説明

ポリマー被覆シリカ

【課題】 本発明の目的は、塗料、ゴム、樹脂、成型材料等の高分子材料の強度、靭性、衝撃強さ、熱安定性など物理機械性能(例えば耐光老化性、耐水性、耐油性、耐薬品性、耐汚染性、付着防止性、耐摩耗性、撥水性、流動性など)の改善のために配合される種々の疎水性の有機材料との相溶性を向上させるために高分子材料フィラーとして用いられ、高い疎水性を持つポリマー被覆シリカを提供することにある。
【解決手段】 親水性シリカを(A)一般式(1)(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜5の整数である。)で表されるアミノアルキルシラン化合物で処理し、さらに(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体で処理して得られることを特徴とするポリマー被覆シリカ。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、ゴム、樹脂、成型材料等に用いられるポリマー被覆シリカに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー被覆シリカ微粒子は、塗料、ゴム、樹脂、成型材料等の高分子材料の強度、靭性、衝撃強さ、熱安定性など物理機械性能(例えば耐光老化性、耐水性、耐油性、耐薬品性、耐汚染性、付着防止性、耐摩耗性、撥水性、流動性など)の改善のために配合される種々の有機材料の相溶性を向上させるために、高分子材料フィラーとして用いられている。例えば、フッ素系化合物、ポリシロキサンのような表面エネルギーの低い物質で表面を被覆し、疎水性を有するように表面処理を行ったポリマー被覆シリカ微粒子は、フィラーとしてゴムに配合することにより、ゴム改質剤として配合される種々の有機材料のゴムへの相溶性を高め、ゴムの表面滑り性改善、耐磨耗性向上および機械的強度補強に効果を発揮する。
ポリマー被覆シリカは主に親水性シリカの表面処理により製造され、従来から種々の方法が提案されてきた。例えば、親水性シリカの表面をビニル系シランカップリング剤で処理して形成された単層構造又は複数層構造のビニル系重合体被膜をシロキサン結合含有重合体で被覆した樹脂被覆シリカ(例えば特許文献1参照)、パーフルオロアルキル基及び/又はシリコーン基を含む有機ポリマーで被覆された無機微粒子(例えば特許文献2参照)、シロキサン骨格を有するポリマーで被覆された無機微粒子(例えば特許文献3参照)、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート又はポリ(メタ)アクリルアミド等を多孔性シリカの表面に物理吸着させた被覆多孔性シリカ微粒子(例えば特許文献4参照)、シリカ微粒子とフッ素塩化物を反応させた後に酸素原子を含有する高分子材料を接触させて得られるポリマー被覆シリカ(例えば特許文献5参照)等がある。
【0003】
しかし、これらの方法で得られたポリマー被覆シリカは、十分な疎水化度を得るには至っていないために、ポリエチレン、ポリプロビレン、ポリスチレンなど表面エネルギーが小さく、疎水性の有機高分子材料との相溶性が十分満足しうるものではない。そのためにこれらのポリマー被覆シリカと有機高分子材料との相容性の問題が生じ、目的とした品質、性能を得ることができず、その解決策が強く望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−226512号公報
【特許文献2】特開平9−302257号公報
【特許文献3】WO2004−077177号公報
【特許文献4】特表2006−504515号公報
【特許文献5】特開2004−231450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、塗料、ゴム、樹脂、成型材料等の高分子材料の強度、靭性、衝撃強さ、熱安定性など物理機械性能(例えば耐光老化性、耐水性、耐油性、耐薬品性、耐汚染性、付着防止性、耐摩耗性、撥水性、流動性など)の改善のために配合される種々の疎水性有機材料との相溶性を向上させる高分子材料フィラーとして用いられ、高い疎水性を持つポリマー被覆シリカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、親水性シリカの疎水性の向上による疎水性高分子材料の相溶性向上について鋭意検討を重ねてきた結果、親水性シリカとアミノアルキルシラン化合物を反応させて親水性シリカ表面に反応性のアミノ基を導入した後、当該アミノ基と遊離カルボン酸含有重合体を反応させることで、高い疎水性が得られるとともに疎水性有機高分子との相溶性が良好なポリマー被覆シリカが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、請求項1記載の発明は、親水性シリカを(A)一般式(1)(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜5の整数である。)で表されるアミノアルキルシラン化合物で処理し、さらに(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体で処理して得られることを特徴とするポリマー被覆シリカである。
【0008】
【化1】

【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のポリマー被覆シリカであり、アミノアルキルシラン化合物が3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランから選ばれた1種以上であることを特徴としている。
【0010】
請求項3に係る発明は、特許請求項1又は請求項2記載のポリマー被覆シリカであり、
エチレン性不飽和カルボン酸がアクリル酸及び/又はメタクリル酸であることを特徴としている。
【0011】
請求項4に係る発明は、特許請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のポリマー被覆シリカであり、(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸のモル比率が、3〜30モル%であることを特徴としている。
【0012】
請求項5に係る発明は、特許請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のポリマー被覆シリカであり、(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体がアクリル酸−アクリル酸メチル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体、アクリル酸−アクリル酸イソブチル共重合体、アクリル酸−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、アクリル酸−スチレン共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸イソブチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸−スチレン共重合体から選ばれる1種以上であることを特徴としている。
【0013】
請求項6に係る発明は、特許請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のポリマー被覆シリカであり、フッ素系界面活性剤の存在下で(A)アミノアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカを(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体で処理して得られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリマー被覆シリカは、従来の方法で製造されたポリマー被覆シリカに比べて高い疎水性を得ることができ、疎水性の有機高分子材料との相溶性が良好で高分子材料フィラーとして用いられ、塗料、ゴム、樹脂、成型材料等の高分子材料の強度、靭性、衝撃強さ、熱安定性など物理機械性能(例えば耐光老化性、耐水性、耐油性、耐薬品性、耐汚染性、付着防止性、耐摩耗性、撥水性、流動性など)の改善に大きく寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリマー被覆シリカ(以下「ポリマー被覆シリカ」とする)は、親水性シリカを(A)アミノアルキルシラン化合物を反応させて、親水性シリカ表面に反応性のアミノ基を有する疎水性基を導入した後、さらに当該アミノ基と、(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体と反応させて得られたポリマー被覆シリカである。
【0016】
本発明で使用する親水性シリカは、特に限定されるものではなく、湿式沈殿法シリカ、湿式ゲル化法シリカ、乾式シリカ(クロロシランの火炎熱分解によって製造されるフュームドシリカを含む)等のシリカを単独あるいは複数組合せて用いても良い。
【0017】
本発明で使用するアミノアルキルシラン化合物(以下「アミノアルキルシラン化合物」とする)は、一般式(1)で表されるアミノアルキルシラン化合物である。
【0018】
一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基であり、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基がある。R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基であり、例えば水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシル基、イソプロポキシル基である。nは0〜5の整数である。具体的なアミノアルキルシラン化合物としては、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、2−アミノエチルエチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(2−アミノエチル)アミノエチルトリエトキシシラン、2−(2−アミノエチル)アミノエチルエチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルエチルジエトキシシランがあり、好ましくは3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランである。これらの単独あるいは2種以上を組合せて用いられる。
【0019】
親水性シリカとアミノアルキルシラン化合物との反応は、特に限定されるものではなく、通常のシラン化合物によるシリカの表面処理の反応に準じて行われる。アミノアルキルシラン化合物の使用量は下式に従い目安を算出することができる。
a=(b×c)/d
a:アミノアルキルシラン化合物使用量(g)
b:親水性シリカ(g)
c:シリカ比表面積(m/g)
d:アミノアルキルシラン化合物の最小被覆面積(m/g)
ここで、最小被覆面積はStuart-Brieglebの分子モデルから計算される。アミノアルキルシラン化合物の使用量は、目的とするポリマー被覆シリカの用途、ポリマー被服性の要求度によって適宜選択されるものであり、通常、親水性シリカに対して2〜20wt%、好ましくは4〜10wt%である。アミノアルキルシラン化合物の使用量がシリカの2wt%以下である場合には、親水性シリカのポリマー被覆率が低くなる場合があり、生成したポリマー被覆シリカの被覆度が十分ではない場合がある。アミノアルキルシラン化合物の使用量が親水性シリカの20wt%以上になると、使用するアミノアルキルシラン化合物のコストが高くて不経済であり、さらに生成したポリマー被覆シリカが凝集し易くなり、乾燥分散し難くなり、好ましくない場合がある。
【0020】
アミノアルキルシラン化合物の使用方法には、アミノアルキルシラン化合物をそのまま使用する方法、1〜20wt%濃度水溶液を調製して使用する方法、水溶性有機溶剤に溶解して使用する方法、非水溶性有機溶剤に溶解して使用する方法等があり、いずれの方法を用いても良い。水溶性有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、メチルセルソルブ、ジオキサンなどがある。非水溶性有機溶剤としてはトルエン、キシレンがある。
【0021】
アミノアルキルシラン化合物の添加方法は、特に限定されるのもではなく、通常、ミキサーやブレンダーの中に親水性シリカを入れ、攪拌しながらアミノアルキルシラン化合物を直接入れる方法、あるいはアミノアルキルシラン化合物の水溶液又は有機溶媒希釈液をスプレー塗布する方法などがあり、いずれを用いても良い。中でもスプレー塗布方法は従来のスラリー方法に比べて、エポキシアルキルシラン化合物と親水性シリカとの反応後の親水性シリカ、疎水性シリカとエポキシアルキルシラン化合物のろ過、ろ別や遠心分離等の処理が低減・解消され、好ましい。
【0022】
親水性シリカとアミノアルキルシラン化合物との反応は速やかに進むために、通常、常温〜60℃の温度で行われる。また、親水性シリカとアミノアルキルシラン化合物との反応時間は、目的とするポリマー被覆シリカの用途、ポリマー被覆性の要求度によって適宜選択され一律に決定できないが、通常、5〜100分間、好ましく20〜60分間で、ほぼ完全に反応は進み、アミノアルキルシラン化合物は外に反応性アミノ基を向けて親水性シリカ表面のヒドロキシル基(OH基)と反応して結合する。アルキルシラン化合物の加水分解は、一般にpHを3.5〜5.5の範囲とすることが好ましく、また、シラノール基の安定性にも好ましいことが知られている。これを維持するために少量の酢酸、リン酸を添加する場合がある。
【0023】
本発明で用いるエチレン性不飽和カルボン酸を含む重合体(以下「カルボン酸含有共重合体」とする)は、重合体の構成単位として少なくとも1つのカルボキシル基を持っているエチレン性不飽和カルボン酸を含む重合体である。エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸などがあり、好適にはアクリル酸、メタクリル酸(以下、アクリル酸、メタクリル酸を「(メタ)アクリル酸」とする)である。これらのエチレン性不飽和カルボン酸の1種あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0024】
カルボン酸含有共重合体を構成する要素であり、エチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能な不飽和化合物としては、前記のエチレン性不飽和カルボン酸のエステル、スチレン、スチレン誘導体が挙げられる。前記のエチレン性不飽和カルボン酸のエステルとしては、アクリル酸、メタクリル酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステルがある。例えば、(メタ)アクリル酸エステルとしては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルなどがあり、他のコハク酸、フマル酸、イタコン酸でも(メタ)アクリル酸エステルと同様に対応するエステルが挙げられる。また、スチレン誘導体としてはメチルスチレン、エチルスチレンがある。中でも好ましくは(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、スチレンである。これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0025】
具体的なカルボン酸含有共重合体としては、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸プロピル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸イソプロピル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸デシル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸ドデシル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸テトラデシル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸ステアリル共重合体、コハク酸−コハク酸メチル共重合体、コハク酸−コハク酸エチル共重合体、コハク酸−コハク酸プロピル共重合体、コハク酸−コハク酸ブチル共重合体、コハク酸−コハク酸デシル共重合体、コハク酸−コハク酸ステアリル共重合体、フマル酸−フマル酸メチル共重合体、フマル酸−フマル酸エチル共重合体、フマル酸−フマル酸プロピル共重合体、フマル酸−フマル酸ブチル共重合体、フマル酸−フマル酸デシル共重合体、イタコン酸−イタコン酸メチル共重合体、イタコン酸−イタコン酸エチル共重合体、イタコン酸−イタコン酸プロピル共重合体、イタコン酸−イタコン酸ブチル共重合体、イタコン酸−イタコン酸デシル共重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン共重合体、コハク酸−スチレン共重合体、フマル酸−スチレン共重合体、イタコン酸−スチレン共重合体があり、好ましくは(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸プロピル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸イソプロピル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン共重合体である。これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0026】
カルボン酸含有共重合体中に占めるエチレン性不飽和カルボン酸のモル比率は3〜30モル%の範囲内であり、好ましくは7〜15モル%である。エチレン性不飽和カルボン酸のモル比率が3%以下になると、カルボン酸含有共重合体のカルボキシル基とアミノアルキルシラン処理シリカの反応は難しくなり、目的とする疎水性を有するカルボン酸含有共重合体被服シリカが得られない。また、カルボン酸含有共重合体中に占めるエチレン性不飽和カルボン酸のモル比率が30%を超えると、反応せずに残存するカルボン酸含有共重合体中のカルボキシル基とアミノアルキルシラン処理シリカの表面上のアミノ基により、得られたポリマー被覆シリカの疎水化度が低くなる場合があり好ましくない。
【0027】
カルボン酸含有共重合体の分子量は、特に限定されていないが、通常、重量平均分子量として1,000〜1,000,000である。また、共重合体の種類も特に限定されるものではなく、ランダム共重合体、交互共重合体およびプロック共重合体の何れも使用することができる。
【0028】
カルボン酸含有共重合体とアミノアルキルシラン処理シリカを混合し、反応(塩の形成、さらにはアミド結合の形成)させることにより、アミノアルキルシラン処理シリカをカルボン酸含有共重合体で被覆したポリマー被服シリカが得られる。
【0029】
カルボン酸含有共重合体とアミノアルキルシラン処理シリカの反応は、カルボン酸含有共重合体とアミノアルキルシラン処理シリカをカルボン酸含有共重合体中のカルボキシル基のモル数と、アミノアルキルシラン処理シリカの表面上のアミノアルキルシラン中の反応性アミノ基のモル比を1:1〜2:1、好ましくは1.1:1〜1.5:1として反応させる。アミノアルキルシラン処理シリカ化合物中の反応性アミノ基のモル比が、当該比の範囲よりも小さいと反応で残存するアミノ基が多くなり、十分な疎水性が得られない。また、カルボン酸含有共重合体中のカルボキシル基のモル比が当該比の範囲を超えて多いと反応で得られる目的とするポリマー被服シリカの疎水性は向上するが、カルボン酸含有共重合体量の増加に見合うだけの疎水性の向上が得られなく、経済的メリットも得られない。
【0030】
カルボン酸含有共重合体は、通常、カルボン酸含有共重合体の分散液あるいは溶液を調製して用いられ、具体的には水希釈液として使用する方法、有機溶剤に溶解して使用する方法、O/W型エマルションとして使用する方法などがあり、適宜選択して使用される。
【0031】
カルボン酸含有共重合体を水希釈液として使用する方法では、カルボン酸含有共重合体を1〜10wt%濃度の水希釈液あるいは水溶性有機溶剤に溶解し、これを水に分散して使用する方法等があり、いずれの方法を用いても良い。水溶性有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルセルソルブ、ジオキサン、エタノール、エチレングリコール、エチレンカーボネートなどがある。
【0032】
カルボン酸含有共重合体を溶解、分散する有機溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどがある。
【0033】
カルボン酸含有共重合体をO/W型エマルションとして使用する方法では、トルエン、キシレンのような非水溶性有機溶媒にカルボン酸含有共重合体を溶解し、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の界面活性剤の存在下で水中に乳化分散することによって1〜10wt%のカルボン酸含有共重合体O/W型エマルションを調製することができる。また、エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体をエチレン性不飽和カルボン酸濃度20〜40wt%で乳化重合を行って調製して得、これを所定濃度に希釈して使用する方法もある。
【0034】
カルボン酸含有共重合体の添加方法は、特に限定されるのもではなく、通常、ミキサーやブレンダーの中にアミノアルキルシラン化合物で処理したシリカを入れ、撹拌しながらカルボン酸含有共重合体の分散液を直接入れる方法、あるいはカルボン酸含有共重合体の溶媒希釈液やカルボン酸含有共重合体のO/W型エマルション液をスプレー塗布する方法などがあり、いずれを用いても良い。
【0035】
ポリマー被覆シリカは、カルボン酸含有共重合体とアミノアルキルシラン処理シリカとの反応により得られる。カルボン酸含有共重合体とアミノアルキルシラン処理シリカとの反応温度は、使用するカルボン酸含有共重合体とアミノアルキルシランの種類により適宜決定すればよいが、通常、常温〜80℃である。また、反応時間は、目的とするポリマー被覆シリカの用途、疎水性の要求度によって適宜選択され一律に決定できないが、通常、20〜120分間、好ましく30〜90分間である。
【0036】
ポリマー被覆シリカの製造後、ポリマー被覆シリカの微粒子を長時間保管すると、ポリマー被覆シリカの粉体の凝集が生じる場合がある。これを防止するためにカルボン酸含有共重合体と、アミノアルキルシラン処理シリカとのポリマー被覆化反応時にフッ素系界面活性剤の添加により、分散性に優れたポリマー被覆シリカが得られる。フッ素系界面活性剤としては、一般式(2)〜(4)で表されるフッ素系化合物がある。一般式(2)において、Rは炭素数5〜18のパーフルオロアルキル基であり、XはCOOM、SOM基、MはNa、K、Liである。一般式(3)において、Rは炭素数5〜18のパーフルオロアルキル基、YはH(水素原子)、−OPO(OH)(燐酸残基)、pは1〜15の整数である。一般式(4)において、Rは炭素数5〜18のパーフルオアルキル基、Zは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、硫酸残基、燐酸残基、炭素数1〜6のカルボン酸残基である。炭素数4以下になると、フッ素系化合物の表面張力低くて揮発しやすく、取扱が困難になる。また、炭素数18を超えると工業的に入手が困難となる。
【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
一般式(2)〜(4)で表されるフッ素系界面活性剤の添加量は、ポリマー被覆シリカ粉体の凝集防止の要求程度に応じて適宜その添加量を決定すれば良いが、通常、親水性シリカに対して0.01〜2wt%であり、好ましくは0.05〜1.5wt%である。0.01wt%未満では、凝集防止効果が十分に得られない場合がある。一方、フッ素系界面活性剤の添加量が2wt%を超えても本発明の効果は得られるが、添加量の割りに得られる効果の向上度合いが小さく、好ましくない場合がある。
【0041】
また、本発明の効果を妨げない範囲内でポリマー被覆シリカの分散性を向上させるために、従来から使用されてきたポリアルキレングリコール系の非イオン性界面活性剤、ナフタレンスルフォン酸塩系、リグニンスルフォン酸塩系やマレイン酸共重合体系等の高分子系アニオン性界面活性剤等を併用しても良い。
【0042】
本発明の効果を妨げない範囲内でポリマー被覆シリカの粉体の凝集を生じさせないために、フッ素化合物に変わりにシリコーンオイルおよび変性シリコーンやポリアルキレングリコール系の非イオン性界面活性剤、ナフタレンスルフォン酸塩系、リグニンスルフォン酸塩系やマレイン酸共重合体系等の高分子系アニオン性界面活性剤を使用することができる。シリコーンオイルとしては、通常、直鎖状シロキサン構造を持っている非反応性シリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンおよび脂肪酸エステル変性シリコーンオイルなどが挙げられ、その動粘度は通常、1〜10万mm/sである。シリコーンオイルや界面活性剤の添加量は、通常、アミノアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカに対して0.5〜5wt%である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔アミノアルキルシラン化合物〕
A−1:3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン〔「トーレシリコーンSH6020」(商品名)、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
A−2:3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン〔「トーレシリコーンSS1020」(商品名)、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
A−3:3−アミノプロピルトリエトキシシラン〔「トーレシリコーンZ−6011」(商品名)、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
A−4:3−アミノプロピルトリメトキシシラン〔「トーレシリコーンZ−6610」(商品名)、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
【0045】
〔親水性シリカ〕
B−1:親水性シリカ(湿式沈殿シリカ)〔「ZEOSIL200」(商品名)、J.M.Huber(株)製〕
B−2:親水性シリカ(乾式シリカ)〔「AEROSIL130」(商品名)、日本アエロジル(株)製]〕
【0046】
〔カルボン酸含有共重合体〕
(C−4:メタアクリル酸−メタアクリル酸メチル(モル比30:70)共重合体の調製)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に水500mLとアニオン型界面活性剤(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)1.8g、メタアクリル酸25.8g、メタアクリル酸メチル70.0gを入れて撹拌しながら室温から70℃まで加熱して乳化を行った。次いで、トルエン100mLに過酸化ベンゾイル0.05gを加え、2時間かけて反応容器に滴下し、乳化重合を行なった。添加終了後、さらに3時間反応を行い、室温まで冷却してメタアクリル酸−メタアクリル酸メチル(モル比30:70)共重合体(C−4)のO/Wエマルションを得た。
以下同様にして、メタアクリル酸−メタアクリル酸メチル共重合体(C−1)〜(C−13)を調製した。
C−1:メタアクリル酸−メタアクリル酸メチル(モル比は3:97)共重合体
C−2:メタアクリル酸−メタアクリル酸メチル(モル比は7:93)共重合体
C−3:メタアクリル酸−メタアクリル酸メチル(モル比は15:85)共重合体
C−5:メタアクリル酸−メタアクリル酸エチル(モル比は15:85)共重合体
C−6:メタアクリル酸−メタアクリル酸ブチル(モル比は15:85)共重合体
C−7:アクリル酸−アクリル酸エチル(モル比は15:85)共重合体
C−8:イタコン酸−イタコン酸メチル(モル比は15:85)共重合体
C−9:コハク酸−スチレン(モル比は15:85)共重合体
C−10:メタアクリル酸−スチレン(モル比は27:73)共重合体
C−11:メタアクリル酸−メタアクリル酸エチル(モル比は50:50)共重合体
【0047】
(比較例)
C−12:ポリメタアクリル酸(比較例)
C−13:ポリメタアクリル酸メチル(比較例)
【0048】
〔その他〕
D−1:パーフルオロオクチルスルフォン酸ナトリウムC17SONa〔中国武漢海徳化工(株)製〕
D−2:ジメチルポリシロキサン〔「SH200」(商品名)、動粘度1000mm/s、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
D−3:メチルヒドロキシポリシロキサン
D−4:シリコーンオイルエマルション(ジメチルポリシロキサン10wt%濃度)〔伯東(株)〕
【0049】
(実施例1:ポリマー被覆シリカ1)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL金属反応釜に脱イオン水100mL、アミノアルキルシラン化合物(A−1)1gを添加し、撹拌下、親水性沈殿シリカ(B−1)20gをゆっくり添加し、室温で30分間、表面処理を行った。30分後、ろ過して疎水性のアミノアルキルシラン処理シリカを得た。次に300mLのビーカーにメタアクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体(C−1)1.8g、トルエン150mLを添加して撹拌、混合し、これにアミノアルキルシラン処理シリカを添加した。撹拌しながら2時間、この温度を維持し、90〜110℃で共沸させてトルエンと水を除去してポリマー被覆シリカ1を得た。
【0050】
(実施例2〜10:ポリマー被覆シリカ2〜10)
実施例1におけるメタアクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体(C−1)に代えて、カルボン酸含有共重合体(C−2)〜(C−10)を用いてポリマー被覆シリカ2〜10を得た。
【0051】
(比較例1〜3:ポリマー被覆シリカ11〜13)
実施例1におけるメタアクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体(C−1)に代えて、カルボン酸含有共重合体(C−11)〜(C−13)を用いてポリマー被覆シリカ11〜13を得た。
【0052】
(実施例11〜13:ポリマー被覆シリカ14〜16)
実施例1におけるアミノアルキルシラン化合物(A−1)に代えて、アミノアルキルシラン化合物(A−2)〜(A−4)を用いてポリマー被覆シリカ14〜16を得た。
【0053】
(実施例14:ポリマー被覆シリカ17)
実施例1において、アミノアルキルシラン処理シリカを得た後、300mLのビーカーにメタアクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体(C−1)1.8g、パーフルオロオクチルスルフォン酸ナトリウム(D−1)0.5g、トルエン150mLを添加して撹拌、混合し、これにアミノアルキルシラン処理シリカを添加した。撹拌しながら2時間、この温度を維持し、90〜110℃で共沸させてトルエンと水を除去してポリマー被覆シリカ17を得た。
【0054】
(実施例15:ポリマー被覆シリカ18)
実施例1において、親水性沈殿シリカ(B−1)20gを親水性乾式シリカ(B−2)20gに置き換えて添加し、実施例1と同様にしてポリマー被覆シリカ18を得た。
【0055】
(比較例4:ポリマー被覆シリカ19)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた200mL金属反応釜に親水性沈殿シリカ(B−1)20gを加え、ジメチルポリシロキサン(D−2)4gを添加し、窒素雰囲気下、撹拌しながら150℃で1時間、加熱した。その後、冷却してポリマー(シリコーンオイル)被覆シリカ19を得た。
【0056】
(比較例5:ポリマー(シリコーンオイル)被覆シリカ20)
比較例1において、ジメチルポリシロキサン(D−2)に代えてメチルヒドロキシポリシロキサン(D−3)2.5gを用いて、窒素雰囲気下、150℃に1時間加熱し、その後、冷却してポリマー(シリコーンオイル)被覆シリカ20を得た。
【0057】
(比較例6:ポリマー(シリコーンオイル)被覆シリカ21)
実施例1において、親水性シリカをアミノアルキルシラン化合物(A−1)で処理したものをポリマー被覆シリカ21とした。
【0058】
(疎水化度の評価)
特開平5−97423公報に記載される透過率法を用いてポリマー被覆シリカの疎水化度を測定した。ポリマー被覆シリカ1g、水100gを200mL分液ロートに入れ、5分間しんとうした後、1分間静置した。分液ロートの下部水相から懸濁した水10mLを取り、吸光光度計にて波長550nmの透過率を測定した。採取した懸濁液の透過率を求め、次式により疎水性シリカの疎水化度(%)を算出した。疎水化度(%)が高いほど、疎水性が高いことを示す。
(疎水化度)(%)=(α/β)×100
α:疎水性シリカによる懸濁した水相の透過率(%)
β:純水の透過率(%)
結果を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
本発明のポリマー被覆シリカは、従来のポリマー被覆シリカと比較して、優れた疎水性を示すことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性シリカを(A)一般式(1)(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜5の整数である。)で表されるアミノアルキルシラン化合物で処理し、さらに(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体で処理して得られることを特徴とするポリマー被覆シリカ。
【化1】

【請求項2】
アミノアルキルシラン化合物が3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランから選ばれた1種以上である特許請求項1記載のポリマー被覆シリカ。
【請求項3】
エチレン性不飽和カルボン酸がアクリル酸及び/又はメタクリル酸である特許請求項1又は請求項2記載のポリマー被覆シリカ。
【請求項4】
(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸のモル比率が、3〜30モル%である特許請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のポリマー被覆シリカ。
【請求項5】
(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体が、アクリル酸−アクリル酸メチル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体、アクリル酸−アクリル酸プロピル共重合体、アクリル酸−アクリル酸イソプロピル共重合体、アクリル酸−アクリル酸ブチル共重合体、アクリル酸−アクリル酸イソブチル共重合体、アクリル酸−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、アクリル酸−スチレン共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸プロピル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸イソプロピル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸イソブチル共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸−スチレン共重合体から選ばれる1種以上である特許請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のポリマー被覆シリカ。
【請求項6】
フッ素系界面活性剤の存在下で、(A)アミノアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカを(B)エチレン性不飽和カルボン酸を構成単位として含む重合体で処理して得られる請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のポリマー被覆シリカ。

【公開番号】特開2008−105919(P2008−105919A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292902(P2006−292902)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】