説明

ポリメラーゼ連鎖反応のための装置

検出装置は、試料を受容するように構成されたチャンバを収容する筺体と、チャンバ内に配置された加熱素子と、チャンバの観察を可能にする光学窓とを含む。筺体は、チャンバ中に流体を流動させ、それによって冷却を達成するように構成された通路を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年5月28日に出願した米国特許仮出願第60/473,447号の優先権および利益を主張し、それを参照によってここに組み込む。本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための装置に関し、さらに詳しくは、PCR技術を使用してサンプル中の生物剤の有無を検出するために手持ち式計器と共に使用することのできる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCR技術は、施設セキュリティ専門家、軍隊、および救急対応要員、例えば消防士、警察、緊急医療要員、および危険物処理班によって使用され、生命を脅かす生体有害物質が現場に存在するか否かを現地及び野外で決定することができる。例えば、PCR技術を利用する生物学的検出計器は、炭疸菌のような生物剤が存在しないかを調べるサンプルを検査するために使用することができ、40分またはそれ以下で正確な結果をもたらす。
【0003】
サンプルは最初に、使い捨て反応管内でPCR反応混合物へと調剤される。反応管は、計器の反応装置内のチャンバ内へ挿置される。反応装置内で、反応混合物は熱サイクル(加熱および冷却)を受ける。生物剤の有無は計器によって光学的に検出される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の反応装置の一つの不利点は、そのような反応装置が、現地及び野外で使用するのに適した携帯用(手持ち式)生物学的検出計器にパッケージ化するには重すぎ、かつ複雑すぎることである。例えば、従来の反応装置は、反応混合物を加熱および冷却するために加熱および冷却流体がその中を流れる金属ブロックから構成される(例えば、参照によって本書に組み込まれる米国特許第5,555,675号を参照されたい)。該金属ブロックならびに流体の温度および供給を制御するために必要な構成部品は、反応装置の重量および複雑さを増大する。その結果、生物学的検出計器の重量および複雑さが増大するので、計器を容易に現地および野外の現場に運ぶことができない。
【0005】
従来の反応装置の別の不利点は、そのような反応装置が反応混合物を急速または効率的に加熱および冷却できないことである。例えば、従来の反応装置の金属ブロックは高い熱伝導率を有するので、熱は反応混合物から金属ブロックを通して計器内に逆に伝達される。したがって、反応装置の加熱効率が低減する。その結果、熱サイクルを完了するための時間が増大する。
【0006】
一部の従来の反応装置は、反応混合物を急速に加熱および冷却するために、発熱素子を一体化した微細加工シリコンを使用しているが、そのような反応装置は比較的高い工具費、労賃、および生産コストが悩みである(例えば、参照によって本書に組み込まれる米国特許第5,589,136号を参照されたい)。さらに、微細加工された発熱体の脆弱性は、そのような発熱体を携帯野外用としては非現実的にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様では、検出装置を提供する。該検出装置は、試料を受容するように構成されたチャンバを収容する筺体と、該チャンバ内に配置された加熱素子と、該チャンバの観察を可能にする光学窓とを含む。筺体は、流体をチャンバ中に流動させ、それによって冷却を達成するように構成された通路を含む。
【0008】
本発明の別の態様では、生物剤を検出するための計器を提供する。該計器はアレイ状に配設された複数の筺体を含む。各筺体は、試料を受容するように構成されたチャンバと、該チャンバ内に配置された加熱素子と、該チャンバの観察を可能にする光学窓とを含む。加えて、各筺体は、流体をチャンバ中に流動させ、それによって冷却を達成するように構成された通路を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、本発明の実施形態を示し、解説と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。
【0010】
図1を参照すると、計器40用の検出装置1は一般的に、筺体10、加熱素子20、および光学アパーチャ(optical aperture)(窓:window)30を含む。
【0011】
筺体10は、炭疸菌、野兎病、疫病、または天然痘のような生物剤を潜在的に含む試料(サンプル)を受容するように構成される。試料は、筺体10内に挿置することのできる長尺部分を有する使い捨て反応管内に収容することができる。参照によって本書に組み込む、2003年12月4日に出願された米国特許出願第10/737,037号、および2003年5月28日に出願された米国特許仮出願第60/473,539号に記載されているように、反応チャンバ1は反応管(サンプル保持器)と共に使用することが好ましい。
【0012】
図1に示すように、筺体10は筺体10の高さHが筺体10の幅Wより大きくなるように形作ることができる。高さHを筺体10の奥行きDより大きくすることもできる。したがって、筺体10は矩形の形状を有する。筺体10の底部は、計器40の装着用レール内への筺体10の挿入を容易にするために、一対の脚17を含む。
【0013】
筺体10は、試料を受容するように構成されたチャンバ12を形成するために、一つに結合される第一部分10a(図3に示す)および第二部分10bを含む。第二部分10bは構造的に第一部分10aと同様であり(第二部分10bに光学アパーチャ30が欠如していることを除く)、第一部分10aと嵌合するように構成される。第一部分10aおよび第二部分10bは、いずれかの従来の方法で(例えば接着剤を使用して)一つに結合することができるが、パチンと嵌め合う(snap together)ように構成することが好ましい。例えば、第一部分10aおよび第二部分10bは各々、筺体10の他方の部分10aまたは10bに配置された対応するアパーチャ(aperture)14b内にパチンと嵌って係合するように構成された、一つまたはそれ以上のタング14a(図4および5に示す)を含むことができる。
【0014】
筺体10はまた、流体がチャンバ12中を流動して冷却を達成することができるように構成された、通路16をも含む。例えば通路16は、図1に示すように上下に配置された複数の溝(channel)16aを含むことができる。各溝16aは、筺体10の第一側面から筺体10の第二側面まで延在することが好ましい。したがって、溝16aは筺体10中全体に延在する(図4に示す通り)。加えて、試料がチャンバ12内に受容されたときに、流体が試料を超えて流動するように、溝16aはチャンバ12と交差する。この方法により、空気のような流体はチャンバ12中を流動し、それによって熱を除去し、試料に冷却をもたらすことができる。
【0015】
本発明の一実施形態では、筺体10は電気絶縁性材料から作られる。該材料は例えばプラスチック、ポリマ、または樹脂とすることができ、約1W/m−K未満の熱伝導度を持つことができる。筺体10は、商品名VALOX(登録商標)によって知られる樹脂のような熱可塑性ポリエステル樹脂から形成することが好ましい。本発明の別の実施形態では、筺体10は断熱性材料から形成される。その結果、加熱素子20は筺体10によって計器40から断熱されるので、筺体10を通して計器40へ伝達される熱の量がかなり低減される。したがって、加熱素子20によって発生する熱が試料に集中する。筺体10は、電気的絶縁性および断熱性の両方である材料から形成することが好ましい。VALOX(登録商標)は模範的材料である。プラスチック、ポリマ、または樹脂材を使用して筺体10を形成することにより、金属ブロックから作られた従来の装置の重量に対して、筺体10の重量が低減される。その結果、検出装置1は改善された熱効率、より低いコストを有し、携帯性が高まり、かつ取り扱いが容易になる。
【0016】
試料がチャンバ12内に挿置されたときに、試料の温度を高めることができるように、加熱素子20はチャンバ12に熱を提供する。加熱素子20は可撓性とすることができ、かつ例えば約0.015インチ以下の厚さを持つことができる。模範的実施形態では、加熱素子20は、基板21上に堆積された二つのエッチング抵抗素子(etched resistance element)22(発熱体)を含む薄膜抵抗体である。基板21はポリエステル膜、例えば商品名MYLAR(登録商標)によって知られるポリエステル膜、またはポリイミド膜、例えば商品名KAPTON(登録商標)によって知られるポリイミド膜とすることができる。加熱素子20はまた、加熱素子20の温度を感知するためのサーミスタ23をも含むことができる。
【0017】
加熱素子20(図2に示す)は、チャンバ12内でチャンバ12の壁上に配置するように構成される。加熱素子20は例えば、接着剤を使用してチャンバ12の壁に接着することができる。模範的実施形態では、加熱素子20は、筺体の第一部分10aおよび第二部分10bが嵌合される前に、筺体10に取り付けられる単一組立体である。この実施形態では、加熱素子20の一端20aが筺体の第一部分10aに取り付けられ、加熱素子20の他端20bが筺体の第二部分10bに取り付けられる。加熱素子20の中心部分20cは折れ曲がるように構成されるので、次いで筺体10の第一および第二部分10a、10bを結合することができる。このようにして、加熱素子20は筺体10のチャンバ12内に設置される。
【0018】
加熱素子20は、計器40内の電源に接続されるように構成される。例えば加熱素子20は、抵抗素子22用のリード線24aおよびサーミスタ23用のリード線24bを含むことができる。各々のリード線24a、24bの一端は加熱素子20に圧着または接着することができ、各々のリード線24a、24bの他端は、電源に接続するためのコネクタ26(例えばワイヤ対ワイヤレセプタクル)で終端することができる。加熱素子20は追加的に、光学アパーチャ30の一部を構成する開口28を含むことができる。
【0019】
光学アパーチャ30は、計器40によるチャンバ12の光学的監視または観察を可能にするように構成される。図1および4に示すように、光学アパーチャ30は、筺体10の壁を貫通して延びる第一開口32aおよび第二開口32bを含む。開口32aおよび32bは例えば、第一開口32aが第二開口32bの上に配置されるように、上下に配置することができる。加熱素子20が筺体10内に設置されるときに、光学アパーチャ30が加熱素子20を貫通して延びるように、加熱素子の開口28は開口32aおよび32bと位置合わせされる。したがって、加熱素子20は光学アパーチャ30のチャンバ12内への視線経路を遮断しない。
【0020】
光学アパーチャ30は、試料が検出装置1のチャンバ12内に挿置されたときに、計器40内の検出器が試料を分析することができるように構成される。検出器は、光学分光分析を使用して、生物剤が試料中に存在するかどうかを決定する。検出器はいずれかの適切な検出器とすることができるが、蛍光に基づく光学分光分析を使用する検出器であることが好ましい。操作時に、使用者はサンプルを使い捨て反応管内でPCR反応混合物へと調剤し、反応管を検出装置1のチャンバ12内へ挿置する。検出装置1で、反応混合物を一連の熱サイクル(例えば40〜50回の熱サイクル)にさらすことによって、DNA増幅が達成される。模範的実施形態では、各熱サイクル中に検出装置1は、加熱素子20を起動させることによって、反応混合物を摂氏約96度の温度まで加熱し、次いで加熱素子20の動作を停止し、空気を溝16aに流動させることによって、反応混合物の温度を摂氏約60度の温度まで冷却する。空気流は、ファンのような空気源によって付勢される強制空気流であることが好ましい。熱サイクルが完了すると、励起波長が開口32a、32bの一つを通って向けられ、検出(発光)波長が開口32a、32bのもう一つを通って向けられ、それによって生物剤が反応混合物内に存在するかどうかが決定される。蛍光発光の増加は、生物剤の存在に関連付けられる。
【0021】
検出装置1の上述した実施形態は、軽量で手持ち式の計器40(図6に示す)と共に使用することができる。模範的実施形態では、計器40は、複数のサンプルを同時に分析することができるように、図6に示すようにアレイ状に配設された、幾つかの独立して動作する検出装置1を含む。この方法により、生体有害物質を検出するためのPCR技術は、現地及び野外で施設セキュリティ専門家、軍隊、および救急対応要員に容易に利用可能になる。
【0022】
したがって、上述した例示的実施形態では、PCR技術を使用してサンプル中の生物剤の有無を検出するために手持ち式計器と共に使用することのできる装置がもたらされる。
【0023】
本発明の変形および他の実施形態は、本書に開示した本発明の詳細および実施の検討から、当業者には明白であろう。詳細および実施例は単なる例示とみなされ、発明の範囲は付属の請求の範囲によってのみ限定されることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る検出装置の実施形態の斜視図である。
【図2】図1の検出装置の加熱要素の上面図である。
【図3】図1の検出装置の第一部分の立面図である。
【図4】図3の線A−Aに沿って切った断面図である。
【図5】図1の検出装置の第一部分の上面図である。
【図6】本発明に係る携帯検出計器の実施形態の斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 検出装置
10 筐体
20 加熱素子
30 光学アパーチャ
40 計器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を受容するように構成されたチャンバを収容する筺体と、前記チャンバ内に配置された加熱素子と、前記チャンバの観察を可能にする光学窓とを備えた検出装置であって、前記チャンバ中に流体を流動させそれによって冷却を達成するように構成された通路が前記筺体に含まれる検出装置。
【請求項2】
前記筺体が断熱材を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記筺体が電気絶縁体を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項4】
前記筺体がプラスチックを含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項5】
前記筺体がポリマ材料を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項6】
前記筺体が樹脂を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項7】
前記樹脂が熱可塑性ポリエステル樹脂を含む、請求項6に記載の検出装置。
【請求項8】
前記筺体が約1W/m−K未満の熱伝導度を有する材料を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項9】
前記筺体の高さが前記筺体の幅より大きく、かつ前記筺体の奥行きより大きい、請求項1に記載の検出装置。
【請求項10】
前記筺体が、一つに結合されてチャンバを形成する第一部分および第二部分を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項11】
前記第一部分および前記第二部分がパチンと嵌め合うように構成された、請求項10に記載の検出装置。
【請求項12】
前記第一部分が突起を含み、前記第二部分がアパーチャを含み、前記突起および前記アパーチャが係合して、前記第一部分および前記第二部分がパチンと嵌め合うことができるように構成された、請求項11に記載の検出装置。
【請求項13】
前記加熱素子が薄膜抵抗体を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項14】
前記薄膜抵抗体が、基板上に配置されたエッチング抵抗素子を含む、請求項13に記載の検出装置。
【請求項15】
前記基板がポリエステル膜を含む、請求項14に記載の検出装置。
【請求項16】
前記基板がポリイミド膜を含む、請求項14に記載の検出装置。
【請求項17】
前記加熱素子が可撓性である、請求項1に記載の検出装置。
【請求項18】
前記加熱素子が第一発熱体および第二発熱体を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項19】
前記第一発熱体が前記チャンバの第一壁上に配置され、かつ前記第二発熱体が前記チャンバの前記第一壁に対向する第二壁上に配置された、請求項18に記載の検出装置。
【請求項20】
前記流体が空気を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項21】
前記通路が上下に配置された複数の溝を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項22】
前記通路が前記筺体の第一側面から前記筺体の第二側面まで延在する請求項1に記載の検出装置。
【請求項23】
前記光学窓は、前記検出装置による前記チャンバの光学的監視を可能にするように構成される、請求項1に記載の検出装置。
【請求項24】
前記光学窓は、前記筺体の壁を貫通して延びる開口を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項25】
前記光学窓は、前記加熱素子を貫通して延びる開口を含む、請求項1に記載の検出装置。
【請求項26】
前記開口が第一開口と、前記第一開口の下に配置された第二開口とを含む、請求項24に記載の検出装置。
【請求項27】
前記検出装置が試料の蛍光を検出するように構成された、請求項1に記載の検出装置。
【請求項28】
前記試料が反応管内に収容される、請求項1に記載の検出装置。
【請求項29】
前記反応管が、前記チャンバに受容されるように構成された、請求項28に記載の検出装置。
【請求項30】
生物剤を検出するための携帯計器であって、
アレイ状に配設された複数の筺体
を備え、
各筺体は、試料を受容するように構成されたチャンバと、前記チャンバ内に配置された加熱素子と、前記チャンバの観察を可能にする光学窓とを含み、かつ
各筺体は、流体を前記チャンバ中に流動させそれによって冷却を達成するように構成された通路を含む、
携帯計器。
【請求項31】
前記携帯計器が使用者の手の中に保持されるように構成された、請求項29に記載の携帯検出装置。
【請求項32】
前記携帯計器が六個の筺体を含む、請求項29に記載の携帯検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−502430(P2007−502430A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532510(P2006−532510)
【出願日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/013313
【国際公開番号】WO2005/009617
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(505439233)スミス ディテクション インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】