説明

ポリ乳酸繊維

【課題】耐摩耗性に優れたポリ乳酸繊維であって、耐摩耗性向上効果の持続性に優れ、紡糸、延伸工程のみならず、各種の加工工程及び製編織工程においても工程通過性に優れ、操業性よく得ることができるポリ乳酸繊維を提供することを技術的な課題とする。
【解決手段】シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸を少なくとも一成分とする繊維であって、繊維質量に対してシリコーンパウダーを0.1〜10質量%含有することを特徴とするポリ乳酸繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸を少なくとも一成分とする繊維であって、耐摩耗性や強伸度特性ともに優れたポリ乳酸繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリ乳酸繊維の開発において、一般衣料用途をはじめとして、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途等の様々な用途へ展開されている。中でも生分解性が必要とされる農業資材や土木資材といった産業資材用途への展開が最も期待されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸繊維は表面摩擦係数が高いために、耐摩耗性が悪いという欠点があり、産業資材用途の中でも耐摩耗性や耐屈曲摩耗性、耐擦過性、摺動性が要求される用途や分野への展開が進んでいなかった。例えば、建設現場で使用される安全ネットや河川、港湾等の埋め立て護岸工事の際に中に石等を詰めて使用されるボトムフィルターのようなネット状袋材といった製網加工を施す用途においては、編組織が複雑であるため、製網加工工程で編地にかかる負荷や摩擦は一直線状のものだけでなく多方向からもかかるものとなる。このため、加工工程において毛羽立ちや断糸、白化等が生じるという欠点があった。この問題を解消するためには、加工速度を低下させることが必要となり、操業性が悪くなるという問題があった。
【0004】
また、これら繊維製品の使用時には、製品の内部においては中に詰めた石が流動することによって生じる摩擦や衝撃を受け、製品の外部においては流石や流木等による摩擦や衝撃を受ける。このため、製品の内部と外部に繰り返しかかる多方向からの負荷によって毛羽が発生したり、繊維が擦り切れる等、耐久性にも問題があった。
【0005】
さらに、ポリ乳酸繊維の表面摩擦係数が高いことによる影響は、上記のような繊維製品にした際の耐久性の問題や加工時の問題だけに留まらず、繊維を製造する際にも問題が生じている。
【0006】
例えば、溶融紡糸時には、通常、糸条が1000〜7000m/分という高速で走行するため、糸とガイド類の摩擦が大きくなることにより毛羽や糸切れが発生しやすい。また、延伸工程では、糸がガイド類やローラに巻き付いて糸切れが発生しやすくなる。さらに、捲縮加工工程、特に仮撚工程では、糸とツイスターの間の摩擦力が過大となるため、糸切れが頻発し、実質的に加工困難となることもある。加えて、製織、製編の際には、糸と金属との摩擦だけでなく、糸と糸との摩擦により、毛羽の発生が著しく、工程通過性および布帛の品位が大きく低下するという問題があった。
【0007】
特許文献1には、耐摩耗性や工程通過性を向上させたポリ乳酸繊維として、脂肪酸ビスアミド及び/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5.0質量%含有したポリ乳酸が記載されている。そして、溶融紡糸した繊維に、脂肪酸エステル、多加アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油から選ばれる平滑剤を少なくとも1種類含有する紡糸油剤を付与する製造方法が記載されている。
【0008】
しかしながら、このポリ乳酸繊維においても、摩擦抵抗を十分に低下させることができず、延伸時に多量の毛羽が発生し、紡糸、加工工程における工程通過性、製品品位の低下を抑制することができなかった。
【0009】
また、特許文献2には、製糸から製編織工程までの工程安定性に優れた生分解性ポリエステル繊維として、特定の機能付与剤を0.1〜30重量%含有し、潤滑剤及び界面活性剤を合計で70質量%以上含有し、かつ油性指数が0.04〜0.35の範囲内にある油剤を繊維表面に付与したポリエステル繊維が記載されている。特許文献3には、繊維表面に、ポリオルガノシロキサンおよび/または鉱物油を50〜98重量%、ポリエーテル変性ポリオルガノシロキサンおよび/またはアミノ変性ポリオルガノシロキサンを1〜10重量%、炭素数8〜18のアルコールにエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを0〜10モル付加した化合物の部分リン酸エステル塩を1〜10重量%含有する油剤を付与することにより、摩擦係数を下げた生分解性のポリエステル繊維が記載されている。
【0010】
しかしながら、これらの繊維はいずれも耐摩耗性を向上させるため、繊維表面に特定の油剤を付与したものであるため、油剤の脱落により耐摩耗性の効果が減少するという問題があった。また、延伸時等に高温で熱処理した際にローラ上等で発煙が生じることがあり、作業環境を著しく低下させるという問題もあった。
【0011】
また、ポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性を向上させるものとして、金属粒子をポリエステル中に添加させたものが記載されている(特許文献4)。しかしながら、このようなモノフィラメントでは、耐摩耗性はある程度改善されるものの、紡糸、延伸時や加工時にローラ表面等の接触部分が摩耗するといった問題点があった。また、マルチフィラメントのような単糸繊度の細いものは、ノズルパックの昇圧や金属粒子の分散等の問題により製造が困難であった。
【特許文献1】特開平2004−091968
【特許文献2】特開2003−138485
【特許文献3】特開2005−200793
【特許文献4】特開平3−76813
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題点を解決し、耐摩耗性に優れたポリ乳酸繊維であって、耐摩耗性向上効果の持続性に優れ、紡糸、延伸工程のみならず、各種の加工工程及び製編織工程においても工程通過性に優れ、操業性よく得ることができるポリ乳酸繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸を少なくとも一成分とする繊維であって、繊維質量に対してシリコーンパウダーを0.1〜10質量%含有することを特徴とするポリ乳酸繊維を要旨とするものである。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸繊維は、シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸を少なくとも一成分とする繊維であって、シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸のみからなる単一成分型のものであっても、シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸と他の成分とからなる複合型の繊維(複合繊維)であってもよい。
【0016】
シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸としては、ポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体や、L−乳酸とD−乳酸の混合物(ステレオコンプレックス)が挙げられる。
【0017】
ヒドロキシカルボン酸を共重合する場合のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、ヒドロキシカプロン酸またはグリコール酸が微生物分解性能および低コストの点から好ましい。
【0018】
いずれの重合体においても、ポリ乳酸としては、ポリ乳酸中のL−乳酸の含有割合(共重合割合や混合割合)が85.0〜99.5モル%のものとすることが好ましい。L−乳酸の比率は、耐熱性に影響する要因であるため、L−乳酸の含有割合がこの範囲より低いと、融点が低く、耐熱性の劣った繊維となり、製糸性も悪化し、熱延伸がし難くなる。また、L−乳酸の含有割合がこの範囲より高いと、結晶化温度が高くなるため分解速度が低くなり、生分解性に劣った繊維となる。
【0019】
ポリ乳酸の製造方法には、L−乳酸及び/またはD−乳酸を原料として、一旦環状二量体であるラクチドを生成させ、その後開環重合を行う二段階のラクチド法と、L−乳酸及び/またはD−乳酸を原料として溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法が知られているが、本発明で用いられるポリ乳酸は、いずれの製法によって得られたポリ乳酸であってもよい。
【0020】
また、強度等の諸特性を良好にするために、ポリ乳酸の数平均分子量は高いほど好ましく、5万以上であることが好ましく、中でも10万以上、さらには20万以上であることが好ましい。数平均分子量が5万未満である場合には、繊維の強伸度特性が低下するため好ましくない。一方、数平均分子量が30万を超えると、ポリ乳酸特有の生分解性能を損なうため好ましくない。
【0021】
ポリ乳酸中に含有されるシリコーンパウダーは、形状が球状であることが好ましく、中でも真球状であることが好ましい。
【0022】
そして、シリコーンパウダーの粒径としては、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、中でも2μm以下であることが好ましい。平均粒子径が5μmを超えると、ポリ乳酸中に含有させて紡糸する際に濾材における目塞がりや糸切れ等による紡糸操業性の低下等の問題が生じ、また延伸工程でも糸切れ発生の要因となりやすい。
【0023】
シリコーンパウダーは、一般式(RSiO3/2)n〔但し、Rは一価の有機基であり、nは1000以上の整数である。〕で表される三次元網目構造を有するシルセスキオキサンからなる球状シリコーン樹脂微粒子、又は、ビニル基含有ポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンとのヒドロシリル化反応により得られる球状シリコーンゴム微粒子であることが好ましい。
【0024】
前記一般式中の一価の有機基Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、3,3,3−トリフルオロブロピル基、γ一メルカプトプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メタアクリロキシプロピル基等が例示されるが、滑り性等の特性付与の観点から、全R中の50モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0025】
そして、本発明のポリ乳酸繊維は、繊維質量に対してシリコーンパウダーを0.1〜10質量%含有するものであり、中でも0.5〜5.0質量%含有させることが好ましい。シリコーンパウダーの含有量が0.1質量%未満であると耐摩耗性向上効果が不十分となり、一方、10質量%を超えるとポリ乳酸の流動性が低下し、紡糸、延伸、巻き取り時の操業性が悪化するとともに、強伸度等の機械的特性も劣るものとなる。
【0026】
シリコーンパウダーは重合から紡糸工程までの任意の段階でポリ乳酸に添加、混合することが可能であり、予めポリ乳酸中にシリコーンパウダーを高濃度に含有するマスターチップを製造しておき、これを紡糸時にポリ乳酸に添加、混合してもよい。
【0027】
また、本発明のポリ乳酸繊維が複合繊維である場合、シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸とともに用いる他の成分は、熱可塑性樹脂であれば特に限定するものではないが、シリコーンパウダーを含有しないポリ乳酸やポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル、ポリアミド等を用いることができる。
【0028】
ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルとしては、共重合成分としてイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸のようなジカルボン酸成分、さらに1,6-ヘキサジオール、シクロヘキサンジメタノールのようなジオール成分を含んでいてもよい。
【0029】
本発明のポリ乳酸繊維は、複数本の単糸からなるマルチフィラメントとしても、単糸1本からなるモノフィラメントとしてもよい。そして、単糸の断面形状は丸形、多角形や多葉形等の異形のものであっても、中空部を有するものであってもよい。また、本発明のポリ乳酸繊維(単糸)が複合繊維である場合の断面形状としては、芯鞘型や貼り合わせ型、並列型、分割型、多層型、放射状型、海島型等が挙げられるが、いずれの形状においてもシリコーンパウダーを含有するポリ乳酸が繊維表面に露出する形状とすることが好ましい。
【0030】
また、複合繊維とする場合、シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸の割合は、繊維質量中の10質量%以上とすることが好ましい。10質量%未満であると、十分な耐摩耗性の向上効果が得られなくなる。
【0031】
本発明のポリ乳酸繊維をマルチフィラメントとする場合、単糸繊度は1〜200dtexであることが好ましく、総繊度は36〜5000dtex、中でも36〜1500dtexとすることが好ましい。モノフィラメントの場合は繊度を150〜5000dtexとすることが好ましい。
さらに、本発明のポリ乳酸繊維は、長繊維としても短繊維として用いてもよい。
【0032】
本発明のポリ乳酸繊維中には、その効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、例えば熱安定剤、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、微粉体、難燃剤等の各種添加剤や結節強度を高める脂肪酸アミド類、例えばメタキシリレンビスステアリルアミド、メタキシリレンビスオレイルアミド、キシレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリン酸アミド等を添加することができる。
【0033】
次に、本発明のポリ乳酸繊維(マルチフィラメント、長繊維)の製造方法について説明する。シリコーンパウダーを予め高濃度に含有するポリ乳酸チップを製造しておき、これとポリ乳酸チップを紡糸時に混合するか、又はシリコーンパウダーとポリ乳酸チップを紡糸時に混合し、これらを用いて溶融紡糸を行う。複合繊維とする場合には、通常の複合紡糸装置を用いて他の成分を用いて溶融紡糸を行う。溶融紡糸した後、糸条を冷却し、油剤を付与し、一旦未延伸糸として巻き取った後、又は一旦捲き取ることなく引き続いて延伸を施す。このとき、延伸倍率4〜8倍とし、ローラ間で加熱ローラを用いて、130〜145℃で熱延伸を行い、巻き取る。
【発明の効果】
【0034】
本発明のポリ乳酸繊維は、シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸を少なくとも一部に用いるものであるため、耐摩耗性に優れ、かつ耐摩耗性向上効果の持続性に優れており、紡糸、延伸工程において糸切れの発生なく操業性よく得ることが可能となる。また、本発明のポリ乳酸繊維は各種の加工工程及び製編織工程においても工程通過性に優れているため、衣料用途や産業資材、土木用途等様々な分野において好適に使用することができる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の値の測定及び評価は以下のように行った。
(1)引張強度(cN/dtex)、伸度(%)
島津製作所社製オートグラフ AG−1型を用い、試料長25cm、引張速度300mm/min、初荷重を繊度の1/20gとして測定した。
(2)耐屈曲摩耗性(回)
得られたマルチフィラメントに100gの荷重をかけ、1600番のサンドペーパーを巻きつけた直径20mmの丸断面金属棒に、90度の角度で接触させ、トラバース速度6.7mm/min、ストローク速度35回/minの速度条件で往復摩擦させ、マルチフィラメントが破断に至るまでの回数を測定した。(3000回以上で合格とした)
(3)撚糸強力(N)、伸度(%)
得られたマルチフィラメント9本を、共立機械製作所製リング撚糸機 ST-30型を用い、スピンドル回転数4000rpm、300T/Mで合撚(下撚り)して撚糸を得る。この撚糸を島津製作所(株)製オートグラフAG−1型を用い、試料長25cm、引張速度300mm/min、初荷重を繊度の1/20gとして測定した。
(4)撚糸耐屈曲摩耗性(回)
(3)で作製した撚糸をベルト摩耗試験機にて、測定条件JIS D4604「自動車部品シートベルト」の耐摩耗性試験に準じ、荷重200g、ストローク長330±30mm、1600番のサンドペーパーを巻きつけた六角棒(角の半径0.5±0.1mm、二面幅は6.35±0.03mm)に85±2度の角度で接触させ、ストローク速度30±1回/minの速度条件で往復摩擦させ、撚糸が破断に至るまでの回数を測定した。(100回以上で合格とした)
(5)操業性
2錘で24時間連続して紡糸、延伸、巻き取りを行い、紡糸時の糸切れ回数で操業性を以下のように3段階で評価した。
糸切れ回数 0〜5回 ○
糸切れ回数 5〜9回 △
糸切れ回数 10回以上 ×
【0036】
実施例1
ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比である質量比(モル% L−乳酸/D−乳酸)が98.5/1.5、数平均分子量85000のものを用いた。このポリ乳酸に平均粒子径が2μmの球状のシリコーンパウダー(信越化学工業社製 KMP−590)を20質量%含有させてマスターチップを得た。
次に、シリコーンパウダーが繊維質量に対して2.0質量%となるようにマスターチップとポリ乳酸をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融混練した。紡糸口金(面径230mm、孔径0.35mm、孔数140)より、紡糸温度225℃で溶融紡糸した後、糸条を冷却し、油剤を付与した。続いて一旦捲き取ることなく、135〜145℃に加熱した熱ローラ間で延伸倍率6.62倍で熱延伸を施し、2300m/minで捲き取り、総繊度1100dtex、140フィラメントのマルチフィラメントを得た。
【0037】
実施例2〜5、比較例1〜3
シリコーンパウダーの繊維中の含有量及び延伸倍率を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様にして1100dtex、140フィラメントのマルチフィラメントを得た。
【0038】
実施例6
ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比である質量比(モル% L−乳酸/D−乳酸)が98.5/1.5、数平均分子量85000のものを芯成分とし、鞘成分として、実施例1で用いたシリコンパウダー含有のポリ乳酸(マスターチップとポリ乳酸)を用いた。
シリコーンパウダーの含有量が繊維質量に対して1.0質量%となるように添加して、芯鞘質量比(芯/鞘)50/50となるようにして、エクストルーダー型複合溶融紡糸機を用いて複合繊維を紡糸し、延伸倍率を6.42倍として熱延伸を行った以外は、実施例1と同様にして、総繊度1100dtex、140フィラメントのマルチフィラメントを得た。
【0039】
実施例7〜8、比較例4〜5
鞘成分のマスターチップの添加量を調整することにより繊維中のシリコーンパウダーの含有量を表1に示す値に変更し、また延伸倍率を表1に示す値に変更した以外は、実施例6と同様にして1100dtex、140フィラメントのマルチフィラメントを得た。
【0040】
実施例1〜8、比較例1〜5で得られたマルチフィラメント及びマルチフィラメントから得られた撚糸の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜8で得られたマルチフィラメント及び撚糸は、耐摩耗性(耐屈曲摩耗性)に優れ、強度、伸度も良好なものであり、かつ操業性よく得ることができた。
【0043】
一方、比較例1のマルチフィラメントは、シリコーンパウダーを含有していなかったため、耐摩耗性に劣るものであった。比較例2、4のマルチフィラメントは、シリコーンパウダーの含有量が少なすぎたため、耐摩耗性に劣るものであった。比較例3、5のマルチフィラメントは、シリコーンパウダーの含有量が多すぎたため、操業性が著しく悪く、繊維を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンパウダーを含有するポリ乳酸を少なくとも一成分とする繊維であって、繊維質量に対してシリコーンパウダーを0.1〜10質量%含有することを特徴とするポリ乳酸繊維。


【公開番号】特開2008−25059(P2008−25059A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199435(P2006−199435)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】