説明

ポリマー合成のためのシステムおよび方法

本発明は、ポリマー構築ブロックを連続して添加することにより、ポリマー鎖を固体基板の上に合成するための自動化されたポリマー合成装置、並びに、ポリマー構築ブロックを反応基と連続して反応させることにより、ポリマーを固体基板の上に合成するための方法に関するものである。さらに、本発明は、複数の反応基を有する固体基板を一つ備え、そこに生体分子を付着させ、残りの反応基を化学的に不活性な化学種に変換する、バイオチップに関するものでもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一に、ポリマー構築ブロックを連続して添加することにより、ポリマー鎖を固体基板の上に合成するための自動化されたポリマー合成装置に関するものであり、第二に、ポリマー構築ブロックを反応基と連続して反応させることにより、ポリマーを固体基板の上に合成するための方法に関するものである。さらに、本発明は、複数の反応基を有する固体基板を一つ備え、生体分子を該反応基に付着させた、パイオチップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、ポリマー合成、特にオリゴヌクレオチドやポリペプチドのポリマー合成の分野において、有益なシステムへの需要は、増加の一途をたどっている。この目的のために、様々な合成方法が開発されてきた。中でも群を抜いて重要な二つの合成方法は、i)光化学合成とii)そのようなポリマーを合成する「従来の」化学合成法である。どちらの方法にも、所望のポリマーの構築ブロックの官能基の少なくとも一つを、後に該構築ブロックを反応させることにより変換し、そのポリマーを形成するという過程がある。
【0003】
構築ブロックの官能基(通常は末端OH基)は、複数の中間の保護基により一時的に保護され、該中間の保護基は、適切な試薬により処理すれば切断されるものである。このような保護基は通常、例えばDMT(ジメトキシトリチル)やその誘導体のような、酸に不安定な基か、例えばNPPOC(2−ニトロフェニル−プロピルオキシカルボニル)のような、光に不安定な基である。
【0004】
このような保護基を多様化するために、多大な努力がなされてきた。例えば米国特許第6222030号明細書が記載しているのは、3’−5’オリゴヌクレオチドにおいて炭酸塩で保護したヒドロキシル基を用いることである。
【0005】
どちらの合成法も、in−situ合成またはex−situ合成で応用可能である。In−situ合成が望ましいことが多いのは、その方が、異なるポリマー鎖や同じポリマー鎖をそれぞれの基板の上に直接、容易に構築することができるからであり、しかも、そのような単数または複数のポリマー鎖を基板の上に後で固定する必要がないからである。
【0006】
業界で知られている数々の合成方法のうちの圧倒的多数において用いられているのは、ポリマー鎖を構築するべき反応部位を精密に規定するための、高性能の設備である。そこに含まれるもののうち、特筆に値するのが、光化学合成方法のために複数のマスクや多数のマイクロミラーを用いているということである。
【0007】
従来の「湿式化学」を用いる化学合成方法は、合成が行われる装置の材質を低下させることが多い強塩基を用いることによって引き起こされる問題がある。
【0008】
上記の方法の主な欠点の一つは、反応に用いられる基板の性質である。ほとんどの場合、スライドガラスやシリカやケイ素の材料が用いられており、該材料の表面にはヒドロキシル基が含まれているが、そこに第一のポリマー構築ブロックを様々な手段で付着させることができる。(剛直性、脆弱性などの)ガラスの欠点を克服するために提案されてきたのは、官能化が可能な材料でそのガラス基板をコーティングするか、プラスチック基板を用いることである。
【0009】
米国特許第6258454号明細書が開示するのは、(スライド)固体ガラス担体の上の、低い表面エネルギーで官能化した表面であり、それは、その表面の上に親水性の部分をもつスライドガラスを、シラン混合物を含む誘導体化組成物で処理することによるものである。最初のシランが、表面エネルギーを希望通りに減少させる一方で、第二のシランは、最初のモノマーのような目的の分子部分での官能化を可能にして、それをオリゴマーの固相合成で用いることができるようにする。
【0010】
米国特許第6146833号明細書が開示するのは、生体高分子固定化のための試薬、それを調製するための方法、および、それらを引き続き、分析目的と診断目的のための生体高分子の固定化に用いることである。そこで開示された試薬は、ポリマー材料で作られた固体担体を含んでおり、そのポリマー材料には、ペンダントフッ化アシル官能基を備えた表面が少なくとも一つある。その固体担体に含まれ、かつその材料となっているのは、ポリマー物質であって、該ポリマー物質に含まれているのは、エチレンアクリル酸コポリマーかエチレンメタクリル酸コポリマー、および活性ポリプロピレンである。生体高分子を、そのポリマー担体の表面に直接付着させることができないのは、導入するのが厄介なリンカー基を必要とするからである。
【0011】
業界で既知の自動合成方法において直面するさらなる問題は、高密度アレイの合成におけるブルーミングである。
【0012】
米国特許第6184347号明細書が開示する洗浄試薬は、高密度ポリマーアレイの表面のまとめ洗いをするために用いられて、そのアレイのセルから未反応のポリマー構築ブロックを除去する一方で、それと同時に、その未反応のモノマーと反応することによって、そこで反応したモノマーが、その反応性のモノマーをアプライする表面の領域外のHDAの表面にある官能基と反応するのをくい止めるものである。それゆえ、高密度ポリマーアレイの表面にアプライされた液滴がブルーミングすることは最小限に抑えられる。その反応性洗浄溶液は、メタノールであることが望ましい。
【0013】
他に選びうるもう一つの方法は、規定の大きさの細孔内でポリマーを合成することである。米国特許第6277334号明細書が開示しているのは、化学種や分子ライブラリーを自動的に効率的に合成するための化学反応装置、材料、および方法である。オリゴマーと分子ライブラリーは、多孔質基板の細孔内で合成される。その反応が起こるのは、基板の微小細孔の中である。
【0014】
さらに、アレイを用いてポリマーを合成するための様々な装置および方法が、業界では提案されてきている。
【0015】
米国特許第5472672号明細書が開示しているポリマー鎖を構築するためのポリマー合成装置は、ノズルの一つ一つが液状試薬のタンクと結合されている、ノズルアレイを有するヘッドアセンブリと、反応部位のアレイを有するベースアセンブリとを含む。特定のポリマー構築ブロックに用いられる試薬を伴うノズルの真下に基板を配置するためには、様々な輸送機構が必要となる。
【0016】
米国特許第5474796号明細書から得られるのは、特にオリゴヌクレオチドおよびポリペプチドを合成するために、担体の表面の上に官能化した結合部位のアレイを作るための装置および方法である。アレイの親水性箇所は、基板の表面上の疎水性の領域で取り囲まれる。モノマーのポリマー構築ブロックを含むその溶液は、その親水性反応部位にアプライされるが、周りが疎水性であるため、隣接する反応部位とは混ざり合うことはない。
【0017】
米国特許第5529756号明細書にはさらに、ノズルの一つ一つが液状試薬のタンクと結合されている、ノズルアレイを有するヘッドアセンブリと、反応槽のアレイを有するベースアセンブリとを含む、ポリマー鎖を構築するためのポリマー合成装置が開示されている。その基板を、選択した薬剤を含むノズルの下に配置するためには、基板の様々な輸送機構が必要となる。さらに、各ノズルが一本ずつその液状試薬のタンクに結合されるため、設備が全く複雑なものになってしまう。
【0018】
基板の表面にアプライする液状試薬を蒸発させることで生じるさらなる問題は、米国特許第6177558号明細書によって開示されている課題である。固相合成の最中に、あるいはミクロスケールの合成において生じる液状試薬の蒸発は、反応性の化学成分で官能化される結合部位を少なくとも一つ含む、開放された固体担体の表面を設けることにより、減らされる。しっかりと制御した極めて微量の液状試薬溶液を、その担体の表面の上に載せる。その試薬溶液は、少なくとも一つの、比較的沸点が高い溶媒に含まれた反応物質を含み、該溶媒は好適には、沸点が少なくとも約140℃の、極性がある、非プロトン性の溶媒であり、また、ジニトリル、グリム、ジグリムなどから成るグループから選択される。
【0019】
米国特許第6419883号明細書で提案されているのは、沸点が150℃以上、表面張力が30ダイン/cm以上、そして粘性が0.015g/cm/秒の溶媒を含む溶液の微細な液滴を用いることである。好ましい溶媒は、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレンカーボネートまたはγ−ブチロラクトンを含むものである。さらにこの米国特許が開示するのは、オリゴマーの合成中に一つ以上の基板を処理する能力がある自動化システムであって、該システムを構成するのは、基板の上に化学種を含む微小液滴を吹きつけるインクジェット・プリント・ヘッドと、そのプリント・ヘッドに隣接した基板を走査して、特定の部位にその微小液滴を選択的に載せる、走査用輸送器と、その基板を一つ以上の選ばれた流体にさらすことにより、微小液滴を載せた基板を処理するためのフロー・セルと、その基板をプリント・ヘッドとフロー・セルとの間を移動させることによりフロー・セルの中で処理を行うための処理用輸送器とであり、従って、処理用輸送器と走査用輸送器とは別個の要素である。この文献によるシステムには、極めて精巧な装置が必要である。
【0020】
ポリマー、特に生体高分子を自動的に合成する上で直面する依然として未解決の問題があり、それは、反応が進むのは、一種のポリマー構築ブロックに活性剤を添加する場合に限るという場合が多いということである。活性剤をポリマー構築ブロックに添加した後で、その混合物を外部のタンクに収納する。しかしながら、その混合物の寿命は短くて限られたものでしかなく、数分以内にその成分の劣化が起きる。それゆえ、その混合物は、長期にわたる合成サイクルには使用できず、無駄になってしまう。使用される試薬は通常、高価なものなので、この試薬の無駄は、これらのポリマーを合成するための全般的なコストを上げることになってしまう。前もって混ぜ合わせた活性剤/構築ブロック溶液が分解しないようにするために、反応部位に載せられることになるポリマー構築ブロックからなる一種の液滴と、活性剤からなる一種の液滴とを、二つの別個のノズルから同時に吹きつけることが提案されている。これでは、様々なタイプのノズル、管、および制御装置などを付けることになって、設備が不必要に複雑なものになってしまうことになる。反応部位における反応が不完全なものになってしまうことが極めて頻繁にあるが、それは、それぞれが活性剤およびポリマー構築ブロックからなる二つの別個の液滴を混合したものを、直接に該反応部位に存在させても、完全には混じり合わないままであり、均質でもないからである。
【特許文献1】米国特許第6177558号明細書
【特許文献2】米国特許第6419883号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
それゆえ、本発明の目的は、取扱の容易な設備を備え、長期にわたる保存で試薬が劣化して無駄を生じたりしないような、自動化されたポリマー合成システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この問題は、本発明によって、ポリマー構築ブロックを連続して添加することにより、ポリマー鎖を固体基板の上に合成するための自動化されたポリマー合成システムにより解決されるが、該システムを構成するのは、ポリマー構築ブロックを含む微小液滴の発生を制御するために複数のノズルを備えたインクジェット・プリント・ヘッドと、該プリント・ヘッドに隣接する位置に、さらに微小液滴を流体と共に載せた基板を処理するための処理装置に隣接する位置に、基板を動かすための輸送手段と、プリント・ヘッドに隣接し、その中でポリマー構築ブロックと活性剤を反応の直前に混合する微小混合容器とであり、それにより該微小混合容器には、一回の反応手順で反応させる分量の構築ブロックしか入らない。
【0023】
プリント・ヘッドに隣接して配置される微小混合容器には、驚くべき長所があり、それは、反応させるためのポリマー構築ブロックの正確な分量のみを、反応の直前に活性剤と混ぜ、その反応中に完全に使い切るということである。それゆえ、ポリマー構築ブロックと混合した活性剤を含む溶液は、その反応が完了した後に無駄にならず、試薬が劣化することも避けられる。本発明のさらに特に望ましい実施態様においては、該システムには各構築ブロック一つ一つに微小混合容器が一つあり、それにより、段階的にポリマーを合成する間、各手順でそれぞれ異なる構築ブロックに必要とされる正確な分量だけの試薬を生じさせることができ、しかも、その構築ブロックを取り替える時に不純物が微量に残ることも避けられる。
【0024】
ここで用いられている「隣接する」という用語が意味するのは、微小混合容器が空間的にインク・ジェット・プリント・ヘッドの近傍にあり、かつインク・ジェット・プリント・ヘッドと例えば管を介して連結されている、あるいは、微小混合容器が、インク・ジェット・プリント・ヘッドの一部か不可分の一部であり、かつ、固相フィルター・フリット、隔膜その他を介して該ヘッドまたはノズルから分離することが可能だということである。
【0025】
「一回の反応手順」という用語は、ポリマー構築ブロックを少なくとも一つ、好適には活性剤との溶液の形で、単数または複数の反応部位に添加することを意味するが、そこでは、ポリマー構築ブロックを用いてそれぞれのポリマーを段階的に合成する上での、一つのステップが実行される。
【0026】
特に望ましい実施態様においては、該システムの要素全てを直線的に(一次元に)配置し、それにより、輸送手段が基板を一方向にしか輸送できないようにしている。このことは、複雑な方向制御手段を有さずに複数の微小液滴を載せることを可能にする。
【0027】
ポリマー構築ブロックを活性剤と混合させるのは、単に(通常は溶液の状態の)両方の成分を微小混合容器に、攪拌しつつ、あるいは攪拌なしで、添加することによって行うのが一般的である。
【0028】
言うまでもなく、複数のインク・ジェット・プリント・ヘッドを用いることも、本発明の範囲内で可能である。
【0029】
本発明のさらに驚くべき長所は、複数の微小液滴を基板の上のあらゆる方向に載せるために必要とされるのは、基板を動かすための一種類の輸送手段だけであるということである。
【0030】
さらに望ましい実施態様においては、複数のノズルが、インク・ジェット・プリント・ヘッド上に直線的に配置されている。その直線的配置により、さらなる制御手段を必要とすることなく、複数の微小液滴を一直線に載せることを簡単に行うことができる。さらに、インク・ジェット・プリント・ヘッドを一方向に動かしさえすれば、同時に膨大な数の微小液滴を生じさせることができる。
【0031】
本発明のさらに望ましい実施態様においては、インク・ジェット・プリント・ヘッドの各ノズルは選択的に供給可能である。それゆえ、それらの構築ブロックの数および性質が異なる複数のポリマーを作ることは、先行技術のシステムで行うよりもかなり容易になっている(構築ブロックは「シントン」という用語で呼んでもよい)。さらに望ましいのは、インク・ジェット・プリント・ヘッドが、複数のノズルの各ノズルと流体接続しているタンクを具備していることである。このことによりシステムの設備が単純なものになるのだが、なぜなら、先行技術においては各ノズルをタンクと接続しなければならず、したがって、さらに精巧な制御手段と設備が必要となるからである。既に前述して説明しているように、本発明による微小混合容器に入るのは、各反応手順で使用されることになる活性剤とポリマー構築ブロックとからなる液体の分量だけである。このことにより、化学反応を起こすのに必要とされる正確な量だけを用いることが可能になる。
【0032】
好適には、ポリマー構築ブロック一つからなる各タンクを、別個のインク・ジェット・プリント・ヘッドにつないで、インク・ジェット・プリント・ヘッドが汚染されるのをふせぐようにする。
【0033】
特に望ましい実施態様の一つにおいては、システムの要素全てを回転ドラム一つの中に配置している。このような回転式の配置に必要なのは、単数または複数の基板を一方向に移動させるということだけであり、それにより、加速も減速もしないで、単数または複数のインク・ジェット・プリント・ヘッドの下または上に配置した基板を、繰り返し、制御しやすい形で、通過させることができるようにする。さらに、このような配置により、さらなる装置(例えば、追加のインク・ジェット・プリント・ヘッド等のような、追加されたポリマー構築ブロックのためのモジュール)をいつでも望む時に簡単に追加することができるが、このことは、システムの要素を直線に配置して用いる場合にはずっと複雑になってしまうものである。
【0034】
通常は、ポリマー、特に生体高分子の合成は、基板上の所定の不連続領域(スポット、ロケーション)のアレイで行われるものである。このような不連続領域は互いに孤立しており、エッチング、障壁の形成、マスキングなどにより、あるいは試薬を表面に載せることにより設定してよい。しかしながら、先行技術においては、いかなるシステムおよび方法も、まず、そのような不連続の孤立した領域を作らなければならず、その後で、これらの不連続領域で生体高分子を段階的にin−situ合成するための第一の反応手順を開始するようになっている。これが欠点の最たるものである、というのは、そのような不連続領域の幾何を、インク・ジェット・プリント・ヘッドにおけるノズルの配置の幾何に合わせて行わなければならず、それは、面倒で効果の薄いものであり、アレイの設計における変化が厳しく制約されることになる。
【0035】
それゆえ、本発明のさらなる目的は、特に構造を設けていない基板の表面上でポリマーを合成するための方法で、反応部位のアレイを思いのままに作ることができ、アレイの幾何を変化させることのできる方法を提供することである。
【0036】
このようなさらなる目的を達成するのが、複数の反応基を含むポリマー構築ブロックを連続して反応させ、但し、少なくとも一つの反応基は除去可能な保護基で保護されるようにして、反応性の表面を有する固体基板上でポリマーの合成を行うための方法であり、その方法は、
a)複数の官能基を備えるポリマー表面を調製し、
b)前記表面の上に、第一のポリマー構築ブロックからなる第一の微小液滴をアプライし、
c)第一のポリマー構築ブロックをポリマー表面の官能基と反応させて、第一のポリマー構築ブロックをポリマー表面に付着させ、
d)該付着したポリマー構築ブロックの保護基を除去し、
e)前記第一の微小液滴の上に、第一のポリマー構築ブロックとは異なる、あるいはそれと同じ、第二のポリマー構築ブロックからなる第二の微小液滴をアプライし、
f)前記第二のポリマー構築ブロックを、第一のポリマー構築ブロックの脱保護した反応基と反応させ、
g)必要に応じて手順d)−f)を連続して繰り返す、
という手順からなる方法であり、
手順c)の後で、ポリマー表面の未反応の官能基は、化学的に不活性の化学種に変換される。
【0037】
本発明による方法により、前記官能化された表面の上に載せた第一の微小液滴を反応させて微小スポットを形成することにより、特定の反応部位のアレイを、空間的な位置を定め、作ることができる。言い換えれば、第一の微小液滴の大きさにより、ポリマー鎖が生成される、空間的に限定された反応部位(スポット)を定めるということである。残りの反応性表面の基を化学的に不活性な化学種に変換すること(不可逆的に「表面にキャップをしてしまうこと」)により、分離した、はっきりと区別できる複数のスポットで、特定の反応部位のパターン(アレイ)を作ることができる。本発明による方法の利点の一つは、完全に構造を排除した「空の」基板表面の上でも、予め構造を設けた反応部位におけるin−situ合成を開始する前に、その表面に構造を設ける必要なく、意図的に選択可能な幾何を備えたアレイを作ることができるということである。本発明による方法で作られたスポットは、不連続の位置であり、化学的不活性で、好適には機械的にも不活性な領域で隔てられている。しかしながら、96ウェルマイクロタイタープレートなどのような所定のスポットのアレイがない、幾何的に前もって構造を設定した表面も、本発明の方法の範囲内で使用可能である。
【0038】
「化学的不活性」という用語の意味は、化学種を、他の化学薬品、溶液に晒し、電磁波照射や熱に暴露しても、化学反応を起こさないということである。特に望ましい実施態様においては、化学的に不活性な化学種は、ひっかきなどに対して機械的にも不活性である。
【0039】
本発明に関連した「ポリマー」や「ポリマー表面」という用語は、基板の表面を形成する有機ポリマー化学種および無機ポリマー化学種が存在するという含みがある。言う迄もなく、ガラス(SiO)もまた無機ポリマーという用語の指す範囲に含まれている。無機ポリマーの例をさらに挙げると、重合化した有機ケイ素化合物、ケイ素窒素化合物なども含まれる。言う迄もなく、基板はすべてポリマーでできていてもよいし、または、基板は、層やコーティングなどとして用いられるか基板の製造過程で作られるものである、基板のポリマー表面とは別の材料で作られていてもよい。
【0040】
第二、第三などのポリマー構築ブロックからなる次の微小液滴を反応部位にアプライすると、第一の反応手順において規定された反応部位においてのみ、ブルーミングを生じる危険もなく、反応する。好適には、第一の微小液滴の直径は、10μmから300μmである。言う迄もなく、第二のポリマー構築ブロック(およびその後用いる全てのポリマー構築ブロック)は、同じものでも、違うものでもよい。
【0041】
特に好適には、第一の微小液滴の直径は第二の微小液滴の直径よりも小さく、それにより、第二のポリマー構築ブロックからなる第二の微小液滴が、第一の微小液滴の中に含まれる第一のポリマー構築ブロックと完全に反応することが可能になっている。さらに好適には、連続する、即ち第三、第四、その他の液滴は、全て第二の液滴の大きさである。第一と第二以降の液滴の間でサイズの違いがあるということの利点は、反応部位における反応を不完全なものにしかねない、基板の輸送手段または単数もしくは複数のプリント・ヘッドの移動を制御する制御手段の機械的不正確さが、各反応手順の結果および収率に、全く影響しないか、少なくとも計測可能な影響を与えないということである。
【0042】
本発明のさらに望ましい実施態様においては、適切な薬剤を未反応の表面の官能基と反応させて得られる化学的に不活性な化学種は、リンを含んでいる。特に好適には、リンを含む薬剤が、表面上の反応性官能基との反応においてリン酸基を形成する。そのようにして得られた反応生成物は、第一の微小液滴の位置によって規定される反応部位(スポット)間に、不活性な、特に化学的に不活性な表面を形成する。他のもう一つの望ましい実施態様においては、反応部位の周囲に不活性かつ疎水性の区域を生成するペルフルオロ化したリン誘導体を用いる。疎水性の有利な効果は、第二以降の液滴が、非疎水性の部分、即ち基板のスポットに集められることになるということである。また、ブルーミングも効果的に防止される。
【0043】
好適には、ポリマー表面は基板の不可分の一部を形成するが、例えば、ポリマー薄膜が、他のポリマー、ケイ素、ドープトシリコン、窒化ケイ素などの他の素材でできた基板を覆っていることも可能である。
【0044】
別の望ましい実施態様において、ポリマー表面は有機ポリマーでできている。ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリエステルなどのような有機ポリマーは取り扱いやすく、操作しやすい。さらに、それらを、それぞれの化学的および物理的特性に応じて特定して選択し、化学的に不活性なポリマー材料を作り出すこともできる。
【0045】
特に望ましい実施態様において、有機ポリマー表面を構成する反応基は、ヒドロキシル基、アミノ基、NRH基、およびチオール基の中から選んだものである。これらの基は、反応基とポリマー構築ブロックとの間に、化学結合、特に共有結合を形成することにより、ポリマー構築ブロックと反応しやすくするものである。
【0046】
好適には、ポリマー構築ブロックは、ヌクレオシド、ヌクレオチド、例えば、20個までのヌクレオシドを含むオリゴヌクレオチド、またはアミノ酸、またはオリゴペプチド、または炭水化物の成分であることが望ましい。それゆえ、本発明による方法は、多数の様々なポリマー、特に生体高分子の合成に用いて成功をおさめることのできるものである。
【0047】
本発明による方法において特に望ましいのは、手順b)に先立ち、テトラゾール、メチルチオテトラゾールまたはエチルチオテトラゾールなどを、第一のポリマー構築ブロックと混合することである。しかしながら、本質的に当業者に知られているような活性剤なら、他のどのようなものでも使用可能である。該活性剤は、ポリマー鎖を構築するための二つのポリマー構築ブロックの間の反応を、より早く、よりよく(より完全に)行うことを可能にする。
【0048】
本発明の根底にある問題をさらに解決するのが、ポリマー表面上に反応基を備えた固体の基板からなるバイオチップと、該反応基との間の化学結合により付着する生体分子とであり、そこで、基板の表面に残る、生体分子と反応していない反応基が、化学的に不活性な化学種に変換される。該バイオチップは、本発明の製法により得ることが可能であるが、通常は96個のウェルがあり、それぞれにオリゴヌクレオチド鎖の付いた128の微小スポットからなるアレイがある。該アレイおよび該微小スポットの数は、特定の必要条件によって変化しうるものであり、上記の数は限定的なものではない。
【0049】
特に好適には、化学的に不活性な化学種、および/または表面の反応性官能基を化学的に不活性な化学種に変換する薬剤は、リン化合物または窒素化合物を含み、該化合物は、反応において、あるいは反応後の処理(焼結、紫外線硬化等)によって、例えば、酸化リン、ペルフルオロ化したリン化合物などを材料とする化学的に不活性な表面を生成することのできるものである。窒素の場合には、好適には、窒素を含む部分が既に基板の表面に含まれており、例えばアミンからアミドなどへの変換のような化学変換だけを必要とすることが望ましい。不活性表面はまた、例えば、リン(III)化合物からリン(V)化合物への酸化、アミンから不活性アミドへの変換などのような、さらなる反応により生じさせることもできる。
【0050】
好適には、生体分子は、表面上で様々な化学反応を導き出すことができる、オリゴヌクレオチド配列またはポリペプチド配列または炭水化物配列である。
【0051】
特に望ましい実施態様において、生体分子は、RNA、DNA、LNA、およびそれらのキメラのような、オリゴヌクレオチドである。
【0052】
さらに好適には、基板は、OH、NRH、SHなどのような活性化された基を複数含む有機ポリマーであり、それにより、様々な反応基を備えた様々なポリマー構築ブロックのための付着部位を複数提供することができ、しかもそのために特定のリンカー部分の導入を必要としない。活性化は、例えば、プラズマ処理、レーザー処理など、本質的に当業者に既知である様々な機構によって達成される。
【0053】
特に好適には、有機ポリマーは、生物学的ポリマー分子の合成で起きる既知の化学反応の多くまたはほとんどに対して化学的耐性のある、ポリプロピレンである。
【0054】
定義と略称
ポリマー構築ブロック:ポリマー構築ブロック(あるいは「シントン」)という用語は、最終的なポリマーの中に含まれる化学成分を指すものである。それゆえ、その化学成分には、最終的なポリマーの中に組み込まれる前の官能基が含まれることがある。本発明におけるポリマー構築ブロックとして相応しいものを、非限定的な例として列挙すると、置換されたホスホアミダイト、または非置換のホスホアミダイト、モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、糖(フラノース、リボース等)、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、抗体などがある。
【0055】
微小液滴:溶液の微小液滴は、沸点が150℃を上回り、好適には220℃を上回るものであり、そして表面張力が約26〜47ダイン/cm、好適には30〜39ダイン/cmであり、粘性が3.3〜72cPで、好適には8〜20cPである、表面張力の高い溶媒を含む。各微小液滴は、それぞれが分離した不連続の単位であり、その容積は約100から200pLであり、最も好適には5pLと70pLの間である。ここで用いられる「溶液」という用語は、溶媒それ自体と、一つまたは複数の溶質も含むことは、言う迄もない。
【0056】
微小液滴は表面に反応すると、いわゆるスポットや微小ドットを形成する。本発明により得られたポリマーのアレイを、それぞれが分離した不連続の単位であるこれらの微小ドットやスポット内に配置する。各微小ドットの直径は1000μm より大きくてもよいが、典型的には約5μm〜800μmの範囲であり、好適には約10μm〜約500μmであって、最も好適には20〜200μmである。
【0057】
個々の微小ドットの間の距離は、典型的には約1μm〜約500μmで、好適には約20μm〜約400μmである。一般的には、微小ドット間の距離は、好適には、隣接するスポットの使用を避けるために、微小液滴のそれぞれの部位の範囲内であるようにする。
【0058】
微小ドットを物理的に隔てる手段は、残りの官能基を除去不能な保護基と反応させることであり、該保護基はできればリンを含んでいることが望ましい。そうすることで、これらの領域で、化学的に不活性な、非反応性の保護表面が得られる。
【0059】
ここで用いられる「生体分子」または「生体高分子」という用語は、オリゴヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、炭水化物、抗体などのポリマーの形の、何らかの生物学的分子を意味するものである。ここで用いられる「ヌクレオシド」という用語は、デオキシリボヌクレオシドとリボヌクレオシドの両方を含む。「オリゴヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドかリボヌクレオチドの単位を有するオリゴヌクレオチドを指す。
【0060】
本発明によりオリゴヌクレオチドを合成するのに有益な、相応するヌクレオチドは、ホスホトリエステル基、H−ホスホネート基およびホスホアミダイト基のような、活性化されたリン含有基を含むヌクレオチドである。
【0061】
「活性剤」という用語は通常、触媒を意味し、オリゴヌクレオチドを合成する場合には、ヌクレオシドの3’ホスホアミダイト基とそれに隣接するヌクレオシドまたはヌクレオチドのヒドロキシル基との間の反応を促進する触媒である。これは、5−メチルチオテトラゾール、テトラゾール、または5−エチルチオテトラゾール、DCIまたは塩化ピリジニウムであってよい。
【0062】
ここで用いられる「アルキル」という用語は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等のような、1から10個の炭素原子の、飽和した、直鎖の、分岐した、あるいは環式の、何らかの炭化水素基を指すものである。アルキルという用語はまた、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基も含んでいる。
【0063】
「低級アルキル」という用語は、1から4個の炭素原子のアルキル基を指し、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tブチル基を含む。
【0064】
ここで用いられる「アリール」という用語は、一個から五個の芳香環を含む何らかの芳香族化合物を指すものであり、該芳香環は、縮合したものでも結合したものでもよく、通常はアミノ、ハロゲン、シアン化物、および低級アルキルの中から選ばれる、少なくとも一つの置換基で置換しないものでも置換したものでもよい。望ましいアリール置換基には、一個から三個の縮合した芳香環が含まれている。ここで用いられる芳香族化合物は、複素環であっても、なくてもよく、つまり、硫黄、窒素、リンなどのようなヘテロ原子を少なくとも一つ含んでもよいということである。
【0065】
「アラルキル」という用語は、アルキル化学種とアリール化学種の両方を含む化合物で、典型的には二十個未満の炭素原子を含むものを指す。「アラルキル」という用語は、通常、アリール置換アルキル基を指すものとして用いられる。
【0066】
「複素環」という用語は、五員もしくは六員の単環構造または八員から十一員の二環構造で、飽和あるいは不飽和のものを指す。複素環には、窒素、酸素、硫黄、リン、砒素などの中から選んだヘテロ原子が少なくとも一つ含まれている。「窒素ヘテロ原子」と「硫黄ヘテロ原子」並びに「リンヘテロ原子」という用語には、何らかの酸化された形の窒素、硫黄およびリン、並びに何らかの塩基性窒素を四級化した形のものが含まれる。「複素環化合物」の例には、ピペリジニル、モルホリニルそしてピロリジニルが含まれる。
【0067】
「ハロゲン」という用語は、その通常の意味で用いられ、塩素原子、臭素原子、フッ素原子またはヨウ素原子を指す。
【0068】
ここで用いられる「オリゴヌクレオチド」という用語は、(2−デオキシ−D−リボースを含む)ポリデオキシヌクレオチド、(D−リボースを含む)ポリリボヌクレオチドから、プリン塩基またはピリミジン塩基のN−配糖体であるその他一切のタイプのポリヌクレオチドまで、そして、DNAやRNAに見られるような塩基対合や塩基スタッキングを許容しうる配置にある核酸塩基をポリマーが含む場合は、非ヌクレオチド骨格を含む他のポリマーまでをも指す。
【0069】
ここで用いられる「保護基」という用語は、分子のセグメントが特定の化学反応を起こすことを阻害し、この反応が完了すると、該分子からの除去が可能な化学種を指すものである。
【0070】
本発明の方法は、標準的な固相ペプチド合成方法によりペプチドを合成することにも使用可能である。
【0071】
典型的には、固相ペプチド合成方法は、CからNの方向に行われる。従って、合成形態の末端で切断を行うとC末端酸またはアミドが生じるようにするために、係留リンカーが必要である。望ましい実施態様においては、活性化されたカルボキシル基を含むリンカーを、本発明による担体の活性化された表面に連結することのできるアミノ基に適合させる。ポリペプチド合成化学で習慣的に用いられる、通常の「一時的な」保護基のいずれも、本発明での使用に適している。そのようなもの中から、非限定的な例を挙げると、例えばBOC(t‐ブトキシカルボニル)基およびFMOC(Nα9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)基である。他にも相応しいアミノ保護基があり、例えば、2−(4−ビフェニル)プロピル〔2〕オキシカルボニル(Bpoc)、1−(1−アダマンチル)−1−メチルエトキシ−カルボニル(Adpoc)その他があるが、それに限定されるわけではない。代表的な活性剤、あるいは、いわゆるin−situの結合を行う試薬で、本発明に用いるのに適しているものとしては、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などがあるが、それに限定されるわけではない。できれば、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)などのような、さらなる促進剤や添加物と共にそれらを用いるのが望ましい。
【0072】
本発明の方法は、有利には、亜リン酸トリエステル、ホスホアミダイトの合成およびH−ホスホネート合成を含む固相DNAやRNAを合成するための、幾つかの既に知られた化学的方法のいずれかによって、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)のポリマー化学種(いわゆるオリゴヌクレオチド)を合成することに用いられる。
【0073】
原則として、本発明の方法が役に立つのは、何らかの反復性の核酸合成技法を実施するために用いる場合である。本発明の特に望ましい実施態様においては、オリゴヌクレオチドはホスホアミダイト法により合成される。本発明によるホスホアミダイト合成を行うために、基板の表面上の反応性部位を、業界で既に知られた方法に従ったスペーサーを追加して官能化することもある。そのスペーサーを導入するのは、ポリマー鎖の生成を開始する前か、あるいは、例えば本発明による製法の手順a)の後で行ってもよい。そのようなスペーサーとなる基は、その反応担体の前もって選んだ部分のみにアプライしてもよい。
【0074】
典型的には、モノマーのヌクレオチドまたはヌクレオシドポリマー構築ブロック(シントンとも呼ばれるもの)には、適切な核酸塩基または2’−O位に一時的な保護基がある。
【0075】
固相核酸合成技法では、いわゆる一時的な、および永続的な保護基が、固相ペプチド合成と類似の仕方で用いられる。合成を行っている間、複素環式の核酸塩基の環外アミノ基を保護するためには、塩基に不安定な保護基を用いる。このタイプの保護を行うためには通常、塩化ベンゾイルや塩化イソブチリルのようなアシル化剤を用いてアシル化する。合成を行っている間、ヌクレオチドの5’ヒドロキシル基を保護するためには、酸に不安定な保護基を用いる。代表的なヒドロキシル保護基は、当業者には既知である。このようなものには、ジメトキシトリチル基、モノメトキシトリチル基、トリチル基および9−フェニル−キサンテン(ピクシル)基があり、しかも、それに限定されない。ジメトキシトリチル(DMT)保護基は、酸に対する不安定性が大きいということで広く使われており、それにより、大いに希釈した酸によっても効率的に除去できる。
【0076】
ホスホアミダイト技法による反復性の鎖延長サイクルの第一歩は、反応担体を脱保護剤の溶液の中に浸すことによる、最初のモノマーの5’−O−保護基の除去(脱保護)である。この後に、すすぎ用の試薬を添加する。脱保護のための試薬として相応しいものとして、ZnBr、AlCl、BF、およびTiClのようなルイス酸を、ジクロロメタン、ニトロメタン、テトラヒドロフランのような様々な溶媒、および混合溶媒、例えばニトロメタンと、メタノールまたはエタノールおよびそれらの混合物のような低級アルキルアルコール類との混合溶媒の中に溶かしたものがある。酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、およびトルエンスルホン酸のようなプロトン酸を、単独で、あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0077】
鎖は、5’−O−を保護された、活性化したモノマーのシントンを添加し、反応させることで、延長される。ホスホアミダイト技法においては、5’−DMTr−デオキシヌクレオシド−3’−O−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−β−シアノエチルホスファイトを反応担体の上に載せる。数多くのヌクレオシドのホスホアミダイトが市販されている。
【0078】
穏やかな有機触媒または活性剤、典型的には、テトラゾール、エチルチオテトラゾールまたはメチルチオテトラゾールを、反応担体の上にホスホアミダイトと共に載せる。その結合反応の後に、すすぎ用溶媒、典型的には無水アセトニトリルを添加する。
【0079】
すすいだ後、キャップ形成試薬を、例えば基板をそのキャップ形成試薬の溶液に浸すことにより、反応担体の前もって選んだ部分の上に添加し、それにより亜リン酸塩のモノマーの反応が不完全であったために残っている、フリーのヒドロキシル化学種にキャップをする。ヌクレオチド/ヌクレオシドの反応していないヒドロキシル基の「キャップ形成」のためのキャップ形成試薬は、典型的には酸無水物の溶液であるが、それはまた、グアニンのO−6位が不測にもリン酸化反応をしているところがあれば、それを元に戻す機能もある。
【0080】
しかしながら、本発明に関する限りでは、固体担体の表面上の反応していない反応基を、除去不能な化学的に不活性な化学種に変換すること(記載を容易にするために「表面キャップ形成」という用語でも呼ぶ)と、前述して説明したようなヌクレオチド/ヌクレオシド自体の反応していないヒドロキシル基のキャップ形成という変換との間には、根本的な違いがあるということに留意しなければならない。
【0081】
得られた亜リン酸トリエステルを酸化してそれに対応するリン酸トリエステルにすることは、水にアルカリ性のヨウ素を溶かした溶液のように、適切であると業界で周知の酸化剤を添加して行ってもよい。
【0082】
当業者は、オリゴヌクレオチドの合成が、3’−5’の方向か5’−3’の方向のどちらかで行われることは、十分に承知している。
【0083】
本発明の方法は、天然の核酸塩基であるアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)、およびウラシル(U)、並びに非天然の核酸塩基も有するオリゴヌクレオチドの合成に用いてもよい。非天然の核酸塩基というのは、核酸の構成要素として、天然の核酸塩基の生物学的役割における機能を模したものとして、業界では既知の分子成分である。
【0084】
核酸塩基、糖あるいは糖間の結合において広範で多種多様な修飾を有するオリゴヌクレオチドの化学種を、本発明の方法に従って調製することができ、それらは一般に、例えばポリ炭水化物に対するのと同様に、固相技法により合成可能な一切のオリゴマーの合成に応用可能である。
【0085】
例えば、本発明の方法を、S−ジチオリン酸、チオリン酸などの合成に用いてもよい。
【0086】
本発明の方法により製造されたポリマーは、(例えば、アミノ酸、ペプチド核酸、ヌクレオチド、糖類(炭水化物)などのような)複数種のモノマーのサブユニットで構成されていてもよく、そして複数種のサブユニット間の結合を有していてもよい。本発明の方法で製造されたポリマーで実例となるものとしては、ペプチド、ペプトイド(N−アルキル化グリシン)、α−ポリエステル、ポリチオアミド、N−ヒドロキシアミノ酸、β−エステル、ポリスルホンアミド、N−アルキレートポリスルホンアミド、ポリ尿素、ペプチド核酸、ヌクレオチド、多糖類、ポリカーボネート、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシドなど、およびそれらのポリマーの一つまたは複数が合体して単一の高分子となったものを含むキメラ分子がある。
【0087】
モノマー化学種のライブラリーも、本発明の方法により調製することができる。これらには、ベンゾジアゼピンライブラリーが含まれ、他にも似たようなライブラリーとして血圧降下薬、抗潰瘍薬、抗真菌薬、抗生物質、抗炎症剤などがあるが、それに限定されない。
【0088】
当業者は、本発明の範囲に含まれるのは、上記の特徴だけではなく、それら特徴を組み合わせたものも含むこと、および、本発明の範囲にはまた本文中で説明している本発明に関連している全ての特徴の一つ一つも含まれているということを、十分に承知している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0089】
本発明を、図を参照しつつ、以下の望ましい実施態様の説明においてさらに細部にわたり説明する。
図1は、本発明のシステムの望ましい実施態様の一つを概略的に示している。
図2は、本発明のインクジェット・プリント・ヘッドを概略的に示している。
図3は、本発明のシステムの実施態様の一つをさらに概略的に示している。
図4は、本発明のシステムのさらに望ましい実施態様の一つを示している。
図5は、本発明のバイオチップの断面図を概略的に示している。
図6は、本発明のシステムの実施態様の一つをさらに概略的に示している。
図7は、本発明の方法の第一の反応手順を概略的に示している。
図8は、本発明の方法の第二の反応手順、およびその後に続く反応手順を概略的に示している。
【0090】
図1は、本発明のシステム100の望ましい実施態様の一つを概略的に示している。システム100は、不活性な室101の内部に配置されるのであるが、その不活性な室には、アルゴン、窒素などのような不活性ガスを送りこむことができる。前記室101の内部で、基板102を移動手段111に取り付ける。好適には基板102は、その表面に、例えばヒドロキシル基、アミン基またはチオール基のような活性化させた官能基を有する、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのような有機ポリマーを材料として作られたものである。移動手段111により、図1に矢印で示したXおよびYの方向に基板102を動かすことができる。
【0091】
システム100は、例えば、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、およびチミン(T)である塩基で作られているオリゴヌクレオチドを合成するために設計されている。便宜上、そのような塩基は、ホスホアミダイト誘導体として存在させている。各塩基につき、図1に図示されていないタンクが一つ、用意されている。各タンクの中にあるのは、対応する塩基を溶媒の中に溶かした溶液である。望ましい溶媒の例を挙げると、グリム、フタル酸アルキル、セバシン酸アルキルや、アジポニトリルのようなニトリル、置換した、あるいは置換していないジアルキルエーテル、安息香酸誘導体(安息香酸塩など)、およびそれらの混合物である。望ましい溶媒は、上述したように表面張力の高い溶媒である。
【0092】
塩基の液滴を載せる前に、各塩基と、それに対応する、例えばテトラゾール(TET)のような活性剤を、微小混合容器107、108、109、および110の中で混ぜ合わせる。微小混合容器の容積は、約4μlである。容器の容積がより小さくてもより大きくても、本発明の状況で使用可能であることは、言う迄もない。その上限は、約1から5mlであり、下限は約10plである。一般的な規定として、該微小混合容器の容積は、一つの完全な手順の容積を含むものである。微小混合容器の容積との関連で「一つの完全な手順」という用語は、一つのポリマー構築ブロック(例えば上記の塩基の一つ)を、第一の反応手順で生じたすべての反応部位(「スポット」)の上にアプライすることができるということを意味する。それゆえ、該容積は、特定の必要条件、刻印すべき基板の大きさと数に従って変化することがあり得る。
【0093】
微小液滴は、さらに小さな微小液滴のパルスからなっている。各スポットは通常、1から100、最も好適には50パルスにより構成されており、各パルスは1から100、最も好適には20pLの容積であり、つまり最も好適な場合、各スポットにつき1nlである。規定の数のスポットが一つのアレイを構成している。数個のアレイを規則的に、あるいは不規則に、基板の上に並べてバイオチップを形成する。通常は、96個のアレイを一つの基板の上に配するが、それより少ないあるいは多いアレイを用いるのも、本発明の趣旨の範囲内で可能である。それゆえ、それぞれの上に128個のスポットのある96個のアレイからなる一つのバイオチップをプリントするための微小混合容器の容積は、≒13μlということになるだろう。同時に幾つかのバイオチップをプリントしなければならない場合には、その容積を調節せねばならず、さもなければ、第一のバイオチップの上に載せ終わった後で、その微小混合容器を再充填しなければならない。留意すべきことは、シントン(塩基)と活性剤の混合物の寿命は、劣化を防ぐために、1時間を越えてはならないということである。他のもう一つの望ましい実施態様においては、インクジェット・プリント・ヘッドの「デッドボリューム」は、本発明による微小混合容器を構成する。
【0094】
活性剤と塩基とを微小混合容器107、108、109および110の中で混合した後、溶液をインクジェット・プリント・ヘッド103、104、105および106に、即ち塩基ごとのプリント・ヘッドの中に、移しかえる。プリント・ヘッド103、104、105および106は、複数の小さなノズルを直線状に配置したものである。該ノズルは、好適には、それぞれ個別に供給可能な圧電ポンプであり、それにより、複数のノズルのうちの一つのノズルだけから微小液滴を生じさせるようにする。該ノズルの数は、64または128個、特に望ましい実施例では256個である。言う迄もなく、本発明の趣旨の範囲内で、異なる数のノズルを用いることも可能である。その場合、基板102を、例えばAおよびTETの溶液が入っているインクジェット・プリント・ヘッド103に移動させる。基板102の上に生じさせる反応部位の個数によって、一本だけ、あるいは前もって選定した本数、あるいは全部のノズルを用いて、微小液滴を基板102の表面上に載せることになる。その反応の完了後に、続いて、基板102を処理室112に移動させるが、処理室112には、すすぎ装置113、表面の未反応官能基を不活性の化学種に変換するための装置114、および脱保護装置115が含まれる。本発明のもう一つ他の実施態様においては、基板102が前記処理室112の壁を構成する。基板上に対する室の圧力により密閉を行うが、その場合、密閉手段を使っても使わなくてもよい。図1に示されてはいないが、さらに他の装置には、ヌクレオチドの未反応のヒドロキシル基のキャップ形成を行うさらにもう一つの装置と、最終的な脱保護装置、およびヌクレオチドリンカーのリン基の酸化を行う酸化装置がある。該最終の脱保護装置が(例えばNHによって)最終的なオリゴヌクレオチドを脱保護することにより、必要なら、生物学的に活性のあるオリゴヌクレオチドを生成する。反応手順を行う、典型的、非限定的な順序は、以下のようなものである。
1.ホスホアミダイト+活性剤の混合、基板上への噴射、洗浄、酸化、洗浄、表面の未反応官能基の化学的に不活性な化学種への変換、洗浄、脱保護、洗浄、フラッシング、および乾燥。
2.第二のホスホアミダイト+活性剤の混合、基板上への噴射、洗浄、酸化、洗浄、キャップ形成、洗浄、脱保護、洗浄、フラッシング、および乾燥、手順2を必要な頻度で反復。
3.NHの添加、洗浄;終了。
【0095】
本発明のもう一つの実施態様においては、異なる塩基(すなわち対応する塩基と活性剤の混合物)を続いて、各塩基の添加手順の後に基板を処理部112に動かさずに、添加する。オリゴヌクレオチドの同じ位置の塩基を全て添加した後、あるいは所定の数の塩基を添加した後に初めて、基板を処理部112に移動させ、そこで上記に説明した通りに処理する。
【0096】
大事なのは、第二の微小液滴の直径は、反応部位を規定する第一の微小液滴の直径よりも大きいということである。第一の微小液滴を載せた後、基板102の表面上の未反応のヒドロキシル反応基を薬剤と反応させる(「表面キャップ形成」)のだが、該薬剤は、好適には、リン含有の試薬であり、ポリマー鎖の合成サイクルが完了するまでの間、それを化学的に不活性な部分に変換するためのものであることが望ましい(例えば、リン酸塩、ペルフルオロアルキルまたはアリールホスフェート、C−C20アルキルホスフェート)。
【0097】
図2aは、本発明のシステムで用いられるプリント・ヘッド200の概略図である。プリント・ヘッド200には、金属製の外箱201がある。その金属製外箱201の底に、個別に供給可能なノズル207が配置されている。外箱201の内部には室205があり、そこに活性剤と混合した塩基を回収する。室205は、ノズル207と流体で接続されている。望ましい実施例においては、室205は、本発明の微小混合容器のことであり、そこでポリマー構築ブロックと必要なら活性剤とを混ぜ合わせる。ノズル207は、圧電コネクター204を有する圧電素子203を介して供給可能なので、載せるパターンを正確に規定することができる。そのプリント・ヘッド200にはさらに、流体供給要素206が装備されている。
【0098】
図2bは、複数のプリント・ヘッド200のアセンブリ208を示す。各プリント・ヘッド200は別のプリント・ヘッドと接続されている。ノズル207は、直線状に配置されていて、ノズル列202を形成している。ノズルの数は、用いるプリント・ヘッド200の数によって、個別に選択可能である。好適には、ノズルは128個から256個あるのが望ましい。言う迄もなく、本発明の範囲内で、例えば64や32個などの、より少ないノズルも使用可能である。プリント・ヘッド200は、各プリント・ヘッドを供給する流体供給器206を介して流体で接続されている。
【0099】
図3には、本発明のシステム300のもう一つの実施態様の概略が示されている。システム300には、回転ドラム301と、それに付着した基板317がある。該基板は、前述して説明したものと本質的に同じものである。該ドラムの周りに、対応する塩基と活性剤ごとに、プリント・ヘッド304、305、306、および307が配置されている。インクジェット・プリント・ヘッド304、305、306、および307に隣接して、微小混合容器308、309、310、311があり、そこでは、微小液滴を生成し、そして溶液を基板の上に噴射する直前に、使用する塩基および対応する活性剤とを、前もって混合しておく。
【0100】
処理装置には、すすぎ、脱保護、キャップ形成をする試薬のための装置312、313および314がある。図3に示されない装置がさらにあって、それには、複数の酸化装置および表面のキャップ形成装置が一つあるが、それだけに限定されない。
【0101】
さらに、乾燥器315がドラムの周りに配置されていて、反応完了後に基板を乾燥させる。看視器316は、コンピューター制御の画像看視器でもよく、それにより全ての反応段階で反応の完了を制御する。これは例えば、塩基と活性剤をあらかじめ混合したものに添加すると、UV/VIS分光器等の当業者にとって通常の手段で視覚的に検出できるような色素を用いる等して行ってもよい。できればその色素のクラスはアズレン染料であるのが望ましい。
【0102】
図4は、微小混合容器を一つ有する本発明のシステムの概略的な断面図である。システム400には二つのタンク401と402がある。タンク401の中には、例えばオリゴヌクレオチドを合成しなければならない場合にはホスホアミダイトである、ポリマー構築ブロックがあり(401)、そしてタンク402の中には、活性剤、または活性剤を含む溶液、例えば塩化ピリジニウム、テトラゾールなどがある。既に前述して説明したように、ポリマー構築ブロックのためのタンク401一つと、必要であれば活性剤のタンク402とだけを用いるのではなく、様々なポリマー構築ブロックと活性剤のそれぞれのための複数のタンク401も、本発明のさらに望ましい実施態様においては、用いられる。ポリマー構築ブロック、即ち例えばホスホアミダイトも、溶液の中に含まれていてよい。タンク401と402は両方とも、例えばTeflon(登録商標)製の管405を介して、微小混合容器403に接続されている。既に図1について説明したように、微小混合容器403の容積は、約40μl、好適には約5−10μlである。微小混合容器403は、例えば、Y字型か、二つの取り入れ口を有するその他の相応しい形のガラス管で、出口409での微小液滴のサイズを最小化する複数のフリット404を備えている。好適には、フリット404の材料は、例えば陶磁器などのような化学的に不活性なものである。微小混合容器403は、タンク401と402に管405を介して接続している両方の取り入れ口を、封止キャップ406によって封止されている。微小混合容器403の出口409は、インクジェット・ヘッド407に接続されている。インクジェット・ヘッド407から、微小液滴を、図4には示されていない基板の上にアプライする。図4には示されていない微小液滴が、基板の表面上に微小スポット408を形成する。
【0103】
図5は、本発明のバイオチップの概略的な側面図である。バイオチップ500は、例えば、酸素基を有する官能化した表面を含む、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはそれらの混合物で構成される、基板501を備える。前述して説明した反応サイクルの完了後に、官能基の一つの上において、オリゴヌクレオチド配列C−T−G−Aを、前記基板の表面上に付着させる。反応区域を生成するのは、前述して説明したように、第一の微小液滴である。前記反応部位の周りで、残りの官能化したヒドロキシル基を、リン含有試薬で化学的に不活性な化学種に変換し(表面キャップ形成)、該試薬をつぎに、五価のリンに酸化して、チップの表面上に化学的に不活性なリン酸塩の化学種を生成する。リンにおける置換基は、図5には示されていない。好適には、リンの置換基には、ペルフルオロ化したアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキル基などが含まれる。
【0104】
図6は、微小混合容器を有する本発明のシステムのさらなる概略的な断面図を示すものである。システム600には、前述して説明したようなインクジェット・プリント・ヘッド601がある。言うまでもなく、該システムには、各プリント・ヘッドを異なるポリマー構築ブロックのために用いる、図6には示されていない複数のプリント・ヘッド601がある。
【0105】
各プリント・ヘッド601において、例えばアセトニトリルのような洗浄溶媒、または、例えばホスホアミダイトを溶解するために用いられるような他の相応しい溶媒のための、タンク602、さらには活性剤のためのタンク603、およびポリマー構築ブロック溶液の入ったタンク604が、微小混合容器610に接続されている。それらのタンクの形状や材料の選択は、それらの容積と同様に、特定の必要条件に応じて行ってよい。タンク602、603、および604は、好適にはTeflon(登録商標)製あるいは類似の材料製の柔軟な管を介して、微小混合容器610のそれに接続されている。微小混合容器610の材料は、例えばガラス、化学的に不活性なプラスチック材料などでよい。具体的な形状は、本来の目的に沿って許容可能なものならどのような形状でもよい。微小混合容器610の容積は、前述したように規定されており、その結果、ポリマー構築ブロックと活性剤の混合物である混合物606の正確な分量だけが、微小混合容器610の中に存在する。管611、612、および613は、バルブ609、607、607bisを介して、微小混合容器610の中に入り込む。それに加えて、メニスカス・システム608を、微小混合容器610の頭頂部に設置してもよい。微小混合容器610を、封止手段614を介して封止し、それにより、空気の流入を防止する。微小混合容器610は、連結手段615を介してインクジェット・プリント・ヘッド601と連結されている。バルブ605は、混合液606のインクジェット・プリント・ヘッド601への流入を制御するために用いるバルブである。この特に望ましい実施態様においては、微小混合容器610を、例えばホスホアミダイトであるリン構築ブロックと活性剤との間の混合液を添加するために用いるだけでなく、反応の後、基板を洗浄溶媒で洗浄するためにも用いる。それゆえ、設備をさらに簡略化し、より簡単にすることができる。
【0106】
図7は、本発明の方法の第一の反応手順を概略的に示している。例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどでできた担体701は、その表面上に反応性官能基XHがある。Xは、好適にはOまたはNである。それらの官能基は、そのポリマー合成の最中に得られるか、レーザー処理、紫外線照射、プラズマ処理などのような、それぞれのポリマーの処理をした後に得られるものである。第一の液滴701にはヌクレオシドホスホアミダイトと必要なら活性剤が含まれており、それを担体701の表面上に、図7には示されていないインクジェット・プリント・ヘッドにより吹きつける。ヌクレオシドには、DMTのような保護基あるいは同等の保護基、好適には直交する保護基があり、該ヌクレオシドは、基板701の表面上で反応性官能基XHと反応する。残りのR1は何らかの不安定基であり、例えば、本来の目的に沿ってホスホアミダイト化学で通常用いられるような、シアノエチレン基である。第二の手順において、未反応の官能化した反応性のある表面の基XHが、ホスホアミダイト化学種と反応することにより、ヌクレオシドホスホアミダイトが反応を起こした反応部位の周りで、化学的に不活性な化学種に変換される。Rは不安定性のものでなく、除去不能な基であることにより、手順2で得られた反応生成物を化学的に不活性な状態にするものである。さらにそのホスホネート化学種は、例えばひっかき傷などの機械的劣化に耐性があり、反応部位703のスポット間に化学的安定性と機械的安定性の高い領域を発生させる。
【0107】
官能化した反応性のある表面の基を化学的に不活性な化学種に変換(「表面キャップ形成」)した後、直交する保護基DMTを、当業者には本質的に既知の通常の技法で除去して、そのヌクレオシドの3’または5’末端のフリーのOH基を解放する。図7に関連した「base」という用語は、塩基が、アデニン、チミン、シトシン、およびグアニンのような、オリゴヌクレオチド化学で用いられる保護された塩基のいずれでもよいという意味である。ここで、該ヌクレオシドのフリーのOH基は、図8について下で説明しているように、本発明の方法の次の合成手順に向けた出発点である。
【0108】
図8は、本発明の方法の第二の反応手順を概略的に示している。図7での基板701に相当する基板801の上で、第二の塩基を含み、図7における第一の液滴(702)よりも直径が大きい第二の液滴802は、図7で用いられる塩基と同じでも異なっていてもよいが、それを、前述の第一の反応手順で規定された反応部位803の上にアプライする。通常はそのホスホアミダイトとしての形態で用いられる第二の塩基が反応した後で、第一のヌクレオシドの未反応のヒドロキシル基の標準的なキャップ形成を、例えば、無水酢酸での処理により行う。Rは好適には、例えば酢酸の場合のエチレンのような、アルキル基である。RとRは、図7においてと同じ意味をもっている。次の反応手順5において、図7の手順3で説明したように、DMT保護基の脱保護を行う。所望の長さおよび性質のオリゴヌクレオチド鎖が得られるまで、一連の反応が行われる。最後の反応である手順6は、NH3水溶液で処理することによって、本発明の活性バイオチップを得ることである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明のシステムの望ましい実施例の一つを概略的に示した図。
【図2】本発明のインクジェット・プリント・ヘッドを概略的に示した図。
【図3】本発明のシステムの実施例の一つをさらに概略的に示した図。
【図4】本発明のシステムのさらに望ましい実施例の一つを示した図。
【図5】本発明のバイオチップの断面図を概略的に示した図。
【図6】本発明のシステムの実施例の一つをさらに概略的に示した図。
【図7】本発明の方法の第一の反応手順を概略的に示した図。
【図8】本発明の方法の第二の反応手順、およびその後に続く反応手順を概略的に示した図。
【符号の説明】
【0110】
100、300、400 ポリマー合成システム
102、317 基板
107〜110、308〜311、403 微小混合容器
111 輸送手段
112 処理室
200、304〜307 インクジェット・プリント・ヘッド
207 ノズル
401、402 タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー構築ブロックを連続して添加することにより、ポリマー鎖を固体基板の上に合成するための自動化されたポリマー合成システムであって、
a)ポリマー構築ブロックを含む微小液滴の発生を制御するためのノズルを複数備えたインクジェット・プリント・ヘッドと、
b)微小液滴を流体と共に載せた基板を処理するための処理装置と、
c)基板をプリント・ヘッドに隣接するようにおよび処理装置に隣接するように輸送させるための輸送手段と、
d)プリント・ヘッドに隣接した微小混合容器であって、この中でポリマー構築ブロックを活性剤と混合することで、一回の反応手順で反応させる量の構築ブロックを含むようにした、微小混合容器、
という要素からなる、システム。
【請求項2】
要素を直線状に配置していることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
要素を円形に配置していることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
複数のノズルを直線上に配置していることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載のシステム。
【請求項5】
各ノズルが個別に供給可能であることを特徴とする、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
インクジェット・ヘッドに各ノズルと接続されたタンクが一つあることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一つに記載のシステム。
【請求項7】
各構築ブロックを別個のタンクに収納することを特徴とする、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
各活性剤を別個のタンクに収納することを特徴とする、請求項6または請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
バイオチップまたは遺伝子チップの製造のための、請求項1〜請求項8のいずれか一つに記載のシステムの使用法。
【請求項10】
除去可能な保護基で保護された反応基を含むポリマー構築ブロックを連続して反応させることからなる、固体基板上にポリマーを合成する方法であり、
a)複数の官能基を備えるポリマー表面を調製し、
b)前記表面の上に、第一のポリマー構築ブロックからなる第一の微小液滴をアプライし、
c)第一のポリマー構築ブロックをポリマー表面の官能基と反応させて、第一のポリマー構築ブロックをポリマー表面に付着させ、
d)該付着したポリマー構築ブロックの保護基を除去し、
e)前記第一の微小液滴の上に、第一のポリマー構築ブロックと同じ、あるいはそれとは異なる、第二のポリマー構築ブロックからなる第二の微小液滴をアプライし、
f)前記第の二ポリマー構築ブロックを、第一のポリマー構築ブロックの脱保護した反応基と反応させ、
g)必要に応じて手順d)−f)を連続して繰り返す、
という手順からなる方法であり、手順c)の後でポリマー表面の未反応の官能基が、化学的に不活性の化学種に変換されることを特徴とする方法。
【請求項11】
第一の微小液滴の直径が、1μmと1000μmの間であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第一の微小液滴の直径が、第二の微小液滴の直径より小さいことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
化学的に不活性な化学種がリン基を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ポリマー表面が、基板の不可分の一部であることを特徴とする、請求項1〜請求項13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
ポリマー表面が有機ポリマーからなることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
反応基がOH、NRHから選ばれ、ここでRは、H、好適にはC−Cアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基であるアルキル基、およびSHであってよいことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ポリマー構築ブロックが、ヌクレオシド、ヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、および炭水化物から選ばれることを特徴とする、請求項1〜請求項16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
手順b)の直前に、活性剤を第一のポリマー構築ブロックと微小混合容器の中で混ぜ合わせることを特徴とする、請求項1〜請求項17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
請求項11〜請求項18のいずれか一つに記載の方法により得ることが可能なバイオチップ。
【請求項20】
表面上に反応基を有する固体基板と、表面上の反応基の一部分に付着した生体分子とからなり、表面の残りの反応基が化学的に不活性な化学種に変換されているバイオチップ。
【請求項21】
化学的に不活性な化学種がリン基を含むことを特徴とする、請求項20に記載のバイオチップ。
【請求項22】
生体分子が、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド、およびポリ炭水化物からなるグループから選ばれることを特徴とする、請求項20または請求項21に記載のバイオチップ。
【請求項23】
基板が有機ポリマー物質からなることを特徴とする、請求項1〜請求項22のいずれか一つに記載のバイオチップ。
【請求項24】
有機ポリマー物質がポリプロピレンであることを特徴とする、請求項24に記載のバイオチップ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−519285(P2006−519285A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501979(P2006−501979)
【出願日】平成16年3月1日(2004.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002040
【国際公開番号】WO2004/076059
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(505321145)
【氏名又は名称原語表記】APIBIO SAS
【出願人】(505321134)
【氏名又は名称原語表記】IMPIKA SA
【Fターム(参考)】