説明

ポンプの押下げヘッド及び押下げヘッド式吐出ポンプ

【課題】梃部材と第1の付勢手段を用いて弁棒部材を進退させてノズルを開閉するタイプの押下げヘッド付き吐出ポンプにおいて、弁棒部材の基部と先部との間に第2の付勢手段を介在させることで、空気の逆流を防止することが可能なものを提供する。
【解決手段】吐出ポンプのステム6に連通する通液菅36を、前方にノズル34を開口する横向きのシリンダ部30の下面から垂下させてヘッド本体24を形成し、ヘッド本体24を押し下げると、シリンダ部30内に内蔵した弁棒部材52が進退するようにした押下げヘッド式吐出ポンプにおいて、弁棒部材52を基部58と先部66とで形成し、これら基部58と先部66との間に第2の付勢手段70を介装した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプの押下げヘッド及び押下げヘッド式吐出ポンプ、特に液体やクリームなどの吐出に適した押下げヘッド及び押下げヘッド式吐出ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプの押下げヘッドとして、ポンプのステムと連通する摺動筒を台板から立設する台部材と、上記摺動筒と液密に嵌合させる通液管を、前方にノズルを開口する横向きのシリンダ部の下面から垂下してなるヘッド本体と、上記シリンダ部内に前方付勢させて内装した弁棒部材と、この弁棒部材の後端に一端を連係するとともに他端を上記台板に当接させ、中間部をヘッド本体に枢支させた梃部材とからなるものが知られている。台部材に対してヘッド本体を押し下げると、梃部材の回動により弁棒部材が後方に引かれて、ノズルが有する弁座との間に形成するノズル弁が開き、上記押下げを解除すると、ノズル弁が閉じるように構成している(特許文献1及び特許文献2)。また、弁棒部材を前進・後退させるものとしては、種々の構成が知られている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−000834
【特許文献2】特開2007−229604
【特許文献3】特開2005−103424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2の押下げヘッド付き吐出ポンプにおいては、押下げヘッドを介して筒状ピストンを下限位置まで押し下げた後に、外部の空気がノズル弁から吐出ポンプ内部へ逆流するおそれがあった。これは何故かというと、筒状ピストンが下限位置まで達した後には、弁棒部材の前方付勢力によって梃部材が回動し、台部材に対してヘッド本体が上昇して、ノズル弁が閉じる筈であるが、この閉弁過程では幾つもの部材がそれぞれの動作をし、各動作毎に摩擦抵抗があるために、筒状ピストンが下限位置より上昇に転じてからノズル弁が閉じるまでに僅かに時間のギャップがある。その間に吐出ポンプのステムに対して押下げヘッドの摺動筒が上昇するためにステムの内部が負圧になるために外部の空気を引きこんでしまうのである。
【0005】
そして空気がシリンダ部内に入ると、シリンダ部内の内容物と接触するので、この内容物が乾燥して固化する可能性がある。そして固化した物質がシリンダ部内に蓄積されると内容物の円滑な吐出を妨げる。また内容物の性質によっては内容物の品質が低下するおそれもある。
【0006】
本発明の第1の目的は、弁棒部材を進退させてノズルを開閉するタイプの押下げヘッド及び押下げヘッド式吐出ポンプにおいて、弁棒部材の基部と先部との間に付勢手段を介在させることで、空気の逆流を防止することが可能なものを提供することである。
【0007】
本発明の第2の目的は、弁棒部材の基部と先部とを別体とするとともに、これら基部と先部との係合によりノズルを確実に閉塞できるものを提案することである。
【0008】
本発明の第3の目的は、弁棒部材の基部と先部とを別体にするとともに、組立作業時には先部に対して基部を進退可能に係止させ、組み付けを容易としたものを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の手段は、
吐出ポンプのステム6に連通する通液管36を、前方にノズル34を開口する横向きのシリンダ部30の下面から垂下してなるヘッド本体24と、
上記シリンダ部30内に内装された弁棒部材52と、
この弁棒部材52を前方付勢させる第1の付勢手段62とを具備し、
ノズル34が有する弁座35と弁棒部材52の先端部分とでノズル弁56を形成し、ヘッド本体24を押し下げると、弁棒部材52が後退し、上記押下げを解除すると、第1の付勢手段62の前方付勢力により弁棒部材52が前進するように構成したポンプの押下げヘッドにおいて、
上記弁棒部材52を、上記第1の付勢手段62で前方付勢されている基部58と、基部58から更に前方へ進退可能に突出する先部66とで形成するとともに、
基部58に対して先部66を弁座35側へ前方付勢する第2の付勢手段70を設けることで、基部58が後退した状態において、シリンダ部30の内圧の上昇により先部66が第2の付勢手段70の付勢力に抗して弁座35から離れ、上記内圧の下降により弁座35を閉塞することが可能に形成している。
【0010】
本手段は、弁棒部材52が前進・後退してノズル孔を開閉するタイプの吐出ポンプ用押下げヘッドにおいて、エアの流入防止機能を有するものを提案している。前述の通りエアが流入する原因は、吐出ポンプのステム6が下限位置から上昇に転じた時点からヘッド本体24及び弁棒部材52が元の位置に復帰するまでに時間がかかることであった。そこで弁と連動する各パーツの構成のうち、弁座35を直接塞ぐ弁棒部材52の先部66を、動きの遅い残りの構成部分から分けて、機敏に前進し弁座を閉じることができるようにしたことが、本手段の要旨である。
【0011】
本発明において、「ヘッド本体24」は従来公知の構造であり、その機能を簡単に説明すると上下動可能な操作部である。また、ヘッド本体24はシリンダ部30を内蔵しているが、このシリンダ部30は、弁棒部材52を前後方向へスライド可能に抱持する機能を有する略筒形のものであればよい。
【0012】
「弁棒部材52」は、シリンダ部30内を進退し、ノズル弁56を開閉することでノズル孔からの液垂れなどを防止する。弁棒部材52は、基部58と先部66とに区分される。これら基部58と先部66とは、少なくとも基部58に対して先部66が前進し、ノズルを閉塞することが可能な構造であれば足りるが、好適な図示例の如く別体として形成することが望ましい。
【0013】
「基部58」は、シリンダ部30の奥部を貫通する長尺材であり、その奥部に対して第1の付勢手段62で前方付勢されている。これにより、上記前方付勢力に抗して基部58が後退することが可能である。
【0014】
「先部66」は、基部58が前限位置にあるときには、従来の一体型の弁棒部材52の先半部と同じようにノズルの弁座を密閉する機能を有する。また、基部58が後限位置側へ移動したときには、第2の付勢手段70の前方付勢力により、シリンダ部30内の圧力が高いときには弁座35から離れて後方へ移動し、圧力が低いときには、前方へ移動して弁座35に着座することができるように形成している。この動きを可能とするために、先部66はシリンダ部30内の圧力を前面側で受けて後退することが可能な形状を有する。これについては後述する。
【0015】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ、
第2の付勢手段70の前方付勢力を第1の付勢手段62の前方付勢力よりも小としている。
【0016】
「第1の付勢手段62」及び「第2の付勢手段70」は、閉弁のために通常使用される弾性手段(コイルスプリング、弾性リングなど)で形成することができる。本手段では、第1の付勢手段62をシリンダ部30内に装着した状態において、上記の如く下降させたヘッド本体24を弁棒部材52を介して押し上げるのに十分な弾性E1を発揮するように設計する。また、第2の付勢手段70は、基部58と先部66との間に介装された状態で、次の式(1)で表わされる弾性E2を有するように設計する。何故ならば、押下げヘッドの作動部分を押し上げるよりも作動部分の一部(弁棒部材の先部)を前進させる方が少ない力で足りるからである。
E1>E2 ・・・(1)
他方、第2の付勢手段70は、図5の如く弁棒部材52の先部66が後退した状態において、少なくとも先部とシリンダ部30内壁との静摩擦抵抗D1よりも大きな弾発力を発揮するように設計する。この条件が満たされなければ先部66を後限位置から弁座35側へ移動させることができないからである。さらに内容物が粘稠流体である場合には、この流体とシリンダ部30内壁との摩擦抵抗(流体摩擦)D2をも考慮しなければならない。図5のように先部66が後限位置にあるときの弾発力をF2とすると、次式(2)のようになる。この点については実施の形態の欄でさらに説明する。粘性率が30〜70000cp(0.03〜70Pa・s)程度の流体であっても本発明を適用できる程度の弾発力を有するように設計することが望ましい。
F2>D1+D2 ・・・(2)
さらに第2の付勢手段70は、コイルスプリングなどの伸縮可能な弾性体で形成するとともに、この弾性体の自然長を、基部58が後限位置にあるときの弾性体の基部58側及び先部66側の各取付け箇所よりも長く設ける。そうすることで、基部が後退した状態から先部が先行して前進し、弁座を閉じることが可能となる。
【0017】
第3の手段は、第1又は第2の手段を有し、かつ、
上記通液管36と液密に嵌合する摺動筒20を台板16から立設する台部材12と、上記弁棒部材52の基部58の、先部側と反対側となる後端に一端を連係するとともに他端を上記台板16に当接させ、中間部をヘッド本体24に枢支させた梃部材46とをさらに具備し、
上記台部材12に対してヘッド本体24を押し下げると、上記梃部材46の回動により上記弁棒部材52の基部58が後退することが可能に形成している。
【0018】
本提案では、ヘッド本体24に枢着した梃部材46の回動により、梃部材46と連係した弁棒部材52の前進・後退を能動的に補助することで、ノズル弁56の開閉を円滑とできるようにすることを提案している。なお、ここでの「台部材12」及び「梃部材46」は従来公知の構成であり、それぞれ、ヘッド本体24内に配置され、ヘッド本体24を昇降可能に案内するとともに梃部材46の一端を係止する台座としての機能、および、ヘッド本体24の上下動を弁棒部材52の前後動に変換する機能を有する。この場合の第1の付勢手段62は、下降させたヘッド本体24を、弁棒部材52及び梃部材46(台部材に対する作動部分)を介して押し上げ、かつ梃部材46を回動させるのに十分な弾性E1を発揮するように設計する。
【0019】
第4の手段は、第1、第2又は第3の手段を有し、かつ、
上記基部58と先部66とを前後方向の水平線上に配列された別体のパーツとするとともに、
これら基部58及び先部66の対応箇所に、基部58の後退状態で相互に分離し、基部58の前進状態で相互に接する第1係合部64及び第2係合部72を形成し、そして基部が前限位置にあるときにこれら第1、第2係合部64、72を介して第1の付勢手段62の前方付勢力で先部66を弁座35後面に液密に圧接することが可能に構成している。
【0020】
本手段では、基部58の前部が押下げヘッド10が押し下げられていない状態で弁棒部材52の先部と係合し、第1の付勢手段62の前方付勢力をノズル裏面に当接する先部66に伝達している。つまり、基部58と先部66とが閉弁時に相互に係合して閉弁状態を維持できるようにすることを提案している。具体的には図1に示すように基部側の第1係合部64の前面と先部側の第2係合部72の後面とがノズル弁56の閉弁時に当接するように構成すればよい。
【0021】
第5の手段は、第4の手段を有し、かつ、
上記先部66を、先端を閉塞した筒体とするとともに、その筒体の筒軸方向の一部を大外径部54として、この大外径部54の外側面を、シリンダ部30の内面に液密に摺動するシール面に、また少なくとも大外径部54の前面を、シリンダ部30内の圧力を受けて先部66を後退させるための受圧面74とし、
さらに基部58を、前後方向に長い棒体とし、
この棒体の前半部を、上記先部66の筒穴68内に挿入させ、この筒穴68の前部と基部58の前半部との間に第2の付勢手段70を介装させたことを特徴としている。
【0022】
本手段は、先部を前端面閉塞の筒体とし、その筒穴内に棒体である基部の前半部を挿入可能とし、その筒穴の前部(奥部)と基部の前半部との間にコイルスプリングなどの第2の付勢手段70を介装させることを提案している。このようにすることで棒状の基部58に対して筒状の先部66を筒軸上で安定的に進退させることができる。また、その先部66の筒壁の筒軸方向の一部を大外径部54とし、この大外径部54の外面をシリンダ部30内面への摺動可能なシール面としている。これによりシリンダ部30に対する先部66のストロークが安定するとともに、第2の付勢手段70と内容物(液状物)との接触を回避させることができるため、特に当該付勢手段が金属である場合に有効である。さらに大外径部54を形成することでシリンダ部30内の内容物(液状物)と接する受圧面を広くすることができる。
【0023】
第6の手段は、第5の手段を有し、かつ
上記基部58の前半部に係止部78を、上記先部66の筒穴68内に被係止部82をそれぞれ形成して、係止部78を被係止部82に係止させることで基部58と先部66とを一体的に連係させ、
かつ基部58の前端と筒穴68の奥部との間に移動代を設けている。
【0024】
本手段では、別体として形成された基部58と先部66とを相互に仮止めしておくための係止部及び被係止部を設けることを提案している。こうすることで弁棒部材52を一つにユニット化することができ、その弁棒部材52を部品として保管する際にも、また組み付けの際にも有利である。
【0025】
第7の手段は、押下げヘッド式吐出ポンプであり、
ポンプシリンダ2内を摺動する筒状ピストン4からステム6を起立し、かつこのステム6の上端に上記第1の手段から第6の手段の何れかに記載した押下げヘッド10を装着させ、筒状ピストン4を押し下げたときのポンプシリンダ2内の圧力に対応して弁棒部材52の先部66が弁座35から離脱し、かつ筒状ピストン4が下限位置から上方へ復帰するときに弁棒部材52の先部が弁座35を閉塞するように、第2の付勢手段70の前方付勢力を設定している。
【0026】
本手段では、先の手段を適用した押下げヘッド式吐出ポンプを提案している。弁棒部材52の先部66が弁座35を閉鎖する条件としては、次のように考える。例えば、図1に示す台部材12を備えた押下げヘッドの一連の動作において台部材12に対してヘッド本体24が昇降する距離Δh(摺動代)を設定して、吐出弁及びノズル弁56が閉じている状態で上記ヘッド本体24の上昇によりシリンダ部30内に発生する負圧の絶対値をΔPとする。そのとき第2の付勢手段70の弾発力が上記ΔPより大となるように弾性係数を設定すればよい。
【発明の効果】
【0027】
第1の手段及び第7の手段に係る発明によれば、押下げヘッド又は押下げヘッド式吐出ポンプにおいて、弁棒部材52を基部58と先部66とに分けて、ヘッド本体24に対して基部58を前方付勢する第1の付勢手段62及び基部58に対して先部66を前方付勢する第2の付勢手段70をそれぞれ設けたから、基部58が後方へ後退した状態のままで、先部66がノズル34を閉塞することができ、空気の逆流を防止することができる。
【0028】
第2の手段に係る発明によれば、前記先部によるノズルの閉塞をより確実に達成できる。
【0029】
第3の手段に係る発明によれば、ヘッド本体24に枢着した梃部材46の回動により、梃部材46と連係した弁棒部材52の前進・後退を能動的に補助するようにしたから、ノズル弁56の開閉を円滑に行うことができる。
【0030】
第4の手段に係る発明によれば、第1係合部64及び第2係合部72を介して第1の付勢手段62の付勢力で先部66を弁座35の後面に当接するようにしたから、液漏れを確実に防止できる。
【0031】
第5の手段に係る発明によれば、先部66を、基部58とは別体の筒体とし、先部66の筒体における軸方向一部をシリンダ部30内に液密に嵌合させたから、特に第2の付勢手段70を金属などで形成したときに、内容物(液状物)が第2の付勢手段70に接しないようにすることができ、内容物の変質や付勢手段の劣化の抑制に効果的である。
【0032】
第6の手段に係る発明によれば、上記基部58と先部66とを、それぞれ係止部78及び被係止部82を形成することで一体化したから、組み付けが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る押下げヘッド式吐出ポンプの縦断面図 である。
【図2】図2は、図1の押下げヘッド式吐出ポンプの作用の第1段階を示す縦断面図である。
【図3】図3は、図2の段階での要部縦断面図である。
【図4】図4は、図1の押下げヘッド式吐出ポンプの作用の第2段階を示す縦断面図である。
【図5】図5は、図4の段階での要部縦断面図である。
【図6】図6は、図1の押下げヘッド式吐出ポンプの作用の第3段階を示す縦断面図である。
【図7】図7は、図6の段階での要部縦断面図である。
【図8】図8は、本発明の第2実施形態に係る押下げヘッド式吐出ポンプの縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1から図7は、本発明の第1の実施形態に係る押下げヘッド式吐出ポンプ及び押下げヘッドを示している。説明の都合上、この押下げヘッド式吐出ポンプの構成を、本発明の前提となる基本的構造と、発明のポイントと係りの深い特徴的構造とに分けて、まず前者を解説する。
【0035】
この押下げヘッド式吐出ポンプの本体1は、下端部に吸込み弁2aを有するポンプシリンダ2と、このポンプシリンダ内を摺動する筒状ピストン4と、この筒状ピストンが上下動可能に装着されるピストンガイド5と、このピストンガイドの上部に外嵌された吐出弁6a付きのステム6とを有する。また、ステム6の上端部には押下げヘッド10が付設されている。上記ピストンガイド5とポンプシリンダ2の下部との間にはピストンガイドを介してステム6を上方に付勢する上方付勢手段4aであるコイルスプリングが介装されている。8は、ポンプシリンダ2を容器体の口頸部に固定するための装着部材である。
【0036】
押下げヘッド10は、台部材12と、ヘッド本体24と、支持盤38と、梃部材46と、弁棒部材52とで形成している。これら各部材は合成樹脂で形成することができる。
【0037】
台部材12は、ステム6の上端部に嵌合させた嵌合筒14の上端から外方に延設されたフランジ状の台板16を介して案内周壁18を垂下するとともに、台板16の内周部から摺動筒20を起立する。また、図示例では台板16の内縁から複数の連結片を介してステム6内に突片22を垂下している。
【0038】
ヘッド本体24は、頂板26の周縁から外周壁28を垂下するとともに、この外周壁28の前部に開口を穿設する。そしてこの開口を前端面とするとともに頂板26の一部を含み前端部からヘッド本体内に延設される筒状体を形成する筒壁30aと、この筒壁30aの後面を閉塞する後壁30bと、この後壁30bの前面から前方へ突出した案内筒30cとで、シリンダ部30を形成する。上記後壁30bとヘッド本体24の外周壁28後部との間には空所(移動代)Sを設ける。図示例では、シリンダ部30の前半部に、ヘッド本体24から前端部を突出させて補助筒32を嵌着させている。この補助筒32の前端部は、先端をテーパ状に小径としたノズル34とする。ノズル34のノズル孔の孔縁はやや小径としてこの孔縁後部を弁棒部材52との弁座35としている。さらにシリンダ部30の筒壁30aの後半部の下側に連通孔を穿設して、この連通孔から通液管36を垂下する。そしてこの通液管36を、台部材12の摺動筒20外面に、また上記外周壁28を案内周壁18の外面にそれぞれスライド可能に嵌合する。
【0039】
支持盤38は、中心部に支持孔40を、後部に通孔42をそれぞれ穿設するとともに通孔42の左右両側に軸受け部44を形成する。そして上記支持孔40をヘッド本体24の通液管36の外面に、また支持盤38の外縁部を上記ヘッド本体24の外周壁28内面にそれぞれ嵌着している。
【0040】
梃部材46は、上記軸受け部44に中間部を軸着して、この中間部から弁棒部材52との連係用の第1のアーム48を上記空所内へ起立するとともに、中間部から斜め前下方へ二股状の第2のアーム50を突出してなり、側方から見て図1の如く”く”の字状に形成されている。第2のアーム50は、通液管36及び摺動筒部20を中間に挟んで台座部分上面に摺動可能に当接している。
【0041】
弁棒部材52の基部58は、シリンダ部30内からシリンダ部30の後壁30bを貫通して空所S内へ突出し、梃部材46の第1のアーム48の先端部に連係させている。弁棒部材52の先部66は後半部に大外径部54を有し、この大外径部54を上記シリンダ部30の案内筒30c内面に液密かつ摺動可能に嵌合している。弁棒部材52の前端部(先部66)はノズル34の後面側の弁座35に当接させ、ノズル弁56を形成している。
【0042】
本発明においては、弁棒部材52を、相互に独立して前後動可能な基部58と先部66とで形成する。なお、本明細書で「基部」とは基端寄りの一つの可動部を、「先部」とは先端よりの他の一つの可動部をいうものとする。この実施形態では、基部58を棒体とし、先部66を筒体としている。そして基部58の後端部が、シリンダ部30の後壁30b及び梃部材46の第1アーム48上端部をそれぞれ貫通してこの第1アーム48上端部後面に係止されている。また、基部58の長手方向中間箇所に中太部60を形成して、この中太部60の後側の段差面とシリンダ部30の後壁30b前面との間に、第1の付勢手段62である第1コイルスプリングを介装する。また、中太部60の前側の段差面の内周部と筒形の先部66の筒穴68の奥部(前面)との間に、第2の付勢手段70である第2コイルスプリングを介装している。さらに中太部60の前側の段差面の外周部を、先部66との係合用の第1係合部64としている。
【0043】
先部66は、前後方向へ長い筒穴68を有し、筒穴68の後半部を段差を介して拡開する大内径部としている。また、上記段差面を、上記第1係合部64と係合可能な第2係合部72としている。先部66は、その筒体の後端から前外方へ折り返して、この折り返し部分を上記の大外径部54としている。筒穴68の前半部内周面と基部58の前半部外周面との間には、第2の付勢手段70である第2コイルスプリングを挿入可能なスペースを設ける。先部66の表面のうちシリンダ部内の液圧を後向きに受ける部分は、受圧面74を形成する。図示例では受圧面の殆どを大外径部54前面が占める。この受圧面74に液圧の後方成分が作用することで先部66が後退するように構成されている。
【0044】
第2の付勢手段70である第2コイルスプリングは、第1の付勢手段62である第1コイルスプリングよりも弾性係数が小さい、弱いばねを使用するものとする。もっとも第2コイルスプリングは、基部58が後退した状態で筒状ピストン4が下限位置から上昇するときに、先部66がシリンダ部30の筒壁30aとの摩擦抵抗に抗して前進することが可能な程度の前方付勢力を有するものとする。周知の如く物と物との摩擦抵抗は、動いている状態よりも静止している状態の方が大きいので、先部66が後限位置から前方へ動き出すことが可能な条件を満たせばよい。この条件を満たすには、既述の数式2(F2>D1+D2)の関係を満たせばよい。本実施形態ではD1はシリンダ部30の案内筒30c内面と先部の大外径部54外面との摩擦抵抗であり、D2は先部66(主に大外径部54)の表面が移動する際に受ける流路内面との摩擦抵抗とする。この摩擦抵抗D2は内容物の粘性率に応じて決定される。通常の洗髪用シャンプーの粘性率は5000cp(5Pa・s)程度である。さらに第2コイルスプリングの自然長は、図3の如く基部58が後限位置まで後退したときのコイル後端の取付け箇所(第1係合部)とコイル前端の取付け箇所(筒穴前面)との間の距離より大きく設定する。
【0045】
上記構成において、図1の状態から、押下げヘッド10を押し下げると、図2に矢示する如くヘッド本体24が台部材12に対して下降する。この台部材12の上面に第2のアーム50下端が係止しているので、梃部材46が軸の周りを回動し、図3に矢示する如く第1のアーム48が後退して、弁棒部材52の基部58が第1の付勢手段62の弾性力に抗して後退する。基部58の後退に伴って第2の付勢手段70が圧縮された状態から伸びる。この段階では図3に示すように先部66が未だ弁座35から離脱しない。ヘッド本体24が台部材12に対して下がりきると、次に図4に矢示する如く押下げヘッド10とともにステム6及び筒状ピストン4が下降し、ポンプシリンダ2内の液体がステム6を介してシリンダ部30内に送られる。これによりシリンダ部30内の液圧が上昇し、この液圧が先部66の受圧面74に作用するので、図5に矢示する如く第2の付勢手段70の弾性力に抗して先部66が弁座35から離れて後退する。これによりノズル弁56が開き、シリンダ部30内の液体が噴出する。筒状ピストン4が下限位置まで下がると(図6参照)、ポンプシリンダ2からシリンダ部30までの空間の液圧が常圧に戻る。このため、弁棒部材52の先部66が第2の付勢手段70の弾発力により図7に矢示する如く基部58に対して前進し、弁座35を閉塞する。
【0046】
他方、筒状ピストン4が下限位置に達した段階で押下げヘッド10の押下げ力を解放すると、ステム6が上昇して吐出弁6aが閉じるとともに、第1の付勢手段62の弾性力により弁棒部材52の基部58が初期位置へ向かって前進し始める。これと同時に梃部材46の回動によりヘッド本体24が台部材12に対して上昇を開始する。このため、吐出弁6aからノズル34に至るまでの流路が長くなり、一時的に負圧化する。従来であれば負圧化によりノズルから外気が流入するのであるが、本発明では、予め弁棒部材52の先部66により弁座35が閉じているので、空気の流入が起こらない。また、前記第2の付勢手段70の付勢力は、前記負圧化によっても、先部66と弁座35の当接(閉塞)状態が維持されるように設定される。
【0047】
なお、この実施形態ではヘッド本体24に枢着した梃部材46の回動により、梃部材46と連係した弁棒部材52の後退・前進を能動的に補助しているが、梃部材46を省略して、シリンダ部30の内圧の上昇・下降のみにより弁棒部材52を受動的に後退・前進させることもできる。また、弁棒部材52の基部58を後退させる機構としては、押下ヘッド10を押し下げることにより弁棒部材52と連係して、当該弁棒部材52を後退させる構成のものであればよく、種々の機構を採用することができる。
【0048】
図8は、本発明の第2実施形態を示している。この実施形態では、弁棒部材52の基部58の前部を小径棒部76に、筒穴68の前部を小径穴部80にそれぞれ形成している。そして小径棒部76の外面先端に係止部78である第1リブを、小径穴部80の内縁に被係止部82である第2リブを、各リブ相互を強制的に乗り越えさせることが可能にそれぞれ周設した。このようにすることで基部58の小径棒部76を先部66に連係させることを可能としている。
【符号の説明】
【0049】
1・・・吐出ポンプ本体
2・・・ポンプシリンダ
2a・・・吸込み弁
4・・・筒状ピストン
4a・・・筒状ピストン上方付勢手段
5・・・ピストンガイド
6・・・ステム
6a・・・吐出弁
8・・・装着部材
10・・・押下げヘッド
12・・・台部材
14・・・嵌合筒
16・・・台板
18・・・案内周壁
20・・・摺動筒
22・・・突片
24・・・ヘッド本体
26・・・頂板
28・・・外周壁
30・・・シリンダ部
30a・・・筒壁
30b・・・後壁
30c・・・案内筒
32・・・補助筒
34・・・ノズル
35・・・弁座
36・・・通液管
38・・・支持盤
40・・・支持孔
42・・・通孔
44・・・軸受け部
46・・・梃部材
48・・・第1のアーム
50・・・第2のアーム
52・・・弁棒部材
54・・・大外径部
56・・・ノズル弁
58・・・基部
60・・・中太部
62・・・第1の付勢手段
64・・・第1係合部
66・・・先部
68・・・筒穴
70・・・第2の付勢手段
72・・・第2係合部
74・・・受圧面
76・・・小径棒部
78・・・係止部
80・・・小径穴部
82・・・被係止部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出ポンプのステム6に連通する通液管36を、前方にノズル34を開口する横向きのシリンダ部30の下面から垂下してなるヘッド本体24と、
上記シリンダ部30内に内装された弁棒部材52と、
この弁棒部材52を前方付勢させる第1の付勢手段62とを具備し、
ノズル34が有する弁座35と弁棒部材52の先端部分とでノズル弁56を形成し、ヘッド本体24を押し下げると、弁棒部材52が後退し、上記押下げを解除すると、第1の付勢手段62の前方付勢力により弁棒部材52が前進するように構成したポンプの押下げヘッドにおいて、
上記弁棒部材52を、上記第1の付勢手段62で前方付勢されている基部58と、基部58から更に前方へ進退可能に突出する先部66とで形成するとともに、
基部58に対して先部66を弁座35側へ前方付勢する第2の付勢手段70を設けることで、基部58が後退した状態において、シリンダ部30の内圧の上昇により先部66が第2の付勢手段の付勢力に抗して弁座35から離れ、上記内圧の下降により弁座35を閉塞することが可能に形成したことを特徴とする、ポンプの押下げヘッド。
【請求項2】
前記第2の付勢手段70の前方付勢力を前記第1の付勢手段62の前方付勢力よりも小としたことを特徴とする、請求項1記載のポンプの押下げヘッド。
【請求項3】
上記通液管36と液密に嵌合する摺動筒20を台板16から立設する台部材12と、上記弁棒部材52の基部58の、先部側と反対側となる後端に一端を連係するとともに他端を上記台板16に当接させ、中間部をヘッド本体24に枢支させた梃部材46とをさらに具備し、上記台部材12に対してヘッド本体24を押し下げると、上記梃部材46の回動により上記弁棒部材52の基部58が後退することが可能に形成したことを特徴とする、請求項1又は2記載のポンプの押し下げヘッド。
【請求項4】
上記基部58と先部66とを前後方向の水平線上に配列された別体のパーツとするとともに、
これら基部58及び先部66の対応箇所に、基部58の後退状態で相互に分離し、基部58の前進状態で相互に接する第1係合部64及び第2係合部72を形成し、そして基部が前限位置にあるときにこれら第1、第2係合部64、72を介して第1の付勢手段62の前方付勢力で先部66を弁座35後面に液密に圧接することが可能に構成したことを特徴とする、
請求項1から3の何れか一項に記載のポンプの押下げヘッド。
【請求項5】
上記先部66を、先端を閉塞した筒体とするとともに、その筒体の筒軸方向の一部を大外径部54として、この大外径部54の外側面を、シリンダ部30の内面に液密に摺動するシール面に、また少なくとも大外径部54の前面を、シリンダ部30内の圧力を受けて先部66を後退させるための受圧面74とし、
さらに基部58を、前後方向に長い棒体とし、
この棒体の前半部を、上記先部66の筒穴68内に挿入させ、この筒穴68の前部と基部58の前半部との間に第2の付勢手段70を介装させたことを特徴とする、請求項4記載のポンプの押下げヘッド。
【請求項6】
上記基部58の前半部に係止部78を、上記先部66の筒穴68内に被係止部82をそれぞれ形成して、係止部78を被係止部82に係止させることで基部58と先部66とを一体的に連係させ、
かつ基部58の前端と筒穴68の奥部との間に移動代を設けたことを特徴とする、請求項5記載のポンプの押下げヘッド。
【請求項7】
ポンプシリンダ2内を摺動する筒状ピストン4からステム6を起立し、かつこのステム6の上端に上記請求項1から請求項6の何れかに記載した押下げヘッド10を装着させ、筒状ピストン4を押し下げたときのポンプシリンダ2内の圧力に対応して弁棒部材52の先部66が弁座35から離脱し、かつ筒状ピストン4が下限位置から上方へ復帰するときに弁棒部材52の先部66が弁座35を閉塞するように、第2の付勢手段70の前方付勢力を設定したことを特徴とする、押下げヘッド式吐出ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−132351(P2010−132351A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243594(P2009−243594)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】