説明

ポンプ装置

【課題】 低減室に残存する作動液の開口側の作動液排出路への流れ込みを防止することで出荷先での組付時に作動液が外部に漏れ出すことがなく、作動液の漏れ出しに伴う種々の問題の発生を未然に防止することができるポンプ装置を提供する。
【解決手段】 ポンプ部1を覆うハウジングの外面に開口部9を有し、ポンプ部1の吐出口から開口部9に至る経路の中途に、ポンプ部1で昇圧された作動液の脈動を低減する低減室3を備えるポンプ装置において、一端53を開口部9に接続し、他端54を低減室3内に開放している作動液排出路90を備え、作動液排出路90の他端54は、吐出口より高い位置に配設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ部を覆うハウジングの外面に、ポンプ部で昇圧された作動液を吐出する開口部を有し、開口部へ作動液を誘導する吐出路の中途に、作動液の脈動を低減する低減室を備えるポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車には、動力舵取装置、自動変速装置等、運転者の運転操作を補助すべく、油圧で動作する多くの補機が装備されており、これらの補機の作動油圧の多くは、ポンプ装置により供給されている。ポンプ装置は、車両に搭載される関係上、小型であり、高油圧を発生し得ることが要求されることから、作動油を昇圧するポンプ部には、ベーンポンプ、ギヤポンプ等の回転容積形のポンプを用いることが多い。
【0003】
回転容積形のポンプは、作動油をポンプ部から間欠的に吐出するものであり、吐出された作動油には脈動が生じている。したがって、従来のポンプ装置は、作動油の脈動を低減するための低減室を吐出側に設けている。
【0004】
しかし、低減室とポンプ装置とを別体にして設けた場合、搭載スペースを広く必要とすることから、車両への搭載性が悪化する。したがって、低減室とポンプ装置とを一体化してコンパクト化することが熱望されている。
【0005】
斯かるコンパクト化の要望に応えるポンプ装置として、例えば特許文献1では、ポンプ部のハウジングの外面に開口する吐出路の途中に、ポンプ部で昇圧された作動油の脈動を低減する低減室を備え、低減室にて脈動を低減した作動油をハウジングの外面の開口から排出するように構成したポンプ装置が開示されている。
【特許文献1】特開平11−166483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両に搭載されるポンプ装置は、組立工程が終了した後に性能検査を行い、性能検査に用いた作動油を抜き取った後に製品出荷する。また、製品の出荷に際しては、出荷先までの輸送中に塵、埃等の異物がハウジング内に侵入することを防止するために、ハウジングの外面の開口に防塵キャップを取付けるようにしている。
【0007】
ところが、特許文献1に開示されたように吐出路の途中に低減室を備えるポンプ装置は、ポンプ部からハウジングの外面の開口に至る経路の形状が複雑であり、性能検査に用いた作動油を完全に抜き取ることが困難であることから、低減室に作動油が残ったまま出荷される場合がある。この場合、出荷先への輸送中に、低減室に残った作動油が開口側の作動液排出路に流れ込み、出荷先の作業者がポンプ装置を車両に組付けるために防塵キャップを外したとき、開口側の作動液排出路に流れ込んだ作動油が開口から外部に漏れ出すという問題があった。斯かる作動油の漏れ出しにより、例えば、ポンプ装置の組付け場所の周辺を作動油で汚染する、床面に落ちて作業者の足元を滑り易くする等の種々の問題が生じる。
【0008】
上述した問題は、油を作動液として用いるポンプ装置だけではなく、油以外の液体を作動液として用いるポンプ装置にも生じ得る。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、低減室に残存する作動液の開口側の作動液排出路への流れ込みを防止することで出荷先での組付時に作動液が外部に漏れ出すことがなく、作動液の漏れ出しに伴う種々の問題の発生を未然に防止することができるポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係るポンプ装置は、ポンプ部を覆うハウジングの外面に開口部を有し、前記ポンプ部の吐出口から前記開口部に至る経路の中途に、前記ポンプ部で昇圧された作動液の脈動を低減する低減室を備えるポンプ装置において、一端を前記開口部に接続し、他端を前記低減室内に開放している作動液排出路を備え、該作動液排出路の他端は、前記吐出口より高い位置に配設していることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係るポンプ装置は、第1発明において、前記作動液排出路は、前記ハウジングの内壁に一体化して配設してあることを特徴とする。
【0012】
第1発明においては、一端がハウジング外面の開口部に接続され、他端が作動液の脈動を低減する低減室内に開放されている作動液排出路の他端は、ポンプ部の吐出口より高い位置に配設してある。これにより、作動液排出路は、作動液がハウジング内に残存している液面よりも高い位置で開放することになり、ポンプ装置内部に残存している作動液が作動液排出路の開放されている位置まで低減室内に蓄積することができ、性能検査に用いた作動液がハウジング内に残存している場合であっても、作動液排出路へ流れ込むおそれがないことから、出荷先での組付時に作動液が外部に漏れ出すことがない。
【0013】
第2発明においては、作動液排出路は、ハウジングの内壁に一体化して配設してあり、作動液排出路の開放部分以外からハウジングの内部に残存していた作動液が作動液排出路へ流れ込むことがなく、出荷先での組付時に作動液が外部に漏れ出すことがない。また、部品数を減少することができ、製造工数を減少することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るポンプ装置においては、低減室に残存した作動液が作動液排出路へ流れ込むことがなく、出荷先での組付時に作動液が外部に漏れ出すことがないことから、例えば、ポンプ装置組付け場所へ漏れ出た作動油を拭き取る必要が無く、床面に漏れた作動油により作業者の安全が阻害されることが無い。また、組立て工程での作動油抜き取り時間を短縮することができ、製造サイクル時間が短縮できる等の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。なお、本実施の形態では、作動油(作動液)を昇圧する回転容積形のポンプとして、ギヤポンプを用いている。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るポンプ装置のギヤポンプ回転軸を含む面での断面図である。図2は図1のII−II線による断面図である。ポンプ部1はギヤポンプであり、ギヤハウジング20に形成された長円形断面の空洞部21の内部に、互いに噛合した駆動ギヤ10と従動ギヤ11とを備えている。駆動ギヤ10及び従動ギヤ11は、空洞部21に嵌合された一対のサイドプレート12、12により挟持され、噛合状態を保った状態で回転自在に両持ち支持されている。ギヤハウジング20は、カバーハウジング24と円板状のベースハウジング25とにより挟持され、ギヤハウジング20及びカバーハウジング24は複数本の固定ボルト26、26、…(図1には1本のみ図示)によりベースハウジング25の一面に共締めして固定されている。
【0017】
ギヤハウジング20には、駆動ギヤ10と従動ギヤ11との噛合部分の一側に、作動油を吸込むための吸込口22が設けてあり、噛合部分の他側に、作動油を吐出するための吐出口23が設けてある。
【0018】
吸込口22は、ベースハウジング25の一面側の外縁部に開口側周縁を外嵌固定し、ギヤハウジング20及びカバーハウジング24を覆う有底円筒状のタンク筒6の内側に構成されたリザーブタンクTに連通してある。リザーブタンクTは、タンク筒6に設けてある戻り管60を介してポンプ部1の外部と連絡することが可能に構成されている。
【0019】
吐出口23は、ギヤハウジング20とカバーハウジング24との合わせ面から両ハウジング20、24に形成された低減室3に連通してあり、低減室3は、ベースハウジング25の外周面27に形成された開口部9と作動液排出路90により連絡してある。作動液排出路90は、低減室3の内部では、低減室3の内周壁と一体成形してあり、一端53は開口部9に接続してあり、他端54は低減室3内に開放してある。
【0020】
ベースハウジング25の他面には、ポンプ部1を駆動するモータ4がモータハウジング42を介して組付けてある。モータ4の出力軸40は、モータハウジング42を貫通し、ベースハウジング25側に突出させてある。ポンプ部1の駆動ギヤ10には、軸心部にポンプ軸13が嵌着され、ポンプ軸13は、一方のサイドプレート12及びベースハウジング25を貫通してモータハウジング42側に突出させてある。出力軸40とポンプ軸13とは、ベースハウジング25とモータハウジング42との間にて突き合わされ、嵌め込み式のカップリング41により連結してある。
【0021】
以上のように構成されたポンプ装置は、リザーブタンクTに作動油を供給し、モータ4を駆動することによりポンプ動作をなす。すなわち、モータ4の出力軸40の回転は、カップリング41を介してポンプ軸13に伝えられ、ポンプ軸13に嵌着された駆動ギヤ10は、噛合する従動ギヤ11と共にギヤハウジング20の空洞部21内にて回転する。ポンプ部1は、駆動ギヤ10及び従動ギヤ11の回転によって、リザーブタンクTに連通する吸込口22から吸込んだ作動油を、駆動ギヤ10及び従動ギヤ11の歯間とギヤハウジング20の空洞部21の内周面との間に閉じ込めて搬送し、昇圧する。
【0022】
搬送し、昇圧された作動油は、吐出口23から低減室3に送出され、低減室3にて脈動成分が低減される。脈動成分が低減された作動油は低減室3に蓄積され、低減室3に蓄積された作動油の液面が作動液排出路90の開放部(他端)54まで到達した場合、開放部54から作動液排出路90へと流れ込む。作動液排出路90に流れ込んだ作動油は、開口部9から図示しない送油先に送油され、送油先からの戻り油はタンク筒6の戻り管60を経てリザーブタンクTの内部に還流する。
【0023】
上述した本実施の形態1に係るポンプ装置は、組立て終了後に、吸込口22から作動油を供給して性能検査を行い、性能検査終了後に作動油を抜き取り、リザーブタンクTを取り付け、開口部9に防塵キャップ7(図1では2点鎖線で図示)を取り付けて出荷される。出荷されたポンプ装置は、出荷先にて開口部9の防塵キャップ7が取り外され、開口部9と戻り管60とを動力舵取装置、自動変速装置等の圧油の送油先に接続して車両に組付ける。
【0024】
本実施の形態1に係るポンプ装置は、ポンプ部1から開口部9に至る経路の形状が複雑であり、性能検査に用いた作動油を完全に抜き取ることが困難である。したがって、低減室3に作動油が残ったまま出荷されるおそれがある。本実施の形態1では、開放部54から作動液排出路90に残存した作動油が流れ込まないようにしてある。
【0025】
図3は、作動液排出路90の近傍の部分拡大断面図である。作動液排出路90は、ギヤハウジング20、カバーハウジング24、及びベースハウジング25の内壁と一体成形してある。内壁と一体成形することにより、部品数を減少することができ、製造工数を減少することが可能となる。なお、開放部54は、一体成形時に形成しても、一体成形後に穿設しても良い。
【0026】
また、特別なシール部材を備える必要がなく、低減室3に残った作動油8は、ギヤハウジング20と、カバーハウジング24との間から作動液排出路90に流れ込まない。また、作動液排出路90の開放部54は、吐出口23よりも高い位置で低減室3内に開放し、低減室3に残った作動油8の油面との距離が十分に離れていることから、作動油8は作動液排出路90の開放部54から作動液排出路90に流れ込まない。
【0027】
したがって、本実施の形態に係るポンプ装置は、性能検査に用いた作動油8が低減室3に残った状態で出荷された場合でも、出荷先の作業者がポンプ装置を車両に組付けるために防塵キャップ7を外したときに、開口部9から作動油8が漏れ出すことがなく、例えば漏れ出した作動油8にて周辺を汚染する、漏れ出した作動油8が床面に落ちて作業者の足元を滑り易くする等の種々の問題の発生を未然に防止することができる。
【0028】
なお、本実施の形態では、開口部54は、一体成形しているカバーハウジング24にドリル等で機械加工して形成しているが、特にこれに限定されるものではない。図4は、他の実施の形態に係る作動液排出路90の近傍の部分拡大断面図である。例えば図4に示すように、開口部54をカバーハウジング24に設けるのではなく、ギヤハウジング20に筒部を形成し、その開口端を開口部54としても良い。
【0029】
(実施の形態2)
車両に搭載されるポンプ装置は、組立工程が終了した後に性能検査を行い、性能検査に用いた作動油を抜き取った後に製品出荷する。また、製品の出荷に際しては、出荷先までの輸送中に塵、埃等の異物がハウジング内に侵入することを防止するために、ハウジングの外面の排出口、及び外部からの作動油の戻り管に防塵キャップを取付けるようにしている。
【0030】
防塵キャップは、ポンプ装置を車両に組み付ける場合、ハウジングの外面の排出口及び外部からの作動油の戻り管から防塵キャップを取り外し、油圧ホース等を接続する。したがって、取り外した防塵キャップは、不要な廃棄物になるという問題点があった。
【0031】
斯かる問題点を解決するために、本実施の形態2に係るポンプ装置は、外部からの作動油の戻り管に油圧ホースを接続する場合、防塵キャップを外さずにそのまま油圧ホースを挿入し、接続することが可能な構成とする。図5は、本発明の実施の形態2に係るポンプ装置の戻り管に防塵キャップを取り付けた状態を示す戻り管開口の中心軸を含む面での部分断面図である。図6は、本発明の実施の形態2に係るポンプ装置の防塵キャップの取り付けた状態を外部から見た模式図である。
【0032】
戻り管60は、開口端部を覆うように防塵キャップ71を設けている。防塵キャップ71の材質は、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)等のゴム状弾性材料であり、戻り管60の外面との密着性を高めるべく、戻り管60の外面に環状の突起部72を設けている。
【0033】
また、図6に示すように、防塵キャップ71の戻り管60の開口と対向する部分には、放射状のスリット73を設けている。防塵キャップ71を戻り管60に装着し、所定の張力以内の張力がスリット73に作用する場合、すなわち戻り管60の開口部へきっちり嵌合するまでは、スリット73は破断することなく、戻り管60は外部へ開口することがない。
【0034】
ここで、油圧ホース81を、防塵キャップ71を戻り管60に付着した状態のまま戻り管60へ挿入する。油圧ホース81の材質も、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)等のゴム状弾性材料である。したがって、油圧ホース81と防塵キャップ71との摩擦力により、戻り管60へ油圧ホース81が押し込まれるのに伴って、防塵キャップ71も戻り管60の開口部から離れる方向へ張力を受ける。
【0035】
そして、所定の張力を超えた時点でスリット73が破断し、戻り管60が外部へ開口するとともに、防塵キャップ60は油圧ホース81と戻り管60との間に巻き込まれるように収納される。突起部72は、油圧ホース81と防塵キャップ71とをより強く密着させることにより、両者間の摩擦力を増大する効果を奏する。
【0036】
また、油圧ホース81を戻り管60に完全に挿入した時点で、破断したスリット部分は、戻り管60の側部にすべて巻き込まれ、戻り管60と油圧ホース81との間にすべて収納されることが好ましい。図7は、油圧ホース81を戻り管60に完全に挿入した時点での防塵キャップ71の状態を示す模式図である。
【0037】
図7に示すように、破断したスリットを形成していた三角帯74は、すべて戻り管60と油圧ホース81との間に収納されている。これにより、戻り管60の開口に障害物が存在せず、また戻り管60を介して注入される油に不純物が入り込むおそれがない、という優れた効果を奏する。
【0038】
なお、スリットは、放射状に形成してあることに限定するものではなく、油圧ホースを挿入した場合に破断することができ、戻り管と油圧ホースとの間に収納することができる形態であれば何でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態1に係るポンプ装置のギヤポンプ回転軸を含む面での断面図である。
【図2】図1のII−II線による断面図である。
【図3】作動液排出路の近傍の部分拡大断面図である。
【図4】他の実施の形態に係る作動液排出路の近傍の部分拡大断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るポンプ装置の戻り管に防塵キャップを取り付けた状態を示す戻り管開口の中心軸を含む面での部分断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係るポンプ装置の防塵キャップの取り付けた状態を外部から見た模式図である。
【図7】油圧ホースを戻り管に完全に挿入した時点での防塵キャップの状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0040】
1 ポンプ部
3 低減室
8 作動油(作動液)
9 開口部
20 ギヤハウジング(ハウジング)
23 吐出口
24 カバーハウジング(ハウジング)
25 ベースハウジング(ハウジング)
27 外周面(外面)
53 一端
54 開放部(他端)
90 作動液排出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ部を覆うハウジングの外面に開口部を有し、前記ポンプ部の吐出口から前記開口部に至る経路の中途に、前記ポンプ部で昇圧された作動液の脈動を低減する低減室を備えるポンプ装置において、
一端を前記開口部に接続し、他端を前記低減室内に開放している作動液排出路を備え、
該作動液排出路の他端は、前記吐出口より高い位置に配設していることを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
前記作動液排出路は、前記ハウジングの内壁に一体化して配設してあることを特徴とする請求項1記載のポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−104987(P2006−104987A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290643(P2004−290643)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】