説明

ポリメチルメタクリレート骨セメント

【課題】高められた衝撃強さおよび高められた耐疲労性を有し、同時に4点曲げ強さ、曲げ弾性率および圧縮強さに関する最低限の要求を満足するPMMA骨セメントを提供する。
【解決手段】粉末成分と液状成分とを含有する2成分PMMA骨セメントまたはペースト骨セメントが、少なくとも45℃のガラス転移温度を有する少なくとも1のホモポリマーまたはコポリマー、および最大で37℃のガラス転移温度を有し、アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルジメタクリレートおよび/またはアルキルトリメタクリレートおよび/またはアルキルテトラメタクリレート中で可溶性であるか、または不溶性であり、最大で5%の残留モノマー含有率を有する少なくとも1の生体親和性エラストマーを含有する。
【効果】4点曲げ強さ、曲げ弾性率および圧縮強さ、衝撃強さのような機械的要求が改善されたPMMA骨セメントが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、慣用のPMMA骨セメントと比較して高められた衝撃強さおよび耐疲労性を有するポリメチルメタクリレート骨セメント(PMMA骨セメント)、特に粉末成分と液状成分とを含有する2成分PMMA骨セメントまたはペースト骨セメントである。
【背景技術】
【0002】
PMMA骨セメントは数十年来公知であり、かつCharnley卿による基礎研究にさかのぼる[Charnley、J.、J. Bone Joint Surg.42(1960年)、第28〜30頁]。
【0003】
PMMA骨セメントの基本構造は以来、原則として同一のままである。PMMA骨セメントは、液状のモノマー成分と粉末成分とからなる[G.Lewis、J.Biomed.Mater.Res.(Appl.Biomater.)38(1997年)、第155〜182頁]。モノマー成分は一般に、メチルメタクリレートモノマーと、その中に溶解している活性化剤(N,N−ジメチル−p−トルイジン)とを含有する。粉末成分は、メチルメタクリレートとコモノマー、たとえばスチレン、メチルアクリレートまたは類似のモノマーをベースとして重合により、有利には懸濁重合により製造される1もしくは複数のポリマー、X線不透過剤および開始剤であるジベンゾイルペルオキシドからなる。粉末成分をモノマー成分と混合する際に、メチルメタクリレート中で粉末成分のポリマーが膨潤することにより、可塑的に成形可能な生地が生じる。同時に活性化剤であるN,N−ジメチル−p−トルイジンはジベンゾイルペルオキシドと反応して、ラジカルの形成下に分解される。形成されたラジカルは、メチルメタクリレートのラジカル重合を開始させる。メチルメタクリレートの重合が進行すると共に、セメント生地の粘度が上昇し、最終的に該セメント生地は凝固し、ひいては硬化される。
【0004】
粉末−液体系に代えて、2成分ペーストセメントも公知となっている。
【0005】
PMMA骨セメントに関する基本的な機械的要求、たとえば4点曲げ強さ、曲げ弾性率および圧縮強さは、ISO5833に記載されている。その他に、衝撃強さはPMMA骨セメントの重要な機械的特性パラメータである。この特性は、急激な機械的力の作用に対するPMMA骨セメントの抵抗性を特徴付ける。PMMA骨セメントの適用分野を亀背形成術、椎体形成術および特に大腿骨頚部補強へと拡大する場合、PMMA骨セメントの衝撃強さは特に重要である。さらに、衝撃強さはPMMA骨セメントの機械的な長期耐疲労性と密接に関連している。従って、急激な機械的力の作用に対して高められた抵抗性および改善された耐疲労性を有するPMMA骨セメントが所望されている。
【非特許文献1】Charnley、J.、J. Bone Joint Surg.42(1960年)、第28〜30頁
【非特許文献2】G.Lewis、J.Biomed.Mater.Res.(Appl.Biomater.)38(1997年)、第155〜182頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の根底には、慣用のPMMA骨セメントに対して高められた衝撃強さおよび高められた耐疲労性を有する一方で、同時に4点曲げ強さ、曲げ弾性率および圧縮強さに関する最低限の要求を満足するPMMA骨セメントを開発するという課題が存在している。耐衝撃性のPMMA骨セメントは必然的に生体親和性でなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は本発明により、
A 少なくとも45℃のガラス転移温度を有する少なくとも1のホモポリマーまたはコポリマー、および
B 最大で37℃のガラス転移温度を有し、アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルジメタクリレートおよび/またはアルキルトリメタクリレートおよび/またはアルキルテトラメタクリレート中で可溶性であるか、または不溶性であり、最大で5%の残留モノマー含有率を有する少なくとも1の生体親和性エラストマー
を含有する、粉末成分と液状成分とを含有する2成分PMMA骨セメントまたはペースト骨セメントによって解決された。これは粉末成分と液状成分とを含有する2成分PMMA骨セメントであるか、またはペースト骨セメントである。該骨セメントは、少なくとも45℃のガラス転移温度を有する少なくとも1のホモポリマーまたはコポリマーと、アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルジメタクリレートおよび/またはアルキルトリメタクリレートおよび/またはアルキルテトラメタクリレート中で可溶性であるか、もしくは膨潤可能であり、5パーセント未満の残留モノマー含有率を有し、最大で37℃のガラス転移温度を有する少なくとも1の生体親和性エラストマーとが、PMMA骨セメント中に存在していることを特徴とする。少なくとも45℃のガラス転移温度を有するホモポリマーまたはコポリマーと、最大で37℃のガラス転移温度を有する少なくとも1のエラストマーとの組み合わせによって意外にも、一方ではISO5833による機械的な最低限の要求を満足し、かつ他方では明らかに高められた衝撃強さを有する形状安定性のPMMA骨セメントが得られる。ホモポリマーとして、ポリメチルメタクリレートが有利であり、かつコポリマーとして、ポリメチルメタクリレートコメチルアクリレートおよびポリメチルメタクリレートコスチレンが有利である。メチルメタクリレート以外にその他のアルキルメタクリレートからも構成されているコポリマーも本発明の範囲である。重要なことはさらに、該エラストマーは、PMMA骨セメントの毒性作用が拡散することができないよう、5パーセント未満の残留モノマー含有率を有していなくてはならないことである。
【0008】
該エラストマーは、有利にはセメント粉末中で、有利には5〜500μmの範囲の粒径を有する粒子の形で存在している。本発明の範囲では、エラストマーが、ホモポリマーまたはコポリマーの粒子中に懸濁していることも可能である。
【0009】
該エラストマーは有利にはモノマーまたはモノマー混合物中に溶解しているか、または膨潤した粒子の形で、モノマーまたはモノマー混合物中に懸濁している。
【0010】
さらに、エラストマーがセメントペースト中に溶解しているか、または膨潤した粒子の形でセメントペースト中に懸濁していることが可能である。
【0011】
0℃未満のガラス転移温度を有するエラストマーが有利である。
【0012】
エラストマーとして、特にアクリレートゴム、エチレン・アクリレートゴム、エチレン・プロピレンターポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブチルゴム、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴムおよびポリノルボルネンが考えられる。
【0013】
さらに、ポリメチルメタクリレート骨セメント中の有利なエラストマー含有率は、0.1〜20.0質量%である。2.0〜5.0質量パーセントのエラストマー含有率は特に有利である。
【0014】
本発明によるPMMA骨セメントは、一次的な全関節エンドプロテーゼおよび修正用全関節エンドプロテーゼを固定するための自己硬化性のプラスチックとして使用される。
【0015】
さらに、本発明によるPMMA骨セメントは、椎体形成術、亀背形成術および大腿骨頚部補強のために使用される自己硬化性充填材料として使用される。
【0016】
PMMA骨セメントは、本発明によれば、全関節エンドプロテーゼの二次的な(zweizeitig)修正のための一時的なプレースホルダーを製造するために使用することもできる。
【0017】
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。部およびパーセントの記載は、その他の記載部分と同様に、その他の記載がない限り質量に対するものである。
【実施例】
【0018】
参照例として、市販のPMMA骨セメントであるPalacos(登録商標)を使用した。
【0019】
まず以下に記載されている成分を陶磁器性のボールミル中で2時間粉砕することによって、以下のセメント粉末混合物を製造した。
【0020】
【表1】

【0021】
ポリメチルメタクリレートコメチルアクリレートは、65℃のガラス転移温度を有しており、かつ使用されたポリスチレンコブタジエン(BAYMOND)のガラス転移温度はは0℃未満であった。ポリスチレンコブタジエンは、ガスクロマトグラフィーにより測定して3%未満の残留モノマー含有率を有していた。これは粒子の形で存在しており、かつ63〜250μmの範囲の粒径を有していた。
【0022】
その後、そのつどセメント粉末40gを、その中にN,N−ジメチル−p−トルイジン1.0質量%が溶解していたメチルメタクリレート20mlと混合した。生地が形成され、これを方形の平坦な中空型(高さ3mm)に流し込み、ここで数分後に硬化させた。硬化したセメント板から、ストリップ(75mm×10mm×3mm)を切断した。該セメントストリップの曲げ強さおよび衝撃強さを、ダインスタット法により測定した。
【0023】
【表2】

【0024】
4点曲げ試験および曲げ弾性率を、ツビックのユニバーサル試験装置により測定した。圧縮強さの測定は、円柱形の試験体(高さ=12mm、直径=6mm)を用いて行った。ISO5833には、4点曲げ試験におけるPMMA骨セメントに関して、50MPa以上の最低強度および1800MPa以上の曲げ弾性率ならびに70MPa以上の最低圧縮強度が要求されている。
【0025】
【表3】

【0026】
表に記載されている結果は、例1および例2のPMMA骨セメントのISO5833による機械的な最低限の要求が満足されたことを示している。例3では試験体の破壊が生じなかったにもかかわらず、これを出発点とすることもできる。
【0027】
Palacos(登録商標)Rと、例1および例2のセメントの円柱形の試験体を、インビトロ細胞毒性に関して、ISO10993−5に相応して試験した。該試験体は、適用された試験条件下で細胞毒性を示さなかった。
【0028】
さらに、メタクリレート基末端のポリスチレンコブタジエン2.0gを、N,N−ジメチル−p−トルイジン1.0%を含有するメチルメタクリレート20ml中に溶解した。このモノマー溶液を、ジベンゾイルペルオキシド0.4g、ポリメチルメタクリレートコメチルアクリレート33.7gおよび二酸化ジルコニウム5.9gを含有していたセメント粉末40.0gと混合した。セメント生地が形成され、これを約8分間硬化させた。衝撃強さは例2のものに匹敵していた。
【0029】
さらに例1のPMMA骨セメントの耐疲労性を試験した。このためにストリップ(75mm×10mm×3mm)を製造し、かつ4週間、蒸留水中37℃で貯蔵した。引き続き、3つの荷重レベルで継続的な荷重変化に対する強度(Dauerlastwechselfestigkeit)を測定し、その際、周波数は5Hzであった。以下の図面は、試験した例1のPMMAセメントのヴェーラー曲線であり、この場合、PセメントとしてPalacos(登録商標)Rのヴェーラー曲線との比較が記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本願発明による骨セメントとPalacos(登録商標)Rとの対比を示すグラフの図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末成分と液状成分とを含有する2成分PMMA骨セメントまたはペースト骨セメントであって、
A 少なくとも45℃のガラス転移温度を有する少なくとも1のホモポリマーまたはコポリマー、および
B 最大で37℃のガラス転移温度を有し、アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルジメタクリレートおよび/またはアルキルトリメタクリレートおよび/またはアルキルテトラメタクリレート中で可溶性であるか、または不溶性であり、最大で5%の残留モノマー含有率を有する少なくとも1の生体親和性エラストマー
を含有する、粉末成分と液状成分とを含有する2成分PMMA骨セメントまたはペースト骨セメント。
【請求項2】
前記エラストマーが、有利に5〜500μmの範囲の有利な粒径を有する粒子の形の粉末成分として存在していることを特徴とする、請求項1記載のPMMA骨セメント。
【請求項3】
前記エラストマーが、モノマーまたはモノマー混合物中に溶解しているか、または膨潤した粒子の形でモノマーまたはモノマー混合物中に懸濁していることを特徴とする、請求項1または2記載のPMMA骨セメント。
【請求項4】
前記エラストマーが、セメントペースト中に溶解しているか、または膨潤した粒子の形でセメントペースト中に懸濁していることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のPMMA骨セメント。
【請求項5】
前記エラストマーが、0℃より小さいガラス転移温度を有していることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のPMMA骨セメント。
【請求項6】
前記エラストマーが、アクリレートゴム、エチレン・アクリレートゴム、エチレン・プロピレンターポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブチルゴム、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴムおよびポリノルボルネンからなる群に由来することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のPMMA骨セメント。
【請求項7】
前記エラストマーが、ポリメチルメタクリレート骨セメント中に、0.1〜20.0質量%まで存在していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のPMMA骨セメント。
【請求項8】
前記エラストマーが、ポリメチルメタクリレート骨セメント中に、2.0〜5.0質量%まで存在していることを特徴とする、請求項7記載のPMMA骨セメント。
【請求項9】
一次全関節エンドプロテーゼおよび修正用全関節エンドプロテーゼを固定するための手段を製造するための、請求項1から8までのいずれか1項記載のPMMA骨セメントの使用。
【請求項10】
椎体形成術、亀背形成術または大腿骨頸部補強のための充填材料を製造するための、請求項1から7までのいずれか1項記載のPMMA骨セメントの使用。
【請求項11】
一時的なプレースホルダーを製造するための、請求項1から7までのいずれか1項記載のPMMA骨セメントの使用。

【図1】
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【公開番号】特開2009−101161(P2009−101161A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272175(P2008−272175)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(508316210)ヘレーウス メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (21)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Medical GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp−Reis−Str. 8/13, D−61273 Wehrheim, Germany
【Fターム(参考)】