ポリマー結合層を備えた複合材要素
【課題】糸状体が基層に固定された複合材要素を提供する。
【解決手段】複合材要素は、基層、熱可塑性ポリマー材料、糸状体、および被覆層を備える。基層は、第1表面および反対側の第2表面を有する。ポリマー材料は、上記基層とは別個で、当該基層中に延び、少なくとも一部が上記第1表面に配置されている。糸状体は、上記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって当該第1表面と略平行なセクションを有し、上記ポリマー材料で基層に接合されている。被覆層は、上記第1表面に隣接して配置されるとともに、上記ポリマー材料で基層に接合され、当該基層との間に上記糸状体のセクションが配置されている。
【解決手段】複合材要素は、基層、熱可塑性ポリマー材料、糸状体、および被覆層を備える。基層は、第1表面および反対側の第2表面を有する。ポリマー材料は、上記基層とは別個で、当該基層中に延び、少なくとも一部が上記第1表面に配置されている。糸状体は、上記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって当該第1表面と略平行なセクションを有し、上記ポリマー材料で基層に接合されている。被覆層は、上記第1表面に隣接して配置されるとともに、上記ポリマー材料で基層に接合され、当該基層との間に上記糸状体のセクションが配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物、衣類、入れ物、運動用器材等に用いる
複合材要素に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の履物製品は一般的に、上部構造(アッパー)およびソール構造という2つの主要な要素を具備する。上部構造は、ソール構造に固定され、足を快適かつ確実に収容するための空洞を履物の内部に形成している。ソール構造は、上部構造の下面に固定され、上部構造と地面との間に位置付けられている。また、たとえば運動靴製品の中には、ソール構造がミッドソールおよびアウトソールを具備するものもある。ミッドソールは、歩行、走行、およびその他の歩行活動中に地面反力を減衰させて足や脚部への応力を軽減するポリマー発泡材料で形成してもよい。アウトソールは、ミッドソールの下面に固定され、耐久性のある耐摩耗材料で形成されたソール構造の地面係合部を構成している。また、ソール構造は、空洞内の足下面近くに位置し、履物の履き心地を向上させる中敷きを具備していてもよい。
【0003】
上部構造は一般的に、甲および爪先部分にわたって延び、足の内側(正中線に近い側)および外側(正中線から遠い側)に沿って、踵部分の周りまで延びている。バスケットシューズやブーツ等の履物製品の中には、上部構造が上方に足首周りまで延び、足首を支持できるようになっているものもある。一般的に、上部構造内部の空洞へは、履物の踵部分にある足首開口を介してアクセスすることができる。また、上部構造には靴紐システムが取り入れられて、上部構造の密着度合いの調整により、上部構造内の空洞に対する足の挿抜が可能となっていることが多い。この靴紐システムにより、着用者は上部構造の特定の寸法、特に胴回りを変更して、様々な寸法の足を収容することもできる。また、上部構造は、靴紐システムの下側に延び、履物の調整機能を向上させる舌部を具備していてもよく、さらに、踵の動きを制限するヒールカウンタを組み込んでいてもよい。
【0004】
従来、上部構造の製造には様々な材料が利用されている。たとえば、運動靴の上部構造は、外面層、中間層、および内面層を含む複数の材料層で構成してもよい。そして、上部構造の外面層を形成する材料は、たとえば耐伸縮性、耐摩耗性、柔軟性、通気性等の特性に基づいて選択してもよい。外面層に関しては、爪先部分および踵部分を皮革、合成皮革、またはゴム材料で形成して、比較的高い耐摩耗性を付与するようにしてもよい。この皮革、合成皮革、およびゴム材料は、上部構造の外面層のその他種々部位に対しては、所望の柔軟性および通気性を示さなくてもよい。したがって、外面層のその他部位は、たとえば合成繊維等で形成してもよい。このように、上部構造の外面層は、上部構造に異なる特性を付与する多種の材料要素で形成してもよい。上部構造の中間層は従来、緩衝効果により履き心地を向上させる軽いポリマー発泡材料で形成されている。同様に、上部構造の内面層は、足を直接囲む部位から汗を取り去る心地良い吸湿繊維で形成してもよい。運動靴製品の中には、これら各層を接着剤で結合するとともに、各要素の単一層化または上部構造の特定部位の強化のために縫い合わせを行っているものもある。このように、従来の上部構造は積層構成を有しており、各層は、履物の種々部位に異なる特性を付与している。
【発明の概要】
【0005】
基層、熱可塑性ポリマー材料、糸状体、および被覆層を備えた複合材要素を以下に示す。基層は、第1表面および反対側の第2表面を有し、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す。ポリマー材料は、上記基層とは別個のものであり当該基層中に延び、少なくとも一部が当該基層の第1表面に配置されている。糸状体は、上記基層の第1表面に隣接するセクションであって、少なくとも5cmの距離にわたって当該基層の第1表面と略平行なセクションを有し、上記ポリマー材料で当該基層に接合されている。被覆層は、上記基層の第1表面に隣接して配置されるとともに、上記ポリマー材料で当該基層に接合され、被覆層と当該基層との間に上記糸状体のセクションが配置されている。
【0006】
また、複合材要素の製造方法を以下に示す。この方法は、織物層の第1表面および反対側の第2表面に配置されるようにポリマー材料を当該織物層に組み込むことを含む。織物層には、糸状体のセクションが当該織物層に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって当該織物層と略平行となるように当該糸状体で刺繍を施す。また、当該織物層の第1表面に隣接して被覆層を配置し、上記織物層と当該被覆層との間に上記糸状体のセクションが配置されるようにする。そして、上記ポリマー材料を加熱して、上記糸状体のセクションおよび上記被覆層を上記織物層に接合する。
【0007】
本発明の種々態様を特徴付ける利点および新規性な特徴については、添付の特許請求の範囲において詳細に明示する。ただし、利点および新規性な特徴についての理解を深めるためには、本発明の種々態様に関連する多様な実施形態および構想を示した以下の記述内容および添付図面を参照してもよい。
上述の「概要」および以下の「詳細な説明」は、添付図面と併せて参照することによって理解が深まる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の態様に係る、上部構造を有する履物製品の外側立面図である。
【図2】履物製品の内側(正中線側)立面図である。
【図3】履物製品の平面図である。
【図4】履物製品の底面図である。
【図5】履物製品の後側立面図である。
【図6】上部構造の外側(正中線と反対側)部の少なくとも一部を構成する第1刺繍要素の平面図である。
【図7】上部構造の内側部の少なくとも一部を構成する第2刺繍要素の平面図である。
【図8A】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8B】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8C】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8D】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8E】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8F】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8G】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8H】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8I】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8J】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8K】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8L】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8M】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8N】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8O】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図9A】履物を組み立てる手順を示した立面図である。
【図9B】履物を組み立てる手順を示した立面図である。
【図9C】履物を組み立てる手順を示した立面図である。
【図9D】履物を組み立てる手順を示した立面図である。
【図10A】糸状体を基部に固定する第1手順を示した斜視図である。
【図10B】糸状体を基部に固定する第1手順を示した斜視図である。
【図10C】糸状体を基部に固定する第1手順を示した斜視図である。
【図10D】糸状体を基部に固定する第1手順を示した斜視図である。
【図11A】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図11B】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図11C】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図11D】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図12A】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図12B】糸状体を基部に固定する第3手順を示した斜視図である。
【図12C】糸状体を基部に固定する第3手順を示した斜視図である。
【図13】第3刺繍要素の斜視図である。
【図14】第3刺繍要素の断面図である。
【図15】第3刺繍要素の分解斜視図である。
【図16A】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16B】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16C】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16D】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16E】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16F】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16G】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図17A】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17B】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17C】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17D】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17E】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17F】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17G】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
序論
以下の記述および添付図面は、刺繍構成の上部構造を有する履物製品を開示している。また、上部構造の種々製造方法も開示している。これら上部構造および方法は、走行、特に短距離走に適した構成の履物を参照して開示している。上部構造に関する構想は、走行用に設計された履物にのみ限定されるものではなく、野球シューズ、バスケットシューズ、クロストレーニングシューズ、サイクリングシューズ、フットボールシューズ、テニスシューズ、サッカーシューズ、ウォーキングシューズ、ハイキングブーツ等、様々な種類の運動用履物に適用してもよい。また、これらの構想は、一般的には運動用履物と見なされないドレスシューズ、ローファー、サンダル、作業ブーツ等の種類の履物に適用してもよい。このように、本明細書に開示する構想は、幅広い種類の履物に当てはまる。さらに、本明細書に開示する構想は、衣類、鞄等の入れ物、運動用器材等、履物以外の製品に適用してもよい。
履物の全体構造
全体としてランニングシューズの構成を有し、ソール構造20および上部構造30を具備する履物製品10を図1〜図5に示す。図1および図2に示すように、履物10は、参照用として、前足部11、中足部12、および踵部13という大略3つの部分に分割してもよい。また、履物10は、外側(正中線反対側)部14および内側(正中線側)部15を具備する。前足部11は一般的に、爪先および中足骨を指骨に接続する関節に対応した履物10の部分を含む。中足部12は一般的に、足のアーチ部分に対応した履物10の部分を含む。踵部13は、踵骨を含む足の後側部分に対応している。外側部14および内側部15は、各部11〜13を通って延び、履物10の両側に対応している。なお、各部11〜13および両側部14、15は、履物10の各部位の境界を厳密に定める意図によるものではなく、履物10の大略的な部位を表すことによって以下の記述を補完するものである。また、各部11〜13および両側部14、15は、履物10のほか、ソール構造20、上部構造30、およびそれらの個別の要素に適用してもよい。
【0010】
ソール構造20は、上部構造30に固定されるとともに、履物10着用時は足と地面との間で延びている。ソール構造20は、摩擦を付与するほか、歩行、走行、またはその他の歩行活動中に足と地面との間で圧縮して地面反力を減衰可能である。なお、ソール構造20の構成は、様々な従来的または非従来的な構造を含むように大幅に異なるものであってもよい。ただし、ソール構造20の好適な構成においては、図1および図2に一例を示すように、第1ソール要素21および第2ソール要素22を具備する。
【0011】
第1ソール要素21は、履物10の長手方向の長さにわたって(すなわち、各部11〜13にわたって)延びており、ポリウレタンまたはエチルビニルアセテート等のポリマー発泡材料で形成してもよい。上部構造30の各部は、第1ソール要素21の側面を包み込むとともに、第1ソール要素21の下部に固定されている。第1ソール要素21の下部は、各部11〜13において露出し、履物10の接地表面部を構成している。また、各部12、13においては、第1ソール要素21の下部に固定された上部構造30の各部も露出し、使用中は地面と接触する場合がある。第1ソール要素21の上部は、足の下面(すなわち、足底面)と接触するような位置にあるため、上部構造30における足支持表面を構成している。ただし、構成によっては、上部構造30内でかつ第1ソール要素21の上部に隣接して中敷きを配置することにより、履物10の足支持表面を構成してもよい。
【0012】
第2ソール要素22は、各部11、12に配置され、第1ソール要素21および上部構造30の一方または両方に固定されている。第1ソール要素21の各部が上部構造30中に延びているのに対し、第2ソール要素22は履物10の外側にあり、各部11、12において接地表面部を構成している。第2ソール要素22は、摩擦を付与するため、複数の突起23を備えている。これら突起は、取り外し可能なスパイクの構成であってもよい。なお、第2ソール要素22の好適な材料としては、耐久性と耐摩耗性との両者を有するゴム等の様々なポリマー材料が挙げられる。
【0013】
上部構造30は、足を、収容し、ソール構造20に対して固定する空洞を履物10内部に画成している。より具体的に説明すると、この空洞は、足を収容する形状を有し、足の外側(正中線と反対側)、内側(正中線側)、上側、および下側に沿って延びている。空洞へは、少なくとも踵部13に配置された足首開口31を介してアクセスすることができる。着用者は、上部構造30の一部の靴紐開口部33を通って延びる靴紐32により、上部構造30の寸法を変更して、様々な大きさの足を収容することができる。また、着用者は、靴紐32により上部構造30を緩めて、空洞から容易に足を抜き出すことができる。なお、図示していないが、上部構造30は、靴紐32の下側に延び、履物10の履き心地または調整機能を向上させる舌部を具備していてもよい。
【0014】
上部構造30の靴紐32以外の主要な要素としては、第1刺繍要素40および第2刺繍要素50がある。第1刺繍要素40は、外側部14に対応した上部構造30の部分を構成している。第2刺繍要素50は、内側部15に対応した上部構造30の部分を構成している。したがって、各刺繍要素40、50は、各部11〜13を通って延びている。一般に、そして、以下に詳述する通り、上部構造30は、前足部11および踵部13における刺繍要素40、50の縁部を結合することによって実質的に組み立てられており、空洞の全体形状を付与している。また、上部構造30の組み立てにおいては、靴紐32を組み込み、刺繍要素40、50の一部を第1ソール要素21の側面周りで包み込み、当該一部を第1ソール要素21の下部に固定することを含む。
第1刺繍要素
図6には、基層41および複数の糸状体42を具備する第1刺繍要素40を個別に示す。基層41に対して糸状体42を固定または配置するには、以下に詳述する刺繍プロセスを利用する。一般的に、基層41は、刺繍プロセスにおいて糸状体42が固定される基板であり、糸状体42は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置される。また、糸状体42は、構造的要素として、たとえば特定方向への上部構造30の伸びを制限するか、または上部構造30の各部位を強化するものであってもよい。
【0015】
基層41は、単一の材料要素として図示しているが、複数の結合要素で構成してもよい。同様に、基層41は、単一の材料層、または複数の同一の広がりを有する層で構成してもよい。たとえば、基層41は、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、もしくは結合する結合層またはその他の固定要素を具備していてもよい。
基層41は、以下の構成要素における参照用の様々な縁部43a〜43dを画成している。縁部43aは、各部11〜13を通って延び、足首開口31の一部を画成している。縁部43bは、主に前足部11に配置され、一部の糸状体42の端点を構成している。縁部43bの反対側の縁部43cは、主に踵部13に配置され、一部の糸状体42の反対側の端点を構成している。縁部43a、43cはそれぞれ、履物10の製造工程において、前足部11および踵部13の第2刺繍要素50と結合される。縁部43aの反対側の縁部43dは、各部11〜13を通って延び、第1ソール要素21を包み込むとともに、第1ソール要素21の下部に固定されている。基層41の特定の構成および縁部43a〜43dの対応する位置および形状は、履物10の構成に応じて大幅に異なるものであってもよい。
【0016】
基層41は、任意の略2次元材料で形成してもよい。本発明において用いる「2次元材料」という用語またはその変形用語は、厚みより実質的に大きな長さおよび幅を有する略平坦な材料を包含するものである。したがって、基層41の好適な材料としては、種々織物、ポリマーシート、または織物とポリマーシートとの合成物等が挙げられる。織物は一般的に、ファイバー、フィラメント、または編糸から製造される。これらは、たとえば(a)接合、溶融、もしくはからみあいによりファイバーウェブから直接生成して不織布およびフェルトを構成するか、または(b)編糸の機械的操作により形成して織布を生成する。上記織物には、1方向または多方向の伸縮性を付与するように構成されたファイバーを組み込んでもよいし、たとえば通気性のある耐水性の障壁を構成する被覆を含んでいてもよい。また、ポリマーシートは、押し出し、圧延、またはポリマー材料での形成によって、略平坦な態様を有するものであってもよい。2次元材料には、2層以上の織物、ポリマーシート、または織物とポリマーシートとの合成物を含む層状材料または積層材料を包含してもよい。また、基層41には、織物およびポリマーシート以外の2次元材料を利用してもよい。なお、2次元材料は、滑らかな表面または大略的にキメのない表面を有するものであってもよいが、凹凸、突起、リブ、または種々パターン等の触感または表面特性を示すものもある。2次元材料は、表面特性を有する場合でも、略平坦であって、厚みより実質的に大きな長さおよび幅を有する。
【0017】
糸状体42の各部は、基層41を通って延びるか、または基層41に隣接している。糸状体42が基層41を通って延びる部分では、糸状体42が基層41に対して直接結合または固定されている。糸状体42が基層41に隣接している部分では、糸状体42が基層41に固定されていなくてもよいし、または、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、もしくは結合する結合層もしくはその他の固定要素と結合されていてもよい。また、上部構造30の構造的要素を構成するため、複数の糸状体42または個別の糸状体42のセクションを集約して、様々な糸状体群44a〜44eのうちの1つとしてもよい。糸状体群44aは、縁部43bと縁部43cとの間に延びることにより、履物10の各部11〜13を通って延びている糸状体42を具備する。糸状体群44bは、靴紐開口部33のすぐ隣りに配置され、靴紐開口部33から放射状外側に延びた糸状体42を具備する。糸状体群44cは、糸状体群44b(すなわち、靴紐開口部33に隣接する部分)から縁部43dに隣接する部分まで延びた糸状体42を具備する。糸状体群44dは、縁部43cから縁部43dまで延び、主に踵部13に配置された糸状体42を具備する。
【0018】
履物製品10は、全体としてランニングシューズの構成を有するものとして図示している。歩行、走行、およびその他の歩行活動に際して、履物10に生じる力は、上部構造30を様々な方向に伸ばす傾向にあり、様々な場所に集中する可能性がある。ここで、各糸状体42は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置されている。より具体的に説明すると、糸状体群44a〜44dは、複数の糸状体42または個別の糸状体42のセクションを集約したものであり、構造的要素を構成して様々な方向の伸びに抗するか、または力が集中する場所を強化している。糸状体群44aは、各部11〜13に対応した第1刺繍要素40の各部を通って延びているため、長手方向(すなわち、各部11〜13を通って、縁部43bと縁部43cとの間に延びる方向)の伸びに抗する。糸状体群44bは、靴紐開口部33に隣接しているため、靴紐32の引っ張りに起因する応力集中に抗する。糸状体群44cは、糸状体群44aに対して略垂直な方向に延びているため、内側〜外側方向(すなわち、上部構造30周りに延びる方向)の伸びに抗する。また、糸状体群44dは、踵部13に配置され、踵の動きを制限するヒールカウンタを構成している。糸状体群44eは、基層41の周囲に延びており、縁部43a〜43dの場所に対応している。このように、糸状体42は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置されている。
【0019】
糸状体42は、任意の略1次元材料で形成してもよい。本発明において用いる「1次元材料」という用語またはその変形用語は、幅および厚みより実質的に大きな長さを有する略細長の材料を包含するものである。したがって、糸状体42の好適な材料としては、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリル系、生糸、綿、カーボン、ガラス、アラミド類(たとえば、パラアラミド繊維やメタアラミド繊維等)、超高分子量ポリエチレン、および液晶ポリマー等で形成された様々なフィラメント、ファイバー、および編糸が挙げられる。編糸は、少なくとも1本のフィラメントまたは複数のファイバーで形成してもよい。フィラメントが無限の長さを有するのに対し、ファイバーは比較的短く、好適な長さの編糸を生成するには、一般的に紡績プロセスまたは撚糸プロセスを用いる。フィラメントとファイバーとは、たとえば長さが異なっていてもよいが、本明細書では、「フィラメント」および「ファイバー」という用語をほとんど同じ意味で使用する場合がある。フィラメントで構成する編糸については、単一のフィラメントまたは複数の個別フィラメントをグループ化したもので構成してもよい。また、編糸は、異なる材料で形成された別個のフィラメント、または2つ以上の異なる材料でそれぞれ形成されたフィラメントを具備していてもよい。ファイバーで構成する編糸についても、これと同じ考え方が当てはまる。このように、フィラメントおよび編糸は、幅および厚みより実質的に大きな長さを有する様々な構成であってもよい。また、糸状体42には、フィラメントおよび編糸以外の1次元材料を利用してもよい。1次元材料は、幅と厚みとが実質的に等しい断面(たとえば、円形または正方形等の断面)を有することが多いが、幅が厚みより大きい場合もある(たとえば、長方形、楕円形、あるいは細長形等の断面)。ただし、このように幅が大きな場合でも、材料の長さが幅および厚みより実質的に大きければ、1次元材料と見なしてもよい。
第2刺繍要素
図7には、基層51および複数の糸状体52を具備する第2刺繍要素50を個別に示す。基層51に対して糸状体52を固定または配置するには、第1刺繍要素40の形成に利用したプロセスと同様の刺繍プロセスを利用する。一般的に、基層51は、刺繍プロセスにおいて糸状体52が固定される基板であり、糸状体52は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置される。また、糸状体52は、構造的要素として、たとえば特定方向への上部構造30の伸びを制限するか、または上部構造30の各部位を強化するものであってもよい。
【0020】
基層51は、基層41に関して上述した2次元材料のいずれかを含む任意の略2次元材料で形成してもよい。基層51は、単一の材料要素として図示しているが、複数の結合要素で構成してもよい。同様に、基層51は、単一の材料層、または複数の同一の広がりを有する層で構成してもよい。たとえば、基層51は、糸状体52の各部を基層51に接合、固定、または結合する結合層またはその他の固定要素を具備していてもよい。さらに、糸状体52は、糸状体42に関して上述した1次元材料のいずれかを含む任意の略1次元材料で形成してもよい。
【0021】
基層51は、以下の構成要素における参照用の様々な縁部53a〜53dを画成している。縁部53aは、各部11〜13を通って延び、足首開口31の一部を画成している。縁部53bは、主に前足部11に配置され、一部の糸状体52の端点を構成している。縁部53bの反対側の縁部53cは、主に踵部13に配置され、一部の糸状体52の反対側の端点を構成している。縁部53a、53cはそれぞれ、履物10の製造工程において、前足部11および踵部13の第1刺繍要素40と結合される。縁部53aの反対側の縁部53dは、各部11〜13を通って延び、第1ソール要素21を包み込むとともに、第1ソール要素21の下部に固定されている。基層51の特定の構成および縁部53a〜53dの対応する位置および形状は、履物10の構成に応じて大幅に異なるものであってもよい。
【0022】
糸状体52の各部は、基層51を通って延びるか、または基層51に隣接していてもよい。糸状体52が基層51を通って延びる部分では、糸状体52が基層51に対して直接結合または固定されている。糸状体52が基層51に隣接している部分では、糸状体52が基層51に固定されていなくてもよいし、または、糸状体52の各部を基層51に接合、固定、もしくは結合する結合層もしくはその他の固定要素と結合されていてもよい。また、上部構造30の構造的要素を構成するため、複数の糸状体52または個別の糸状体52のセクションを集約して、様々な糸状体群54a〜54fのうちの1つとしてもよい。糸状体群54aは、前足部11および中足部12の前方部分に配置された糸状体52を具備しており、糸状体群54aの一部の糸状体52は、縁部53bから長手方向後方に延びている。糸状体群54bは、靴紐開口部33のすぐ隣りに配置され、靴紐開口部33から放射状外側に延びた糸状体52を具備する。糸状体群54cは、糸状体群54b(すなわち、靴紐開口部33に隣接する部分)から縁部53dに隣接する部分まで延びた糸状体52を具備する。糸状体群54dは、縁部53cから縁部53dまで延び、主に踵部13に配置された糸状体52を具備する。糸状体群54eは、踵部13および中足部12の後方部分に配置された糸状体52を具備しており、糸状体群54eの一部の糸状体52は、縁部53cから長手方向前方に延びている。糸状体群54fは、基層51の周囲に延びており、縁部53a〜53dの場所に対応している。
【0023】
第1刺繍要素40に関して上述した通り、履物10に生じる力は、上部構造30を様々な方向に伸ばす傾向にあり、様々な場所に集中する可能性がある。ここで、各糸状体52は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置されている。より具体的に説明すると、糸状体群54a〜54eは、複数の糸状体52または個別の糸状体52のセクションを集約したものであり、構造的要素を構成して様々な方向の伸びに抗するか、または力が集中する場所を強化している。糸状体群54aは、少なくとも前足部11に対応した第2刺繍要素50の各部を通って延びているため、長手方向の伸びに抗する。糸状体群54bは、靴紐開口部33に隣接しているため、靴紐32の引っ張りに起因する応力集中に抗する。糸状体群54cは、糸状体群54a、54eに対して略垂直な方向に延びているため、内側〜外側方向(すなわち、上部構造30周りに延びる方向)の伸びに抗する。糸状体群54dは、踵部13に配置され、踵の動きを制限するヒールカウンタの反対側を構成している。また、糸状体群54eは、少なくとも踵部13に配置されているため、長手方向の伸びに抗する。このように、糸状体52は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置されている。
構造的要素
「背景技術」の項で上述した通り、従来の上部構造は、その種々部位に異なる特性をそれぞれ付与する複数の材料層で構成されていてもよい。使用に際して、上部構造には大きな引張力が作用する場合があり、この引張力に抗するため、上部構造の各部位には1または複数の材料層が配置されている。すなわち、上部構造の特定部分に個別の層を組み込むことによって、履物の使用に際して生じる引張力に抗するようにしてもよい。たとえば、上部構造に織布を組み込むことによって、長手方向の耐伸縮性を付与するようにしてもよい。織布は、互いに垂直に編み込まれた編糸で形成されている。長手方向の耐伸縮性を得るために織布を上部構造に組み込んだ場合は、長手方向を向く編糸のみが長手方向の耐伸縮性に寄与することになり、長手方向に垂直な編糸は、長手方向の耐伸縮性にほとんど寄与しない。したがって、織布のおよそ半分の編糸は、長手方向の耐伸縮性に対して余分である。さらに別の例として、必要な耐伸縮性の度合いは、上部構造の様々な部位ごとに異なる場合がある。たとえば、上部構造の一部の部位が比較的高い耐伸縮性を要するのに対し、別の部位は比較的低い耐伸縮性でもよい場合がある。上記織布は、必要な耐伸縮性が高い部位および低い部位の双方に利用してもよいため、その織布に含まれる編糸の一部は、低い耐伸縮性でもよい部位においては余分となる。これらの各例において、余分な編糸は、履物の全体質量を増加させるだけで、有益な特性をもたらすものではない。耐摩耗性、柔軟性、通気性、緩衝効果、および吸湿性等のうちの1または複数を目的として利用される皮革やポリマーシート等の材料にも、これと同じ考え方が当てはまる。
【0024】
上述の内容に基づけば、複数の材料層で構成された従来の上部構造に利用される材料は、上部構造の所望の特性にさほど寄与しない余分な部分を有する場合がある。たとえば耐伸縮性に関しては、(a)より多くの方向に耐伸縮性を付与する材料、または(b)所要または所望以上の高い耐伸縮性を付与する材料を有する層が考えられる。このため、これら材料の余分な部分は、履物の全体質量を増加させるだけで、有益な特性をもたらさない場合がある。
【0025】
上部構造30は、従来の積層構成とは対照的に、余分な材料を最小限に抑えるように構成されている。基層41、51は、足を覆うものであるが、その質量は比較的小さい。また、糸状体42、52の一部(すなわち、糸状体群44a、54a、44c、54c、44d、54d、および54e)は、所望の特定方向に耐伸縮性を付与するように配置されており、糸状体42、52の数は、所望の耐伸縮性のみを付与するように選択されている。別の糸状体42、52(すなわち、糸状体群44b、44e、54b、および54f)は、上部構造30の特定部位を強化するように配置されている。このように、糸状体42、52の向き、場所、および数量は、特定の目的に応じた構造的要素を提供するように選択されている。
【0026】
上述の通り、糸状体群44a〜44d、54a〜54eはそれぞれ、構造的要素を提供する糸状体42、52のグループである。より具体的に説明すると、糸状体群44aは、外側部14に長手方向の耐伸縮性を付与するように配置されており、糸状体群44aの糸状体42の数は、特定の程度の耐伸縮性を付与するように選択されている。同様に、糸状体群54a、54eは、内側部15の各部11、13に長手方向の耐伸縮性を付与するように配置されており、糸状体群54a、54eの糸状体52の数は、各部11、13に特定の程度の耐伸縮性を付与するように選択されている。糸状体群44b、54bはそれぞれ、靴紐開口部33を強化しており、各靴紐開口部33の周りの糸状体の数は、特定の程度の強度を付与するように選択されている。糸状体群44c、54cはそれぞれ、靴紐開口部33から延びており、上部構造30周りに延びる方向に特定の程度の耐伸縮性を付与するように選択されている。また、糸状体群44c、54cの糸状体42の数は、特定の程度の耐伸縮性を付与するように選択されている。さらに、糸状体群44d、54dは、ヒールカウンタを構成するように配置されており、糸状体群44d、54dの糸状体の数は、ヒールカウンタに特定の程度の安定性を付与する。糸状体群44e、54fは、足首開口31を構成する刺繍要素40、50の部分と、相互に結合または履物10の他の部分に結合された刺繍要素40、50の部分とを含む刺繍要素40、50の縁部を強化している。このように、糸状体42、52が付与する特性の少なくとも一部は、糸状体42、52の向き、場所、および数量によって決まる。
【0027】
基層41、51は、履物10の特定の構成および使用目的に応じて、非伸縮性材料、1方向に伸縮する材料、または2方向に伸縮する材料等であってもよい。一般的に、2方向に伸縮する材料を使用すれば、上部構造30を足の輪郭に一致させる能力がより高くなるため、靴10の履き心地が向上する。基層41、51が2方向に伸縮する構成では、基層41、51と糸状体42、52とを組み合わせることによって、特定場所における上部構造30の伸縮特性が効果的に変化する。第1刺繍要素40に関しては、2方向に伸縮する基層41と糸状体42との組み合わせにより、異なる伸縮特性を有する領域が上部構造30に形成される。この領域には、(a)糸状体42が存在せず、上部構造30が2方向に伸縮する第1の領域と、(b)糸状体42は存在するが互いに交差せず、上部構造30が糸状体42と垂直な1方向に伸縮する第2の領域と、(c)糸状体42が存在して互いに交差し、上部構造30が実質的に伸縮しない第3の領域とが含まれる。第2刺繍要素50にも、これと同じ考え方が当てはまる。
【0028】
第1の領域は、糸状体が存在しない部位を含む。図6を参照して、符号45aで識別される領域は、糸状体42が存在しない第1の領域の例である。第1の領域には糸状体42が存在しないため、基層41は糸状体42による拘束を受けず、上部構造30は2方向に伸縮自在である。第2の領域は、糸状体42は存在するものの、略垂直で互いに交差することはない部分を含む。図6を参照して、符号45bで識別される領域は、第2の領域の例である。第2の領域では糸状体42が実質的に整列された状態であるため、糸状体42は、その整列方向の伸びに抗する。ただし、糸状体42は、その垂直方向の伸びには抗しない。このように、基層41は、糸状体42と垂直な方向には伸縮自在であるため、上部構造30は1方向に伸縮可能である。構成によっては、基層41が糸状体42と垂直な方向に少なくとも10%の伸びを示してもよい。ただし、基層41は、糸状体42の整列方向には実質的に伸縮しない。第3の領域は、糸状体42が存在し、略垂直(すなわち、60°より大きい角度)で互いに交差する部分を含む。図6を参照して、符号45cで識別される領域は、第3の領域の例である。糸状体42は、略垂直で互いに交差するため、実質的にすべての方向の伸びに抗する。このように、基層41はどの方向にも伸縮自在ではないため、第3の領域では、上部構造30が相対的に非伸縮構成となる。第2刺繍要素50にも、これと同じ考え方が当てはまる。図7に、第1の領域に対応する部分の例を符号55aで、第2の領域に対応する部分の例を符号55bで、第3の領域に対応する部分の例を符号55cで、それぞれ識別して示す。
【0029】
上記領域間の遷移は、糸状体42、52の相対的な数および向きが変化する部位間のインターフェース(境界)で生じる。上部構造30は、領域間のインターフェースにおいて、たとえば2方向の伸縮性から1方向の伸張性、2方向の伸張性から非伸張性、または1方向の伸張性から非伸張性へと変化してもよい。領域間の差異が糸状体42、52の相対的な数および向きであることを考えると、領域間の遷移は急激に生じる場合もある。すなわち、糸状体42、52の一方の厚みの空間では、上部構造30が領域間で遷移する場合がある。この領域間の急激な遷移を抑えるため、種々構造を採用してもよい。たとえば、領域間遷移に隣接する糸状体42、52は、伸縮特性を有していてもよい。たとえば第1の領域から第2の領域への遷移に際しては、インターフェースにおける糸状体42、52の伸縮特性によって、急激な遷移が抑えられる。構造上、遷移に隣接する(すなわち、糸状体群の境界近くの)糸状体42、52は、遷移から離れた(すなわち、糸状体群の中央近くの)糸状体42、52よりも高い伸縮性を有していてもよい。伸縮性以外にも、非伸縮性材料で形成された糸状体42、52が波形(すなわち、ジグザグ形状)を有することによって、遷移領域に伸縮性を持たせてもよい。
【0030】
糸状体42、52は、履物10の耐伸縮性以外の特性を変更するのに利用してもよい。たとえば、上部構造30の特定部位に耐摩耗性を追加付与するのに糸状体42、52を利用してもよい。また、たとえば前足部11およびソール構造20の隣接部等、上部構造30の摩耗が生じる部位に糸状体42、52を集中させてもよい。糸状体42、52は、耐摩耗性を目的として利用する場合、比較的高い耐摩耗特性を示す材料から選択してもよい。さらに、上部構造30の曲げ特性の変更に糸状体42、52を利用してもよい。すなわち、糸状体42、52の集中度が比較的高い部位は、糸状体42、52の集中度が比較的低い部位よりも曲げ度合いを小さくすることが可能である。同様に、糸状体42、52の集中度が比較的高い部位は、糸状体42、52の集中度が比較的低い部位よりも空気の透過度合いを小さくすることが可能である。
【0031】
図1〜図7における糸状体42、52の向き、場所、および数量は、本発明の種々態様の範囲内で靴10の好適な構成を例示することを意図したものである。履物10の別の構成では、一部の糸状体群44a〜44d、54a〜54eを削除するか、または糸状体群を追加することによって、履物10に別の構造的要素を設けるようにしてもよい。長手方向の耐伸縮性がさらに望まれる場合は、内側部14に糸状体群44aと類似の糸状体群を設けるか、または中足部12を通って延びるように糸状体群54a、54eを変更するようにしてもよい。一方、上部構造30周りの耐伸縮性がさらに望まれる場合は、糸状体群44c、54cに糸状体42、52を追加してもよい。同様に、上部構造30周りの耐伸縮性をさらに付与するには、前足部11または踵部13周りに延びる糸状体群を追加してもよい。
【0032】
糸状体42、52の向き、場所、および数量は、個人の走行スタイルまたは好みに応じて決めることも可能である。たとえば、回内運動(すなわち、足の内側への回転)の程度が比較的高い個人もいるため、糸状体群44cの糸状体42の数を増やすことによって、回内運動の程度を低減するようにしてもよい。また、長手方向の耐伸縮性を大きくしたい個人もいるため、糸状体群44aの糸状体42を増やすように履物10を改良するようにしてもよい。さらに、上部構造30の密着度合いをさらに高くしたい個人もおり、その場合は、糸状体群44b、44c、54b、および44cにより多くの糸状体42、52を追加するようにしてもよい。このように、履物10は、糸状体42、52の向き、場所、および数量を変更することにより、個人の走行スタイルまたは好みに応じてカスタマイズするようにしてもよい。
【0033】
基層41、51は、足の内側および外側の略全体を一体的に覆う構成として図示している。上述の通り、基層41、51は、刺繍プロセスにおいて糸状体42、52が固定される基板である。ただし、構成によっては、糸状体42、52が足または足に着用した靴下のすぐ隣りとなるように、基層41、51の一部を削除するようにしてもよい。すなわち、足を露出させる開口部または切り欠きを基層41、51に形成してもよい。また、別の構成においては、刺繍プロセス後に除去される水溶性の材料で基層41、51またはその一部を形成するようにしてもよい。すなわち、糸状体42、52を基層41、51に固定した後、上部構造30を溶解させるようにしてもよい。このように、靴10の構成によっては、基層41、51の一部または全部をないようにしてもよい。
【0034】
糸状体42、52の全長の大部分は、基層41、51に隣接しているものの、基層41、51に直接固定されているわけではない。そこで、たとえば糸状体42を正しい位置に配置するため、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、または結合する結合層またはその他の固定要素を利用してもよい。この結合要素またはその他の固定要素としては、糸状体42と基層41との間に配置され、加熱により糸状体42と基層41とを接合する熱可塑性ポリマーシート等が挙げられる。また、この結合要素またはその他の固定要素としては、糸状体42および基層41の上方に延びて糸状体42と基層41とを接合する熱可塑性ポリマーシートまたは織物等が挙げられる。さらに、この結合要素またはその他の固定要素としては、糸状体42と基層41とを接合する接着剤が挙げられる。また、構成によっては、糸状体42の上に別の糸状体を縫い付けて、糸状体42を基層41に固定するようにしてもよい。このように、糸状体42を基層41に固定する場合、様々な構造または方法を利用可能である。基層51と糸状体52との結合にも、これと同じ考え方が当てはまる。
【0035】
一部の糸状体群44a、44c、および44dに含まれる糸状体42の一部は、互いに略平行であってもよい。たとえば図6に示すように、糸状体42の当該部分間の距離は、実際には変化する。すなわち、糸状体42は、外側に向かって放射状に広がっている。糸状体群44aに関しては、中足部12において、一部の糸状体42が互いに比較的近接している。しかし、前足部11および踵部13に向かって糸状体42が延びるにつれて、個々の糸状体42間の距離は増加する。このように、糸状体42は、前足部11および踵部13では外側に向かって放射状に広がっている。同様に、糸状体群44cの一部の糸状体42についても、靴紐開口部33から離れる外側に向かって放射状に広がっている。上部構造30の靴紐開口部33に近接した部分では、糸状体42は互いに比較的近接しているが、上部構造30の靴紐開口部33から離間した部分では、互いに分離するか、または外側に向かって放射状に広がる傾向にある。上述の放射特性は、たとえば比較的小さな部位(たとえば、各靴紐開口部33等)から大きな部位への力の分散を目的として作用させてもよい。すなわち、この放射特性は、上部構造30の各部位へ力を分散させるために利用してもよい。
【0036】
上述の内容に基づけば、上部構造30の少なくとも一部は、糸状体42、52から構造的要素を構成する刺繍プロセスにより形成される。糸状体42、52の向き、場所、および数量によっては、上部構造30に様々な構造的要素が形成される場合がある。たとえば、このような構造的要素は、特定部位への耐伸縮性の付与、各部位の強化、耐摩耗性の向上、柔軟性の変更、または通気性部位の提供等を行うものであってもよい。このように、糸状体42、52の向き、場所、および数量を制御することによって、上部構造30および靴10の特性を制御するようにしてもよい。
刺繍プロセス
各刺繍要素40、50の製造方法の一例を図8A〜図8Oに示す。一般的に、第1刺繍要素40の形成に用いる種々工程は、第2刺繍要素50の形成に用いる工程と類似している。したがって、以下の説明では、第1刺繍要素40の製造方法に焦点を当てることとし、第2刺繍要素50については同様の方法で製造可能であると考える。
【0037】
第1刺繍要素40の少なくとも一部は、機械または手作業のいずれかによる刺繍プロセスによって形成する。機械刺繍に関しては、第1刺繍要素40の形成に従来の様々な刺繍機を利用してもよい。また、刺繍機は、1または複数の糸状体から特定のパターンまたはデザインを刺繍するようにプログラムしてもよい。一般的に、刺繍機は、糸状体の各部が様々な場所の間に延びて可視化されるように、糸状体の当該場所への固定を繰り返すことによってパターンまたはデザインを形成する。より具体的に説明すると、刺繍機は、(a)基層41の第1の場所に針で穴を開けて糸状体42の第1のループを基層41に通し、(b)糸状体42の第1のループを通る別の糸状体で第1のループを固定し、(c)糸状体42が第1の場所から延びて基層41の表面上で可視化されるように針を第2の場所に移動させ、(d)基層41の第2の場所に針で穴を開けて糸状体42の第2のループを基層41に通し、(e)糸状体42の第2のループを通る別の糸状体で第2のループを固定することによって、一連のロックステッチを形成する。このように、刺繍機は、糸状体42を2つの所定場所に固定するとともに、両場所間に糸状体42を延在させるように動作する。これらの工程を繰り返すことによって、糸状体42による刺繍が基層41に形成される。
【0038】
従来の刺繍機は、ロックステッチにより糸状体42を基層41に固定可能なサテンステッチ、ランニングステッチ、またはフィルステッチを形成することによって、基層41にパターンまたはデザインを形成してもよい。サテンステッチは、互いに近接して形成された一連のジグザグ状ステッチである。ランニングステッチは、2点間に延在し、精密な部分、縁取り、および下張りに利用されることが多い。フィルステッチは、互いに近接して形成された一連のランニングステッチであって、様々なパターンおよびステッチ方向を形成する。このフィルステッチは、比較的大きな部位を対象とする場合に利用されることが多い。サテンステッチに関しては、従来の刺繍機では一般的に12mmに制限されている。すなわち、従来の刺繍機でサテンステッチを形成する場合、糸状体が基層に固定される第1および第2の場所間の距離は12mmに制限される。したがって、従来のサテンステッチ刺繍には、12mm以下の距離だけ離れた場所の間に延びる糸状体を含んでいる。ただし、刺繍要素40の形成においては、12mmを超える間隔を空けた場所間に延びるサテンステッチを形成するように刺繍機を改良することが必要となる場合もある。本発明の一部の態様においては、たとえば5cmを超える間隔を空けてステッチを形成する場合がある。すなわち、たとえば12mmまたは5cmを超えて、基層41の表面上に糸状体が連続的に露出する場合がある。
【0039】
図8Aに関しては、刺繍工程で利用される従来の矩形フープ構成のフープ60と組み合わせて基層41を図示している。フープ60の主要な要素としては、外側リング61、内側リング62、およびテンショナー63がある。当技術分野で周知のように、外側リング61は内側リング62の周囲に延び、基層41の周辺部は外側リング61と内側リング62との間に延びている。テンショナー63は、内側リング62が外側リング61の内側に配置されるとともに、基層41が適当な位置で確実に保持されるように、外側リング61の張力を調整する。この構成において、基層41の中央部は単一の平面上に配置され、製造プロセスの以降の工程でも基層41が確実に固定されるように、わずかな張力を持たせてもよい。このように、フープ60は一般的に、第1刺繍要素40を形成する刺繍工程において基層41を確実に固定するフレームとして利用される。
【0040】
基層41がフープ60内に固定されると、刺繍機が糸状体42の配置と基層41への固定とを開始する。図8Bに示すように、刺繍機はまず、第1刺繍要素40の輪郭を形成する。この輪郭には、第1刺繍要素40の周囲に延び、縁部43a〜43dに対応した糸状体群44eが含まれる。足首開口31を構成する縁部43aの部分は、足首開口31に強度を付与するため、糸状体群44eのその他の部位よりも厚みを有するものとして図示している。第1刺繍要素40のさらに別の構成では、糸状体群44eの全体が厚い構成であってもよいし、または、足首開口31を構成する縁部43aの部分が相対的に薄い構成であってもよい。さらに、第1刺繍要素40の構成によっては、糸状体群44eの一部または全部を削除するようにしてもよい。また、糸状体群44eの形成には、サテンステッチ、ランニングステッチ、フィルステッチ、またはこれらの組み合わせ等、様々な種類のステッチを利用してもよい。
【0041】
糸状体群44eの形成後は、糸状体群44aの形成を行ってもよい。図8Cを参照して、第1刺繍要素40の外側の2点間には、糸状体42の一部42aが延びている。当該部分42aの端点はロックステッチで固定され、中央部(すなわち、端点以外の部位)は基層41に隣接はしているが、固定はされていない。すなわち、当該部分42aの中央部は、基層41の表面上に連続的に露出している。そして、刺繍機は、図8Dに示すように、糸状体42の比較的短い部分42bを形成し、部分42aと交差する別の部分42cを形成する。この基本手順は、図8Eに示すように、糸状体群44aが完成するまで繰り返す。
【0042】
糸状体群44cは、糸状体群44aと同様の方法で形成する。図8Fを参照して、糸状体群44eで形成した輪郭の内側の2点間には、糸状体42の一部42dが延びている。当該部分42dの端点はロックステッチで固定され、中央部(すなわち、端点以外の部位)は基層41に隣接はしているが、固定はされていない。また、中央部は、糸状体群44aと交差している。そして、刺繍機は、図8Gに示すように、糸状体42の比較的短い部分42eを形成し、上記と同じく糸状体群44aと交差する別の部分42fを形成する。この基本手順は、図8Hに示すように、糸状体群44cの種々部分のうちの1つが完成するまで繰り返す。その後、刺繍機は、図8Iに示すように、たとえば複数のサテンステッチを用いて、糸状体群44bの種々部分のうちの1つを形成する。この上述した糸状体群44cの種々部分のうちの1つおよび糸状体群44bの種々部分のうちの1つを形成する手順は、図8Jに示すように、さらに4回繰り返して各糸状体群44c、44bを形成する。
【0043】
構成によっては、糸状体群44cの端部が糸状体群44bの周囲に隣接していてもよい。ただし、図示のように、糸状体群44cは糸状体群44bの周囲を越えて延びている。すなわち、糸状体群44bを構成する糸状体42を超えて糸状体群44cが延びていてもよいし、または、糸状体群44cを構成する糸状体42を超えて糸状体群44bが延びていてもよい。より具体的に説明すると、各糸状体群44b、44cからの糸状体42は、絡み合っていてもよい。靴紐32が靴紐開口部33を通って延びるとともに張力が加わっている場合は、糸状体群44bが靴紐開口部33を強化するとともに、糸状体群44cが上部構造30の側面に沿って引張力を分散させる。糸状体群44b、44cを絡み合わせることによって、靴紐開口部33に加わる力はより効果的に糸状体群44cに伝達する。
【0044】
糸状体群44dは、糸状体群44a、44cと同様の方法で形成する。図8Kを参照して、糸状体群44eで形成した輪郭に隣接する踵部13の2点間には、糸状体42の一部42gが延びている。当該部分42gの端点はロックステッチで固定され、中央部(すなわち、端点以外の部位)は基層41に隣接はしているが、固定はされていない。すなわち、当該部分42gの中央部は、基層41の表面上に連続的に露出している。また、中央部は、糸状体群44aと交差している。この基本手順は、図8Lに示すように、糸状体群44dが完成するまで繰り返す。
【0045】
糸状体群44dが完成したら、糸状体群44bの中央に対応した部位に基層41を貫通する靴紐開口部33を形成してもよい。また、図8Mに示すように、基層41の糸状体群44eの外側部分から第1刺繍要素40を切り離して、縁部43a〜43dを形成するようにしてもよい。基層41の余分な部分からの第1刺繍要素40の切り離しにおいては、糸状体群44aを構成する糸状体42の各部が切断される。なお、上述の通り、基層41には、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、または結合する結合層またはその他の固定要素を具備していてもよい。以下に詳述するこの結合層またはその他の固定要素は、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離す前に追加または使用してもよい。
【0046】
図8A〜図8Mを参照して上述した第1刺繍要素40を形成する基本手順は、各糸状体群44a〜44eを形成する特定の順序を述べたものである。この順序では、糸状体群44c、44dが糸状体群44aと交差し、糸状体群44aが基層41と糸状体群44c、44dとの間に位置することになる。また、上述の順序では、糸状体群44b、44cが略同時に形成される。すなわち、糸状体群44cの一部が形成された後、糸状体群44bの一部が形成され、各糸状体群44b、44cが完成するまでこの手順が繰り返される。ただし、上述の順序は、第1刺繍要素40の形成に使用可能な様々な順序の一例に過ぎず、各糸状体群44a〜44eの形成には、その他様々な順序を利用してもよい。このように、図8A〜図8Mを参照して上述した基本手順は、第1刺繍要素40を形成する方法の一例を提供しているに過ぎず、代替として、その他様々な手順を利用してもよい。
【0047】
第2刺繍要素50は、第1刺繍要素40を形成するプロセスと同様の刺繍プロセスで形成してもよい。図8Nには、糸状体群54a〜54fを形成した刺繍プロセス後の第2刺繍要素50を図示している。この後には、糸状体群54bの中央に対応した部位に基層51を貫通する靴紐開口部33を形成してもよい。また、図8Oに示すように、基層51の糸状体群54fの外側部分から第2刺繍要素50を切り離して、縁部53a〜53dを形成するようにしてもよい。また、以下に詳述する通り、基層51の余分な部分から第2刺繍要素50を切り離す前には、糸状体52の各部を基層51に接合、固定、または結合する結合層またはその他の固定要素を追加してもよい。第1刺繍要素40と同様に、各糸状体群54a〜54fの形成には、様々な順序を利用してもよい。
靴の組み立て
刺繍要素40、50を上述の方法で形成したら、履物10を組み立てる。履物10を組み立てる方法の一例を図9A〜9Dに示す。まず、図9Aに示すように、前足部11および踵部13において刺繍要素40、50を一体的に固定することによって、上部構造30の製造を略完了させる。より具体的に説明すると、縁部43a、53aの前方部分を結合し、各縁部43c、53cも結合する。刺繍要素40、50の結合には、様々な種類のステッチまたは接着剤等を利用してもよい。
【0048】
上部構造30の完了後は、図9Bに示すように、ソール要素21、22の位置合わせを行う。そして、刺繍要素40、50の下部が第1ソール要素21の側面を包み込むように、刺繍要素40、50の間に第1ソール要素21を配置する。図9Cに示すように、刺繍要素40、50の下部を第1ソール要素21の下部に固定するには、たとえば接着剤を利用する。このように組み立てを行った後は、第1ソール要素21の上部の位置合わせを行って、上部構造30内部に足支持表面を設ける。ただし、構成によっては、上部構造30における第1ソール要素21の上部に隣接して中敷きを配置することにより、履物10の足支持表面を構成してもよい。
【0049】
その後、図9Dに示すように、第2ソール要素22を(たとえば接着剤等で)第1ソール要素21および刺繍要素40、50に固定する。この位置関係で、各刺繍要素40、50、第1ソール要素21、および第2ソール要素22は、履物10の接地表面部を構成している。第2ソール要素22には、摩擦を付与するため、取り外し可能なスパイクの構成の突起23を組み込んでもよい。最後に、従来の方法で靴紐開口部33に靴紐32を通すことによって履物10の組み立てを略完了させる。
固定要素
糸状体42の各セクション(たとえば、各部42a〜42g等)は、2つの端点と、当該端点間に延びる中央部とを有する。端点はロックステッチで固定され、中央部(すなわち、各セクションの端点以外の部位)は基層41に隣接はしているが、固定はされていない。この中央部を基層41に固定するため、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、また結合する結合層を利用してもよい。以下では、第1刺繍要素40に結合層またはその他の固定手段を追加可能な様々な方法について論じる。第2刺繍要素50についても、これと同じ考え方が当てはまる。
【0050】
糸状体42の各部を基層41に固定するための一手順を図10A〜図10Dに示す。図10Aには、刺繍プロセスで形成した第1刺繍要素40を図示しているが、基層41の余分な部分からの切り離しは行っていない(すなわち、図8Lの状態)。また、糸状体42を含む第1刺繍要素40の表面に結合層70を重ねて図示している。
結合層70は、たとえば1/1000〜3mmの厚みを有する熱可塑性ポリマー材料のシートである。結合層70の好適なポリマー材料としては、ポリウレタンやエチルビニルアセテート等が挙げられる。結合層70を加熱して第1刺繍要素40に接合するため、結合層70および第1刺繍要素40は、図10Bに示すように、加熱プレスの一対のプラテン71、72間に載置する。結合層70の温度が上昇するにつれて、結合層70を形成するポリマー材料は、基層41および糸状体42の構造に入り込むように盛り上がる。ここで、加熱プレスから取り出すと、結合層70は冷えて、図10Cに示すように、基層41に対して糸状体42を効果的に接合する。その後、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離してもよい。
【0051】
結合層70により、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離した後も、糸状体群44aは無傷である。また、結合層70により、たとえば糸状体群44c、44dの各部は、基層41に対して適切な位置を維持する。糸状体群44c、44dを構成する糸状体42の一部セクションの端点はロックステッチで基層41に固定されているが、結合層70がなければ、中央部は基層41に固定されていない。このように、結合層70は、基層41に対して各糸状体42を効果的に接合している。
基層41は、汗や熱気を上部構造30から除去可能な通気性構造を有していてもよい。ただし、結合層70の追加により、上部構造30の通気度合いが低下する場合もある。結合層70は、図10Aでは連続構造を有するものとして図示しているが、結合層70が望ましくない第1刺繍要素40の部位に対応した様々な開口部を有するように構成してもよい。このように、結合層70の開口部を利用して、上部構造30の通気特性を向上するようにしてもよい。また、結合層70の材料使用量を低減すれば、履物10の質量が最小限に抑えられて都合が良い。
【0052】
糸状体42の各部を基層41に固定する別の手順を図11A〜図11Dに示す。図11Aには、糸状体42を追加する前に結合層70に結合された状態の基層41を図示している。そして、図11Bに示すように、刺繍プロセスを利用して、結合層70が基層41と糸状体42との間となるように糸状体群44a〜44eを形成する。結合層70を加熱して糸状体42を基層41に接合するため、結合層70および第1刺繍要素40は、図11Cに示すように、加熱プレスのプラテン71、72間に載置する。そして、加熱プレスから取り出すと、結合層70は冷えて、基層41に対して糸状体42を効果的に接合する。その後、図11Dに示すように、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離してもよい。糸状体42は、基層41上で収縮する傾向にあるため、刺繍プロセスの間は張力を持たせてもよい。刺繍プロセスの前に結合層70を基層41に貼り付けると、糸状体42の耐収縮性に結合層70が寄与することになるため都合が良い。
【0053】
糸状体42の各部を基層41に固定するさらに別の手順を図12A〜図12Cに示す。図12Aには、刺繍プロセスで形成した第1刺繍要素40を図示しているが、基層41の余分な部分からの切り離しは行っていない(すなわち、図8Lの状態)。そして、図12Bに示すように、接着剤固定要素を第1刺繍要素40に噴霧または塗布することによって、糸状体42を基層41に固定している。その後、図12Cに示すように、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離してもよい。
積層構成
第1刺繍要素40の主要な要素としては、基層41、糸状体42、および結合層70がある。ただし、履物10の構成によっては、要素または層を追加して、履物10の耐久性、履き心地、または美的特性を向上するようにしてもよい。図13〜図15を参照すると、積層構成を有する複合材要素構成の刺繍要素80が開示されており、基層81、複数の糸状体セクション82、結合層83、被覆層84、および裏地層85を具備する。一般的に、基層81および結合層83は、刺繍要素80の中心的部分を構成している。糸状体セクション82は、被覆層84と基層81および結合層83の組み合わせとの間に配置されている。また、被覆層84および裏地層85はそれぞれ、刺繍要素80の両面にあって、刺繍要素80の対向する両表面を構成している。したがって、基層81、糸状体セクション82、および結合層83は、被覆層84と裏地層85との間に配置されている。
【0054】
基層81は、基層41に関して上述した略2次元材料のいずれかであってもよい。たとえば、基層81は、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す織物であってもよいし、伸縮性を付与するスパンデックス(エラステインとも称する)の含有量を比較的高くしてもよい。糸状体セクション82は、大略的に糸状体42の構成となっており、糸状体42に関して上述した略1次元材料のいずれかであってもよい。結合層83は、基層81に対して接合、結合、進入、あるいは組み込まれた熱可塑性ポリマー材料である。結合層83に好適な材料の例としては、熱可塑性ポリマーシート、ホットメルト材料、および熱可塑性ポリウレタン層が挙げられる。また、被覆層84および裏地層85についても、織物やポリマーシート等、基層41に関して上述した略2次元材料のいずれかであってもよい。
【0055】
たとえば図14には、刺繍要素80中の単一層としての基層81および結合層83を図示している。基層81および結合層83は、単一層を効果的に構成しているものの、後工程で結合される別個の材料である。以下に詳述する通り、結合層83の熱可塑性ポリマー材料は、基層81に進入または延入していてもよい。基層81がたとえば織物材料で形成されている場合、結合層83のポリマー材料は、基層81を構成する種々編糸、ファイバー、またはフィラメントの周囲および間に延びていてもよい。すなわち、結合層83のポリマー材料は、基層81の構造中に延入して、刺繍要素80内部に単一層を効果的に形成していてもよい。
【0056】
刺繍プロセスは、その結果としての材料の歪み、屈曲、皺、または変形の程度を制限するため、比較的堅固または非伸縮性の材料に適用されることが多い。上述の通り、基層81は、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す織物であってもよい。その場合、基層81に糸状体セクション82で直接刺繍を施すことによって、基層81に歪みまたは変形が生じる可能性がある。ただし、刺繍の前に、基層81に対して結合層83を結合、接合、もしくは固定することによって、安定性を付与するか、または基層81の変形度合いを制限するようにしてもよい。このように結合層83を利用することにより、刺繍プロセスにおいて基層81の安定性を効果的に得るようにしてもよい。
【0057】
結合層83は、刺繍プロセスにおいて基層81の安定化を図ることのほか、糸状体セクション82の位置を固定するとともに、被覆層84および裏地層85の両者を基層81に結合する。すなわち、結合層83は、刺繍要素80の様々な要素を一体的に接合する。上述の通り、結合層83は、基層81の構造中に進入もしくは延入する熱可塑性ポリマーシートまたはその他の熱可塑性ポリマー材料である。このような結合層83を加熱すると、基層81に対して接合、結合、進入、または組み込まれることになる。また、このような結合層83を加熱すると、糸状体セクション82、被覆層84、および裏地層85のそれぞれに対しても接合、結合、進入、または組み込まれることになるため、糸状体セクション82、被覆層84、および裏地層85は基層81に固定される。このように、結合層83には、(a)刺繍プロセス中の基層81の安定化、(b)糸状体セクション82の位置の固定と被覆層84および裏地層85の基層81への結合、という利点がある。
【0058】
刺繍要素80を製造または作製するプロセス全体は、結合層83を基層81に結合または組み合わせ、基層81および結合層83の組み合わせに糸状体セクション82を刺繍または取り付け、糸状体セクション82を結合層83で基層81に結合し、被覆層84および裏地層85の一方または両方を結合層83で基層81に結合することを含む。刺繍要素80の製造または作製には様々な方法を利用できるが、図16A〜図16Gおよび図17A〜図17Gには、プロセスの一例を示す。
【0059】
図16Aおよび図17Aを参照して、結合層83は、基層81に隣接するとともに、プレス90のプラテン間に載置されている。基層81と結合層83とを結合するため、図16Bおよび図17Bに示すように、プレス90のプラテン間で基層81および結合層83を圧縮・加熱してもよい。基層81および結合層83は、最初は2つの別個の材料であったが、基層81および結合層83を圧縮・加熱することによって、基層81および結合層83を構成する材料の組み合わせとしての単一層が効果的に形成される。上述の通り、基層81が織物材料で形成されている場合、結合層83のポリマー材料は、基層81を構成する種々編糸、ファイバー、またはフィラメントの周囲および間に延びることによって、単一層を効果的に形成していてもよい。基層81および結合層83の加熱・圧縮を行ったら、図16Cおよび図17Cに示すように、プレス90を分離して基層81および結合層83の組み合わせを取り外してもよい。
【0060】
プレス90の利用は、基層81および結合層83を加熱・圧縮して単一層に組み合わせる方法の一例である。その他の様々な方法を利用してもよい。たとえば、プレス90による圧縮前に、基層81および結合層83の一方または両方をオーブン内またはその他の加熱装置で加熱してもよい。構成によっては、結合層83のポリマー材料を基層81に噴霧もしくは堆積させてもよいし、または、結合層83を構成するポリマー材料の溶融槽もしくは未硬化槽に基層81を浸漬させてもよい。さらに別の構成では、基層81の両面に隣接して配置された2枚のポリマー材料で結合層83を形成した後、プレス90のプラテン間で圧縮してもよい。このように、基層81および結合層83の結合には、様々な方法を利用してもよい。
【0061】
基層81および結合層83の結合を効果的に行ったら、図16Dおよび図17Dに示すように、基層81に糸状体セクション82を刺繍あるいは取り付けてもよい。より具体的に説明すると、糸状体セクション82に対して、図8A〜図8Lに関連して上述したプロセスと実質的に類似するプロセスを利用してもよい。また、糸状体セクション82のその他の構成に対しても、類似のプロセスを利用してもよい。すなわち、糸状体セクション82の各セクションは、別のパターンまたは場所に配置してもよい。刺繍要素80の構成によっては、基層81および結合層83の組み合わせ上に糸状体セクション82を配置するのに、刺繍以外のプロセスを利用してもよい。糸状体セクション82または糸状体セクション82の各セクションは、刺繍要素40と同様に、少なくとも12mmの距離にわたって基層81の表面と隣接しかつ略平行となるように配置してもよい。また、少なくとも5cmの距離にわたって基層81の表面と隣接しかつ略平行となるようにしてもよい。上述の通り、刺繍を施す前に基層81と結合層83とを結合することは、結合層83によって安定性が付与されるか、または刺繍中の基層81の変形度合いが制限されるため都合が良い。
【0062】
刺繍要素80を製造または作製するプロセスにおけるこの時点で、糸状体セクション82は、基層81および結合層83の組み合わせに固定されている。より具体的に説明すると、一部の糸状体セクション82の端点は、糸状体セクション82の位置を固定するため、基層81および結合層83の組み合わせを通って延びていてもよい。ただし、糸状体セクション82の上記端点間の部位は、基層81の表面に対して隣接しかつ略平行である。糸状体セクション82の位置をさらに固定するため、基層81、糸状体セクション82、および結合層83を(たとえばプレス90等で)加熱・圧縮して、糸状体セクションを結合層83で基層81に接合または結合するようにしてもよい。すなわち、結合層83を構成する熱可塑性ポリマー材料を軟化または溶融して、糸状体セクション82を基層81に固定するようにしてもよい。構成によっては、糸状体セクション82の上記端点間の部位を固定しなくてもよい。
【0063】
糸状体セクション82の基層81への刺繍または取り付けを行ったら、図16Eおよび図17Eに示すように、被覆層84および裏地層85を基層81の両面に設けてもよい。より具体的に説明すると、被覆層84を基層81の第1表面に隣接して設け、裏地層85を基層81の対向する第2表面に隣接して設けてもよい。糸状体セクション82は、被覆層84と基層81との間に延びているが、裏地層85と基層81との間の部位からは実質的にないようにしてもよい。
【0064】
被覆層84と裏地層85とを結合するため、図16Fおよび図17Fに示すように、プレス90または別のプレスを利用して両者を加熱・圧縮する。結合層83が基層81の両面に設置可能であることを考えると、結合層83を構成する熱可塑性ポリマー材料は、被覆層84および裏地層85と接合する。したがって、糸状体セクション82の基層81への接合が以前の工程で行われていない場合は、結合層83により行うこととしてもよい。刺繍要素80の各構成要素は、プレス90から取り出すと、互いに結合している。残った材料は、図16Gおよび図17Gに示すように、切り離しまたは切り取りを行って、刺繍要素80を製造または作製するプロセス全体を略完了させてもよい。
【0065】
上述の通り、結合層83は基層81の両面に設けられていてもよい。図16Aおよび図17Aを参照すると、結合層は、基層81の一方の表面に隣接して載置されている。結合層83のポリマー材料は、図16Bおよび図17Bに示すように、加熱と圧縮とによって基層81に入り込んでもよいし、ポリマー材料の一部は、対向表面に現れるように基層81を貫通していてもよい。また、プロセスによっては、2枚の結合層83を利用して、基層81の対向表面に同量のポリマー材料が現れるようにしてもよい。さらに、結合層83のポリマー材料を基層81に噴霧することを含むプロセスは、両面に噴霧することを含んでいてもよいし、結合層83を構成するポリマー材料の溶融槽または未硬化槽に基層を浸漬させるプロセスでは、ポリマー材料を両面に塗布する。このように、結合層83のポリマー材料が基層81の両面に現れるようにするには、様々な技術を利用してもよい。その目的は、(a)糸状体セクション82および被覆層84を基層81の第1表面に固定すること、ならびに(b)裏地層85を基層81の第2表面に固定することである。
【0066】
刺繍を施す前に結合層83のポリマー材料を基層81に組み込むことによって、ポリマー材料は、刺繍プロセスの結果としての基層81の歪み、屈曲、皺、または変形の度合いを制限するのに利用される。また、結合層83のポリマー材料を基層81に組み込むことは、糸状体セクション82、被覆層84、および裏地層85のそれぞれに対して接合、結合、進入、または組み込まれる材料を提供することになり、糸状体セクション82、被覆層84、および裏地層85が基層81に固定されるため都合が良い。このように、上述のプロセス全体では、(a)刺繍プロセスにおける基層81の安定化と、(b)糸状体セクション82の位置の固定ならびに被覆層84および裏地層85の基層81への結合とを目的として結合層83を利用する。
【0067】
上述の製造プロセス後は、履物10等の履物製品に刺繍要素80および類似の刺繍要素を組み込んでもよい。より具体的に説明すると、たとえば刺繍要素80で刺繍要素40を置き換え、同様のプロセスで形成された刺繍要素で刺繍要素50を置き換えてもよい。構成によっては、履物10の上部構造30の外面を被覆層84で構成し、履物10の着用時に足と接触する内面を裏地層85で構成してもよい。また、別の構成においては、上部構造30の内面を被覆層84で構成し、外面を裏地層85で構成してもよい。
結論
上述の内容に基づけば、上部構造30の少なくとも一部は、糸状体42、52から構造的要素を構成する刺繍プロセスにより形成される。糸状体42、52の向き、場所、および数量によっては、上部構造30に様々な構造的要素が形成される場合がある。たとえば、このような構造的要素は、特定部位への耐伸縮性の付与、各部位の強化、耐摩耗性の向上、柔軟性の変更、または通気性部位の提供等を行うものであってもよい。このように、糸状体42、52の向き、場所、および数量を制御することによって、上部構造30および履物10の特性を制御するようにしてもよい。
本発明は、上記および添付図面において、様々な実施形態を参照して説明した。ただし、本開示の目的は、本発明の種々態様に関連する多様な特徴および構想の一例を提供することであって、本発明の種々態様の範囲を限定するものではない。当業者であれば、添付の特許請求の範囲で規定するように、本発明の範囲を逸脱することなく上述の実施形態を様々に変形および改良可能であることが分かるであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物、衣類、入れ物、運動用器材等に用いる
複合材要素に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の履物製品は一般的に、上部構造(アッパー)およびソール構造という2つの主要な要素を具備する。上部構造は、ソール構造に固定され、足を快適かつ確実に収容するための空洞を履物の内部に形成している。ソール構造は、上部構造の下面に固定され、上部構造と地面との間に位置付けられている。また、たとえば運動靴製品の中には、ソール構造がミッドソールおよびアウトソールを具備するものもある。ミッドソールは、歩行、走行、およびその他の歩行活動中に地面反力を減衰させて足や脚部への応力を軽減するポリマー発泡材料で形成してもよい。アウトソールは、ミッドソールの下面に固定され、耐久性のある耐摩耗材料で形成されたソール構造の地面係合部を構成している。また、ソール構造は、空洞内の足下面近くに位置し、履物の履き心地を向上させる中敷きを具備していてもよい。
【0003】
上部構造は一般的に、甲および爪先部分にわたって延び、足の内側(正中線に近い側)および外側(正中線から遠い側)に沿って、踵部分の周りまで延びている。バスケットシューズやブーツ等の履物製品の中には、上部構造が上方に足首周りまで延び、足首を支持できるようになっているものもある。一般的に、上部構造内部の空洞へは、履物の踵部分にある足首開口を介してアクセスすることができる。また、上部構造には靴紐システムが取り入れられて、上部構造の密着度合いの調整により、上部構造内の空洞に対する足の挿抜が可能となっていることが多い。この靴紐システムにより、着用者は上部構造の特定の寸法、特に胴回りを変更して、様々な寸法の足を収容することもできる。また、上部構造は、靴紐システムの下側に延び、履物の調整機能を向上させる舌部を具備していてもよく、さらに、踵の動きを制限するヒールカウンタを組み込んでいてもよい。
【0004】
従来、上部構造の製造には様々な材料が利用されている。たとえば、運動靴の上部構造は、外面層、中間層、および内面層を含む複数の材料層で構成してもよい。そして、上部構造の外面層を形成する材料は、たとえば耐伸縮性、耐摩耗性、柔軟性、通気性等の特性に基づいて選択してもよい。外面層に関しては、爪先部分および踵部分を皮革、合成皮革、またはゴム材料で形成して、比較的高い耐摩耗性を付与するようにしてもよい。この皮革、合成皮革、およびゴム材料は、上部構造の外面層のその他種々部位に対しては、所望の柔軟性および通気性を示さなくてもよい。したがって、外面層のその他部位は、たとえば合成繊維等で形成してもよい。このように、上部構造の外面層は、上部構造に異なる特性を付与する多種の材料要素で形成してもよい。上部構造の中間層は従来、緩衝効果により履き心地を向上させる軽いポリマー発泡材料で形成されている。同様に、上部構造の内面層は、足を直接囲む部位から汗を取り去る心地良い吸湿繊維で形成してもよい。運動靴製品の中には、これら各層を接着剤で結合するとともに、各要素の単一層化または上部構造の特定部位の強化のために縫い合わせを行っているものもある。このように、従来の上部構造は積層構成を有しており、各層は、履物の種々部位に異なる特性を付与している。
【発明の概要】
【0005】
基層、熱可塑性ポリマー材料、糸状体、および被覆層を備えた複合材要素を以下に示す。基層は、第1表面および反対側の第2表面を有し、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す。ポリマー材料は、上記基層とは別個のものであり当該基層中に延び、少なくとも一部が当該基層の第1表面に配置されている。糸状体は、上記基層の第1表面に隣接するセクションであって、少なくとも5cmの距離にわたって当該基層の第1表面と略平行なセクションを有し、上記ポリマー材料で当該基層に接合されている。被覆層は、上記基層の第1表面に隣接して配置されるとともに、上記ポリマー材料で当該基層に接合され、被覆層と当該基層との間に上記糸状体のセクションが配置されている。
【0006】
また、複合材要素の製造方法を以下に示す。この方法は、織物層の第1表面および反対側の第2表面に配置されるようにポリマー材料を当該織物層に組み込むことを含む。織物層には、糸状体のセクションが当該織物層に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって当該織物層と略平行となるように当該糸状体で刺繍を施す。また、当該織物層の第1表面に隣接して被覆層を配置し、上記織物層と当該被覆層との間に上記糸状体のセクションが配置されるようにする。そして、上記ポリマー材料を加熱して、上記糸状体のセクションおよび上記被覆層を上記織物層に接合する。
【0007】
本発明の種々態様を特徴付ける利点および新規性な特徴については、添付の特許請求の範囲において詳細に明示する。ただし、利点および新規性な特徴についての理解を深めるためには、本発明の種々態様に関連する多様な実施形態および構想を示した以下の記述内容および添付図面を参照してもよい。
上述の「概要」および以下の「詳細な説明」は、添付図面と併せて参照することによって理解が深まる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の態様に係る、上部構造を有する履物製品の外側立面図である。
【図2】履物製品の内側(正中線側)立面図である。
【図3】履物製品の平面図である。
【図4】履物製品の底面図である。
【図5】履物製品の後側立面図である。
【図6】上部構造の外側(正中線と反対側)部の少なくとも一部を構成する第1刺繍要素の平面図である。
【図7】上部構造の内側部の少なくとも一部を構成する第2刺繍要素の平面図である。
【図8A】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8B】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8C】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8D】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8E】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8F】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8G】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8H】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8I】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8J】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8K】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8L】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8M】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8N】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図8O】第1刺繍要素および第2刺繍要素を形成する手順を示した平面図である。
【図9A】履物を組み立てる手順を示した立面図である。
【図9B】履物を組み立てる手順を示した立面図である。
【図9C】履物を組み立てる手順を示した立面図である。
【図9D】履物を組み立てる手順を示した立面図である。
【図10A】糸状体を基部に固定する第1手順を示した斜視図である。
【図10B】糸状体を基部に固定する第1手順を示した斜視図である。
【図10C】糸状体を基部に固定する第1手順を示した斜視図である。
【図10D】糸状体を基部に固定する第1手順を示した斜視図である。
【図11A】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図11B】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図11C】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図11D】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図12A】糸状体を基部に固定する第2手順を示した斜視図である。
【図12B】糸状体を基部に固定する第3手順を示した斜視図である。
【図12C】糸状体を基部に固定する第3手順を示した斜視図である。
【図13】第3刺繍要素の斜視図である。
【図14】第3刺繍要素の断面図である。
【図15】第3刺繍要素の分解斜視図である。
【図16A】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16B】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16C】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16D】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16E】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16F】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図16G】第3刺繍要素の製造手順を示した斜視図である。
【図17A】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17B】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17C】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17D】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17E】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17F】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【図17G】第3刺繍要素の製造手順を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
序論
以下の記述および添付図面は、刺繍構成の上部構造を有する履物製品を開示している。また、上部構造の種々製造方法も開示している。これら上部構造および方法は、走行、特に短距離走に適した構成の履物を参照して開示している。上部構造に関する構想は、走行用に設計された履物にのみ限定されるものではなく、野球シューズ、バスケットシューズ、クロストレーニングシューズ、サイクリングシューズ、フットボールシューズ、テニスシューズ、サッカーシューズ、ウォーキングシューズ、ハイキングブーツ等、様々な種類の運動用履物に適用してもよい。また、これらの構想は、一般的には運動用履物と見なされないドレスシューズ、ローファー、サンダル、作業ブーツ等の種類の履物に適用してもよい。このように、本明細書に開示する構想は、幅広い種類の履物に当てはまる。さらに、本明細書に開示する構想は、衣類、鞄等の入れ物、運動用器材等、履物以外の製品に適用してもよい。
履物の全体構造
全体としてランニングシューズの構成を有し、ソール構造20および上部構造30を具備する履物製品10を図1〜図5に示す。図1および図2に示すように、履物10は、参照用として、前足部11、中足部12、および踵部13という大略3つの部分に分割してもよい。また、履物10は、外側(正中線反対側)部14および内側(正中線側)部15を具備する。前足部11は一般的に、爪先および中足骨を指骨に接続する関節に対応した履物10の部分を含む。中足部12は一般的に、足のアーチ部分に対応した履物10の部分を含む。踵部13は、踵骨を含む足の後側部分に対応している。外側部14および内側部15は、各部11〜13を通って延び、履物10の両側に対応している。なお、各部11〜13および両側部14、15は、履物10の各部位の境界を厳密に定める意図によるものではなく、履物10の大略的な部位を表すことによって以下の記述を補完するものである。また、各部11〜13および両側部14、15は、履物10のほか、ソール構造20、上部構造30、およびそれらの個別の要素に適用してもよい。
【0010】
ソール構造20は、上部構造30に固定されるとともに、履物10着用時は足と地面との間で延びている。ソール構造20は、摩擦を付与するほか、歩行、走行、またはその他の歩行活動中に足と地面との間で圧縮して地面反力を減衰可能である。なお、ソール構造20の構成は、様々な従来的または非従来的な構造を含むように大幅に異なるものであってもよい。ただし、ソール構造20の好適な構成においては、図1および図2に一例を示すように、第1ソール要素21および第2ソール要素22を具備する。
【0011】
第1ソール要素21は、履物10の長手方向の長さにわたって(すなわち、各部11〜13にわたって)延びており、ポリウレタンまたはエチルビニルアセテート等のポリマー発泡材料で形成してもよい。上部構造30の各部は、第1ソール要素21の側面を包み込むとともに、第1ソール要素21の下部に固定されている。第1ソール要素21の下部は、各部11〜13において露出し、履物10の接地表面部を構成している。また、各部12、13においては、第1ソール要素21の下部に固定された上部構造30の各部も露出し、使用中は地面と接触する場合がある。第1ソール要素21の上部は、足の下面(すなわち、足底面)と接触するような位置にあるため、上部構造30における足支持表面を構成している。ただし、構成によっては、上部構造30内でかつ第1ソール要素21の上部に隣接して中敷きを配置することにより、履物10の足支持表面を構成してもよい。
【0012】
第2ソール要素22は、各部11、12に配置され、第1ソール要素21および上部構造30の一方または両方に固定されている。第1ソール要素21の各部が上部構造30中に延びているのに対し、第2ソール要素22は履物10の外側にあり、各部11、12において接地表面部を構成している。第2ソール要素22は、摩擦を付与するため、複数の突起23を備えている。これら突起は、取り外し可能なスパイクの構成であってもよい。なお、第2ソール要素22の好適な材料としては、耐久性と耐摩耗性との両者を有するゴム等の様々なポリマー材料が挙げられる。
【0013】
上部構造30は、足を、収容し、ソール構造20に対して固定する空洞を履物10内部に画成している。より具体的に説明すると、この空洞は、足を収容する形状を有し、足の外側(正中線と反対側)、内側(正中線側)、上側、および下側に沿って延びている。空洞へは、少なくとも踵部13に配置された足首開口31を介してアクセスすることができる。着用者は、上部構造30の一部の靴紐開口部33を通って延びる靴紐32により、上部構造30の寸法を変更して、様々な大きさの足を収容することができる。また、着用者は、靴紐32により上部構造30を緩めて、空洞から容易に足を抜き出すことができる。なお、図示していないが、上部構造30は、靴紐32の下側に延び、履物10の履き心地または調整機能を向上させる舌部を具備していてもよい。
【0014】
上部構造30の靴紐32以外の主要な要素としては、第1刺繍要素40および第2刺繍要素50がある。第1刺繍要素40は、外側部14に対応した上部構造30の部分を構成している。第2刺繍要素50は、内側部15に対応した上部構造30の部分を構成している。したがって、各刺繍要素40、50は、各部11〜13を通って延びている。一般に、そして、以下に詳述する通り、上部構造30は、前足部11および踵部13における刺繍要素40、50の縁部を結合することによって実質的に組み立てられており、空洞の全体形状を付与している。また、上部構造30の組み立てにおいては、靴紐32を組み込み、刺繍要素40、50の一部を第1ソール要素21の側面周りで包み込み、当該一部を第1ソール要素21の下部に固定することを含む。
第1刺繍要素
図6には、基層41および複数の糸状体42を具備する第1刺繍要素40を個別に示す。基層41に対して糸状体42を固定または配置するには、以下に詳述する刺繍プロセスを利用する。一般的に、基層41は、刺繍プロセスにおいて糸状体42が固定される基板であり、糸状体42は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置される。また、糸状体42は、構造的要素として、たとえば特定方向への上部構造30の伸びを制限するか、または上部構造30の各部位を強化するものであってもよい。
【0015】
基層41は、単一の材料要素として図示しているが、複数の結合要素で構成してもよい。同様に、基層41は、単一の材料層、または複数の同一の広がりを有する層で構成してもよい。たとえば、基層41は、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、もしくは結合する結合層またはその他の固定要素を具備していてもよい。
基層41は、以下の構成要素における参照用の様々な縁部43a〜43dを画成している。縁部43aは、各部11〜13を通って延び、足首開口31の一部を画成している。縁部43bは、主に前足部11に配置され、一部の糸状体42の端点を構成している。縁部43bの反対側の縁部43cは、主に踵部13に配置され、一部の糸状体42の反対側の端点を構成している。縁部43a、43cはそれぞれ、履物10の製造工程において、前足部11および踵部13の第2刺繍要素50と結合される。縁部43aの反対側の縁部43dは、各部11〜13を通って延び、第1ソール要素21を包み込むとともに、第1ソール要素21の下部に固定されている。基層41の特定の構成および縁部43a〜43dの対応する位置および形状は、履物10の構成に応じて大幅に異なるものであってもよい。
【0016】
基層41は、任意の略2次元材料で形成してもよい。本発明において用いる「2次元材料」という用語またはその変形用語は、厚みより実質的に大きな長さおよび幅を有する略平坦な材料を包含するものである。したがって、基層41の好適な材料としては、種々織物、ポリマーシート、または織物とポリマーシートとの合成物等が挙げられる。織物は一般的に、ファイバー、フィラメント、または編糸から製造される。これらは、たとえば(a)接合、溶融、もしくはからみあいによりファイバーウェブから直接生成して不織布およびフェルトを構成するか、または(b)編糸の機械的操作により形成して織布を生成する。上記織物には、1方向または多方向の伸縮性を付与するように構成されたファイバーを組み込んでもよいし、たとえば通気性のある耐水性の障壁を構成する被覆を含んでいてもよい。また、ポリマーシートは、押し出し、圧延、またはポリマー材料での形成によって、略平坦な態様を有するものであってもよい。2次元材料には、2層以上の織物、ポリマーシート、または織物とポリマーシートとの合成物を含む層状材料または積層材料を包含してもよい。また、基層41には、織物およびポリマーシート以外の2次元材料を利用してもよい。なお、2次元材料は、滑らかな表面または大略的にキメのない表面を有するものであってもよいが、凹凸、突起、リブ、または種々パターン等の触感または表面特性を示すものもある。2次元材料は、表面特性を有する場合でも、略平坦であって、厚みより実質的に大きな長さおよび幅を有する。
【0017】
糸状体42の各部は、基層41を通って延びるか、または基層41に隣接している。糸状体42が基層41を通って延びる部分では、糸状体42が基層41に対して直接結合または固定されている。糸状体42が基層41に隣接している部分では、糸状体42が基層41に固定されていなくてもよいし、または、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、もしくは結合する結合層もしくはその他の固定要素と結合されていてもよい。また、上部構造30の構造的要素を構成するため、複数の糸状体42または個別の糸状体42のセクションを集約して、様々な糸状体群44a〜44eのうちの1つとしてもよい。糸状体群44aは、縁部43bと縁部43cとの間に延びることにより、履物10の各部11〜13を通って延びている糸状体42を具備する。糸状体群44bは、靴紐開口部33のすぐ隣りに配置され、靴紐開口部33から放射状外側に延びた糸状体42を具備する。糸状体群44cは、糸状体群44b(すなわち、靴紐開口部33に隣接する部分)から縁部43dに隣接する部分まで延びた糸状体42を具備する。糸状体群44dは、縁部43cから縁部43dまで延び、主に踵部13に配置された糸状体42を具備する。
【0018】
履物製品10は、全体としてランニングシューズの構成を有するものとして図示している。歩行、走行、およびその他の歩行活動に際して、履物10に生じる力は、上部構造30を様々な方向に伸ばす傾向にあり、様々な場所に集中する可能性がある。ここで、各糸状体42は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置されている。より具体的に説明すると、糸状体群44a〜44dは、複数の糸状体42または個別の糸状体42のセクションを集約したものであり、構造的要素を構成して様々な方向の伸びに抗するか、または力が集中する場所を強化している。糸状体群44aは、各部11〜13に対応した第1刺繍要素40の各部を通って延びているため、長手方向(すなわち、各部11〜13を通って、縁部43bと縁部43cとの間に延びる方向)の伸びに抗する。糸状体群44bは、靴紐開口部33に隣接しているため、靴紐32の引っ張りに起因する応力集中に抗する。糸状体群44cは、糸状体群44aに対して略垂直な方向に延びているため、内側〜外側方向(すなわち、上部構造30周りに延びる方向)の伸びに抗する。また、糸状体群44dは、踵部13に配置され、踵の動きを制限するヒールカウンタを構成している。糸状体群44eは、基層41の周囲に延びており、縁部43a〜43dの場所に対応している。このように、糸状体42は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置されている。
【0019】
糸状体42は、任意の略1次元材料で形成してもよい。本発明において用いる「1次元材料」という用語またはその変形用語は、幅および厚みより実質的に大きな長さを有する略細長の材料を包含するものである。したがって、糸状体42の好適な材料としては、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリル系、生糸、綿、カーボン、ガラス、アラミド類(たとえば、パラアラミド繊維やメタアラミド繊維等)、超高分子量ポリエチレン、および液晶ポリマー等で形成された様々なフィラメント、ファイバー、および編糸が挙げられる。編糸は、少なくとも1本のフィラメントまたは複数のファイバーで形成してもよい。フィラメントが無限の長さを有するのに対し、ファイバーは比較的短く、好適な長さの編糸を生成するには、一般的に紡績プロセスまたは撚糸プロセスを用いる。フィラメントとファイバーとは、たとえば長さが異なっていてもよいが、本明細書では、「フィラメント」および「ファイバー」という用語をほとんど同じ意味で使用する場合がある。フィラメントで構成する編糸については、単一のフィラメントまたは複数の個別フィラメントをグループ化したもので構成してもよい。また、編糸は、異なる材料で形成された別個のフィラメント、または2つ以上の異なる材料でそれぞれ形成されたフィラメントを具備していてもよい。ファイバーで構成する編糸についても、これと同じ考え方が当てはまる。このように、フィラメントおよび編糸は、幅および厚みより実質的に大きな長さを有する様々な構成であってもよい。また、糸状体42には、フィラメントおよび編糸以外の1次元材料を利用してもよい。1次元材料は、幅と厚みとが実質的に等しい断面(たとえば、円形または正方形等の断面)を有することが多いが、幅が厚みより大きい場合もある(たとえば、長方形、楕円形、あるいは細長形等の断面)。ただし、このように幅が大きな場合でも、材料の長さが幅および厚みより実質的に大きければ、1次元材料と見なしてもよい。
第2刺繍要素
図7には、基層51および複数の糸状体52を具備する第2刺繍要素50を個別に示す。基層51に対して糸状体52を固定または配置するには、第1刺繍要素40の形成に利用したプロセスと同様の刺繍プロセスを利用する。一般的に、基層51は、刺繍プロセスにおいて糸状体52が固定される基板であり、糸状体52は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置される。また、糸状体52は、構造的要素として、たとえば特定方向への上部構造30の伸びを制限するか、または上部構造30の各部位を強化するものであってもよい。
【0020】
基層51は、基層41に関して上述した2次元材料のいずれかを含む任意の略2次元材料で形成してもよい。基層51は、単一の材料要素として図示しているが、複数の結合要素で構成してもよい。同様に、基層51は、単一の材料層、または複数の同一の広がりを有する層で構成してもよい。たとえば、基層51は、糸状体52の各部を基層51に接合、固定、または結合する結合層またはその他の固定要素を具備していてもよい。さらに、糸状体52は、糸状体42に関して上述した1次元材料のいずれかを含む任意の略1次元材料で形成してもよい。
【0021】
基層51は、以下の構成要素における参照用の様々な縁部53a〜53dを画成している。縁部53aは、各部11〜13を通って延び、足首開口31の一部を画成している。縁部53bは、主に前足部11に配置され、一部の糸状体52の端点を構成している。縁部53bの反対側の縁部53cは、主に踵部13に配置され、一部の糸状体52の反対側の端点を構成している。縁部53a、53cはそれぞれ、履物10の製造工程において、前足部11および踵部13の第1刺繍要素40と結合される。縁部53aの反対側の縁部53dは、各部11〜13を通って延び、第1ソール要素21を包み込むとともに、第1ソール要素21の下部に固定されている。基層51の特定の構成および縁部53a〜53dの対応する位置および形状は、履物10の構成に応じて大幅に異なるものであってもよい。
【0022】
糸状体52の各部は、基層51を通って延びるか、または基層51に隣接していてもよい。糸状体52が基層51を通って延びる部分では、糸状体52が基層51に対して直接結合または固定されている。糸状体52が基層51に隣接している部分では、糸状体52が基層51に固定されていなくてもよいし、または、糸状体52の各部を基層51に接合、固定、もしくは結合する結合層もしくはその他の固定要素と結合されていてもよい。また、上部構造30の構造的要素を構成するため、複数の糸状体52または個別の糸状体52のセクションを集約して、様々な糸状体群54a〜54fのうちの1つとしてもよい。糸状体群54aは、前足部11および中足部12の前方部分に配置された糸状体52を具備しており、糸状体群54aの一部の糸状体52は、縁部53bから長手方向後方に延びている。糸状体群54bは、靴紐開口部33のすぐ隣りに配置され、靴紐開口部33から放射状外側に延びた糸状体52を具備する。糸状体群54cは、糸状体群54b(すなわち、靴紐開口部33に隣接する部分)から縁部53dに隣接する部分まで延びた糸状体52を具備する。糸状体群54dは、縁部53cから縁部53dまで延び、主に踵部13に配置された糸状体52を具備する。糸状体群54eは、踵部13および中足部12の後方部分に配置された糸状体52を具備しており、糸状体群54eの一部の糸状体52は、縁部53cから長手方向前方に延びている。糸状体群54fは、基層51の周囲に延びており、縁部53a〜53dの場所に対応している。
【0023】
第1刺繍要素40に関して上述した通り、履物10に生じる力は、上部構造30を様々な方向に伸ばす傾向にあり、様々な場所に集中する可能性がある。ここで、各糸状体52は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置されている。より具体的に説明すると、糸状体群54a〜54eは、複数の糸状体52または個別の糸状体52のセクションを集約したものであり、構造的要素を構成して様々な方向の伸びに抗するか、または力が集中する場所を強化している。糸状体群54aは、少なくとも前足部11に対応した第2刺繍要素50の各部を通って延びているため、長手方向の伸びに抗する。糸状体群54bは、靴紐開口部33に隣接しているため、靴紐32の引っ張りに起因する応力集中に抗する。糸状体群54cは、糸状体群54a、54eに対して略垂直な方向に延びているため、内側〜外側方向(すなわち、上部構造30周りに延びる方向)の伸びに抗する。糸状体群54dは、踵部13に配置され、踵の動きを制限するヒールカウンタの反対側を構成している。また、糸状体群54eは、少なくとも踵部13に配置されているため、長手方向の伸びに抗する。このように、糸状体52は、上部構造30の構造的要素を構成するように配置されている。
構造的要素
「背景技術」の項で上述した通り、従来の上部構造は、その種々部位に異なる特性をそれぞれ付与する複数の材料層で構成されていてもよい。使用に際して、上部構造には大きな引張力が作用する場合があり、この引張力に抗するため、上部構造の各部位には1または複数の材料層が配置されている。すなわち、上部構造の特定部分に個別の層を組み込むことによって、履物の使用に際して生じる引張力に抗するようにしてもよい。たとえば、上部構造に織布を組み込むことによって、長手方向の耐伸縮性を付与するようにしてもよい。織布は、互いに垂直に編み込まれた編糸で形成されている。長手方向の耐伸縮性を得るために織布を上部構造に組み込んだ場合は、長手方向を向く編糸のみが長手方向の耐伸縮性に寄与することになり、長手方向に垂直な編糸は、長手方向の耐伸縮性にほとんど寄与しない。したがって、織布のおよそ半分の編糸は、長手方向の耐伸縮性に対して余分である。さらに別の例として、必要な耐伸縮性の度合いは、上部構造の様々な部位ごとに異なる場合がある。たとえば、上部構造の一部の部位が比較的高い耐伸縮性を要するのに対し、別の部位は比較的低い耐伸縮性でもよい場合がある。上記織布は、必要な耐伸縮性が高い部位および低い部位の双方に利用してもよいため、その織布に含まれる編糸の一部は、低い耐伸縮性でもよい部位においては余分となる。これらの各例において、余分な編糸は、履物の全体質量を増加させるだけで、有益な特性をもたらすものではない。耐摩耗性、柔軟性、通気性、緩衝効果、および吸湿性等のうちの1または複数を目的として利用される皮革やポリマーシート等の材料にも、これと同じ考え方が当てはまる。
【0024】
上述の内容に基づけば、複数の材料層で構成された従来の上部構造に利用される材料は、上部構造の所望の特性にさほど寄与しない余分な部分を有する場合がある。たとえば耐伸縮性に関しては、(a)より多くの方向に耐伸縮性を付与する材料、または(b)所要または所望以上の高い耐伸縮性を付与する材料を有する層が考えられる。このため、これら材料の余分な部分は、履物の全体質量を増加させるだけで、有益な特性をもたらさない場合がある。
【0025】
上部構造30は、従来の積層構成とは対照的に、余分な材料を最小限に抑えるように構成されている。基層41、51は、足を覆うものであるが、その質量は比較的小さい。また、糸状体42、52の一部(すなわち、糸状体群44a、54a、44c、54c、44d、54d、および54e)は、所望の特定方向に耐伸縮性を付与するように配置されており、糸状体42、52の数は、所望の耐伸縮性のみを付与するように選択されている。別の糸状体42、52(すなわち、糸状体群44b、44e、54b、および54f)は、上部構造30の特定部位を強化するように配置されている。このように、糸状体42、52の向き、場所、および数量は、特定の目的に応じた構造的要素を提供するように選択されている。
【0026】
上述の通り、糸状体群44a〜44d、54a〜54eはそれぞれ、構造的要素を提供する糸状体42、52のグループである。より具体的に説明すると、糸状体群44aは、外側部14に長手方向の耐伸縮性を付与するように配置されており、糸状体群44aの糸状体42の数は、特定の程度の耐伸縮性を付与するように選択されている。同様に、糸状体群54a、54eは、内側部15の各部11、13に長手方向の耐伸縮性を付与するように配置されており、糸状体群54a、54eの糸状体52の数は、各部11、13に特定の程度の耐伸縮性を付与するように選択されている。糸状体群44b、54bはそれぞれ、靴紐開口部33を強化しており、各靴紐開口部33の周りの糸状体の数は、特定の程度の強度を付与するように選択されている。糸状体群44c、54cはそれぞれ、靴紐開口部33から延びており、上部構造30周りに延びる方向に特定の程度の耐伸縮性を付与するように選択されている。また、糸状体群44c、54cの糸状体42の数は、特定の程度の耐伸縮性を付与するように選択されている。さらに、糸状体群44d、54dは、ヒールカウンタを構成するように配置されており、糸状体群44d、54dの糸状体の数は、ヒールカウンタに特定の程度の安定性を付与する。糸状体群44e、54fは、足首開口31を構成する刺繍要素40、50の部分と、相互に結合または履物10の他の部分に結合された刺繍要素40、50の部分とを含む刺繍要素40、50の縁部を強化している。このように、糸状体42、52が付与する特性の少なくとも一部は、糸状体42、52の向き、場所、および数量によって決まる。
【0027】
基層41、51は、履物10の特定の構成および使用目的に応じて、非伸縮性材料、1方向に伸縮する材料、または2方向に伸縮する材料等であってもよい。一般的に、2方向に伸縮する材料を使用すれば、上部構造30を足の輪郭に一致させる能力がより高くなるため、靴10の履き心地が向上する。基層41、51が2方向に伸縮する構成では、基層41、51と糸状体42、52とを組み合わせることによって、特定場所における上部構造30の伸縮特性が効果的に変化する。第1刺繍要素40に関しては、2方向に伸縮する基層41と糸状体42との組み合わせにより、異なる伸縮特性を有する領域が上部構造30に形成される。この領域には、(a)糸状体42が存在せず、上部構造30が2方向に伸縮する第1の領域と、(b)糸状体42は存在するが互いに交差せず、上部構造30が糸状体42と垂直な1方向に伸縮する第2の領域と、(c)糸状体42が存在して互いに交差し、上部構造30が実質的に伸縮しない第3の領域とが含まれる。第2刺繍要素50にも、これと同じ考え方が当てはまる。
【0028】
第1の領域は、糸状体が存在しない部位を含む。図6を参照して、符号45aで識別される領域は、糸状体42が存在しない第1の領域の例である。第1の領域には糸状体42が存在しないため、基層41は糸状体42による拘束を受けず、上部構造30は2方向に伸縮自在である。第2の領域は、糸状体42は存在するものの、略垂直で互いに交差することはない部分を含む。図6を参照して、符号45bで識別される領域は、第2の領域の例である。第2の領域では糸状体42が実質的に整列された状態であるため、糸状体42は、その整列方向の伸びに抗する。ただし、糸状体42は、その垂直方向の伸びには抗しない。このように、基層41は、糸状体42と垂直な方向には伸縮自在であるため、上部構造30は1方向に伸縮可能である。構成によっては、基層41が糸状体42と垂直な方向に少なくとも10%の伸びを示してもよい。ただし、基層41は、糸状体42の整列方向には実質的に伸縮しない。第3の領域は、糸状体42が存在し、略垂直(すなわち、60°より大きい角度)で互いに交差する部分を含む。図6を参照して、符号45cで識別される領域は、第3の領域の例である。糸状体42は、略垂直で互いに交差するため、実質的にすべての方向の伸びに抗する。このように、基層41はどの方向にも伸縮自在ではないため、第3の領域では、上部構造30が相対的に非伸縮構成となる。第2刺繍要素50にも、これと同じ考え方が当てはまる。図7に、第1の領域に対応する部分の例を符号55aで、第2の領域に対応する部分の例を符号55bで、第3の領域に対応する部分の例を符号55cで、それぞれ識別して示す。
【0029】
上記領域間の遷移は、糸状体42、52の相対的な数および向きが変化する部位間のインターフェース(境界)で生じる。上部構造30は、領域間のインターフェースにおいて、たとえば2方向の伸縮性から1方向の伸張性、2方向の伸張性から非伸張性、または1方向の伸張性から非伸張性へと変化してもよい。領域間の差異が糸状体42、52の相対的な数および向きであることを考えると、領域間の遷移は急激に生じる場合もある。すなわち、糸状体42、52の一方の厚みの空間では、上部構造30が領域間で遷移する場合がある。この領域間の急激な遷移を抑えるため、種々構造を採用してもよい。たとえば、領域間遷移に隣接する糸状体42、52は、伸縮特性を有していてもよい。たとえば第1の領域から第2の領域への遷移に際しては、インターフェースにおける糸状体42、52の伸縮特性によって、急激な遷移が抑えられる。構造上、遷移に隣接する(すなわち、糸状体群の境界近くの)糸状体42、52は、遷移から離れた(すなわち、糸状体群の中央近くの)糸状体42、52よりも高い伸縮性を有していてもよい。伸縮性以外にも、非伸縮性材料で形成された糸状体42、52が波形(すなわち、ジグザグ形状)を有することによって、遷移領域に伸縮性を持たせてもよい。
【0030】
糸状体42、52は、履物10の耐伸縮性以外の特性を変更するのに利用してもよい。たとえば、上部構造30の特定部位に耐摩耗性を追加付与するのに糸状体42、52を利用してもよい。また、たとえば前足部11およびソール構造20の隣接部等、上部構造30の摩耗が生じる部位に糸状体42、52を集中させてもよい。糸状体42、52は、耐摩耗性を目的として利用する場合、比較的高い耐摩耗特性を示す材料から選択してもよい。さらに、上部構造30の曲げ特性の変更に糸状体42、52を利用してもよい。すなわち、糸状体42、52の集中度が比較的高い部位は、糸状体42、52の集中度が比較的低い部位よりも曲げ度合いを小さくすることが可能である。同様に、糸状体42、52の集中度が比較的高い部位は、糸状体42、52の集中度が比較的低い部位よりも空気の透過度合いを小さくすることが可能である。
【0031】
図1〜図7における糸状体42、52の向き、場所、および数量は、本発明の種々態様の範囲内で靴10の好適な構成を例示することを意図したものである。履物10の別の構成では、一部の糸状体群44a〜44d、54a〜54eを削除するか、または糸状体群を追加することによって、履物10に別の構造的要素を設けるようにしてもよい。長手方向の耐伸縮性がさらに望まれる場合は、内側部14に糸状体群44aと類似の糸状体群を設けるか、または中足部12を通って延びるように糸状体群54a、54eを変更するようにしてもよい。一方、上部構造30周りの耐伸縮性がさらに望まれる場合は、糸状体群44c、54cに糸状体42、52を追加してもよい。同様に、上部構造30周りの耐伸縮性をさらに付与するには、前足部11または踵部13周りに延びる糸状体群を追加してもよい。
【0032】
糸状体42、52の向き、場所、および数量は、個人の走行スタイルまたは好みに応じて決めることも可能である。たとえば、回内運動(すなわち、足の内側への回転)の程度が比較的高い個人もいるため、糸状体群44cの糸状体42の数を増やすことによって、回内運動の程度を低減するようにしてもよい。また、長手方向の耐伸縮性を大きくしたい個人もいるため、糸状体群44aの糸状体42を増やすように履物10を改良するようにしてもよい。さらに、上部構造30の密着度合いをさらに高くしたい個人もおり、その場合は、糸状体群44b、44c、54b、および44cにより多くの糸状体42、52を追加するようにしてもよい。このように、履物10は、糸状体42、52の向き、場所、および数量を変更することにより、個人の走行スタイルまたは好みに応じてカスタマイズするようにしてもよい。
【0033】
基層41、51は、足の内側および外側の略全体を一体的に覆う構成として図示している。上述の通り、基層41、51は、刺繍プロセスにおいて糸状体42、52が固定される基板である。ただし、構成によっては、糸状体42、52が足または足に着用した靴下のすぐ隣りとなるように、基層41、51の一部を削除するようにしてもよい。すなわち、足を露出させる開口部または切り欠きを基層41、51に形成してもよい。また、別の構成においては、刺繍プロセス後に除去される水溶性の材料で基層41、51またはその一部を形成するようにしてもよい。すなわち、糸状体42、52を基層41、51に固定した後、上部構造30を溶解させるようにしてもよい。このように、靴10の構成によっては、基層41、51の一部または全部をないようにしてもよい。
【0034】
糸状体42、52の全長の大部分は、基層41、51に隣接しているものの、基層41、51に直接固定されているわけではない。そこで、たとえば糸状体42を正しい位置に配置するため、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、または結合する結合層またはその他の固定要素を利用してもよい。この結合要素またはその他の固定要素としては、糸状体42と基層41との間に配置され、加熱により糸状体42と基層41とを接合する熱可塑性ポリマーシート等が挙げられる。また、この結合要素またはその他の固定要素としては、糸状体42および基層41の上方に延びて糸状体42と基層41とを接合する熱可塑性ポリマーシートまたは織物等が挙げられる。さらに、この結合要素またはその他の固定要素としては、糸状体42と基層41とを接合する接着剤が挙げられる。また、構成によっては、糸状体42の上に別の糸状体を縫い付けて、糸状体42を基層41に固定するようにしてもよい。このように、糸状体42を基層41に固定する場合、様々な構造または方法を利用可能である。基層51と糸状体52との結合にも、これと同じ考え方が当てはまる。
【0035】
一部の糸状体群44a、44c、および44dに含まれる糸状体42の一部は、互いに略平行であってもよい。たとえば図6に示すように、糸状体42の当該部分間の距離は、実際には変化する。すなわち、糸状体42は、外側に向かって放射状に広がっている。糸状体群44aに関しては、中足部12において、一部の糸状体42が互いに比較的近接している。しかし、前足部11および踵部13に向かって糸状体42が延びるにつれて、個々の糸状体42間の距離は増加する。このように、糸状体42は、前足部11および踵部13では外側に向かって放射状に広がっている。同様に、糸状体群44cの一部の糸状体42についても、靴紐開口部33から離れる外側に向かって放射状に広がっている。上部構造30の靴紐開口部33に近接した部分では、糸状体42は互いに比較的近接しているが、上部構造30の靴紐開口部33から離間した部分では、互いに分離するか、または外側に向かって放射状に広がる傾向にある。上述の放射特性は、たとえば比較的小さな部位(たとえば、各靴紐開口部33等)から大きな部位への力の分散を目的として作用させてもよい。すなわち、この放射特性は、上部構造30の各部位へ力を分散させるために利用してもよい。
【0036】
上述の内容に基づけば、上部構造30の少なくとも一部は、糸状体42、52から構造的要素を構成する刺繍プロセスにより形成される。糸状体42、52の向き、場所、および数量によっては、上部構造30に様々な構造的要素が形成される場合がある。たとえば、このような構造的要素は、特定部位への耐伸縮性の付与、各部位の強化、耐摩耗性の向上、柔軟性の変更、または通気性部位の提供等を行うものであってもよい。このように、糸状体42、52の向き、場所、および数量を制御することによって、上部構造30および靴10の特性を制御するようにしてもよい。
刺繍プロセス
各刺繍要素40、50の製造方法の一例を図8A〜図8Oに示す。一般的に、第1刺繍要素40の形成に用いる種々工程は、第2刺繍要素50の形成に用いる工程と類似している。したがって、以下の説明では、第1刺繍要素40の製造方法に焦点を当てることとし、第2刺繍要素50については同様の方法で製造可能であると考える。
【0037】
第1刺繍要素40の少なくとも一部は、機械または手作業のいずれかによる刺繍プロセスによって形成する。機械刺繍に関しては、第1刺繍要素40の形成に従来の様々な刺繍機を利用してもよい。また、刺繍機は、1または複数の糸状体から特定のパターンまたはデザインを刺繍するようにプログラムしてもよい。一般的に、刺繍機は、糸状体の各部が様々な場所の間に延びて可視化されるように、糸状体の当該場所への固定を繰り返すことによってパターンまたはデザインを形成する。より具体的に説明すると、刺繍機は、(a)基層41の第1の場所に針で穴を開けて糸状体42の第1のループを基層41に通し、(b)糸状体42の第1のループを通る別の糸状体で第1のループを固定し、(c)糸状体42が第1の場所から延びて基層41の表面上で可視化されるように針を第2の場所に移動させ、(d)基層41の第2の場所に針で穴を開けて糸状体42の第2のループを基層41に通し、(e)糸状体42の第2のループを通る別の糸状体で第2のループを固定することによって、一連のロックステッチを形成する。このように、刺繍機は、糸状体42を2つの所定場所に固定するとともに、両場所間に糸状体42を延在させるように動作する。これらの工程を繰り返すことによって、糸状体42による刺繍が基層41に形成される。
【0038】
従来の刺繍機は、ロックステッチにより糸状体42を基層41に固定可能なサテンステッチ、ランニングステッチ、またはフィルステッチを形成することによって、基層41にパターンまたはデザインを形成してもよい。サテンステッチは、互いに近接して形成された一連のジグザグ状ステッチである。ランニングステッチは、2点間に延在し、精密な部分、縁取り、および下張りに利用されることが多い。フィルステッチは、互いに近接して形成された一連のランニングステッチであって、様々なパターンおよびステッチ方向を形成する。このフィルステッチは、比較的大きな部位を対象とする場合に利用されることが多い。サテンステッチに関しては、従来の刺繍機では一般的に12mmに制限されている。すなわち、従来の刺繍機でサテンステッチを形成する場合、糸状体が基層に固定される第1および第2の場所間の距離は12mmに制限される。したがって、従来のサテンステッチ刺繍には、12mm以下の距離だけ離れた場所の間に延びる糸状体を含んでいる。ただし、刺繍要素40の形成においては、12mmを超える間隔を空けた場所間に延びるサテンステッチを形成するように刺繍機を改良することが必要となる場合もある。本発明の一部の態様においては、たとえば5cmを超える間隔を空けてステッチを形成する場合がある。すなわち、たとえば12mmまたは5cmを超えて、基層41の表面上に糸状体が連続的に露出する場合がある。
【0039】
図8Aに関しては、刺繍工程で利用される従来の矩形フープ構成のフープ60と組み合わせて基層41を図示している。フープ60の主要な要素としては、外側リング61、内側リング62、およびテンショナー63がある。当技術分野で周知のように、外側リング61は内側リング62の周囲に延び、基層41の周辺部は外側リング61と内側リング62との間に延びている。テンショナー63は、内側リング62が外側リング61の内側に配置されるとともに、基層41が適当な位置で確実に保持されるように、外側リング61の張力を調整する。この構成において、基層41の中央部は単一の平面上に配置され、製造プロセスの以降の工程でも基層41が確実に固定されるように、わずかな張力を持たせてもよい。このように、フープ60は一般的に、第1刺繍要素40を形成する刺繍工程において基層41を確実に固定するフレームとして利用される。
【0040】
基層41がフープ60内に固定されると、刺繍機が糸状体42の配置と基層41への固定とを開始する。図8Bに示すように、刺繍機はまず、第1刺繍要素40の輪郭を形成する。この輪郭には、第1刺繍要素40の周囲に延び、縁部43a〜43dに対応した糸状体群44eが含まれる。足首開口31を構成する縁部43aの部分は、足首開口31に強度を付与するため、糸状体群44eのその他の部位よりも厚みを有するものとして図示している。第1刺繍要素40のさらに別の構成では、糸状体群44eの全体が厚い構成であってもよいし、または、足首開口31を構成する縁部43aの部分が相対的に薄い構成であってもよい。さらに、第1刺繍要素40の構成によっては、糸状体群44eの一部または全部を削除するようにしてもよい。また、糸状体群44eの形成には、サテンステッチ、ランニングステッチ、フィルステッチ、またはこれらの組み合わせ等、様々な種類のステッチを利用してもよい。
【0041】
糸状体群44eの形成後は、糸状体群44aの形成を行ってもよい。図8Cを参照して、第1刺繍要素40の外側の2点間には、糸状体42の一部42aが延びている。当該部分42aの端点はロックステッチで固定され、中央部(すなわち、端点以外の部位)は基層41に隣接はしているが、固定はされていない。すなわち、当該部分42aの中央部は、基層41の表面上に連続的に露出している。そして、刺繍機は、図8Dに示すように、糸状体42の比較的短い部分42bを形成し、部分42aと交差する別の部分42cを形成する。この基本手順は、図8Eに示すように、糸状体群44aが完成するまで繰り返す。
【0042】
糸状体群44cは、糸状体群44aと同様の方法で形成する。図8Fを参照して、糸状体群44eで形成した輪郭の内側の2点間には、糸状体42の一部42dが延びている。当該部分42dの端点はロックステッチで固定され、中央部(すなわち、端点以外の部位)は基層41に隣接はしているが、固定はされていない。また、中央部は、糸状体群44aと交差している。そして、刺繍機は、図8Gに示すように、糸状体42の比較的短い部分42eを形成し、上記と同じく糸状体群44aと交差する別の部分42fを形成する。この基本手順は、図8Hに示すように、糸状体群44cの種々部分のうちの1つが完成するまで繰り返す。その後、刺繍機は、図8Iに示すように、たとえば複数のサテンステッチを用いて、糸状体群44bの種々部分のうちの1つを形成する。この上述した糸状体群44cの種々部分のうちの1つおよび糸状体群44bの種々部分のうちの1つを形成する手順は、図8Jに示すように、さらに4回繰り返して各糸状体群44c、44bを形成する。
【0043】
構成によっては、糸状体群44cの端部が糸状体群44bの周囲に隣接していてもよい。ただし、図示のように、糸状体群44cは糸状体群44bの周囲を越えて延びている。すなわち、糸状体群44bを構成する糸状体42を超えて糸状体群44cが延びていてもよいし、または、糸状体群44cを構成する糸状体42を超えて糸状体群44bが延びていてもよい。より具体的に説明すると、各糸状体群44b、44cからの糸状体42は、絡み合っていてもよい。靴紐32が靴紐開口部33を通って延びるとともに張力が加わっている場合は、糸状体群44bが靴紐開口部33を強化するとともに、糸状体群44cが上部構造30の側面に沿って引張力を分散させる。糸状体群44b、44cを絡み合わせることによって、靴紐開口部33に加わる力はより効果的に糸状体群44cに伝達する。
【0044】
糸状体群44dは、糸状体群44a、44cと同様の方法で形成する。図8Kを参照して、糸状体群44eで形成した輪郭に隣接する踵部13の2点間には、糸状体42の一部42gが延びている。当該部分42gの端点はロックステッチで固定され、中央部(すなわち、端点以外の部位)は基層41に隣接はしているが、固定はされていない。すなわち、当該部分42gの中央部は、基層41の表面上に連続的に露出している。また、中央部は、糸状体群44aと交差している。この基本手順は、図8Lに示すように、糸状体群44dが完成するまで繰り返す。
【0045】
糸状体群44dが完成したら、糸状体群44bの中央に対応した部位に基層41を貫通する靴紐開口部33を形成してもよい。また、図8Mに示すように、基層41の糸状体群44eの外側部分から第1刺繍要素40を切り離して、縁部43a〜43dを形成するようにしてもよい。基層41の余分な部分からの第1刺繍要素40の切り離しにおいては、糸状体群44aを構成する糸状体42の各部が切断される。なお、上述の通り、基層41には、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、または結合する結合層またはその他の固定要素を具備していてもよい。以下に詳述するこの結合層またはその他の固定要素は、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離す前に追加または使用してもよい。
【0046】
図8A〜図8Mを参照して上述した第1刺繍要素40を形成する基本手順は、各糸状体群44a〜44eを形成する特定の順序を述べたものである。この順序では、糸状体群44c、44dが糸状体群44aと交差し、糸状体群44aが基層41と糸状体群44c、44dとの間に位置することになる。また、上述の順序では、糸状体群44b、44cが略同時に形成される。すなわち、糸状体群44cの一部が形成された後、糸状体群44bの一部が形成され、各糸状体群44b、44cが完成するまでこの手順が繰り返される。ただし、上述の順序は、第1刺繍要素40の形成に使用可能な様々な順序の一例に過ぎず、各糸状体群44a〜44eの形成には、その他様々な順序を利用してもよい。このように、図8A〜図8Mを参照して上述した基本手順は、第1刺繍要素40を形成する方法の一例を提供しているに過ぎず、代替として、その他様々な手順を利用してもよい。
【0047】
第2刺繍要素50は、第1刺繍要素40を形成するプロセスと同様の刺繍プロセスで形成してもよい。図8Nには、糸状体群54a〜54fを形成した刺繍プロセス後の第2刺繍要素50を図示している。この後には、糸状体群54bの中央に対応した部位に基層51を貫通する靴紐開口部33を形成してもよい。また、図8Oに示すように、基層51の糸状体群54fの外側部分から第2刺繍要素50を切り離して、縁部53a〜53dを形成するようにしてもよい。また、以下に詳述する通り、基層51の余分な部分から第2刺繍要素50を切り離す前には、糸状体52の各部を基層51に接合、固定、または結合する結合層またはその他の固定要素を追加してもよい。第1刺繍要素40と同様に、各糸状体群54a〜54fの形成には、様々な順序を利用してもよい。
靴の組み立て
刺繍要素40、50を上述の方法で形成したら、履物10を組み立てる。履物10を組み立てる方法の一例を図9A〜9Dに示す。まず、図9Aに示すように、前足部11および踵部13において刺繍要素40、50を一体的に固定することによって、上部構造30の製造を略完了させる。より具体的に説明すると、縁部43a、53aの前方部分を結合し、各縁部43c、53cも結合する。刺繍要素40、50の結合には、様々な種類のステッチまたは接着剤等を利用してもよい。
【0048】
上部構造30の完了後は、図9Bに示すように、ソール要素21、22の位置合わせを行う。そして、刺繍要素40、50の下部が第1ソール要素21の側面を包み込むように、刺繍要素40、50の間に第1ソール要素21を配置する。図9Cに示すように、刺繍要素40、50の下部を第1ソール要素21の下部に固定するには、たとえば接着剤を利用する。このように組み立てを行った後は、第1ソール要素21の上部の位置合わせを行って、上部構造30内部に足支持表面を設ける。ただし、構成によっては、上部構造30における第1ソール要素21の上部に隣接して中敷きを配置することにより、履物10の足支持表面を構成してもよい。
【0049】
その後、図9Dに示すように、第2ソール要素22を(たとえば接着剤等で)第1ソール要素21および刺繍要素40、50に固定する。この位置関係で、各刺繍要素40、50、第1ソール要素21、および第2ソール要素22は、履物10の接地表面部を構成している。第2ソール要素22には、摩擦を付与するため、取り外し可能なスパイクの構成の突起23を組み込んでもよい。最後に、従来の方法で靴紐開口部33に靴紐32を通すことによって履物10の組み立てを略完了させる。
固定要素
糸状体42の各セクション(たとえば、各部42a〜42g等)は、2つの端点と、当該端点間に延びる中央部とを有する。端点はロックステッチで固定され、中央部(すなわち、各セクションの端点以外の部位)は基層41に隣接はしているが、固定はされていない。この中央部を基層41に固定するため、糸状体42の各部を基層41に接合、固定、また結合する結合層を利用してもよい。以下では、第1刺繍要素40に結合層またはその他の固定手段を追加可能な様々な方法について論じる。第2刺繍要素50についても、これと同じ考え方が当てはまる。
【0050】
糸状体42の各部を基層41に固定するための一手順を図10A〜図10Dに示す。図10Aには、刺繍プロセスで形成した第1刺繍要素40を図示しているが、基層41の余分な部分からの切り離しは行っていない(すなわち、図8Lの状態)。また、糸状体42を含む第1刺繍要素40の表面に結合層70を重ねて図示している。
結合層70は、たとえば1/1000〜3mmの厚みを有する熱可塑性ポリマー材料のシートである。結合層70の好適なポリマー材料としては、ポリウレタンやエチルビニルアセテート等が挙げられる。結合層70を加熱して第1刺繍要素40に接合するため、結合層70および第1刺繍要素40は、図10Bに示すように、加熱プレスの一対のプラテン71、72間に載置する。結合層70の温度が上昇するにつれて、結合層70を形成するポリマー材料は、基層41および糸状体42の構造に入り込むように盛り上がる。ここで、加熱プレスから取り出すと、結合層70は冷えて、図10Cに示すように、基層41に対して糸状体42を効果的に接合する。その後、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離してもよい。
【0051】
結合層70により、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離した後も、糸状体群44aは無傷である。また、結合層70により、たとえば糸状体群44c、44dの各部は、基層41に対して適切な位置を維持する。糸状体群44c、44dを構成する糸状体42の一部セクションの端点はロックステッチで基層41に固定されているが、結合層70がなければ、中央部は基層41に固定されていない。このように、結合層70は、基層41に対して各糸状体42を効果的に接合している。
基層41は、汗や熱気を上部構造30から除去可能な通気性構造を有していてもよい。ただし、結合層70の追加により、上部構造30の通気度合いが低下する場合もある。結合層70は、図10Aでは連続構造を有するものとして図示しているが、結合層70が望ましくない第1刺繍要素40の部位に対応した様々な開口部を有するように構成してもよい。このように、結合層70の開口部を利用して、上部構造30の通気特性を向上するようにしてもよい。また、結合層70の材料使用量を低減すれば、履物10の質量が最小限に抑えられて都合が良い。
【0052】
糸状体42の各部を基層41に固定する別の手順を図11A〜図11Dに示す。図11Aには、糸状体42を追加する前に結合層70に結合された状態の基層41を図示している。そして、図11Bに示すように、刺繍プロセスを利用して、結合層70が基層41と糸状体42との間となるように糸状体群44a〜44eを形成する。結合層70を加熱して糸状体42を基層41に接合するため、結合層70および第1刺繍要素40は、図11Cに示すように、加熱プレスのプラテン71、72間に載置する。そして、加熱プレスから取り出すと、結合層70は冷えて、基層41に対して糸状体42を効果的に接合する。その後、図11Dに示すように、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離してもよい。糸状体42は、基層41上で収縮する傾向にあるため、刺繍プロセスの間は張力を持たせてもよい。刺繍プロセスの前に結合層70を基層41に貼り付けると、糸状体42の耐収縮性に結合層70が寄与することになるため都合が良い。
【0053】
糸状体42の各部を基層41に固定するさらに別の手順を図12A〜図12Cに示す。図12Aには、刺繍プロセスで形成した第1刺繍要素40を図示しているが、基層41の余分な部分からの切り離しは行っていない(すなわち、図8Lの状態)。そして、図12Bに示すように、接着剤固定要素を第1刺繍要素40に噴霧または塗布することによって、糸状体42を基層41に固定している。その後、図12Cに示すように、基層41の余分な部分から第1刺繍要素40を切り離してもよい。
積層構成
第1刺繍要素40の主要な要素としては、基層41、糸状体42、および結合層70がある。ただし、履物10の構成によっては、要素または層を追加して、履物10の耐久性、履き心地、または美的特性を向上するようにしてもよい。図13〜図15を参照すると、積層構成を有する複合材要素構成の刺繍要素80が開示されており、基層81、複数の糸状体セクション82、結合層83、被覆層84、および裏地層85を具備する。一般的に、基層81および結合層83は、刺繍要素80の中心的部分を構成している。糸状体セクション82は、被覆層84と基層81および結合層83の組み合わせとの間に配置されている。また、被覆層84および裏地層85はそれぞれ、刺繍要素80の両面にあって、刺繍要素80の対向する両表面を構成している。したがって、基層81、糸状体セクション82、および結合層83は、被覆層84と裏地層85との間に配置されている。
【0054】
基層81は、基層41に関して上述した略2次元材料のいずれかであってもよい。たとえば、基層81は、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す織物であってもよいし、伸縮性を付与するスパンデックス(エラステインとも称する)の含有量を比較的高くしてもよい。糸状体セクション82は、大略的に糸状体42の構成となっており、糸状体42に関して上述した略1次元材料のいずれかであってもよい。結合層83は、基層81に対して接合、結合、進入、あるいは組み込まれた熱可塑性ポリマー材料である。結合層83に好適な材料の例としては、熱可塑性ポリマーシート、ホットメルト材料、および熱可塑性ポリウレタン層が挙げられる。また、被覆層84および裏地層85についても、織物やポリマーシート等、基層41に関して上述した略2次元材料のいずれかであってもよい。
【0055】
たとえば図14には、刺繍要素80中の単一層としての基層81および結合層83を図示している。基層81および結合層83は、単一層を効果的に構成しているものの、後工程で結合される別個の材料である。以下に詳述する通り、結合層83の熱可塑性ポリマー材料は、基層81に進入または延入していてもよい。基層81がたとえば織物材料で形成されている場合、結合層83のポリマー材料は、基層81を構成する種々編糸、ファイバー、またはフィラメントの周囲および間に延びていてもよい。すなわち、結合層83のポリマー材料は、基層81の構造中に延入して、刺繍要素80内部に単一層を効果的に形成していてもよい。
【0056】
刺繍プロセスは、その結果としての材料の歪み、屈曲、皺、または変形の程度を制限するため、比較的堅固または非伸縮性の材料に適用されることが多い。上述の通り、基層81は、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す織物であってもよい。その場合、基層81に糸状体セクション82で直接刺繍を施すことによって、基層81に歪みまたは変形が生じる可能性がある。ただし、刺繍の前に、基層81に対して結合層83を結合、接合、もしくは固定することによって、安定性を付与するか、または基層81の変形度合いを制限するようにしてもよい。このように結合層83を利用することにより、刺繍プロセスにおいて基層81の安定性を効果的に得るようにしてもよい。
【0057】
結合層83は、刺繍プロセスにおいて基層81の安定化を図ることのほか、糸状体セクション82の位置を固定するとともに、被覆層84および裏地層85の両者を基層81に結合する。すなわち、結合層83は、刺繍要素80の様々な要素を一体的に接合する。上述の通り、結合層83は、基層81の構造中に進入もしくは延入する熱可塑性ポリマーシートまたはその他の熱可塑性ポリマー材料である。このような結合層83を加熱すると、基層81に対して接合、結合、進入、または組み込まれることになる。また、このような結合層83を加熱すると、糸状体セクション82、被覆層84、および裏地層85のそれぞれに対しても接合、結合、進入、または組み込まれることになるため、糸状体セクション82、被覆層84、および裏地層85は基層81に固定される。このように、結合層83には、(a)刺繍プロセス中の基層81の安定化、(b)糸状体セクション82の位置の固定と被覆層84および裏地層85の基層81への結合、という利点がある。
【0058】
刺繍要素80を製造または作製するプロセス全体は、結合層83を基層81に結合または組み合わせ、基層81および結合層83の組み合わせに糸状体セクション82を刺繍または取り付け、糸状体セクション82を結合層83で基層81に結合し、被覆層84および裏地層85の一方または両方を結合層83で基層81に結合することを含む。刺繍要素80の製造または作製には様々な方法を利用できるが、図16A〜図16Gおよび図17A〜図17Gには、プロセスの一例を示す。
【0059】
図16Aおよび図17Aを参照して、結合層83は、基層81に隣接するとともに、プレス90のプラテン間に載置されている。基層81と結合層83とを結合するため、図16Bおよび図17Bに示すように、プレス90のプラテン間で基層81および結合層83を圧縮・加熱してもよい。基層81および結合層83は、最初は2つの別個の材料であったが、基層81および結合層83を圧縮・加熱することによって、基層81および結合層83を構成する材料の組み合わせとしての単一層が効果的に形成される。上述の通り、基層81が織物材料で形成されている場合、結合層83のポリマー材料は、基層81を構成する種々編糸、ファイバー、またはフィラメントの周囲および間に延びることによって、単一層を効果的に形成していてもよい。基層81および結合層83の加熱・圧縮を行ったら、図16Cおよび図17Cに示すように、プレス90を分離して基層81および結合層83の組み合わせを取り外してもよい。
【0060】
プレス90の利用は、基層81および結合層83を加熱・圧縮して単一層に組み合わせる方法の一例である。その他の様々な方法を利用してもよい。たとえば、プレス90による圧縮前に、基層81および結合層83の一方または両方をオーブン内またはその他の加熱装置で加熱してもよい。構成によっては、結合層83のポリマー材料を基層81に噴霧もしくは堆積させてもよいし、または、結合層83を構成するポリマー材料の溶融槽もしくは未硬化槽に基層81を浸漬させてもよい。さらに別の構成では、基層81の両面に隣接して配置された2枚のポリマー材料で結合層83を形成した後、プレス90のプラテン間で圧縮してもよい。このように、基層81および結合層83の結合には、様々な方法を利用してもよい。
【0061】
基層81および結合層83の結合を効果的に行ったら、図16Dおよび図17Dに示すように、基層81に糸状体セクション82を刺繍あるいは取り付けてもよい。より具体的に説明すると、糸状体セクション82に対して、図8A〜図8Lに関連して上述したプロセスと実質的に類似するプロセスを利用してもよい。また、糸状体セクション82のその他の構成に対しても、類似のプロセスを利用してもよい。すなわち、糸状体セクション82の各セクションは、別のパターンまたは場所に配置してもよい。刺繍要素80の構成によっては、基層81および結合層83の組み合わせ上に糸状体セクション82を配置するのに、刺繍以外のプロセスを利用してもよい。糸状体セクション82または糸状体セクション82の各セクションは、刺繍要素40と同様に、少なくとも12mmの距離にわたって基層81の表面と隣接しかつ略平行となるように配置してもよい。また、少なくとも5cmの距離にわたって基層81の表面と隣接しかつ略平行となるようにしてもよい。上述の通り、刺繍を施す前に基層81と結合層83とを結合することは、結合層83によって安定性が付与されるか、または刺繍中の基層81の変形度合いが制限されるため都合が良い。
【0062】
刺繍要素80を製造または作製するプロセスにおけるこの時点で、糸状体セクション82は、基層81および結合層83の組み合わせに固定されている。より具体的に説明すると、一部の糸状体セクション82の端点は、糸状体セクション82の位置を固定するため、基層81および結合層83の組み合わせを通って延びていてもよい。ただし、糸状体セクション82の上記端点間の部位は、基層81の表面に対して隣接しかつ略平行である。糸状体セクション82の位置をさらに固定するため、基層81、糸状体セクション82、および結合層83を(たとえばプレス90等で)加熱・圧縮して、糸状体セクションを結合層83で基層81に接合または結合するようにしてもよい。すなわち、結合層83を構成する熱可塑性ポリマー材料を軟化または溶融して、糸状体セクション82を基層81に固定するようにしてもよい。構成によっては、糸状体セクション82の上記端点間の部位を固定しなくてもよい。
【0063】
糸状体セクション82の基層81への刺繍または取り付けを行ったら、図16Eおよび図17Eに示すように、被覆層84および裏地層85を基層81の両面に設けてもよい。より具体的に説明すると、被覆層84を基層81の第1表面に隣接して設け、裏地層85を基層81の対向する第2表面に隣接して設けてもよい。糸状体セクション82は、被覆層84と基層81との間に延びているが、裏地層85と基層81との間の部位からは実質的にないようにしてもよい。
【0064】
被覆層84と裏地層85とを結合するため、図16Fおよび図17Fに示すように、プレス90または別のプレスを利用して両者を加熱・圧縮する。結合層83が基層81の両面に設置可能であることを考えると、結合層83を構成する熱可塑性ポリマー材料は、被覆層84および裏地層85と接合する。したがって、糸状体セクション82の基層81への接合が以前の工程で行われていない場合は、結合層83により行うこととしてもよい。刺繍要素80の各構成要素は、プレス90から取り出すと、互いに結合している。残った材料は、図16Gおよび図17Gに示すように、切り離しまたは切り取りを行って、刺繍要素80を製造または作製するプロセス全体を略完了させてもよい。
【0065】
上述の通り、結合層83は基層81の両面に設けられていてもよい。図16Aおよび図17Aを参照すると、結合層は、基層81の一方の表面に隣接して載置されている。結合層83のポリマー材料は、図16Bおよび図17Bに示すように、加熱と圧縮とによって基層81に入り込んでもよいし、ポリマー材料の一部は、対向表面に現れるように基層81を貫通していてもよい。また、プロセスによっては、2枚の結合層83を利用して、基層81の対向表面に同量のポリマー材料が現れるようにしてもよい。さらに、結合層83のポリマー材料を基層81に噴霧することを含むプロセスは、両面に噴霧することを含んでいてもよいし、結合層83を構成するポリマー材料の溶融槽または未硬化槽に基層を浸漬させるプロセスでは、ポリマー材料を両面に塗布する。このように、結合層83のポリマー材料が基層81の両面に現れるようにするには、様々な技術を利用してもよい。その目的は、(a)糸状体セクション82および被覆層84を基層81の第1表面に固定すること、ならびに(b)裏地層85を基層81の第2表面に固定することである。
【0066】
刺繍を施す前に結合層83のポリマー材料を基層81に組み込むことによって、ポリマー材料は、刺繍プロセスの結果としての基層81の歪み、屈曲、皺、または変形の度合いを制限するのに利用される。また、結合層83のポリマー材料を基層81に組み込むことは、糸状体セクション82、被覆層84、および裏地層85のそれぞれに対して接合、結合、進入、または組み込まれる材料を提供することになり、糸状体セクション82、被覆層84、および裏地層85が基層81に固定されるため都合が良い。このように、上述のプロセス全体では、(a)刺繍プロセスにおける基層81の安定化と、(b)糸状体セクション82の位置の固定ならびに被覆層84および裏地層85の基層81への結合とを目的として結合層83を利用する。
【0067】
上述の製造プロセス後は、履物10等の履物製品に刺繍要素80および類似の刺繍要素を組み込んでもよい。より具体的に説明すると、たとえば刺繍要素80で刺繍要素40を置き換え、同様のプロセスで形成された刺繍要素で刺繍要素50を置き換えてもよい。構成によっては、履物10の上部構造30の外面を被覆層84で構成し、履物10の着用時に足と接触する内面を裏地層85で構成してもよい。また、別の構成においては、上部構造30の内面を被覆層84で構成し、外面を裏地層85で構成してもよい。
結論
上述の内容に基づけば、上部構造30の少なくとも一部は、糸状体42、52から構造的要素を構成する刺繍プロセスにより形成される。糸状体42、52の向き、場所、および数量によっては、上部構造30に様々な構造的要素が形成される場合がある。たとえば、このような構造的要素は、特定部位への耐伸縮性の付与、各部位の強化、耐摩耗性の向上、柔軟性の変更、または通気性部位の提供等を行うものであってもよい。このように、糸状体42、52の向き、場所、および数量を制御することによって、上部構造30および履物10の特性を制御するようにしてもよい。
本発明は、上記および添付図面において、様々な実施形態を参照して説明した。ただし、本開示の目的は、本発明の種々態様に関連する多様な特徴および構想の一例を提供することであって、本発明の種々態様の範囲を限定するものではない。当業者であれば、添付の特許請求の範囲で規定するように、本発明の範囲を逸脱することなく上述の実施形態を様々に変形および改良可能であることが分かるであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面および反対側の第2表面を有し、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す基層と、
前記基層とは別個で、前記基層中に延びる熱可塑性ポリマー材料であって、少なくとも一部が前記基層の前記第1表面に配置されたポリマー材料と、
前記基層の前記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記基層の前記第1表面と略平行なセクションを有し、前記ポリマー材料で前記基層に接合された糸状体と、
前記基層の前記第1表面に隣接して配置されるとともに、前記ポリマー材料で前記基層に接合された被覆層であって、当該被覆層と前記基層との間に前記糸状体の前記セクションが配置された被覆層と、
を備えた複合材要素。
【請求項2】
前記糸状体の前記セクションが、前記基層を通って延びる前記糸状体の部分間に配置されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項3】
前記糸状体の前記セクションの端部が前記基層の縁部に配置されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項4】
前記糸状体が、前記基層の前記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記基層の前記第1表面と略平行な複数の付加セクションを具備することを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項5】
前記付加セクションが互いに略平行となるように配置されたことを特徴とする、請求項4に記載の複合材要素。
【請求項6】
前記付加セクションが互いに交差するように配置されたことを特徴とする、請求項4に記載の複合材要素。
【請求項7】
前記ポリマー材料が前記基層の前記第2表面にも配置され、裏地層が前記基層の前記第2表面に隣接して配置されているとともに前記ポリマー材料で前記基層に接合されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項8】
前記基層が織物材料であることを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項9】
上部構造およびこの上部構造に固定されたソール構造を有する履物製品であって、前記上部構造の少なくとも一部が、
第1表面および反対側の第2表面を有し、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す織物層と、
前記織物層とは別個で、前記織物層中に延びる熱可塑性ポリマー材料であって、少なくとも一部が前記織物層の前記第1表面に配置されたポリマー材料と、
前記織物層の前記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記織物層の前記第1表面と略平行なセクションを有し、前記ポリマー材料で前記織物層に接合された糸状体と、
前記上部構造の外面の少なくとも一部を構成し、前記織物層の前記第1表面に隣接して配置されるとともに、前記ポリマー材料で前記織物層に接合された被覆層であって、当該被覆層と前記織物層との間に前記糸状体のセクションが配置された被覆層と、
を備えた履物製品。
【請求項10】
前記糸状体のセクションが、前記織物層を通って延びる前記糸状体の部分間に配置されたことを特徴とする、請求項9に記載の履物製品。
【請求項11】
前記糸状体のセクションの端部が前記織物層の縁部に配置されたことを特徴とする、請求項9に記載の履物製品。
【請求項12】
前記糸状体が、前記織物層の前記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記織物層の前記第1表面と略平行な複数の付加セクションを具備することを特徴とする、請求項9に記載の履物製品。
【請求項13】
前記付加セクションが互いに略平行となるように配置されたことを特徴とする、請求項12に記載の履物製品。
【請求項14】
前記付加セクションが互いに交差するように配置されたことを特徴とする、請求項12に記載の履物製品。
【請求項15】
前記ポリマー材料が前記織物層の前記第2表面にも配置され、裏地層が前記織物層の前記第2表面に隣接して配置されるとともに前記ポリマー材料で前記織物層に接合されたことを特徴とする、請求項9に記載の履物製品。
【請求項16】
前記裏地層が当該履物の内面の少なくとも一部を構成することを特徴とする、請求項15に記載の履物製品。
【請求項17】
ポリマー材料を織物層に組み込んで、前記織物層の第1表面および反対側の第2表面に配置することと、
糸状体のセクションが前記織物層に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記織物層と略平行となるように、前記糸状体で前記織物層に刺繍を施することと、
前記織物層の前記第1表面に隣接して被覆層を配置し、この被覆層と前記織物層との間に前記糸状体の前記セクションが配置されるようにすることと、
前記ポリマー材料を加熱して前記糸状体の前記セクションおよび前記被覆層を前記織物層に接合することと、
を含む複合材要素の製造方法。
【請求項18】
引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す織物材料である前記織物層を選択する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記刺繍工程が、前記織物層を通って延びる前記糸状体の部分間に前記糸状体の前記セクションを配置することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記刺繍工程が、前記織物層に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記織物層と略平行な前記糸状体の複数の付加セクションを配置することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記刺繍工程が、前記複数の付加セクションを互いに略平行に配置することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記刺繍工程が、前記複数の付加セクションを互いに交差するように配置することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記織物層の前記第2表面に隣接して裏地層を配置し、前記裏地層を前記ポリマー材料で前記織物層に接合する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記刺繍要素を履物製品に組み込む工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記刺繍要素を履物製品に組み込む工程が、前記履物の外面の少なくとも一部を構成するように前記被覆層を配置することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記織物層の前記第2表面に隣接して裏地層を配置し、前記裏地層を前記ポリマー材料で前記織物層に接合する工程をさらに含み、前記刺繍要素を履物製品に組み込む工程が、履物の内面の少なくとも一部を構成するように前記裏地層を配置することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項1】
第1表面および反対側の第2表面を有し、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す基層と、
前記基層とは別個で、前記基層中に延びる熱可塑性ポリマー材料であって、少なくとも一部が前記基層の前記第1表面に配置されたポリマー材料と、
前記基層の前記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記基層の前記第1表面と略平行なセクションを有し、前記ポリマー材料で前記基層に接合された糸状体と、
前記基層の前記第1表面に隣接して配置されるとともに、前記ポリマー材料で前記基層に接合された被覆層であって、当該被覆層と前記基層との間に前記糸状体の前記セクションが配置された被覆層と、
を備えた複合材要素。
【請求項2】
前記糸状体の前記セクションが、前記基層を通って延びる前記糸状体の部分間に配置されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項3】
前記糸状体の前記セクションの端部が前記基層の縁部に配置されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項4】
前記糸状体が、前記基層の前記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記基層の前記第1表面と略平行な複数の付加セクションを具備することを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項5】
前記付加セクションが互いに略平行となるように配置されたことを特徴とする、請求項4に記載の複合材要素。
【請求項6】
前記付加セクションが互いに交差するように配置されたことを特徴とする、請求項4に記載の複合材要素。
【請求項7】
前記ポリマー材料が前記基層の前記第2表面にも配置され、裏地層が前記基層の前記第2表面に隣接して配置されているとともに前記ポリマー材料で前記基層に接合されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項8】
前記基層が織物材料であることを特徴とする、請求項1に記載の複合材要素。
【請求項9】
上部構造およびこの上部構造に固定されたソール構造を有する履物製品であって、前記上部構造の少なくとも一部が、
第1表面および反対側の第2表面を有し、引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す織物層と、
前記織物層とは別個で、前記織物層中に延びる熱可塑性ポリマー材料であって、少なくとも一部が前記織物層の前記第1表面に配置されたポリマー材料と、
前記織物層の前記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記織物層の前記第1表面と略平行なセクションを有し、前記ポリマー材料で前記織物層に接合された糸状体と、
前記上部構造の外面の少なくとも一部を構成し、前記織物層の前記第1表面に隣接して配置されるとともに、前記ポリマー材料で前記織物層に接合された被覆層であって、当該被覆層と前記織物層との間に前記糸状体のセクションが配置された被覆層と、
を備えた履物製品。
【請求項10】
前記糸状体のセクションが、前記織物層を通って延びる前記糸状体の部分間に配置されたことを特徴とする、請求項9に記載の履物製品。
【請求項11】
前記糸状体のセクションの端部が前記織物層の縁部に配置されたことを特徴とする、請求項9に記載の履物製品。
【請求項12】
前記糸状体が、前記織物層の前記第1表面に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記織物層の前記第1表面と略平行な複数の付加セクションを具備することを特徴とする、請求項9に記載の履物製品。
【請求項13】
前記付加セクションが互いに略平行となるように配置されたことを特徴とする、請求項12に記載の履物製品。
【請求項14】
前記付加セクションが互いに交差するように配置されたことを特徴とする、請求項12に記載の履物製品。
【請求項15】
前記ポリマー材料が前記織物層の前記第2表面にも配置され、裏地層が前記織物層の前記第2表面に隣接して配置されるとともに前記ポリマー材料で前記織物層に接合されたことを特徴とする、請求項9に記載の履物製品。
【請求項16】
前記裏地層が当該履物の内面の少なくとも一部を構成することを特徴とする、請求項15に記載の履物製品。
【請求項17】
ポリマー材料を織物層に組み込んで、前記織物層の第1表面および反対側の第2表面に配置することと、
糸状体のセクションが前記織物層に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記織物層と略平行となるように、前記糸状体で前記織物層に刺繍を施することと、
前記織物層の前記第1表面に隣接して被覆層を配置し、この被覆層と前記織物層との間に前記糸状体の前記セクションが配置されるようにすることと、
前記ポリマー材料を加熱して前記糸状体の前記セクションおよび前記被覆層を前記織物層に接合することと、
を含む複合材要素の製造方法。
【請求項18】
引張破壊に至るまでに少なくとも30%の伸びを示す織物材料である前記織物層を選択する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記刺繍工程が、前記織物層を通って延びる前記糸状体の部分間に前記糸状体の前記セクションを配置することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記刺繍工程が、前記織物層に隣接し、少なくとも5cmの距離にわたって前記織物層と略平行な前記糸状体の複数の付加セクションを配置することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記刺繍工程が、前記複数の付加セクションを互いに略平行に配置することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記刺繍工程が、前記複数の付加セクションを互いに交差するように配置することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記織物層の前記第2表面に隣接して裏地層を配置し、前記裏地層を前記ポリマー材料で前記織物層に接合する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記刺繍要素を履物製品に組み込む工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記刺繍要素を履物製品に組み込む工程が、前記履物の外面の少なくとも一部を構成するように前記被覆層を配置することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記織物層の前記第2表面に隣接して裏地層を配置し、前記裏地層を前記ポリマー材料で前記織物層に接合する工程をさらに含み、前記刺繍要素を履物製品に組み込む工程が、履物の内面の少なくとも一部を構成するように前記裏地層を配置することを含む、請求項25に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図8G】
【図8H】
【図8I】
【図8J】
【図8K】
【図8L】
【図8M】
【図8N】
【図8O】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図16E】
【図16F】
【図16G】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図17E】
【図17F】
【図17G】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図8G】
【図8H】
【図8I】
【図8J】
【図8K】
【図8L】
【図8M】
【図8N】
【図8O】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図16E】
【図16F】
【図16G】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図17E】
【図17F】
【図17G】
【公表番号】特表2011−528935(P2011−528935A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520059(P2011−520059)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/045416
【国際公開番号】WO2010/011414
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(505424859)ナイキ インターナショナル リミテッド (249)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/045416
【国際公開番号】WO2010/011414
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(505424859)ナイキ インターナショナル リミテッド (249)
【Fターム(参考)】
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