説明

ポンプ式吐出容器

【課題】ポンプ式吐出容器において、ポンプ式吐出容器をコンパクトにしつつ内容液のコイルスプリングによる変質を防止する。
【解決手段】内容液を収容する容器本体11と、容器本体11に装着されるポンプハウジング30とを有し、ポンプハウジング30に往復動可能に挿入されるピストン60を備え、且つピストン60によるポンプ室31の圧縮状態でポンプ室31と連通する吐出流路を備えるステム50と、ステム50の上端部に固定されるノズルヘッド51とを有するポンプ式吐出容器10であって、ノズルヘッド51の押圧によってポンプ室31を縮小させたピストン60を上方に付勢する金属製コイルスプリング70が、ポンプ室31の内部に内容液と接触する状態で配置され、金属製コイルスプリング70は樹脂によりコーティングされており、容器本体に収容された内容液が1分子中のベンゼン環にカテコール骨格を有するポリフェノール類を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポンプ式吐出容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ式吐出容器として、特許文献1に記載の如く、容器本体の口部に固定したキャップに対して往復動可能に設けられるノズルヘッドと、ノズルヘッドの往復動と共に往復動するピストンとを備え、ピストンによって減容されたポンプ室から圧送された内容液をステムの吐出流路を介して吐出口から吐出し、ピストンによってポンプ室の容積が拡大すると、容器本体に収容された液が、ポンプ室に連通する吸引パイプを介してポンプ室に吸引されるものがある。
【0003】
特許文献1に記載のポンプ式吐出容器では、ノズルヘッドの押圧によってピストンがポンプ室に押し込み挿入していき、ポンプ室を減容させ、ノズルヘッドの押圧を解除すると、ポンプ室内部に配置されたコイルスプリングによってピストンとノズルヘッドとが押圧前の位置に復元される。従って、コイルスプリングは、内容液と常に接触状態にある。
【0004】
これに対して、特許文献2に記載のポンプ式吐出容器の如く、コイルスプリングをポンプ室の外側であって、容器本体内の内容液と接触させない位置に設けたものや、特許文献3に記載のポンプディスペンサーの如くに、ポンプハウジング内に配置されるバネ部品を樹脂のみによって構成したものがある。
【特許文献1】実開平6−30065号公報
【特許文献2】特開2004−352343号公報
【特許文献3】特開2007−75669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のポンプ式吐出容器では、ピストン及びノズルヘッドを押圧位置から復元させるコイルスプリングが内容液と常に接触状態にあるため、コイルスプリングが金属製である場合には、内容液によっては内容液とコイルスプリングが反応し、内容液を変色させたり、臭いを発生させたり、又はコイルスプリング自体の腐食や劣化を進める虞がある。これに対して特許文献2のポンプ式吐出容器では、コイルスプリングは内容液と接触しないが、押圧されたノズルヘッドとピストンを元の位置に復元させるために十分な長さのコイルスプリングが必要なため、ポンプハウジングとノズルヘッドとの間に配置されるコイルスプリングの長さ分だけポンプ装置、及び容器全体が大きなものになる。また、特許文献3の樹脂製のバネ部品は、金属製コイルスプリングに比べて弾性力が弱いため、ある程度の付勢力(弾性力)を得るように大きくする必要がある。
【0006】
本発明の課題は、ポンプ式吐出容器において、金属製コイルスプリングを採用しつつ、内容液の変質を防止し、かつコンパクトなポンプ式吐出容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、内容液を収容する容器本体と、容器本体に装着され、容器本体内に吸引パイプを介して連通可能とされるポンプハウジングとを有し、ポンプハウジングに往復動可能に挿入され、ポンプハウジング内のポンプ室を拡縮可能とするピストンを備え、ピストンによるポンプ室の圧縮状態でポンプ室と連通する吐出流路を備えるステムと、ポンプハウジングの外部に突出するステムの端部に固定され、ステムの吐出流路に連通する吐出口を備えるノズルヘッドとを有するポンプ式吐出容器であって、ノズルヘッドの押圧によってポンプ室を縮小させたピストンを、ポンプ室を拡大させる方向に付勢する金属製コイルスプリングが、ポンプ室内部に配置されて内容液と接触状態にあり、この金属製コイルスプリングは樹脂によりコーティングされており、さらに、容器本体に収容された内容液が1分子中のベンゼン環にカテコール骨格を有するポリフェノール類を含有したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポンプ式吐出容器によれば、金属製コイルスプリングを採用しつつ、内容液の変質を防止し、かつコンパクトな形状を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ポンプ式吐出容器10は、図1(a)に示す如く、化粧料等の内容液が収容された容器本体11の口部11Aに、キャップ20の取付部20Aを固定する。キャップ20の取付部20Aの内側部にはポンプハウジング30が配置され、キャップ20の天面側に配置する中央開口壁部20Bにポンプハウジング30の上端開口部30Bが嵌着されている。ポンプハウジング30は内部にポンプ室31を画成するとともに、容器本体11内に吸込み口31Aを介して連通可能とされ、吸込み口31Aの下端に容器本体11の底部まで延びる吸引パイプ40が取着されている。吸込み口41Aとポンプ室31との間には吸引パイプ40からプンプ室31への内容液の流れのみを許容する逆止弁32が設けられている。本実施形態のポンプ式吐出容器10の逆止弁32は、ピストンガイド33の端部の筒状弁部33Aによって構成されている。
【0010】
ポンプ式吐出容器10は、ポンプハウジング30の上部に、ポンプハウジング30の上端開口30Bの内側において連通するステム50がキャップ20の天面側に配置する中央開口壁部20Bに摺動可能に挿入配置され、ステム50の上部には、ステム50に連通する吐出流路を内部に有するノズルヘッド51が嵌着され、ステム50からノズルヘッド51に至る吐出流路にボール弁52を備えている。ボール弁52はポンプハウジング30からノズルヘッド51の吐出口51Aへの内容液の流れのみを許容する逆止弁である。
【0011】
ポンプ式吐出容器10は、ステム50の内側に液密にピストン60の筒状部60Aが挿嵌されており、ステム50の内側段差部50Aにピストン60の筒状部60Aの一端が(上端が)当接している。ピストン60は、筒状部60Aと摺動部61とからなる。ピストン60の筒状部60Aは、その他端が(下端が)ポンプハウジング30の内部に載置されたピストンガイド33の外周を覆うように配置されたコイルスプリング70の一端に(本実施形態の図1ではコイルスプリング70の上端に)当接しており、コイルスプリング70によってノズルヘッド51の側に(図1では上方に)付勢されている。ピストン60の筒状部60Aの外周には、摺動可能に取着された摺動部61がポンプハウジング30の内周面に摺動しながら往復動可能に(本実施形態の図1では上下動可能に)設けられている。
【0012】
本実施形態では、ピストンガイド33の下端部に外側に張り出した歯車状張り出し部33Bが設けられている(図1(b)参照)。またポンプハウジング30の下端部にはこれの内周面から歯車状に張り出したリブによるバネ受け部30Cが設けられている。歯車状張り出し部33Bはバネ受け部30Cの間に遊挿配置され、ノズルヘッド51が押圧される前の静止状態では、歯車状張り出し部33Bとバネ受け部30Cの上端面がコイルスプリング70の下端を受けている。そして、ノズルヘッド51が押圧されると、ピストンガイド33が下降し、ピストンガイド33の下端の筒状弁部33Aの下端面がポンプハウジング30の底部の縮径されたテーパー面で形成された台座32Aに着座して、吸引パイプ40からポンプ室31に連続する流路を閉じる(図2、図3参照)。このとき、コイルスプリング70の下端はポンプハウジングのバネ受け部30Cの上端面によって支持され、ピストンガイド33の歯車状張り出し部33Bは下方に移動してこれの上端面とコイルスプリング70の下端との間には微小な隙間が形成される。
【0013】
ピストン60は、ノズルヘッド51が押圧される前の静止状態では、ピストン60の摺動部61のステム50側の端部(上端)61Aと、ステム50のポンプ室31側の端部(下端)50Bとの間に微小空間が設けられているが、ノズルヘッド51が僅かに押圧されると、図2に示すように、この微小空間がなくなり、ステム50の端部50Bがピストン60の摺動部61の端部61Aに接触し、ステム50とともにポンプ室31の方向に押されながらポンプハウジング30方向に移動することが可能になる。ピストン60の筒状部60Aには、ノズルヘッド51の押圧前の状態で摺動部51と重なる位置に貫通孔60Bが設けられている(図1参照)。ピストン60の筒状部60Aは、ステム50及びノズルヘッド51と共に下方に移動するため、ステム50の端部50Bがピストン60の摺動部61に接触するまでの移動によって、貫通孔60Bは摺動部61よりもポンプ室側に移動することになり、貫通孔60Bが摺動部61による閉塞状態から開放されて、ポンプ室31内の内容液が貫通孔60Bを介して筒状部60Aの内部に流通可能な状態となる。
【0014】
ポンプ式吐出容器10は以下の如く動作する。
(1)図1の初期状態からノズルヘッド51を容器本体11(ポンプハウジング30)の側に(図1では下側に)、例えば手又は手指によって押すと、ノズルヘッド51とステム50とピストン60の筒状部60Aとが容器本体11の側に移動する。
【0015】
(2)ステム50の端部(下端)50Aがすぐにピストン60の摺動部61の端部(上端)61Aに当たり、図2に示すようにピストン50の筒状部60Aに設けられた貫通孔60Bが開放されるとともに、ノズルヘッド51とステム50とピストン60の筒状部60A及び摺動部61とが一体となってポンプ室31の内部に向けて移動可能な状態となる。
【0016】
(3)ノズルヘッド51をさらに押して、ピストン60(筒状部60A及び摺動部51)がポンプ室31の内部に向けて移動すると(押し込まれていくと)、図3に示すように、ポンプ室31が加圧され、吸引パイプ40に連通する流路の途中に設けられた逆止弁32が閉じるとともに、吐出口51Aに連続する流路の途中に設けられたボール弁52が持ち上げられて逆止弁が解放される。従って、ポンプ室31の内容液がピストン60の筒状部60Aの貫通孔60B及び管路とステム50を経て解放されたボール弁52からノズルヘッド51の吐出流路に圧送されて吐出口51Aから吐出される。
【0017】
(4)ノズルヘッド51を押すのをやめて、ノズルヘッド51から手を離すと、ノズルヘッド51と一体となって、ステム50とピストン60がコイルスプリング70のばね力でポンプ室31から離れる方向に移動する。
【0018】
(5)ピストン60がポンプ室31から離れる方向、即ちノズルヘッド51の方向に移動することによって、ポンプ室31は容積が増加し、負圧となることで、吐出口51Aに連続する流路の途中に設けられたボール弁52は閉じ、吸引パイプ40に連通する流路の途中に設けられた逆止弁32が解放され、吸引パイプ40から容器本体11内に収容された内容液がポンプ室31に導入される。
【0019】
(6)初期位置(図1)に戻る。
【0020】
ポンプ式吐出容器10は、ポンプハウジング30(ポンプ室31)の内部に設けられたコイルスプリング70が常に内容液と接触している。コイルスプリング70は、ピストン60、及びステム50をノズルヘッド51と一体に押圧された位置から元の位置に戻すのに十分な弾性力を確保するために金属で構成され、金属の外側を樹脂によってコーティングしている。
【0021】
コイルスプリング70を構成する金属は、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛等を含み、好ましくは合金鋼で構成される。特に、適度な弾性力、弾性復元力を有し、コイルに加工する等の加工性にも優れたステンレス鋼が好ましい。ステンレス鋼は一般的に鉄にクロム等を含ませた合金鋼であるが、ニッケル、モリブテン、チタン等を含めることもできる。
【0022】
コイルスプリング70の金属部分の外側をコーティングする樹脂は、フッ素樹脂を含むものが好ましく、フッ素樹脂を含む樹脂としては、フッ素樹脂と他の樹脂等との混合樹脂、又はフッ素樹脂、フッ素樹脂の混合樹脂と他の樹脂から選ばれる積層樹脂が挙げられる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFF)、クロオトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等が挙げられ、特に、4フッ化エチレン樹脂(例えばPTFE、PFA、FEP)、又は4フッ化エチレン樹脂と他の樹脂等との混合物が好ましい。また、4フッ化エチレン樹脂とエポキシ樹脂との混合物が好ましく、また、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂等も用いることができる。
【0023】
また、コイルスプリング70の、金属部分の外側をコーティングする樹脂の厚みは5〜50μmで構成されることが好ましい。そして、コイルスプリング70の体積より、ポンプ室31の体積が3倍以上、20倍以下であるポンプ式吐出容器10の場合は、特に内容物の変色、匂いの変化等、内容液の劣化に与える影響が大きくなる。
【0024】
ポンプ式吐出容器10に収容される内容液は、化粧料、洗浄料等であって、カテコール骨格を有するポリフェノール類を含有する。カテコール骨格を有するポリフェノール類とは、ポリフェノール類の1分子中のベンゼン環に少なくとも1つのヒドロキシル基があり、該ヒドロキシル基に隣接した位置(オルト位)にヒロドキシル基を有するポリフェノール類をいう。ポリフェノール類としては、フラボノイド(重合物、モノマー)、カテキン、ルチン、ケルセチン、クロロゲン酸、タンニン、エラグ酸、リグナン等、及びこれらの誘導体や塩等が挙げられる。ポリフェノール類は抗酸化活性を持つことが知られているが、中でもカテコール骨格を持つポリフェノール類は、低い濃度でもその活性が顕著で、水溶性も高い。ポンプ式吐出容器10に収容される内容液は、カテコール骨格を有するポリフェノール類を0.05〜10質量%含有するが、好ましくは0.1〜1.0質量%含有する。
【0025】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ポンプハウジング30(ポンプ室31)の内部に設けられたコイルスプリング70を構成する金属が、コイルスプリング70が樹脂によってコーティングされることによって、内容液に含まれるカテコール骨格を有するポリフェノール類とコイルスプリング70を構成する金属とが反応して、内容液を変色させたり、臭いを発生させることを防止するとともに、コイルスプリング70を構成する金属の腐食や劣化を防止することができる。
【0026】
(b)ポンプハウジング30(ポンプ室31)の内部にコイルスプリング70を配置したから、ポンプハウジング30の長さに応じた十分な長さのコイルスプリング70を設けることができるとともに、キャップ20の上方には、ノズルヘッド51とノズルヘッド51に嵌挿されたステム50のみが配置するだけなので、キャップ20の上部のコンパクト化が可能であり、かつデザインの自由度が上がる。
【0027】
(c)キャップ20の上部及びポンプ式吐出容器10の容器全体をコンパクト化することが可能なことから、例えば化粧料容器のように0.1〜0.2mlの吐出量のポンプ式吐出容器、又は、内容液の容量が10〜100mlのポンプ式吐出容器において、内容液の収容量に比して容器が過大になることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1(a)はポンプ式吐出容器の初期状態を示す断面図、図1(b)は図1(a)のX−Xに沿った断面図である。
【図2】図2はポンプ式吐出容器のノズルヘッドを押した直後の状態を示す断面図である。
【図3】図3はポンプ式吐出容器のノズルヘッドを押した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 容器
11 容器本体
20 キャップ
30 ポンプハウジング
31 ポンプ室
32 逆止弁
33 ピストンガイド
40 吸引パイプ
50 ステム
51 ノズルヘッド
52 ボール弁
60 ピストン
61 摺動部
70 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容液を収容する容器本体と、容器本体に装着され、容器本体内に吸引パイプを介して連通可能とされるポンプハウジングとを有し、ポンプハウジングに往復動可能に挿入され、ポンプハウジング内のポンプ室を拡縮可能とするピストンを備え、ピストンによるポンプ室の圧縮状態でポンプ室と連通する吐出流路を備えるステムと、ポンプハウジングの外部に突出するステムの端部に固定され、ステムの吐出流路に連通する吐出口を備えるノズルヘッドとを有するポンプ式吐出容器であって、
前記ノズルヘッドの押圧によってポンプ室を縮小させたピストンを、ポンプ室を拡大させる方向に付勢する金属製コイルスプリングが、ポンプ室内部に配置され、
前記金属製コイルスプリングは樹脂によりコーティングされており、
前記容器本体に収容された内容液が1分子中のベンゼン環にカテコール骨格を有するポリフェノール類を含有し、
前記金属製コイルスプリングが内容液と接触状態にあるポンプ式吐出容器。
【請求項2】
前記金属製コイルスプリングをコーティングする樹脂が、フッ素樹脂を含む樹脂である請求項1記載のポンプ式吐出容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−179374(P2009−179374A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21545(P2008−21545)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】