説明

ポリ乳酸の製造装置およびその方法

【課題】ポリ乳酸の製造工程で、十分な真空度を達成して高品質のポリマーを合成すること。
【解決手段】乳酸のオリゴマー化、解重合によるラクチドの製造、開環重合、未反応ラクチドの脱揮の各工程を少なくとも含有するポリ乳酸を製造する装置において、前記脱揮工程において減圧する排気処理装置を備え、該排気処理装置は、水蒸気を発生するボイラ81-83と、水蒸気により駆動するエゼクタ71-73、該エゼクタ下流部に接続されたコンデンサ61-63及び該コンデンサに接続されたホットウェルタンク41-43を組み合わせた段から成る減圧部と、前記未反応ラクチドのガスが前記減圧部に吸引される管路に、主コンデンサ60と該主コンデンサに接続された主ホットウェルタンク40を備え、
前記主コンデンサにおいて、前記主ホットウェルタンクに回収された乳酸成分を主とする液体を用いて前記未反応ラクチドのガスを洗浄すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸からの未反応モノマーおよび未反応ラクチド(乳酸の二量体)の除去方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸の未反応物除去においては、プラントの大型化に伴い、従来の真空ポンプ単体では除去に必要な真空度を確保することが困難になってきている。
【0003】
また、真空吸引時、排気処理装置に乳酸モノマーやラクチド等の縮合物が飛来し、閉塞や腐食が発生するという問題が発生することがある。
【0004】
開環重合反応により合成されるポリマーの一つであるポリ乳酸は、ヒドロキシカルボン酸の一つである乳酸を原料として作られる無色透明なポリエステルである。乳酸からポリ乳酸を合成する方法の一つに、乳酸を縮合してオリゴマーを生成させ、これに酸化アンチモン等の触媒を添加して解重合することにより環状縮合物であるラクチド(乳酸の二量体)を生成させ、ラクチドにオクチル酸スズ等の触媒を添加して開環重合したのち、未反応のラクチドやモノマーを除去する方法がある。この方法では、オリゴマー生成、解重合、モノマー除去の各プロセスにおいて、真空排気により減圧し、未反応のモノマーやラクチドを除去する。このとき、真空度が十分でないと、未反応のモノマーやラクチドの除去が十分になされず、製品の品質が低下することがある。同様なことはグリコール酸の環状二量体であるグリコリドを開環重合して合成するポリグリコール酸についても当てはまる。
【0005】
モノマー除去のプロセスにおける未反応のモノマーやラクチドを除去するために、真空排気による除去装置が必要となる。このような除去装置および方法として、特許文献1が知られている。
【0006】
特許文献1では縮重合系ポリマーの一つであるポリブチレンテレフタレートについて、副生成物であるテトラヒドロフランの除去方法が記載されている。この中で、排気処理装置についての言及がある。本方式によれば、エゼクタとコンデンサとホットウェルタンクを2組以上備えた重縮合反応槽を用い、原料のひとつである1,4‐ブタンジオール成分を主とする蒸気でエゼクタを駆動させ、エゼクタから排出する1,4‐ブタンジオール成分を主とする蒸気をエゼクタ下流部に接続されたコンデンサで凝縮させて、重縮合反応槽を減圧状態として、重縮合反応を行うとなっている。
【0007】
【特許文献1】特許第3812564号公報
【特許文献2】特開2004−10791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された排気処理装置は、ポリブチレンテレフタレートに限定した装置であり、エゼクタを駆動する物質を、ポリ乳酸の原料である乳酸に置き換えて運転すると、コンデンサ内の乳酸濃度が上昇し、コンデンサ内部で重合反応が発生し、排気処理装置の閉塞や、これに伴う真空度の不足が生じることにより、重合反応が進行せず、重合度の不足により製品の品質が低下することがある。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題を解決すべく、装置の第1段に乳酸成分を主とする蒸気で駆動されるエゼクタを配し、第2段以降に水蒸気で駆動されるエゼクタを配することで、エゼクタ内での乳酸濃度を抑制して重合による閉塞を抑止すると共に、真空ポンプ単体で十分な真空度が得られることを特徴とするポリ乳酸の製造装置およびその方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、第2段以降のエゼクタを水蒸気駆動とすることで、装置全体における耐腐食性素材の使用率を低減し、製造価格を下げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、排気処理装置をエゼクタ、コンデンサ、ホットウェルの組み合わせを多段とする構成とし、第1段に乳酸成分を主とする蒸気で駆動されるエゼクタとエゼクタ下流部に設置したコンデンサとコンデンサに接続されたホットウェルタンクとし、第2段以降に水蒸気で駆動されるエゼクタとエゼクタ下流部に設置したコンデンサとコンデンサに接続されたホットウェルの組み合わせを少なくとも1段以上設置すると共に、第1段のコンデンサで回収した乳酸を原料系にフィードバックする装置を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記ホットウェル間で後段から前段に向かってエゼクタ駆動溶液を搬送し、前段の乳酸濃度を抑制することにより、十分な真空度を確保しつつ、閉塞や腐食を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PLA(ポリ乳酸)等の開環重合系ポリマーにおいて、原料である乳酸の重合による閉塞や腐食を抑制しつつ、大型プラントにおいても十分な真空度を保つことができる排気処理装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る排気処理装置およびその方法の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
本発明の排気処理装置およびその方法は、ポリ乳酸に特に好適に用いられるものである。
【0015】
本発明の方法およびその装置は、ラクチドの開環重合によるポリ乳酸の排気処理に特に好適に使用される。ここで、ポリ乳酸の原料として使用されるラクチドは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分(例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸)とそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。乳酸以外のヒドロキシカルボン酸の例としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸など、ラクトンの例としては、ブチロラクトン、カプロラクトンなど、ジカルボン酸の例としては炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールがあげられる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどポリアルキレンエーテルのオリゴマーおよびポリマーも共重合成分として用いられる。同様にポリアルキレンカーボネートのオリゴマーおよびポリマーも共重合成分として用いられる。添加物の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分と添加剤のラクチドへの添加率は任意であるが、主成分は乳酸又は乳酸由来のもので、共重合成分と添加剤は、50重量%以下、特に30%以下とすることが好ましい。
【0016】
本発明の排気処理装置およびその方法は、ポリ乳酸の重合工程のうち、解重合工程、二段階重合工程、脱モノマー工程、後処理工程において、ポリマー中に含まれるモノマー、オリゴマー等を除去するためのものである。本明細書において「原料」とは、重合反応によりポリマーを合成するための構成要素となる、モノマー、環式モノマー、モノマーの環式縮合物およびオリゴマー等を意味する。ポリ乳酸の合成においては、原料としてラクチドを使用し、溶融状態にある原料ラクチドおよび触媒を含む反応液を反応装置で加熱し、ラクチドの開環重合反応を行うことにより、ラクチドを溶融状態で重合させてポリ乳酸を連続的又は間欠的に合成する。本明細書において、反応液とは、溶融したポリマー原料、溶融原料と触媒の混合物、溶融原料と触媒と各種重合度の重合物との混合物など、ポリマーの合成行程で流通する溶融物や生成物などをすべて包含するものとする。
【0017】
原料が溶融状態にある場合は、溶融原料にそのまま触媒を添加して反応装置に供給し、重合反応に付すことができるが、原料が粉体状などの固形状である場合は、原料溶融装置によって原料を加熱することにより、予め原料を溶融する。原料溶融装置における加熱温度は、原料の融点以上であれば特に制限されない。従って、原料がラクチドである場合、95℃以上であれば特に限定されないが、通常95〜160℃、好ましくは110〜130℃である。160℃以下の温度とすることにより、ラクチドの熱による劣化を防止することができる。また、原料がグリコリドである場合、83℃以上であれば特に限定されないが、通常83〜160℃、好ましくは90〜130℃である。160℃以下の温度とすることにより、グリコリドの熱による劣化を防止することができる。
【0018】
重合反応のための触媒としては、当業者であれば、合成するポリマーによって好適なものを適宜選択できる。例えば、ラクチドの開環重合に用いられる触媒としては、従来公知のポリ乳酸の重合用触媒を用いることができ、例えば、周期表1A族、4A族、4B族および5A族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は金属化合物を含む触媒を用いることができる。
【0019】
4A族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)、および粉末スズ等が挙げられる。IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等が挙げられる。4B族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等が挙げられる。5A族に属するものとしては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、有機スズ系触媒又はスズ化合物が活性の点から特に好ましい。
【0020】
触媒は、当技術分野で通常用いられる触媒添加装置により溶融原料に添加することができる。溶融原料に触媒を添加してから反応装置に供給してもよいし、又は反応装置に直接触媒を添加してもよい。
【0021】
本発明において、原料を重合するための反応装置は、直列的に接続された1個以上の反応槽を含み、該反応槽内で溶融原料および触媒を含む反応液を加熱することにより重合反応を行うものである。反応装置に含まれる反応槽の数は、1個以上であればよく、通常1〜5個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜2個である。
【0022】
以下に、重合反応のための反応方法、脱揮方法および装置の実施形態について説明する。
【0023】
本発明の一実施形態においては、反応装置において、原料溶融物と最終重合物の中間状態の重合物に原料溶融物を追加添加し、攪拌・混合を行う。重合反応を実施するための反応装置として、反応装置が直列的に接続された2個以上の反応槽を含むことが望ましい。ただし、特に問題がなければ、1個の反応槽で構成された反応装置を用いて、ポリマー原料の供給口と最終ポリマー排出口の間で原料の追加添加、中間重合物との攪拌・混合を行ってもかまわない。反応槽の形状等については、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。上記実施形態は、実質的に重合反応が行われていないような槽をそれ以前の段に含む反応装置を使用する場合も、本発明の範囲に包含される。ここでは重合反応を実施するための反応装置として、反応装置が直列的に接続された2個の反応槽を含む場合を説明する。
【0024】
第1段の反応槽としては特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できるが、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置およびその槽内に設置された少なくとも一つの堰を有する反応槽を使用することが望ましい。以下、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置を有する上記反応槽を称して「横型反応槽」という。地面に対して実質的に水平とは、攪拌装置の回転軸が厳密に水平であることを意図するものではなく、地面、すなわち地平線と回転軸とのなす角度が、通常、−5°〜5°、好ましくは、−1°〜1°、より好ましくは0°であることを意味する。
【0025】
横型反応槽の形状は、撹拌装置をその回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置できるような形状であれば、タンク型でも筒型でもよく、特に制限されないが、好ましくは地面と実質的に水平な中心軸を有する円筒状である。そして、横型反応槽は、撹拌装置回転軸方向の一端に溶融原料を含む反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する。そのため、供給された反応液は供給口から排出口の方向に、実質的に水平方向に移動することになる。供給口は撹拌装置の回転軸より下側に位置するのが好ましく、排出口も撹拌装置の回転軸より下側に位置するのが好ましい。
【0026】
横型反応槽に設置される撹拌装置としては、地面に対して実質的に水平方向に配置される回転軸を中心とした回転により攪拌を行うものであれば特に限定されない。例えば、円形、長円形、3角形、4角形および多葉形などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された1軸又は互いに噛み合う2軸以上の混合機などが挙げられる。互いに噛み合う2軸以上の撹拌装置は、撹拌装置の回転軸や反応槽への反応液の付着を防止することができるため、セルフクリーニング作用の観点から好ましい。複数の攪拌翼を有する2軸の混合機を使用する場合は、各回転軸の攪拌翼が互い違いに設置されているのが好ましく、また、各回転軸を逆方向に回転させるのが好ましい。回転軸は、必ずしも実在の回転軸部材を意味するものではなく、単なる回転中心としての回転軸線をも包含する。撹拌装置の回転運動の回転中心が地面に対して実質的に水平に配置されるものであれば、必ずしも実在の回転軸部材は存在しなくてもよい。
【0027】
横型反応槽における加熱方法としては、この技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応槽外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応槽壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、あるいは攪拌装置の回転軸内部に熱媒を通して、伝熱により加熱する方法等、様々な方法があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。反応槽を実質的に一定の温度で加熱することが好ましい。横型反応槽内に供給された溶融原料は、当初、上記の加熱方法より加熱されて重合するが、反応熱に伴う温度上昇により、反応液の温度が熱媒よりも高くなると逆に反応液から熱媒に熱が逃げることになる。すなわち、上記加熱方法は、冷却方法としての機能も有する。そのため重合反応によって反応熱が発生するようなポリマーの場合には、熱を効果的に逃がすことができるので、有利である。
【0028】
必要に応じて、反応槽内部を複数個の領域に区分けし、区分けした領域ごとに熱媒温度を変えられるような加熱方法を使用してもよい。そのために複数個の熱媒ジャケットを利用することが考えられる。反応槽内部は、例えば、堰間の領域に基づいて区分けすることができる。これにより例えば、低温の反応液を加熱する領域では熱媒温度を高く設定し、反応熱により反応液温度が高くなり除熱が必要となる領域では逆に熱媒温度を低く設定するといったことが可能となる。熱媒加熱装置で加熱した熱媒を供給口付近に供給することによって反応槽内部に温度勾配を設定することもできる。熱媒温度が低くなると、一部溶融物が固化して反応槽内面に付着する可能性があるが、この場合は、反応槽に設置された撹拌装置により付着物を引き剥がすことができる。
【0029】
横型反応槽は、その槽内に設置された堰を有するのが望ましい。この堰は、反応槽供給口から排出口に向けて反応液が急速に流れるのを阻害するように設置される。堰の形状は、反応液の流れを阻害可能な形状であればよく、反応槽の形状に基づいて決定することができるが、好ましくは板状である。堰の設置方法についても特に制限されないが、例えば、堰が板状である場合は、地面に対し垂直に近い角度となるように設置される。また、攪拌装置回転軸と垂直な反応槽断面における下側、例えば下側半分又は三分の一を遮るように、反応槽の底部内壁に設置される。ここで、地面に対し垂直に近い角度とは、地面と板状の堰とのなす角度が、85〜95°、好ましくは89〜91°、より好ましくは90°であることを意味する。堰の材質としては、断熱性を有するものを使用するのが好ましい。
【0030】
ポリマーの流通性を高める観点から、堰には貫通孔を設置する場合もあり、貫通孔は、反応槽の底部に近い部分、好ましくは反応槽底部内壁との境目に存在する。貫通孔の数は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個である。上記のような貫通孔を設けることにより、反応液を適度な速度で流通させることができる。堰の設置位置および間隔等は、当業者であれば反応条件等に基づき適宜決定することができる。例えば、ポリマーの粘度分布が同程度になる領域を分けるように堰の設置位置を決定することができる。また、反応槽内の堰の設置位置を決めた後、所定の流量で反応液が貫通孔を通過する際の抵抗が、堰の前後における反応液ヘッド差による駆動力よりも小さくなるように貫通孔の孔径を決定することができる。2つの堰間の領域は、単一の混合セルと同様に作用し、攪拌装置によって攪拌されることにより反応液が均一化される。これにより、粘度の低い原料溶融物や重合度の低い低粘度の重合物が、重合度の高い高粘度の重合物よりも速く流れて両者が混ざり合う影響を抑制することができる。なお、重合物の粘度がある程度期待でき上記の混ざり合う効果が小さいときには堰を省略してもよい。
【0031】
横型反応槽における供給口と排出口において、ヘッド差を設けることにより、反応液が供給口から排出口へと移動するための駆動力を与えることができる。反応液は、上記貫通孔を通って流れるか、あるいは堰よりも高い位置にある反応液がヘッド差により後段の領域に流れることにより、横型反応槽を排出口方向へ流れることができる。横型反応槽において、反応液の供給量は特に制限されないが、横型反応槽の容量に対し、通常10〜70%、好ましくは40〜50%まで液が張り込まれる量で供給される。未反応のラクチドが急速に流れるのを、効果的に抑制できるからである。横型反応槽には、必要に応じて反応液の液面を測定する装置を設置し、計測信号を反応槽供給口の送液ポンプ又は反応槽排出口の送液ポンプ等にフィードバックすることにより、液面の高さが所定値となるよう反応液の輸送量を調節することができる。
【0032】
液面の測定方法としては、例えば、放射性物質を横型反応槽上部に設置し、そこから発生するガンマ線の反応液に対する透過量により測定する方法、横型反応槽上部から超音波又は電磁波を発射してその反射波を計測することにより測定する方法、横型反応槽上部に筒状のコンデンサを設置して、これを反応液中に差込み、筒内部の反応液高さに伴う誘電率の変化を計測することで測定する方法等が挙げられる。
【0033】
第1段目の横型反応槽における反応条件については、当業者であれば適宜決定することができるが、反応槽内の平均反応温度は、通常140〜180℃、好ましくは160〜170℃、滞留時間は、通常5〜15時間、好ましくは7〜10時間である。第1段目の横型反応槽の排出口から、重量平均分子量が、通常5万〜20万、好ましくは7万〜15万の重合物が得られるように反応条件を設定することが好ましい。
【0034】
第1段の反応槽を横型反応槽とし、この反応槽内に上記のような堰を設けることにより、粘度が低い溶融原料と重合度・粘度の低い重合物が、ある程度重合反応が進んだ重合物と混合するのを抑制し、反応槽内でのピストンフロー性を確保することができる。そして、反応液が未反応のまま次の行程に移動することを防止でき、第1段の反応槽において十分な反応を行うことができる。従って、滞留時間のばらつきに由来する温度履歴の長時間化が防止されるため、熱分解による重合物の劣化が抑制され、高品質のポリマーを得ることができる。
【0035】
第2段の反応槽としては、重合反応を行うための反応装置として、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する反応槽を少なくともその最終段に含む反応装置を使用する。以下、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する上記反応槽を縦型反応槽と称する。この実施形態において、反応装置は、少なくとも最終段に縦型反応槽を有するが、最終段以外の段にさらに縦型反応槽を有していてもよい。最終段以外の反応槽の形状等については、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。上記実施形態は、最終段に縦型反応槽を含む反応装置を使用するものであるが、実質的に重合反応が行われていないような槽をそれ以降の段に含む反応装置を使用する場合も、本発明の範囲に包含される。
【0036】
地面に対して実質的に垂直とは、攪拌装置の回転軸が厳密に垂直であることを意図するものではなく、地面、すなわち、地平線と回転軸とのなす角度が、通常85〜95°、好ましくは89〜91°、より好ましくは90°であることを意味する。横型反応槽と同に、上記回転軸は、必ずしも実在の回転軸部材を意味するものではなく、単なる回転中心としての回転軸線をも包含する。従って、撹拌装置の回転運動の回転中心が地面に対して実質的に垂直に配置されるものであれば、必ずしも実在の回転軸部材は存在しなくてもよい。
【0037】
縦型反応槽の形状は、撹拌装置を、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置できるような形状であればタンク型でも筒型でもよく特に制限されないが、好ましくは攪拌装置の回転軸と実質的に平行に中心軸を有する円筒状である。そして、該縦型反応槽は、攪拌装置回転軸方向の一端に前段の反応槽からの反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する。従って、供給された反応液は供給口から排出口の方向に、実質的に垂直方向に移っていくことになる。供給口は反応槽の上部に存在し、排出口は反応槽の下部に存在するのが好ましい。重合反応の進展に伴い重合物の比重が大きくなっていくため、上部に供給口を設けることにより、重合度の低い重合物が重合度の高い重合物に混入するのを抑制することができる。
【0038】
縦型反応槽に設置される撹拌装置としては、地面に対して実質的に垂直に配置される回転軸を中心とした回転により攪拌を行うものであれば特に限定されない。例えば、円形、長円形、3角形、4角形および多葉形などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された1軸又は互いに噛み合う2軸以上の混合機などが挙げられる。複数の攪拌翼を有する2軸の混合機であって、各回転軸の攪拌翼が互い違いになるように設置されているものが好ましい。また、この場合、各回転軸を逆方向に回転させるのが好ましい。互いに噛み合う2軸以上の撹拌装置は、撹拌装置の回転軸や反応槽への重合物等の付着を防止することができ、セルフクリーニング作用の観点から、重合反応が進み重合物の粘度が上昇している後段の反応槽においては特に有利に使用される。
【0039】
縦型反応槽における加熱方法としては、横型反応槽の場合と同様に、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応槽外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応槽壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、あるいは攪拌装置の回転軸内部に熱媒を通して、伝熱により加熱する方法等、様々な方法があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
【0040】
縦型反応槽内に供給された溶融原料は当初、上記加熱方法より加熱されて重合反応が進むが、反応熱に伴う温度上昇により、反応液の温度が熱媒よりも高くなると逆に反応液から熱媒に熱が逃げることになる。従って、横型反応槽の場合と同様に、必要に応じて、反応槽内部を複数個の領域に区分けし、区分けした領域ごとに熱媒温度を変えられるような加熱方法を使用してもよい。これにより例えば、低温の反応液を加熱する領域では熱媒温度を高く設定し、反応熱により反応液温度が高くなり除熱が必要となる領域では逆に熱媒温度を低く設定するといったことが可能となる。除熱がさらに必要な場合には、例えば、縦型反応槽内部にフィン(反応槽側面の凹凸)を設置することより、除熱効率をさらに向上させることもできる。また、熱媒加熱装置で加熱した熱媒を排出口付近に供給することにより、ポリマーを保温し、冷えすぎを防止する態様も考えられる。
【0041】
重合反応後段においては高温で反応を行うのが好ましいため、温度上昇に伴う重合物の劣化が問題となるが、最終段に縦型反応槽を用いることで、温度上昇を抑制することができ、重合物が劣化し着色する影響を低減することができる。
【0042】
縦型反応槽において、反応液の供給量は特に制限されないが、縦型反応槽の容量に対し、通常20〜100%、好ましくは60〜100%まで液が張り込まれる量で供給される。従って、反応液が反応槽容量の通常半量程度しか導入されない従来の横型反応槽と比較して、反応液が反応槽内壁と接する面積が大きく、伝熱面積を広く取ることができる(図2)。原料の重合に伴う反応熱を伝熱により除去することで反応液の温度上昇を低減することができ、重合反応の後段において、生成した重合物の熱分解に伴う劣化を効果的に抑制し、着色を防止することができる。特にラクチドの開環重合においては、ポリ乳酸の着色を効果的に防止することができる。また、縦型反応槽の形状を、側面に凹凸を有する形状とすることにより、伝熱面積をさらに増加させることができ、熱除去効率を向上させることもできる。側面に凹凸を設ける上記態様においては、攪拌翼を反応槽の凹部分と噛み合うように設置することにより、反応槽内壁にこびりついた高粘度の重合物を掻き取ることができる。
【0043】
縦型反応槽においても横型反応槽と同様に、必要に応じて反応液の液面を測定する装置を設置し、計測信号を反応槽供給口の送液ポンプ又は反応槽排出口の送液ポンプにフィードバックすることにより、液面の高さが所定値となるよう反応液の輸送量を調節することができる。液面の測定方法としては、例えば、放射性物質を横型反応槽上部に設置し、そこから発生するガンマ線の反応液に対する透過量により測定する方法、横型反応槽上部から超音波又は電磁波を発射してその反射波を計測する事により測定する方法、横型反応槽上部に筒状のコンデンサを設置して、これを反応液中に差込み、筒内部の反応液高さに伴う誘電率の変化を計測することで測定する方法等が挙げられる。
【0044】
最終段の縦型反応槽における反応条件についても、当業者であれば適宜決定することができるが、反応槽内の平均反応温度は、通常180〜220℃、好ましくは190〜210℃、滞留時間は、通常1〜7時間、好ましくは3〜5時間である。最終段の縦型反応槽の排出口から、重量平均分子量が、通常10万〜50万、好ましくは15〜30万の重合物が得られるように反応条件を設定することが好ましい。
【0045】
本発明のポリマー脱揮装置においては、重合のための反応装置の後段に脱揮装置を設置して、反応装置から排出される反応液から未反応の原料を除去する。脱揮装置では、溶融状態を維持しつつ負圧環境を作ることにより、未反応の原料もしくは溶媒、例えばラクチドが除去される。
【0046】
脱揮装置としては、攪拌装置の回転運動の回転中心が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌器を使用することが望ましい。以下、回転運動の回転中心が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置を有する上記攪拌器を横型攪拌器と称する。地面に対して実質的に水平とは、攪拌装置の回転中心が厳密に水平であることを意図するものではなく、地面、すなわち地平線と回転中心とのなす角度が、通常、−5°〜5°、好ましくは、−1°〜1°、より好ましくは、0°であることを意味する。
【0047】
横型攪拌器の形状は、攪拌装置の回転運動の回転中心が地面に対して実質的に水平になるように設置できるような形状であればタンク型でも筒型でもよく特に制限されないが、好ましくは地面と実質的に水平な回転中心を有する円筒状である。そして、該シャフトレス横型攪拌器は、撹拌装置の回転軸線方向の一端に溶融原料を含む反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する。従って、供給された反応液は供給口から排出口の方向に、実質的に水平方向に移っていくことになる。供給口は、該攪拌器の反応液液面より下側に位置するように設置する。これにより、攪拌機内の反応液の流れに乱れを生じさせず、押し出し流れを実現する。排出口においても撹拌装置の回転中心より下側に位置するのが好ましい。
【0048】
横型攪拌槽に設置される撹拌装置としては、地面に対して実質的に水平方向に配置される回転中心を中心とした回転により攪拌を行うものであれば特に限定されない。例えば、円形、長円形、3角形、4角形および多葉形などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された1軸又は互いに噛み合う2軸以上の混合機などが挙げられる。本発明においては回転中心に回転軸部材を有しない攪拌翼を用いることで回転軸への付着を防止する。これにより、回転軸への反応液の付着を防ぎ、熱分解を抑制し、着色が少なく、分子量の高い、高品質のポリマーを製造することができる。攪拌翼としては日立製作所製格子翼重合機、特許文献2に記載された攪拌翼などを用いることができる。
【0049】
脱揮装置内を負圧環境にするため、エゼクタ、エゼクタ下流部に設置したコンデンサ、コンデンサに接続されたホットウェルの組み合わせを少なくとも2段以上設ける。このうち1段目のエゼクタは乳酸を主成分とする蒸気により駆動され、2段目以降のエゼクタは水蒸気を主成分とする蒸気により駆動される。
【0050】
さらに、本発明の脱揮方法を経て得られた重合物には、通常、水冷およびチップカッターによるペレット化処理等が施されるが、これらの処理は省略することができる。
【0051】
本発明のポリマー合成装置に使用される、原料溶融装置、触媒供給装置、各種反応槽を含む反応装置、脱揮装置等の装置にはそれぞれ、窒素ガスで内部をパージするための窒素ガス供給配管および排気管が設置されていることが好ましい。そして、合成プロセスの運転は基本的に、プロセス内の全装置が窒素パージされた後に開始されるのが好ましい。これにより、酸素の存在による反応液の焼け焦げを防ぐことができる。また、原料溶融装置、触媒供給装置、原料供給装置、各種反応槽等は、大気圧程度の圧力で運転するのが好ましい。そうすることにより、溶融原料の揮発を低減することができる。
【0052】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定される
ものではない。
【実施例】
【0053】
図1に、本発明のポリ乳酸の製造装置およびその方法に関する一実施例の全体構成を示す。本実施例では、ラクチド供給装置1、ラクチド溶融装置2、触媒供給装置3、重合開始剤供給装置4、ラクチド供給装置5、横型反応槽6、縦型反応槽7、脱揮装置8、送液ポンプ9-15、バルブ16-22を備える装置によって、ポリ乳酸の重合を行う。本実施例は、反応装置として横型反応槽6、縦型反応槽7の2つが直列的に接続されており、脱揮装置8により未反応ラクチドを除去する例である。送液ポンプ9-15については、輸送する液の粘度が低く、重力を利用して送液できる場合等については、一部を省略することができる。また、バルブ16-22についても、場合に応じて一部を省略することができる。
【0054】
ラクチド供給装置1は、粉体状のラクチドをラクチド溶融装置2に供給する。ラクチド供給装置1の輸送方式として、例えばスクリューフィーダーによる輸送、超音波振動による輸送、ガス流による輸送等の方式がある。ラクチド溶融装置2では、送られてきたラクチドを加熱して溶融する。その際の温度は、ラクチドの融点以上であって、熱による劣化が起こらないように、望ましくは160℃以下とする。原料ラクチドが固体や粉体状ではなく液体で供給される場合には、ラクチド供給装置1は送液ポンプとなり、ラクチド溶融装置2はバッファタンクとして機能する。ラクチド溶融装置2で生成した溶融ラクチドは、バルブ16を開いた後、送液ポンプ9により排出され、バルブ17,18を開き、ポンプ10,11を用いて、触媒供給装置3と重合開始剤供給装置4から、触媒、重合開始剤が溶融ラクチドに供給された後、ラクチド供給装置5に供給される。なお、送液ポンプ9により排出される溶融ラクチドの流量、触媒供給装置3から供給される触媒量の溶融ラクチド流量に対する割合、および重合開始剤供給装置4から供給される重合開始剤の溶融ラクチド流量に対する割合は、常時同一である必要はなく、場合に応じて適宜変更することができる。
【0055】
ラクチド供給装置5では、溶融ラクチドの温度をラクチドの融点以上であって、望ましくは160℃以下の範囲に保持する。ラクチド供給装置5は、本質的にバッファタンクであり、場合により省略してもよい。ラクチド供給装置5の溶融ラクチドは、バルブ19を開き、送液ポンプ12により横型反応槽6に連続供給される。なお、ラクチド供給装置5を省略する場合には、送液ポンプ12も省略される。
【0056】
送液ポンプ9,12-13の前後の送液配管は、温度低下に伴うラクチドの凝固と閉塞を回避するため、すべて加熱・保温等により、ラクチドの融点以上で、望ましくは160℃以下の温度に保持される。ラクチド溶融装置2、ラクチド供給装置5、送液ポンプ9,12-13の前後の配管内には熱電対が挿入されており、各位置における溶融原料の温度が測定される。
【0057】
横型反応槽6内では、溶融ラクチドが供給口と排出口の間のヘッド差により流れ、重合反応が進行する。横型反応槽において反応液は、反応槽外周部の熱媒のジャケットによって加熱される。
【0058】
反応液は、縦型反応槽7の上部に設置された供給口に輸送され、重力により縦型反応槽下部の排出口を目指して流れ、重合反応が進行する。これにより、重合度の低い重合物が重合度の高い重合物に混入するのを防止することができる。縦型反応槽において、反応液は、反応槽外周部の熱媒のジャケットによって加熱されるが、熱媒温度が重合物の温度よりも低い場合には除熱されることとなる。
【0059】
縦型反応槽7では横型反応槽6と比べて伝熱面積が大きく取れるため、加熱、除熱の効率が大きい。このため、最終段に縦型反応槽を用いることで、反応熱に伴う温度上昇で重合物が劣化する影響を低減することができる。縦型反応槽7では、高粘度重合物の攪拌に適している、攪拌翼が設置された回転軸を2本持った攪拌装置を用いる。縦型反応槽7内部の反応液はバルブ21を開いた状態で、重力および送液ポンプ14により連続排出され、脱揮装置8に輸送される。送液ポンプ14として、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。送液ポンプ14前後の輸送配管は内部の反応液の凝固に伴う閉塞を回避するため、加熱・保温が必要である。その際の温度としては重合物が熱分解しないよう、200℃以下であることが望ましい。
【0060】
脱揮装置8では溶融状態を維持しつつ負圧環境を作り、未反応のラクチドを除去する。脱揮装置の供給口は、反応液液面より下側に位置するように設置する。これにより、攪拌機内の反応液の流れに乱れを生じさせず、押し出し流れを実現し、逆流を防ぐことで滞留時間の増加を抑制する。これにより、熱分解を抑制して、着色が少なく分子量の高い、高品質のポリマーを製造することができる。
【0061】
脱揮装置8の処理後の反応液は、バルブ22を開いた状態で送液ポンプ15により連続排出される。送液ポンプとしては、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。排出された重合物は通常、水冷、チップカッターによるペレット化処理が施される。
【0062】
脱揮装置8で除去された未反応のラクチドは、バルブ35を開いた状態で、排気処理装置36に送られる。バルブ35を開いた状態で、排気処理装置36で回収されたラクチドは、原料ラクチドとして再利用される。
【0063】
図2は、本発明のポリ乳酸の製造装置およびその方法に用いられる排気処理装置を拡大して示す。図2を参照して、排気処理装置36の詳細について説明する。1段目の主コンデンサ60と主ホットウェル40に乳酸を主成分とする液体を循環し、脱揮装置8で除去された未反応のラクチドを冷却により回収する。このとき、バルブ35から主コンデンサ60への吸引は、エゼクタ71による吸引力によってなされる。ラクチドの回収により主ホットウェル40の乳酸濃度が上昇してくると、ラクチドの重合により主コンデンサ60が閉塞する危険性があるため、乳酸濃度が低いホットウェル41からの送液により主ホットウェル40の乳酸濃度を抑制する。
【0064】
2段目のコンデンサ61とホットウェル41には、水を主成分とする液体を循環し、この液体をボイラ81で加熱して蒸気として、これによりエゼクタ71を駆動する。このとき、エゼクタ71からコンデンサ61への吸引は、エゼクタ72による吸引力によってなされる。エゼクタ71によるラクチドの回収によりホットウェル41の乳酸濃度が上昇してくると、ラクチドの重合によりコンデンサ61が閉塞する危険性があるため、乳酸濃度が低いホットウェル42からの送液によりホットウェル41の乳酸濃度を抑制する。
【0065】
3段目のコンデンサ62とホットウェル42には、水を主成分とする液体を循環し、この液体をボイラ82で加熱して蒸気とし、これによりエゼクタ72を駆動する。このとき、エゼクタ72からコンデンサ62への吸引は、エゼクタ73による吸引力によってなされる。エゼクタ72によるラクチドの回収によりホットウェル42の乳酸濃度が上昇してくると、ラクチドの重合によりコンデンサ62が閉塞する危険性があるため、乳酸濃度が低いホットウェル43からの送液によりホットウェル42の乳酸濃度を抑制する。
【0066】
4段目のコンデンサ63とホットウェル43には、水を主成分とする液体を循環し、この液体をボイラ83で加熱して蒸気とし、これによりエゼクタ73を駆動する。このとき、エゼクタ73からコンデンサ63への吸引は、真空ポンプ90による吸引力によってなされる。エゼクタ73によるラクチドの回収によりホットウェル43の乳酸濃度が上昇してくると、ラクチドの重合によりコンデンサ63が閉塞する危険性があるため、水タンク50からの送液によりホットウェル43の乳酸濃度を抑制する。
【0067】
2段目以降のコンデンサでは主成分とする液体を循環させるため、コンデンサ60-63における乳酸濃度を比較すると、主ホットウェル40からホットウェル43に向かって、水による希釈がなされるため、乳酸濃度が低下していく傾向となる。水と乳酸の蒸気圧を比較すると、水の蒸気圧の方が高いため、コンデンサ60-63における圧力は、コンデンサ60からコンデンサ63に向かって順に上がっていくことになる。一例として、図2に示すような4段式排気処理装置36においては第1段において0.8Torr、第2段で8Torr、第3段で30Torr、第4段では80Torrとなる。このことから、排気処理装置を多段式にすることにより、真空ポンプ90の性能が比較的劣るものであっても、脱揮装置8の真空度を高く保つことができる。すなわち、高い真空度が達成困難な大型プラントにおいても、十分な真空度を確保できるのである。
【0068】
また2段目以降のコンデンサでは水を主成分とする液体を循環させるため、1段目に比べて乳酸濃度を低く抑えられる。これにより2段目以降のエゼクタ71-73、コンデンサ61-63、ホットウェル41-43においては、乳酸による腐食の影響が少なく、そのためチタン等の耐腐食性材料を使用する必要がない。このことより、装置価格を低く抑えることができる。
【0069】
ラクチド供給装置1、ラクチド溶融装置2、触媒供給装置3、重合開始剤供給装置4、ラクチド供給装置5、横型反応槽6、縦型反応槽7および脱揮発装置8には、それぞれ窒素ガスで内部をパージするための窒素ガス供給配管、排気管が設置されている。これは酸素の存在による反応液の焼け焦げを防ぐためである。プロセスの運転は、基本的にプロセス内の全装置を窒素パージした後に開始されるのが望ましい。また、ラクチド供給装置1、ラクチド溶融装置2、触媒供給装置3、重合開始剤供給装置4、ラクチド供給装置5、横型反応槽6および縦型反応槽7は、大気圧程度の圧力で運転する。これは溶融ラクチドの揮発を低減するためである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のポリ乳酸の製造装置およびその方法に関する一実施例の全体構成を示す図である。
【図2】本発明のポリ乳酸の製造装置およびその方法に用いられる排気処理装置を拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1:ラクチド供給装置、2:ラクチド溶融装置、3:触媒供給装置、4:重合開始剤供給装置、5:ラクチド供給装置、6:横型反応槽、7:縦型反応槽、8:ポリマー脱揮装置、9-15:送液ポンプ、16-22:バルブ、23:攪拌翼、24-34:窒素ガス流通バルブ、35:脱揮用バルブ、36:排気処理装置、40:主ホットウェル、41-43:ホットウェル、50:水タンク、60:主コンデンサ、61-63:コンデンサ、71-73:エゼクタ、81-83:ボイラ、90:真空ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸のオリゴマー化、該オリゴマーの解重合によるラクチドの製造、該ラクチドの開環重合及び該重合物からの未反応ラクチドの脱揮の各工程を少なくとも含有するポリ乳酸を製造する装置において、
前記装置は、前記脱揮工程において減圧する排気処理装置を備えて、
該排気処理装置は、
水蒸気を発生するボイラと、
該水蒸気により駆動するエゼクタ、該エゼクタ下流部に接続されたコンデンサ及び該コンデンサに接続されたホットウェルタンクを組み合わせた段から成る減圧部と、
前記未反応ラクチドのガスが前記減圧部に吸引される管路に、主コンデンサと該主コンデンサに接続された主ホットウェルタンクを備え、
前記主コンデンサにおいて、前記主ホットウェルタンクに回収された液体を用いて前記未反応ラクチドのガスを洗浄することを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項2】
乳酸のオリゴマー化、該オリゴマーの解重合によるラクチドの製造、該ラクチドの開環重合及び該重合物からの未反応ラクチドの脱揮の各工程を少なくとも含有するポリ乳酸を製造する装置において、
前記装置は、前記脱揮工程において減圧する排気処理装置を備えて、
該排気処理装置は、
水蒸気を発生するボイラと、
該水蒸気により駆動するエゼクタ、該エゼクタ下流部に接続されたコンデンサ及び該コンデンサに接続されたホットウェルタンクを組み合わせた段から成る減圧部と、
前記未反応ラクチドのガスが前記減圧部に吸引される管路に、主コンデンサと該主コンデンサに接続された主ホットウェルタンクを備え、
前記主コンデンサにおいて、前記主ホットウェルタンクに回収された乳酸成分を主とする液体を用いて前記未反応ラクチドのガスを洗浄することを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された装置において、
前記排気処理装置は真空ポンプを備え、該真空ポンプは前記減圧部を減圧することを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された装置において、
前記排気処理装置は水タンクを備え、
該水タンクから前記ホットウェルタンクを経て、前記主ホットウェルタンクに供給する管路をそれぞれ備えることを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項5】
請求項4に記載された装置において、
前記主ホットウェルタンク及び前記ホットウェルタンクは、乳酸の濃度を直接又は間接的に測定する装置を備えて、
測定した乳酸濃度が予め定めた値より上昇すると、前記主ホットウェルタンクには前記ホットウェルタンクから、前記ホットウェルタンクには前記水タンクから、より低濃度の乳酸又は水を流入させることにより、乳酸濃度を制御することを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項6】
乳酸のオリゴマー化、該オリゴマーの解重合によるラクチドの製造、該ラクチドの開環重合及び該重合物からの未反応ラクチドの脱揮の各工程を少なくとも含有するポリ乳酸を製造する装置において、
前記装置は、前記脱揮工程において減圧する排気処理装置を備えて、
該排気処理装置は、
水蒸気を発生するボイラと、
該水蒸気により駆動するエゼクタ、該エゼクタ下流部に接続されたコンデンサ及び該コンデンサに接続されたホットウェルタンクを組み合わせた段を複数段直列に接続して成る減圧部と、
前記未反応ラクチドのガスが前記減圧部に吸引される管路に、主コンデンサと該主コンデンサに接続された主ホットウェルタンクを備え、
前記主コンデンサにおいて、前記主ホットウェルタンクに回収された液体を用いて前記未反応ラクチドのガスを洗浄することを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項7】
乳酸のオリゴマー化、該オリゴマーの解重合によるラクチドの製造、該ラクチドの開環重合及び該重合物からの未反応ラクチドの脱揮の各工程を少なくとも含有するポリ乳酸を製造する装置において、
前記装置は、前記脱揮工程において減圧する排気処理装置を備えて、
該排気処理装置は、
水蒸気を発生するボイラと、
該水蒸気により駆動するエゼクタ、該エゼクタ下流部に接続されたコンデンサ及び該コンデンサに接続されたホットウェルタンクを組み合わせた段を複数段直列に接続して成る減圧部と、
前記未反応ラクチドのガスが前記減圧部に吸引される管路に、主コンデンサと該主コンデンサに接続された主ホットウェルタンクを備え、
前記主コンデンサにおいて、前記主ホットウェルタンクに回収された乳酸成分を主とする液体を用いて前記未反応ラクチドのガスを洗浄することを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載された装置において、
前記排気処理装置は真空ポンプを備え、該真空ポンプは前記減圧部を減圧することを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項9】
請求項6又は7に記載された装置において、
前記排気処理装置は水タンクを備え、
該水タンクから前記複数のホットウェルタンクを順次経て、前記主ホットウェルタンクに供給する管路を、それぞれ備えることを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項10】
請求項9に記載された装置において、
前記主ホットウェルタンク及び前記複数のホットウェルタンクは、それぞれ乳酸の濃度を直接又は間接的に測定する装置を備えて、
あるタンクで測定した乳酸濃度が予め定めた値より上昇すると、当該タンクの後段側に隣接する水タンク又はホットウェルタンクから、水又はより低濃度の乳酸を流入させることにより、乳酸濃度を制御することを特徴とするポリ乳酸を製造する装置。
【請求項11】
乳酸のオリゴマー化、該オリゴマーの解重合によるラクチドの製造、該ラクチドの開環重合及び該重合物からの未反応ラクチドの脱揮の各工程を少なくとも経て、ポリ乳酸を製造する方法において、
前記方法は、前記脱揮工程において減圧する排気処理方法を備えて、
該排気処理方法は、
水蒸気を発生させる工程と、
該発生した水蒸気によりエゼクタを駆動して未反応ラクチドのガスを吸引する工程と、
前記エゼクタによる吸引を利用して、主コンデンサにおいて、主ホットウェルタンクに回収された乳酸成分を主とする液体を用いて前記未反応ラクチドのガスを洗浄する工程と、
前記エゼクタに吸引された前記未反応ラクチドのガスを、前記水蒸気と混ぜて前記エゼクタ下流部に接続されたコンデンサに導き、該コンデンサで回収された乳酸をホットウェルタンク内に導く工程と、
を備えることを特徴とするポリ乳酸を製造する方法。
【請求項12】
請求項11に記載された方法において、
前記エゼクタを通過した後の前記未反応ラクチドのガスの吸引が、真空ポンプによりなされることを特徴とするポリ乳酸を製造する方法。
【請求項13】
請求項11に記載された方法において、
前記エゼクタに吸引された前記未反応ラクチドのガスを、前記水蒸気と混ぜて前記エゼクタ下流部に接続されたコンデンサに導き、該コンデンサで回収された乳酸をホットウェルタンク内に導く前記工程を複数回直列に行なうことを特徴とするポリ乳酸を製造する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−286846(P2009−286846A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138422(P2008−138422)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】