説明

ポリベンズアゾール成形体およびその製造方法

【課題】 磁気テープ、電気電子部品用絶縁フィルム又は液晶配向膜等の新規用途に向けて多くの研究が行なわれている特性の異方性が少ないポリベンズアゾール成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 特定の4つのポリベンズアゾール繰り返し単位のうちの少なくともいずれかを有するポリベンズアゾールから形成される成形体を提供する。成形体内において、ポリベンズアゾールの分子鎖は無秩序化されており、ポリベンズアゾール分子鎖の配向度Aは0.60未満である。配向度Aは配向度A=(180−ΔB)/180によって求められ、式中、ΔBは該成形体のX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子鎖が無秩序化されることにより優れた機能を有するポリベンズアゾール成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリベンズアゾールにより形成されるフィルムは、高強度及び高弾性率を有し、耐熱性や難燃性に優れていることから、磁気テープ、電気電子部品用絶縁フィルム又は液晶配向膜等の新規用途に向けて多くの研究が行なわれている。例えば、特許文献1には平滑性に優れる特定の表面粗さのフィルム形のポリベンズアゾール成形体が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には磁気記録媒体に好適な特定の伸度やヤング率を有するフィルム状のポリベンズアゾール成形体が開示されている。さらに、特許文献3には2軸延伸して延伸方向に沿って配向させたフィルム形のポリベンズアゾール成形体が開示されている。特許文献4には非液晶性ポリベンズアゾールドープを凝固させて耐熱性、機械的強度、および耐層間剥離性を兼ね備えたポリベンズアゾールフィルムが開示されている。
【特許文献1】特開平11−171993号公報
【特許文献2】特開2000−273214号公報
【特許文献3】特表平6−503521号公報
【特許文献4】特開2003−306556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、最近の小型化及び薄型化の傾向が加速する半導体パッケージ材料や高機能化及び高性能化が進む電子デバイスの材料に要求される特性としては、従来のポリベンズアゾール成形体の高強度、高弾性率及び高耐熱性に加えて新たな機能が求められている。すなわち、ポリベンズアゾール成形体において、その光学的性質、磁気的性質、物理的性質、熱的性質、電気的性質等の各種特性が、該成形体の方向によらず、すなわち等方的に強化されていることが求められている。上記のような特性は、一般にポリベンズアゾールの分子鎖の配向方向に関連し得ることが考えられる。ポリベンズアゾールの分子鎖は剛直な棒状であり、また従来の成形体では強度を求めるために、一般的に分子量が比較的大きい、すなわち固有粘度の高いポリベンザゾールを用いていたため、成形の際にポリベンズアゾールの分子鎖が成形体の表面に沿って配向する傾向にあった。したがって、このような成形体においては、前記特性は、成形体の表面に沿ってのみ強化され得る。また、光学異方性を有するポリベンズアゾールの溶液からフィルムを製造する場合、溶液濃度の変化や温度変化によってポリベンズアゾール溶液の光学異方性相を等方相に転化させることは非常に困難であった。したがって、フィルム状の成形体において、ポリベンズアゾールの分子鎖を成形体のあらゆる方向に等方的に配向させることによって、上記特性の異方性がより少ないポリベンズアゾール成形体を得ることは、従来技術では不可能であった。
【0005】
本発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、分子鎖がより等方的に無秩序化されることにより、特性における異方性が少ないポリベンズアゾール成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、下記一般式(1)〜(4)で示される繰り返し単位のうちの少なくともいずれかを有するポリベンズアゾールから形成
される成形体であって、
【0007】
【化1】

上記式中、Xはイオウ原子、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar及びArは芳香族炭化水素基をそれぞれ表し、
該成形体内において、前記ポリベンズアゾールの分子鎖が無秩序化されており、該成形体の任意の方向において、下記式(i)によって求められるポリベンズアゾール分子鎖の配向度Aが0.60未満であることを要旨とする。
【0008】
配向度A=(180−ΔB)/180 ・・・ (i)
(式中、ΔBは該成形体のX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す)
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のポリベンズアゾール成形体において、前記ポリベンズアゾールの固有粘度(25°C、メタンスルホン酸溶媒中)が、1.0dl/g以上15dl/g以下の範囲であることを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、下記一般式(1)〜(4)で示される繰り返し単位のうちの少なくともいずれかを有するポリベンズアゾールから形成される成形体を製造する方法において、
【0010】
【化2】

上記式中、Xはイオウ原子、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar及びArは芳香族炭化水素基をそれぞれ表し、
前記成形体内において、前記ポリベンズアゾールの分子鎖が無秩序化されており、下記式(i)によって求められるポリベンズアゾール分子鎖の配向度Aが0.60未満であり、
配向度A=(180−ΔB)/180・・・(i)
(式中、ΔBは該成形体のX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す)
該方法が、
前記ポリベンズアゾールの溶液を調製する工程と、
同溶液中のポリベンズアゾール分子鎖を無秩序化させる工程と、
ポリベンズアゾール分子鎖が無秩序化された状態を維持したまま、ポリベンズアゾールを凝固させる工程とを有することを要旨とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の方法において、前記ポリベンズアゾールの固有粘度(25°C、メタンスルホン酸溶媒中)が、1.0dl/g以上15dl/g以下の範囲であることを要旨とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の方法において、前記ポリベンズアゾール分子鎖を無秩序化させる工程が、前記ポリベンズアゾールの溶液を加熱することを含むことを要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の方法において、前記ポリベンズアゾールの溶液が液晶性を有し、前記ポリベンズアゾール分子鎖を無秩序化させる工程が、該溶液の液晶性を発現させることを含むことを要旨とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の方法において、前記ポリベンズアゾールの溶液が、前記ポリベンズアゾールと溶媒とを含み、前記ポリベンズアゾールを凝固させる工程が、前記ポリベンズアゾールの溶液を、前記溶媒とは相溶性を有するが、ポリベンズアゾールを溶解することはない凝固液に接触させることによりポリベンズアゾールを析出させることからなることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
請求項1に記載の発明のポリベンズアゾール成形体によれば、該成形体中においてポリベンズアゾールの分子鎖が特定の範囲の配向度を有することにより、該成形体はより等方的な特性を発現することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明のポリベンズアゾール成形体によれば、ポリベンズアゾールが特定の範囲の固有粘度を有していることにより、該成形体は、より等方的な特性を発現することができる。
【0017】
請求項3に記載のポリベンズアゾール成形体の製造方法によれば、ポリベンズアゾールの分子鎖が無秩序化されることにより、優れた特性を等方的に発現するポリベンズアゾール成形体を容易に製造することができる。
【0018】
請求項4に記載のポリベンズアゾール成形体の製造方法によれば、優れた特性をより等方的に発現するポリベンズアゾール成形体を容易に製造することができる。
請求項5に記載のポリベンズアゾール成形体の製造方法によれば、優れた機能をより等方的に発現するポリベンズアゾール成形体を容易に製造することができる。
【0019】
請求項6に記載のポリベンズアゾール成形体の製造方法によれば、優れた機能をより等方的に発現するポリベンズアゾール成形体を容易に製造することができる。
請求項7に記載のポリベンズアゾール成形体の製造方法によれば、優れた機能をより等方的に発現するポリベンズアゾール成形体をさらに容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のポリベンズアゾール成形体の実施形態について説明する。
図1に本発明のポリベンズアゾール成形体をポリベンズアゾールフィルム1として具体化した実施形態を示す。一般に、ポリベンズアゾールフィルム成形体において、ポリベンズアゾール分子鎖は、その直線性および剛直性のため、成形の際に、成形体の表面に沿って配向され易い。特に、薄いフィルム状に成形された従来のポリベンズアゾールフィルムでは、ポリベンズアゾール分子鎖はフィルムの表面に沿って極度に配向されている。これに対し、本発明のポリベンズアゾールフィルム1においては、ポリベンズアゾール分子鎖の表面に沿った極端な配向が抑えられており、ポリベンズアゾール分子鎖は、例えば図1のX軸方向、Y軸方向、またはZ軸方向等の様々な方向を向き、従来、成形により生じていた配向の規則性が低減される。このような状態を、本願においては、ポリベンズアゾール分子鎖が「無秩序化されている」と称する。このようにポリベンズアゾール分子鎖が無秩序化されていることにより、ポリベンズアゾールフィルム1では、光学的性質、磁気的性質、物理的性質、熱的性質及び電気的性質などの特性の異方性が低減されている。換言すれば、ポリベンズアゾールフィルム1は、そのような特性をより等方的に発現することができるのである。
【0021】
本発明においてポリベンズアゾールとは、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンズイミダゾール(PBI)から選ばれる少なくとも
一種を含む高分子を指す。このようなポリベンズアゾールとしては、PBO、PBT、PBIのいずれか一種からなるホモポリマー、PBO、PBT、PBIから選ばれる二種以上からなる混合物、ブロックコポリマー又はランダムコポリマー、およびPBO、PBT又はPBIのうち少なくとも一種を含むコポリマー等が挙げられる。
【0022】
PBOとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのオキサゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えば、ポリ(フェニレンベンゾビスオキサゾール)などが含まれる。PBTとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのチアゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えば、ポリ(フェニレンベンゾビスチアゾール)等が含まれる。PBIとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのイミダゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えばポリ(フェニレンベンズビスイミダゾール)等が含まれる。
【0023】
具体的には、本発明のポリベンズアゾール成形体は、下記一般式(1)〜(4)で示される繰り返し単位のうち少なくともいずれかを有するポリベンズアゾールから形成されている。
【0024】
【化3】

上記式中、Xはイオウ原子、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar及びArは芳香族炭化水素基をそれぞれ表し、nは10〜500の整数である。
【0025】
Arの具体例としては、下記一般式(I)〜(IV)で示すものが挙げられる。
【0026】
【化4】

Arの具体例としては、下記一般式(V)〜(VIII)で示すものが挙げられる。
【0027】
【化5】

上記一般式(I)〜(VIII)中のZは、それぞれ酸素原子、イオウ原子、SO、CO、CH、C(CH、CF又はC(CFのいずれかを表すか、または、隣り合うベンゼン環中の炭素同士の直接結合を表す。また、上記一般式(I)〜(VIII)中のベンゼン環において、各炭素原子と結合している水素原子は低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基等に置換されていてもよい。この置換反応は、重
縮合反応前に対応する上記部分を含む原材料において行なわれてもよいし、または重縮合反応後のポリベンズアゾールの対応する部分について行なわれてもよい。
【0028】
本発明のポリベンズアゾール成形体は、最も好ましくは、上記一般式(1)および(2)の少なくともいずれかの繰り返し単位を有するポリベンズアゾールであって、前記式中、Xは酸素原子であり、ArおよびArは一般式(I)〜(VIII)においてZが酸素原子または直接結合を示すものであるポリベンズアゾールから形成される。
【0029】
また、本発明のポリベンズアゾールは、上記一般式(1)〜(4)で示す繰り返し単位の他に、その製造過程で生じる、下記式(IX)および(X)で示すような未反応の開環部分を有する繰り返し単位を含んでもよい。
【0030】
【化6】

上記一般式(1)〜(4)で示される繰り返し単位を有するポリベンズアゾールは、溶媒に溶解すると所定の濃度範囲においてリオトロピック液晶性を示すことが好ましい。ポリベンズアゾールの液晶性を発現させ、それに加えて加熱などの手段により、ポリベンズアゾール分子の熱運動を活発にさせることによって、成形時のポリベンズアゾール分子鎖のフィルム表面に平行な方向への配向を壊して、ポリベンズアゾールの分子鎖の向きを無秩序化させる。それにより、ポリベンズアゾールの分子鎖の向きがより無秩序化した成形体を得ることができる。このように、本発明のポリベンズアゾール成形体は、ポリベンズアゾールの分子鎖が無秩序化されることにより、より等方的な特性を発現するように構成されている。
【0031】
ポリベンズアゾールの分子鎖の配向は、ポリベンズアゾール成形体が所定の光線透過性を有する場合には、2枚の偏光子や偏光顕微鏡を用いた光学的異方性(位相差、複屈折)の測定による方法又は偏光赤外線吸収スペクトルによる解析法によって確認することができる。さらに、偏光ラマンスペクトル法、X線回析分析による方法、電子線回析分析による方法、電子顕微鏡により観察する方法等によっても確認することができる。
【0032】
本発明のポリベンズアゾール成形体において、等方的に発現され得る特性としては、光学的性質、磁気的性質、物理的性質、熱的性質及び電気的性質から選ばれる少なくとも一種が有用である。例えば、ポリベンズアゾール成形体中では、ポリベンズアゾールの分子鎖がπ電子共役系分子として働く。よって、ポリベンズアゾールの分子鎖が様々な方向に無秩序に配向されていることによって、π電子共役系が多方向に延びることとなり、該成形体は磁気的性質において優れた等方性を発現することができる。また、一般に高分子材料のような絶縁体における熱伝導はフォノンの散乱により起こり、このフォノンは分子鎖の長手方向に沿って散乱し易いと考えらている。従って、成形体中においてポリベンズアゾール分子鎖が無秩序化されていることにより、ポリベンズアゾール分子鎖が一定方向に
配向されている場合と比較して、該成形体は、優れた熱伝導性をより等方的に発揮することが可能となる。
【0033】
本発明のポリベンズアゾール成形体中においては、ポリベンズアゾールの分子鎖が無秩序化されており、該成形体の任意の方向において、下記式(i)によって求められる、ポリベンズアゾール分子鎖の配向度Aが、0.60未満である。
【0034】
配向度A=(180−ΔB)/180 ・・・ (i)
上記式中、ΔBは該成形体のX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す。このポリベンズアゾール分子鎖の配向度Aは、ポリベンズアゾール成形体の広角X線回折測定(透過)を行うことによって求められる。
【0035】
配向度Aを求めるには、ポリベンズアゾール成形体について広角X線回折測定を行う。X線回折装置において、試料にX線を照射すると、該試料中に含まれる粒子(分子鎖)に配向がある場合には同心弧状の回折パターン(デバイ環)が得られる。まず、成形体試料について、このデバイ環の中心から半径方向におけるX線回折強度分布を示す回折パターンを得る(図2および図5参照)。この回折パターンにおいて、横軸はX線の回折角2θを示し、横軸の特定の位置に確認されるピークはポリベンズアゾール分子鎖間の距離を表すものと考えられている。この回折ピークが得られた角度(ピーク散乱角)を固定して、方位角方向(デバイ環の周方向)に0°〜360°までのX線回折強度分布を測定することにより、図3および図6に示すような方位角方向のX線回折強度分布が得られる。この強度分布におけるピークが急峻であるほど、ポリベンズアゾール分子鎖が一定方向に高度に配向されていることを示している。従って、この方位角方向の強度分布において、図6に示す、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅ΔB)を求め、この半値幅ΔBを上記式(i)に代入することによって、ポリベンズアゾール分子鎖間の配向度Aを算出することができる。例えば、図3に示す方位角方向の強度分布の場合、配向度Aは0.59である。
【0036】
本発明のポリベンズアゾール成形体の任意の方向における配向度Aは、0.60未満、好ましくは0.41以上0.60未満の範囲にある。成形体の任意の方向において、この配向度Aが0.6以上であると、ポリベンズアゾールの分子鎖が成形体中においてその方向に高度に配向したものとなる。従って、例えば、期待される特性が熱伝導性である場合には、前記方向においては熱伝導率λは高くなるが、それ以外の方向における熱伝導率λは低くなり、十分な熱伝導性が得られない。一方、半値幅ΔBが常に正の値を示すため、上記式(i)から配向度Aが1.0以上となることはない。
【0037】
上記実施形態のポリベンズアゾールフィルム1においては、該フィルム1の表面に沿う方向、例えば、図1のX軸方向またはY軸方向における配向度Aが、0.6未満、好ましくは0.41以上0.60未満の範囲にあることが好ましい。先に述べたように、ポリベンズアゾールフィルム1のように、厚みが薄いフィルム状の成形体においては、成形の際に、ポリベンズアゾール成形体中のポリベンズアゾール分子鎖がその表面に沿う方向に極度に配向されることが分かっている。従って、このポリベンズアゾールフィルム1の表面に沿う方向におけるポリベンズアゾール分子鎖の配向度Aの範囲が0.60未満であれば、そのようなポリベンズアゾール分子鎖のフィルム表面に沿う方向における配向が壊されており、全体として、それらの分子鎖は様々な方向に無秩序化されているとみなすことができると考えられる。従って、このようなポリベンズアゾール成形体では、熱伝導性などの特性の異方性を小さくすることができる。換言すれば、このような成形体は、成形体の多方向において、より等方的な特性、例えば、等方的に優れた熱伝導性を発揮することができる。
【0038】
本発明のポリベンズアゾール成形体は、半導体用絶縁膜、配線基板材料、封止剤、ディスプレイ用配向膜、偏光フィルム用フィルム基材、磁気記録フィルム基材、コンデンサ用フィルム、太陽電池、面状発熱体、電磁波対策用フィルム、センサー、アクチュエータ、電池用材料、実装材料、ガスバリアー材、積層フィルム、フィルター、分離膜、イオン交換膜等において、等方的な特性が必要とされる用途に用いることができる。
【0039】
ポリベンズアゾール成形体をフィルム状に形成する場合、該フィルム状成形体の厚みは1μm以上2mm以下であることが好ましい。該フィルム状成形体の厚みが1μm未満であると、同成形体において破断等の欠陥が生じやすい。一方、該フィルム状成形体の厚みが2mmを超えると、該成形体の成形が困難となり、製造コストが嵩む傾向にある。
【0040】
本発明に用いられるポリベンズアゾールは、下記一般式(5)で示されるジカルボン酸又はそのアミド形成性誘導体(以下、これらを「酸成分」と称する)と下記一般式(6)又は(7)で示されるアミノ塩基性成分あるいは下記一般式(8)又は(9)で示されるアミノベンゼン酸誘導体を縮合反応させることにより得られる。
【0041】
【化7】

上記式中、Xはイオウ原子、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar及びArは芳香族炭化水素基をそれぞれ表す。
【0042】
上記一般式(5)中のArの具体例としては、式(1)〜(4)における定義と同様に、下記一般式(V)〜(VIII)で示すものが挙げられる。
【0043】
【化8】

また、上記一般式(6)又は(7)中のArの具体例としては、式(1)〜(4)における定義と同様に、下記一般式(I)〜(IV)で示すものが挙げられる。
【0044】
【化9】

上記一般式(I)〜(IV)中のZは、それぞれ酸素原子、イオウ原子、SO、CO、CH、C(CH、CF又はC(CFのいずれかを表すか、または、隣り合うベンゼン環中の炭素同士の直接結合を表す。また、上記一般式(I)〜(IV)中のベンゼン環において、各炭素原子と結合している水素原子を低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル基、ニトロ基
、スルホン酸基、ホスホン酸基等に置換してもよい。
【0045】
上記一般式(5)で示されるジカルボン酸の具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、3,3’−ジカルボキシジフェニルエーテル、3,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、3,3’−ジカルボキシジフェニルメタン、3,4’−ジカルボキシジフェニルメタン、4,4’−ジカルボキシジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシジフェニルジフルオロメタン、3,4’−ジカルボキシジフェニルジフルオロメタン、4,4’−ジカルボキシジフェニルジフルオロメタン、3,3’−ジカルボキシジフェニルスルホン、3,4’−ジカルボキシジフェニルスルホン、4,4’−ジカルボキシジフェニルスルホン、3,3’−ジカルボキシジフェニルスルフィド、3,4’−ジカルボキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジカルボキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジカルボキシジフェニルケトン、3,4’−ジカルボキシジフェニルケトン、4,4’−ジカルボキシジフェニルケトン、2,2−ビス(3−カルボキシルフェニル)プロパン、2,2−(3,4’−ジカルボキシルジフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−カルボキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−カルボキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−(3,4’−ジカルボキシルジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−カルボキシルジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−カルボキシルフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−カルボキシルフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−カルボキシルフェノキシ)ベンゼン、3,3’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス安息香酸、3,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス安息香酸、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス安息香酸、ビス[4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−カルボキシルフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−カルボキシルフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−カルボキシルフェノキシ)フェニル]スルホン、また、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、4,6−ジカルボシー1,3−ジスルホン酸、などのスルホン酸含有ジカルボン酸及びこれらの誘導体、2,5−ジカルボキシベンゼンホスホン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンホスホン酸、2,5−ビスホスホノテレフタル酸、などのホスホン酸含有ジカルボン酸及びそれらの誘導体等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。ジカルボン酸のカルボキシラト(COO)基は、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニア、アミンなどと塩を形成していてもよい。これらイオン性基含有カルボン酸は単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記一般式(5)で示されるジカルボン酸のアミド形成性誘導体の具体例としては、上記一般式(5)で示されるジカルボン酸のジクロライド、ジブロマイド等の酸ハロゲン化物、ジメチルエステル、ジエチルエステル等のジアルキルエステル等が挙げられる。これら酸成分は単独でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。また、酸成分は、そのジハライドとして構成されてもよい。
【0047】
上記一般式(6)又は(7)で示されるアミノ塩基性成分の具体例としては、3,4−ジアミノ−1,5−ベンゼンジオール、3,3’−ジヒドロキシ−4,4−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,2’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2’−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)スルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)メタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン
、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ジフルオロプロパン等が挙げられる。これらアミノ塩基性成分は単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明に用いるポリベンズアゾールを合成するためには、まず上述の酸成分とアミノ塩基性成分とを、不活性雰囲気下で、反応溶媒として酸化作用を有さない無水酸にそれぞれ溶解させて反応溶液を調製する。次いで、反応溶液を激しく攪拌またはせん断しながら70℃から200℃まで段階的に昇温して、反応させることによってポリベンズアゾールが得られる。このとき、酸成分とアミノ塩基性成分との反応は、等モル又はほぼ等モルで行うのが好ましく、各成分の添加順序は限定されない。酸成分としてジハライドを用いる場合には、反応をハロゲン化水素トラップ剤の存在下で行うことが好ましい。ハロゲン化水素トラップ剤の具体例としてはピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン等の第三級アミン等が挙げられる。
【0049】
反応溶媒の具体例としては、ポリリン酸、メタンスルホン酸、クレゾール及び高濃度の硫酸等が挙げられる。反応溶媒として、これらの物質を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これらの物質うち、反応溶媒としては、特に、ポリリン酸、メタンスルホン酸、及びそれらの混合物が好ましく、ポリリン酸が最も好ましい。
【0050】
次に、ポリベンズアゾール成形体の製造方法について説明する。
本発明のポリベンズアゾール成形体を製造する方法は、上記ポリベンズアゾールの溶液を調製する工程と、ポリベンズアゾール分子鎖を無秩序化させる工程と、そのポリベンズアゾール分子鎖の無秩序化された状態を維持したまま、前記ポリベンズアゾールを凝固させる工程とを有する。
【0051】
ポリベンズアゾール溶液を調製するための溶媒としては、ポリベンズアゾールの合成の際に用いられる反応溶媒と同様の物質を用いることができ、好ましくは前記反応溶媒と同一のものである。必要により、ポリベンズアゾール溶液を調製する前に、ポリベンズアゾールを再沈殿などのような従来の手法によって精製してもよい。
【0052】
ポリベンズアゾールの分子鎖を容易に無秩序化させるために、ポリベンズアゾール溶液中のポリベンズアゾール濃度は、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは1〜20重量%に設定される。
【0053】
ポリベンズアゾール溶液中のポリベンズアゾールの最大濃度は主に、ポリベンズアゾールの溶媒に対する溶解性及びポリベンズアゾール溶液の粘度のような物理的因子により限定される。ポリベンズアゾール溶液中のポリベンズアゾールの濃度が25重量%を超えると、溶液の粘性が高くなりすぎてポリベンズアゾールの分子鎖が無秩序化され難い。また、ポリベンズアゾール溶液中のポリベンズアゾールの濃度が1重量%未満であると、多量の溶媒を必要とするために工業プロセスに適さない。
【0054】
ポリベンズアゾールの分子鎖を容易に無秩序化させるために、ポリベンズアゾールの固有粘度は、25℃において溶媒としてメタンスルホン酸を用いたオストワルド粘度計による測定(米国材料試験協会規格 ASTM D2857−95準拠)で、好ましくは1.0〜15dl/gの範囲、より好ましくは1.0〜13dl/gの範囲、さらに好ましくは1.5〜10dl/gの範囲である。ポリベンズアゾールの固有粘度が1.0dl/g未満である場合には、一般にそのポリベンズアゾールは低い分子量を有するために、製膜が困難である。一方、ポリベンズアゾールの固有粘度が15dl/gを超えると、ポリベンズアゾール溶液とした場合の粘度が高くなりすぎてポリベンズアゾールの分子鎖が無秩
序化され難い。
【0055】
ポリベンズアゾール溶液には、ガラス繊維等の補強材、各種充填剤、顔料、染料、蛍光増白剤、分散剤、安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤等を少量添加してもよい。
【0056】
同溶液からポリベンズアゾール成形体を成形する方法としては、ダイ、例えばスリットダイから基材上に溶液を流延させる方法や、キャスト法などによって基材上に溶液を塗布する方法があるが、これらに限定されるものではない。このとき、図4に示すように、ポリベンズアゾール溶液をスリットダイから下側の基材3上に流延させ、流延されたポリベンズアゾール溶液上に別の基材3を重ねて、ポリベンズアゾール溶液を2枚の基材3の間に挟持する構成としてもよい。このようにポリベンズアゾール溶液を2枚の基材3の間に挟持することにより、ポリベンズアゾール溶液が空気に触れて劣化することを防止することができる。
【0057】
前記基材3は特に限定されるものではないが、長尺の均一なフィルム状ポリベンズアゾールを得るためには、閉ループ状のエンドレスベルト、エンドレスドラム又はエンドレスフィルム等を用いることが好ましい。また、基板としてガラス板および樹脂フィルムなどの板状物を使用することも可能である。基板は金属から形成されていてもよく、特にステンレス鋼、ハステロイ系合金、タンタル等が好ましい。
【0058】
ポリベンズアゾール分子鎖を無秩序化させる方法としては、特に限定はしないが、ポリベンザゾールの液晶性を発現させること、およびポリベンズアゾール分子の熱運動を活発にすることなどが挙げられる。これらの方法によって、ポリベンズアゾール分子鎖は、成形時の高配向状態に比べて無秩序化される。
【0059】
溶液がリオトロピック液晶性を有する場合、ポリベンズアゾール分子鎖の無秩序化は、そのポリベンズアゾールの固有粘度に適宜対応してポリベンズアゾール溶液の濃度を変化させたり、あるいは同溶液を加熱することによって行われ得る。具体的には、支持面上に流延したポリベンズアゾール溶液を凝固に先立ち、溶媒を添加して、溶液の濃度を下げることにより、ポリベンズアゾール分子の熱運動を活発にする。あるいはさらに濃度を下げ、溶剤の溶解能力およびポリマー濃度の変化により、分子の配向に規則性がない、すなわち無秩序化されている光学等方性相に転移させる。また、支持面上に流延した溶液をポリベンズアゾール溶液が液晶性を示す温度範囲まで昇温してもよい。あるいは、溶液をポリベンズアゾール溶液が液晶性を有さない温度範囲まで昇温して、ポリベンズアゾール分子の熱運動をさらに活発にしてもよい。あるいは、一旦、ポリベンズアゾールを均一な非液晶状態に転移させた後、同溶液が液晶性を有する温度範囲まで徐々に降温してもよい。あるいは、上記のような昇温と降温とを逐次的に併用してもよい。このような無秩序化における加熱は、通常、40〜250℃、好ましくは40〜200℃、最も好ましくは60〜180℃の温度範囲で行われる。
【0060】
加熱手段は特に限定されるものではなく、高温の加湿空気を中間体に当てる方法、紫外線ランプから紫外線を照射する方法、誘電加熱による方法等が挙げられる。
ポリベンズアゾール溶液の凝固は、単なる溶媒の蒸発によっても可能であるが、好ましくは、凝固液を用いることによって行われる。この凝固液はポリベンズアゾール溶液の溶媒と相溶性を有し、かつポリベンズアゾールを溶解することはない物質である。この凝固液を前記溶液に接触させることにより、溶液中の溶媒のみが凝固液に溶解し、その結果、ポリベンズアゾールが析出することにより凝固する。この凝固液を用いる方法によれば、溶媒を蒸発させるための加熱装置や蒸発した溶媒を回収する装置などを必要とすることがなく、より容易にポリベンズアゾールの凝固を行なうことができる。また、溶媒としてポ
リリン酸のような強酸を用いる場合には、凝固液を用いることによって、そのような強酸が薄められるので安全面においても好ましい。
【0061】
凝固液として使用できる物質は、水、リン酸水溶液、硫酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、メタノール、エタノール、アセトン、およびエチレングリコール等が挙げられ、それらの物質を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。凝固液とポリベンズアゾール溶液の溶媒の交換が穏やかで、フィルム表面の荒れを抑制できることから、凝固液として、10〜70重量%のリン酸水溶液または低級アルコールを使用することが特に好ましい。
【0062】
凝固液の温度は−60〜60℃にすることが好ましく、より好ましくは−30〜30℃、最も好ましくは−20〜10℃である。凝固液の温度が60℃を超える場合は成形体の表面が荒れたり、成形体の表裏で密度に差が生じることがあり、−60℃未満では物性の低下や溶液の凝固速度が遅く、生産性が低下する。
【0063】
凝固したポリベンズアゾールは、好ましくは、乾燥させる前に洗浄される。洗浄は、例えば、凝固したポリベンズアゾールを支持する基板を洗浄液中にて走行させたり、凝固したポリベンズアゾールに洗浄液を噴霧することにより行われる。洗浄液として通常は水が用いられるが、必要に応じて温水を用いてもよい。まず、凝固したポリベンズアゾールを水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ水溶液で中和洗浄した後、水などで洗浄してもよい。洗浄された後の凝固したポリベンズアゾールにおける酸成分、アミノ塩基性成分及び無機塩の濃度は、それぞれ500ppm以下であることが好ましい。洗浄後の前記酸成分、アミノ塩基性成分及び無機塩の濃度が500ppmを超えると、ポリベンズアゾールが劣化する原因となり、得られたポリベンズアゾール成形体の特性が損なわれる可能性があるので好ましくない。
【0064】
ポリベンズアゾール成形体が、半導体用絶縁膜、封止剤、ディスプレイ用配向膜等のように基板に直接製膜して用いられる場合には、凝固したポリベンズアゾールを静置した状態又は延伸した状態で乾燥させ、基板上に製膜されたポリベンズアゾール成形体を得ることができる。
【0065】
一方、ポリベンズアゾール成形体が、フレキシブルプリント配線基板用フィルム、磁気記録フィルム基材等のようにベースフィルムとして用いられる場合には、基板上に製膜されたポリベンズアゾールを乾燥させた後に基板から剥離することによって、フィルム状のポリベンズアゾール成形体を得ることができる。また、凝固したポリベンズアゾールを乾燥前に基板から剥離し、剥離後に乾燥させてフィルム形のポリベンズアゾール成形体を得てもよい。凝固したポリベンズアゾールの乾燥方法は特に限定されるものではないが、空気、窒素、アルゴン等の加熱気体を用いる方法、電気ヒータや赤外線ランプ等の輻射熱を利用する方法、誘電加熱法等により行われる。
【0066】
凝固したポリベンズアゾールを乾燥させる際、凝固したポリベンズアゾールの外縁部を拘束してその収縮を制限してもよい。凝固したポリベンズアゾールを乾燥させるための温度は、好ましくは100〜500℃、より好ましくは100〜400℃、最も好ましくは100〜200℃である。100℃未満では、凝固したポリベンズアゾールが乾燥し難いため好ましくない。
【0067】
本発明において、上記成形工程、並びにそれに続く加熱・凝固・洗浄・乾燥等の工程を連続的に行ってもよいし、これらの全部又は一部の工程を断続的に、つまり回分式に行っても構わない。
【0068】
以下、図4を参照して、本発明のポリベンズアゾール成形体をポリベンズアゾールフィルム1として具体化した実施形態の製造方法をより詳細に説明する。
第1の実施形態として、ポリベンズアゾール分子鎖が無秩序化されることにより、多方向における熱伝導性等の特性に優れたポリベンズアゾール成形体の製造方法について説明する。まず、上述したポリベンズアゾールを、溶媒に溶解することにより、ポリベンズアゾール溶液を調製する。次に、その溶液を、スリットダイ(図示せず)から基材3の上に流延し、流延された溶液上に別の基材3を重ねて、溶液を2枚の基材3の間に挟持することにより、一定の厚さを有するフィルム状の中間体2を形成する。
【0069】
次に、図4に示す基材3の両側に配設された加熱装置(図示せず)により、中間体2は、該溶液中のポリベンザゾール分子が熱運動し易くなる温度に加熱される。この加熱により、中間体2中のポリベンザゾール分子の熱運動が活発となり、その結果、ポリベンザゾールの分子鎖の配向は無秩序化される。この無秩序化された状態を維持したまま、中間体2を凝固・乾燥させることによって、ポリベンズアゾール分子鎖が無秩序化され、多方向において優れた特性を有するポリベンズアゾールフィルム1を得ることができる。
【0070】
上記実施形態を以下のように変更することも可能である。
・第1の実施形態のポリベンズアゾール成形体の製造方法において、ポリベンズアゾールを溶融液として調製してもよい。その場合、ポリベンズアゾール溶融液の調製工程、成形工程を通じて、ポリベンズアゾール溶融液はその溶融状態を維持できる温度に加熱されている。そのような温度の範囲は、100〜450℃、より好ましくは、200〜400℃である。
【0071】
・本発明の成形体は、積層フィルムであってもよい。積層の方法としては、周知の方法たとえば、ダイの口金内での積層や、一層を形成しておいて、その上に他の層を形成する方法などがある。
【実施例】
【0072】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜5)
攪拌装置、窒素導入管、乾燥器を備えた反応容器に、ポリリン酸(HPO当量115%)300g、4,6−ジアミノレゾルシノール2塩酸塩5g(23.4mmol)、テレフタル酸ジクロライド4.76g(23.4mmol)および所定量の塩化ベンゾイルを充填し、70℃で16時間撹拌した。さらに、その溶液を攪拌しながら、90℃で5時間、130℃で3時間、150℃で16時間、170℃で3時間、185℃で3時間、200℃で48時間の順に段階的に昇温し、各段階においてそれらの温度を一定時間維持することによって、溶液を反応させ、粗製ポリベンゾオキサゾール溶液を得た。次に上記粗製ポリベンゾオキサゾール溶液をメタノール、アセトン、水で再沈殿して、式(1)の繰返し単位(ArおよびAr:ベンゼン環、X:酸素原子)を有する各固有粘度のポリベンゾオキサゾール(PBO1)を得た。各ポリベンゾオキサゾールの固有粘度は、添加する塩化ベンゾイルの量によって調整した。各固有粘度のポリベンゾオキサゾールに、ポリリン酸を加え、表1に示す濃度の各ポリベンゾオキサゾール溶液を調製した。ここで、偏光顕微鏡を用いてポリベンゾオキサゾール溶液を観察し、そのポリベンゾオキサゾール溶液が液晶性を示すことを確認した。
【0073】
図4に示すように、各ポリベンゾオキサゾール溶液を2枚の基材3の間に塗布して、フィルム状に成形し、中間体2を得た。次に、120℃で20分(実施例1〜4)または30分(実施例5)にわたって加熱し、さらに、室温まで自然冷却しせて静置した。その後、基材3に挟持された中間体2を取出し、凝固液として、メタノールおよび水の混合溶液中に浸漬する。前記混合溶液中にて、基材3のうちの1枚を取り外し、中間体2を凝固さ
せる。凝固した中間体2をそのまま同混合溶液中に1時間浸漬し、次いで水中で1時間浸漬した後、110℃で2時間乾燥し、厚み約70μmの各ポリベンゾオキサゾールフィルム1を得た。
【0074】
(比較例1〜3)
比較例1において、東洋紡績社製ポリベンゾオキサゾール「ZYLON 固有粘度27dl/g」(PBO2)をポリリン酸に溶解させて7wt%ポリベンゾオキサゾール溶液を調製した。その溶液を基材3上に塗布してフィルム状に成形し、中間体2を得た。基材3に挟持された中間体2を、加熱せずに、凝固液としてメタノールと水の混合溶液中に浸漬し、基材3のうち1枚を取り外して、中間体2を凝固させる。凝固した中間体2を基板から剥離して、そのままメタノールおよび水の混合溶液中に1時間浸漬し、次いで水中に1時間浸漬した後、110℃で2時間乾燥し、厚み約50μmのポリベンゾオキサゾールフィルム1を得た。
【0075】
比較例2〜比較例3においては、表2に示すように、加熱処理の有無、加熱温度、および溶液濃度を変更した以外は、比較例1と同様の方法によって各ポリベンゾオキサゾールフィルム1を得た。
【0076】
(比較例4〜7)
比較例4においては、攪拌装置、窒素導入管、乾燥器を備えた反応容器に、ポリリン酸(HPO当量)300g、4,6−ジアミノレゾルシノール2塩酸塩5g(23.4mmol)、テレフタル酸ジクロライド4.76g(23.4mmol)および所定量の塩化ベンゾイルを充填し、70℃で16時間撹拌した。さらに、その溶液を攪拌しながら、90℃で5時間、130℃で3時間、150℃で16時間、170℃で3時間、185℃で3時間、200℃で48時間の順に段階的に昇温し、各段階においてそれらの温度を一定時間維持することによって、溶液を反応させ、粗製ポリベンゾオキサゾール溶液を得た。次に上記粗製ポリベンゾオキサゾール溶液をメタノール、アセトン、水で再沈殿して、式(1)の繰返し単位を有する(ArおよびAr:ベンゼン環、X:酸素原子)ポリベンゾオキサゾールを得た。このポリベンゾオキサゾールの固有粘度は、約20dl/gであった。得られたポリベンゾオキサゾールに、ポリリン酸を加え、7wt%ポリベンゾオキサゾール溶液を調製した。その溶液を基板上に塗布してフィルム状に成形し、中間体2を得た。次に、その中間体2を120℃で20分加熱し、さらに、室温まで自然冷却して静置した。その後、基材3に挟持された中間体2を、凝固液として、メタノールおよび水の混合溶液中に浸漬し、基材3のうち1枚を取り外して、中間体2を凝固させる。凝固した中間体2を基板から剥離して、そのままメタノールと水の混合溶液中に1時間浸漬し、次いで水中に1時間浸漬した後、110℃で2時間乾燥し、厚み約50μmのポリベンゾオキサゾールフィルム1を得た。
【0077】
比較例5〜比較例7においては、表2に示すように、ポリベンゾオキサゾールの固有粘度、加熱処理の有無、溶液濃度を変更した以外は、比較例4と同様の方法によって各ポリベンゾオキサゾールフィルム1を得た。尚、各ポリベンゾオキサゾールの固有粘度は、添加する塩化ベンゾイルの量によって調整した。
【0078】
(比較例8)
比較例8には、厚さ75μmのポリイミドフィルム(商品名「カプトン」;デュポン社製)を示す。
【0079】
実施例1〜5および比較例1〜7で得られた各ポリベンゾオキサゾールフィルム1に関して、フィルム1の表面に沿う方向(X軸方向)におけるポリベンゾオキサゾール分子鎖の配向度A、各フィルム1の厚み方向(Z軸方向)および表面に沿う方向(X軸方向)に
おける特性として熱拡散率αおよび熱伝導率λを、表1および表2に示す。なお、Z軸方向の熱拡散率をα、X軸方向の熱拡散率をαで示す。Z軸方向の熱伝導率をλ、X軸方向の熱伝導率をλで示す。尚、フィルム1の表面に沿う方向(X軸方向)は、該フィルムを成形する際の基材3上におけるポリベンズアゾール溶液の塗布方向に一致する。
【0080】
ポリベンゾオキサゾールフィルムの配向度Aは、X線回折装置(株式会社マック・サイエンス製「M18XHF22−SRA」)を使用して得た各ポリベンゾオキサゾールフィルム1の方位角方向のX線回折強度分布におけるピークの半値幅ΔBから式(i)によって算出した。例として、実施例2のポリベンゾオキサゾールフィルムについて、図2にX線回折測定による赤道方向の回折パターンを示し、図3に回折ピーク角度2θ=約26°における方位角方向のX線回折強度分布を示す。また、比較例2のポリベンゾオキサゾールフィルムについて、図5にX線回折測定による赤道方向の回折パターンを示し、図6に回折ピーク角度2θ=約26°における方位角方向のX線回折強度分布を示す。
【0081】
フィルムの厚み方向の熱拡散率は、熱拡散率測定装置(株式会社アイフェイズ製「アイフェイズα」)を用い、各フィルム1の表面にスパッタリングにより電極を直接形成し、銀ペーストによりリード線を取り付け、各フィルム1の下面にセンサー、上面にヒーターを当接させて、室温にて測定した。また、面に沿った方向の熱拡散率は、赤外線カメラを利用した2次元熱分析装置(株式会社アイフェイズ製「アイフェイズIR」)を用い、試料表面にスパッタリングによりL字型の電極(長さ4mm、幅1mm)を直接形成し、室温における図1に示したX軸方向およびY軸方向への熱流観測から測定した。
【0082】
熱伝導率λは、フィルムの熱拡散率から下記式(ii)によって求めた。
熱伝導率λ=α・ρ・C ・・・(ii)
(但し、αは熱拡散率、ρは密度、Cは比熱を示す。)
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

表1に示すように、実施例1〜5においては、いずれもX軸方向における配向度Aは0.60未満の値を示している。よって、これらのフィルムにおいては、その表面に沿う方向へのポリベンゾオキサゾールの分子鎖の配向が押えれており、それらの分子鎖はより等方的に無秩序化されているものと考えられる。このような実施例1〜5のポリベンゾオキサゾールフィルム1は、比較例1〜8のフィルムと比較して、その表面に沿う方向(X軸方向)におけるだけでなく、厚み方向(Z軸方向)においても、いずれも高い熱拡散率および熱伝導率を示した。
【0085】
一方、比較例1〜7においては、表2に示すように、X軸方向における配向度Aはいずれも0.7以上の高い値を示した。よって、比較例1〜7においては、ポリベンゾオキサゾール分子鎖はフィルム1の表面に沿う方向に高度に配向されていることが考えられる。これらのフィルムでは、フィルムの表面に沿う方向における熱拡散率および熱伝導率は高い値を示したが、フィルムの厚み方向における熱拡散率および熱伝導率はかなり低い値を示した。
【0086】
上記実施形態から把握できる技術的思想について下記に記載する。
・請求項1または2に記載のポリベンズアゾール成形体において、該成形体は、上記一般式(1)および(2)の少なくともいずれかの繰り返し単位を有するポリベンズアゾールから形成され、一般式(1)および(2)において、Xは酸素原子であり、ArおよびArは一般式(I)〜(VIII)においてZが酸素原子または直接結合であるものを示すポリベンズアゾール成形体。上記のようなポリベンズアゾールは、その原材料の入手が比較的容易である。
・請求項1または2に記載のポリベンズアゾール成形体において、該成形体がフィルムの形態にあるポリベンズアゾール成形体。これにより、等方的な特性を有するフィルムが要求される用途において使用可能なポリベンズアゾール成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明のポリベンズアゾール成形体の一実施形態を示す斜視図。
【図2】本発明の一実施形態におけるポリベンズアゾール成形体のデバイ環の中心から半径方向のX線回折パターンの例を示すグラフ。
【図3】本発明の一実施形態におけるポリベンズアゾール成形体の方位角方向のX線回折強度分布の例を示すグラフ。
【図4】ポリベンズアゾール成形体の製造方法を示す概略図。
【図5】比較例2のポリベンズアゾール成形体のデバイ環の中心から半径方向のX線回折パターンを示すグラフ。
【図6】比較例2のポリベンズアゾール成形体の方位角方向のX線回折強度分布を示すグラフ。
【符号の説明】
【0088】
1…ポリベンズアゾールフィルム、2…中間体、3…基材、ΔB…半値幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)〜(4)で示される繰り返し単位のうちの少なくともいずれかを有するポリベンズアゾールから形成される成形体であって、
【化1】

上記式中、Xはイオウ原子、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar及びArは芳香族炭化水素基をそれぞれ表し、
該成形体内において、前記ポリベンズアゾールの分子鎖が無秩序化されており、該成形体の任意の方向において、下記式(i)によって求められるポリベンズアゾール分子鎖の配向度Aが0.60未満であることを特徴とするポリベンズアゾール成形体。
配向度A=(180−ΔB)/180 ・・・ (i)
(式中、ΔBは該成形体のX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す)
【請求項2】
前記ポリベンズアゾールの固有粘度(25°C、メタンスルホン酸溶媒中)が、1.0dl/g以上15dl/g以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のポリベンズアゾール成形体。
【請求項3】
下記一般式(1)〜(4)で示される繰り返し単位のうちの少なくともいずれかを有するポリベンズアゾールから形成される成形体を製造する方法において、
【化2】

上記式中、Xはイオウ原子、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar及びArは芳香族炭化水素基をそれぞれ表し、
前記成形体内において、前記ポリベンズアゾールの分子鎖が無秩序化されており、下記式(i)によって求められるポリベンズアゾール分子鎖の配向度Aが0.60未満であり、
配向度A=(180−ΔB)/180 ・・・ (i)
(式中、ΔBは該成形体のX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す)
該方法が、
前記ポリベンズアゾールの溶液を調製する工程と、
同溶液中のポリベンズアゾール分子鎖を無秩序化させる工程と、
ポリベンズアゾール分子鎖が無秩序化された状態を維持したまま、ポリベンズアゾールを凝固させる工程とを有することを特徴とする方法。
【請求項4】
前記ポリベンズアゾールの固有粘度(25°C、メタンスルホン酸溶媒中)が、1.0dl/g以上15dl/g以下の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリベンズアゾール分子鎖を無秩序化させる工程が、前記ポリベンズアゾールの溶液を加熱することを含む請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリベンズアゾールの溶液が液晶性を有し、前記ポリベンズアゾール分子鎖を無秩序化させる工程が、該溶液の液晶性を発現させることを含む請求項3乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリベンズアゾールの溶液が、前記ポリベンズアゾールと溶媒とを含み、前記ポリ
ベンズアゾールを凝固させる工程が、前記ポリベンズアゾールの溶液を、前記溶媒とは相溶性を有するが、ポリベンズアゾールを溶解することはない凝固液に接触させることによりポリベンズアゾールを析出させることからなる請求項3乃至6のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−176679(P2006−176679A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372060(P2004−372060)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】