説明

ポリ(3−置換チオフェン)の製造方法

【課題】安価な原料を使用し、製造工程が容易であり、特に低温領域に反応温度を制御する必要がなく、従来のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法と同等の収率で、当該方法によって製造されるポリ(3−置換チオフェン)と同等以上の優れた立体規則性および分子量分布を有するポリ(3−置換チオフェン)を製造する方法を提供すること。
【解決手段】パラジウム触媒、有機アルカリ金属塩および極性非プロトン性有機溶媒の存在下、モノハロゲン化3−置換チオフェンを重合することを特徴とする、ポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3−置換チオフェン)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオフェンは、π共役系が連結した高分子構造をとっているため、導電性を有しており、さらに加工性に優れ、比較的高い環境安定性および熱安定性を示す。そのためポリチオフェンは、近年電気部品、例えば有機薄膜太陽電池、有機薄膜トランジスタ、光電変換材料、有機EL材料、ダイオード、トリオード、電気光学的ディスプレイ、反射膜、非線形光学材料などの用途に使用しうる材料として注目を集めている。
【0003】
ポリチオフェンの中でも特に有望なものとして注目を集めているのは、チオフェン環の3位にヘキシル基などの置換基(溶媒への可溶化基)を有するポリ(3−置換チオフェン)である。例えば、ポリ(3−アルキルチオフェン)は自己集積化することが知られており、これによって高い電荷キャリア移動度が達成されるものと考えられる。そして、ポリ(3−置換チオフェン)の分子量分布は、狭い方が、より高度に分子同士で自己集積できると考えられる。また、ポリ(3−置換チオフェン)から前記電気部品を形成した場合に、それが一定の強度や導電性を達成する観点からは、前記ポリ(3−置換チオフェン)は、ある程度の分子量を有している必要がある。
【0004】
一方ポリ(3−置換チオフェン)の合成原料となる3−置換チオフェンは、非対称的な構造を有しているため、モノマーどうしが重合する際に、2,2’(頭−頭)、5,5’(尾−尾)または2,5’(頭−尾)連結という、3種類の連結が生じる可能性がある。これらのうち、2,5’(頭−尾)連結が多いポリマーは、立体規則性が高く、自己集合して平らで密に詰まった高分子構造をとることができるので、上記の電気部品用途に好適である。
【0005】
このようなポリ(3−置換チオフェン)の構造は、その合成方法に大きく影響を受ける。そのため、前記の一定の分子量、狭い分子量分布や、高い立体規則性を有するポリ(3−置換チオフェン)の合成方法が、種々提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、以下の化学反応式に示すポリ(3−置換チオフェン)の合成方法が記載されている。
すなわち、2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェンと塩化シクロヘキシルマグネシウムを反応させている反応系中に(当該反応で得られる反応物を反応物1とする)、塩化亜鉛を添加することにより、反応性の高い''rieke亜鉛''を形成させ、さらにこれと反応物1とを反応させることにより、2−ブロモ−3−ヘキシル−5−(ブロモジンシオ)チオフェンとその異性体である2−(ブロモジンシオ)−3−ヘキシル−5−ブロモチオフェンとの混合物を形成させる。これにNi(dppe)Cl2(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノエタン)塩化ニッケル(II))等のNi触媒を加えることにより、立体規則性の高いポリ(3−アルキル)チオフェンが得られる。
【0007】
この反応では、高活性な''rieke亜鉛''を調製する工程が必要になり、製造工程が煩雑化する。あるいは、予め調製したRieke亜鉛溶液をシグマアルドリッチ社などから試薬として購入可能であるが、Rieke亜鉛溶液は非常に高価である。どちらにしても、特許文献1に記載のポリ(3−置換チオフェン)の合成方法は、プロセスおよびコストの観点から、工業的なポリ(3−置換チオフェン)の製造には適していない。
【0008】
【化1】

*上記化学反応式において、Cyはシクロヘキシル基を表す。
【0009】
特許文献2には、特許文献1に記載の方法において、塩化亜鉛を塩化マンガンに変えた方法が記載されているが、特許文献1に記載の方法と同様の問題を有している。
非特許文献1には、下記化学反応式で示されるポリ(3−置換チオフェン)の合成方法が記載されている。
【0010】
【化2】

この方法において、工程1で使用するLDAは予めn-ブチルリチウムとジイソプロピルアミンとを−40℃で40分反応させて形成させる必要があり、これに対し、モノマー(2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェン)を工程1で加える際には、高い転化率で選択的に5位のプロトンを引き抜き、Li化させるために-78℃という低温にする必要がある。
【0011】
その後、−40℃で反応液を40分間攪拌した後、工程2において−60℃でMgBr2・OEt2を加え、20分間攪拌を行い、さらに−40℃で15分の攪拌を行う。工程3では、−5℃で反応液にNi(dppp)Cl2(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノプロパン)塩化ニッケル(II))を加えた後、室温で12〜18時間の攪拌を行う必要がある。
【0012】
非特許文献1に記載の方法では、多段階の工程が必要であり、また各工程を非常に低い温度領域に制御したうえで行う必要があり、当該方法を工業的生産に適用した場合、工程管理及び量産設備の冷却能力上、非常に難易度が高いプロセスになってしまうという問題がある。
【0013】
特許文献3および4には、上記問題点を改良したポリ(3−置換チオフェン)の合成方法が記載されている。その方法では、下記化学反応式に示すように、工程数が少なく、さらに反応時間は3時間程度となり、反応温度は上記の低温領域ではなく、THFの環流温度条件となっている。すなわち、工業的生産の観点から大幅に改善された合成方法となっている。
【0014】
【化3】

しかしながら、これらの合成方法で得られたポリマーに関しては、特許文献3および4には分子量及び立体規則性の明確な記載はなく、反応時間の短縮化による分子量の低下及び反応温度の高温化による立体規則性の低下等が懸念される。また、目的物のポリマーの収率は40〜65%程度であり、工業的生産を想定した場合、この収率は決して良いとは言えない。さらに、この反応において反応副生成物として生成する臭化メチルおよびヨウ化メチルは、変異原性の報告がなされている物質である。そのため、当該方法を工業的生産(量産化)に適用した場合には、環境的側面から、前記変異原性物質の処理コストがかさむことも懸念される。
【0015】
非特許文献2および3には、下記化学反応式で示されるポリ(3−置換チオフェン)の合成方法が記載されている。
【0016】
【化4】

*上記化学反応式において、NISはN−ヨードスクシンイミドである。
【0017】
しかし、この方法は、上記式で示されるように、重合に使用するモノマーの合成が多段階反応により行われるため、各プロセス(特にモノマーの合成段階の反応)における精製等が必要となる。そのため、当該方法をポリ(3−置換チオフェン)の工業的生産に適用した場合、プロセスが煩雑化することが懸念される。
【0018】
特許文献5及び非特許文献4には、下記化学反応式で示される、ポリ(3−置換チオフェン)の合成方法が記載されている。
【0019】
【化5】

*上記化学反応式において、NBSはN−ブロモスクシンイミドである。
【0020】
しかし、この方法は上記非特許文献2および3に記載の方法と同様、重合に使用するモノマーの合成反応が多段階であるため、各プロセス(特にモノマーの合成段階の反応)における精製等が必要となり、工業的生産に適用した場合、プロセスが煩雑化することが懸念される。
【0021】
なお、非特許文献5には、2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンを、パラジウム触媒、特定のホスフィン化合物、炭酸セシウムおよびTHFの存在下で重合させてポリ(3−ヘキシルチオフェン)を得る方法が記載されている。
【0022】
また特許文献6には、2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェンなどの反応性官能基を少なくとも2つ有する芳香族モノマーを、パラジウム触媒、カリウム−tert−ブトキシドなどのアルカリ金属のアルコキシド、およびテトラヒドロフランなどの有機溶媒の存在下で重合させて、ポリ(3−置換チオフェン)を得る方法が記載されている。当該方法では、ジハロゲン化3−置換チオフェンをあらかじめ合成する必要があり、工業的なポリ(3−置換チオフェン)の製造への適用を考慮した場合、プロセスが多段階になり、製造コスト等の観点から不利であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特表2009−501838号公報
【特許文献2】特表2009−540055号公報
【特許文献3】特開2000−230040号公報
【特許文献4】特開2008−81748号公報
【特許文献5】特開2004−115695号公報
【特許文献6】特開2007−23252号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Synthetic metals, 55-57, 1993, 1198-1203
【非特許文献2】J.Polym Sci Part A: Polym Chem, vol 43, 1454-1462, 2005.
【非特許文献3】J.Polym Sci Part A: Polym Chem vol 46, 4556-4563, 2008.
【非特許文献4】Macromolecules 2004, 37,1169-1171
【非特許文献5】「直接的アリール化反応を基軸とするポリチオフェン類の合成」日本化学会第90春季年会(2010)予稿集2F1-51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
以上説明したように、従来のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法の多くでは、チオフェンの2位及び5位の両方にハロゲン原子などの置換基を導入しており、製造プロセスが煩雑である。
【0026】
本発明は、安価な原料を使用し、製造工程が容易であり、特に低温領域に反応温度を制御する必要がなく、従来のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法と同等の収率で、当該方法によって製造されるポリ(3−置換チオフェン)と同等以上の優れた立体規則性および分子量分布を有するポリ(3−置換チオフェン)を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の塩基、パラジウム触媒および特定の溶媒の存在下で重合反応を実施することによって、安価な原料から、特に低温領域に反応温度を制御することなく、容易に、従来法で得られるものと同等以上の特性を備えたポリ(3−置換チオフェン)が従来法と同等程度の収率で得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0028】
すなわち本発明は、パラジウム触媒、有機アルカリ金属塩および極性非プロトン性有機溶媒の存在下、モノハロゲン化3−置換チオフェンを重合することを特徴とする、ポリ(3−置換チオフェン)の製造方法である。
【0029】
前記パラジウム触媒は、2座の中性ホスフィン配位子、単座の中性ホスフィン配位子、中性π配位子、一価のアニオン性配位子、二価のアニオン性配位子、単座の中性アミン配位子、2座の中性アミン配位子、中性ニトリル配位子および中性スルフィニル配位子からなる群より選ばれる少なくとも1種の配位子を有し、パラジウムの価数が0価もしくは2価となるように配位構成されているパラジウム錯体であることが好ましい。
【0030】
前記有機アルカリ金属塩は、有機リチウム塩であることが好ましい。
また、前記パラジウム触媒において、前記2座の中性ホスフィン配位子は1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンまたは1,1`−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンであり、前記単座の中性ホスフィン配位子はトリn―ブチルホスフィン、トリt−ブチルホスフィンまたはトリフェニルホスフィンであり、前記中性π配位子はベンゼン、シクロブタジエンまたはシクロオクタジエンであり、前記一価のアニオン性配位子はメチル、フェニル、ヘキサメチルシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、アリル、シクロペンタジエニル、アルコキシ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシラート、アセチルアセトナート、トリフルオロメタンスルフォネート、1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)―4,5−ジヒドロイミダゾ−ル−2−リデン、1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾ−ル−2−リデンまたは1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−リデンであり、前記二価のアニオン性配位子はフタロシアニン、ナフタロシアニンまたはポルフィリンであり、前記単座の中性アミン配位子はアンモニア、ピリジンまたは3−クロロピリジンであり、前記2座の中性アミン配位子はN,N,N`,N`−テトラメチルエチレンジアミン、1,10−フェナンソロリンまたは2,2`−ビピリジルであり、前記中性ニトリル配位子はアセトニトリルまたはベンゾニトリルであり、前記中性スルフィニル配位子は1,2−ビス(フェニルスルフィニル)エタンであることが好ましい。
【0031】
前記モノハロゲン化3−置換チオフェンに対するパラジウム触媒の使用量は、0.01〜50モル%であることが好ましく、前記モノハロゲン化3−置換チオフェン1当量に対して、前記有機アルカリ金属塩の使用量は0.1〜10当量であることが好ましい。
【0032】
前記モノハロゲン化3−置換チオフェンは、下記一般式(I)で表される2−ハロゲン化3−置換チオフェンであることが好ましい。
【0033】
【化6】

式(I)において、Rは直鎖もしくは分岐の炭素数1〜12のアルキル基、直鎖もしくは分岐の炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12アルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基または炭素数3〜12のシクロアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。
【0034】
また、前記極性非プロトン性有機溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、N,N,N',N'-テトラメチルアゾジカルボキサアミド、N,N−ジメチルチオホルムアミド、ビス(ジエチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、1−オクチル−2−ピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン、1,1−カルボニルジピペリジン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)ピリミジノン、N,N,N',N'-テトライソブチル尿素およびN,N,N',N'-テトラメチル尿素が挙げられ、これらの中でもN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)およびN,N,N',N'-テトラメチル尿素が好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、安価な原料を使用し、製造工程が容易であり、特に低温領域に反応温度を制御する必要がなく、従来のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法と同等の収率で、当該方法によって製造されるポリ(3−置換チオフェン)と同等以上の優れた立体規則性および分子量分布を有するポリ(3−置換チオフェン)を製造することができる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、実施例1で得られたポリ(3−ヘキシルチオフェン)の1H NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明にかかるポリ(3−置換チオフェン)の製造方法について詳細に説明する。
[触媒成分]
上記の通り、本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法では、パラジウム触媒、有機アルカリ金属塩および極性非プロトン性有機溶媒の存在下で、モノハロゲン化3−置換チオフェンの重合反応を行う。以下、本反応の触媒成分である有機アルカリ金属塩およびパラジウム触媒について説明する。
【0038】
<有機アルカリ金属塩>
有機アルカリ金属塩は、本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法における製造原料たるモノハロゲン化3−置換チオフェンの活性プロトンを引き抜き(脱プロトン化し)、活性モノマーを生成させる。
【0039】
本発明で使用される有機アルカリ金属塩は、前記の通りモノハロゲン化3−置換チオフェンの活性プロトンを引き抜くことができれば特に限定されない。その例としては、メチルリチウム、sec-ブチルリチウム、iso-ブチルリチウム、n-ブチルリチウム、シクロペンタジエニルリチウム、ペンチルリチウム、フェニルリチウム、イソプロピルリチウム、t-ブチルリチウム、リチウムジフェニルホスフィニド、リチウム(トリメチルシリル)アセチリド、リチウム2−エチルへキソキシド、リチウムペンタメチルシクロペンタジエニド、リチウム3−フルオロピリジン−2−カルボキシレート、リチウムアセテート、リチウムアセトアセテート、リチウムアセチルアセトネート、リチウムトリフルオロアセテート、リチウムトリフルオロメタンスルフォネート、リチウムベンゾエート、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、1,1−ジメチル尿素−リチウム、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン-1-リチウム、リチウムジシクロヘキシルアミド、ビス(トリフルオロメタン)スルホイミドリチウム、ジリチウムフタロシアニン、リチウムアセチルアセトナート、リチウムベンゼンスルフィネート、リチウムシクロヘキサンブチレート、リチウム(2,4−ジクロロ−フェノキシ)−アセテート、リチウムエトキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムメトキシド、リチウムフェノキシド、リチウムフェニルアセチリド、リチウムサリチレート、リチウムt−ブトキシド、リチウムt−アモキシド、リチウムt-ブチルシクロペンタジエニド、リチウムテトラメチルシクロペンタジエニド、リチウム2,3,4,5,6−ペンタクロロフェノレート、リチウムトリメチルシラノレート、リチウムp-トルエンスルホネートおよびリチウムベンゼンスルフィネート等の有機リチウム塩が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、モノハロゲン化3−置換チオフェンの活性ハロゲンと活性プロトンをそれぞれ引き抜く競争反応において、優先的に活性プロトンを引き抜く反応活性を示すことから、リチウムt−ブトキシドが好ましい。
【0041】
本発明においては、前記有機アルカリ金属塩は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、有機アルカリ金属塩は、反応効率の観点から、前記モノハロゲン化3−置換チオフェン1当量に対し、0.1〜10当量使用されることが好ましく、0.5〜3.0当量使用されることがより好ましい。
以上説明した有機アルカリ金属塩は、公知の方法により容易に合成することができ、また広く市販されている。
【0042】
[パラジウム触媒]
パラジウム触媒は、前記モノハロゲン化3−置換チオフェンと有機アルカリ金属塩との反応により生成した活性モノマーどうしの、ハロゲン原子が結合している炭素部位と、脱プロトン化された炭素部位とのC-Cカップリングを促進するものと考えられる。このような反応機序によりC-Cカップリングがなされることから、本発明によれば、2,2’(頭−頭)連結や5,5’(尾−尾)連結が非常に起こりにくく、それゆえ非常に立体規則性の高いポリ(3−置換チオフェン)を得ることができる。
【0043】
本発明で使用するパラジウム触媒は、そのような触媒活性能を備えた触媒であれば特に限定されないが、その例としては、
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンおよび1,1`−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等の2座の中性ホスフィン配位子、
トリn―ブチルホスフィン、トリt−ブチルホスフィンおよびトリフェニルホスフィン等の単座の中性ホスフィン配位子、
ベンゼン、シクロブタジエンおよびシクロオクタジエン等の中性π配位子、
メチル、フェニル、ヘキサメチルシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、アリル、シクロペンタジエニル、アルコキシ(メトキシおよびフェノキシ等)、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシラート(酢酸およびプロピオン酸等)、アセチルアセトナート、トリフルオロメタンスルフォネート、1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)―4,5−ジヒドロイミダゾ−ル−2−リデン、1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾ−ル−2−リデンおよび1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−リデン等の一価のアニオン性配位子、
フタロシアニン、ナフタロシアニンおよびポルフィリン等の二価のアニオン性配位子、
アンモニア、ピリジンおよび3−クロロピリジン等の単座の中性アミン配位子、
N,N,N`,N`−テトラメチルエチレンジアミン、1,10−フェナンソロリンおよび2,2`−ビピリジル等の2座の中性アミン配位子、
アセトニトリルおよびベンゾニトリル等の中性ニトリル配位子、
あるいは1,2−ビス(フェニルスルフィニル)エタン等の中性スルフィニル配位子を配位子とし、パラジウム原子の価数が0価もしくは2価となるように配位構成されているパラジウム錯体を挙げることができる。そのようなパラジウム触媒の具体例を以下に示す。
【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

これらの中でも、重合効率の観点から、下記のパラジウム触媒が好ましい。
【0050】
【化13】

このようなパラジウム触媒は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
また、前記パラジウム触媒は、重合効率の観点から、前記モノハロゲン化3−置換チオフェン(100モル%)に対し、0.01〜50モル%の割合で使用されることが好ましく、0.5〜10モル%の割合で使用されることがより好ましい。
【0052】
以上説明したパラジウム触媒は、公知の方法によって容易に合成することができ、また広く市販もされている。
以上説明したように、本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法では、高価なグリニャール反応剤を使用する必要がない。また、グリニャール反応剤は、その性質から反応を厳格な非水環境で使用されなければならないが、本発明ではその必要がないので、反応の環境のコントロールにコストと労力をかける必要がない。またグリニャール反応剤由来の、臭化メチルなどのハロゲン化メチル化合物(変異原性物質)が生成することもないので、本発明のポリ(3−置換チオフェン)は、従来法よりも環境負荷が少なく、また変異原性物質を処理するための設備を設ける必要もなく、コストの観点から優れている。次に、以上説明した触媒成分を使用したポリ(3−置換チオフェン)の合成反応について説明する。
【0053】
[ポリ(3−置換チオフェン)の合成反応]
本発明では、パラジウム触媒、有機アルカリ金属塩および極性非プロトン性有機溶媒の存在下で、モノハロゲン化3−置換チオフェンを重合する。
【0054】
<モノハロゲン化3−置換チオフェン>
本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法における反応原料は、モノハロゲン化3−置換チオフェンである。反応原料として特に好適なモノハロゲン化3−置換チオフェンは、下記一般式(I)で表される2−ハロゲン化3−置換チオフェンである。
【0055】
【化14】

上記式において、Rは直鎖もしくは分岐の炭素数1〜12のアルキル基、直鎖もしくは分岐の炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基または炭素数3〜12のシクロアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。
【0056】
電気部品用途の材料として特に好適なポリ(3−置換チオフェン)を製造する観点からは、Rはヘキシル基であることが好ましく、Xは臭素原子であることが好ましい。
このような2−ハロゲン化3−置換チオフェンは、公知の方法によって容易に合成することができ、また安価に市販もされている。前記方法の例として、3−置換チオフェン(これは市販されており、容易に入手可能である)を、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、THF、ジブチルエーテル、酢酸、蟻酸、プロピオン酸等の溶媒の存在下、N−ハロゲノスクシンイミドなどのハロゲン化剤と反応させることによって、2−ハロゲン化3−置換チオフェンを得る方法が挙げられる。
【0057】
本発明では、従来技術(特許文献6等)で使用されているような、チオフェンの3位以外に2位及び5位の両方に置換基(主にハロゲン基)を有する、製造プロセスが煩雑であるまたは高価な原料ではなく、上記のような、合成が容易であり、安価であるモノハロゲン化3−置換チオフェン、特に好ましくは2−ハロゲン化3−置換チオフェンを使用するので、プロセス数およびアトムエコノミーの観点から、工業的に非常に有利である。
【0058】
<極性非プロトン性有機溶媒>
本発明では、2−ハロゲン化3−置換チオフェンと有機アルカリ金属塩とを混和することにより反応系中で形成される活性モノマーの安定化と、上記触媒成分を反応系中に均一に分散させることなどによる重合効率の向上とのために、重合溶媒として極性非プロトン性有機溶媒が使用される。前記溶媒は、前記の目的を達成することができる、極性を有するけれども酸性プロトンを有さない有機溶媒であれば特に制限されない。その例としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、N,N,N',N'-テトラメチルアゾジカルボキサアミド、N,N−ジメチルチオホルムアミド、ビス(ジエチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、1−オクチル−2−ピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン、1,1−カルボニルジピペリジン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)ピリミジノン、N,N,N',N'-テトライソブチル尿素およびN,N,N',N'-テトラメチル尿素を挙げることができる。重合効率の観点から、これらの中でも好ましくはDMFおよびN,N,N',N'-テトラメチル尿素である。
【0059】
極性非プロトン性有機溶媒は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて混合溶媒として使用してもよい。
またこの極性非プロトン性有機溶媒は、原料のモノハロゲン化3−置換チオフェン化合物1モルに対して通常1〜20L、好ましくは2〜10L使用される。
【0060】
<重合反応>
本発明における重合反応は、前述の通りパラジウム触媒、有機アルカリ金属塩および極性非プロトン性有機溶媒の存在下に行われる。
【0061】
ここで、まずモノハロゲン化3−置換チオフェンの活性プロトンを有機アルカリ金属塩が引き抜き、活性モノマーが形成される。
続いて、複数の活性モノマー分子の、活性プロトンが引き抜かれた炭素部位とハロゲン原子が結合した炭素部位とのC−Cカップリング反応が、パラジウム触媒により促進され、ポリマー(すなわちポリ(3−置換チオフェン))が形成される。
【0062】
このような反応経路であることから、重合反応系へのパラジウム触媒および有機アルカリ金属塩の投入の仕方は、両者を同時に投入する方法、有機アルカリ金属塩をまず投入し、その後の前記活性モノマーが一定量生成した段階でパラジウム触媒を投入する方法、さらにはパラジウム触媒を先に投入し(触媒量の酸化的付加体(活性モノマーの一種)を予め形成するためである。この付加体は、脱プロトン化した活性モノマーで効率的に捕捉され、重合反応が円滑に進行する)、その後に有機アルカリ金属塩を投入する方法のいずれでもよい。また、活性モノマーの生成反応では、有機アルカリ金属塩が消費されていくため、反応が進行すると、活性モノマーの生成効率が下がることがある。そこで、必要に応じて有機アルカリ金属塩を適宜追加投入してもよい。
【0063】
さらに、本発明においては、パラジウム触媒とともに、ホスフィン配位子などの、高活性のパラジウム触媒を与える配位子となる化合物をポリ(3−置換チオフェン)の重合反応系に投入し、当該反応系中で、前記パラジウム触媒と配位子化合物との間で配位子交換反応を起こし、より高活性のパラジウム触媒を形成させてもよい。
【0064】
このような、高活性のパラジウム触媒を与える配位子となる化合物としては、上記でパラジウム触媒の配位子を形成するものとして説明した、2座の中性ホスフィン配位子化合物および単座の中性ホスフィン配位子化合物が挙げられる。これらの具体例としては、以下に示す化合物が挙げられる。
【0065】
【化15】

【0066】
【化16】

【0067】
【化17】

【0068】
【化18】

以上説明した、高活性のパラジウム触媒を与える配位子化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記配位子化合物は、公知の方法によって合成が可能であり、また安価に市販もされている。
【0069】
また、以上説明した配位子化合物は、本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法において、パラジウム触媒(100モル%)に対し、通常5〜200モル%、好ましくは50〜120モル%の割合で使用される。
【0070】
このような触媒成分および極性非プロトン性有機溶媒の存在下に行われる反応(活性モノマーの形成およびその重合反応の双方)は、常圧で行うことができる。また当該反応の反応温度は通常室温25〜150℃、好ましくは40〜100℃である。すなわち、本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法は、温度を低温領域に制御する必要もなく、比較的穏やかで制御が容易な反応温度で全工程にわたって実施することができる。さらに、この重合反応(活性モノマーの形成反応を含む)の反応時間は通常6〜96時間であり、好ましくは12〜48時間である。
【0071】
また、本反応系には、以上説明した触媒成分および極性非プロトン性有機溶媒の他に、必要に応じてプロトントラップ剤および/またはハロゲントラップ剤を存在させてもよい。
【0072】
(プロトントラップ剤)
本発明においては、原料モノマー(モノハロゲン化3−置換チオフェン)のプロトンを捕捉することにより、反応を促進させる目的で、プロトントラップ(プロトンスポンジ)剤を使用してもよい。
【0073】
前記プロトントラップ剤の例としては、トリエチルアミン、ピリジン、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンおよび3,4−ジヒドロ−2−ピリドル[1,2−a]ピリミジノン等の第三級アミン誘導体が挙げられる。
【0074】
プロトントラップ剤は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
以上説明したプロトントラップ剤は、ポリ(3−置換チオフェン)の合成原料たるモノハロゲン化3−置換チオフェン(100モル%)に対し、通常10〜200モル%、好ましくは50〜100モル%の割合で使用される。
【0075】
(ハロゲントラップ剤)
さらに、本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法においては、原料モノマーのハロゲンを捕捉することにより、反応を促進させる目的で、ハロゲントラップ剤を使用してもよい。
【0076】
前記ハロゲントラップ剤の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸セシウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
ハロゲントラップ剤は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
以上説明したハロゲントラップ剤は、ポリ(3−置換チオフェン)の合成原料たるモノハロゲン化3−置換チオフェン(100モル%)に対し、通常10〜200モル%、好ましくは50〜100モル%の割合で使用される。
【0078】
<エンドキャッピング>
ポリマーの重合反応が終わった状態では、ポリマーの末端には、ハロゲン原子および脱プロトン化された活性部位が残存している。これらをこのまま残しておくと、電荷キャリアトラッピングが起こり、得られるポリ(3−置換チオフェン)の導電性が不十分となることがある。
【0079】
そこで、このような不都合をなくすため、前記末端に残存しているハロゲン原子および活性部位を取り除くため、エンドキャッピングをすることが好ましい。
具体的には、重合反応の終了時において、脂肪族グリニャール試薬、ジアルキルグリニャール試薬または反応性マグネシウムを添加して、残存しているハロゲン原子および活性部位をグリニャール基に転換する。続いて、例えば、過剰なω−ハロアルカンを添加することで、アルキル末端基を得ることができる。なお、このようなグリニャール試薬を使用した反応を実施する場合には、少なくともその段階では非水環境を実現することが必要である。
【0080】
また、グリニャール試薬は一般にRpMgXqなどで示されるが(Rpはアルキル基などであり、Xqはハロゲン原子である)、Rpがヒドロキシルもしくはアミン基またはこれらの保護された形態などの反応性官能基であれば、そのような反応性官能基をポリ(3−置換チオフェン)の末端に導入して、エンドキャッピングをすることができる。なお、グリニャール試薬の代わりに有機リチウム試薬を用い、その後ω−ハロアルカンを添加することにより、エンドキャッピングを行うこともできる。
【0081】
エンドキャッピングは、重合反応混合物からポリ(3−置換チオフェン)を回収する前又は後、あるいはその精製の前又は後など、任意の段階で行うことができる。
その他、エンドキャッピングの詳細な方法は、特表2007−501300号公報に開示されている。
【0082】
<精製工程>
以上の反応の終了後、反応溶液に水を投入して反応を停止させる。次に、過剰のメタノール等のポリマーに対する貧溶媒へ前記の反応溶液を投入することでポリマーを析出させる。これを濾別し、濾物を回収することによりポリマーが得られる。
【0083】
<ポリ(3−置換チオフェン)>
以上説明した本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法により、収率よく、立体規則性の高いポリ(3−置換チオフェン)を得ることができる。
【0084】
具体的には、前記収率は通常20〜99%であり、好ましくは40〜99%であり、従来のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法と同等程度である。
立体規則性(regioregularity)は、通常90〜99%であり、好ましくは95〜99と非常に高い。なお、立体規則性は、1HNMRスペクトル測定による算出が可能であり、その算出方法(評価法)としては、大きく二つの方法が挙げられる。
【0085】
一つの方法としては、ポリ(3−置換チオフェン)においてチオフェン環の4位のプロトンに由来するシグナルを利用する方法で、立体規則性の2,5’(頭−尾)連結に由来するチオフェン環の4位のプロトンに相当するシグナル(A)と、立体不規則性の2,2‘(頭−頭)連結に由来するチオフェン環の4位のプロトンに相当するシグナル(B)、および5,5’(尾−尾)連結に由来するチオフェン環の4位のプロトンに相当するシグナル(C)とを使用する。前記シグナル(A)とポリマー中におけるチオフェン環の4位の総プロトンに相当するシグナル(A+B+C)との積分比によって、立体規則性を見積もることができる。
【0086】
もう一つの方法としては、ポリ(3−置換チオフェン)においてチオフェン環の3位の置換基にαメチレン基を有する場合に限られるが、αメチレン基のプロトンに由来するシグナルを利用する方法で、立体規則性の2,5’(頭−尾)連結に由来するチオフェン環の3位置換基のαメチレンプロトンに相当するシグナル(A‘)と、立体不規則性の2,2‘(頭−頭)連結に由来するチオフェン環の3位置換基のαメチレンプロトンに相当するシグナル(B’)、および5,5’(尾−尾)連結に由来するチオフェン環の3位置換基のαメチレンプロトンに相当するシグナル(C‘)とを使用する。前記シグナル(A‘)とポリマー中におけるチオフェン環の3位置換基のαメチレンの総プロトンに相当するシグナル(A’+B‘+C’)との積分比によって、立体規則性を見積もることができる。
【0087】
また、本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法により製造されたポリ(3−置換チオフェン)の数平均分子量は、通常2,000〜1,000,000であり、好ましくは4,000〜500,000であり、電子部品等にした際に十分な強度を発揮できるものである。なお、本明細書において数平均分子量とは、GPCにより測定した標準ポリスチレン換算の数平均分子量である。重量平均分子量についても同様である。
【0088】
前記ポリ(3−置換チオフェン)の数平均分子量(および重量平均分子量)は、本発明において使用するパラジウム触媒の種類と使用量を変更することにより、調整することができる。具体的には、以下の通りである。触媒の種類(化学構造)の違いにより、重合初期に生成する重合開始活性種の生成率が変化する。触媒の種類による重合開始活性種の生成率は、触媒を構成する配位子の立体構造、電子受容性および電子供与性等の電子構造の違いにより、また触媒分子トータルでの立体構造と中心パラジウム原子における電子受容性および電子供与性の強さの違いとに影響を受けると考えられる。重合開始活性種の生成率は、触媒分子を構成する配位子の選定により変わり、さらに活性モノマーの活性の違いからも影響を受けるために一義的には決まらないが、重合系内に3−置換チオフェンのモノハロゲン体モノマーから脱プロトン化した活性モノマーが安定的に供給される前提条件のもとにおいては、通常、重合開始活性種の生成率が高い場合は、ポリマーとして成長する分子の数が多くなるため、個々のポリマーの低分子量化に導かれ、低い場合は反対に前記ポリマーの高分子量化に導かれると考えられる。
【0089】
同一の化学構造をもつ触媒を使用する場合は、重合開始活性種の生成率は同じであるため、得られるポリマーの分子量はその触媒添加量に依存し、添加量が多い場合は、重合開始活性種が多くなるため、前記ポリマーの低分子量化に導かれ、添加量が少ない場合は反対に高分子量化に導かれると考えられる。
【0090】
前記ポリ(3−置換チオフェン)の分子量分布は、通常1.0〜5.0であり、好ましくは1.0〜2.5であり、従来のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法により得られるポリ(3−置換チオフェン)と同等程度の狭い分子量分布を有している。それゆえ本発明の製造方法により得られるポリ(3−置換チオフェン)は、従来法により製造されるものと同程度の優れた自己集積性を有しており、そのため優れた導電性を示し、電気部品、具体的には有機薄膜太陽電池、有機薄膜トランジスタ、光電変換材料、有機EL材料、ダイオード、トリオード、電気光学的ディスプレイ、反射膜、非線形光学材料などの用途に好適である。
【0091】
このような用途に用いる場合、前記ポリ(3−置換チオフェン)は、増感剤、安定化剤、阻害剤、鎖−転移剤、共−反応モノマーまたはオリゴマー、表面活性化合物、潤滑剤、湿潤剤、分散剤、疎水性化剤、接着剤、流れ改善剤、希釈剤、着色剤、染料、色素、またはドーパントのような、1つ以上のその他の適切な成分を含んでもよい。これらの成分は、たとえば、ポリ(3−置換チオフェン)を適切な有機溶媒中に溶解した後で、この得られた溶液中に添加し、次いで、前記有機溶媒を蒸発することによって添加され得る。
【0092】
なお、ポリ(置換チオフェン)の分子量分布は、モノハロゲン化3−置換チオフェンから脱プロトン化して得られる活性モノマーの供給速度と、パラジウム触媒における酸化的付加および還元的脱離とにより調節することができる。
【0093】
<任意工程>
エンドキャッピングの説明で述べたように、本発明のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法では、上記の活性モノマーの形成およびポリ(3−置換チオフェン)の形成工程の他に、例えば製造されたポリ(3−置換チオフェン)の精製工程を実施してもよい。具体的には、前述の精製のほか、そののちに、さらに触媒残渣除去する工程や、または低分子量体を除去する目的で、回収したポリマーをさらに、ポリマーが溶解する有機溶媒、且つ水への分配係数が低い有機溶媒と、水とを用いて分液を行い、有機溶媒層を回収し、脱水した後、有機溶媒を留去して得られる固体を乾燥させる工程を実施してもよい。
【0094】
また、前記と同じ目的で、回収したポリマーをメタノール、ヘキサン等のポリマーに対しての貧溶媒でソックスレー抽出を行い、抽出物を除去した後、ポリマーに対して溶解性を示す良溶媒でソックスレー抽出を行い、抽出液を回収し、乾燥させる工程を実施してもよい。
【0095】
またさらに、上記と同じ目的で、回収したポリマーをさらに、ポリマーが溶解可能であり、且つTLC(薄層クロマトグラフィー)により展開可能な溶媒を展開溶媒に用いてカラムクロマトグラフィーを行って、精製する工程を実施してもよい。
【実施例】
【0096】
以下実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンの合成>
500mLシュレンク管に3−ヘキシルチオフェン80g(475mmol)、THF450mLを投入した後、0℃に冷却し、攪拌を行った。さらに、得られた溶液にN-ブロモスクシンイミドを93g(523mmol)投入し、引き続き、3時間攪拌を行った。
【0097】
反応終了後、溶媒を留去した後、反応残渣を1Lフラスコへ移し、ヘキサン(300mL)、水(500mL)を投入し、分液を行い、ヘキサン層を分離し、水層を再度、ヘキサン抽出(150mL)した。合わせたヘキサン層を水(200mL)で2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥を行い、溶媒を留去して淡黄色オイルとして粗生成物を得た。さらに粗生成物を減圧蒸留(75℃、-0.4mmHg)し、無色透明オイルとして2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンを得た(130g、収率90%、GC−MS純度99%)。
【0098】
<P3HT(ポリ3−ヘキシルチオフェン)の合成:実施例1〜4>
窒素置換した20mLシュレンク管に2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェン0.494g(2mmol)、パラジウム触媒Pd(tBu3P)220.4mg(前記チオフェンに対して2mol%)、下記表1に示す溶媒10mLを投入し、60℃に加熱し、攪拌を開始した。
【0099】
リチウムt-ブトキシドを下記表1に示す各種添加条件にて、前記の撹拌を行っている反応溶液へ添加し、表1に記載の反応時間で反応を行い、その後水5mLを投入して反応終了とした。
【0100】
反応溶液をメタノール(200mL)へ投入し、ポリマーを析出させ、減圧濾過により濾別し、水、メタノールで洗浄を行い、乾燥した後、乾燥固体として粗ポリ(3−ヘキシルチオフェン)を得た。得られた固体をクロロホルムに溶解させ、濾過し、濾液をエバポレーションした後、真空乾燥することでポリマー固体を得た。
【0101】
得られたポリマーの分子量(重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mn)の測定は、展開溶媒にクロロホルムを使用し、カラムに東ソー製TSKgel GMHHR-H とTSK-GEL G2500HHRを使用し、展開速度1mL/min、ポリスチレン基準でGPCにより行った。
【0102】
得られたポリマーの立体規則性の評価は、1H NMRスペクトルからポリ(3−置換チオフェン)において3位の置換基のαメチレン基のプロトンに由来するシグナルを利用する方法で行い、1H NMRスペクトルの測定には日本電子製JNM−ECX500を使用した。
【0103】
以上の結果を下記表1にまとめる。また実施例1で得られたポリ(3−ヘキシルチオフェン)の1H NMRスペクトルを図1に示す。
【0104】
【表1】

<比較例1>
上記P3HTの合成の実施例の原料2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンを3−ヘキシルチオフェンに代えて合成を行ったが、反応溶液の着色がみられず、反応後、メタノール(200mL)を投入したが、析出物は見られなかった。
【0105】
<比較例2>
上記P3HTの合成の実施例の原料2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンを2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェンに代えて合成を行ったが、反応溶液の着色がみられず、反応後、メタノール(200mL)を投入したが、析出物は見られなかった。
【0106】
<比較例3>
上記P3HTの合成の実施例の合成用溶媒にトルエン(非極性非プロトン性有機溶媒)を使用して合成を行ったが、反応溶液の着色はみられず、反応後、メタノール(200mL)を投入したが、析出物は見られなかった。
【0107】
<比較例4>
上記P3HTの合成の実施例のパラジウム触媒Pd(tBu3P)220.4mg(原料チオフェンモノマーに対して2mol%)を白金触媒Pt(Ph3P)449.7mg(原料チオフェンモノマーに対して2mol%)に代えて合成を行ったが、反応溶液の着色はみられず、反応後、メタノール(200mL)を投入したが、析出物は見られなかった。
【0108】
<比較例5>
上記P3HTの合成の実施例のリチウムt-ブトキシドを水酸化ナトリウム(原料のチオフェンモノマーに対して1.8当量、無機アルカリ金属塩)144mg(5時間毎に0.3当量、24mg添加)に代えて合成を行ったが、反応溶液の着色はみられず、反応後、メタノール(200mL)を投入したが、析出物は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム触媒、有機アルカリ金属塩および極性非プロトン性有機溶媒の存在下、モノハロゲン化3−置換チオフェンを重合することを特徴とする、ポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。
【請求項2】
前記パラジウム触媒が、2座の中性ホスフィン配位子、単座の中性ホスフィン配位子、中性π配位子、一価のアニオン性配位子、二価のアニオン性配位子、単座の中性アミン配位子、2座の中性アミン配位子、中性ニトリル配位子および中性スルフィニル配位子からなる群より選ばれる少なくとも1種の配位子を有し、パラジウムの価数が0価もしくは2価となるように配位構成されているパラジウム錯体であることを特徴とする請求項1に記載のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。
【請求項3】
前記有機アルカリ金属塩が、有機リチウム塩であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。
【請求項4】
前記2座の中性ホスフィン配位子が1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンまたは1,1`−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンであり、
前記単座の中性ホスフィン配位子がトリn―ブチルホスフィン、トリt−ブチルホスフィンまたはトリフェニルホスフィンであり、
前記中性π配位子がベンゼン、シクロブタジエンまたはシクロオクタジエンであり、
前記一価のアニオン性配位子がメチル、フェニル、ヘキサメチルシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、アリル、シクロペンタジエニル、アルコキシ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシラート、アセチルアセトナート、トリフルオロメタンスルフォネート、1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)―4,5−ジヒドロイミダゾ−ル−2−リデン、1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾ−ル−2−リデンまたは1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−リデンであり、
前記二価のアニオン性配位子がフタロシアニン、ナフタロシアニンまたはポルフィリンであり、
前記単座の中性アミン配位子がアンモニア、ピリジンまたは3−クロロピリジンであり、
前記2座の中性アミン配位子がN,N,N`,N`−テトラメチルエチレンジアミン、1,10−フェナンソロリンまたは2,2`−ビピリジルであり、
前記中性ニトリル配位子がアセトニトリルまたはベンゾニトリルであり、
前記中性スルフィニル配位子が1,2−ビス(フェニルスルフィニル)エタンであることを特徴とする請求項2または3に記載のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。
【請求項5】
前記モノハロゲン化3−置換チオフェンに対して、パラジウム触媒の量が0.01〜50モル%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。
【請求項6】
前記モノハロゲン化3−置換チオフェン1当量に対して、前記有機アルカリ金属塩の量が0.1〜10当量であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。
【請求項7】
前記モノハロゲン化3−置換チオフェンが、下記一般式(I)で表される2−ハロゲン化3−置換チオフェンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法:
【化1】

(式(I)において、Rは直鎖もしくは分岐の炭素数1〜12のアルキル基、直鎖もしくは分岐の炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基または炭素数3〜12のシクロアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。)。
【請求項8】
前記極性非プロトン性有機溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、N,N,N',N'-テトラメチルアゾジカルボキサアミド、N,N−ジメチルチオホルムアミド、ビス(ジエチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、1−オクチル−2−ピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン、1,1−カルボニルジピペリジン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)ピリミジノン、N,N,N',N'-テトライソブチル尿素およびN,N,N',N'-テトラメチル尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。
【請求項9】
前記極性非プロトン性有機溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)および/またはN,N,N',N'-テトラメチル尿素であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリ(3−置換チオフェン)の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−25887(P2012−25887A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167466(P2010−167466)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】