説明

ポリマーナノダイヤモンドコンポジット

ポリマーナノダイヤモンドコンポジットに関する。
本発明にかかる製造方法は、ナノダイヤモンドを前処理して重合反応の際に重合溶媒中にナノダイヤモンドが十分分散するように前もって分散処理し、その後重合反応させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーナノダイヤモンドコンポジット、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリマーと種々の無機材料とからなるハイブリッド材料が研究開発されてきた。特に透明性および強度の点で優れたポリメチルメタクリレート(PMMA)系のポリマーを改質し好ましい物性を付与すための試みがある。しかしこれらの材料はベースとなるポリマーと無機材料を混合して製造するものであり、従って得られた材料は、ベースポリマーのマトリックス中に、無機材料が単に分散したものや海島構造などのマクロオーダー(又はセミミクロオーダー)で混合した構造を有するものであった。その材料の物性もベースポリマーの物性をごく僅か変化させだけのものであった。
【0003】
近年種々の応用分野の広がりに伴って、全く新しい物性を有する新規材料の出現が期待されているが、これら従来のハイブリッド材料はこれらの要求を満たすものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリマーナノダイヤモンドコンポジットを提供する。特に透明でかつ優れた強度を有するPMMA系ポリマーとナノダイヤモンドによるハイブリッド材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、以上の期待に鑑み、広範な技術分野に適用できる全く新しい機能を有する新規な構造を有するハイブリッド材料を開発すべく鋭意研究した結果、前処理したナノダイヤモンドの存在下、有機溶媒中で重合反応を行うことでポリマーとナノダイヤモンドとのコンポジットが製造可能であることを見出した。かかる知見に基づいて本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明はナノダイヤモンドと有機ポリマーを用いた全く新規なハイブリッド材料であって、ナノ材料が高分子に十分分散して、かつ強い相互作用を形成したナノ構造を有する材料である。
【0007】
特に本発明は前記ポリマーがポリメチルメタクリレート(PMMA)系である、透明性が十分高くかつ高い耐熱性と高い硬度を兼ね備えるハイブリッド材料である。
【0008】
また本発明はかかるハイブリッド材料を製造する方法に関するものであり、前処理したナノダイヤモンドを分散させた適当な有機溶媒中で、モノマーを重合させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る製造方法は、ナノダイヤモンドを前処理して有機溶媒中に十分に分散させ、さらにそのナノダイヤモンド存在下でポリマーを重合反応させる方法であることから、ナノダイヤモンドが極めて少量含まれているにもかかわらず、非常に大きく向上した物性(透明性、耐熱性)を有するポリマーナノダイヤモンドコンポジットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、「分散」条件であえられたハイブリッドのDMA曲線を示す。
【図2】図2は、「分散/ろ過」条件であえられたハイブリッドのDMA曲線を示す。
【図3】図3は、「精製/分散」条件であえられたハイブリッドのDMA曲線を示す。
【図4】図4は、「精製/分散/ろ過」条件であえられたハイブリッドのDMA曲線を示す。
【図5】図5は、PMMAと「精製/分散/ろ過」条件であえられたハイブリッドの歪み応力曲線を示す。
【図6】図6は、湿式及び乾式の比較を示すDMA曲線を示す。
【図7】図7は、精製/分散/ろ過における精製時(湿式)の経時変化を示すDMA曲線を示す。
【図8】図8は種々のサイズ及び結晶性の相違によるDMA曲線の比較を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(ポリマーナノダイヤモンドコンポジット)
本発明にかかるコンポジットは、ポリマーとナノダイヤモンドとが強く相互作用し、ナノ構造を形成していることを特徴とする。かかる構造は従来の製造方法によっては全く得ることは不可能であり全く知られていなかった構造であり、従来のポリマーとナノダイヤモンドの単なるブレンド物で得られるものとは大きく異なり、また通常の方法でナノダイヤモンドの存在下重合反応を行って得られるものとも相違する。このことは以下の実施例で明らかなように、これらとは本質的に熱的、力学的挙動が相違することからも明らかである。
【0012】
(製造方法)
本発明において使用するポリマーは特に制限はなく、望ましい物性を有するベースポリマー(マトリックスポリマー)として通常公知の種々のタイプのポリマーが選択可能である。具体的には、ポリメチルメタクリレート系、ポリスチレン系、ポリカーボネート系が挙げられる。本発明では特にポリメチルメタクリレート系が好ましい。またこれらの共重合体も含まれる。
【0013】
本発明で使用するナノダイヤモンドとしては、市販品であってナノサイズのダイヤモンドとして知られているものであれば制限なく使用可能である(具体的にはイズミテック株式会社製)。
【0014】
本発明にかかる製造方法は、前記ナノダイヤモンドを前処理することが特徴である。一般に入手できるナノサイズのダイヤモンドは通常2次または高次の凝集体を形成している。従って、ナノサイズのダイヤモンドの大部分は凝集体として存在し、黒色から灰色を呈している。
【0015】
本発明者は、重合反応の際に重合溶媒中にナノダイヤモンドが十分分散するように前もって分散処理することで、本発明にかかるコンポジットが得られることを見出した。この知見に基づき通常公知の分散処理である超音波ホモジナイザーを用いた分散も含めて、分散処理の程度と得られたハイブリッド材料の物性について詳細に検討することで再現性ある物性の向上を得る分散条件を見出すことができる。
【0016】
具体的には望まれるポリマーの重合に使用する重合用溶媒に、(1)ナノダイヤモンドを超音波ホモジナイザーで適当な時間分散させる(以下「分散」とする。)、(2)分散させた溶液をろ紙を用いてろ紙する(以下、「分散/ろ過」とする。)、(3)吸引ろ過して集めたナノダイヤモンド残差を再び溶媒に分散させる(以下、「精製/分散」とする。)、(4)吸引ろ過して集めたナノダイヤモンド残差を再び溶媒に分散させ、さらにろ過(以下、「精製/分散/ろ過」とする。)なる処理を意味する。
【0017】
また上で吸引ろ過して得られる残差を溶媒で濡れたまま使用する場合(湿式)、及び当該残差をアセトンで洗浄して真空乾燥したものを使用する場合(乾式)可能である。
【0018】
一方、上の前処理をして得た溶媒中のナノダイヤモンド分散物は徐々に再凝集し、重合体の物性にばらつきを生じさせることがある。従って、前処理をした後は速やかに使用することが好ましい。ナノダイヤモンドは溶媒中に十分分散しているかどうかはその色(透明、灰色、黒色)で定性的に判断できる。また種々の公知の分散物の評価装置を用いて分散状態を知ることも可能である。
【0019】
ナノ材料のナノメートルオーダーの空孔内部及び近傍で貫入し網目を形成していることを特徴とする。かかるミクロ構造はいままでの製造方法によっては全く製造することは不可能であった。
【0020】
本発明にかかる製造方法は、上で説明した通り適当な重合用溶媒にまず上のようなナノダイヤモンドの前処理をした分散溶液を調製してそこに必要なモノマーを導入する。さらに通常公知の重合条件を用いてモノマーを重合させる。
【0021】
従って重合反応条件についても特に制限はなく、選択した溶媒、反応温度、反応圧力、必要な触媒等を適宜選択することができる。好ましくは適当な温度により開始可能なラジカル重合開始剤の存在下でラジカル重合させることである。具体的にはメチルメタクリレート系の場合、重合条件(溶媒、温度、重合開始剤、反応時間)はトルエン中約80℃で、AIBNを重合開始剤として、約24時間反応させることが好ましい。
【0022】
重合反応の後処理は通常公知の分離精製方法が使用できる。
【0023】
以下実施例によりさらに詳細に説明する。
【0024】
(前分散処理)
モノマーPMMA、溶媒トルエンとした。
【0025】
「分散」:0.1gのナノダイアモンドを25mlのトルエンに添加し、超音波ホモジナイザーに30分かけたもの 結果:試料は黒色で物性にばらつきが見られた。
【0026】
「分散/ろ過」:0.1gのナノダイアモンドを25mlのトルエンに添加し、超音波ホモジナイザーに1時間かけたものをろ紙(No.2)でろ過したもの 結果:試料は透明だったが、物性にばらつきが見られた。
【0027】
「精製/分散」:0.1gのナノダイアモンドを25mlのトルエンに添加し、超音波ホモジナイザーに30分かけたものを吸引ろ過(10μm)し、その残さに再度25mlのトルエンを添加し、超音波ホモジナイザーに30分かけたもの(再沈殿時、デカンテーションを実施しナノダイアモンドの沈殿を除去) 結果:試料は黒色だが物性には再現性が確認できた。
【0028】
「精製/分散/ろ過」:0.1gのナノダイアモンドを25mlのトルエンに添加し、超音波ホモジナイザーに30分間かけたものを吸引ろ過(10μm)し、その残さに再度25mlのトルエンを添加し、超音波ホモジナイザーに30分かけたものをろ紙(No.2)でろ過したもの 結果:試料は透明かつ、物性に再現性が確認できた。
【0029】
「湿式、乾式」:精製/分散/ろ過操作において、0.1gのナノダイアモンドを25mlのトルエンに添加し、超音波ホモジナイザーに30分かけたものを吸引ろ過(10μm)したとき、その残さをトルエンで濡れたまま次の操作に使用したもの(湿式)とアセトンで洗浄した後、真空乾燥機に30分間入れた後、次の操作に使用したもの(乾式) 結果:両者に物性の差は見られなかった。
【0030】
「経時変化」:精製/分散/ろ過操作において、0.6gのナノダイアモンドを150mlのトルエンに添加し、超音波ホモジナイザーに30分かけたものを吸引ろ過(10μm)したとき、その残さ(湿式)をトルエン中に保存し、日を置いて適量採取し、再度25mlのトルエンを添加し、超音波ホモジナイザーに30分かけたものをろ紙(No.2)でろ過したもの結果:4日目までは当日と同じ物性が見られたが、以後物性は低下した。
【0031】
「粒径・粒度分布」:50nm単結晶、50nm多結晶ナノダイヤモンドについては精製/分散/ろ過操作で調製した。250nm単結晶、250nm多結晶ナノダイヤモンドについては分散/ろ過操作(ただしろ紙ではなく吸引ろ過(0.45μm)を用いた。分散時間は30分)で調製した。図8に示すように、単結晶を用いた場合大きな効果が見られた。具体的には多結晶では約3℃程度高温側にシフトしたが、単結晶では約30℃高温側にシフトした。
【0032】
(重合)
重合条件は、一般的にナノダイヤモンドを種々の程度(「分散」、分散/ろ過」、「精製/分散/ろ過」、及び湿式、乾式)で分散させた分散液に、モノマーとして10gのメタクリル酸メチルと、重合開始剤として0.0164gのα,α′−アゾビスイソブチロニトリルを添加し、窒素置換後、80℃で24時間重合させた。その後重合溶液をテトラヒドラフランで希釈し、n−ヘキサンへ滴下して再沈殿を行った。
【0033】
(実施例1)
粒径約50nm、黒色の単結晶ナノダイヤモンド(ND、イズミテック社製)をメチルメタクリレート(MMA)に対して1wt%となるように25mlのトルエンに添加し、超音波ホモジナイザーで0.5時間分散を行った。この分散液にはNDの作成時に副生成物として存在しNDの二次凝集を強化する煤が多く含まれておりこれを吸引ろ過によって取り除いた(精製ND)。得られた残さを再度、同量のトルエンに添加し、超音波ホモジナイザーで再び分散を行った。さらに非分散NDをろ紙で取り除いて得られたろ液をND分散液とした。
【0034】
この分散液にMMA及びAIBNを添加し、80℃で24時間重合させた。反応後重合溶液をTHFで希釈し、ヘキサンへ滴下して再沈殿を行った。
【0035】
得られたハイブリッドの物性を動的粘弾性(DMA)等で測定した(図1〜6参照)。ハイブリッドのDMA曲線において、貯蔵弾性率E´の低下温度及び、tanδのピークトップはPMMA単独と比較して共に約30℃高温側にシフトし、再現性のある透明度の高いハイブリッドが得られた。調製されたハイブリッド中のND含有量は0.1wt%以下であった。
【0036】
(実施例2)実施例1の精製NDをトルエン中に保存し、ND分散液調製前の経日変化を検討した。その結果(図7参照)、4日目に調製したハイブリッドは直後の物性を保持したが、6日目から物性が徐々に低下し、さらに8日目でPMMA単独とほぼ同じDMA曲線となり物性の向上が認められなくなった。これは精製時にある程度分散したNDが時間とともに再凝集しているためと考えられる。
【0037】
サイズ及び結晶性の相違によるDMA曲線の比較を図8に示した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかるコンポジットは、ポリマーとナノダイヤモンドとが強く相互作用し、構造を形成していることを特徴とする。かかる構造は従来の製造方法によっては全く得ることは不可能であり全く知られていなかった構造であり、従来のポリマーとナノダイヤモンドの単なるブレンド物で得られるものとは大きく異なり、また通常の方法でナノダイヤモンドの存在下重合反応を行って得られるものとも相違する。このことは以下の実施例で明らかなように、これらとは本質的に熱的、力学的挙動が相違することからも明らかであり、広範な分野の基礎材料として応用可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノダイヤモンドと有機ポリマーとからなる、ポリマーナノダイヤモンドコンポジット。
【請求項2】
前記ポリマーがポリメチルメタクリレート(PMMA)である、透明性が十分高くかつ高い耐熱性と高い硬度を兼ね備えるポリマーナノダイヤモンドコンポジット。
【請求項3】
ナノダイヤモンドと有機ポリマーとからなるポリマーナノダイヤモンドコンポジットを製造する方法において、重合反応の際に重合溶媒中にナノダイヤモンドが十分分散するように前分散処理し、その後重合反応させることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/085359
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510768(P2006−510768)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003887
【国際出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】