樹脂や添加剤に対する高い溶解性を有している。そのために、トルエンは、印刷時にグラビア版上のインキの乾燥を抑え、フィルムへ転移せずに残存したグラビア版のセル中のインキが、インキパン中の新インキと接触して、十分に再溶解することにより、版詰まり、または版かぶりを防ぐのに好適な溶剤であり、ポリプロピレンフィルム用のグラビアインキの主溶剤として使用されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、近年、化学物質による環境汚染低減化の重要性が叫ばれており、各分野で種々の取り組みが行われている。そのような中で、グラビア印刷においては、大気汚染防止、防災安全、および労働環境の改善などの観点から、有機溶剤に対する種々の法規制が強化されてきている。特に労働安全衛生法の改正でトルエンの作業環境濃度規制が強化され、印刷作業環境の改善が必要となった。また、PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)法が施行され、トルエン、キシレンなどの移動および環境への排出量の届けが義務付けられるようになり、インキ溶剤中にトルエンを含まないグラビアインキの要望が大きくなってきた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、インキ溶剤中にトルエンを含まないポリプロピレンフィルム用のグラビアインキを提供することを目的として鋭意検討した結果、バインダー樹脂として塩素化ポリプロピレンおよび塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)を使用し、インキ溶剤として脂肪族環状炭化水素溶剤と極性溶剤を使用することで、インキ溶剤としてトルエンを含有しなくても、インキの再溶解性などの印刷適正に優れ、ポリプロピレンフィルムの印刷に好適なグラビアインキが得られることを見い出し、本発明に到達した。
【0005】
本発明によれば、着色剤、バインダー樹脂およびインキ溶剤からなるグラビアインキにおいて、バインダー樹脂が塩素化ポリプロピレンおよび塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)からなり、インキ溶剤中にトルエンを含まないことを特徴とするポリプロピレンフィルム用グラビアインキが提供される。
【発明の効果】
【0006】
以上の本発明により、溶剤にトルエンを含むことなく、版詰まり、版かぶりなどがなく、十分な印刷適性を有し、また、フィルムとの十分な密着性を有するポリプロピレンフィルム用グラビアインキが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のポリプロピレンフィルム用グラビアインキは、着色剤とバインダー樹脂とインキ溶剤とから構成され、インキ溶剤としてトルエンは使用しない。
本発明でバインダー樹脂として使用する塩素化ポリプロピレンとしては、塩素含有量が5〜60質量%の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは10〜50質量%の範囲のものである。塩素含有量が5質量%未満では溶剤に対する溶解性、他の樹脂との相溶性が悪く、また、塩素含有量が60質量%を超えるとインキ化した際に、ポリプロピレンフィルムに対する十分な密着性が得られない。分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(GPCで測定し、標準ポリスチレン換算)は、通常10,000〜300,000のものが使用でき、特に、20,000〜300,000の範囲のものが好ましい。重量平均分子量が10,000未満ではインキ化した際に、ポリプロピレンフィルムに対する十分な密着性が得られない。重量平均分子量が300,000を超えると溶剤に対する溶解性、他の樹脂との相溶性が悪くなる。
【0008】
本発明でバインダー樹脂として塩素化ポリプロピレンとともに使用する塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)としては、塩素含有量が5〜60質量%の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは10〜50質量%の範囲のものである。塩素含有量が5質量%未満では着色剤としての顔料の分散性、溶剤に対する溶解性、他の樹脂との相溶性が悪く、また、塩素含有量が60質量%を超えると印刷塗膜が硬く脆くなり、十分なインキ塗膜強度が得られない。分子量は特に限定されないが、重量平均分子量は、通常、30,000〜600,000のものが使用でき、特に、50,000〜500,000の範囲のものが好ましい。重量平均分子量が30,000未満では顔料の分散性が悪く、重量平均分子量が600,000を超えると溶剤に対する溶解性、他の樹脂との相溶性が悪くなり、また、インキとしての粘度が高くなりすぎる。
【0009】
塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)と塩素化ポリプロピレン樹脂の使用割合は、前者を100質量部とした場合、後者が5〜90質量部であり、好ましくは後者が10〜80質量部の範囲である。塩素化ポリプロピレンの使用量が多過ぎると塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)との相溶性が悪くなるので好ましくない。また、塩素化ポリプロピレンの使用量が少な過ぎるとインキ化した際にポリプロピレンフィルムに対する十分な密着性が得られないので好ましくない。
【0010】
また、本発明においては、必要に応じて、上記塩素化ポリプロピレンおよび塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)とともに、これらの樹脂と相溶する樹脂を本発明の効果が損なわれない範囲で併用することができる。このような樹脂としては、例えば、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、石油樹脂、テルペン樹脂、アルデヒド樹脂、各種変性ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0011】
本発明において使用されるインキ溶剤は、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタンなどの脂肪族環状炭化水素溶剤と、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶剤、あるいは酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤などの極性溶剤との混合溶剤が好ましい。
【0012】
上記脂肪族環状炭化水素溶剤と上記極性溶剤との混合割合は、前者を100質量部とした場合、後者が5〜100質量部であり、好ましくは後者が10〜100質量部の範囲である。脂肪族環状炭化水素溶剤が多過ぎると塩素化ポリプロピレン及び塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)の溶解性の点で好ましくない。また、脂肪族環状炭化水素溶剤が少な過ぎると塩素化ポリプロピレン及び塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)の溶解性の点で好ましくない。
【0013】
さらに上記以外の溶剤も、上記溶剤に相溶するものであれば上記溶剤とともに使用することができる。このような溶剤は、特に限定されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。
【0014】
本発明で使用する着色剤としては、従来公知の有機顔料、無機顔料、体質顔料などがいずれも使用でき、特に限定されない。有機顔料としては、例えば、フタロシアニン系、アゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、ペリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、イソインドリノン系、アゾメチンアゾ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、アニリンブラック系、トリフェニルメタン系などが、無機顔料としては、例えば、カーボンブラック系、酸化チタン系、酸化鉄系、水酸化鉄系、酸化クロム系、スピンネル型焼成顔料、クロム酸鉛系、クロム酸バーミリオン系、紺青系、アルミニウム粉末、ブロンズ粉末などが、体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム系、硫酸バリウム系、酸化珪素系、水酸化アルミニウム系などが挙げられる。
【0015】
本発明のポリプロピレンフィルム用グラビアインキには、上記のバインダー樹脂、顔料などの着色剤以外に、流動性改良および表面改質などのための分散剤、ブロッキング防止剤、静電防止剤、可塑剤、オレフィンワックス、界面活性剤などの各種添加剤が配合される。これらの添加剤は、従来からグラビアインキの製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。
【0016】
本発明のグラビアインキは、従来公知のグラビアインキの製造方法を用いて製造することができ、製造方法は特に制限されない。例えば、上記のバインダー樹脂成分、着色剤としての顔料、溶剤などの混合物を調製し、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミルなどを用い、顔料を一次粒子まで分散させてインキ原肉を調製し、希釈溶剤を添加して所望の粘度に調整し、必要に応じて各種添加剤を添加することにより製造することができる。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の文中の部および%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0018】
実施例1
重量平均分子量約300,000、塩素含有量約26%の塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)の溶液(日本製紙ケミカル(株)製 スーパークロンBAS:固形分20%、メチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン=1/1(質量比)混合溶剤)15部、カーボンブラック(デグサ・ジャパン(株)製 プリンテックス35)11部、ソルスパース35200(アビシア(株)製分散剤)2部、メチルエチルケトン8部、メチルシクロヘキサン8部、イソプロピルアルコール3部、酢酸エチル7部をディゾルバーで十分攪拌混合して混合物を得た。この混合物を、直径2mmのガラスビーズを分散メディアとし、分散メディアの容積率が40容量%であるペイントシェイカーに入れて、60分間分散させることにより、分散体を得た。
【0019】
次いで、この分散体に、重量平均分子量約300,000、塩素含有量約26%の塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)の溶液(日本製紙ケミカル(株)製 スーパークロンBAS:固形分20%、メチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン=1/1(質量比)混合溶剤)15部、重量平均分子量約150,000、塩素含有量約30%の塩素化ポリプロピレンの溶液(日本製紙ケミカル(株)製 スーパークロン803MWS:固形分20%、メチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン=1/1(質量比)混合溶剤)10部、メチルエチルケトン8部、メチルシクロヘキサン8部、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート5部を追加してインキ原肉を得た。このインキ原肉にメチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン/酢酸エチル=4/3/3(質量比)混合溶剤を希釈溶剤として追加し、インキ粘度を15秒(リゴーカップ#3、20℃)に調整してグラビアインキを得た。
【0020】
上記グラビアインキを用いて、ヘリオ175線、コンプレスト130°、縦グラデーションの版にて、厚さ25μmの未処理ポリプロピレンフィルムに印刷したところ、十分な発色が得られた。また、上記版の10%版深部においても十分発色しており、版詰まりは問題なかった。また、非印刷部の汚れもなく、版かぶりも問題なかった。さらに印刷物を1日放置後、印刷画に18mm幅のセロハンテープを圧着し、約60°の角度で急速に剥離してインキ皮膜の密着性を確認したが、インキ皮膜の80%以上がポリプロピレンフィルムに残っており、インキ皮膜の密着性は十分であった。
【0021】
実施例2
重量平均分子量約300,000、塩素含有量約26%の塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)の溶液(日本製紙ケミカル(株)製 スーパークロンBAS:固形分20%、メチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン=1/1(質量比)混合溶剤)15部、酸化チタン(テイカ(株)製 チタニックスJR−701)30部、メチルエチルケトン5部、メチルシクロヘキサン5部、イソプロピルアルコール5部、酢酸エチル3部をディゾルバーで十分攪拌混合して混合物を得た。この混合物を、直径2mmのガラスビーズを分散メディアとし、分散メディアの容積率が40容量%であるペイントシェイカーに入れて、30分間分散させることにより、分散体を得た。
【0022】
次いで、この分散体に重量平均分子量約300,000、塩素含有量約26%の塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)の溶液(日本製紙ケミカル(株)製 スーパークロンBAS:固形分20%、メチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン=1/1(質量比)混合溶剤)15部、重量平均分子量約150,000、塩素含有量約30%の塩素化ポリプロピレンの溶液(日本製紙ケミカル(株)製 スーパークロン803MWS:固形分20%、メチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン=1/1(質量比)混合溶剤)15部、メチルエチルケトン3部、メチルシクロヘキサン4部を追加してインキ原肉を得た。このインキ原肉にメチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン/酢酸エチル=4/3/3(質量比)混合溶剤を希釈溶剤として追加し、インキ粘度を15秒(リゴーカップ#3、20℃)に調整してグラビアインキを得た。
【0023】
上記グラビアインキを用い、ヘリオ175線、コンプレスト130°、縦グラデーションの版にて、厚さ25μmの未処理ポリプロピレンフィルムに印刷したところ、十分な発色が得られた。また、上記版の10%版深部においても十分発色しており、版詰まりは問題なかった。また、非印刷部の汚れもなく、版かぶりも問題なかった。さらに印刷物を1日放置後、印刷画に18mm幅のセロハンテープを圧着し、約60°の角度で急速に剥離してインキ皮膜の密着性を確認したが、インキ皮膜の80%以上がポリプロピレンフィルムに残っており、インキ皮膜の密着性は十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上の本発明により、溶剤にトルエンを含むことなく、版詰まり、版かぶりなどがなく十分な印刷適性を有し、また、十分なインキ皮膜の密着性を有するポリプロピレンフィルム用グラビアインキが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、バインダー樹脂およびインキ溶剤からなるグラビアインキにおいて、バインダー樹脂が、塩素化ポリプロピレンおよび塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)からなり、インキ溶剤中にトルエンを含まないことを特徴とするポリプロピレンフィルム用グラビアインキ。
【請求項2】
塩素化ポリプロピレンは、塩素含有量が10〜50質量%であり、重量平均分子量が20,000〜300,000である請求項1に記載のポリプロピレンフィルム用グラビアインキ。
【請求項3】
塩素化(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)は、塩素含有量が10〜50質量%であり、重量平均分子量が50,000〜500,000である請求項1に記載のポリプロピレンフィルム用グラビアインキ。
【請求項4】
インキ溶剤は、脂肪族環状炭化水素溶剤と極性溶剤との混合溶剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリプロピレンフィルム用グラビアインキ。
【請求項5】
脂肪族環状炭化水素溶剤が、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンおよびエチルシクロペンタンから選ばれる少なくとも1種であり、極性溶剤が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピルおよび酢酸ブチルから選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載のポリプロピレンフィルム用グラビアインキ。

【公開番号】特開2006−57056(P2006−57056A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242853(P2004−242853)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】