説明

ポリ乳酸系樹脂組成物

【課題】
ポリ乳酸の融点以上の温度領域で耐熱性が良好なポリ乳酸アロイ組成物を提供する。
【解決手段】
ポリ乳酸(A)を50〜90重量%、ポリブチレンテレフタレート(B)を9.9〜49.9重量%、および多官能のイソシアネート化合物(C)0.1〜10重量%からなるポリ乳酸系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を主成分とするポリマーアロイ樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、ポリ乳酸の融点以上の温度においても優れた耐熱性を有するポリマーアロイ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の保護の観点に基づいて、枯渇性資源である石油を原料とするポリマーから、植物由来原料のポリマーへの転換が広く検討されている。植物由来ポリマーの代表的なものとして乳酸を繰り返し単位とするポリ乳酸があり、樹脂用途、フィルム用途、繊維用途などにおいて一部実用化されている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸は脂肪族ポリエステルであるため、融点が通常170℃程度と石油由来の汎用ポリマーに比較して大幅に劣っており、耐熱性が要求される分野においてはこの低融点が欠点となって大規模に使用される状況にはなっていない。そのため、耐熱性を向上させるための各種の検討が行われてきた。
例えば特許文献1では、芳香族ポリエステルであるポリブチレンテレフタレートをポリ乳酸にブレンドした組成物が開示されている。ポリブチレンテレフタレートの存在によって耐熱性や結晶化特性を向上させようとするものであるが、ポリブチレンテレフタレートとポリ乳酸とを単にブレンドしているだけであるため、それぞれの相溶性は良好ではなく、ポリマー成分の分散状態が粗大なものとなるため、機械的特性が劣る欠点があった。
【0004】
特許文献2においては、芳香族ポリエステルであるポリプロピレンテレフタレートをポリ乳酸にブレンドした組成物について開示されている。ポリプロピレンテレフタレートとポリ乳酸の相溶性が不良であるため、耐薬品性などの特性は良好になるものの、ポリマー成分の分散状態としては粗大なものとなる欠点があった。
【0005】
特許文献3においては、芳香族ポリエステルであるポリブチレンテレフタレートとポリ乳酸のブレンド物に対して、相溶化剤としてグリシジルメタクリレートを配合することを特徴とする技術が開示されている。グリシジルメタクリレートを配合することによりポリブチレンテレフタレートとポリ乳酸の相溶性が向上することが報告されているが、本技術はポリブチレンテレフタレートを主成分とする組成物であるため、得られた組成物はポリブチレンテレフタレートが連続相(海成分)を構成するものであった。そのため、成形物の外観、タッチ等はポリ乳酸由来のものではなく、芳香族ポリエステル由来のものであった。
【0006】
特許文献4においては、芳香族ポリエステルであるポリブチレンテレフタレートとポリ乳酸のブレンド物に対して、相溶化剤としてカルボジイミド化合物、多官能エポキシ化合物、各種の官能基を有するシリカ粒子などを用いる技術が開示されている。これらの相溶化剤を用いることによってポリブチレンテレフタレートとポリ乳酸の相溶性が向上することが報告されているが、得られた組成物は特許文献3と同じくポリブチレンテレフタレートが連続相(海成分)を構成するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−36818号公報
【特許文献2】特開2009−179783号公報
【特許文献3】特開2009−209226号公報
【特許文献4】特開2007−224290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、ポリ乳酸を主成分とする組成物でありながら、ポリ乳酸の融点以上の温度領域でも優れた耐熱性を示すポリマーアロイ組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定比率のポリ乳酸(A)とポリブチレンテレフタレート(B)を含有するポリマーに加えて多官能イソシアネート化合物を特定量配合することにより、ポリ乳酸を主成分とする組成物でありながら、ポリ乳酸の融点以上の温度領域でも優れた耐熱性を示すポリマーアロイ組成物を提供しうることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の課題は、ポリ乳酸(A)を50〜90重量%、ポリブチレンテレフタレート(B)を9.9〜49.9重量%、および多官能のイソシアネート化合物(C)0.1〜10重量%からなるポリ乳酸系樹脂組成物によって解決が可能である。
その際、多官能のイソシアネート化合物が化1に示すヘキサメチレンジイソシアネートから得られるイソシアヌレート型トリイソシアネート化合物であることが好適に採用可能である。また、ポリ乳酸が連続相を形成しており、ポリ乳酸の連続相中に存在するポリブチレンテレフタレートの分散径の平均値が10μm以下であることも好適に採用可能である。
【0011】
【化1】

【発明の効果】
【0012】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸の融点以上の温度においても熱流動を生じない良好な耐熱性を有している。そのため、一般の樹脂成形品としての利用はもちろん、繊維やフィルム等の耐熱性が要求される分野においても好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリ乳酸系組成物について詳細に説明する。
【0014】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)を50〜90重量%、ポリブチレンテレフタレート(B)を9.9〜49.9重量%、および多官能のイソシアネート化合物(C)0.1〜10重量%からなることを特徴とするものである。
【0015】
ポリ乳酸(A)として用いるポリ乳酸とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる繰り返し単位とするポリマーを意味している。L−乳酸を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸の場合には、その融点を低下させないためにL−乳酸が90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、98モル%以上であることが最も好ましい。L−乳酸が98モル%以上の場合にはポリ乳酸の融点は一般的に160〜170℃程度を示す。逆にD−乳酸を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸の場合には、その融点を低下させないためにD−乳酸が90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、98モル%以上であることが最も好ましい。ポリ乳酸の製造方法には、L−乳酸および/またはD−乳酸を原料として一旦環状二量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う二段階のラクチド法と、L−乳酸および/またはD−乳酸を原料として直接脱水縮合を行う直接重合法が知られている。本発明で用いるポリ乳酸はいずれの製法によって得られたものであってもよい。
また、ポリ乳酸の融点を向上させる技術として、ステレオコンプレックス結晶を形成させることによって耐熱性を向上させる技術が知られている。本発明においても、ステレオコンプレックス結晶を有するポリマーをポリ乳酸(A)として用いてもよい。具体的には、L−乳酸を主たる構成物とするポリL−乳酸とD−乳酸を主たる繰り返し単位とするポリD−乳酸の双方を配合することによって融点を向上させたポリ乳酸を用いてもよい。また、L−乳酸を主たる繰り返し単位とする部分と、D−乳酸を主たる繰り返し単位とする部分を同一のポリマー鎖に存在させたブロックコポリマーを配合することによって融点を向上させたポリ乳酸を用いてもよい。ステレオコンプレックス結晶を有するポリ乳酸は、一般的に融点は200〜220℃程度を示す。
【0016】
本発明のポリ乳酸(A)の分子量については特に制約はないが、得られる成形物の機械的特性を良好なものとする観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で5万以上であることが好ましい。機械的特性の観点から、好適な分子量範囲は10万〜30万であり、さらに好ましくは15万〜25万である。
【0017】
本発明のポリ乳酸(A)は発明の主旨の範囲内において共重合されてなるものであってもよい。共重合可能な成分であれば化合物に特定の制限は無いが、共重合に具体的に用いうる化合物としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸など分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。
本発明のポリ乳酸(A)は、耐加水分解性を向上させるためにカルボキシル基の一部または全部をカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物、ジオール化合物、アルコール化合物などによって封鎖されたものであってもよい。カルボキシル基の封鎖にはカルボン酸と反応性を有する化合物を用いることができる。
【0018】
この場合、ポリ乳酸の末端カルボキシル基濃度が0〜10eq/トンであると、熱水処理時の強力低下を抑制することができるので、湿熱条件における加工あるいは使用を行うことができる利点を有している。
【0019】
さらには、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料などとして無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。これらの添加量はポリ乳酸(A)に対して0.01重量%以上であれば効果の発現が明確となり、5重量%以下であれば成形品の機械的特性を損なうことがないために好ましい。特に耐摩耗性を向上させるために滑剤の添加を行うことは好適に採用でき、エチレンビスステアリン酸アミドのような脂肪族ビスアミド化合物などを好的に用いることができる。
【0020】
本発明において組成物の耐熱性を向上させるためには、ポリブチレンテレフタレート(B)を9.9〜49.9重量%用いることが重要である。良好な耐熱性の観点からはポリブチレンテレフタレート(B)が30重量%以上であることがより好ましい。ポリブチレンテレフタレートとしては、ブチレングリコール(1,4−ブタンジオール)とテレフタル酸を主たる繰り返し単位とする公知のポリブチレンテレフタレートを用いることができる。また、本発明のポリブチレンテレフタレート(B)は共重合体であってもよく、例えばジカルボン酸成分としてイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ナフタレンジカルボン酸やそれらの誘導体などを共重合成分として用いたもの、ジオール成分としてエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールやそれらの誘導体を共重合成分として用いたものであってもよい。
【0021】
ポリブチレンテレフタレート(B)の固有粘度は0.5〜1.4が好ましく、より好ましくは0.6〜1.2、さらに好ましくは0.7〜1.0である。固有粘度が0.5以上であればポリブチレンテレフタレートの機械的特性が良好であるため好ましい。また1.4以下であればポリ乳酸成分(A)との相溶性が良好となるため好ましい。ここで固有粘度とは、オルソクロロフェノール溶液を用いて25℃で測定したときの固有粘度をいう。
【0022】
ポリブチレンテレフタレート(B)の溶融粘度はポリ乳酸中への均一分散を可能とするために、230℃、荷重5.0kgの条件で測定したポリマーの熱流動性(MFR)が20〜40g/10分であることが好ましい。20g/分以上であればPLAの溶融粘度と比較して極端に高すぎることによる均一分散の阻害が無いために好ましい。溶融粘度はなるべく低いことが好ましく、すなわちMFRはなるべく高いことが好ましく、より好ましくは24g/10分以上、最も好ましくは28g/10分以上であることがよい。
【0023】
ポリ乳酸とポリブチレンテレフタレートを単純にブレンドした組成物は、相互のポリマーの相溶性の不良などによって微分散が達成されないため、ポリ乳酸の融点以上、例えばポリL―乳酸の場合に170℃より高い温度とした場合には、過半を占めるポリ乳酸部分が熱流動してしまうことによって組成物全体も熱流動してしまい、良好な耐熱性は得られない。そのため、本発明の組成物は多官能イソシアネート化合物(C)を0.1〜10重量%配合されてなるものであることが重要である。
【0024】
多官能のイソシアネート化合物としては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、あるいはこれらイソシアネートの一部をビウレット、アロファネート、カルボジイミド、オキサゾリドン、アミド、イミド等に変性したものが好適な例として挙げられる。また、イソシアヌレート環骨格を有する多官能イソシアネートも好適に用いうる化合物であり、例えば、化1に示すヘキサメチレンジイソシアネートから得られるイソシアヌレート型トリイソシアネート化合物は好適に用いられる化合物の例である。このイソシアヌレート型トリイソシアネート化合物はイソシアネート基を3個有しており、骨格構造においてもイソシアヌレートの極性の高い構造を有しているため、ポリ乳酸(A)およびポリブチレンテレフタレート(B)との反応性、相溶性がともに良好であるという利点を有している。
【0025】
イソシアネート化合物としては多官能であることが重要であり、単官能のイソシアネート化合物ではポリ乳酸(A)とポリブチレンテレフタレート(B)との相溶性を高める効果が不十分となる傾向がある。また、イソシアネート基を表面に有するシリカ粒子などではその構造サイズが大きすぎるため分子オーダーでの相溶性を高める効果が十分に発揮できない場合がある。
【0026】
【化1】

【0027】
これらの多官能イソシアネート化合物(C)を単独もしくは2種以上を組みあわせて配合してなる組成物は、ポリ乳酸(A)とポリブチレンテレフタレート(B)のみを配合してなる組成物と比較して、ブレンド状態の均一性が格段に良好となり、その結果、使用するポリ乳酸(A)の融点以上の温度領域においても熱流動しないという良好な耐熱性を示す組成物が得られることとなる。
【0028】
本発明のポリ乳酸系組成物は、ポリ乳酸が全体の重量の50重量%以上を占める組成物であり、ポリ乳酸(A)が連続相を形成してなるものである。一方、ポリブチレンテレフタレート(B)は、ポリ乳酸(A)の連続相中に存在するものであるが、そのポリブチレンテレフタレートの分散径は十分に小さいことが機械的特性の維持の観点から好ましい。本発明においてポリブチレンテレフタレートは、組成物の中で構造を維持する役割を担っており、ポリ乳酸のみからなる組成物の場合には加熱によってポリ乳酸の融点以上ではすみやかに熱流動が生じてしまうのに対して、ポリブチレンテレフタレートが適正な形態にて組成物中に存在する場合、ポリ乳酸の融点以上の温度領域においても全体が流動しない材料となるという効果を発現することができる。その際、ポリブチレンテレフタレートとポリ乳酸の界面において適切な相互作用が存在していることがよく、そのために好ましい分散径が存在している。具体的にはポリブチレンテレフタレートの分散径の平均値が10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが最も好ましい。ここで分散径の平均値とは、実施例に記載の方法にて走査型電子顕微鏡観察によって撮影した電子顕微鏡写真から任意に10個の分散相を選択し、それらの外接円の直径の平均値を算出して得た数値とする。
【0029】
本発明の組成物は、溶融成形が可能であり、樹脂やフィルム、繊維のような成形品へと成形することができる。具体的には、ポリ乳酸(A)、ポリブチレンテレフタレート(B)、多官能イソシアネート(C)を任意の順番であるいは同時にエクストルーダー、ニーダー等の加熱混練が可能な装置によって混練し、一旦ペレット化するか、ペレット化することなく、公知の射出成形、押出成形、溶融製膜、溶融紡糸に供することによって成形品を製造することができる。
【0030】
例えば、ポリ乳酸(A)、ポリブチレンテレフタレート(B)、多官能イソシアネート(C)を、2軸エクストルーダーを用いて、混練温度225〜250℃、混練速度(スクリュー回転数)30〜100rpm、混練時間(滞留時間)1〜10分などの条件にて混練し、その後吐出したストランドを水槽を通して冷却した後、カットしてペレットとする方法を採用することができる。あるいは、インターナルミキサー(ニーダー)を用いて、混練温度225〜250℃、混練速度(ブレード回転数)30〜100rpm、混練時間1〜10分などの条件にて混練し、その後粉砕および/またはエクストルーダーを用いたペレタイズによってペレットを得る方法を採用することもできる。
【0031】
本発明の組成物を成形してなる成形物は、良好な耐熱性を有するものとなる。回転型レオメーターによって測定温度200℃にて動的粘弾性の周波数依存性を測定した場合の、貯蔵弾性率保持率、すなわち、せん断速度が1(1/sec)のときの貯蔵弾性率G’の対数と、せん断速度が100(1/sec)の時の貯蔵弾性率G’100の対数の差が2以下であることが好ましい。
log[G’100]−log[G’] ≦ 2 ・・・ 式2
ポリ乳酸(A)とポリブチレンテレフタレート(B)のみを配合した単なる2成分のポリマーアロイの場合には、式2の左辺は4程度の数値となる(すなわち数値が4桁変化する)。本発明のイソシアネート化合物(C)を含んでなる組成物は成形物の耐熱性が良好となるが、この場合上式2の左辺は2以下(すなわち数値の変化は2桁以内)となることが好ましく、1以下(すなわち数値の変化が1桁以内)となることが最も好ましい態様である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0033】
A.ポリ乳酸の分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(Waters社製、Waters2690)を用い、測定溶媒テトラヒドロフラン、測定温度25℃の条件で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0034】
B.ポリブチレンテレフタレートの固有粘度(η)
溶媒としてオルソクロロフェノールを用いて、測定温度25℃の条件でウベローデ型粘度計を使用して粘度測定を行い、固有粘度(η)を求めた。
【0035】
C.ポリマーの熱流動性(MFR)
サンプル量6g、測定温度230℃、荷重5.0kgの条件で、メルトインデクサー(東洋精機社製、F−F01)を用いて測定を行い、MFR(g/10分)を求めた。
【0036】
D.ポリブチレンテレフタレートの平均分散径
ポリブチレンテレフタレートの平均分散径を測定するための試料として、厚み1mmの圧縮成形片を作成し、これを液体窒素中で破断させた破断面を白金パラジウムで蒸着したものを用いた。この試料を走査電子顕微鏡(日立社製、S−4100)を用いて、電子顕微鏡写真を得て、任意の10個の分散相を選択してその外接円の直径を求め、平均値を算出して得た数値を平均分散径(μm)とした。
【0037】
E.貯蔵弾性率保持率
溶融粘弾性を測定するための試料として厚み1mmの圧縮成形片を作成し、これを切断して0.5gとしたものを用いた。回転型レオメータ(UBM社製、MR500)を用いて、動的粘弾性の周波数依存性を測定した。測定は窒素雰囲気下で行い、高周波数側から順次ひずみを与えた。測定温度は200℃とし、コーン径24.98mm、コーン角5.74°の円錐−円板を用いて測定を行い、各周波数における貯蔵弾性率(G’)を得た。せん断速度が1(1/sec)の時のG’の値を
G’とし、せん断速度が100(1/sec)の時のG’の値をG’100とし、log[G’100]−log[G’]で計算される値を貯蔵弾性率保持率とした。
【0038】
F.耐熱性
耐熱性を測定するための試料として厚み1mmの圧縮成形片を作成し、これを2mm×2mm角に切断したものを用いた。測定は熱力学測定装置(ブルーカーエイエックスエス社製TMA4000SA)を用いて、恒温槽の温度を200℃とし、直径8mmの二つの円板の間に前述した試料を置き、無荷重で円板間隙(試験片の厚みに対応)を測定し、L0とした。円板間に0.2MPaの圧縮荷重をかけて5分間経過後の円板間隙(試験片の厚みに対応)を測定し、L1とした。耐熱性の評価について{(L0−L1)÷L0}で表わされる真ひずみεが0.4以下の場合に○、0.8以下の場合に△、0.8を超える場合には×とした。なお、△以上を合格とした。
【0039】
製造例1
L−ラクチド100重量部、エチレングリコール0.2重量部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、170℃で均一に溶解させた後、オクチル酸錫0.03重量部を加えた後、4時間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去し、重量平均分子量19万、L体比率(98.5重量%)のポリL乳酸(PLA−1)を得た。同様に反応温度160℃、反応時間4時間の条件で重合を行い、重量平均分子量15万、L体比率(97.9重量%)のポリL乳酸を得た(PLA−2)。
製造例2
D−ラクチド100重量部、エチレングリコール0.2重量部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、170℃で均一に溶解させた後、オクチル酸錫0.03重量部を加えた後、4時間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去し、重量平均分子量18万、D体比率(98.3重量%)のポリD乳酸を得た。水分率が100ppm以下となるように乾燥したポリD乳酸50重量部、同じく水分率100ppm以下となるように乾燥した製造例1のポリL乳酸(PLA−1)を50重量部、滑剤としてエチレンビスステアロアミドを1重量部を準備し、日本製鋼所製二軸エクストルーダー(TEX−30α)にて混練温度230℃の条件で混練、吐出されたストランドを水浴で冷却してカットし、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を得た(PLA−3)。
【0040】
製造例3
東レ株式会社製ポリブチレンテレフタレート(トレコン1100S)を、含水率0.2%となるように調湿し、日本製鋼所製二軸エクストルーダー(TEX−30α)にて混練温度230℃の条件で混練、吐出されたストランドを水浴で冷却してカットし、ペレット状にした。得られたペレットは固有粘度0.82、MFR29.2(g/10分)であり、本ポリマーをPBT−1とする。同様にして東レ株式会社製ポリブチレンテレフタレート(トレコン1200S)を、含水率0.3%となるように調湿し、日本製鋼所製二軸エクストルーダー(TEX−30α)にて混練温度250℃の条件で混練、吐出されたストランドを水浴で冷却してカットし、ペレット状にした。得られたペレットは固有粘度0.95、MFR10.1(g/10分)であり、本ポリマーをPBT−2とする。
【0041】
実施例1
あらかじめ真空乾燥機にて80℃で4時間乾燥したPLA−1、PBT−1、および化1に記載の多官能イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業株式会社製コロネートHX、本化合物をNCO−1とする)を表1に記載の配合割合にて、内容積60ccのインターナルミキサー(東洋精機製作所製、ラボプラストミル)に合計70g投入し、溶融混練を実施した。設定温度は240℃、混練時間は5分、ブレード回転数は80rpmとした。得られた組成物を圧縮成形機を用いて、加熱温度240℃で、予熱1分(2MPa)、次いで加圧2分(10MPa)の条件にて厚み約1mmの平板状に成形した。
【0042】
【化1】

【0043】
得られた平板状の成形品を試料として、ポリブチレンテレフタレートの分散径の観察を行ったところ、1.8μmと十分に小さな値であり均一な分散が達成されていることが分かった。また、貯蔵弾性率の評価を行ったところ、G’100が251200であり、G’が97700であって、貯蔵弾性率保持率log[G’100]−log[G’]は0.41と、貯蔵弾性率の保持率が良好であることが分かった。また、耐熱性について評価を行ったところ真ひずみは0.38と良好(○)であった。真ひずみが0.38であるということは200℃において荷重をかけた場合にも全体が流動してしまわない良好な耐熱性を有する材料となったことを意味している。成形品の外観は良好な光沢を示しており、滑らかな表面を有するものであった。
【0044】
実施例2〜6
ポリマー組成および混練条件を表1に記載の条件とするほかは、実施例1と同様にポリマー組成物を製造して、厚み約1mmの平板状に成形した。実施例4,5,6ではポリ乳酸としてPLA−2を、実施例3,6ではポリブチレンテレフタレートとしてPBT−2を、実施例6におけるイソシアネート化合物はヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製HDI、本化合物をNCO−2とする)を用いた。得られた成形物の評価を実施したところ、ポリブチレンテレフタレートの分散径、貯蔵弾性率の保持率、耐熱性の全てに良好な値を示すことがわかった。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例7〜8
ポリ乳酸としてPLA−1を、ポリブチレンテレフタレートとしてPBT−2を、多価イソシアネートとしてNCO−2を、表2に記載の重量%配合する他は実施例1と同様にして混練を行い、得られた組成物を用いて実施例1と同様にして圧縮成形を行った。
実施例7ではPLA−1が50.0重量%、PBT−2が49.0重量%とPLAの含有率が相対的に小さく、PBTの含有率が相対的に大きいため、耐熱性は良好であったが得られた成形物の外観は光沢がやや不良であった。逆に実施例8ではPLA−1が88.0重量%、PBT−2が11.0重量%と、PLAの含有率が相対的に大きく、PBTの含有率が相対的に小さいため、成形物の概観には特に問題がなかったが、耐熱性がやや劣っており、貯蔵弾性率保持率も2.2とやや大きな値であった。
実施例9〜12
ポリ乳酸としてPLA−3を、ポリブチレンテレフタレート、多官能イソシアネート化合物については表2に示す条件で用い、混練条件を250℃、10分間とする他は、実施例1と同様にして混練を行い、得られた組成物を用いて実施例1と同様にして圧縮成形を行った。
実施例9〜12ではポリ乳酸がステレオコンプレックスを構成することによって、組成物の耐熱性もそれぞれ表2に示すとおり非常に良好であった。
【0047】
【表2】

【0048】
比較例1
多価イソシアネート化合物を用いることなく、ポリ乳酸としてPLA−1を60.0重量%、ポリブチレンテレフタレートを40.0重量%用いる他は実施例1と同様にして混練を行い、組成物を得た。得られた組成物を実施例1と同様にして圧縮成形を行い、得られた成形物を用いてポリブチレンテレフタレートの分散径の評価を行ったところ、6.3μmと粗大なものであり、PLA−1とPBT−1の相互作用は不十分なものであることが分かった。貯蔵弾性率G’100が158500であり、G’が141.3であって、貯蔵弾性率保持率log[G’100]−log[G’]は3.3と、貯蔵弾性率は3桁以上変化しており、PLA層がほぼ流動してしまうことが分かった。また、耐熱性について評価を行ったところ真ひずみは0.9と非常に大きな値であり、ほぼ全体が熱流動により変形してしまったことが分かった。成形物の外観は表面にざらつきがあるため不均一であり不良のものであった。
【0049】
比較例2
ポリ乳酸としてPLA−1を40.0重量%、ポリブチレンテレフタレートとしてPBT−1を59.0重量%、多価イソシアネートとしてNCO−1を1.0重量%配合する他は実施例1と同様にして混練を行い、得られた組成物を用いて実施例1と同様にして圧縮成形を行った。
得られた成形物はポリブチレンテレフタレートが海成分を形成しており、組成物の耐熱性は良好であったが成形物の外観は光沢を示さないものであり、もはやポリ乳酸系樹脂組成物とはいえないものであった。
【0050】
比較例3
ポリ乳酸としてPLA−1を50.0重量%、PBT−1を35.0重量%、NCO−1を15.0重量%配合し、混練時間を15分間とする他は実施例1と同様にして混練を行った。混練後に得られた組成物はイソシアネートの反応によると思われる架橋が進んでしまい粉末状態となっていた。
得られた粉末状の組成物を用いて実施例1と同様にして圧縮成形を行ったが、溶融成形性が失われており、評価可能な均一な成形物は得られないことが分かった。
比較例4
イソシアネート化合物として多官能のものではなく単官能のフェニルイソシアネート(NCO−3)を用いる他は実施例1と同様にして混練を行った。混練後に得られた組成物を用いて実施例1と同様に圧縮成形を行った。得られた成形物は、イソシアネート化合物の添加があるにもかかわらず、ポリブチレンテレフタレートの分散径が5.9μmと粗大であり相溶性が劣っていることが分かった。また、貯蔵弾性率保持率の値が2.7と高く、すなわち加熱により変形しやすい構造となっており、真ひずみが0.86と耐熱性も不良であった。成形物の外観は表面にざらつきがあるため不均一であり不良のものであった。
【0051】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸を主成分とする組成物でありながら、ポリ乳酸の融点以上の温度領域でも優れた耐熱性を示すため、樹脂やフィルム、繊維のような成形品として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)を50〜90重量%、ポリブチレンテレフタレート(B)を9.9〜49.9重量%と、多官能のイソシアネート化合物(C)0.1〜10重量%を配合してなることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
多官能のイソシアネート化合物が化1に示すヘキサメチレンジイソシアネートから得られるイソシアヌレート型トリイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【化1】

【請求項3】
ポリ乳酸が連続相を形成しており、ポリ乳酸の連続相中に存在するポリブチレンテレフタレートの分散径の平均値が10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2項に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−201997(P2011−201997A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69820(P2010−69820)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】