説明

ポリマーナノ分散体の製造方法

【課題】規模の大小に依存しない、ポリマーナノ分散体製造方法を提供する。
【解決手段】溶解容器内で、液体とその液体中に少なくとも部分的に溶解したポリマーとを含む構成物を作製し、その構成物中にポリマー分子が溶解した状態を得る。次に、溶解容器内で、構成物中の溶解ポリマー分子の溶解性を増大させて、構成物中の溶解ポリマーの濃度を、所定の範囲まで上げる。続いて、沈殿容器内で希釈剤に構成物を加え、構成物中の溶解ポリマー分子を希釈すると、ポリマー分子の溶解性が低下し、構造的規則性を有するポリマーナノ凝集体の分散液が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、半導電性ポリマーのナノ分散体を製造する回分プロセス(batch process)に関し、実施形態においては、電子装置で使用される、インクジェット印刷可能なポリチオフェン分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ウーら(Wu et al.)の米国特許第6,803,262号には、液体とその液体中に少なくとも部分的に溶解した自己組織化ポリマーとから成る構成物(composition)を作製することで溶解ポリマー分子を得るステップと、溶解ポリマー分子の溶解性(solubility)を低減させることで該構成物中に構造的規則性を有するポリマー凝集体が形成されるよう促すステップと、該構造的規則性を有するポリマー凝集体を含む該構成物から成る層を析出させるステップと、この層を少なくとも部分的に乾燥させることで構造的規則性を有する層を得るステップと、を有する方法であって、この構造的規則性を有する層が、電子装置の一部であり、かつ、増大された電荷輸送能力を示す、方法について開示されている。
【0003】
本発明は、米国標準技術局(NIST)によって付与された協力協定番号第70NANBOH3033号のもとで、米国政府の支援を受けて成されたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0004】
ポリマー分散体には、多数の用途がある。用途の例としては、薄膜トランジスタなどの電子装置に使用する半導体の製造時などが挙げられる。電子装置内の半導体に使用する典型的なポリマーナノ分散体は、高価であり、大量に調製するのが困難である。ポリマーナノ分散体の従来の製造方法は、例えば米国特許第6,803,262号、同第6,890,868号、同第7,005,672号、および、同時係属中の米国特許公開公報US2006/0081841A1に開示されている。
【0005】
実際のところ、従来考案されたポリマー分散体製造方法では、ポリマーとしてPQT−12を用い、以下の3つの基本ステップを含んでいる:
1.約70℃にて、0.3%ポリチオフェン溶液をジクロロベンゼンで200mLまで希釈して、確実に完全溶解させるステップと、
2.約3分間またはそれ以下の期間、溶解容器を冷却超音波浴に浸して、超音波による沈殿(precipitation)を実施するステップと、
3.得られたポリマーナノ分散体を、シリンジフィルタを用い、ポアサイズ0.7μmのガラスファイバフィルタで濾過するステップ。
【0006】
ステップ2において、容積の関数としての容器の冷却表面に起因して、溶解容器を急速に冷却できないという制限があることが問題である。この制限によって、市販製品の大量生産が実施不可能になっている。上記の方法では、たとえば、バッチ毎に、たった約250mLの溶液しか作製できない。ポリマーナノ分散体をより大量且つより安価に製造できる方法が必要とされている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,803,262号明細書
【特許文献2】米国特許第6,890,868号明細書
【特許文献3】米国特許第7,005,672号明細書
【特許文献4】米国特許公開第2006/0081841号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、実施時において規模の大小に依存しない、ポリマーナノ分散体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(a)液体とその液体中に溶解したポリマーとを含む構成物を作製し、その構成物中にポリマー分子が溶解した状態を得るステップであって、その溶解は溶解容器内で実施される、ステップと、(b)前記構成物中の溶解ポリマー分子の溶解性を増大させて、前記構成物中の溶解ポリマーの濃度を、前記ポリマーおよび前記液体の総重量に基づいて約0.1〜約30%の範囲にまで上げるステップであって、前記構成物中の前記溶解ポリマー分子の前記溶解性の増大は溶解容器内で実施される、ステップと、(c)希釈剤を用いて前記構成物中の前記溶解ポリマー分子を希釈するステップであって、前記構成物中の前記溶解ポリマー分子の希釈は、沈殿容器内で前記希釈剤に前記構成物を加えることによって実施される、ステップと、を含む方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、一般的に、ポリマーナノ分散体の製造方法に関し、実施形態においては、薄膜トランジスタなどの電子装置に使用する、インクジェット印刷可能なポリチオフェン分散体に関する。このプロセスでは、まずポリマーの濃縮物を作製し、次にそのポリマーを溶解容器内で液体(たとえば溶媒)と混合する。続いて、その構成物を、約50〜80℃の温度に加熱および維持し、撹拌することでポリマーが完全に溶解する。その高温の濃縮ポリマー溶液を、調節された速度で、沈殿容器内で予め冷却された希釈剤に加える。その結果得られた沈殿容器内のポリマーの濃度は、インクジェット印刷または類似のプロセスおよび回路基板のプリント時に用いる装置における使用に適するように調節されている。高温のポリマーと希釈剤とを沈殿容器内で混合した後、沈殿容器をさらに冷却してもよく、溶液にさらなる撹拌(たとえば、超音波処理および/またはかき混ぜ(stirring))を施してもよい。それにより、高温ポリマー濃縮物と冷たい希釈剤とが沈殿容器内で混合された際に、熱が急速に放散し、それによって、十分に小さい粒子サイズの沈殿物が形成される。沈殿容器の温度が高すぎる場合は、高温溶解ポリマー濃縮物の供給を中断して沈殿容器を冷却させ、低くなった温度でプロセスを再開することが可能である。
【0011】
本明細書では、実施時において規模の大小に依存しない、ポリマーナノ分散体の製造方法を説明する。すなわち、本方法の実施は、実験用の規模でも可能であり、市販用の規模まで容易に拡大可能である。
【0012】
本方法では、適切なポリマーであれば、いずれを用いることもできる。ある液体中においてポリマーの溶解性が不十分だと考えられるのは、その液体を用いた飽和溶液におけるそのポリマーの濃度が、意図される用途に有用なポリマー薄層を通常の析出技術によって作製できるほど十分に高くない場合である。一般的に、特定の液体中のポリマー濃度が約0.1重量%未満の場合、その液体中での溶解性は不十分であると見なされる。ただし、ポリマーが室温では液体中の低い溶解性を示したとしても、室温以上に加熱することによって、その溶解性を上げることが一般的には可能である。
【0013】
濃度が約0.2重量%より高い場合は、通常の析出プロセスによってその溶液から有用なポリマー薄層を製造できるので、そのポリマーは適度な溶解性を示すと考えられる。
【0014】
用語「室温」は、たとえば約25℃などの、通常の室温の範囲内の温度を表す。
【0015】
実施形態において、1種、2種、3種、またはそれ以上の異なる種類のポリマーを用いることが可能である。
【0016】
ポリマーは、たとえば自己組織化ポリマーであってもよい。分子の自己組織化とは、ポリマーに対する液体の溶解力の変化などの刺激に応じて、分子が自発的に、より高度な分子構造配列に組織化する能力のことを表す。ポリマーはさらに、たとえば半導電性であってもよいし、共役ポリマーであってもよい。実施形態においては、ポリマーは、自己組織化性および半導電性の両方であることが可能である。自己組織化ポリマーとしては、たとえばポリチオフェンなどの共役ポリマーが挙げられる。代表的なポリチオフェンには、以下のものが含まれる。
【0017】
【化1】

【0018】
ここで、nは、約5〜5,000であって、たとえば5〜500であり、または10〜100である。特に、nが40であるPQT−12を使用することが可能である。
【0019】
適切なポリチオフェンは、米国特許第6,621,099号、同第6,770,904号、および、米国特許公開第2003/0160234号に開示されている。
【0020】
実施形態では、上昇させた温度にて、ポリマーを溶解容器内で液体中に溶解させる。溶解容器内の構成物を撹拌して、ポリマーの溶解を促進してもよい。次に、その構成物を、沈殿容器内の希釈剤に加えることによって、溶解容器内の構成物の濃度および/または温度を下げる。その結果として沈殿容器内に得られた構成物と希釈剤との混合物の温度を、沈殿容器内の希釈剤への構成物の添加と同時またはそれに続くいずれかの時期に、さらに低下させてもよい。たとえば、希釈剤への構成物の添加によって発生した温度上昇を相殺するように、沈殿容器の温度を低下させることが考えられる。沈殿容器内の構成物と希釈剤との混合物を、さらに撹拌することで、十分に小さい粒子が沈殿するよう促すことも可能である。
【0021】
本明細書において、用語「構成物」は、溶解容器内のポリマーと液体との混合物を表す。
【0022】
構成物において、単一または複数種のポリマーは、上昇させた温度にて、液体中に完全または部分的に溶解している。溶解を促進するために、任意で撹拌を実施してもよい。本明細書において用語「撹拌」は、いずれの手段による撹拌をも表す。代表的な撹拌方法としては、たとえば約100〜約5000rpm(例として約300〜1000rpmなど)の範囲内のミキシング速度でのかき混ぜおよび均質化、ならびに、ソニケータワット数がたとえば約100〜約400W(例として100〜200W)の範囲内であってソニケータ振動数(sonicator frequency)がたとえば約20〜約42kHz(例として25〜38.5kHz)である超音波振動などが、例として挙げられる。
【0023】
実施形態において、ポリマーは完全に溶解している場合もある。任意で、不溶解のポリマーを濾過によって除去してもよい。上昇温度にて液体中に溶解したポリマーの量は、液体およびポリマーの総重量に対して、たとえば約0.1重量%から約50重量%までの範囲におよぶことが考えられる。実施形態において、上昇温度にて液体中に溶解したポリマーの濃度は、たとえば約0.1〜約30重量%の範囲であり、例としては約0.2〜約5重量%の範囲である。比較の例では、ポリマー濃度は、0.3〜2.4%の範囲内であった。
【0024】
液体は、たとえば、ジクロロエタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、1,1,2,2−クロロエタン、および、それらの混合物であることが可能である。他の適切な液体を使用することも可能である。
【0025】
上昇させた温度にてポリマーの溶解を促進するために、加熱を、たとえば約1分から約24時間(例として約10分から約4時間)の範囲内の期間にわたって実施する。本明細書において用語「上昇温度(上昇させた温度)」は、室温より高い温度から、選択した液体の沸点またはそれ以上(1気圧またはそれ以上の気圧にて)の温度までの範囲内の温度を表し、それはたとえば約40〜約180℃であり、例として約50〜約120℃である。
【0026】
装置作製のために構成物を上昇温度で使用することが可能であるが、上昇温度での使用は、製造コストの増大を招く可能性がある。したがって、製造コストを低減するには、構成物の温度を低下させる。低下温度(低下させた温度)は、上昇温度より低い温度であればいずれでもよく、たとえば約10〜約60℃や、約20〜約30℃であり、実施形態においては室温である。
【0027】
実施形態においては、構成物の濃度および温度をまず、溶解容器内で上昇させることが考えられる。続いて、別の沈殿容器内で希釈剤を用いて希釈することで、構成物の濃度および/または温度を低下させる。溶解容器内の構成物の濃度はたとえば、ポリマー溶液の約1〜50%であり、例としては0.2〜5%である。そして、沈殿容器内の希釈剤中のポリマー濃度は、たとえば約0〜10%であり、例としては0%である。溶解容器内の構成物の温度は、沈殿容器内の希釈剤の温度に比べて高い。たとえば、溶解容器内の構成物の温度はたとえば約10〜150℃であって、例としては20〜80℃である一方、沈殿容器内の液体の温度はたとえば約−40〜40℃であって、例として−10〜5℃である。
【0028】
希釈剤は、上記液体と同じでも異なっていてもよく、たとえば、ジクロロエタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、1,1,2,2−クロロエタン、および、それらの混合物であることが可能である。他の適切な液体を使用することも可能である。
【0029】
小さい粒子の沈殿を促進するために、低下温度にて構成物を撹拌する。その撹拌は、沈殿容器内での構成物温度の低下工程と同時またはそれに続くいずれかの時期に、開始する。その撹拌は、ゲル化および/または粒子塊状化(agglomeration)を防いで小さい粒子の沈殿を促進するのに十分な期間にわたって継続する。その撹拌期間は、たとえば約5分から約20時間であって、例としては約10分から1時間である。撹拌の強さは、撹拌期間にわたって一定であっても変動してもよい。代表的な撹拌方法としては、たとえば約100rpm〜5000rpm(例としては約300rpm〜1000rpmなど)の範囲内のミキシング速度でのかき混ぜおよび均質化、ならびに、ソニケータワット数がたとえば約100〜約400W(例としては100〜200W)の範囲内であってソニケータ振動数がたとえば約20kHz〜約42kHz(例として25〜38.5kHz)である超音波振動などが、例として挙げられる。
【0030】
実施形態においては、溶解容器内の構成物の体積は、沈殿容器内の希釈剤の体積と同じでも異なっていてもよい。たとえば、(溶解容器内の構成物の体積:沈殿容器内の希釈剤の体積)の体積比は、約1:1から約1:20であって、例として約1:5から約1:15、または約1:10であることが考えられる。したがって、たとえば、溶解容器内の構成物の体積が約1リットルである場合は、沈殿容器内の希釈剤の体積は約1〜20リットルであることが可能であって、例としては約5〜約15L、または約10Lであることが考えられる。もちろん、要求があれば、これらの範囲外の比率を用いることも可能である。実施形態においては、溶解反応器内の構成物を沈殿反応器内の液体に、調節された速度にて加えることが可能であり、必要であれば中断することもできる。
【0031】
実施形態においては、構成物の温度を、上昇温度から、たとえば約10〜約150℃(例として約20〜約80℃)の範囲の温度分だけ低下させる。希釈剤による希釈後、構成物を、たとえば約10分から約10時間(例としては約30分から約4時間)の範囲にわたる期間、低下温度に維持する。
【0032】
本発明の実施形態にかかるプロセスにおいて、ポリマー分子は、撹拌の際に液体中で集まって、構造的規則性を有する(structurally ordered)ポリマー凝集体を形成することがある。ポリマー凝集体は、たとえばナノメータサイズであって、たとえば約10nm〜約500nmであり、例として約150nm〜約300nmである。
【0033】
自己組織化ポリマーを使用した場合、液体中のポリマー凝集体は、実施形態において構造的規則性を示すことがあり、それによって構造的規則性を有するポリマー凝集体が得られる。用語「構造的規則性を有するポリマー凝集体」は、ポリマー分子の凝集体であって、凝集体内で周囲に隣接する分子同士の空間的配向または配列が規則正しい性質を有しているもののことを表す。たとえば、ポリマー分子は、互いにバックボーンが平行になるように整列する場合がある。ポリマーの分子規則化(molecular ordering)における変化を、たとえば吸収分光法、光波分光法、NMR、光散乱法、およびX線回折解析などの分光学的方法や、透過電子顕微法で測定してもよい。既知の例としては、側鎖の整列によってπスタック型の成層構造を形成する、レジオレギュラー(regioregular)なポリ(3−アルキルチオフェン−2,5−ジイル)類が挙げられる。これらのことは、例えば、以下の文献に開示されている:"Extensive Studies on π-stacking of Poly(3-alkylthiophene-2,5-diyl)s and Poly(4-alkylthiazole-2,5-diyl)s by Optical Spectroscopy, NMR Analysis, Light Scattering Analysis and X-ray Crystallography"(「光波分光法、NMR解析、光散乱解析、およびX線結晶学によるポリ(3−アルキルチオフェン−2,5−ジイル)類およびポリ(4−アルキルチアゾール−2,5−ジイル)類のπスタッキングに関する多方面の研究」), 著者 T. Yamamoto 他, J. Am. Chem. Soc. (1998), Vol. 120, pp. 2047-2058。(ポリマー凝集体の)構造的規則性の存在は、たとえば分光法において、吸収スペクトルにおける吸収最大点が長い波長のほうにシフトすると共に、吸収微細構造(たとえば振電スプリッティング(vibronic splitting))が観察されることによって、裏付けられる。実施形態においては、ポリマー凝集体の形成は、吸収分光測定と、透過電子顕微法による直接観察とによって確認された。
【0034】
実施形態においては、構成物は、ポリマー凝集体と液体とを含む分散体であることが可能であり、その分散体は、たとえば1時間未満から1年以上にわたる期間において、安定であることが考えられる。分散体の安定性とは、固相および液相への分離が視認されない状態での明澄性、および/または、撹拌後のある静止状態期間の後における分散体の濾過可能性を表す。
【0035】
実施形態においては、ポリマー分散体の最適な最終状態は、たとえば、0.3%PQT−12およびジクロロベンゼンである。PQT−12(ポリ[5,5’−ビス(3−ドデシル−2−チエニル)−2,2’−ビチオフェン])は、加熱したジクロロベンゼン中に、たとえば約2〜5%などの、0.3%よりかなり高い濃度で溶解可能である。PQT−12の完全な溶解は、60〜80℃にて達成される。
【0036】
実施形態において、本発明のプロセスは、電子装置内に半導体層を形成する必要性がある際にいつでも使用することができる。用語「電子装置」は、マイクロおよびナノ電子装置を表し、たとえば、マイクロサイズまたはナノサイズのトランジスタやダイオードが含まれる。代表的なトランジスタとしては、たとえば薄膜トランジスタが挙げられ、特に有機電界効果トランジスタが挙げられる。ただし、本プロセスは、電子装置の製造においてだけでなく、ポリマーナノ分散体の作製を要するいずれの工程においても使用することができる。
【0037】
以下に、実施例を示す。実施例は、本発明を実施するのに使用可能な種々の構成物および条件を例示するものである。全ての比率は、特に指定がない限り重量によるものである。本発明は、多様な構成物を用いて実施可能であり、多数の異なる用途を有することが、上記記載および以下の説明により明らかである。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
以下の実施例では、例として、構造式(11)を有するポリチオフェンを使用した。
【0039】
ポリチオフェンの合成:塩化鉄(III)132gとクロロベンゼン1100mLとを5Lガラスジャケット付き反応器に投入する。Nブランケットおよびかき混ぜを開始する。上記の第4級チオフェン110gとクロロベンゼン3300mLとの溶液を調製する。この溶液を、5分間かけて、添加用漏斗を用いて反応器に加える。ジャケットの設定値を約66〜67℃に設定して、温度を65±0.5℃に維持する。設定値を必要に応じて調節して、温度が可能な限り65℃の近くに維持されるようにする。65℃状態を48時間維持する。48時間後、構成物を室温まで冷却させる。
【0040】
粗ポリマー加工処理(work-up):入手可能な器具のサイズに合わせて、以降の工程では、構成物を4等分する。構成物1部に、クロロベンゼン2LとDIW(脱イオン水)1.5Lとを加えて、機械的にかき混ぜつつ58℃に加熱する。その反応混合物を、6L分液漏斗に注ぎ、よく振り動かし、5分間分離させる。酸性の水相を安全に捨てる。残った有機相をDIW1.5Lと共に、60℃に設定された浴に連結された5Lガラスジャケット付き反応器に再投入し、かき混ぜながら58℃まで加熱する。6L分液漏斗に注いで、水相と有機相とに分離させる。DIW1.5Lによる洗浄を、明澄かつ無色になるまで繰り返す(通常、全部で7回)。濾液のpHを測定して捨てる。水酸化アンモニウムの水溶液62.5mLを、DIWで1.5Lにまで希釈することによって水性NHOHを調製する。この水性NHOHを用いて、クロロベンゼン/ポリマー溶液を洗浄する。塩基性の水性廃棄物は、安全に捨てる。DIW1500mLによる洗浄を再び実施し、その際、各洗浄後にpHを測定し、濾液が透明かつ無色でpH7±1になるまで繰り返す。それには通常、NHOHによる洗浄後に4回洗浄する必要がある。
【0041】
ポリマー回収:ジャケット温度を60℃に設定し、5L反応器内で有機相を窒素下で58℃まで再加熱する。機械的撹拌が実施可能な10Lペール(バケツ)に、メタノール3.1Lを投入する。高温のポリマー/クロロベンゼン溶液を、温度を50℃より高く保ちつつ分液漏斗に注ぐ。メタノールの機械的撹拌を開始した後、高温のポリマー/クロロベンゼン溶液を、分液漏斗からゆっくりと約20分間かけて加えることで、粗ポリマーを含む紫色のスラリーを得る。それを沈殿させ(または遠心分離し)た後、18cmブフナー漏斗(#30ガラスファイバ濾紙)で濾過して、粗ポリマーを回収する。濾過後、フィルタ上でメタノール200mLで3回洗浄した後、メタノール1L中に加えて再度スラリーにし、またフィルタ上でメタノール200mLを用いて3回洗浄する。真空オーブン内で20〜50℃の温度にて、少なくとも24時間から48時間乾燥させる。上記工程を、4等分したもののうち、第2、3、および4部に対しても同様に繰り返す。収量は103.3gで、収率93.9%である(典型的には90〜92%)。さらなる精製はしなかった。
【0042】
[比較例1]
以下の対照例では、上記実施例1と同様の調合および調製条件で生成されたPQT−12ポリマーを用いる。PQT−12ポリマー0.6gを、1,2−ジクロロベンゼン200gと混合することによって、ナノ分散体を作製する。その構成物を250mL三つ口丸底フラスコに投入し、加熱マントルを使用し、かつ1SCFHのN雰囲気を実現し、機械的にかき混ぜる。構成物を75℃に維持し、300rpmで1時間撹拌することで、完全な溶解が達成される。
【0043】
1時間後、溶液は透明であり、赤さび色である。加熱マントルを取り外し、その代わりに−5℃に予冷された超音波浴を用いる。構成物をかき混ぜつつ、その低温超音波浴に容器を浸すことで、構成物は2〜3分間内に室温まで冷却する。続いて、構成物を15分間、室温より低い状態で音波処理しつつかき混ぜる。
【0044】
そのバッチを、GF/F(孔サイズ0.7μm)ガラスファイバ製濾紙が装填された500mL・SS・300mL・加圧濾過器(500ml SS 300ml pressure filter)で濾過し、濾液を回収してこはく色のガラス瓶内にN下で保管する。
【0045】
得られた分散剤の移動度は、0.07cm/Vs(平方センチメートル毎ボルト毎秒)より大きい。
【0046】
[実施例2]
本発明による規模変更可能な新たなナノ分散体の製造方法では、溶解容器内でPQT−12ポリマー0.6gと1,2−ジクロロベンゼン150gとを使用し、沈殿容器内で1,2−ジクロロベンゼン50gを使用する。PQT−12ポリマーは、上記実施例1と同様の調合および調製条件で生成されたものである。構成物を250mL三つ口丸底フラスコに投入し、加熱マントルを使用し、かつ1SCFHのN雰囲気を実現し、機械的にかき混ぜる。構成物を75℃に維持し、300rpmで1時間撹拌することで、完全な溶解が達成される。続いて、ジクロロベンゼン50gを、第2の250mL三つ口丸底フラスコ(すなわち、沈殿容器)に投入し、それを超音波浴に浸し、氷を加えることで約−2℃まで冷却する。この低温溶媒(cold solvent)を、1SCFHのN下で300rpmにて撹拌する。
【0047】
1時間後、溶解容器内の溶液は透明であり、赤さび色である。続いて、構成物を溶解容器から沈殿容器へ約10mL/分にて移し、その間にも撹拌および超音波処理を実施する。移す速度は、約15分間かけて添加が完了する程度である。沈殿容器の内部温度は、10℃を超えてはならない。移した後、構成物をさらに10分間かき混ぜることで、温度を約22℃まで上げる。
【0048】
続いて、分散体を、GF/F(孔サイズ0.7μm)ガラスファイバ製濾紙が装填された500mL・SS・300mL・加圧濾過器で濾過する。濾液は、回収してこはく色のガラス瓶内にN下で保管する。移動度は、0.07cm/Vsより大きい。
【0049】
[実施例3]
この例では、本発明による規模変更可能な方法を8倍に拡大した態様について説明する。溶解容器内でPQT−12ポリマー4.8gと1,2−ジクロロベンゼン200gとを使用し(2.4%(wt/wt))、沈殿容器内で1,2−ジクロロベンゼン1400gを使用する。PQT−12ポリマーは、上記実施例1と同様の調合および調製条件で生成されたものである。構成物を250mL三つ口丸底フラスコに投入し、加熱マントルを使用し、かつSUCHのN雰囲気を実現し、機械的にかき混ぜる。構成物を75℃に維持し、300rpmで2時間撹拌することで、確実に完全に溶解させる。続いて、ジクロロベンゼン1400gを、3L三つ口丸底フラスコ(すなわち、沈殿容器)に投入し、それを超音波浴に浸し、浴に氷を加えることで約−2℃まで冷却する。この低温溶媒を、1SCFHのN下で250rpmにて撹拌する。
【0050】
2時間後、溶解容器内の溶液は透明であり、赤さび色である。続いて、構成物を溶解容器から沈殿容器へ約10mL/分にて移し、その間にも撹拌および超音波処理を実施する。移す速度は、約20分間かけて添加が完了する程度である。沈殿容器の内部温度は、10℃を超えてはならない。移した後、構成物に超音波処理を続けながら、さらに20分間かき混ぜる。濾過前の温度は、10℃未満である。
【0051】
続いて、分散体を、GF/F(孔サイズ0.7μm)ガラスファイバ製濾紙が装填されたSS300mL加圧濾過器で濾過する。濾液は、回収してこはく色のガラス瓶内にN下で保管する。移動度は、0.072cm/Vsである。
【0052】
【表1】

【0053】
上記各例では、同様の粗ポリマーと同様の溶媒とを用いている。表1では、比較例1、実施例2、および実施例3の、粒子サイズ(Nicompによる)および移動度を比較している。比較例1の濾液は、簡単に濾過され、移動度が0.068〜0.08cm/Vsである。比較例1の一次粒子径は、10〜20nm(Nicompによる)である。実施例2の分散体は、簡単に濾過され、移動度が0.076〜0.094cm/Vsである。実施例2の一次粒子径は、10〜20nm(Nicompによる)である。実施例3の分散体は、簡単に濾過され、移動度が0.072〜0.086cm/Vsである。実施例3の一次粒子径は、10〜20nm(Nicompによる)である。このように、実施例2および実施例3の粒子は、対照例(比較例1)と同様の粒子サイズを有し、かつ、より高い移動度を示す。また、比較例1はそれ以上の規模では実証されていないところ、実施例2および実施例は規模をおおいに変更できる。
【0054】
比較例1は、対照例である。その移動度、粒子サイズ、およびコーティング特性は、PQT−12粒子分散体において典型的なものである。その調製プロセスは、上記より大きい規模に拡大した場合には、成功していない。容器を単に冷却音波処理浴内に浸すだけでは、8L以上の分散体を2〜3分間で75℃から21℃以下まで冷却することは不可能だと推定できるので、その場合の分散体は、濾過不能で移動度が低いと予測される。それに対し、よいナノ分散体が得られるのは、ポリマーを所望温度まで瞬時に冷却できるからだと考えられる。
【0055】
実施例2において、コーティング特性、粒子サイズ、および粒子移動度は、対照例と比べて同等か、若干優れていた。したがって実施例2は、高い移動度のPQT−12ポリマー分散体の作製に必要な特徴を維持したままの方法であって、かつ、規模拡大可能な方法を示す。実施例2では、高温ポリマー溶解物中の溶媒の多くの部分は、最適な冷却条件下にはあらず、そのことは、理想より悪い条件でも本方法が成功することを実証している。理想的条件には、沈殿容器内でより大きい体積の追加液体を使用することや、たとえば0.6%〜3%などのより高濃度のポリマー溶液を使用することなどが含まれる。このような条件下では、冷却能力が最適になり(すなわち、最速かつ最低温の沈殿条件が得られ)、最小可能粒子サイズおよび最大移動度が実現される。
【0056】
実施例3において、コーティング特性、粒子サイズ、および粒子移動度は、対照例と比べて同等か、若干優れていた。したがって実施例3は、規模拡大可能な方法であって、高い移動度のPQT−12ポリマー分散体の作製に必要な特徴を維持したままの方法であることを示す。この例では、ポリマー溶液は、かなり高濃度である。実施例1では、1,2−ジクロロベンゼン全量を用いて溶解を実施しており、ポリマー濃度は0.3%(wt/wt)である。それに対して実施例2では、1,2−ジクロロベンゼン総量の75%のみで溶解を実施しており、残りを沈殿に使用しているので、この例での溶解物は0.4%(wt/wt)ポリマーである。さらに実施例3では、溶解には、1,2−ジクロロベンゼン総量のたった12.5%のみを使用しており、残りは沈殿容器内で使用する。この例における溶解物のポリマー濃度は、2.4%である。このように溶解物がより高濃度であることによって、より大部分の1,2−ジクロロベンゼンを沈殿容器内で使用できる。このことは、規模拡大にとって、高温ポリマー濃縮物の希釈剤に対する比率が小さいことによって沈殿容器の冷却により少ないエネルギしか必要としないという点において、重要な利点である。バッチサイズが大きくなるにつれて、より大きな反応器を冷却(または加熱)するのにかかる時間は長くなるので、この特徴は決定的に重要である。このように、低温の1,2−ジクロロベンゼンに蓄積されたエネルギで十分に、溶解工程からの熱をすべて放散させることができる。したがって、迅速な熱除去における制限要因は、この例において克服され、サイズがとても小さいナノ分散体の生成が可能になる。規模拡大において唯一残った阻害要因は、プロセスに必要な超音波処理装置のサイズであるが、そのような大規模な音波処理装置は、今日の産業界では一般的に使用され広く入手可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)液体とその液体中に溶解したポリマーとを含む構成物を作製し、その構成物中にポリマー分子が溶解した状態を得るステップであって、その溶解は溶解容器内で実施される、ステップと、
(b)前記構成物中の溶解ポリマー分子の溶解性を増大させて、前記構成物中の溶解ポリマーの濃度を、前記ポリマーおよび前記液体の総重量に基づいて約0.1〜約30%の範囲にまで上げるステップであって、前記構成物中の前記溶解ポリマー分子の前記溶解性の増大は溶解容器内で実施される、ステップと、
(c)希釈剤を用いて前記構成物中の前記溶解ポリマー分子を希釈するステップであって、前記構成物中の前記溶解ポリマー分子の希釈は、沈殿容器内で前記希釈剤に前記構成物を加えることによって実施される、ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
(a)溶媒とその溶媒中に少なくとも部分的に溶解したポリチオフェンとを含む構成物を作製し、その構成物中にポリチオフェン分子が溶解した状態を得るステップであって、その溶解は溶解容器内で実施される、ステップと、
(b)前記構成物の温度を上昇させること、または、前記構成物を撹拌することによって、前記構成物中の溶解ポリチオフェン分子の溶解性を増大させて、前記構成物中の溶解ポリチオフェンの濃度を、前記ポリチオフェンおよび前記溶媒の総重量に基づいて約0.2〜5%の範囲にまで上げるステップであって、前記構成物中の前記溶解ポリチオフェン分子の前記溶解性の増大は溶解容器内で実施される、ステップと、
(c)前記構成物に希釈剤を加えることで前記構成物を希釈および/または冷却するステップであって、その希釈は沈殿容器内で実施され、前記希釈剤は前記溶媒と同じ化合物から成る、ステップと、
を含む方法。

【公開番号】特開2008−144172(P2008−144172A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318421(P2007−318421)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】