説明

ポリ乳酸樹脂組成物、並びに、成型体及びその製造方法、及びOA機器

【課題】 生分解性であり環境への負荷が小さく、ウエルド部分の強度に優れ、良好なエンジニアプラスチック特性を示し、電気・電子・OA分野をはじめとして各種分野において好適に使用可能なポリ乳酸樹脂組成物、並びに、それを用いた、成型体及びその効率的な製造方法、及びOA機器の提供。
【解決手段】 D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度60℃以下で成型してなる成型体である。成型が射出成型である態様が好ましい。前記成型体を有してなるOA機器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸樹脂組成物、並びに、それを用いた、成型体及びその効率的な製造方法、及びOA機器に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂は、微生物に分解・消化可能であるため、廃棄−回収のサイクルを生態系システム中に組み込むことができ、環境への負荷が小さいことから、近年、地球環境への関心が高まるにつれて注目を集めるようになってきており、最近では、特に電気・電子・OA分野においてもその使用が望まれてきている。前記生分解性樹脂の中でもポリ乳酸は、透明性、硬度、成形性等に優れる点で、電気・電子・OA分野への適用が検討されてきている。
【0003】
ところで、一般に樹脂成型体には、ウエルド部分(接合部)の強度が低くなるという問題があり、ポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸樹脂組成物もその例外ではない。前記ウエルド部分の強度は、前記ポリ乳酸樹脂組成物の組成や成型条件等にも多少依存するものの、曲げ強度でみると前記ウエルド以外の部分の約1/2〜1/3程度となってしまう場合が多い。前記ウエルド部分の強度を向上させる目的で、前記ポリ乳酸樹脂組成物にフィラー、別種の樹脂を添加させるなどの方法が考えられるが、これらの方法の場合、前記ウエルド以外の部分の強化には寄与しても、前記ウエルド部分の強化には殆ど効果がない。前記ウエルド部分の強度低下を防ぐためには、100℃以上の金型で1〜数分間保持し、前記ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸の結晶化を十分に促進させ、該ポリ乳酸樹脂組成物を十分に硬化させてから、成型体を取り出すことが必要となる。
しかし、この場合、前記ポリ乳酸のガラス転移点が60℃前後であるため、前記金型からの取り出し時における剛性が不足し、成型体に変形が生じてしまうという問題がある。一方、前記金型を冷却してから前記成型体を取り出そうとすると、冷却のための時間と特別な設備とが必要となり、生産性が低下してしまうという問題がある。
【0004】
前記ウエルド部分の強度の問題を解決するための方法としては、例えば、D体とL体とをブレンドして調製した2種類の非結晶性ポリマーを更に溶融ブレンドしたポリ乳酸組成物が提案されている(特許文献1〜2参照)。しかし、このポリ乳酸組成物は、結晶化度を高くすることを目的とするものであり、この場合、前記ウエルド部分の強度を十分に改善することができないという問題がある。また、D体の含有率が5〜40質量%又は60〜95%質量%であるポリ乳酸に、ポリイソシアネート、ポリカーボネート、ポリスチレンなどを反応又は配合させた発泡性樹脂組成物が提案されている(特許文献3〜5参照)。しかし、これらは、発泡体の形成のため溶融粘度を最適化することを目的とするものであり、これらの場合、前記ウエルド部分の強度を十分に改善することができないという問題がある。
【0005】
したがって、生分解性であり環境への負荷が小さく、前記ウエルド部分の強度に優れ、良好なエンジニアプラスチック特性を示し、電気・電子・OA分野をはじめとして各種分野において好適に使用可能なポリ乳酸樹脂組成物、並びに、それを用いた、成型体及びその効率的な製造方法、及びOA機器は、未だ提供されていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−17163号公報
【特許文献2】特開2000−17164号公報
【特許文献3】特開2000−17037号公報
【特許文献4】特開2000−17038号公報
【特許文献5】特開2000−17039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、生分解性であり環境への負荷が小さく、ウエルド部分の強度に優れ、良好なエンジニアプラスチック特性を示し、電気・電子・OA分野をはじめとして各種分野において好適に使用可能なポリ乳酸樹脂組成物、並びに、それを用いた、成型体及びその効率的な製造方法、及びOA機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、後述の付記1から14に記載した通りである。
本発明の成型体は、D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度60℃以下で成型してなることを特徴とする。
本発明の成型体の製造方法は、D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度60℃以下で成型することを特徴とする。
本発明の成型体乃至本発明の成型体の製造方法により得られた成型体は、前記ポリ乳酸を含むため、生分解性に優れ、環境への負荷が小さく、また、前記ポリ乳酸におけるD体及びL体の含有率が所定の範囲内であり、所定の金型温度で成型されるため、前記ポリ乳酸の結晶化が抑制された状態で金型から容易に取り出すことができ、ウエルド部分の強度に優れ、良好なエンジニアプラスチック特性を示す。このため、各種分野に好適に使用することができ、電気・電子・OA分野等の分野にも好適に使用することができ、例えば、パーソナルコンピュータ部品(例えば外装部品)等にも好適に使用することができる。
本発明のOA機器は、本発明の前記成型体を有してなることを特徴とする。該成型体は、本発明の前記成型体により形成されているので、生分解性に優れ、環境への負荷が小さく、ウエルド部分の強度に優れ、良好なエンジニアプラスチック特性を示す。
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有し、金型温度60℃以下で成型されることを特徴とする。
該ポリ乳酸樹脂組成物においては、前記ポリ乳酸を含むため、生分解性に優れ、環境への負荷が小さく、また、前記ポリ乳酸におけるD体及びL体の含有率が所定の範囲内であり、所定の金型温度で成型されるため、前記ポリ乳酸の結晶化が抑制された状態で金型から容易に取り出すことができ、そして、ウエルド部分の強度に優れ、良好なエンジニアプラスチック特性を示し、電気・電子・OA分野等をはじめとした各種分野に好適に使用可能な成型体等の製造に用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、生分解性であり環境への負荷が小さく、ウエルド部分の強度に優れ、良好なエンジニアプラスチック特性を示し、電気・電子・OA分野をはじめとして各種分野において好適に使用可能なポリ乳酸樹脂組成物、並びに、それを用いた、成型体及びその効率的な製造方法、及びOA機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の成型体は、D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度60℃以下で成型してなる。
本発明の成型体は、本発明の成型体の製造方法により製造することができる。
前記成型体は、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いて好適に形成することができ、また、本発明の成型体の製造方法は、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いて実施することができる。
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなり、金型温度60℃以下で成型される。
以下、本発明のポリ乳酸樹脂組成物、並びに、成型体及びその製造方法について説明する。
【0011】
前記ポリ乳酸樹脂組成物における前記ポリ乳酸としては、以下の第一の態様及び第二の態様のいずれかであることが必要である。これらのポリ乳酸でない場合には、前記ウエルド部分の強度を十分に改善することができない。
【0012】
前記第一の態様のポリ乳酸は、D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であることが必要であり、D体の含有率が10〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜90質量%であるのが好ましい。
前記D体の含有率が、5質量%未満であると、前記ウエルド部分の強度が該ウエルド以外の部分の約1/2〜1/3程度にまで低下してしまうことがあり、30質量%を超えると、ガラス転移点が50℃未満となり、金型から取り出すのに冷却が必要となる上、長時間を要し、しかも得られた成型体は、30〜40℃程度の温度でも著しく軟化してしまい、エンジニアプラスチックの特性を示さず、いずれも問題がある。
【0013】
前記第二の態様のポリ乳酸は、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であることが必要であり、D体の含有率が70〜90質量%であり、L体の含有率が10〜30質量%であるのが好ましい。
前記D体の含有量が、70質量%未満であると、ガラス転移点が50℃未満となり、金型から取り出すのに冷却が必要となる上、長時間を要し、しかも得られた成型体は、30〜40℃程度の温度でも著しく軟化してしまい、エンジニアプラスチックの特性を示さず、95質量%を超えると、前記ウエルド部分の強度が該ウエルド以外の部分の約1/2〜1/3程度にまで低下してしまうことがあり、いずれも問題がある。
【0014】
なお、前記ポリ乳酸における前記D体及び前記L体の含有量は、例えば、前記ポリ乳酸を溶解可能な溶剤を用いて、前記ポリ乳酸樹脂組成物乃至前記成型体から前記ポリ乳酸を抽出し、該ポリ乳酸を旋光計を使用することにより、分析乃至測定することができる。
【0015】
前記ポリ乳酸としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、市販品であってもよいし、適宜合成した合成品であってもよい。
前記合成品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、その合成の方法としては、例えば、ポリ乳酸前駆体を重合等する方法、などが挙げられる。前記ポリ乳酸前駆体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、L−ラクタイド、D−ラクタイド、などが挙げられる。
前記ポリ乳酸の分子量としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。
【0016】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ポリ乳酸以外の生分解性樹脂、充填材、難燃剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化安定剤、などが挙げられる。
これらは、本発明の効果を害しない範囲内で適宜選択した量を使用することができ、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記ポリ乳酸以外のポリ乳酸樹脂組成物としては、例えば、天然物由来生分解性樹脂、化学合成生分解性樹脂などが挙げられる。
前記天然物由来生分解性樹脂としては、例えば、キチン・キトサン、アルギン酸、グルテン、コラーゲン、ポリアミノ酸、バクテリアセルロース、プルラン、カードラン、多糖類系副産物、デンプン、変性デンプン、微生物産生ポリエステル(バイオポリエステル)、などが挙げられる。
前記化学合成生分解性樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル、脂肪族・芳香族ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、などが挙げられる。
【0018】
前記脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ3−ヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ3−ヒドロキシバレエート等のポリヒドロキアルカノエート系、ポリカプロラクトン(PCL)系、ポリブチレンサクシネート(PBS)系、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)系、ポリエチレンサクシネート(PES)系、ポリグリコール酸(PGA)系、ポリ乳酸(PLA)系、などが挙げられる。
また、前記脂肪族ポリエステルとしては、例えば、特開2001-335623号公報、特開2002-167497号公報等において開示されているような、乳酸とジカルボン酸とジオールとを共重合したものなども挙げられる。
前記ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。
前記ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1、3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0019】
前記充填材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、繊維状充填材、板状充填材、粒状充填材、などが挙げられ、また、その材料としては、例えば、無機材料、植物性材料、動物性材料、などが挙げられる。
前記充填材の具体例としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、セルロース繊維、キチン繊維、キトサン繊維、タルク、マイカ、カオリン、モンモリロナイト、ワラスナイト、ベントナイト、炭素繊維、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸石灰、珪酸石灰、炭素、二硫化モリブデン、グラファイト、カーボンブラック、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化珪素、二酸化珪素、などが好適に挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ガラス繊維、ガラスフレーク、セルロース繊維、キチン繊維、キトサン繊維、タルク、マイカ、カオリン、モンモリロナイト、ワラスナイト、ベントナイト、炭素繊維、シリカ、炭酸カルシウムなどが好ましい。
【0020】
前記充填材の前記ポリ乳酸樹脂組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1〜100質量%が好ましく、1〜50質量%が好ましい。
【0021】
前記難燃剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪酸マグネシウム、酸化マグネシウム等の金属塩、金属水酸化物、シリコーン系難燃剤、リン系難燃剤、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記抗菌剤は、前記添加剤が抗菌性を有しない場合に好適に使用することができ、該抗菌剤としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、細胞壁のペプチドグリカンの生合成を阻害するもの、微生物のタンパク質の生合成を阻害するもの、核酸の生合成を阻害するもの、細胞膜のイオン透過性を変化させるもの、細胞膜を破壊するもの、金属イオン類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記細胞壁のペプチドグリカンの生合成を阻害するものとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ペニシリン、セファロスポリン等のβ−ラクタム系化合物などが挙げられる。
前記微生物のタンパク質の生合成を阻害するものとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ピューロマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、ストレプトマイシンなどが挙げられる。
前記核酸の生合成を阻害するものとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アゼセリン、アクリジン、アクチノマイシンD、バドマイシン、リファマイシンなどが挙げられる。
前記細胞膜のイオン透過性を変化させるものとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、パリノマイシン、グラミシジンA、ノナクチン、モネンシン等のイオノフォアなどが挙げられる。
前記細胞膜を破壊するものとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、クロロクレゾール、キシロール等のフェノール類、塩化ベンザルコニウム等の4級アンモニウム塩、クロロヘキシジン等のビグアニド類、チロシジン、グラミシジンS、ポリミキシン等の環状ペプチド、などが挙げられる。
前記金属イオン類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、鉄イオン及びその錯体化合物などが挙げられる。
【0024】
前記紫外線吸収剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記可塑剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ポリエーテルなどが挙げられる。
【0025】
本発明においては、前記ポリ乳酸樹脂組成物が、金型温度60℃以下で成型されることが必要であり、50℃以下で成型されるのが好ましく、40℃以下で成型されるのがより好ましい。
前記成型の際の金型温度が、60℃を超えると、前記ポリ乳酸樹脂組成物を成型時に長時間、冷却保持することが必要となり、金型からの取り出しが容易ではなく、室温に近くない温度であるため、成型体の寸法収縮が大きくなってしまい、また、成型体の強度が低下してしまい、70℃以上、特に80℃以上になるとそれが顕著となるという問題がある。一方、前記金型温度が60℃以下であると、そのようなことはなく、金型から成型体を容易に取り出すことができ、長時間の冷却が不要であり、成型体の収縮寸法が小さく、精度良く成型体が得られる。
なお、前記金型温度は、金型の設定温度を意味する。
【0026】
前記ポリ乳酸樹脂組成物の成型温度、即ち溶融混練温度(前記金型の温度とは異なる)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、200℃以下が好ましく、160〜190℃がより好ましい。
前記成型温度が、200℃を超えると、前記ポリ乳酸が分解され始め、変質乃至変色などが生じ、前記ポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が著しく低下し、成型時にバリなどが発生し易くなり、高品質な成型体が得られないことがある。一方、200℃以下であると、そのようなことはなく、バリ等が生じない高品質な成型体が得られる点で有利である。
【0027】
前記成型の態様乃至方法としては、金型を使用する成型方法であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、射出成型、ブロー成型、などが挙げられる。これらは、単独で行ってもよいし、2以上併用してもよい。これらの中でも、成型体における前記ウエルド部分の強度低下が特に問題となっており、その問題を効果的に改善することができる点で、射出成型が特に好ましい。
【0028】
前記成型体の形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記成型体は、生分解性に優れ、環境への負荷が小さく、前記ウエルド部分の強度に優れ、エンジニアリングプラスチックとしての特性を有することから、各種分野において好適に使用することができ、例えば、パーソナルコンピュータ(パソコン)の外装部品、筐体等、表面に配線が設けられた電気回路基板等をはじめとして各種電気製品、電子部品などとして好適に使用することができる。
【0029】
前記ポリ乳酸樹脂組成物は、電気・電子・OA分野等をはじめ、広範な分野での使用が可能であり、成分加勢であり、環境への負荷が小さく、得られる成型体が、前記ウエルド部分における強度に優れ、エンジニアリングプラスチックとしての特性を示すので、各種分野において好適に使用することができ、本発明の成型体、OA機器等に特に好適に使用することができる。
【0030】
(OA機器)
本発明のOA機器は、本発明の前記成型体を有してなること以外は、特に制限はなく、その形状、構造、大きさ等については適宜選択することができる。
前記OA機器の具体例としては、例えば、パソコンの外装部品、筐体等、配線基板、などが好適に挙げられる。
前記OA機器としては、樹脂で形成されている部分における前記成型体の占める割合が大きい程、廃棄等の面で好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
D体とL体と表1に示す割合で含有するポリ乳酸(三井化学社製、分子量:約20万)からなる9種のポリ乳酸樹脂組成物を、射出成型機を用いて、該射出成型機内で、180℃で溶融混練した後、40℃の金型に射出し、1分間保持し、冷却した後、該金型から試験片としての成型体(No.1〜9)を取り出した。
得られた試験片としての成型体(No.1〜9)につき、前記ウエルド部分と、ウエルド以外の部分に対し、アイゾット衝撃試験(JIS−K6911試験法)及び曲げ試験(JIS−K7171試験法)を行い、強度を評価した。結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果から明らかなように、前記D体の含有量が5質量%未満である成型体No.1(比較例)の場合、及び、前記D体の含有量が95質量%超である成型体No.9(比較例)の場合では、前記ウエルド以外の部分に比し、前記ウエルド部分の強度が大幅に低下していた(前記ウエルド部分の強度が、該ウエルド以外の部分の強度に対して1/2〜1/3程度も低下していた)。
【0035】
前記D体の含有量が30質量%超でありかつ70質量%未満である成型体No.5(比較例)の場合には、前記ウエルド部分の強度は高いものの、成型体が30℃程度で大幅に軟化してしまい、使用不可であった。
また、表1には示さなかったが、前記D体の含有量が65質量%であり、かつ前記L体の含有量が35質量%であるポリ乳酸からなるポリ乳酸樹脂組成物を用い、上記成型体No.1〜9と同様にして得た成型体No.10(比較例)、及び、前記D体の含有量が35質量%であり、かつ前記L体の含有量が75質量%であるポリ乳酸からなるポリ乳酸樹脂組成物を用い、上記成型体No.1〜9と同様にして得た成型体No.11(比較例)についても、成型体No.5(比較例)の場合と略同様の結果であり、成型体が40℃程度で大幅に軟化してしまい、使用不可であった。
【0036】
一方、前記D体及び前記L体の含有量が本発明において規定した範囲内である成型体No.2〜4及び6〜8(実施例)では、前記ウエルド部分の強度が、該ウエルド以外の部分の強度と大差なく、前記ウエルド部分の強度の低下が少なく、特に成型体No3(D体:L体=10:90の場合)、成型体No.4(D体:L体=25:75の場合)、成型体No.6(D体:L体=75:25の場合)、成型体No.7(D体:L体=90:10の場合)の各場合では、前記ウエルド部分の強度が、該ウエルド以外の部分の強度に対して僅か1割程度の低下であり、また、金型からの取り出しが容易であり、バリ等が外観上存在せず、エンジニアリングプラスチックとしての特性を示し、高品質であった。
【0037】
上述の9種のポリ乳酸樹脂組成物を射出成型する際における金型温度を60℃から80℃に変更した以外は、上述の通りにして試験片としての成型体(No.1〜9)を作製したところ、該成型体を前記金型から取り出すことができず、該金型から取り出した前記成型体は大きく変形してしまった。また、前記金型温度を80℃から70℃に変更した場合には、前記成型体を前記金型から取り出すことはできたものの、該成型体は剛性が十分でなく、柔らかいものであった。
【0038】
なお、上記成型体No.2、No.3、及びNo.4において、前記ポリ乳酸樹脂組成中に充填材としてガラスファイバー(長さ5μm、直径0.5μm)10質量%添加した以外は、上記成型体No.2〜4と同様にして成型体No.12、No.13、及びNo.14を得た。これらの成型体につき、上記成型体No.2〜4と同様の評価を行った。結果を表2に示した。
【0039】
【表2】

【0040】
表2の結果から明らかなように、ガラスファイバーを充填材として用いた成型体No.12、No.13、及びNo.14においては、前記ウエルド部分の強度が、それ以外の部分の強度よりも大幅に低下することはなく、これらに対応する成型体No.2、No.3、及びNo.4と同様の傾向の特性を示した。また、これらの成型体は、それぞれに対応し、該ガラスファイバーを含有していない成型体No.2、No.3、及びNo.4に比し、前記ウエルド部分及び該ウエルド以外の部分の強度が大幅に向上していた。
【0041】
ここで、本発明の好ましい態様を付記すると、以下の通りである。
(付記1) D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度60℃以下で成型してなることを特徴とする成型体。
(付記2) 成型が射出成型である付記1に記載の成型体。
(付記3) ポリ乳酸樹脂組成物の成型温度が200℃以下である付記1から2のいずれかに記載の成型体。
(付記4) 充填材を含有する付記1から3のいずれかに記載の成型体。
(付記5) 充填材が、繊維状充填材、板状充填材、及び粒状充填材から選択される少なくとも1種である付記4に記載の成型体。
(付記6) 充填材が、無機材料、植物性材料、及び動物性材料から選択される少なくとも1種である付記4から5のいずれかに記載の成型体。
(付記7) 充填材が、ガラス繊維、ガラスフレーク、セルロース繊維、キチン繊維、キトサン繊維、タルク、マイカ、カオリン、モンモリロナイト、ワラスナイト、ベントナイト、炭素繊維、シリカ、及び炭酸カルシウムから選択される少なくとも1種である付記4から6のいずれかに記載の成型体。
(付記8) 表面に配線が設けられ、電気回路基板として用いられる付記1から7のいずれかに記載の成型体。
(付記9) 筐体として用いられる付記1から8のいずれかに記載の成型体。
(付記10) D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度60℃以下で成型することを特徴とする成型体の製造方法。
(付記11) 成型が射出成型である付記10に記載の成型体の製造方法。
(付記12) 付記1から9のいずれかに記載の成型体を有してなることを特徴とするOA機器。
(付記13) D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有し、金型温度60℃以下で成型されることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
(付記14) 成型が射出成型である付記13に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、各種分野における成型材料等として好適に使用することができ、電気・電子・OA分野等の分野にも好適に使用することができ、例えば、パーソナルコンピュータ部品(例えば外装部品)等に好適に使用することができる。
本発明の成型体は、各種分野に好適に使用することができ、電気・電子・OA分野等の分野にも好適に使用することができ、例えば、パーソナルコンピュータ部品(例えば外装部品)等にも好適に使用することができる。
本発明の成型体の製造方法は、本発明の前記成型体の製造に好適に使用することができる。
本発明のOA機器は、パーソナルコンピュータ部品、例えば、外装部品、筐体、などとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度60℃以下で成型してなることを特徴とする成型体。
【請求項2】
成型が射出成型である請求項1に記載の成型体。
【請求項3】
D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度60℃以下で成型することを特徴とする成型体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から2のいずれかに記載の成型体を有してなることを特徴とするOA機器。
【請求項5】
D体の含有率が5〜30質量%であり、かつL体の含有率が70〜95質量%であるポリ乳酸、及び、D体の含有率が70〜95質量%であり、かつL体の含有率が5〜30質量%であるポリ乳酸の少なくともいずれかを含有し、金型温度60℃以下で成型されることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−1973(P2006−1973A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177035(P2004−177035)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】