説明

ポリ塩化ビフェニル除去用溶媒及び排ガス処理装置

【課題】ポリ塩化ビフェニルの除去効率を向上させ得るポリ塩化ビフェニル除去用溶媒と、処理効率に優れた排ガス処理装置との提供を課題としている。
【解決手段】ポリ塩化ビフェニルを含む汚染物から、前記ポリ塩化ビフェニルを除去すべく、前記汚染物に接触させて用いられるポリ塩化ビフェニル除去用溶媒であって、ノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分と、溶解度パラメータの分散項が15〜22であり、水素結合項か極性項かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上からなる第二成分とが含有されていることを特徴とするポリ塩化ビフェニル除去用溶媒などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビフェニルを含む汚染物から、ポリ塩化ビフェニルを除去するためのポリ塩化ビフェニル除去用溶媒と、ポリ塩化ビフェニルを含む排ガスが洗浄油と接触されて排ガスからポリ塩化ビフェニルが除去される排ガス処理装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビフェニル(PCB)に汚染された土壌や地下水、あるいは、ポリ塩化ビフェニルが絶縁油として用いられた変圧器やコンデンサーなどポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の無害化処理が広く実施されている。
【0003】
例えば、ポリ塩化ビフェニル汚染土壌については、ロータリーキルンなどで加熱処理されてポリ塩化ビフェニルを揮発除去することが行われている。
また、例えば、変圧器やコンデンサーなどの電気機器においては、内部のポリ塩化ビフェニルを含む絶縁油を抜油した後、解体されて洗浄装置で洗浄されたり、あるいは、真空加熱装置で真空加熱処理されたりしてポリ塩化ビフェニルが除去されている。
このロータリーキルンや真空加熱装置から排出される排ガスには汚染物から除去されたポリ塩化ビフェニルが含有されていることから、オイルスクラバーを通過させた後に活性炭フィルターを通過させて系外に排出されている(下記特許文献1参照)。
【0004】
ところで、このオイルスクラバーにおいて排ガスと接触される洗浄油(以下「スクラバー洗浄油」ともいう)や、変圧器やコンデンサーなどの解体物を洗浄する洗浄液、あるいは、ポリ塩化ビフェニルに汚染された地下水からのポリ塩化ビフェニルの抽出除去などに用いられる液体としては、ノルマルパラフィンなどの有機溶媒が用いられている。
このようなポリ塩化ビフェニルに汚染された汚染物からのポリ塩化ビフェニル除去に用いられるポリ塩化ビフェニル除去用溶媒には、処理効率を向上させるべく、ポリ塩化ビフェニルの溶解性に優れたものが求められている。
例えば、オイルスクラバーで排ガスに接触されるスクラバー洗浄油などにおいては、ポリ塩化ビフェニルの溶解性を向上させることで後段に設けられた活性炭フィルターの負荷を低減させることができ、より効率の良い排ガス処理を実施させることができる。
しかし、これまでこのポリ塩化ビフェニル除去用溶媒においては、ポリ塩化ビフェニルに対する溶解性の向上方法については殆ど検討がなされておらず、従来用いられているノルマルパラフィンなどに比べてポリ塩化ビフェニルの除去効率が向上されたものは見出されてはいない。
【0005】
【特許文献1】特開2006−21187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリ塩化ビフェニルの除去効率を向上させ得るポリ塩化ビフェニル除去用溶媒と、処理効率に優れた排ガス処理装置との提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ノルマルパラフィンなどの従来のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒が、ポリ塩化ビフェニルと溶解度パラメータにおける分散項が近似していることからポリ塩化ビフェニルに対する良好な溶解性を示していること、ならびに、その一方で極性項や水素結合項においてはポリ塩化ビフェニルとは大きく乖離していることを見出した。
また、この極性項、水素結合項の少なくとも一方をポリ塩化ビフェニルに近似させることで、従来のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒に比べてポリ塩化ビフェニルの溶解性を向上させ得ることを見出し、本発明の完成に到った。
【0008】
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、ポリ塩化ビフェニルを含む汚染物から、前記ポリ塩化ビフェニルを除去すべく、前記汚染物に接触させて用いられるポリ塩化ビフェニル除去用溶媒であって、ノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分と、溶解度パラメータの分散項が15〜22であり、水素結合項か極性項かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上からなる第二成分とが含有されていることを特徴とするポリ塩化ビフェニル除去用溶媒を提供する。
【0009】
本発明は、また、前記課題を解決すべく、ポリ塩化ビフェニルを含む気体が洗浄油と接触され、前記ポリ塩化ビフェニルが前記洗浄油に溶解されて前記気体から除去される排ガス処理装置であって、前記洗浄油には、ノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分と、溶解度パラメータの分散項が15〜22であり、水素結合項か極性項かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上からなる第二成分とが含有されていることを特徴とする排ガス処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリ塩化ビフェニル除去用溶媒に、ノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分と、溶解度パラメータの分散項が15〜22であり、水素結合項か極性項かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上からなる第二成分とが含有されていることから、ポリ塩化ビフェニル除去用溶媒を、ノルマルパラフィンなどの従来のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒よりもポリ塩化ビフェニルの溶解度パラメータに近いものとさせ得る。
したがって、ポリ塩化ビフェニルに対する溶解性を、従来のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒に比べて向上させることができ、ポリ塩化ビフェニルの除去効率を向上させ得る。
【0011】
また、本発明の排ガス処理装置には、ポリ塩化ビフェニルを含有する気体に接触される洗浄油に、ノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分と、溶解度パラメータの分散項が15〜22であり、水素結合項か極性項かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上からなる第二成分とが含有されていることから、この洗浄油のポリ塩化ビフェニルに対する溶解性を向上させることができ、排ガス処理装置を処理効率に優れたものとさせ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒には、ノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分と、溶解度パラメータの分散項が15〜22であり、水素結合項か極性項かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上からなる第二成分とが含有されている。
【0013】
前記第一成分としては、炭素数15〜40のノルマルパラフィンを例示することができ、中でも、PCBの溶解度パラメータに近い溶剤ほどPCB吸収に有利な点から、炭素数20〜30のノルマルパラフィンが好ましい。
【0014】
前記第二成分としては、溶解度パラメータの分散項(以下「δd」ともいう)が15〜22であり、水素結合項(以下「δh」ともいう)か極性項(以下「δp」ともいう)かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上の化合物であれば、人体、環境に対する安全性に問題のある有機ハロゲン化物やシアン化物などを除いて、通常、特に限定されるものではない。
なかでも、例えば、後段においてナトリウムなどのアルカリ金属が絶縁油中に分散されてなるアルカリ金属分散体などで、ポリ塩化ビフェニルが溶解された後のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒を直接脱ハロゲン化処理させる場合を考慮すると、この脱ハロゲン化処理の手間を簡略化させ得る点において、ナトリウムなどのアルカリ金属との反応性が低い物質であることが好ましい。
さらに、比較的安価であるなど入手が容易な物質であることが好ましい。
【0015】
このような点において、前記第二成分としては、アセトアニリド(δd=20.6、δh=12.4、δp=12.4)、アセトアニリル(δd=15.3、δh=6.1、δp=18.0)、ベンジルアルコール(δd=18.4、δh=13.7、δp=6.3)、ジメチルスルホキシド(δd=18.4、δh=16.4、δp=10.2)、ジプロピレングリコール(δd=16.5、δh=17.7、δp=10.6)、エタノールアミン(δd=17.0、δh=21.2、δp=15.5)、および、エチレングリコール(δd=17.0、δh=26.0、δp=11.0)などが好適である。
【0016】
なお、この溶解度パラメータはHansenの計算方法を利用して求めることができ、次式(1)によって求められる。
【0017】
【数1】

【0018】
(なお、式中のδは溶解度パラメータであり、δdは分散項である。また、δhは水素結合項であり、δpは極性項である。この分散項(δd)、水素結合項(δh)、極性項(δp)は、次式(2)〜(4)によってそれぞれ求められる。)
【0019】
【数2】

【0020】
【数3】

【0021】
【数4】

【0022】
(なお、式中のVはモル体積を示している。Fdi、Fpi、Ehiは、KreverenとHoftyzerが提案した定数である。)
【0023】
前記第二成分として、アセトアニリド、アセトアニリル、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジプロピレングリコール、エタノールアミン、および、エチレングリコールのいずれかが用いられている場合には、第一成分と第二成分との合計に占める第二成分の割合は、10〜30質量%とされることが好ましい。
上記の場合に、第一成分と第二成分との合計に占める第二成分の割合がこのような範囲とされるのは、第二成分が10質量%未満の場合には、ポリ塩化ビフェニル除去用溶媒におけるポリ塩化ビフェニル溶解性向上効果が十分発揮されず、30質量%を超える場合には、第一成分に、第二成分を完溶させることが困難となるおそれを有するためである。
【0024】
また、本発明の効果を損ねない範囲においては、前記第一成分および前記第二成分以外の成分(第三成分)を含有させてポリ塩化ビフェニル除去用溶媒とすることもできる。
【0025】
次いで、ポリ塩化ビフェニル除去用溶媒の使用方法について説明する。
前記ポリ塩化ビフェニル除去用溶媒は、ポリ塩化ビフェニルを含む絶縁油が用いられた変圧器やコンデンサーの解体物を洗浄して、前記解体物からポリ塩化ビフェニルを除去するための洗浄液や、ポリ塩化ビフェニルに汚染された汚染土壌や汚染水などからポリ塩化ビフェニルを抽出して除去する抽出液などとして用いることができる。
また、真空加熱装置やロータリーキルンなどから排出されるポリ塩化ビフェニルを含む気体(排ガス)からオイルスクラバーなどを用いてポリ塩化ビフェニルを除去する際のスクラバー洗浄油などとして用いることができる。
なお、処理される排ガスとしては前記真空加熱装置やロータリーキルン以外に、PCB分解処理装置から排出される排ガスや、PCB管理区域から排出される換気気体が挙げられる。
【0026】
特に、ポリ塩化ビフェニルを含む排ガスが洗浄油と接触され、前記ポリ塩化ビフェニルが前記洗浄油に溶解されて前記排ガスから除去される排ガス処理装置においては、処理経路においてPCBを含む洗浄油が減圧環境下に曝されることが多く、PCBの再揮発を発生させるおそれがあるが、本実施形態において例示のごとくノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分とアセトアニリド、アセトアニリル、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジプロピレングリコール、エタノールアミン、および、エチレングリコールなどが用いられている第二成分とが含有されてなるポリ塩化ビフェニル除去用溶媒を洗浄油に用いると、従来のようにノルマルパラフィンが単独で洗浄油として用いられている場合などに比べてPCBが洗浄油中で安定するため、PCBの揮発性を低減させることができる。
【0027】
したがって、オイルスクラバーのスクラバー洗浄油などに本実施形態のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒を用いることにより、排ガスから、より多くのポリ塩化ビフェニルを、より短時間に除去することができるのみならず、このオイルスクラバーの後段に設置されるオイルミストトラップや活性炭フィルターなどの負荷の軽減を図ることができ、このオイルスクラバーが用いられた排ガス処理装置の処理効率をいっそう向上させ得る。
【0028】
ポリ塩化ビフェニル除去用溶媒がスクラバー洗浄油として用いられる場合においては、
引火点を高くして安全性を向上させる観点から、第一成分としてバーレルプロセス油、第二成分としてアセトアニリドが用いられることが好ましい。
また、ポリ塩化ビフェニル除去用溶媒におけるこれら第一成分、第二成分、第三成分の含有割合としては、重量で第一成分が80〜90%、第二成分が10〜20%であることが溶解度パラメータをPCBに近づけることができ、かつ、引火性を低下させることができる点において好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビフェニルを含む汚染物から、前記ポリ塩化ビフェニルを除去すべく、前記汚染物に接触させて用いられるポリ塩化ビフェニル除去用溶媒であって、
ノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分と、溶解度パラメータの分散項が15〜22であり、水素結合項か極性項かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上からなる第二成分とが含有されていることを特徴とするポリ塩化ビフェニル除去用溶媒。
【請求項2】
前記第二成分として、アセトアニリド、アセトアニリル、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジプロピレングリコール、エタノールアミン、および、エチレングリコールのいずれかが用いられている請求項1記載のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒。
【請求項3】
前記第一成分と前記第二成分との合計に占める第二成分の割合が10〜30質量%である請求項2記載のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒。
【請求項4】
ポリ塩化ビフェニルを含む気体からポリ塩化ビフェニルを除去するためのオイルスクラバーのスクラバー洗浄油に用いられる請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリ塩化ビフェニル除去用溶媒。
【請求項5】
ポリ塩化ビフェニルを含む気体が洗浄油と接触され、前記ポリ塩化ビフェニルが前記洗浄油に溶解されて前記気体から除去される排ガス処理装置であって、
前記洗浄油には、ノルマルパラフィンの一種類以上からなる第一成分と、溶解度パラメータの分散項が15〜22であり、水素結合項か極性項かのいずれかが12以上である化合物の一種類以上からなる第二成分とが含有されていることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項6】
前記第二成分として、アセトアニリド、アセトアニリル、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジプロピレングリコール、エタノールアミン、および、エチレングリコールのいずれかが用いられている請求項5記載の排ガス処理装置。
【請求項7】
前記第一成分と前記第二成分との合計に占める第二成分の割合が10〜30質量%である請求項6記載の排ガス処理装置。

【公開番号】特開2009−226361(P2009−226361A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77755(P2008−77755)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】