説明

ポリマー組成物

【課題】例えば導電性接着剤、ダイアタッチフィルム、ACF(異方性導電膜)など、電子材料分野において接着性や導電性と共に高耐熱性が要求される材料に利用可能なポリマー組成物を提供する。
【解決手段】特定式で表される(A)シロキサンポリイミド樹脂と、体積平均粒径1〜100nmの粒子径を有した(B)銀微粒子とを含んだポリマー組成物であり、(B)銀微粒子の含有量が、(A)シロキサンポリイミド樹脂と(B)銀微粒子の総量に対して1〜95重量%であり、かつ、離型処理された基材に塗布して150℃で10分間熱風乾燥させて得た厚さ50μmのフィルムにおいて、ガラス転移温度が150〜250℃、260℃での弾性率が1〜300MPa、及び体積抵抗率が1.0×10Ω*cm以下のポリマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー組成物に関し、詳しくは、導電性接着剤等のように、電子材料分野において、接着性及び導電性と共に高い耐熱性が求められる材料として利用可能なポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野において、導電性材料の需要が更に高まってきている。例えば、その代表的な例として導電性接着剤が挙げられる。導電性接着剤はデバイスの小型化等の進展に伴い、ハンダでは対応できない接合用途で使用されており、また近年では実装材料の鉛フリー化に対して、鉛の代替製品としても注目されてきている。
【0003】
一般的に、導電性材料において導電性を発現する手法として、ポリアセチレン、ポリチオフェンなどに代表される導電性ポリマーを使用する手法や、導電性を示す金、銀、銅、ニッケル等の金属物質を絶縁材料に配合する手法がある。特に導電性接着剤においては、導電性のほか、接着性、耐熱性などの機能も保持する必要があるため、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂等に金属物質を配合させることが一般的である。
【0004】
ところで、電子材料分野においてシロキサンポリイミド樹脂を使用する例が多く知られている。これは、ポリイミド樹脂等にシロキサン骨格を導入することで、半導体装置の表面コーティング剤、IC回路の層間絶縁膜、パッシベーション膜等の用途に代表されるシリコン含有基材との密着性を高めるためである。例えば、半導体素子等の電子部品を被覆してレーザーマーキングを行うのに好適なシロキサンポリイミドフィルム(特許文献1参照)や、シロキサンポリイミドを含んで半導体デバイス向けのダイアタッチフィルム用途に適した接着剤組成物(特許文献2参照)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、シロキサンポリイミド樹脂はシロキサン含有率が上昇するに従い、ガラス転移温度が低下し、耐熱性が低下するといった問題がある。そのため、例えば半導体デバイスをプリント配線板上に接合する際、シロキサンポリイミド樹脂を含んだ接着剤がリフロー炉における高温雰囲気に耐えることができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−304024号公報
【特許文献2】特開2008−94865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、例えば導電性接着剤、ダイアタッチフィルム、ACF(異方性導電膜)など、電子材料分野において接着性や導電性と共に高耐熱性が要求される材料に利用可能なポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、従来技術の問題点を解消すべく、接着性や導電性と共に優れた耐熱性を発現せしめることができるポリマー組成物について鋭意検討した結果、特定のシロキサンポリイミド樹脂と銀微粒子とを配合することで、導電性のみならず、耐熱性も向上する効果があること見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)下記一般式(1)
【化1】


〔式中のAr1及びAr4は芳香族テトラカルボン酸二無水物から生じる4価の芳香族基を示し、Ar2及びAr3は2価の芳香族基を示し、Xは存在しないか-O-、-CO-、-SO-、=S=、-CH2-、-C(CH3)2-、又は-C(CF3)2-を示し、R1及びR2は炭素数1〜6の2価のアルキレン基又はフェニレン基を示し、R3〜R6は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、m及びnは1〜10の自然数を示し、lは平均値であり1〜10の数を示す〕で表される(A)シロキサンポリイミド樹脂と、体積平均粒径1〜100nmの粒子径を有した(B)銀微粒子とを含んだポリマー組成物であり、(B)銀微粒子の含有量が、(A)シロキサンポリイミド樹脂と(B)銀微粒子の総量に対して1〜95重量%であり、かつ、離型処理された基材に塗布して150℃で10分間熱風乾燥させて得た厚さ50μmのフィルムにおいて、ガラス転移温度が150〜250℃であり、260℃での弾性率が1〜300MPaであり、及び体積抵抗率が1.0×10Ω*cm以下であることを特徴とするポリマー組成物。
(2)(B)銀微粒子が、銀イオン含有溶液に含窒素化合物を添加して還元剤により還元されて得られる(1)記載のポリマー組成物。
(3)(1)又は(2)に記載のポリマー組成物を離型処理された基材に塗布し、熱処理を施し乾燥させて得られるフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリマー組成物は、例えば導電性接着剤、ダイアタッチフィルム、ACF(異方性導電膜)などの電子材料分野における材料として好適に利用することができ、接着性や導電性と共に優れた耐熱性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における実施例1のポリマー組成物に配合した銀微粒子のTEM写真である。
【図2】本発明における実施例及び比較例のポリマー組成物を所定のフィルムにして測定したガラス転移温度測定データである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリマー組成物は、下記一般式(1)
【化2】


〔式中のAr1及びAr4は芳香族テトラカルボン酸二無水物から生じる4価の芳香族基を示し、Ar2及びAr3は2価の芳香族基を示し、Xは存在しないか-O-、-CO-、-SO-、=S=、-CH2-、-C(CH3)2-、又は-C(CF3)2-を示し、R1及びR2は炭素数1〜6の2価のアルキレン基又はフェニレン基を示し、R3〜R6は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、m及びnは1〜10の自然数を示し、lは平均値であり1〜10の数を示す〕で表される(A)シロキサンポリイミド樹脂を含むが、組成物中における(A)シロキサンポリイミド樹脂の含有量については、好ましくは1〜29重量%、より好ましくは10〜25重量%であるのがよい。10重量%より少ないと組成物をフィルム化した際に脆弱性の大きいフィルムとなり、反対に25重量%より多いと組成物ワニスの粘度が高くなりフィルム化が困難となる。
【0013】
一般式(1)で表される(A)シロキサンポリイミド樹脂を得る方法については特に制限はないが、好ましくは次のような(C)芳香族テトラカルボン酸二無水物と(D)ジアミンとから得られるようにするのがよい。
【0014】
先ず、(D)ジアミンについては、下記一般式(2)で表される芳香族ジアミン(D1)と下記一般式(3)で表されるシロキサンジアミン(D2)とを必須成分として含有させるのが接着性と耐熱性の点から望ましい。この場合、(D)ジアミン中の(D1)成分の含有量が30〜95モル%であり、(D2)成分の含有量が5〜70モル%の範囲とするのがよい。
【化3】


(式中、Ar2及びAr3は2価の芳香族基を示し、Xは存在しないか-O-、-CO-、-SO-、=S=、-CH2-、-C(CH3)2-、又は-C(CF3)2-を示す。)
【化4】


(式中、R1及びR2は炭素数1〜6の2価のアルキレン基又はフェニレン基を示し、R3〜R6は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、m及びnは1〜10の自然数を示し、lは平均値であり1〜10の数を示す。)
【0015】
ここで、上記の一般式(2)で表される芳香族ジアミン(D1)において、Ar2及びAr3は単独に炭素数6〜12の2価の芳香族基を示すのが好ましい。このような芳香族基を形成する構造として例えばベンゼン、ジフェニルエーテル、ビフェニルなどであり、これらは水酸基、アミノ基、カルボキシル基などの反応性置換基を1つ以上有していてもよい。望ましくはベンゼン環を2個以上有し、より望ましくは2〜5個有する芳香族ジアミン化合物を主として含有する芳香族ジアミンを挙げることができ、これらを単独あるいは2個以上混合して使用することができる。(D1)成分のより好ましい具体例としては、1,5-ビス(p-アミノフェノキシ)ペンタン、1,4-ビス(アミノフェノキシ)ブタン等が挙げられる。
【0016】
また、上記の一般式(3)で表されるシロキサンジアミン(D2)において、R1及びR2は独立に2価の炭化水素基を示し、炭素数が1〜6であるのがよく、より好ましくは炭素数が3〜5のアルキレンまたはフェニレンであるのが好ましい。また、R3〜R6は独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、メチル基、エチル基、プロピル基またはフェニル基から選ばれるものが好ましい。更に、lは平均繰り返し単位を表し、1〜10の数である。シロキサンジアミン(D2)の具体的化合物の例としては、ω,ω’-ビス(2-アミノエチル)ポリジメチルシロキサン、ω,ω’-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、ω,ω’-ビス(3-アミノフェニル)ポリジメチルシロキサン、ω,ω’-ビス(3-アミノプロピル)ポリジフェニルシロキサン、ω,ω’-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルフェニルシロキサンなどが挙げられる。
【0017】
(D)ジアミン成分中の芳香族ジアミン(D1)については30〜95モル%の範囲で使用するのがよく、好ましくは40〜70モル%の範囲で使用するのがよい。芳香族ジアミン(D1)の割合が30モル%未満であると耐熱性の低いものとなり、反対に95モル%を超えると接着性の低いものとなる。また、(D)ジアミン成分中のシロキサンジアミン(D2)は5〜70モル%の範囲で使用するのがよく、好ましくは30〜60モル%の範囲で使用するのがよい。シロキサンジアミン(D2)の割合が5モル%に満たないと接着性の低いものとなり、反対に70モル%を超えると耐熱性の低いものとなる。これら以外の他のジアミン(D3)も少量であれば用いることができるが、有機溶媒に対する溶解性などを配慮して適宜選択することができる。
【0018】
次に、(A)シロキサンポリイミド樹脂の製造に用いられる(C)芳香族テトラカルボン酸二無水物については、特に制限されるものではないが、具体的にはピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,2,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’’,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3 - ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物などが挙げられる。また、これらは単独で又は2種類以上混合して用いることができる。
【0019】
上記で挙げた(C)芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例の中でも、ピロメリット酸二無水物、及び下記一般式(4)
【化5】


(式中Yは不存在か、-CO-または-SO2-のいずれかを示す。Ar5及びAr6はベンゼン環また置換基を有するベンゼン環を示す)で示される酸二無水物から選ばれるものが好ましい。ここでAr5又はAr6の置換基を有するベンゼン環の置換基としては炭素数1〜4の低級アルキル基が好ましく、1つのベンゼン環中の置換基の数は0〜2が好ましい。より好ましい(C)芳香族テトラカルボン酸二無水物の例としては、ポリイミド樹脂とした際の有機溶媒に対する溶解性に優れるという観点から4,4'-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)または3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)が好適である。
【0020】
一般式(1)で表される(A)シロキサンポリイミド樹脂は、公知の重合方法を用いて得ることができ、シロキサンポリイミド前駆体樹脂を経て製造することができるが、このシロキサンポリイミド前駆体樹脂は、シロキサンジアミン(D2)を用いない全芳香族ポリイミド前駆体樹脂に比べて加水分解性が高く、溶液中での保存安定性に劣るため、脂肪族直鎖を有する芳香族ジアミンを重合する前に、(C)芳香族テトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミン(D2)とを反応させたアミック酸部位をあらかじめイミド化しておくことが望ましい。
【0021】
具体的には、先ず、あらかじめ(C)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機溶媒中に溶解あるいは懸濁させておき、シロキサンジアミン(D2)を徐々に添加する。その後、150〜210℃の温度で縮合水を除去しながら10〜24時間重合およびイミド化を行い、末端に酸無水物基を有するシロキサンポリイミドオリゴマーを得る。次に、一旦、反応混合物を室温まで冷却した後、酸無水物と全ジアミン成分が等モルになるように、脂肪族直鎖を有する芳香族ジアミン又はそれとその他のジアミン(D3)からなるジアミン混合物を添加し、10〜80℃で1〜3時間反応させて、ポリイミド前駆体樹脂溶液を得る。
【0022】
なお、反応に用いられる有機溶媒は特に限定されるものではないが、樹脂組成物の主成分を均一溶解可能なものならば、1種類又は2種類以上を併用した混合溶媒であっても差し支えない。例えばフェノール系溶媒、アミド系溶媒(ピロリドン系溶媒、アセトアミド系溶媒など)、オキサン系溶媒(ジオキサン、トリオキサンなど)、ケトン系溶媒(シクロヘキサノンなど)、グライム系溶媒(メチルグライム、メチルトリグライムなど)などがある。また、必要に応じて、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒を、均一に溶解できる範囲で混合し使用することもできる。反応時間の短縮、溶媒散逸の問題により、沸点150℃以上のものがよく、特に200℃以上である有機極性溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリジノン、メチルトリグライムなど)が最も好ましい。
【0023】
また、本発明のポリマー組成物には、体積平均粒径1〜100nmの粒子径を有した(B)銀微粒子が(A)シロキサンポリイミド樹脂と(B)銀微粒子の総量(固形分換算)の1〜95重量%、好ましくは25〜60重量%配合される。組成物中に含まれる(B)銀微粒子の含有量が1重量%より少ないと、期待される導電性及び耐熱性の向上効果が十分に発現せず、反対に95重量%を超えると組成物をフィルム化した際に脆弱性が大きなフィルムとなる。また、(B)銀微粒子の含有量が25〜60重量%であると組成物をフィルム化する際に、適度な組成物ワニス粘度を得ることができ、また、適度なフィルム性と共に導電性及び耐熱性を保持したフィルムを得ることができる点で好都合である。
【0024】
ポリマー組成物に配合する(B)銀微粒子については、公知の調製方法を用いて得ることができるが、好ましくは(E)銀イオン含有溶液に(F)含窒素化合物の保護剤を添加し、銀イオンの周囲を保護した状態で、(G)還元剤を投入し、還元調製されるものがよい。
【0025】
(B)銀微粒子の調製の際に使用される(E)銀イオン含有溶液は、銀化合物を水系溶媒に溶解させることで得ることができる。代表的な銀化合物としては、例えばAgNO3、AgBF4、AgPF6、Ag2O、CH3COOAg、AgCF3SO3、AgClO4、AgCl等を挙げることができる。
【0026】
(B)銀微粒子の調製の際に使用される(F)含窒素化合物は、特に限定されるものはないが、アミン系化合物が好ましく、その中でもCxH2x+1NH2もしくはCyH2y-1NH2の構造を有し、上記xは2〜20の値を有するものを用いることがより好ましい。アミン系化合物の例として、プロピルアミン(x=3)、ブチルアミン(x=4)、オクチルアミン(x=8)、デシルアミン(x=10)、ドデシルアミン(x=12)、ヘキサデシルアミン(x=16)、オレイルアミン(y=18)等が挙げられるが、好ましいのがオレイルアミン(y=18)である。
【0027】
(F)含窒素化合物は、銀化合物に対して1以上のモル比で混合されることが望ましい。1未満であると銀イオンを十分に保護できず、溶液中での銀イオンの分散性が悪くなり、調製される微粒子の大きさが均一とならず、また(A)シロキサンポリイミド樹脂中での分散性も悪くなる。
【0028】
(B)銀微粒子の調製の際に使用される(G)還元剤としては、公知のものを使用することができる。例えばNaBH4、LiBH4、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド(tetrabutylammoniumborohydride) (TBAB)等の水酸化ホウ素塩、N2H4等のヒドラジン、グリコール、グリセロール等のアルコール、ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド、タンニン酸やシトレートなどの酸を挙げることができる。その中でも、NaBH4が好ましい。
【0029】
上述したように、(B)銀微粒子は、公知の調製方法(気相法、液相法)を用いることができるが、高価な装置等を必要としない溶液法が好ましい。溶液法には、水系溶媒にて銀微粒子を調製する方法と水系溶液から非水系溶液に銀イオンを移動させることにより、非水系に分散可能な銀微粒子を調製する方法があるが後者の方が好ましい。これは、(B)銀微粒子に非水系での分散性を持たせることで、(A)シロキサンポリイミド樹脂や有機溶剤中における分散性も向上させるためである。
【0030】
(B)銀微粒子の具体的製法の一例を記すと、銀化合物を水系溶媒に溶解させた系中に非水系溶媒を添加し、これに、(F)含窒素化合物含有の非水系溶媒を添加し、激しく攪拌する。この際、反応液は水系と非水系溶媒の2相となる。これに、(G)還元剤含有の水系溶媒を添加し還元し、非水系溶媒中に分散した(B)銀微粒子を得ることができる。この非水系溶媒相を取り出し、減圧留去により溶媒を除去することで、黒色の(B)銀微粒子を得ることができる。調製された微粒子のサイズは体積平均粒径1〜100nmの大きさを有する。
【0031】
本発明のポリマー組成物は、接着性や導電性と共に耐熱性が求められる用途に適し、その利用分野については特に制限されないが、好適には電子材料分野で利用されるのがよく、より具体的には導電性接着剤、ダイアタッチフィルム、ACF(異方性導電膜)等に利用することができる。このうち、ダイアタッチフィルムやACF等に利用する場合はフィルム形態に成形して使用するのが一般的である。
【0032】
本発明のポリマー組成物をフィルム形態として使用する場合は、例えばフェノール系溶媒、アミド系溶媒(ピロリドン系溶媒、アセトアミド系溶媒など)、オキサン系溶媒(ジオキサン、トリオキサンなど)、ケトン系溶媒(シクロヘキサノンなど)、グライム系溶媒(メチルグライム、メチルトリグライムなど)の単独又は混合物に(B)銀微粒子を添加し、十分に攪拌させる。その後、(A)シロキサンポリイミド樹脂を添加し、再度十分に攪拌させたワニスを、離型処理されたPP、PE、PET等の基材(保護フィルム)にロールナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーターなど一般的に公知の方法に従って塗工し、熱処理を施し、乾燥することで得られる。本発明の組成物から形成されるフィルムの厚みは、半導体装置内の半導体素子、配線基板間に使用されるダイアタッチフィルムやACF用途に応用する観点から10〜150μmの範囲であることが好ましい。本発明のポリマー組成物は、離型処理された基材に塗布して150℃で10分間熱風乾燥させて得た厚さ50μmのフィルムの場合において、i)ガラス転移温度が150〜250℃、好ましくは200〜250℃であり、ii)260℃での弾性率が1〜300MPa、好ましくは1〜20MPaであり、iii)体積抵抗率が1.0×10Ω*cm以下、好ましくは8.0×10Ω*cm以下である。なお、基材の離型処理とは、例えばプラスチックフィルムの表面を離型改質する場合において通常行われるような、シリコーンコートやフッ素コートによる処理である。
【0033】
また、ダイアタッチフィルムやACFのようなフィルム状接着剤用途で利用する場合は、本発明のポリマー組成物中に、(H)熱硬化性樹脂や(I)硬化剤を添加し、熱硬化させてより高い接着力を保持させるようにするのが望ましい。ここで、(H)熱硬化性樹脂の使用量は、好ましくは(A)シロキサンポリイミド樹脂に対して1〜90重量%とするのがよい。また、(H)熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等が使用できるが、その中でもエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の骨格としては、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ビフェニル型、フルオレンビスフェノールA型、トリアジン型、ナフトール型、ナフタレンジオール型、トリフェニルメタン型、テトラフェニル型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、トリメチロールメタン型などが使用できる。
【0034】
また、(I)硬化剤としては、アミン類、酸無水物類、多価フェノール類等の公知の硬化剤を用いることができるが、代表的には、ジシアンジアミド、イミダゾール類、ヒドラジド類、三弗化ホウ素−アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン塩及びこれらの変性物等を例示でき、更にはマイクロカプセル型のものも使用可能である。これらは、単独で又は2種以上を混ぜて使用できる。(I)硬化剤の使用量は、通常、(H)熱硬化性樹脂に対して0.5〜50重量%の範囲である。
【実施例】
【0035】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、「ガラス転移温度」、「弾性率」、「体積抵抗率」は次のように評価した。
【0036】
「ガラス転移温度」、「弾性率」
(A)シロキサンポリイミド樹脂と(B)銀微粒子とを配合した組成物をシリコーンにより離型処理したPET(Polyethylene terephthalate)基材に塗布し、150℃で10分間熱風乾燥させて厚さ50μmのフィルム状に成形し、一定試験片(5mm×17mm)にサンプルカットし、動的粘弾性測定装置(UBM製 Rheogel-E4000F)を使用して、測定温度範囲30〜300℃、昇温速度5℃/min、及び周波数1Hzの条件下で測定を行った。そして、tanδのピークトップ温度を「ガラス転移温度」として評価した。また、260℃での弾性率の値を「弾性率」として評価した。
【0037】
「体積抵抗率」
(A)シロキサンポリイミド樹脂と(B)銀微粒子とを配合した組成物を「ガラス転移温度」及び「弾性率」の評価の場合と同様にしてフィルム状にし、一定試験片(100mm×100mm)にサンプルカットし、体積抵抗率測定装置(KEITHLEY製 絶縁抵抗計/エレクトロメーター 6517A型)を使用して、印加電圧0.1V及び測定時間720secの条件下で測定を行った。
【0038】
[実施例1]
AgNO3水溶液(0.792g/450ml)を調製し、トルエン450ml、オレイルアミントルエン溶液(10.332g/450ml)を3Lビーカーに入れて、マグネティックスターラーにて高速攪拌させた。これにNaBH4水溶液2.97g/450mlを添加して還元した。抽出ロートに入れトルエン相を取り出し、常温にてエバポレーターにて減圧蒸留し溶剤を揮発させた。これにエタノール200mlを添加し、冷蔵保管し、濾過することで(B)銀微粒子2.30gを取り出した。得られた(B)銀微粒子のTEM画像(倍率:200,000倍)を図1に示す。また、この得られた(B)銀微粒子のTEM画像から粒子2000個の大きさを測定し、これら値の平均値を体積平均粒径として求めたところ6.3±1.3nmであった。
【0039】
次に、(A)シロキサンポリイミド樹脂(カルボン酸0.2mol、アミン0.1mol、粘度4000〜15000poise、新日鐵化学製)のN-メチル-2-ピロリジノン溶液4.5g(樹脂:32.5wt%,溶剤:67.5wt%)に上記で得た(B)銀微粒子0.49gを添加し、MS攪拌機(松尾産業製、SNB-350)にて十分に攪拌させ、真空脱泡して混合ワニス(ポリマー組成物)を得た。そして、上記ワニスを簡易リバースコーターにより、シリコーンコートにより離型処理された厚さ50μmのPETフィルム上に塗布し、150℃で10分間熱風乾燥させ、厚さ50μmのフィルム状試験体を得た。
【0040】
[実施例2]
(B)銀微粒子の配合量を1.47gにしてワニスを得た以外は実施例1と同様にして実施例2に係るフィルム状試験体を得た。
【0041】
[実施例3]
(B)銀微粒子の配合量を2.25gにしてワニスを得た以外は実施例1と同様にして実施例3に係るフィルム状試験体を得た。
【0042】
[比較例1]
(B)銀微粒子を配合させないようにした以外は実施例1と同様にして、(A)シロキサンポリイミド樹脂(カルボン酸0.2mol、アミン0.1mol、粘度4000〜15000poise、新日鐵化学製)のN-メチル-2-ピロリジノン溶液4.5gを簡易リバースコーターにより厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム上に塗布し、150℃で10分間熱風乾燥させて、厚さ50μmの比較例1に係るフィルム状試験体を得た。
【0043】
[比較例2]
実施例1で調製した(B)銀微粒子の代わりに市販の(J)銀フィラー(AgC-209, 平均粒径3μm, 福田金属箔工業製)0.49gを配合した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るフィルム状試験体を得た。
【0044】
[比較例3]
(J)銀フィラーの配合量を1.47gにした以外は比較例2と同様にして比較例3に係るフィルム状試験体を得た。
【0045】
[比較例4]
(J)銀フィラーの配合量を2.25gにした以外は比較例2と同様にして比較例4に係るフィルム状試験体を得た。
【0046】
上記実施例1〜4、及び比較例1〜3のポリマー組成物の組成、及びフィルム状試験体の評価結果をまとめて表1に示す。表1中、「(A)シロキサンポリイミド樹脂」、「(B)銀微粒子」、及び「(J)銀フィラー」の欄の数値は、固形分量(g)を示し、「銀充填量」は(A)シロキサンポリイミド樹脂と(B)銀微粒子(比較例2〜4では(J)銀フィラー)の合計(固形分換算)に対する(B)銀微粒子(比較例2〜4では(J)銀フィラー)の割合(重量%)である。また、ガラス転移温度の測定データとして、上記実施例3、比較例1及び比較例4のフィルム状試験体で評価したtanδのチャートを図2に示す。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリマー組成物は、接着性や導電性と共に耐熱性が求められる用途に特に適し、導電性接着剤、ダイアタッチフィルム、ACF(異方性導電膜)、導電性封止材料等をはじめとして、電子材料分野で好適に利用することができる。また、例えば帯電防止材料や透明導電性が要求されるタッチパネル用途向け材料のような利用も可能であり、その工業的有用性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】


〔式中のAr及びArは芳香族テトラカルボン酸二無水物から生じる4価の芳香族基を示し、Ar及びArは2価の芳香族基を示し、Xは存在しないか-O-、-CO-、-SO-、=S=、-CH-、-C(CH)-、又は-C(CF)-を示し、R1及びR2は炭素数1〜6の2価のアルキレン基又はフェニレン基を示し、R〜Rは炭素数1〜6の炭化水素基を示し、m及びnは1〜10の自然数を示し、lは平均値であり1〜10の数を示す〕で表される(A)シロキサンポリイミド樹脂と、体積平均粒径1〜100nmの粒子径を有した(B)銀微粒子とを含んだポリマー組成物であり、(B)銀微粒子の含有量が、(A)シロキサンポリイミド樹脂と(B)銀微粒子の総量に対して1〜95重量%であり、かつ、離型処理された基材に塗布して150℃で10分間熱風乾燥させて得た厚さ50μmのフィルムにおいて、ガラス転移温度が150〜250℃であり、260℃での弾性率が1〜300MPaであり、及び体積抵抗率が1.0×10Ω*cm以下であることを特徴とするポリマー組成物。
【請求項2】
(B)銀微粒子が、銀イオン含有溶液に含窒素化合物を添加して還元剤により還元されて得られる請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリマー組成物を離型処理された基材に塗布し、熱処理を施し乾燥させて得られるフィルム。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−180327(P2010−180327A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25289(P2009−25289)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】