説明

ポリメラーゼ安定化

【課題】洗剤は、得られた精製済み種から完全に除去するのが難しいことがありうる。更に、DNA配列決定反応などの酵素反応において、洗剤の存在は、結果に影響することがありうる。更に、いくつかの熱安定性DNAポリメラーゼは、洗剤の不存在下において、時間経過中に活性を実質的に減少させることがありうる。
【解決手段】本発明は、外因性洗剤を含まない精製済み熱安定性酵素、具体的には、熱安定性DNAポリメラーゼを与えるための方法および組成物に関する。本発明は、更に、一つまたはそれを超える洗剤を加えることによって活性形で検定するこのような精製済み熱安定性DNAポリメラーゼを与える方法を提供する。本発明は、更に、核酸の増幅および配列決定を含めたいろいろな用途に用いるための精製済み熱安定性DNAポリメラーゼを含む組成物およびキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱安定性DNAポリメラーゼ、熱安定性DNAポリメラーゼを含む組成物およびキット、および熱安定性DNAポリメラーゼを単離するおよび使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAポリメラーゼは、デオキシリボヌクレオチド三リン酸からの鋳型に支配されたDNA合成を触媒する酵素である。典型的に、DNAポリメラーゼ(例えば、微生物中のDNAポリメラーゼI、IIおよびIII;動物細胞中のDNAポリメラーゼα、βまたはγ)は、DNA鋳型からのDNA鎖の合成を支配するが;しかしながら、いくつかのDNAポリメラーゼ(概して、「逆転写酵素」と称される)は、RNA鋳型からのDNA鎖の合成を支配する。概して、これらは、IUPAC−IUBMB Joint Commission on Biochemical Nomenclature(www.chem.qmul.ac.ulliupac/jcbn/)によって、Enzyme Commission 番号EC2.7.7.7およびEC2.7.7.49として認められている。広範囲の探求は、特に、in vitro 反応に用いるための、細菌、酵母およびヒトを含めたいろいろな生物からのDNAポリメラーゼの単離および特性決定について行われてきた。
【0003】
特定の in vitro 反応に用いるためのDNAポリメラーゼを選択する場合、当業者は、多数の変数を考慮すべきである。例えば、DNAポリメラーゼは、その天然の5’−3’または3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を(例えば、突然変異誘発によってまたは酵素的消化などの翻訳後修飾によって)欠失しているように、低い誤差率を示すように、高い連続伸長性(processivity)率および伸長率を示すように、および/または好都合な熱安定性を示すように選択されてよい。好熱性微生物からのDNAポリメラーゼの識別、およびPCRなどの方法における熱安定性DNAポリメラーゼの使用は、DNAを特定し且つ操作する能力の変革をもたらした。多数の熱安定性DNAポリメラーゼは、好熱性真正細菌、好熱性アーキアおよびその他から単離された。
【0004】
熱安定性DNAポリメラーゼの例には、サームス・エクアティカス(Thermus aquaticus)に由来するTaq DNAポリメラーゼ(例えば、米国特許第4,889,818号を参照されたい);サームス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)に由来するTth DNAポリメラーゼ(例えば、米国特許第5,192,674号;第5,242,818号;第5,413,926号を参照されたい);現在、サームス・オシマイ(Thermus oshimai)と称される Thermus 種spsl7に由来するTsp sps17 DNAポリメラーゼ(例えば、米国特許第5,405,774号を参照されたい);ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)に由来するPfu DNAポリメラーゼ(米国特許第5,948,663号);バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)に由来するBst DNAポリメラーゼ(米国特許第5,747,298号);サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)に由来するTli DNAポリメラーゼ(米国特許第5,322,785号);ピロコッカス種(Pyrococcus sp.)KOD1に由来するKOD DNAポリメラーゼ(米国特許第6,033,859号);サーモコッカス・バロシイ(Thermococcus barosii)に由来するnTbaおよびTba DNAポリメラーゼ(米国特許第5,602,011号および第5,882,904号);および Thermo SequenaseTM(Amersham)および AmpliTaqTM(Applied Biosystems, Tabor, S. & Richardson, C. C. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92,6339-6343)などの商業的に入手可能なDNAポリメラーゼが含まれるが、これに制限されるわけではない。
【0005】
洗剤は、当該技術分野において、膜を可溶化するために、いろいろな化学薬剤の透過性化作用を増強するために、および細菌細胞壁の破壊のために用いられて、DNAポリメラーゼなどの細胞内タンパク質の微生物からの製造を容易にしてきた。Goldstein et al. は、核酸を実質的に含まない熱安定性酵素を製造する方法を開示している(米国特許第5,861,295号)。Gelfand et al. は、一つまたはそれを超える非イオン系ポリマー洗剤を含有する緩衝液中の精製済みの安定な熱安定性ポリメラーゼを含む安定な酵素組成物を開示している(米国特許第6,127,155号)。Simpson et al., Biochem. Cell Biol. 68:1292-6(1990) は、Triton X−100などの添加剤によって安定にされているDNAポリメラーゼの精製を開示している。
【0006】
洗剤は、得られた精製済み種から完全に除去するのが難しいことがありうる。更に、DNA配列決定反応などの酵素反応において、洗剤の存在は、結果に影響することがありうる。例えば、Ruiz-Martinez et al., Anal. Chem. 70:1516-1527,1988 を参照されたい。更に、いくつかの熱安定性DNAポリメラーゼは、洗剤の不存在下において、時間経過中に活性を実質的に減少させることがありうる。例えば、非イオン系ポリマー洗剤中の熱安定性DNAポリメラーゼを開示している米国特許第6,127,155号を参照されたい。Tween 20は、開示されている一つの具体的な洗剤である。
【0007】
米国特許第6,242,235号は、DNAポリメラーゼ安定化のためのポリエトキシレートアミンを基剤とする陽イオン性界面活性剤の添加を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,889,818号
【特許文献2】米国特許第5,192,674号
【特許文献3】米国特許第5,242,818号
【特許文献4】米国特許第5,413,926号
【特許文献5】米国特許第5,405,774号
【特許文献6】米国特許第5,948,663号
【特許文献7】米国特許第5,747,298号
【特許文献8】米国特許第5,322,785号
【特許文献9】米国特許第6,033,859号
【特許文献10】米国特許第5,602,011号
【特許文献11】米国特許第5,882,904号
【特許文献12】Goldstein et al. 米国特許第5,861,295号
【特許文献13】Gelfand et al. 米国特許第6,127,155号
【特許文献14】米国特許第6,242,235号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tabor, S. & Richardson, C. C. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92,6339-6343
【非特許文献2】Simpson et al., Biochem. Cell Biol. 68:1292-6(1990)
【非特許文献3】Ruiz-Martinez et al., Anal. Chem. 70:1516-1527,1988
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、熱安定性DNAポリメラーゼが精製され且つ用いられる環境の制御を可能にする組成物および方法に関する。本開示は、熱安定性DNAポリメラーゼ酵素と、陰イオン系洗剤の添加を提供する。具体的には、その洗剤は、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホスフェート、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテルホスフェートである。
【0011】
【化1】

【0012】
この洗剤は、Rhodafac RE−960という商品名またはポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテルホスフェートとして販売されている。
【0013】
【化2】

【0014】
この洗剤は、Rhodafac RS−960という商品名として販売されている。
このカテゴリーにある他の類似の陰イオン系洗剤は、次のような更に一般的な構造で記載することができる。
【0015】
−アルキルエトキシル化リン酸エステル(I)。式中、Rは、C8〜C22の直鎖状、分岐状、環状または多環式炭化水素を含むアルキル基である。その基Rは、更に、一つまたはそれを超える不飽和二重結合がその構造内にあるアルケニル基でありうる。Nは、3〜100でありうる。
【0016】
−アルキルフェノールエトキシル化リン酸エステル(II)。式中、基Rは、C8〜C12の直鎖状または分岐状アルキル基である。Nは、3〜100でありうる。
−ジアルキルフェノールエトキシル化リン酸エステル(III)。式中、基RおよびR’は、それぞれ、C8〜C12基である。Nは、3〜100である。
【0017】
−トリアルキルフェノールエトキシル化リン酸エステル(IV)。式中、基R、R’およびR”は、それぞれ、C8〜C12アルキル基である。Nは、3〜100である。構造Vは、IVの群の特殊な場合である。
【0018】
【化3】

【0019】
基Rは、アルキル、アリールアルキル、多環式トリスチリルフェノールでありうるが、これに制限されるわけではない。Mは、水素;アンモニウム;ナトリウム、リチウムおよびカリウムなどの金属イオンでありうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、洗剤の不存在下および存在下における1kbのλDNAおよびヒトゲノムDNAフラグメントのPCR増幅を示す。レーン1および7:洗剤不含で精製済みのTbaを用いた洗剤の不存在下におけるPCR;レーン2および8:洗剤不含で精製済みのTbaを用いた洗剤の存在下におけるPCR;レーン3および9:洗剤で精製済みのTbaを用いた洗剤の不存在下におけるPCR;レーン4および10:洗剤で精製済みのTbaを用いた洗剤の存在下におけるPCR。
【図2】図2は、陰イオン系ホスフェート洗剤のスクリーニング:0.1%または0.01%の試験洗剤を用いた1kbのDNAの増幅を示す。上区画:PCR産物のゲル様画像。レーン1:正対照(0.05% Tween 20);レーン2:0.05% Rhodafac RE610;レーン3〜8:0.01%の Rhodafac RE410、Rhodafac RE960、Rhodafac RS960、Rhodafac RS410、Rhodafac RS710および Rhodafac RS610;レーン9〜12:0.1%の Rhodafac RE710、Rhodafac RE960、Rhodafac RS960および Rhodafac RS710。下区画:各々の試験洗剤でのPCR収率の棒グラフ。
【図3】図3は、95℃で15分間加熱後の1XPCR緩衝液中の残存活性の結果を示す。洗剤%は、PCR反応における洗剤の最終量を示す。黒菱形について、各々の洗剤は、指示量で存在する。黒菱形:NP40および Tween 20。黒四角:Rhodafac RE−960。
【発明を実施するための形態】
【0021】
好ましくは、熱安定性DNAポリメラーゼIは、Thermus、Pyrococcus、Thermococcus、アクイフェックス(Aquifex)、スルホロブス(Sulfolobus)、サーモプラズマ(Thermoplasma)、サーモアナエロバクター(Thermoanaerobacter)、ロドサーマス(Rhodothermus)、メタノコッカス(Methanococcus)およびサーモトガ(Thermotoga)から成る群より選択される属の微生物から得られるまたはに由来する。
【0022】
本発明の熱安定性酵素は、いずれの源からも得ることができ、しかも天然または組換えタンパク質でありうる。したがって、この段落中に用いられる「に由来する」という句は、熱安定性DNAポリメラーゼが、組換え発現されるということを示すものであり、そして発現されたDNA配列は、好熱性生物またはその突然変異形から得られる野生型配列である。熱安定性DNAポリメラーゼ源(配列および/またはタンパク質)を与える適する生物の例には、サームス・フラブス(Thermus flavus)、サームス・ルバー(Thermus ruber)、Thermus thermophilus、Bacillus stearothermophilus、サーモス・エクアティカス(Thermos aquaticus)、サームス・ラクテウス(Thermus lacteus)、メイオサーマス・クバー(Meiothermus cuber)、Thermus oshimai、メタノサーマス・フェルビダス(Methanothermus fervidus)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)、スルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィクム(Methanobacterium thermoautotrophicum)およびデスルフロコッカス・モビリス(Desulfurococcus mobilis)が含まれる。
【0023】
好ましいDNAポリメラーゼには、Taq DNAポリメラーゼ;Tth DNAポリメラーゼ;Pfu DNAポリメラーゼ;Bst DNAポリメラーゼ;Tli DNAポリメラーゼ;KOD DNAポリメラーゼ;nTbaおよび/またはTba DNAポリメラーゼが含まれるが、これに制限されるわけではない。一定の態様において、本発明の熱安定性DNAポリメラーゼは、Taq A271 F667Y、Tth A273 F668YおよびTaq A271 F667Y E681Wなど、野生型配列と比較して一つまたはそれを超えるアミノ酸の欠失、置換または付加によって修飾された。
【0024】
適する熱安定性DNAポリメラーゼ酵素は、JSER(WO2003/004632号)または Thermococcus barosii(米国特許第5,602,011号およびUS5,882,904号)として特性決定された生物に由来することができる。
【0025】
熱安定性DNAポリメラーゼは、好ましくは、天然に酵素を発現する細胞かまたは酵素を発現するように遺伝子操作された細胞(例えば、Taq DNAポリメラーゼなどの外因性DNAポリメラーゼを発現するE.cold)から精製される。
【0026】
いろいろな好ましい態様において、本発明の精製方法は、一つまたはそれを超える次の工程:(i)細胞溶解産物を加熱して、一つまたはそれを超えるタンパク質を変性させること;(ii)細胞溶解産物を遠心分離して、上澄みの全部または一部分を取り出して、透明な溶解産物を与えること;および(iii)透明な溶解産物を、クロマトグラフィー媒質、最も好ましくは、ブチル官能基を含むクロマトグラフィー媒質を用いて分別することを含む。
【0027】
「熱安定性」という用語は、50℃を超える温度で活性を保持する酵素を意味する;したがって、熱安定性DNAポリメラーゼは、DNA鎖の合成を支配する能力をこの高温で保持する。酵素は、二つ以上の酵素活性を有することがありうる。例えば、DNAポリメラーゼも、エンドヌクレアーゼおよび/またはエキソヌクレアーゼ活性を含むことがありうる。このような酵素は、一つの活性に関して熱安定性能(thermos/ability)を示すことがありうるが、もう一方には示さないことがありうる。好ましくは、熱安定性酵素は、約50℃〜80℃、より好ましくは、約55℃〜75℃;そして最も好ましくは、約60℃〜70℃の温度10で活性を保持する。更に、これら高温の一つで示される活性は、好ましくは、同じ環境中(例えば、同じ緩衝液組成中)において37℃での同じ酵素の活性より大である。したがって、特に好ましい熱安定性酵素は、約60℃〜95℃の温度で、最も好ましくは、約70℃〜80℃の温度で最大触媒活性を示す。この場合の「約」という用語は、与えられた温度の+/−10%を意味する。
【0028】
本明細書中で用いられる「活性な」という用語は、化学反応を触媒する酵素の能力を意味する。酵素は、最大活性速度を有するであろうが、それは、好ましくは、飽和基質濃度の条件下において、および温度、pHおよび塩濃度を含めた一連の選択された環境条件で測定される。本明細書中に記載のDNAポリメラーゼについて、活性を測定する好ましい条件は、25mM TAPS(トリスヒドロキシメチル25メチルアミノプロパンスルホン酸)緩衝液、pH9.3(25℃で測定される)、50mM KCl、2mM MgCl、1mM 2−メルカプトエタノール、各0.2mMのdGTP、dCTP、dTTP、0.2mM[α−33P]−dATP(0.05〜0.1Ci/mmol)および0.4mg/mLの活性サケ精子DNAである。反応は、74℃で進行させる。このような30条件下において酵素のDNAポリメラーゼ活性を測定する代表的な方法を、以下に与える。
【0029】
本明細書中で用いられる「不活性な」という用語は、酵素の最大活性速度の10%未満、より好ましくは、5%未満、そして最も好ましくは、1%未満である活性を意味する。本明細書中に記載のDNAポリメラーゼについて、これは、好ましくは、前の段落に記載の活性を測定する好ましい条件5下で得られる速度に活性を比較することを意味する。最も好ましくは、本発明の熱安定性酵素は、外因的に加えられた洗剤を含まない精製済み熱安定性酵素を含む組成物を得るのに必要な精製工程に供した場合、不可逆的に失活しない。本明細書中の目的についての「不可逆的失活」は、酵素が暴露される条件を変更することによって回収され得ない酵素活性の損失を意味する。
【0030】
熱安定性DNAポリメラーゼは、好ましくは、PCRなどのDNA増幅方法に用いるのに必要な条件下において不可逆的に失活しない。
PCR中に、例えば、ポリメラーゼは、相補的DNA鎖を融解させ且つアニーリングするのに必要な加熱および冷却の反復サイクルに供することができる。このような条件は、例えば、緩衝液の塩濃度および組成に、およびプライマーとして増幅されているまたは用いられている核酸の長さおよびヌクレオチド組成に依存することがありうるが、典型的には、用いられる最高温度は、典型的に、約0.5〜4分間の約90℃〜約105℃である25。
【0031】
増加温度は、緩衝液塩濃度および/または核酸のGC組成が増加するにつれて必要とされることがありうる。好ましくは、酵素は、90℃まで、より好ましくは、95℃まで、なお一層好ましくは、98℃まで、そして最も好ましくは、100℃までの温度で不可逆的変性状態になることはない。増加温度に耐える30能力は、しばしば、一定温度において、一定量の酵素の酵素活性が元の活性の半分に減少した時の時間を意味する「半減期」によっても表される。好ましくは、酵素は、90℃で30分より大の半減期を有する。
【0032】
本明細書中で用いられる「洗剤」という用語は、液体に加えられた場合に、その液体の表面張力を、洗剤の不存在下の同液体と比較して減少させる界面活性剤(surface-active agents(surfactants))を意味する。例えば、Detergents: A guide to the properties and uses of detergents in biological systems, Calbiochem-Novabiochem Corporation, 2001 を参照されたい。
【0033】
酵素に関して本明細書中で用いられる「精製済み」という用語は、絶対純度を意味することはない。むしろ、「精製済み」は、目的の酵素が由来した生物と比較して、それ以外のタンパク質種を僅かしか含有しない組成物中の実体を意味するものである。好ましくは、酵素は、「実質的に純粋」であり、これは、その酵素が、酵素を含む組成物の質量基準で、タンパク質の少なくとも50%であることを示している。より好ましくは、実質的に純粋な酵素は、組成物の質量基準で少なくとも75%、そして最も好ましくは、組成物の質量基準で少なくとも95%である。
【0034】
別の側面において、本開示は、精製済み熱安定性DNAポリメラーゼを検定に与える方法を提供する。これら方法は、一つまたはそれを超える洗剤を、精製済み熱安定性DNAポリメラーゼを含む組成物に加えることを含み、この場合、精製済み熱安定性DNAポリメラーゼを含む組成物は、外因的に加えられる洗剤を以前に含んでいなかった。最も好ましくは、外因的に加えられる洗剤を以前に含んでいなかった精製済み熱安定性DNAポリメラーゼに洗剤を加えることは、不活性DNAポリメラーゼを活性形に変換する、またはDNAポリメラーゼの活性を増加させる。いろいろな側面において、一つまたはそれを超える洗剤は、上記の組成物に加えることができ、そして得られた組成物は、検定に用いるための反応混合物に加えることができる;或いは、精製済み熱安定性DNAポリメラーゼを、反応混合物に加えることができ、そして次に、洗剤を加えることができる;および/または洗剤を、反応混合物に加えることができ、そして次に、熱安定性(thennostable)DNAポリメラーゼを加えることができる。いずれの場合も、それら結果は、外因的に加えられる洗剤を以前に含んでいなかった精製済み熱安定性DNAポリメラーゼが、ここで、洗剤を含む組成物中であるということになる。
【0035】
本明細書中で用いられる「検定」という用語は、精製済み熱安定性DNAポリメラーゼが、デオキシリボヌクレオチド三リン酸、またはジデオキシリボヌクレオチド三リン酸などの類似体からの鋳型に支配されたDNA合成を触媒するいずれかの反応混合物を意味する。好ましい検定には、DNAポリメラーゼ活性検定、一本鎖または二本鎖エキソヌクレアーゼ活性検定、一本鎖または二本鎖エンドヌクレアーゼ活性検定、核酸増幅反応および核酸配列決定反応が含まれる。
【0036】
陰イオン系洗剤、具体的には、RE−960およびRS−960陰イオン系洗剤は、3%まで(0.002%〜3%の範囲)の最終濃度で用いることができる。0.5%を超える濃度は、安定性を改善することはないが、活性を減少させることがない。有効量の陰イオン系洗剤は、熱安定性DNAポリメラーゼの安定性および機能に矛盾しない適する陰イオン系洗剤の濃度として定義される。常套実験は、有効量のいずれか具体的な陰イオン系洗剤が何かを決定するであろう。特に断らない限り、濃度は、%W/Vとして与えられる。
【0037】
DNAポリメラーゼは、洗剤の存在を伴うことなく精製し且つ貯蔵することができるが、それらポリメラーゼは、既述の陰イオン系洗剤などの洗剤の不存在下で機能することはないということが認められた。
【実施例】
【0038】
本実施例は、単に例示の目的で与えられていて、請求の範囲によって定義される本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。下におよび本明細書中の他のところに与えられる参考文献は全て、本明細書中に援用される。
【0039】
図1は、洗剤の存在下および不存在下におけるλDNAおよびヒトゲノムDNAからの1kbフラグメントの増幅の結果を示す。この実験では、洗剤含有/不含緩衝液中で精製され且つ貯蔵された2ロットのDNAポリメラーゼを調べた。最初に、各々の試験DNAポリメラーゼを、PCR前に、Tween 20含有および不含それぞれの緩衝液中で20倍に希釈後、等単位の酵素を、PCR配合物中に加えた。PCRは、200nMの正および逆プライマー、200μM dNTP、1.0単位のTbaおよび1.0ngの鋳型DNAを含む25μl容量中で行った。1kbのヒトゲノムDNAおよび1kbのλDNAのフラグメントを増幅させた。反応緩衝液は、10mM Tris−HCl、pH9.0、50mM KClおよび1.5mM MgClを含有する。PCR反応は、95℃で2分の初期加熱によって開始後、95℃で30秒間、55℃で30秒間および72℃で60秒間を35サイクル、そして次に、72℃で5分間の最終伸長を行った。PCR産物を、Agilent Bioanalyzer で分析した。それら結果は、PCR産物が、洗剤を含有する緩衝液中で酵素を希釈した反応から得られただけであったということを示す。洗剤不含の緩衝液中で希釈されたものについて、酵素は、完全に不活性であったし、そしてPCR産物が形成されたものはなかった。洗剤を有する緩衝液中で初めに貯蔵されたDNAポリメラーゼについても、洗剤を有していない緩衝液での20倍希釈後、その酵素は活性を失った。このデータは、DNAポリメラーゼがその活性を維持するのに洗剤が必要であるということを示している。
【0040】
多数のイオン系洗剤は、タンパク質に協同的に結合することが知られている。協同的結合は、通常は、タンパク質の変性を引き起こす。協同的結合の発生は、それら洗剤の結合親和性およびCMCに依存する。結合親和性は、洗剤の親水性頭部の極性および疎水性尾部の長さに関係している。
【0041】
リン酸エステルは、親和性または極性が強すぎてタンパク質の変性を引き起こし得ないと考えられる強力なスルフェートおよびスルホネート基剤界面活性剤と比較したところ、比較的緩和な酸基を有する。リン酸エステルは、更に、いろいろな異なった用途にきわめて有効な界面活性剤ファミリーである。リン酸エステルの特徴的な性質ゆえに、それらは、ポリメラーゼ安定化の用途に適する界面活性剤である。
【0042】
次の7種類の陰イオン系有機ホスフェート洗剤を、DNAポリメラーゼを安定化し且つ活性化するそれらの能力について調べた(Rhodafac REは、ノニルフェノールエトキシレート基剤ホスフェートであり、Rhodafac RSは、トリデシルエトキシル化ホスフェートである)。
【0043】
Rhodafac RE−960
Rhodafac RE−610
Rhodafac RE−410
Rhodafac RS−960
Rhodafac RS−710
Rhodafac RS−610
Rhodafac RS−410
PCR検定を、洗剤スクリーニングに用いた。最初に、試験洗剤を、分子生物学グレード水中に溶解させ、そして水酸化ナトリウム溶液でpH7へ中和して、5%(W/V)の最終濃度の源溶液とした。次に、それら5%洗剤溶液を、酵素希釈緩衝液中にそれらを加えることによってスクリーニングに用いたかまたはPCR配合物中に加えた。1kbのλDNAフラグメントの増幅を用いて、Tba安定性および活性への各々の洗剤の作用を調べた。PCR条件は、前の方に記載したのと同じであった。洗剤の不存在下で精製され且つ貯蔵されたTbaを、それら試験に用いた。試験洗剤を、PCR反応中に、それぞれ、0.01%、0.05%および0.1%の最終濃度で加えた。PCR収率は、Agilent Bioanalyzer で定量した。図2は、スクリーニング結果の一部分を示すが、この場合、洗剤は、それぞれ、0.01%および0.1%の最終濃度でPCR反応配合物中に直接的に加えた。このデータは、Rhodafac RE−960および Rhodafac RS−960が、DNAポリメラーゼの安定化および活性化にきわめて十分に働くということを示している。
【0044】
全7種類のホスフェート洗剤の3種類の異なった濃度でのスクリーニング結果を、表1に挙げるが、この場合、各々のPCR反応のPCR収率は、Tween 20に相対する活性%へ変換した。スクリーニングされた7種類の陰イオン系洗剤の内、Rhodafac RE−960および Rhodafac RS−960は、DNAポリメラーゼの安定化および活性化に最良の候補である。Tween 20(正対照)と比較したところ、これら二つの洗剤を含有する反応からのPCR収率は、正対照よりも約30%高く、これら二つの洗剤は、DNAポリメラーゼの安定化において Tween 20よりも有効であるということが示唆される。更に、これら二つの洗剤は、広い濃度範囲で働く。全3種類の試験濃度において、それらは、Tween 20の場合よりもより良い安定化機能または活性化機能を示す。
【0045】
これら二つの洗剤の安定化機能を、δJSER DNAポリメラーゼについても調べる。それらは、δJSER DNAポリメラーゼについて同じ活性化を示す。更に、DNAポリメラーゼへのこれら二つの洗剤の安定化作用を、活性検定および熱安定性検定でも調べた。活性検定および熱安定性試験双方において、これら二つの洗剤は、Tween 20の場合と同じまたはより良い安定化作用を示す。それら試験結果は全て、Rhodafac RE−960および Rhodafac RS−960が、一般的な非イオン系洗剤への良好な代替品であるということを示す。これら二つの洗剤を用いて、本発明者は、DNAポリメラーゼのための貯蔵用緩衝液およびPCR反応緩衝液を配合することができる。
【0046】
【表1】

【0047】
図3に示される結果は、PCR反応を、適当な洗剤の存在下において95℃で行った場合、Rhodafac RE−960の存在下でPCR反応を行った時に、NP−40かまたはTween の場合より多くのDNAポリメラーゼが、依然として活性のままであるということを示す。
【0048】
本明細書中に述べられている特許、特許公報および他の公開参考文献は全て、各々が、本明細書中の参考文献によって個々に且つ具体的に援用されていたかのように、本明細書中にそのまま援用される。本発明の好ましい代表的な態様を記載しているが、当業者は、本発明が、単に例示の目的で与えられ且つ制限によるものではない記載の態様以外で実施することができるということを理解するであろう。本発明は、請求の範囲によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン系洗剤を含む熱安定性DNAポリメラーゼ組成物。
【請求項2】
陰イオン系洗剤が、ポリオキシエチレン(polyoxyethlene)エーテルホスフェートである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
陰イオン系洗剤が、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホスフェートまたはポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェートである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
陰イオン系洗剤が、0.5%までの濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
陰イオン系洗剤が、0.5%まで存在する、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
陰イオン系洗剤が、ポリエチレンノニルフェノールエーテルホスフェートである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
有効量の陰イオン系洗剤を用いてDNAポリメラーゼ活性を安定化させるおよび/または増強する方法。
【請求項8】
PCRを実施する方法であって、陰イオン系洗剤を含む方法。
【請求項9】
陰イオン系洗剤が、ポリオキシエチレン(polyoxyethlene)ホスフェートである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
陰イオン系洗剤が、ポリエチレンノニルフェノールエーテルホスフェートである、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−528669(P2010−528669A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511644(P2010−511644)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057404
【国際公開番号】WO2008/152102
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(598041463)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・コーポレイション (43)
【住所又は居所原語表記】800 Centennial Avenue, P.O.Box 1327,Piscataway,New Jersey 08855−1327,United States of America
【Fターム(参考)】