説明

ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンによる多孔性制御

ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)及びポリヘドラルオリゴメリックシリケート(POS)に基づくナノ構造化学物質が、有機及び無機媒体の多孔性制御に使用される。この種の化学物質の正確に定義されたナノスコピックな寸法は、所望のように、多孔性を生み出し(増加し)若しくは減らす(減少する)ことができる。POSS/POSナノ構造の熱的及び化学的安定性及びこれらナノ構成要素の、有機及び無機材料媒体両方に選択的に配置され若しくは合理的に構築される能力は、孔の調整を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本出願は、2005年2月14日に出願された米国仮特許出願連番60/652,922の利益を主張するものである。
【0002】
発明の背景
ポリメリックシルセスキオキサン樹脂、網状球状珪酸塩及びオリゴメリックシルセスキオキサン及び網状ハイブリッド(無機-有機)材料は、材料に様々な多孔度を付与する材料として報告されてきている。多孔質材料は、物質輸送制御用並びに電気及び建築分野での熱的また電気的絶縁用のフィルター、膜として大きな商業的有用性を有する。このような装置における大きさ、形及び多孔性分布の分子レベルでの制御は、十分に達成されてはいないが、それは、硬質で明確な構造要素を有する構造単位が入手可能でなかったからである。シルセスキオキサン化学物質系のポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)類に基づくナノ構造化学物質の発明は、無機材料系及び有機材料系の両方における多孔性の設計及び制御手段を提供するものである。
【0003】
ナノ構造POSS構造単位は、金属の表面変性に使用されてきており、耐腐食性を改善し、充填物を適合性にし、それにより表面変性剤としての有用性を実証している。POSS構造単位は、また、ゼオライトに組み込まれ固定化触媒を形成するために使用されてきた。
【0004】
この先行技術は、POSSナノ構造単位に関して、材料の多孔性を明確に合理的に制御するための剤としての使用を認識することができなかった。POSS系化学物質は、多孔性を生み出すことも、大口径を持つ材料の多孔性を減らすこともできる今までにない優れた一組の手段を提供する。このように使用すると、POSS物質による多孔性変性は、材料に、気体及び/又は液体に対する改善された輸送特性及び選択性をもたらすことができる。加えて、熱的及び電気的伝導特性も、POSSをナノスコピックポロゲンとして導入することにより制御することができる。
【0005】
発明の概要
本発明は、ナノ構造POSS化学物質を、ポリマーへのナノスコピックな孔の導入剤及び巨視的及びナノサイズの孔を有する材料の多孔性変性剤として使用することを教示する。POSS剤により付与されるナノスコピック特性は、更に、適合性にすることに役立ち、ポリマー被覆、複合材料、ゼオライト、鉱物及びナノ複合材料の多重長スケールレベルでの強化を付与することに役立つ。POSS表面変性剤は、コンパウンディング、反応性処理及びグラフト化を使用してポリマーに導入されることができ、スラリー法、被覆法、塗布法、噴霧法、流動法及び蒸着法を含むあらゆる通常の被覆技術を使用して、ゼオライト、鉱物及びフィラーに適用することができる。広範な種類のPOSS処方が、商業的なシラン原料から簡単に入手可能である。
【0006】
ナノ構造表現式の定義
本発明のナノ構造化学物質を理解するために、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)及びポリヘドラルオリゴメリックシリケート(POS)ナノ構造を表現する式について、以下の定義がなされる。
【0007】
ヘテロレプティック組成物に対しては、[(RSiO1.5)(R´SiO1.5)Σ#(ここで、RとR´は、異なる。)
官能性化ヘテロレプティック組成物に対しては、[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#(ここで、R基は、同じか異なる。)
上記すべてのRは、有機置換基(H、シロキシ、環状若しくは直鎖脂肪族、芳香族基であり、追加的に、アルコール、エステル、アミン、ケトン、オレフィン、エーテル若しくはハライドのような反応性官能基を含んでもよい。)である。Xは、限定するものではないが、OH、Cl、Br、I、アルコキシド(OR)、アセテート(OOCR)、パーオキサイド(OOR)、アミン(NR)イソシアネート(NCO)及びRを包含する。記号m及びnは、組成の化学量論に関連する。記号Σは、組成物がナノ構造を形成することを示し、記号#は、ナノ構造内に含まれる珪素原子の数をいう。#の値は、普通mとnの和である。Σ#は、化学量論を決定する乗数と混同されるべきではなく、単に、システムの全体のナノ構造特性(籠の大きさとして知られる)を説明するものである。
【0008】
ナノ構造化学物質は、以下の性質で定義される。それらは、単一の分子であり、組成的に変動する分子集成体ではない。それらは、明確な3次元構造を有する多面体形状を持つ。クラスターがよい例であり、平面状炭化水素、デンドリマー、粒子には存在しない。それらは、約0.7nm〜5.0nmの範囲のナノスコピックな大きさを有する。したがって、それらは、小分子よりは大きいが、巨大分子よりは小さい。それらは、立体化学、反応性及び物理的性質を制御可能なシステマチックな化学を有する。「分子状シリカ」はグラフト化及びポリマー化のための反応基を持たないナノ構造化学物質を意味する。
【0009】
本発明の詳細な説明
ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)として知られる化学物質類に基づくナノ構造化学物質の構造表現が図1に示される。
【0010】
それらの特性は、セラミックス(熱的安定性及び酸化安定性)及びポリマー(加工性及び強靭性)の双方の好ましい多くの性質を有するユニークなハイブリッド(有機-無機の)組成物を包含する。加えて、それらは、適合性にする有機基R及び反応性基Xにより、外部から覆われる無機骨格を有する。ここで、Rは有機置換基(H、シロキシ、環状若しくは直鎖脂肪族、芳香族群であり、追加的に、アルコール、エステル、アミン、ケトン、オレフィン、エーテル若しくはハライドの如き反応性官能基を含んでもよい。)である。Xは、限定するものではないが、OH、Cl、Br、I、アルコキシド(OR)、アセテート(OOCR)、パーオキサイド(OOR)、アミン(NR)イソシアネート(NCO)及びRを包含する。この周辺基と結合した無機骨格は、結合し、化学的に正確な立方体様の低密度な構成単位を形成し、共重合によりポリマーに導入され、気体拡散特性及び気体選択特性を改善することが示された。
【0011】
POSSのようなナノ構造表面変性剤により与えられる特に有利な特性は、シランカップリング剤が単層方式で適用されたと仮定した場合と比べると、単一の分子が、5倍の表面被覆率を提供することができることである。図2の実例で利用された寸法は、Rがシクロヘキシルである系に対する単結晶のX線データから取られている。
【0012】
POSS-メルカプト系を使用する表面変性は、充填物の分散性を助けると共に、それらの界面適合性を改善することから、有利であることが示されてきた。ナノ構造化学物質が表面に適用されると、多重長スケールでの強化の利益を提供し、巨視的充填物はミクロンレベル(ミクロン=10−6メートル)及びそれ以上の水準で強化し、POSS表面変性剤は、ナノメートル寸法(ナノメートル=10−9メートル)で強化する。
【0013】
ポリマー多孔性制御用のナノ構造化学物質
アクリル系樹脂へのPOSSモノマーの共重合化によるポリマー透過性の改善が立証されてきた。しかしながら、本発明は、POSS分子状シリカをポリマー及びゼオライトや分子篩のようなマクロ孔質材料の多孔性変更剤として使用することを教示する。
【0014】
充填物制御及びモルホロジー制御に関連する先行技術は、調節可能な化学官能性を有し制御された直径及び分布を併せ持つ、ふさわしい大きさで構造的に堅牢なナノ強化が存在しなかったために、適切に分子レベルでポリマーの多孔性を制御することができなかった。更に、炭化水素系ポリマーと無機系充填物との間の化学ポテンシャル(溶解度、混和性)のミスマッチの結果、配合されたポリマーに高度の不均質が生じることとなった。
【0015】
ナノ構造化学物質が分子レベルポロゲンとして機能することを可能とする鍵は、(1)ポリマー鎖寸法に関連した、それらのユニークな大きさ、(2)ポリマー鎖によるナノ強化剤の排除と不適合性を誘導する反発力に打ち勝ち適合性となる、それらの能力である。固体状態では、あらゆるポリマーは、非晶質、半結晶質、結晶質、ゴム質等を含み、相当量の内部及び外部自由体積を有することが、長い間知られていた。(図3)
存在する自由体積の量は、ポリマー組成、モルホロジー、そして非平衡及び平衡特性と関連した熱力学的因子及び動力学的因子に高度に依存している。熱伝導性、気体/液体拡散性及び透過性のような特性が制御されるのはこの自由体積の範囲内であることから、ポリマーの自由体積は、その物理的性質に多大な影響を与える。
【0016】
ポリマーモルホロジーは、ポリマー系での自由体積のアクセス可能性に多大な貢献をする別の因子である。例えば、ポリマー内の、より高密度の領域若しくは相分離はこのような領域への熱力学的及び動力学的アクセスを増加させるし、減少させもする。(図4)
POSSの大きさは、多くのポリマー寸法の大きさと大体等価であり、したがって、POSSは、分子レベルで、存在するポリマーモルホロジーに効率的に多孔性を導入することができる。(表1)
【表1】

【0017】
ポリマーの非晶質領域及び結晶領域内での特定の場所を占有するPOSSの能力は、ポリマー内に含まれる多孔性の大きさを変更することを可能にする。POSSナノ構造(籠)の広範囲の大きさを利用できることは、更に、この能力を増加させる。(図5,6)
更に、POSSナノ構造化学物質は球状分子のような球状形状を有し、そして、溶解し、溶融することから、ポリマー系の粘度も、効果的に減少させる。粘度減少は、高度充填された高粘度プラスチックの処理に望ましいものである。
【0018】
通常の混合技術による、ポリマーへの分子状シリカの非反応的導入は、どのプラスチックにも共通して、透過性を非常に向上させる。(表2)
【表2】

【0019】
向上度は、珪素-酸素籠の大きさ、ナノ構造の全体大きさ(R基効果)、導入重量%(若しくは容積%)及びポリマーとナノ構造間の界面適合性に依存する。これら性質を制御し調整する能力は、商業品位のポリマーに共通して、1〜3乗規模の透過性増加を与える。更に、これらアロイ化されたポリマーの気体選択性は、これら変数を同様に操作して制御することができる。ある場合には、選択性も透過性も共に同時に基礎ポリマーと比べて向上した。すべての場合で、POSSモノマー、POSS樹脂、分子状シリカの導入により、他の全気体と比較すると二酸化炭素透過性が抑制される結果となった。
【0020】
POSS試薬特にPOSSシラノールは、また、鉱物、ゼオライト及び特に層状珪酸塩の内部表面被覆に力を発揮する。ゼオライト若しくは他の多孔質材料に被覆として適用されると、POSS物質は、孔開口部の大きさを減少し、気体及び他の分子の選択的出入りに対して、より大きな孔の適合性を付与する。この向上した適合性は、POSS籠の夫々の隅に位置した有機R基の適合性付与作用に直接的に起因する。これらR基の適合化を可能とする能力は、同類は同類を溶解するという原理に直接由来する。この基本原理は、同様の組成(化学ポテンチャル)の物質は、異なる組成の物質より適合性があるということを、単純に述べている。したがって、POSS籠上のR置換基の適切な取合せにより、POSSは、珪酸塩及び同様の材料を変性することができ、それにより、それらを有機及び無機組成物とを適合性にすることができる。
【0021】
分子篩の内部表面で効率的に固定化されるPOSSの能力は、POSS系触媒の効率性と耐久性を改善する目的で立証されてきた。関連した方法で、POSSシラノールは、天然若しくは合成珪酸塩、ゼオライト及び分子篩の表面内部に結合され、そのような材料の孔の大きさを選択的に、合理的に減少させる。(図7)
POSSシラノールは、水除去により、そのような材料の内部(及び外部)表面に結合し、熱的に安定な共有結合を形成する。一旦、分子篩の孔内部表面に結合すると、POSSは、そこで、孔の実効直径をその直径と等しい量だけ減少させる。例えば、直径1.5ÅのPOSSシラノールを含む直径5Åの分子篩は、孔サイズ3.5Åまで効果的に減少させる。このような材料の孔サイズ減少は、その分子直径若しくは作用直径に従って、気体分離を効率的にする。(表3)
【表3】

【0022】
このような方法で達成される孔減少の程度は、珪素-酸素籠の大きさ及びナノ構造の全体的大きさに依存する。分子篩に被覆されたPOSSの界面適合性はまた、POSSナノ構造上のR基の選択により向上する。
【0023】
物理的直径による気体分離は、分離比と選択性がより高まる結果となるから好ましい。グラハムの法則に基づく気体分離は、気体分子の分子量に対して実行され、典型的には高分離比と低選択性を招来する。交互に、ヘンリーの法則に基づく気体分離は、溶液拡散を利用するゆえに低分離比である。ナノスコピックな孔若しくは同等なナノスコピックな穴の大きさに基づく気体分離は、高分離比と高選択性の両方を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】POSSナノ構造化学物質の分析を示す。
【図2】単層として表面に適用された従来のシラン(左)及び単層として適用されたナノ構造カップリング剤との物理的大きさの関係を示す。
【図3】ポリマー鎖に対する内部自由体積及び分子間自由体積を図解する。
【図4】ポリマー系のモルホロジーに対してアクセス可能な多孔性を図解する。
【図5】単分散分子状シリカの例を示す。
【図6】ポリマーに混ぜてアロイ化された分子状シリカを図解する。
【図7】POSSによるゼオライト孔の減少例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
POSS及びPOSから成る群より選択されるナノ構造材料を、ポリマーに配合することを含む、ポリマーの透過性の調整方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、ナノ構造化学物質が分子状シリカである方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、溶融配合法、粉砕法、溶媒処理法及び無溶媒処理法から成る群より選択されるプロセスを使用して、ナノ構造化学物質がポリマーに配合される方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、ポリマーが、アクリル系、カーボネート、エポキシ、エステル、シリコン、スチレン系、アミド、ニトリル、オレフィン、芳香族オキシド、芳香族スルフィド及びアイオノマー若しくは炭化水素及びシリコン由来のゴム状ポリマーから成る群よりより選択される方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、ポリマーの物理的性質が配合の結果変性され、そして、その物理的性質は、気体分離、減少した熱伝導率及び減少した電気伝導度から成る群よりより選択される方法。
【請求項6】
請求項3記載の方法であって、プロセスが、溶融状態処理法を使用する無溶媒処理技術である方法。
【請求項7】
POSS及びPOSからなる群より選択されるナノ構造材料で、ゼオライト若しくは分子篩を被覆することを含む、ゼオライト若しくは分子篩の透過性の調整方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法であって、ゼオライト若しくは分子篩の物理的性質が被覆の結果変性され、そして、その物理的性質は、気体分離、減少した熱伝導率及び電気伝導度から成る群より選択される方法。
【請求項9】
請求項7記載の方法であって、ゼオライト若しくは分子篩は、無溶媒技術及び超臨界流体支援技術から成る群より選択される技術を使用して、ナノ構造化学物質で被覆される方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法であって、その技術が、溶融状態処理法、噴霧処理法、流動処理法及び混合処理法から成る群より選択される処理方法である方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法であって、ナノ構造材料が、[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ7、ポリシルセスキオキサン[(RSiO1.5)Σ#及びPOSS断片[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#から成る群より選択される方法。
【請求項12】
請求項7記載の方法であって、ナノ構造材料が、POSS-シラノール、式[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ7のシロキサイド、ポリシルセスキオキサン[(RSiO1.5)Σ#及びPOSS断片[(RSiO1.5)(RXSiO1.0)Σ#から成る群より選択される化合物由来である方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2008−530312(P2008−530312A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555373(P2007−555373)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/005412
【国際公開番号】WO2006/086789
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(506207473)ハイブリッド・プラスティックス・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】