説明

ポリマー溶液供給部材、静電紡糸装置及び静電紡糸不織布の製造方法

【課題】 安定かつ生産性良く静電紡糸不織布を製造することのできるポリマー溶液供給部材、静電紡糸装置及び静電紡糸不織布の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、静電紡糸法に用いる、ポリマー溶液を紡糸空間へ供給するポリマー溶液供給部材であり、前記ポリマー溶液供給部材は中空部を有する中空管が、よこから見た時に波型形状を有する状態にあり、前記波型形状の最下点及び/又は最上点に、前記中空部の内周壁から外周壁に貫通する貫通孔を備えている。静電紡糸装置は上記ポリマー溶液供給部材を備えており、静電紡糸不織布の製造方法は上記静電紡糸装置を用いる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー溶液供給部材、静電紡糸装置及び静電紡糸不織布の製造方法に関する。より具体的には生産性良く静電紡糸不織布を製造することのできるポリマー溶液供給部材、静電紡糸装置及び静電紡糸不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布を構成する繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れているため、不織布を構成する繊維の繊維径を小さくするのが好ましい。このような繊維径の小さい繊維からなる不織布の製造方法として、ポリマー溶液を紡糸空間へ供給するとともに、供給したポリマー溶液に電界を作用させてポリマー溶液を繊維化し、延伸して繊維径の小さい繊維とした後に直接捕集して不織布とする、いわゆる静電紡糸法が知られている。
【0003】
このような静電紡糸法により不織布を製造する場合、ポリマー溶液を紡糸空間へ供給するポリマー溶液供給部材として、注射針のような先端が金属製のノズルを使用するのが一般的であった。このようなポリマー溶液供給部材は不織布の生産性を上げるために、2本以上の多数のノズルを使用するのが好ましいため、本願出願人は多数のノズルを長円状に循環移動させることにより、不織布の生産性を高める方法を提案した(特許文献1)。この方法によれば、確かに不織布の生産性を高めることができるものの、品質の安定性を確保するために、一定時間経過後にノズルを交換するか、ノズルを洗浄する必要があるが、このように交換又は洗浄することはノズルの数も多いだけに非常に煩雑な作業で、この点において不織布の生産性の悪いものであった。また、不織布生産時、つまり紡糸時にノズルの先端部に繊維が付着してしまう場合があるため、品質の安定性を確保するために、付着した繊維を取り除く必要があるが、ノズルは循環移動しているため、付着した繊維を取り除くのが困難で、安定生産が困難な場合があった。更には、不織布の生産性を高める方法の1つとしてポリマー溶液の紡糸空間への供給量を多くする方法があるが、ポリマー溶液供給部材としてノズルを使用した場合、供給量をあまり多くすることができず、この点から生産性を高めることが困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−112023号公報(特許請求の範囲など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題点を解決するためになされたものであり、安定かつ生産性良く静電紡糸不織布を製造することのできるポリマー溶液供給部材、静電紡糸装置及び静電紡糸不織布の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「静電紡糸法に用いる、ポリマー溶液を紡糸空間へ供給するポリマー溶液供給部材であり、前記ポリマー溶液供給部材は中空部を有する中空管が、よこから見た時に波型形状を有する状態にあり、前記波型形状の最下点及び/又は最上点に、前記中空部の内周壁から外周壁に貫通する貫通孔を備えていることを特徴とする、ポリマー溶液供給部材。」である。
【0007】
本発明の請求項2にかかる発明は、「外周壁の貫通孔が貫通した部分が平坦又は窪んでいることを特徴とする、請求項1記載のポリマー溶液供給部材。」である。
【0008】
本発明の請求項3にかかる発明は、「中空管が螺旋状態にあることによって、よこから見た時に波型形状を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のポリマー溶液供給部材。」である。
【0009】
本発明の請求項4にかかる発明は、「請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリマー溶液供給部材を備えた静電紡糸装置。」である。
【0010】
本発明の請求項5にかかる発明は、「請求項4に記載の静電紡糸装置を用いる静電紡糸不織布の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1にかかる発明は、ポリマー溶液供給部材が中空管からなるため、交換するにしても、洗浄するにしても、容易に行うことができる。紡糸時に繊維が付着したとしても、ノズルのように突出していないため、付着した繊維を取り除くのが容易である。また、ポリマー溶液供給部材が中空管からなり、ポリマー溶液には表面張力が作用しやすく、ポリマー溶液供給部材の外周壁にポリマー溶液が保持されやすいため、ポリマー溶液の紡糸空間への供給量を多くすることができる。更に、ポリマー溶液供給部材はよこから見た時に波型形状を有し、波型形状の最下点及び/又は最上点に貫通孔を備えていることによって、貫通孔付近における電界強度が大きくなるため、安定してポリマー溶液を供給し、繊維化することができる。このような結果として、安定かつ生産性良く静電紡糸不織布を製造することができる。
【0012】
本発明の請求項2にかかる発明は、外周壁の貫通孔が貫通した部分が平坦又は窪んでいることによって、ポリマー溶液に表面張力が更に作用しやすく、ポリマー溶液供給部材の外周壁にポリマー溶液が更に保持されやすいため、ポリマー溶液の紡糸空間への供給量を更に多くすることができ、更に生産性良く静電紡糸不織布を製造することができる。
【0013】
本発明の請求項3にかかる発明は、中空管が螺旋状態にあることによって、様々な静電紡糸装置に対応可能になる。例えば、中空管が柔軟な材料からなる場合には、ポリマー溶液供給部材を循環移動(特には、長円循環移動)させて、目付の揃った不織布を製造することができる。また、中空管が柔軟な材料からなる場合には、貫通孔間隔の変更が容易である。
【0014】
本発明の請求項4にかかる発明は、請求項1〜請求項3のいずれかのポリマー溶液供給部材を備えているため、安定かつ生産性良く静電紡糸不織布を製造できる装置である。
【0015】
本発明の請求項5にかかる発明は、請求項4にかかる静電紡糸装置を用いる方法であるため、安定かつ生産性良く静電紡糸不織布を製造できる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のポリマー溶液供給部材について、図1及び図2に沿って説明する。図1はポリマー溶液供給部材をよこ方向から見た図であり、図2は最下点における中空管の横断面図である。
【0017】
図1におけるポリマー溶液供給部材1は中空部3を有する中空管2が、螺旋状態にあり、しかも螺旋状態の最下点PL1、PL2、PL3、PL4、PL5における横断面形状が円形であり、中空部3の内周壁から外周壁に貫通する貫通孔4を備えている。図1のポリマー溶液供給部材1はこのような構成からなるため、ポリマー溶液はポリマー溶液貯留部からポリマー溶液供給部材1の中空部3へ供給され、この供給されたポリマー溶液は貫通孔4を介して紡糸空間へ供給される。図1からわかるように、交換する場合にはポリマー溶液供給部材1を交換すれば良く、洗浄する場合には、ポリマー溶液供給部材1の外周壁表面は平滑であるため洗浄しやすいものである。また、紡糸時に繊維が付着したとしても、外周壁表面は平滑であるため、付着した繊維を取り除くのが容易である。また、中空管2から供給されたポリマー溶液には表面張力が作用しやすく、中空管2の最下点における外周壁にポリマー溶液が保持されやすいため、ポリマー溶液の紡糸空間への供給量を多くすることができる。更に、波型形状の最下点に貫通孔4を備えていることによって、中空管2の他の部分よりも貫通孔4付近における電界が強くなりやすいため、安定してポリマー溶液を供給し、繊維化することができる。したがって、本発明のポリマー溶液供給部材1は、安定かつ生産性良く静電紡糸不織布を製造することができるものである。なお、図1のように、中空管2が螺旋状態であることによって、様々な静電紡糸装置に対応可能になる。例えば、中空管が柔軟な材料からなる場合には、ポリマー溶液供給部材を循環移動(特には、長円循環移動)させて、目付の揃った不織布を製造することができる。また、中空管が柔軟な材料からなる場合には、貫通孔間隔の変更が容易である。なお、図1のポリマー溶液供給部材1は最下点に貫通孔を有する場合であるが、最下点ではなく、最上点にあっても同様の作用効果を奏するし、最下点と最上点の両方に貫通孔を有する場合には、両側に不織布を製造することができる。
【0018】
本発明のポリマー溶液供給部材1の最下点における横断面形状は、どのような形状であっても良い。ポリマー溶液供給部材1の最下点における別の横断面形状について、図3〜図7をもとに説明する。
【0019】
図3は横断面形状が半円形状であり、貫通孔4が中空部3の内周壁から湾曲した外周壁に貫通している。このように、最下点における横断面形状は円形である必要はない。
【0020】
図4は最下点における横断面形状が四角形状(正方形状)であり、貫通孔4が中空部3の内周壁から平坦な外周壁に貫通している。このように、貫通孔4が貫通した部分が平坦な外周壁であると、貫通孔4から供給されたポリマー溶液は表面張力によって平坦な外周壁に保持されやすいため、ポリマー溶液の紡糸空間への供給量を多くすることができ、より生産性良く静電紡糸不織布を製造することができる。図5は最下点における横断面形状が半円形状であり、貫通孔4が中空部3の内周壁から平坦な外周壁に貫通している。この場合も図4の場合と同様に、ポリマー溶液の紡糸空間への供給量を多くすることができ、より生産性良く静電紡糸不織布を製造することができる。図6は最下点における横断面形状が円形の中空管2に、貫通孔4の貫通した部分が平坦となるように、平坦化補助材5を取り付けたものである。このポリマー溶液供給部材1も貫通孔4が貫通した部分が平坦な外周壁であるため、図4のポリマー溶液供給部材1と同様に、ポリマー溶液の紡糸空間への供給量を多くすることができ、より生産性良く静電紡糸不織布を製造することができる。
【0021】
図7は最下点における横断面形状が三日月状であり、中空部3の内周壁から貫通孔4が貫通した部分が中空部側に湾曲した窪みを有する外周壁である。このように窪んだ外周壁を有することによって表面張力が作用しやすく、ポリマー溶液の保持量が多くなるため、紡糸空間へのポリマー溶液の供給量を多くすることができ、生産性良く静電紡糸不織布を製造することができる。
【0022】
以上、図2〜図7をもとに、最下点における横断面形状について説明したが、最上点における横断面形状も全く同様であることができる。つまり、図2〜図7の図を180°回転させた状態の横断面形状であることができ、最下点における貫通孔と全く同様の作用をする。
【0023】
なお、最下点又は最上点における中空管の横断面形状は、どの最下点又は最上点においても同じであっても、異なっていても良いが、ポリマー溶液の分配が均一で、紡糸空間への供給量が一定であるように、また、ポリマー溶液の外周壁における保持能力を同じにして、効率よく繊維を形成できるように、どの最下点又は最上点においても同じであるのが好ましい。また、最下点、最上点以外における中空管の横断面形状は特に限定するものではないが、局所的に内径が変わると圧力損失が変わり、ポリマー溶液の分配ムラが生じやすくなるため、最下点又は最上点と同じ横断面形状であるのが好ましい。また、これらの図においては、最下点又は最上点における中空管の中空部は外周壁の形状と略相似形であるが、相似形である必要はない。つまり、中空管の周壁の肉厚は一定である必要はない。更に、図1においては、最下点毎に貫通孔を有するが、1つおき、2つおきというように、規則的に貫通孔を有していても良いし、不規則に貫通孔を有していても良いが、最下点毎又は最上点毎に貫通孔を有するか、規則的に貫通孔を有している方が、目付バラツキの小さい静電紡糸不織布を製造しやすい。
【0024】
なお、本発明のポリマー溶液供給部材1は螺旋状態にある必要はなく、図8及び図9にポリマー溶液供給部材をよこ方向から見た概念図を示すように、ジグザグ状に屈折させた状態(図8)であっても、コルゲート状に繰り返し湾曲させた状態(図9)であっても本発明の波型形状である。また、図示していないが、サインカーブ状であっても本発明の波型形状であり、これらを組み合わせた状態にあっても、よこから見た時に上昇と下降を繰り返す状態は本発明の波型形状であり、規則的であるか、不規則的であるかを問わない。しかしながら、目付バラツキの小さい静電紡糸不織布を製造する上では規則的に上昇と下降を繰り返す状態にあるのが好ましい。なお、「最下点」は中空管が下降から上昇へ転じる点をいい、「最上点」は中空管が上昇から下降へ転じる点をいう。また、「よこから見る」とは、ポリマー溶液供給部材が同一平面上にある場合には、その平面に対して直角方向から観察することを意味し、螺旋状態のように同一平面上にない場合には、ポリマー溶液供給部材の軸方向に対して直角方向から観察することを意味する。なお、ポリマー溶液供給部材が螺旋状態の場合、観察の仕方によっては最下点又は最上点に貫通孔がない場合があるが、ポリマー溶液供給部材を回転させることによって、最下点又は最上点に貫通孔が存在することになる場合には、本発明に含まれる。
【0025】
また、ポリマー溶液供給部材は下から見た時(最下点に貫通孔がある場合)、又は上から見た時(最上点に貫通孔がある場合)に、貫通孔が一直線状に配置していても良いし、円形状又は長円形状に配置していても良い。円形状又は長円形状であり、しかも中空管2が柔軟性のある材料からなる場合には、ポリマー溶液供給部材1の貫通孔を円形又は長円形に移動させることによって、目付の揃った不織布を製造することができる。このような柔軟性のある中空管構成材料はポリマー溶液を構成する溶媒によっておかされないものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、パーフロロアルコキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化エチレンプロピレン、フッ素ゴムなどのフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、6ナイロン、共重合ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、などを挙げることができ、これらの樹脂単独、又は2層構造等に複合したものを使用することができる。
【0026】
本発明の静電紡糸装置は上述のような本発明のポリマー溶液供給部材を備えたものであるため、ポリマー溶液供給部材の交換又は洗浄が容易で、紡糸時に繊維が付着したとしても容易に取り除くことができ、しかもポリマー溶液の紡糸空間への供給量を多くすることができる。更には、ポリマー溶液供給部材はよこから見た時に波型形状を有し、波型形状の最下点及び/又は最上点に貫通孔を備えていることによって、貫通孔付近おける電界強度が中空管の他の部分よりも大きくなるため、安定してポリマー溶液を供給し、繊維化することができる。したがって、安定かつ生産性良く静電紡糸不織布を製造することができる装置である。
【0027】
本発明の静電紡糸装置は上述のような本発明のポリマー溶液供給部材を、従来のポリマー溶液供給部材(例えば、ノズル)に替えて、貫通孔が捕集体と対向するように配置して使用すること以外は、全く同じである。例えば、ポリマー溶液をポリマー溶液供給部材へ供給できるポリマー溶液供給装置、ポリマー溶液を紡糸空間へ供給できるように、貫通孔を捕集体と対向して配置した本発明のポリマー溶液供給部材(最下点に貫通孔がある場合には下方に捕集体を設置し、最上点に貫通孔がある場合には上方に捕集体を設置する)、紡糸空間へ供給され、電界によって延伸された繊維を捕集する捕集体、紡糸空間へ供給されたポリマー溶液と捕集体との間に電界を形成できる電界形成装置、とを備えている。好ましくは、ポリマー溶液の溶媒の分散を防ぐために、ポリマー溶液供給部材や捕集体を収納できる紡糸容器、繊維径を揃えやすいように、前記紡糸容器へ所定相対湿度の気体を供給できる気体供給装置、或いは前記紡糸容器内の気体を排気できる排気装置を備えている。なお、従来は金属製ノズルを使用していたためノズルに対して電圧を印加することが可能であったが、本発明のポリマー溶液供給部材が非金属からなる場合には、ポリマー溶液供給装置とポリマー溶液供給部材との間のポリマー溶液供給管、及び/又はポリマー溶液供給部材内に金属ワイヤーなどを設置して、ポリマー溶液と捕集体との間に電界を形成することができる。
【0028】
なお、ポリマー溶液供給部材は図1に示すような貫通孔が一直線状に配置したものを、捕集体の幅方向(進行方向に対して直角方向)に一列又は二列以上配置し、固定した状態で、又は捕集体の幅方向に往復移動させながらポリマー溶液を紡糸空間へ供給することができるし、貫通孔が円形又は長円形に配置している場合には、ポリマー溶液供給部材を循環移動させながらポリマー溶液を紡糸空間へ供給することもできる。なお、長円形に貫通孔が配置している場合には、その長径が捕集体の幅方向と一致するように循環移動させるのが好ましい。このようにすることによって、目付の揃った不織布を製造することができる。
【0029】
本発明の静電紡糸不織布の製造方法は、前述のような静電紡糸装置を用いて製造する方法であるため、安定かつ生産性良く静電紡糸不織布を製造できる方法である。なお、静電紡糸不織布を構成する繊維は静電紡糸不織布の用途によって異なるため、紡糸するポリマー溶液を変えることによって、繊維の種類を変え、用途に適合させることができる。ポリマー溶液を構成するポリマーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン12、ナイロン−4,6などのナイロン系、アラミド、ポリベンズイミダゾール、ポリビニルアルコール、セルロース、酢酸セルロース、酢酸セルロースブチレート、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル、ポリ(ビス−(2−(2−メトキシ−エトキシエトキシ))ホスファゼン)(poly(bis−(2−(2−methoxy−ethoxyethoxy))phosphazene);MEEP)、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリこはく酸エチレン(poly(ethylenesuccinate))、ポリアニリン、ポリエチレンサルファイド、ポリオキシメチレン−オリゴ−オキシエチレン(poly(oxymethylene−oligo−oxyethylene))、SBS共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキサイド、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリD,L−乳酸−グリコール酸共重合体、ポリアリレート、ポリプロピレンフマラート(poly(propylene fumalates))、ポリカプロラクトンなどの生分解性高分子、ポリペプチド、タンパク質などのバイオポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチなどのピッチ系などの溶融または適正溶媒に溶解可能な様々なポリマーが適用可能であり、これらの共重合体及び混合物なども使用可能である。また、金属アルコキシドを加水分解した曳糸性のゾル溶液も使用可能である。なお、前記ポリマー溶液に合成樹脂などのエマルジョン或いは有機、無機物の粉末を混合して用いることもできる。
【0030】
ポリマーの溶媒としては、例えば、(a)揮発性の高いアセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、塩化メチレン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸などと、(b)揮発性が相対的に低いN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、アセトニトリル(AN)、N−メチルモルホリン−N−オキシド、ブチレンカーボネート(BC)、1,4−ブチロラクトン(BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジエチルエーテル(DEE)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、1,3−ジオキソラン(DOL)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルホルマート(MF)、3−メチルオキサゾリジン−2−オン(MO)、メチルプロピオネート(MP)、2−メチルテトラヒドロフラン(MeTHF)、スルホラン(SL)などがある。なお、前記揮発性の高い溶媒、又は揮発性の高い溶媒と相対的に低い揮発性を有する溶媒とを混合した混合溶媒を用いれば、溶媒の揮発性を増加させたり、ポリマー溶液の粘度を低下させることができ、ポリマー溶液供給部材からの吐出量を増加させて、静電紡糸不織布の生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
(実施例1)
(1)紡糸原液の調製;
ポリアクリロニトリル(三菱レイヨン株式会社製、登録商標:ボンネル)を、N,N−ジメチルホルムアミドに濃度14mass%となるように溶解させたポリマー溶液(粘度:1220mP・s)を用意した。
【0033】
(2)製造装置の準備;
内径4mmで、外径6mmのパーフロロアルコキシ樹脂製中空管2を螺旋状態(外径:60mm)とし、中空管2の全ての最下点に直径0.2mmの貫通孔4を5個配置(下から観察して一直線状に貫通孔が配置、隣接する貫通孔間距離:60mm)したものをポリマー溶液供給部材とした。なお、中空管2の横断面形状はいずれの地点(最下点を含む)においても、中空部、外周壁ともに円形であった(図2と同じ)。
【0034】
次いで、ポリエチレン製フレキシブルバッグにマイクロポンプ(マイクロポンプ社製;マイクロポンプFC−513 ポンプヘッド:188 1rpm=0.017mLタイプ;コントローラ部=株式会社中央理化製、ポリマー溶液供給装置)を接続するとともに、パーフロロアルコキシ樹脂製チューブ(直径が0.1mmのステンレススチールワイヤーを挿入)を接続し、このチューブを前述のポリマー溶液供給部材に接続した。
【0035】
次いで、導電性シリコーンゴムをコーティングしたスチールベルトからなるベルト状捕集体(幅:500mm)をアースして、前記ポリマー溶液供給部材の下方に設置した。次いで、マイクロポンプのギアポンプヘッドに高電圧電源を接続するとともに、前記ポリマー溶液供給部材の貫通孔4がベルト状捕集体と対向し、しかも貫通孔4の配列方向がベルト状捕集体の幅方向(移動方向に対する直交方向)と一致するように、ポリマー溶液供給部材を配置した。なお、外周壁における貫通孔端部とベルト状捕集体の捕集表面との距離は100mmとした。
【0036】
次に、前記ポリマー溶液供給部材及びベルト状捕集体を塩化ビニル製直方体紡糸容器(幅:800mm、高さ:1300mm、奥行き:1800mm)の中央部に配置した。なお、直方体紡糸容器の内側には、上壁面から500mm下方側の位置に塩化ビニル製パンチングプレートを上壁面と平行に配置し、下壁面から100mm上方側の位置に塩化ビニル製パンチングプレートを下壁面と平行に配置した。また、ベルト状捕集体の移動方向端部に紙管を巻取り装置として配置した。この紙管はベルト状捕集体の移動に従動して回転し、静電紡糸不織布を巻き取ることができるものであった。
【0037】
そして、直方体紡糸容器の上壁面に温湿度調整機能を備えた送風機(PAU−1400HDR、(株)アピステ、気体供給装置)を接続するとともに、直方体紡糸容器の下壁面に排気ファンを接続した。
【0038】
(3)静電紡糸不織布の製造;
前記ポリマー溶液をポリエチレン製フレキシブルバッグに入れ、前記マイクロポンプを用いてポリマー溶液をポリマー溶液供給部材へ供給し、この供給したポリマー溶液を各貫通孔4から紡糸空間へ供給(1つあたりの供給量:5cc/時間)し、また、前記高電圧電源からポリマー溶液に+14kVの電圧を印加し、供給したポリマー溶液に電界を作用させて繊維化し、前記ベルト状捕集体上に集積させて、平均繊維径0.36μmの連続繊維からなる静電紡糸不織布(目付:4.5g/m)を製造した。なお、静電紡糸不織布を製造する際には、気体供給装置から温度25℃、相対湿度25%の調湿エアを5m/分で供給するとともに、排気口から出てくる気体を排気ファンで排気した。なお、ポリマー溶液を紡糸空間へ供給して紡糸した際に繊維が付着する場合があったが、容易に除去することができた。この製造方法によれば、従来よりも低い印加電圧で安定して静電紡糸不織布を製造することができた。
【0039】
(比較例1)
直線状ステンレススチール管(内径:4mm、外径:6mm、長さ:300mm)に、直線状に、ピッチ60mmの同間隔で5本のノズル(それぞれ内径が0.4mmのステンレススチール製針状ノズル)を一列に配置したポリマー溶液供給部材を用意し、このポリマー溶液供給部材を使用したこと以外は、実施例1と全く同様にして平均繊維径0.35μmの連続繊維からなる静電紡糸不織布(目付:4.5g/m)を製造した。なお、この場合、ポリマー溶液のノズルから紡糸空間への供給量は1本あたり3cc/時間で、実施例1よりも供給量が少なく、生産性に劣っていた。また、ポリマー溶液を紡糸空間へ供給して紡糸した際に繊維がノズル先端に付着する場合があったが、繊維を除去するのが困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ポリマー溶液供給部材をよこ方向から見た図
【図2】中空管の最下点における横断面図
【図3】別の中空管の最下点における横断面図
【図4】更に別の中空管の最下点における横断面図
【図5】更に別の中空管の最下点における横断面図
【図6】更に別の中空管の最下点における横断面図
【図7】更に別の中空管の最下点における横断面図
【図8】別のポリマー溶液供給部材をよこ方向から見た概念図
【図9】更に別のポリマー溶液供給部材をよこ方向から見た概念図
【符号の説明】
【0041】
1:ポリマー溶液供給部材
2:中空管
3:中空部
4:貫通孔
5:平坦化補助材
PL1〜PL8:最下点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸法に用いる、ポリマー溶液を紡糸空間へ供給するポリマー溶液供給部材であり、前記ポリマー溶液供給部材は中空部を有する中空管が、よこから見た時に波型形状を有する状態にあり、前記波型形状の最下点及び/又は最上点に、前記中空部の内周壁から外周壁に貫通する貫通孔を備えていることを特徴とする、ポリマー溶液供給部材。
【請求項2】
外周壁の貫通孔が貫通した部分が平坦又は窪んでいることを特徴とする、請求項1記載のポリマー溶液供給部材。
【請求項3】
中空管が螺旋状態にあることによって、よこから見た時に波型形状を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のポリマー溶液供給部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリマー溶液供給部材を備えた静電紡糸装置。
【請求項5】
請求項4に記載の静電紡糸装置を用いる静電紡糸不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−50719(P2008−50719A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228613(P2006−228613)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】