ポートフォリオを用いた学習支援装置
【課題】人材育成および学習支援を実行するためのシステムを提案する。
【解決手段】大学側に設けられたサーバ10において、計測部22は、学生の能力値を診断した診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素ごとの充実度を計測する。学生が将来モデルの選択入力を行うと、比較部24が、その将来モデルについて、学生の能力値を計測した計測結果と、当該将来モデルに対して設定された能力のレベル値とを複数の要素ごとに比較する。比較部24は、計測された能力値と、設定されたモデルのレベル値との比較により、モデルのレベル値に満たない能力値を示した要素につき、その満足しない程度を評価することもできる。
【解決手段】大学側に設けられたサーバ10において、計測部22は、学生の能力値を診断した診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素ごとの充実度を計測する。学生が将来モデルの選択入力を行うと、比較部24が、その将来モデルについて、学生の能力値を計測した計測結果と、当該将来モデルに対して設定された能力のレベル値とを複数の要素ごとに比較する。比較部24は、計測された能力値と、設定されたモデルのレベル値との比較により、モデルのレベル値に満たない能力値を示した要素につき、その満足しない程度を評価することもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大学などの教育機関において、学生の学習を支援するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
物的資源の少ない日本では、今後ますます知的資源たる知的創造物が重要になる。米国のドラッガーは「今後、経営にとって知識は唯一の有効な資源である」と言っているが、今その資源の競争が現実のものとなり、「知的創造が価値を生み出すこと」が広く認識されるようになってきた。
【0003】
知的創造物を生み出すためにはその「知的創造」の方法論を環境変化に対応して考える必要がある。「知的創造」とは一般には人間が「知」を用いて創意工夫することで、新しいアイデア、物、システムなどを創造することをいう。
【0004】
しかしながら、「創造」とは「他の業務や活動」と性質が異なり、参考となる雛型もなければ、信頼に足りるルールやプロセスも存在しない。それどころか成否の判断基準すら存在しないのが現状である。一般的には「創造」を生み出すプロセスはある意味で一回限りの神技であったり、個人あるいは集団のイマジネーションが大きく飛躍した結果であって、事前に計画することも、真似することもできないものと考えられている。
【0005】
しかし一方で素晴らしいアイデアを継続的に生み出す個人や企業が存在していることも事実であり、新製品のみならず、新しい業務プロセス、新しい戦略、新しい事業など、様々なアイデアが打ち出されている。このような状況をみると「創造」を生み出す成功の秘訣が存在するのか、システム化できるのか、そのシステムが他の個人や企業の手本になるのかなどを解明するために知的創造を生み出すメカニズムといえる「知的創造システム」の研究を行う必要がある。
【0006】
これらの価値を生み出すのは知的で高度な人間が主役と考えがちであるが、実は各分野のプロフェショナルが集積してこそイノベーションが創出されることにある。この意味では組織はプロフェショナルな人材をいかに結集できるか、個人はいかにプロフェショナルであるかが問われる社会になったといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−274426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
我々は、個人の「キャリア権」というものを有している。それは、個人が自分の能力や意欲に合った仕事に就き、自らがキャリアを構築して行く権利である。「知的創造社会」に移行しているこの時代、企業ライフサイクルは短くなり、企業のピラミッド組織の崩壊が始まっている。それにより、ゼネラリスト管理職の活用できる場の消失、社内出世をキャリア目標としたシステムの崩壊が起こっている。
【0009】
そのような中、我々は、個人のキャリアの陳腐化という、新たな問題に直面している。その解決策として我々に残されている道は、個人が「自己主導のコアコンピタンス」を創造・確立していくことである。具体的には、ある分野のプロフェショナルになるため、自分の仕事やキャリアに対して主体的かつ創造的に取り組んでいく行動を継続的に行うことである。
【0010】
これからの「知的創造社会」の時代、実際に企業側が求めるものとは、雇用責任万能な社員のキャリア陳腐化から脱却して社員の「自己主導のコアコンピタンス」の力を企業競争優位性の源泉とするものである。なお、コアコンピタンスとは、各個人が持つ核となる(最も優れた)能力のことを意味する。以上のように、高度な創造的知識を有する人材を育成し、かつ自己主導のコアコンピタンスの創造と確立もできる人材を育成することが、大学などの教育機関に求められるようになっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様は、学生の学習を支援する学習支援装置に関する。この態様の学習支援装置は、学生の能力値を診断した診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素ごとの充実度を計測する計測部と、学生が目指す複数の将来モデルに対して設定されたそれぞれのモデルにおける能力のレベル値を、分類した要素ごとに格納する格納部と、学生から将来モデルの選択入力を受け付ける受付部と、受け付けた将来モデルについて、学生の能力値を計測した計測結果と、当該将来モデルに対して設定された能力のレベル値とを複数の要素ごとに比較する比較部とを備える。
【0012】
この態様の学習支援装置によると、学生は、自身の目指す将来モデルに対する現在の能力の不足分を認識して、開発すべき能力を把握できる。
【0013】
本発明の別の態様も、学生の学習を支援する学習支援装置に関する。この態様の学習支援装置は、複数種類の修学コースごとに設定された修学目標を格納する第1格納部と、複数の履修科目を、修学することで向上される能力の要素に対応付けて格納する第2格納部と、修学目標および複数の履修科目の選択入力を受け付ける受付部と、受け付けた複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が、入力された修学目標に対応しているか否かを判定する判定部とを備える。
【0014】
この態様の学習支援装置によると、学生は、履修科目の選択の適切性に対する客観的な判定を得ることが可能となる。
【0015】
本発明のさらに別の態様も、学生の学習を支援する学習支援装置に関する。この態様の学習支援装置は、達成するべき複数の修学目標を記載した目標計画シートを受け付ける第1受付部と、それぞれの修学目標の達成度に応じて作成された目標達成シートを受け付ける第2受付部と、目標達成シートによる目標達成具合を証明するための証明シートを受け付ける第3受付部と、それぞれの修学目標に対応する目標達成シートおよび証明シートを関連付け、第1受付部、第2受付部および第3受付部にて受け付けた目標計画シート、目標達成シート、証明シートをまとめて、1つのファイルを作成するファイル作成部とを備える。第1受付部、第2受付部および第3受付部は、ハードウェア的には同一の受付部で構成されていてもよい。
この態様の学習支援装置によると、修学の軌跡を1つにまとめたファイルを作成することが可能となる。
上記した態様の学習支援装置は、ポートフォリオを用いた学習支援装置として機能してもよい。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、学生の能力値を診断した診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素ごとの充実度を計測するステップと、学生が目指す複数の将来モデルに対して設定されたそれぞれのモデルにおける能力のレベル値を、分類した要素ごとに格納しておくステップと、学生から将来モデルの選択入力を受け付けるステップと、受け付けた将来モデルについて、学生の能力値を計測した計測結果と、当該将来モデルに対して設定された能力のレベル値とを複数の要素ごとに比較するステップと、修学目標および複数の履修科目の選択入力を受け付けるステップと、受け付けた複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が、入力された修学目標に対応しているか否かを判定して、判定結果を提示するステップと、達成するべき複数の修学目標を記載した目標計画シートを受け付けるステップと、それぞれの修学目標の達成度に応じて作成された目標達成シートを受け付けるステップと、目標達成シートによる目標達成具合を証明するための証明シートを受け付けるステップと、それぞれの修学目標に対応する目標達成シートおよび証明シートを関連付け、目標計画シート、目標達成シート、証明シートをまとめて、1つのポートフォリオファイルを作成するステップとを備えるポートフォリオを利用した学習支援方法を提供する。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、修学体験に関する入力内容を文書構成要素として受け付ける受付部と、受付部において受け付けた複数の文書構成要素の間を関係づけて、階層構造を有する構造化文書を作成する文書作成部と、作成した構造化文書を格納部に格納させる登録処理部とを備えた学習支援装置を提供し、登録処理部は、所定の同一階層レベルに位置する複数のノードのいずれかに、文書構成要素が入力されていることを条件として、格納部への構造化文書の格納を行う。
【0018】
この態様の学習支援装置によると、ユーザは、修学体験に関する文書を容易に作成することが可能となる。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラムとして表現したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、学生の学習支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】3次元のコンピテンシーモデルを示す図である。
【図2】ポートフォリオインテリジェンスの基本概念を示す図である。
【図3】ポートフォリオインテリジェンスの構成図である。
【図4】ポートフォリオインテリジェンスファイルに含まれる各ファイルの詳細を示す図である。
【図5】本発明のポートフォリオインテリジェンスファイルを用いた教育支援システムのイメージ図である。
【図6】ポートフォリオインテリジェンスの基本プロセスを示す図である。
【図7】アクションラーニングプロセスを示す図である。
【図8】目標シート作成プロセスを示す図である。
【図9】修学目標とそれに対応する目標達成シートとエビデンスの関係を示す図である。
【図10】目標達成シートの要素と評価項目を示す図である。
【図11】実施例における教育支援システムを示す図である。
【図12】大学側サーバの構成を示す図である。
【図13】計測部による計測結果の表示を示す図である。
【図14】比較部による比較結果の表示を示す図である。
【図15】学生に提示される科目説明書の一部を示す図である。
【図16】構造化文書として作成された目標達成シートの木構造ノード群の概念図である。
【図17】図16に示すCEに関して作成された構造化文書を示す図である。
【図18】図16に示すROに関して作成された構造化文書を示す図である。
【図19】サーバにおける目標達成シートを管理する構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施例では、大学または大学院などの教育機関における教育の1つとして、個人のコアコンピタンスを向上させることを目的としたカリキュラム(以下、これを「知的創造システム専攻」と呼ぶ)を例にとる。本実施例において、知的創造システム専攻は、「創造的ITプロフェショナル」、「e-Businessプロフェショナル」、「知的財産プロフェショナル」の3つのコースを設置し、学生の学習支援を行いながら、人材育成を行うことを目的とする。
【0023】
「創造的ITプロフェショナルコース」では、ITに重点を置き、高度ソフトウェア開発者、Webアプリケーションディベロッパ、アプリケーションスペシャリスト、ITスペシャリスト、ITコンサル、ITアーキテクト、プロジェクトマネージャー、独立ベンチャー経営者、サーバアドミニストレータ−、インターネットワーキングスペシャリスト、セキュリティプロフェッショナル、カスタマーサービス、オペレーション、社内ベンチャー経営者、第2創業・中小企業経営者などを養成することを目的とする。
【0024】
「e-Businessプロフェショナルコース」では、e-Businessに重点を置き、ビジネスプロセス開発者、マーケティングスペシャリスト、ビジネスコンサルタント、ITコーディネーター、ビジネスプロセスマネージャー、Net戦略マネージャー、プロジェクトマネージャー、企業アーキテクト、先端技術戦略・政策立案者、産学連携・技術移転推進者、IT戦略立案・実行者、ベンチャー経営者、CDO、セールス、プロセスオーナー、マーケティング戦略推進者、CEO、経営企画、CFO、CTO、CIOなどを養成することを目的とする。
【0025】
「知的財産プロフェショナルコース」では、知的財産に重点を置き、弁理士、パテントエンジニア、特許事務所責任者、知的財産コンサルタント、知財部門責任者、特許事務所経営者、CIPOなどを養成することを目的とする。
【0026】
知的創造システム専攻では、明確な目標と方法論で人材育成を行う。このために、本発明は、「コンピテンシーモデル」を提案する。コンピテンシーとは「高い業績を生み出すために人間が必要とする特徴的な行動特性」であり、以下の実施例では、3次元のコンピテンシーモデルを示す。
【0027】
図1は、3次元のコンピテンシーモデルを示す。導入されるコンピテンシーモデルは、X軸に「思考プロセス」、Y軸に「知識領域」、Z軸に「ヒューマンパワー」の3軸のコンピテンシーにより表現される。
【0028】
思考プロセス(X軸)のコンピテンシーには、以下のものがある。
X1:企画
X2:構想
X3:調査・分析
X4:設計・開発
X5:変革
X6:導入・運用
X7:評価・検証
X8:ライフサイクル
【0029】
知識領域(Y軸)のコンピテンシーには、以下のものがある。
Y1:基盤テクノロジー
Y2:応用テクノロジー
Y3:ビジネスプロセス
Y4:ビジネスモデル
Y5:ビジネスマネジメント
【0030】
ヒューマンパワー(Z軸)のコンピテンシーには、以下のものがある。
Z1:問題発見力
Z2:独創力
Z3:ソリューション力
Z4:プレゼンテーション力
Z5:変革推進力
Z6:コミュニケーション力
Z7:リーダーシップ力
Z8:オーナーシップ力
【0031】
3次元のコンピテンシーモデルにおいて求められる成果により、必要とされるコンピテンシーのサブセットが構成される。図示のサブセットは、思考プロセスとして「調査・分析」、知識領域として「応用テクノロジー」、ヒューマンパワーとして「独創力」を必要とするコンピテンシーである。実施例のコンピテンシーモデルは、3系統(3軸)のコンピテンシーを有することで、育成する人材のコンピテンシーモデルを大きく分けて3種類用意することができる。すなわち、思考プロセスを重視するモデル、知識領域を重視するモデル、およびヒューマンパワーを重視するモデルの3種類である。
【0032】
<1>ポートフォリオインテリジェンス
知的創造システム専攻は「ITを利用して知的創造を促進し、その創造物をe-Business技術により構築・実装して、同時に知的財産権の保護を確立し、企業改革を行い事業の発展ひいては産業の発展を確固たるものとできる横断的で高度な創造的知識を有する」人材を育成し、かつ「自己主導のコアコンピタンス」の創造と確立もできる人材を育成することを目的とする。そのため、知的創造システム専攻は、以下に示すポートフォリオインテリジェンスを教育に導入し、人材育成を図る。
【0033】
ポートフォリオインテリジェンスとは、個人主導のキャリア形成力を修得し、「自己主導のコアコンピタンス」の創造・確立を行うものである。知的創造システム専攻は、ポートフォリオインテリジェンスを通して、学生に対し「自己主導のコアコンピタンス」の創造・確立に関する学術的かつ実践的な総合学習を実現する。
【0034】
図2は、ポートフォリオインテリジェンスの基本概念を示す。ポートフォリオインテリジェンスは、M(motivation)→P(plan)→D(do)→C(check)→G(grow)により「自己主導のコアコンピタンス」を創造・確立していく。本実施例のポートフォリオインテリジェンスは、学生に自己の能力と啓発課題を予め認識させた上で、学生のモチベーションを向上させる点に大きな特徴がある。
【0035】
<2>ポートフォリオインテリジェンスの構成図
図3は、ポートフォリオインテリジェンスの構成図を示す。ポートフォリオインテリジェンスは様々な要素をもとにファイルリングされる。時間単位は、入学から卒業までの年数であり、このポートフォリオインテリジェンスファイルを作成することにより、知的創造システムを専攻した学生の軌跡を残すことができる。
【0036】
ポートフォリオインテリジェンスファイルは、学生に対して、まず修学目標と履修計画を明確化させる目的がある。学生に目標計画を設定させることで、学生のキャリアアップへの意識を向上させる。学生は、修学目標を設定し、修学目標ごとに目標達成シートを作成する。これにより、学生は、自身の成長プロセスを実感することができ、キャリアアップへの自身の目標計画を再設定することもできる。
【0037】
図中、「自シ」は、自己認識シートの略語であり、後述する自己認識診断の診断結果が記される。学生は、自己認識シートにより、自身の強みとする能力を把握することができる。逆にいえば、学生は自身に欠如する能力を把握することができ、修学中に伸ばすべき能力を認識した上で、その能力向上を補助する科目を選択することができる。
【0038】
ポートフォリオインテリジェンスファイルは、図2に示したM(motivation)→P(plan)→D(do)→C(check)→G(grow)の流れを記述するものであり、学生は自由にこのファイルにアクセスすることで、自分に必要な学習に対する意識を向上させる。
【0039】
図4は、ポートフォリオインテリジェンスファイルに含まれる各ファイルの詳細を示す。このファイルの各々を見ることで、学生は自身のスキルアップの程度を確認できる。またポートフォリオインテリジェンスファイルは、自身のスキルアップを記すものであるため、修学の軌跡としての位置づけだけでなく、第三者に対する自身のスキルを説明するための材料とすることもできる。
【0040】
図5は、本発明のポートフォリオインテリジェンスファイルを用いた教育支援システムのイメージ図である。大学内の学生、教授、大学外の客員教授、ゲストスピーカ、将来の入校生、または世界中の様々な人々が、この教育支援システムに主体的に参加することができる。例えば、客員教授やゲストスピーカは、学生が作成したポートフォリオに含まれるプラクティカムシートにアクセスして、学生に対するアドバイスを行うことができる。ゲストスピーカは、例えば、学生の研究分野の有識者であったり、また大学の卒業生であったりする。このアドバイスはプラクティカムシートに残り、学生はそのアドバイスを有効に利用し、自身の研究の新たな方向性や可能性を見出すこともできる。また将来、この大学への入学を考えている人に対しては、先輩のポートフォリオインテリジェンスファイルをサンプルとして利用して、自分が入学したときのイメージを掴むこともできる。
【0041】
このように、本発明の教育支援システムによると、リンクの双方向性により大学の実教育と世界的智とを結合することができ、またポートフォリオ利用の敷居を低くすることで、学内のみならず、学外との間でも、より多くのコミュニケーションを生み出すことができる。このように、ポートフォリオを核とした「教育支援システム」、別の観点からいえば「学習支援システム」を構築することで、人と人との新たな繋がりが生まれ、空間および時間の共有を図ることが可能となる。これにより、大学は教育機関としての価値を高めることができるとともに、学生に対して、能力向上の絶好の環境を与えることができる。ポートフォリオを利用することで、情報流通が活発化し、外に開いた新しい大学像を確立することができる。
【0042】
<3>ポートフォリオインテリジェンスの基本プロセス
図6は、ポートフォリオインテリジェンスの基本プロセスを示す。ポートフォリオインテリジェンスは、9つのプロセスで形成される。これらのプロセスは、例えば1年間という修学期間の全体を通じて実施される。具体的には、ポートフォリオインテリジェンスが、
(1)自己認識プロセス
(2)コンピテンシーモデルプロセス
(3)アクションラーニングプロセス
(4)リフレクションジャーナル作成演習プロセス
(5)自己再認識プロセス
(6)目標達成シート作成プロセス
(7)成績評価プロセス
(8)ポートフォリオ統合プロセス
(9)ポートフォリオサマリー作成プロセス
の9段階のプロセスで形成されている。
【0043】
(1)自己認識プロセス
入学前に、学生は、自己認識診断を行う。自己認識診断の目的は、知的創造システム専攻の特色の一つでもある、「3次元のコンピテンシーモデル」のうちのヒューマンパワーを定量的に測定し、自己の強みと課題等を認識し、キャリアゴールの実現に向けた能力開発につなげることにある。
【0044】
企業改革を行い、事業の発展ひいては産業の発展を確固たるものとできる人材、かつ「自己主導のコアコンピタンス」の創造と確立もできる人材には、高度な知識やスキルが必要とされることは言うまでもない。さらに、主体性や、自己の動機づけ、さらには人とのコミュニケーションが上手で人の心を上手につかみ、人をその気にさせるといった他者への影響力等の「人間力」、すなわちヒューマンパワーも欠かすことができない重要な要素である。自己認識診断は、これらの能力を明らかにする。
【0045】
個々の学生に対して、ヒューマンパワーに関するコンピテンシー分析が行われる。その後、分析結果は、教員との個別面談時に報告され、学生は、現時点でのヒューマンパワーの強さ・課題等を認識するだけでなく、自己が抱いているキャリアゴールに対するコンピテンシーのギャップについて認識する。
【0046】
認識した結果は、修学目標および履修計画を策定するコンピテンシーモデルプロセスでの素材として活用される。なお、学生は、ポートフォリオインテリジェンスのエビデンスとなる分析結果「自己認識シートI」を保管する。自己認識シートIには、ヒューマンパワーに関するスコアが記され、スコアから見た学生の特徴、すなわち強みや課題などが記載されている。さらに、学生が設定した目標に対して、その目標を実現するためのモデルデータと自分のコンピテンシー計測値との比較結果も記述される。これにより、学生の能力開発のポイントをピックアップすることができ、履修する科目の選択に役立てることが可能となる。
【0047】
(2)コンピテンシーモデルプロセス
自己認識プロセス後、学生は、教員との個別面談を受ける。面談の目的は、1)修学目標の確認と設定、2)履修計画の策定、3)履修申請である。
【0048】
修学目標とは、学生のキャリアゴールを達成するための修学目標である。また、履修計画は、それらを達成するためのアクションプランとなる。学生は、教員との面談からアドバイスや「自己認識シートI」を活用して、より適切な修学目標の設定と履修計画の策定を行う。
【0049】
修学目標は、「知的創造システム専攻全体で開発される共通ゴール」、「コースで開発されるゴール」、「開発すべきパーソナルゴール」の3つの分類に分けられる。なお、修学目標の内容は、「3次元のコンピテンシーモデル」のコンピテンシーを身に付ける内容となっている。
【0050】
履修計画は、3つの分類の修学目標を達成するために、修学する研究指導のテーマおよび前学期・後学期の関係科目の履修科目について策定される。なお、研究指導および各関係科目は、「3次元のコンピテンシーモデル」のコンピテンシーを身に付ける研究指導・講義・演習等となっている。
【0051】
修学目標の理解と設定および履修計画の策定として、次の原則がある。
「知的創造システム専攻全体で開発される共通ゴール」として、いくつかの修学目標が設定されている。学生は、研究指導、必修関係科目、推奨選択関係科目を履修し、これらの修学目標の達成を目指す。なお、研究指導の研究テーマは、自由に選択できる。
【0052】
「コースで開発されるゴール」として、コースごとに修学目標が設定されている。学生は、関係科目を履修し、所属コースの修学目標の達成を目指す。
【0053】
「開発すべきパーソナルゴール」として、学生は一つの個人的な修学目標を設定する。学生は、関係科目を履修し、その修学目標の達成を目指すことになる。
【0054】
学生は、修学目標を設定し履修計画を策定した後、履修科目申請を行う。その後、修学目標と履修科目の内容を記載する「目標計画シート」を作成し保管する。
【0055】
(3)アクションラーニングプロセス
図7は、アクションラーニングプロセスを示す。アクションラーニングは、様々な教育指導形式・環境・マテリアルを組み合わせ、「理論」→「実践」→「リフレクション」のプロセスを繰り返すことにより、「知識領域」だけでなく、「思考プロセス」や「ヒューマンパワー」のコンピテンシー修得を実現する教育方法である。これにより、学生は、どのような環境下においても発揮できるコンピテンシーの修得を目指す。
【0056】
知的創造システム専攻は、前学期・後学期の関係科目での講義・演習等に、アクションラーニングの「理論」→「実践」までのプロセスを実施する。なお、「リフレクション」までのプロセスは、専修科目のリフレクションジャーナル作成演習にて実施する。
【0057】
関係科目において、学生は、「理論」→「実践」を通して、ポートフォリオインテリジェンスの素材となる提出課題の「プラクティカムシート」と意見交換の「ログ」を作成する。これらは、専修科目で行われるリフレクションジャーナル作成演習の「リフレクション」の素材として活用され、最終的に、「目標達成シート」の作成の素材として活用される。また、「プラクティカムシート」はポートフォリオインテリジェンスのエビデンスである「ベストプラクティカムシート」として選別される。この「プラクティカムシート」は、学内の学生、教授のみならず、学外の客員教授やゲストスピーカなどのアクセスも可能とし、これによりプラクティカムシートを様々な人間の協力により充実化できるとともに、充実したプラクティカムシートの有効利用を図ることもできる。
【0058】
同時期に、専修科目において、学生は、主査・副査の研究指導のもとで、ポートフォリオインテリジェンスの修学目標1のエビデンスとなる「研究論文」と意見交換の「ログ」を作成する。これらは、ダイレクトに専修科目の学習プロセスで行われるポートフォリオ作成の素材とエビデンスとして活用され、「目標達成シート」の作成に活用される。
【0059】
関係科目の講義・演習等からの「プラクティカムシート」は、プラクティカムの結果である。プラクティカムとは、様々な環境・マテリアル・教育手法を組み合わせたイベントによる実践であり、通常、各関係科目の講義・演習等で、3回程度行われる。
【0060】
プラクティカムの結果は、「プラクティカムシート」となる。採点された「プラクティカムシート」は、専修科目のリフレクションジャーナル作成演習の「リフレクション」の素材や、「目標達成シート」の作成の素材として活用される。また、修学目標達成の証拠となる「プラクティカムシート」は、ポートフォリオインテリジェンスのエビデンスである「ベストプラクティカムシート」となる。
【0061】
なお、専修科目のリフレクションジャーナル作成演習の「リフレクション」および「目標達成シート」の作成の素材や「ベストプラクティカムシート」となるものは、「プラクティカムシート」に限定しない。採点済みの課題レポートやペーパーテスト等でも、受け付け可能である。
【0062】
(4)リフレクションジャーナル作成演習プロセス
学生は、前学期・後学期の中盤から、専修科目でリフレクションジャーナル作成演習を行い「理論」→「実践」→「リフレクション」までの全体のプロセスを実践する。リフレクションジャーナルは、「理論」→「実践」により、自分自身でどれだけ理解したかをリフレクションすることでさらに学習する。学生は、教員の指導のもと、実際の講義・演習等から作成される素材(「プラクティカムシート(課題レポート・ペーパーテスト等も含む)」と「ログ」)を活用してリフレクションし、リフレクションジャーナルを作成する。なお、ログは、学生と教員間の意見交換の情報の記録である。
【0063】
また、リフレクションジャーナルは、ポートフォリオインテリジェンスの「目標達成シート」と同じ構成要素とメカニズムを持っている。従って、リフレクションジャーナル作成演習の目的は、「理論」→「実践」→「リフレクション」までのプロセスを実践するだけでなく、リフレクションジャーナルの作成を通して、「目標達成シート」の作成能力の向上をはかるものでもある。
【0064】
リフレクションジャーナルの構成要素とメカニズムは、コーブら[Kolb, Rubin, & McIntyre,1971]の提唱する「Experiential Learning Model」の概念をベースに設計される。「Experiential Learning Model」のメカニズムは、(1)具体的な体験「Concrete Experience (CE)」をし、(2)その体験をリフレクションしたり、自他の体験を観察し「Reflective Observations (RO)」、(3)経験したことを抽象的に考えたり、一般化を試みて「Abstract Conceptualization (AC)」、(4)新しい体験に導くために自分の行動の仮設化「Active Experimentation (AE)」を行うというものである。このメカニズムを適用し開発された知的創造システム専攻のリフレクションジャーナルは、4つの構成要素を含んで記載するものとなる。
【0065】
構成要素1 Concrete Experience(CE) 具体的な体験学習を文書化する
構成要素2 Reflective Observation(RO) 体験を他の人の見方により考察・理解し、自分の見方にとりこみ再考察したことを文書化する
構成要素3 Abstract Conceptualization(AC) 再考察したことを調査・研究を通して理論により論証した結果を文書化する
構成要素4 Active Experimentation(AE) 体験学習の再考察から学習したことを応用し次の行動計画を文書化する
【0066】
(5)自己再認識プロセス
前学期終了時、後学期開始時、後学期終了時に、学生は、自己認識診断を再度行う。学生は、ヒューマンパワーに関するコンピテンシーを分析され、分析結果によりヒューマンパワーの成長度合いを認識する。分析結果は、「自己認識シートII・III・IV」となる。学生は、これらをポートフォリオインテリジェンスのエビデンスとして保管する。
【0067】
(6)目標達成シート作成プロセス
図8は、目標シート作成プロセスを示す。前学期終了後と後学期終了後、学生は、専修科目で、主査にアドバイスしてもらいながら、修学目標ごとに、その修学目標の達成に関する素材を選別し(「ベストプラクティカムシート」と「ログ」を抽出し)、それらを活用して修学体験をリフレクションして、その修学目標に対応した「目標達成シート」を作成する。また、同時に修学目標の達成のエビデンスとして、「ベストプラクティカムシート」、「成績評価シート」や「自己認識シート」を添付する。
【0068】
図9は、修学目標とそれに対応する目標達成シートとエビデンスの関係を示す。「目標達成シート」は、リフレクションジャーナルの構成要素とメカニズムを適用して作成される。その結果、各「目標達成シート」には、各修学目標の達成に結びつく修学の軌跡と成果としてのCE→RO→AC→AEが記載されることとなる。
【0069】
図10は、目標達成シートの要素と評価項目を示す。「目標達成シート」は必ず図10に示す要素が満たされている内容とする必要がある。なお、ISとは、Integration and Synthesis(文章の目的を理解し、シンプルかつ明確に、ストーリー性を含めて文章化すること)である。
【0070】
(7)成績評価プロセス
学生は、前学期終了時および後学期終了時に、各関係科目の成績評価をされる。(専修科目の成績評価については、公聴会後となる。)各関係科目の成績評価はポートフォリオ学習支援計画書の「評価の方法」に従って行われ、通常、プラクティカムシート、ミニイベント、小テスト、レポート等の項目を勘案しながら評価される。また、専修科目に関して、研究論文、目標達成シートの項目を勘案しながら評価される。成績評価後、学生は、成績通知を受ける。学生は、この成績通知を、ポートフォリオインテリジェンスのエビデンスの「成績評価シート」として保管する。
【0071】
(8)ポートフォリオ統合プロセス
学生は、後学期終了時から公聴会までの期間、専修科目内で、ポートフォリオインテリジェンスファイルに必要なシートを統合し、目次を作成して、ポートフォリオインテリジェンスの形式に合わせたファイルを作成する。そのファイルが、「ポートフォリオインテリジェンスファイル」となる。なお、この時点では「ポートフォリオサマリー」は含まれていない。また、「専修科目成績評価シート」は、公聴会の評価を含んでいないものを添付する。
【0072】
(9)ポートフォリオサマリー作成プロセス
学生は、公聴会前に、専修科目内で、ポートフォリオインテリジェンスファイル(「ポートフォリオサマリーを含んでいないもの」)を活用し、一年間の修学の集大成のサマリーとなる「ポートフォリオサマリー」を作成する。「ポートフォリオサマリー」は、自己のコアコンピタンスとその形成過程を簡潔に記載するものとなる。修了後、就職・転職・昇進等のための自己PRに活用する資料にもなる。
【0073】
具体的な内容は、1)「知識領域」「思考プロセス」「ヒューマンパワー」の各軸における自己の強さを説明し、2)その強さを統合することで自己のコアコンピタンスとは何かについて説明する。また、3)その形成過程についても説明する。学生は、「ポートフォリオサマリー」を「ポートフォリオインテリジェンスファイル」に添付し、「ポートフォリオインテリジェンスファイル」を完結させる。その後、学生は、「ポートフォリオサマリー」の内容を公聴会にて発表し、口頭試問を受け、修了判定を受けることとなる。
【0074】
以下に、上記した知的創造システム専攻を実現するためのシステムを示す。
図11は、実施例における教育支援システム1を示す。教育支援システム1は、大学などの教育機関に管理される大学側サーバ10と、学生(院生も含む)などが保持する複数の端末装置2、3、4、5を含んで構成される。なお、教育支援システム1には、図5に示したように様々な人間が参加することができる。したがって、端末装置2、3、4、5の保有者は、学生だけでなく、学内の教授であってもよく、また学外の客員教授、ゲストスピーカなど、国内のみならず世界中の人間であってよい。大学側サーバ10は、大学の教育課程において学生の育成を支援する学習支援装置として機能する。この学習支援装置は、ポートフォリオ、具体的にはポートフォリオインテリジェンスファイルを利用して、学生の修学を支援する。大学側サーバ10は、端末装置2〜5からの入力を可能とし、また端末装置2〜5への出力を可能とする。以下、説明の便宜上、端末装置は学生に保有されているものとし、端末装置を符号2で代表させる。
【0075】
大学側サーバ10と複数の端末装置2〜5は、ネットワーク8にて接続される。ネットワーク8は、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)であってもよく、有線または無線で接続される。端末装置2〜5は、汎用のコンピュータであってもよく、またモバイル型の通信機能を有する無線端末であってもよい。
【0076】
図12は、大学側サーバ10の構成を示す。大学側サーバ10(以下、単に「サーバ10」と呼ぶ)は、外部からの入力を受け付ける受付部20、外部にデータを提示する提示部30を有する。受付部20および提示部30はネットワーク8からの情報を入出力する機能を有し、またサーバ自身の入力装置および出力装置(図示せず)との間で情報を入出力する機能も有する。
【0077】
サーバ10は、さらに計測部22、比較部24、判定部26、ファイル作成部28および格納部40を備えて構成される。格納部40は、モデルデータを格納するモデルデータ格納部32、修学目標を格納する修学目標格納部34、履修科目を格納する科目格納部36、学生の修学記録を1つのファイルとして格納するファイル格納部38を備える。サーバ10は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0078】
計測部22は、学生の能力値を診断した診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素ごとの充実度を計測する。診断結果とは、(1)自己認識プロセスや、(5)自己再認識プロセスなどにおいて、学生が行う自己認識診断の結果を示す。自己認識診断は、例えば大学側からアンケート形式ないしはテスト形式にて実行され、学生は、学期開始前、ないしは学期終了後にこの自己認識診断を受ける。アンケートやテストに回答した内容は、診断部(図示せず)により診断される。
【0079】
計測部22は、その診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素、具体的には、ヒューマンパワーの複数のコンピテンシーごとに充実度を計測する。計測部22は、ヒューマンパワーのコンピテンシー、すなわち、問題発見力、独創力、ソリューション力、プレゼンテーション力、変革推進力、コミュニケーション力、リーダーシップ力、オーナーシップ力に応じた充実度をスコアで表示する。充実度は、診断結果に応じて定められる、各コンピテンシーに対応した能力値の絶対的評価である。
【0080】
図13は、計測部22による計測結果の表示を示す。学生は、自己認識診断の結果、すなわち計測部22による計測結果を、自身の端末装置2から確認することができる。計測部22は、スコアから、その学生の強みおよび課題を認識して、それを計測結果に含めてもよい。これにより、学生は自身のヒューマンパワーに関する客観的な判断を取得できる。
【0081】
モデルデータ格納部32は、学生が目指す複数の将来モデルに対して設定されたそれぞれのモデルにおける能力のレベル値を、分類した要素ごとに格納する。将来モデルとは、学生が選択する履修コースに応じて様々なものが存在し、例えば、プロジェクトマネジメントスペシャリストなどの具体的な職業モデルであってもよい。モデルデータ格納部32は、モデルに必要な能力のレベル値(スコア)を、ヒューマンパワーの各コンピテンシーごとに格納しておく。モデルデータ格納部32のデータは、比較部24により読み出される。
【0082】
受付部20は、学生の端末装置2から、将来モデルの選択入力を受け付ける。比較部24は、受付部20において受け付けた将来モデルについて、学生の能力値を計測した計測結果と、当該将来モデルに対して設定された能力のレベル値とを複数の要素ごとに比較する。例えば、既述したプロジェクトマネジメントスペシャリストが学生から将来モデルとして選択された場合に、比較部24は、その学生の計測結果と、モデルデータ格納部32に格納されたプロジェクトマネジメントスペシャリストに必要な能力スコア用いて、ヒューマンパワーの各コンピテンシーの比較を行う。
【0083】
図14は、比較部24による比較結果の表示を示す。学生は、選択したモデルに対して自分にどの能力が不足しているか、またはどの能力がモデルに対して満足しているかを確認することができる。自己診断の計測結果とモデルデータとを重ねて表形式で表現することで、学生は、一目で自分の能力とモデルに必要な能力との差異を知ることができる。比較部24は、計測された能力値と、設定されたモデルのレベル値との比較により、モデルのレベル値に満たない能力値を示した要素につき、その満足しない程度を評価してもよい。例えば、計測結果のスコアとモデルのスコアとを比較して、最も能力向上するべき要素(コンピテンシー)などを評価してもよい。例えば、計測結果のスコアとモデルのスコアの差分が一番大きいものを、能力開発のプライオリティが最も高いコンピテンシーとして位置づけしてもよい。図14には、開発プライオリティの高いコンピテンシーを上から順番に表示している。学生は、この比較結果をもとに、能力開発に必要な履修科目を選択する。なお、モデル名は、プルダウン形式で選択可能であり、学生は、自己の端末装置2を介して、モデル名を変更することもできる。
【0084】
修学目標格納部34は、複数種類の修学コースごとに設定された修学目標を格納する。知的創造システム専攻では、複数の修学コースとして「創造的ITプロフェショナル」、「e-Businessプロフェショナル」、「知的財産プロフェショナル」の3つのコースが設けられており、このそれぞれのコースごとに修学目標が設定されている。修学目標格納部34は、修学目標を、この目標を達成するのに必要なコンピテンシーに対応付けて格納する。
【0085】
科目格納部36は、複数の履修科目を、修学することで向上される能力の要素に対応付けて格納する。すなわち、科目格納部36は、履修科目を、それを修学することで得ることができるコンピテンシーと対応付けて格納している。
【0086】
図15は、学生に提示される科目説明書の一部を示す。例えば、「科目:コンサルティング特論」を修学することで、Y3、Y4、Y5、Z1、Z3、Z4、Z5、Z6、X1、X2、X3、X7の計12のコンピテンシーを修得することが示される。この科目説明書は科目格納部36に格納されたデータにより生成される。このように、科目格納部36は、履修科目を、修得可能なコンピテンシーと対応付けて格納している。具体的には図15に示すように、科目格納部36は、修学することで向上される能力種類を、知識領域、ヒューマンパワー、思考プロセスの3つに分類し、分類した能力種類をさらに細分化したコンピテンシーに対応付けて履修科目を格納している。
【0087】
受付部20が、学生の端末装置2から修学目標および複数の履修科目の選択入力を受け付けると、判定部26が、受け付けた複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が、入力された修学目標に対応しているか否かを判定する。学生はコースを選択して、それぞれのコースに応じた修学目標を決定する。選択したコースに応じて、到達するべきゴールは異なるものとなる。修学目標を達成するためには、それに応じたコンピテンシーを開発向上できる履修科目を選択する必要がある。
【0088】
判定部26は、修学目標格納部34から、選択された修学目標に対応付けられた必要なコンピテンシーを読み出す。また判定部26は、科目格納部36から、選択された履修科目に対応付けられた修得可能なコンピテンシーを読み出す。これらのコンピテンシーを用いて、判定部26は、履修科目により修得可能なコンピテンシーが、修学目標に関して必要なコンピテンシーに対応しているか否かを判定する。判定部26は、複数の履修科目の修学により向上されるコンピテンシーが、修学目標に関して必要なコンピテンシーに対応していない場合に、修学目標を達成可能な履修科目を抽出する。この抽出結果は、提示部30から学生に提示される。なお、判定結果自体が提示部30から提示されてもよい。これにより、学生は、履修科目の選択を変更する機会を与えられ、修学目標に応じた履修を行うことができる。
【0089】
受付部20は、学生の端末装置2から、達成するべき複数の修学目標を記載した目標計画シートを受け付ける。また、受付部20は、学生の端末装置2から、それぞれの修学目標の達成度に応じて作成された目標達成シートを受け付ける。さらに、受付部20は、大学側の教員などにより、目標達成シートによる目標達成具合を証明するための証明シートを受け付ける。証明シートは、教員の端末装置から入力されてもよく、またサーバから直接入力されてもよい。これらのシートは、ファイル作成部28に送られる。
【0090】
ファイル作成部28は、それぞれの修学目標に対応する目標達成シートおよび証明シートを関連付け、受け付けた目標計画シート、目標達成シート、証明シートをまとめて、1つのファイルを作成する。このファイルは、図3においてポートフォリオインテリジェンスファイルとして示したものである。また、目標達成シートと証明シートとの関連付けは、図8に示している。なお、図8では、証明シートを「エビデンス」と記している。このように、目標達成シートと証明シートとを関連付けすることにより、自身の修得度の証明が容易となり、ポートフォリオインテリジェンスファイルの価値を高めることが可能となる。ファイル格納部38は、ファイル作成部28において作成されたファイルを格納する。学生は、このファイルを提示部30を介して端末装置2でチェックすることができ、現在の修学度などを確認できる。
【0091】
図10に目標達成シートの要素と評価項目を示したが、本実施例の教育支援システム1において、目標達成シートは、階層構造を有する構造化文書として作成される。この構造化文書は、木構造ノード群で表現される。教育支援システム1では、学生、教授、大学外の客員教授、ゲストスピーカなど、様々な人間が参加することで、多種多様な知識を蓄積していく。教育支援システム1では、知識を蓄積するだけでなく、蓄積した知識の流通を支援することで、知識を眠らせることなく活用することを目的とする。目標達成シートは、学生が作成する修学体験のレポートとしての役割を果たしており、この目標達成シートを構造化文書として作成することで、先生が学生の不得意な事項を検索して、指導・アドバイスを容易に実現できる環境を提供でき、知識の流通を図る。
【0092】
図16は、構造化文書として作成される目標達成シートの木構造のノード群の概念図を示す。目標達成シートは、学生名(学生ID)や、選択した講義に対応付けられている。構造化文書では、文書の内容が、論理構造と呼ばれて、章、節、図などの文書構成要素からなる木構造ノード群で表現される。ノード(論理構造)は、文書型と呼ばれる構文規則に沿って作成される。例えば、SGML(Standard Generalized Markup Language)では、文書のノードを識別するために各ノードの先頭および末尾に特定の前方マーカおよび後方マーカが書き込まれる。前方マーカおよび後方マーカはそれぞれ開始タグおよび終了タグと呼ばれ、開始タグは、”<(識別文字列)>”で表現され、終了タグは”</(識別文字列)>”で表現される。識別文字列は、該当するノードを識別するものである。
【0093】
図17は、図16に示すCEに関して作成された構造化文書を示す。この構造化文書では、CEに関して、第1の階層レベルに「イントロダクション」、「感情」、「思考・行動」、「成果」の4つの識別文字列で表現されるノードが形成される。また、本実施例では、「成果」のノードの下の第2の階層レベルに、さらに「理解点」と「不理解点」のノードが形成されている。
【0094】
図18は、図16に示すROに関して作成された構造化文書を示す。この構造化文書では、ROに関して、第1の階層レベルに「他者意見の考察」、「統合による成果」の2つの識別文字列で表現されるノードが形成される。本実施例では、CEと同様に、「統合による成果」のノードの下の第2の階層レベルに、さらに「理解点」と「不理解点」のノードが形成されている。
【0095】
図17および図18に示す構造化文書を参照すると、CEにおける「成果」およびROにおける「統合による成果」とが、共通の識別文字列「理解点」、「不理解点」により、階層化されている点に特徴がある。
【0096】
図19は、サーバにおける目標達成シートを管理する構成を示す。サーバ10は、外部からの入力を受け付ける受付部20、外部にデータを提示する提示部30を有する。受付部20および提示部30はネットワーク8からの情報を入出力する機能を有し、またサーバ自身の入力装置および出力装置(図示せず)との間で情報を入出力する機能も有する。
【0097】
サーバ10は、さらに文書作成部50、登録処理部52、検索処理部54および目標達成シート格納部56を備える。既述したように、サーバ10は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0098】
学生が目標達成シートを作成する際、提示部30が、学生の端末装置2に入力画面を提示する。この入力画面は、図10に示すように、修学体験の順、すなわちCE、RO、AC、AEの分類の順に学生に提供されてもよいが、学生は、好きな要素を選択して入力できる。受付部20は、学生から、修学体験に関する入力内容、すなわち目標達成シートの各要素の入力内容を、構造化文書の文書構成要素として受け付ける。
【0099】
文書作成部50は、受付部20において受け付けた複数の文書構成要素の間を関係づけて、階層構造を有する構造化文書を作成する。図16を参照して、第1の階層レベルには、分類に応じた評価項目が入力される必要がある。さらに第2の階層レベルには、CEにおける「成果」とROにおける「統合による成果」に対する詳細な評価項目がさらに入力される必要がある。
【0100】
学生は、自身の端末装置において、提示部30により提示される入力画面を見ながら、入力すべき事項を確認して修学体験の内容を入力していく。文書作成部50は、入力された内容を、例えばSGMLで構造化された文書として作成していく。登録処理部52は、作成された構造化文書を目標達成シート格納部56に格納させる。
【0101】
このとき登録処理部52は、所定の同一階層レベルに位置する複数のノードのいずれかに、学生により文書構成要素が入力されていることを条件として、目標達成シート格納部56への構造化文書の格納を行う。所定の同一階層レベルにおける複数のノードとは、その上の階層におけるノードを共通とするものである。具体的には、CEの第1階層レベルにおける「成果」の下層に位置する第2階層レベルの「理解点」または「不理解点」のいずれか一方に学生からの入力内容が記述されているとき、構造化文書を目標達成シート格納部56に格納する。またROの第1階層レベルにおける「統合による成果」の下層に位置する第2階層レベルの「理解点」または「不理解点」のいずれか一方に学生からの入力内容が記述されているとき、構造化文書を目標達成シート格納部56に格納する。この登録は、分類ごとに実行されてよく、したがってCEにおける「理解点」または「不理解点」のいずれかに入力があれば、CEに関する入力内容の登録を行い、またROにおける「理解点」または「不理解点」のいずれかに入力があれば、ROに関する入力内容の登録を行う。
【0102】
一方、登録処理部52は、所定の同一階層レベルにおける複数のノードのいずれにも学生により文書構成要素が入力されていない場合に、目標達成シート格納部56への構造化文書の格納は行わない。具体的には、CEの第2階層レベルの「理解点」または「不理解点」の双方のノードに入力内容が記述されていないとき、CEに関する入力内容の登録は行わない。同様に、ROの第2階層レベルの「理解点」または「不理解点」の双方のノードに入力内容が記述されていないとき、ROに関する入力内容の登録は行わない。この場合、提示部30は、学生の端末装置に対して登録エラーメッセージを送信し、入力されていないノードへの入力を促してもよい。
【0103】
CEおよびROのいずれにおいても、「理解点」または「不理解点」は、修学体験を行った以上、どちらかには必ず入力するべき内容が存在する。そのため、その両方ともに入力がない場合には、その目標達成シートは未完成と判断し、登録処理部52は目標達成シート格納部56への登録を拒否する。これにより、学生が入力し忘れる事態を回避することができ、目標達成シートを充実させることができる。
【0104】
一方で、「理解点」または「不理解点」のいずれか一方に入力がある場合、全ての内容を理解したか、全ての内容を理解していないかであり、これらはいずれも可能性としてはあり得る。そのため、登録処理部52は「理解点」または「不理解点」のいずれかに入力がある場合には、それをもって、CEにおける「成果」ないしはROにおける「統合による成果」への入力内容の登録を許可することにする。
【0105】
以上は、第2階層レベルのノードへの入力に関して説明したが、第1階層レベルのノードへの入力は必須である。したがって、登録処理部52は、第1階層レベルに入力がない場合、作成した構造化文書を目標達成シート格納部56に格納せず、提示部30が、学生の端末装置に対して登録エラーメッセージを送信する。
【0106】
このようにして登録された目標達成シートに対して、担当講義の先生は、学生の習熟度を見るために、目標達成シートの内容を確認する。先生には、学生の理解している点と理解していない点とを把握し、学生を正しい方向に導くという役割がある。そのため、目標達成シートにおいて、修学体験の結果を示す「成果」、「統合による成果」の重要性は高く、先生は、学生の理解点、不理解点を迅速に閲覧したいという要望がある。
【0107】
本実施例のサーバ10は、目標達成シートを構造化文書として作成しており、ノードを特定する識別文字列をキーとして、目標達成シート格納部56に格納された複数の構造化文書のノードの文書構成要素を検索して抽出する検索処理部54を備えている。また、構造化文書の第2階層レベルにおいては、CEおよびROに関して、学生が理解した内容が入力されている「理解点」と、理解していない内容が入力されている「不理解点」のノードが設定されている。
【0108】
先生は、例えば、「理解点」をキーとして構造化文書を検索することで、目標達成シート格納部56に格納された構造化文書の中から、「理解点」のノードに入力された文書構成要素を抽出する。ここで、第2階層レベルのノードにおいて、共通の識別文字列「理解点」が、CEおよびROにそれぞれ属する異なるノードに対して付与されているために、「理解点」をキーとして検索することで、CEおよびROの第2階層レベルの「理解点」に入力された文書構成要素を同時に抽出することができる。これにより、先生は、学生の理解の習熟度を段階的に同時にみることができ、検索の手間を省略することができる。
【0109】
また、第2階層レベルにおいて共通に付与された識別文字列「不理解点」を検索キーとして検索することで、CEおよびROの第2階層レベルの「不理解点」に入力された文書構成要素を同時に抽出できる。図17および図18を参照すると、この例ではROにおいて「不理解点」には入力された文書構成要素がなく、したがって先生は、この事実から、最終的に学生が完全に修学内容をマスターしたことを把握できる。また、一般に先生は多くの学生を担当しており、教育支援システム1においては、全ての学生の「理解点」、「不理解点」を簡単な検索で抽出できるため、先生の負担を大幅に軽減できる。
【0110】
以上のように、サーバ10が目標達成シートの作成支援を行うことで、学生は、容易に目標達成シートを作成することができ、また先生は、作成された目標達成シートを容易に確認することができる。これにより、学生、先生双方にメリットの高いシステムを構築できる。
【0111】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0112】
1・・・教育支援システム、10・・・サーバ、20・・・受付部、22・・・計測部、24・・・比較部、26・・・判定部、28・・・ファイル作成部、30・・・提示部、32・・・モデルデータ格納部、34・・・修学目標格納部、36・・・科目格納部、38・・・ファイル格納部、40・・・格納部、50・・・文書作成部、52・・・登録処理部、54・・・検索処理部、56・・・目標達成シート格納部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、大学などの教育機関において、学生の学習を支援するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
物的資源の少ない日本では、今後ますます知的資源たる知的創造物が重要になる。米国のドラッガーは「今後、経営にとって知識は唯一の有効な資源である」と言っているが、今その資源の競争が現実のものとなり、「知的創造が価値を生み出すこと」が広く認識されるようになってきた。
【0003】
知的創造物を生み出すためにはその「知的創造」の方法論を環境変化に対応して考える必要がある。「知的創造」とは一般には人間が「知」を用いて創意工夫することで、新しいアイデア、物、システムなどを創造することをいう。
【0004】
しかしながら、「創造」とは「他の業務や活動」と性質が異なり、参考となる雛型もなければ、信頼に足りるルールやプロセスも存在しない。それどころか成否の判断基準すら存在しないのが現状である。一般的には「創造」を生み出すプロセスはある意味で一回限りの神技であったり、個人あるいは集団のイマジネーションが大きく飛躍した結果であって、事前に計画することも、真似することもできないものと考えられている。
【0005】
しかし一方で素晴らしいアイデアを継続的に生み出す個人や企業が存在していることも事実であり、新製品のみならず、新しい業務プロセス、新しい戦略、新しい事業など、様々なアイデアが打ち出されている。このような状況をみると「創造」を生み出す成功の秘訣が存在するのか、システム化できるのか、そのシステムが他の個人や企業の手本になるのかなどを解明するために知的創造を生み出すメカニズムといえる「知的創造システム」の研究を行う必要がある。
【0006】
これらの価値を生み出すのは知的で高度な人間が主役と考えがちであるが、実は各分野のプロフェショナルが集積してこそイノベーションが創出されることにある。この意味では組織はプロフェショナルな人材をいかに結集できるか、個人はいかにプロフェショナルであるかが問われる社会になったといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−274426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
我々は、個人の「キャリア権」というものを有している。それは、個人が自分の能力や意欲に合った仕事に就き、自らがキャリアを構築して行く権利である。「知的創造社会」に移行しているこの時代、企業ライフサイクルは短くなり、企業のピラミッド組織の崩壊が始まっている。それにより、ゼネラリスト管理職の活用できる場の消失、社内出世をキャリア目標としたシステムの崩壊が起こっている。
【0009】
そのような中、我々は、個人のキャリアの陳腐化という、新たな問題に直面している。その解決策として我々に残されている道は、個人が「自己主導のコアコンピタンス」を創造・確立していくことである。具体的には、ある分野のプロフェショナルになるため、自分の仕事やキャリアに対して主体的かつ創造的に取り組んでいく行動を継続的に行うことである。
【0010】
これからの「知的創造社会」の時代、実際に企業側が求めるものとは、雇用責任万能な社員のキャリア陳腐化から脱却して社員の「自己主導のコアコンピタンス」の力を企業競争優位性の源泉とするものである。なお、コアコンピタンスとは、各個人が持つ核となる(最も優れた)能力のことを意味する。以上のように、高度な創造的知識を有する人材を育成し、かつ自己主導のコアコンピタンスの創造と確立もできる人材を育成することが、大学などの教育機関に求められるようになっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様は、学生の学習を支援する学習支援装置に関する。この態様の学習支援装置は、学生の能力値を診断した診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素ごとの充実度を計測する計測部と、学生が目指す複数の将来モデルに対して設定されたそれぞれのモデルにおける能力のレベル値を、分類した要素ごとに格納する格納部と、学生から将来モデルの選択入力を受け付ける受付部と、受け付けた将来モデルについて、学生の能力値を計測した計測結果と、当該将来モデルに対して設定された能力のレベル値とを複数の要素ごとに比較する比較部とを備える。
【0012】
この態様の学習支援装置によると、学生は、自身の目指す将来モデルに対する現在の能力の不足分を認識して、開発すべき能力を把握できる。
【0013】
本発明の別の態様も、学生の学習を支援する学習支援装置に関する。この態様の学習支援装置は、複数種類の修学コースごとに設定された修学目標を格納する第1格納部と、複数の履修科目を、修学することで向上される能力の要素に対応付けて格納する第2格納部と、修学目標および複数の履修科目の選択入力を受け付ける受付部と、受け付けた複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が、入力された修学目標に対応しているか否かを判定する判定部とを備える。
【0014】
この態様の学習支援装置によると、学生は、履修科目の選択の適切性に対する客観的な判定を得ることが可能となる。
【0015】
本発明のさらに別の態様も、学生の学習を支援する学習支援装置に関する。この態様の学習支援装置は、達成するべき複数の修学目標を記載した目標計画シートを受け付ける第1受付部と、それぞれの修学目標の達成度に応じて作成された目標達成シートを受け付ける第2受付部と、目標達成シートによる目標達成具合を証明するための証明シートを受け付ける第3受付部と、それぞれの修学目標に対応する目標達成シートおよび証明シートを関連付け、第1受付部、第2受付部および第3受付部にて受け付けた目標計画シート、目標達成シート、証明シートをまとめて、1つのファイルを作成するファイル作成部とを備える。第1受付部、第2受付部および第3受付部は、ハードウェア的には同一の受付部で構成されていてもよい。
この態様の学習支援装置によると、修学の軌跡を1つにまとめたファイルを作成することが可能となる。
上記した態様の学習支援装置は、ポートフォリオを用いた学習支援装置として機能してもよい。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、学生の能力値を診断した診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素ごとの充実度を計測するステップと、学生が目指す複数の将来モデルに対して設定されたそれぞれのモデルにおける能力のレベル値を、分類した要素ごとに格納しておくステップと、学生から将来モデルの選択入力を受け付けるステップと、受け付けた将来モデルについて、学生の能力値を計測した計測結果と、当該将来モデルに対して設定された能力のレベル値とを複数の要素ごとに比較するステップと、修学目標および複数の履修科目の選択入力を受け付けるステップと、受け付けた複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が、入力された修学目標に対応しているか否かを判定して、判定結果を提示するステップと、達成するべき複数の修学目標を記載した目標計画シートを受け付けるステップと、それぞれの修学目標の達成度に応じて作成された目標達成シートを受け付けるステップと、目標達成シートによる目標達成具合を証明するための証明シートを受け付けるステップと、それぞれの修学目標に対応する目標達成シートおよび証明シートを関連付け、目標計画シート、目標達成シート、証明シートをまとめて、1つのポートフォリオファイルを作成するステップとを備えるポートフォリオを利用した学習支援方法を提供する。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、修学体験に関する入力内容を文書構成要素として受け付ける受付部と、受付部において受け付けた複数の文書構成要素の間を関係づけて、階層構造を有する構造化文書を作成する文書作成部と、作成した構造化文書を格納部に格納させる登録処理部とを備えた学習支援装置を提供し、登録処理部は、所定の同一階層レベルに位置する複数のノードのいずれかに、文書構成要素が入力されていることを条件として、格納部への構造化文書の格納を行う。
【0018】
この態様の学習支援装置によると、ユーザは、修学体験に関する文書を容易に作成することが可能となる。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラムとして表現したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、学生の学習支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】3次元のコンピテンシーモデルを示す図である。
【図2】ポートフォリオインテリジェンスの基本概念を示す図である。
【図3】ポートフォリオインテリジェンスの構成図である。
【図4】ポートフォリオインテリジェンスファイルに含まれる各ファイルの詳細を示す図である。
【図5】本発明のポートフォリオインテリジェンスファイルを用いた教育支援システムのイメージ図である。
【図6】ポートフォリオインテリジェンスの基本プロセスを示す図である。
【図7】アクションラーニングプロセスを示す図である。
【図8】目標シート作成プロセスを示す図である。
【図9】修学目標とそれに対応する目標達成シートとエビデンスの関係を示す図である。
【図10】目標達成シートの要素と評価項目を示す図である。
【図11】実施例における教育支援システムを示す図である。
【図12】大学側サーバの構成を示す図である。
【図13】計測部による計測結果の表示を示す図である。
【図14】比較部による比較結果の表示を示す図である。
【図15】学生に提示される科目説明書の一部を示す図である。
【図16】構造化文書として作成された目標達成シートの木構造ノード群の概念図である。
【図17】図16に示すCEに関して作成された構造化文書を示す図である。
【図18】図16に示すROに関して作成された構造化文書を示す図である。
【図19】サーバにおける目標達成シートを管理する構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施例では、大学または大学院などの教育機関における教育の1つとして、個人のコアコンピタンスを向上させることを目的としたカリキュラム(以下、これを「知的創造システム専攻」と呼ぶ)を例にとる。本実施例において、知的創造システム専攻は、「創造的ITプロフェショナル」、「e-Businessプロフェショナル」、「知的財産プロフェショナル」の3つのコースを設置し、学生の学習支援を行いながら、人材育成を行うことを目的とする。
【0023】
「創造的ITプロフェショナルコース」では、ITに重点を置き、高度ソフトウェア開発者、Webアプリケーションディベロッパ、アプリケーションスペシャリスト、ITスペシャリスト、ITコンサル、ITアーキテクト、プロジェクトマネージャー、独立ベンチャー経営者、サーバアドミニストレータ−、インターネットワーキングスペシャリスト、セキュリティプロフェッショナル、カスタマーサービス、オペレーション、社内ベンチャー経営者、第2創業・中小企業経営者などを養成することを目的とする。
【0024】
「e-Businessプロフェショナルコース」では、e-Businessに重点を置き、ビジネスプロセス開発者、マーケティングスペシャリスト、ビジネスコンサルタント、ITコーディネーター、ビジネスプロセスマネージャー、Net戦略マネージャー、プロジェクトマネージャー、企業アーキテクト、先端技術戦略・政策立案者、産学連携・技術移転推進者、IT戦略立案・実行者、ベンチャー経営者、CDO、セールス、プロセスオーナー、マーケティング戦略推進者、CEO、経営企画、CFO、CTO、CIOなどを養成することを目的とする。
【0025】
「知的財産プロフェショナルコース」では、知的財産に重点を置き、弁理士、パテントエンジニア、特許事務所責任者、知的財産コンサルタント、知財部門責任者、特許事務所経営者、CIPOなどを養成することを目的とする。
【0026】
知的創造システム専攻では、明確な目標と方法論で人材育成を行う。このために、本発明は、「コンピテンシーモデル」を提案する。コンピテンシーとは「高い業績を生み出すために人間が必要とする特徴的な行動特性」であり、以下の実施例では、3次元のコンピテンシーモデルを示す。
【0027】
図1は、3次元のコンピテンシーモデルを示す。導入されるコンピテンシーモデルは、X軸に「思考プロセス」、Y軸に「知識領域」、Z軸に「ヒューマンパワー」の3軸のコンピテンシーにより表現される。
【0028】
思考プロセス(X軸)のコンピテンシーには、以下のものがある。
X1:企画
X2:構想
X3:調査・分析
X4:設計・開発
X5:変革
X6:導入・運用
X7:評価・検証
X8:ライフサイクル
【0029】
知識領域(Y軸)のコンピテンシーには、以下のものがある。
Y1:基盤テクノロジー
Y2:応用テクノロジー
Y3:ビジネスプロセス
Y4:ビジネスモデル
Y5:ビジネスマネジメント
【0030】
ヒューマンパワー(Z軸)のコンピテンシーには、以下のものがある。
Z1:問題発見力
Z2:独創力
Z3:ソリューション力
Z4:プレゼンテーション力
Z5:変革推進力
Z6:コミュニケーション力
Z7:リーダーシップ力
Z8:オーナーシップ力
【0031】
3次元のコンピテンシーモデルにおいて求められる成果により、必要とされるコンピテンシーのサブセットが構成される。図示のサブセットは、思考プロセスとして「調査・分析」、知識領域として「応用テクノロジー」、ヒューマンパワーとして「独創力」を必要とするコンピテンシーである。実施例のコンピテンシーモデルは、3系統(3軸)のコンピテンシーを有することで、育成する人材のコンピテンシーモデルを大きく分けて3種類用意することができる。すなわち、思考プロセスを重視するモデル、知識領域を重視するモデル、およびヒューマンパワーを重視するモデルの3種類である。
【0032】
<1>ポートフォリオインテリジェンス
知的創造システム専攻は「ITを利用して知的創造を促進し、その創造物をe-Business技術により構築・実装して、同時に知的財産権の保護を確立し、企業改革を行い事業の発展ひいては産業の発展を確固たるものとできる横断的で高度な創造的知識を有する」人材を育成し、かつ「自己主導のコアコンピタンス」の創造と確立もできる人材を育成することを目的とする。そのため、知的創造システム専攻は、以下に示すポートフォリオインテリジェンスを教育に導入し、人材育成を図る。
【0033】
ポートフォリオインテリジェンスとは、個人主導のキャリア形成力を修得し、「自己主導のコアコンピタンス」の創造・確立を行うものである。知的創造システム専攻は、ポートフォリオインテリジェンスを通して、学生に対し「自己主導のコアコンピタンス」の創造・確立に関する学術的かつ実践的な総合学習を実現する。
【0034】
図2は、ポートフォリオインテリジェンスの基本概念を示す。ポートフォリオインテリジェンスは、M(motivation)→P(plan)→D(do)→C(check)→G(grow)により「自己主導のコアコンピタンス」を創造・確立していく。本実施例のポートフォリオインテリジェンスは、学生に自己の能力と啓発課題を予め認識させた上で、学生のモチベーションを向上させる点に大きな特徴がある。
【0035】
<2>ポートフォリオインテリジェンスの構成図
図3は、ポートフォリオインテリジェンスの構成図を示す。ポートフォリオインテリジェンスは様々な要素をもとにファイルリングされる。時間単位は、入学から卒業までの年数であり、このポートフォリオインテリジェンスファイルを作成することにより、知的創造システムを専攻した学生の軌跡を残すことができる。
【0036】
ポートフォリオインテリジェンスファイルは、学生に対して、まず修学目標と履修計画を明確化させる目的がある。学生に目標計画を設定させることで、学生のキャリアアップへの意識を向上させる。学生は、修学目標を設定し、修学目標ごとに目標達成シートを作成する。これにより、学生は、自身の成長プロセスを実感することができ、キャリアアップへの自身の目標計画を再設定することもできる。
【0037】
図中、「自シ」は、自己認識シートの略語であり、後述する自己認識診断の診断結果が記される。学生は、自己認識シートにより、自身の強みとする能力を把握することができる。逆にいえば、学生は自身に欠如する能力を把握することができ、修学中に伸ばすべき能力を認識した上で、その能力向上を補助する科目を選択することができる。
【0038】
ポートフォリオインテリジェンスファイルは、図2に示したM(motivation)→P(plan)→D(do)→C(check)→G(grow)の流れを記述するものであり、学生は自由にこのファイルにアクセスすることで、自分に必要な学習に対する意識を向上させる。
【0039】
図4は、ポートフォリオインテリジェンスファイルに含まれる各ファイルの詳細を示す。このファイルの各々を見ることで、学生は自身のスキルアップの程度を確認できる。またポートフォリオインテリジェンスファイルは、自身のスキルアップを記すものであるため、修学の軌跡としての位置づけだけでなく、第三者に対する自身のスキルを説明するための材料とすることもできる。
【0040】
図5は、本発明のポートフォリオインテリジェンスファイルを用いた教育支援システムのイメージ図である。大学内の学生、教授、大学外の客員教授、ゲストスピーカ、将来の入校生、または世界中の様々な人々が、この教育支援システムに主体的に参加することができる。例えば、客員教授やゲストスピーカは、学生が作成したポートフォリオに含まれるプラクティカムシートにアクセスして、学生に対するアドバイスを行うことができる。ゲストスピーカは、例えば、学生の研究分野の有識者であったり、また大学の卒業生であったりする。このアドバイスはプラクティカムシートに残り、学生はそのアドバイスを有効に利用し、自身の研究の新たな方向性や可能性を見出すこともできる。また将来、この大学への入学を考えている人に対しては、先輩のポートフォリオインテリジェンスファイルをサンプルとして利用して、自分が入学したときのイメージを掴むこともできる。
【0041】
このように、本発明の教育支援システムによると、リンクの双方向性により大学の実教育と世界的智とを結合することができ、またポートフォリオ利用の敷居を低くすることで、学内のみならず、学外との間でも、より多くのコミュニケーションを生み出すことができる。このように、ポートフォリオを核とした「教育支援システム」、別の観点からいえば「学習支援システム」を構築することで、人と人との新たな繋がりが生まれ、空間および時間の共有を図ることが可能となる。これにより、大学は教育機関としての価値を高めることができるとともに、学生に対して、能力向上の絶好の環境を与えることができる。ポートフォリオを利用することで、情報流通が活発化し、外に開いた新しい大学像を確立することができる。
【0042】
<3>ポートフォリオインテリジェンスの基本プロセス
図6は、ポートフォリオインテリジェンスの基本プロセスを示す。ポートフォリオインテリジェンスは、9つのプロセスで形成される。これらのプロセスは、例えば1年間という修学期間の全体を通じて実施される。具体的には、ポートフォリオインテリジェンスが、
(1)自己認識プロセス
(2)コンピテンシーモデルプロセス
(3)アクションラーニングプロセス
(4)リフレクションジャーナル作成演習プロセス
(5)自己再認識プロセス
(6)目標達成シート作成プロセス
(7)成績評価プロセス
(8)ポートフォリオ統合プロセス
(9)ポートフォリオサマリー作成プロセス
の9段階のプロセスで形成されている。
【0043】
(1)自己認識プロセス
入学前に、学生は、自己認識診断を行う。自己認識診断の目的は、知的創造システム専攻の特色の一つでもある、「3次元のコンピテンシーモデル」のうちのヒューマンパワーを定量的に測定し、自己の強みと課題等を認識し、キャリアゴールの実現に向けた能力開発につなげることにある。
【0044】
企業改革を行い、事業の発展ひいては産業の発展を確固たるものとできる人材、かつ「自己主導のコアコンピタンス」の創造と確立もできる人材には、高度な知識やスキルが必要とされることは言うまでもない。さらに、主体性や、自己の動機づけ、さらには人とのコミュニケーションが上手で人の心を上手につかみ、人をその気にさせるといった他者への影響力等の「人間力」、すなわちヒューマンパワーも欠かすことができない重要な要素である。自己認識診断は、これらの能力を明らかにする。
【0045】
個々の学生に対して、ヒューマンパワーに関するコンピテンシー分析が行われる。その後、分析結果は、教員との個別面談時に報告され、学生は、現時点でのヒューマンパワーの強さ・課題等を認識するだけでなく、自己が抱いているキャリアゴールに対するコンピテンシーのギャップについて認識する。
【0046】
認識した結果は、修学目標および履修計画を策定するコンピテンシーモデルプロセスでの素材として活用される。なお、学生は、ポートフォリオインテリジェンスのエビデンスとなる分析結果「自己認識シートI」を保管する。自己認識シートIには、ヒューマンパワーに関するスコアが記され、スコアから見た学生の特徴、すなわち強みや課題などが記載されている。さらに、学生が設定した目標に対して、その目標を実現するためのモデルデータと自分のコンピテンシー計測値との比較結果も記述される。これにより、学生の能力開発のポイントをピックアップすることができ、履修する科目の選択に役立てることが可能となる。
【0047】
(2)コンピテンシーモデルプロセス
自己認識プロセス後、学生は、教員との個別面談を受ける。面談の目的は、1)修学目標の確認と設定、2)履修計画の策定、3)履修申請である。
【0048】
修学目標とは、学生のキャリアゴールを達成するための修学目標である。また、履修計画は、それらを達成するためのアクションプランとなる。学生は、教員との面談からアドバイスや「自己認識シートI」を活用して、より適切な修学目標の設定と履修計画の策定を行う。
【0049】
修学目標は、「知的創造システム専攻全体で開発される共通ゴール」、「コースで開発されるゴール」、「開発すべきパーソナルゴール」の3つの分類に分けられる。なお、修学目標の内容は、「3次元のコンピテンシーモデル」のコンピテンシーを身に付ける内容となっている。
【0050】
履修計画は、3つの分類の修学目標を達成するために、修学する研究指導のテーマおよび前学期・後学期の関係科目の履修科目について策定される。なお、研究指導および各関係科目は、「3次元のコンピテンシーモデル」のコンピテンシーを身に付ける研究指導・講義・演習等となっている。
【0051】
修学目標の理解と設定および履修計画の策定として、次の原則がある。
「知的創造システム専攻全体で開発される共通ゴール」として、いくつかの修学目標が設定されている。学生は、研究指導、必修関係科目、推奨選択関係科目を履修し、これらの修学目標の達成を目指す。なお、研究指導の研究テーマは、自由に選択できる。
【0052】
「コースで開発されるゴール」として、コースごとに修学目標が設定されている。学生は、関係科目を履修し、所属コースの修学目標の達成を目指す。
【0053】
「開発すべきパーソナルゴール」として、学生は一つの個人的な修学目標を設定する。学生は、関係科目を履修し、その修学目標の達成を目指すことになる。
【0054】
学生は、修学目標を設定し履修計画を策定した後、履修科目申請を行う。その後、修学目標と履修科目の内容を記載する「目標計画シート」を作成し保管する。
【0055】
(3)アクションラーニングプロセス
図7は、アクションラーニングプロセスを示す。アクションラーニングは、様々な教育指導形式・環境・マテリアルを組み合わせ、「理論」→「実践」→「リフレクション」のプロセスを繰り返すことにより、「知識領域」だけでなく、「思考プロセス」や「ヒューマンパワー」のコンピテンシー修得を実現する教育方法である。これにより、学生は、どのような環境下においても発揮できるコンピテンシーの修得を目指す。
【0056】
知的創造システム専攻は、前学期・後学期の関係科目での講義・演習等に、アクションラーニングの「理論」→「実践」までのプロセスを実施する。なお、「リフレクション」までのプロセスは、専修科目のリフレクションジャーナル作成演習にて実施する。
【0057】
関係科目において、学生は、「理論」→「実践」を通して、ポートフォリオインテリジェンスの素材となる提出課題の「プラクティカムシート」と意見交換の「ログ」を作成する。これらは、専修科目で行われるリフレクションジャーナル作成演習の「リフレクション」の素材として活用され、最終的に、「目標達成シート」の作成の素材として活用される。また、「プラクティカムシート」はポートフォリオインテリジェンスのエビデンスである「ベストプラクティカムシート」として選別される。この「プラクティカムシート」は、学内の学生、教授のみならず、学外の客員教授やゲストスピーカなどのアクセスも可能とし、これによりプラクティカムシートを様々な人間の協力により充実化できるとともに、充実したプラクティカムシートの有効利用を図ることもできる。
【0058】
同時期に、専修科目において、学生は、主査・副査の研究指導のもとで、ポートフォリオインテリジェンスの修学目標1のエビデンスとなる「研究論文」と意見交換の「ログ」を作成する。これらは、ダイレクトに専修科目の学習プロセスで行われるポートフォリオ作成の素材とエビデンスとして活用され、「目標達成シート」の作成に活用される。
【0059】
関係科目の講義・演習等からの「プラクティカムシート」は、プラクティカムの結果である。プラクティカムとは、様々な環境・マテリアル・教育手法を組み合わせたイベントによる実践であり、通常、各関係科目の講義・演習等で、3回程度行われる。
【0060】
プラクティカムの結果は、「プラクティカムシート」となる。採点された「プラクティカムシート」は、専修科目のリフレクションジャーナル作成演習の「リフレクション」の素材や、「目標達成シート」の作成の素材として活用される。また、修学目標達成の証拠となる「プラクティカムシート」は、ポートフォリオインテリジェンスのエビデンスである「ベストプラクティカムシート」となる。
【0061】
なお、専修科目のリフレクションジャーナル作成演習の「リフレクション」および「目標達成シート」の作成の素材や「ベストプラクティカムシート」となるものは、「プラクティカムシート」に限定しない。採点済みの課題レポートやペーパーテスト等でも、受け付け可能である。
【0062】
(4)リフレクションジャーナル作成演習プロセス
学生は、前学期・後学期の中盤から、専修科目でリフレクションジャーナル作成演習を行い「理論」→「実践」→「リフレクション」までの全体のプロセスを実践する。リフレクションジャーナルは、「理論」→「実践」により、自分自身でどれだけ理解したかをリフレクションすることでさらに学習する。学生は、教員の指導のもと、実際の講義・演習等から作成される素材(「プラクティカムシート(課題レポート・ペーパーテスト等も含む)」と「ログ」)を活用してリフレクションし、リフレクションジャーナルを作成する。なお、ログは、学生と教員間の意見交換の情報の記録である。
【0063】
また、リフレクションジャーナルは、ポートフォリオインテリジェンスの「目標達成シート」と同じ構成要素とメカニズムを持っている。従って、リフレクションジャーナル作成演習の目的は、「理論」→「実践」→「リフレクション」までのプロセスを実践するだけでなく、リフレクションジャーナルの作成を通して、「目標達成シート」の作成能力の向上をはかるものでもある。
【0064】
リフレクションジャーナルの構成要素とメカニズムは、コーブら[Kolb, Rubin, & McIntyre,1971]の提唱する「Experiential Learning Model」の概念をベースに設計される。「Experiential Learning Model」のメカニズムは、(1)具体的な体験「Concrete Experience (CE)」をし、(2)その体験をリフレクションしたり、自他の体験を観察し「Reflective Observations (RO)」、(3)経験したことを抽象的に考えたり、一般化を試みて「Abstract Conceptualization (AC)」、(4)新しい体験に導くために自分の行動の仮設化「Active Experimentation (AE)」を行うというものである。このメカニズムを適用し開発された知的創造システム専攻のリフレクションジャーナルは、4つの構成要素を含んで記載するものとなる。
【0065】
構成要素1 Concrete Experience(CE) 具体的な体験学習を文書化する
構成要素2 Reflective Observation(RO) 体験を他の人の見方により考察・理解し、自分の見方にとりこみ再考察したことを文書化する
構成要素3 Abstract Conceptualization(AC) 再考察したことを調査・研究を通して理論により論証した結果を文書化する
構成要素4 Active Experimentation(AE) 体験学習の再考察から学習したことを応用し次の行動計画を文書化する
【0066】
(5)自己再認識プロセス
前学期終了時、後学期開始時、後学期終了時に、学生は、自己認識診断を再度行う。学生は、ヒューマンパワーに関するコンピテンシーを分析され、分析結果によりヒューマンパワーの成長度合いを認識する。分析結果は、「自己認識シートII・III・IV」となる。学生は、これらをポートフォリオインテリジェンスのエビデンスとして保管する。
【0067】
(6)目標達成シート作成プロセス
図8は、目標シート作成プロセスを示す。前学期終了後と後学期終了後、学生は、専修科目で、主査にアドバイスしてもらいながら、修学目標ごとに、その修学目標の達成に関する素材を選別し(「ベストプラクティカムシート」と「ログ」を抽出し)、それらを活用して修学体験をリフレクションして、その修学目標に対応した「目標達成シート」を作成する。また、同時に修学目標の達成のエビデンスとして、「ベストプラクティカムシート」、「成績評価シート」や「自己認識シート」を添付する。
【0068】
図9は、修学目標とそれに対応する目標達成シートとエビデンスの関係を示す。「目標達成シート」は、リフレクションジャーナルの構成要素とメカニズムを適用して作成される。その結果、各「目標達成シート」には、各修学目標の達成に結びつく修学の軌跡と成果としてのCE→RO→AC→AEが記載されることとなる。
【0069】
図10は、目標達成シートの要素と評価項目を示す。「目標達成シート」は必ず図10に示す要素が満たされている内容とする必要がある。なお、ISとは、Integration and Synthesis(文章の目的を理解し、シンプルかつ明確に、ストーリー性を含めて文章化すること)である。
【0070】
(7)成績評価プロセス
学生は、前学期終了時および後学期終了時に、各関係科目の成績評価をされる。(専修科目の成績評価については、公聴会後となる。)各関係科目の成績評価はポートフォリオ学習支援計画書の「評価の方法」に従って行われ、通常、プラクティカムシート、ミニイベント、小テスト、レポート等の項目を勘案しながら評価される。また、専修科目に関して、研究論文、目標達成シートの項目を勘案しながら評価される。成績評価後、学生は、成績通知を受ける。学生は、この成績通知を、ポートフォリオインテリジェンスのエビデンスの「成績評価シート」として保管する。
【0071】
(8)ポートフォリオ統合プロセス
学生は、後学期終了時から公聴会までの期間、専修科目内で、ポートフォリオインテリジェンスファイルに必要なシートを統合し、目次を作成して、ポートフォリオインテリジェンスの形式に合わせたファイルを作成する。そのファイルが、「ポートフォリオインテリジェンスファイル」となる。なお、この時点では「ポートフォリオサマリー」は含まれていない。また、「専修科目成績評価シート」は、公聴会の評価を含んでいないものを添付する。
【0072】
(9)ポートフォリオサマリー作成プロセス
学生は、公聴会前に、専修科目内で、ポートフォリオインテリジェンスファイル(「ポートフォリオサマリーを含んでいないもの」)を活用し、一年間の修学の集大成のサマリーとなる「ポートフォリオサマリー」を作成する。「ポートフォリオサマリー」は、自己のコアコンピタンスとその形成過程を簡潔に記載するものとなる。修了後、就職・転職・昇進等のための自己PRに活用する資料にもなる。
【0073】
具体的な内容は、1)「知識領域」「思考プロセス」「ヒューマンパワー」の各軸における自己の強さを説明し、2)その強さを統合することで自己のコアコンピタンスとは何かについて説明する。また、3)その形成過程についても説明する。学生は、「ポートフォリオサマリー」を「ポートフォリオインテリジェンスファイル」に添付し、「ポートフォリオインテリジェンスファイル」を完結させる。その後、学生は、「ポートフォリオサマリー」の内容を公聴会にて発表し、口頭試問を受け、修了判定を受けることとなる。
【0074】
以下に、上記した知的創造システム専攻を実現するためのシステムを示す。
図11は、実施例における教育支援システム1を示す。教育支援システム1は、大学などの教育機関に管理される大学側サーバ10と、学生(院生も含む)などが保持する複数の端末装置2、3、4、5を含んで構成される。なお、教育支援システム1には、図5に示したように様々な人間が参加することができる。したがって、端末装置2、3、4、5の保有者は、学生だけでなく、学内の教授であってもよく、また学外の客員教授、ゲストスピーカなど、国内のみならず世界中の人間であってよい。大学側サーバ10は、大学の教育課程において学生の育成を支援する学習支援装置として機能する。この学習支援装置は、ポートフォリオ、具体的にはポートフォリオインテリジェンスファイルを利用して、学生の修学を支援する。大学側サーバ10は、端末装置2〜5からの入力を可能とし、また端末装置2〜5への出力を可能とする。以下、説明の便宜上、端末装置は学生に保有されているものとし、端末装置を符号2で代表させる。
【0075】
大学側サーバ10と複数の端末装置2〜5は、ネットワーク8にて接続される。ネットワーク8は、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)であってもよく、有線または無線で接続される。端末装置2〜5は、汎用のコンピュータであってもよく、またモバイル型の通信機能を有する無線端末であってもよい。
【0076】
図12は、大学側サーバ10の構成を示す。大学側サーバ10(以下、単に「サーバ10」と呼ぶ)は、外部からの入力を受け付ける受付部20、外部にデータを提示する提示部30を有する。受付部20および提示部30はネットワーク8からの情報を入出力する機能を有し、またサーバ自身の入力装置および出力装置(図示せず)との間で情報を入出力する機能も有する。
【0077】
サーバ10は、さらに計測部22、比較部24、判定部26、ファイル作成部28および格納部40を備えて構成される。格納部40は、モデルデータを格納するモデルデータ格納部32、修学目標を格納する修学目標格納部34、履修科目を格納する科目格納部36、学生の修学記録を1つのファイルとして格納するファイル格納部38を備える。サーバ10は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0078】
計測部22は、学生の能力値を診断した診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素ごとの充実度を計測する。診断結果とは、(1)自己認識プロセスや、(5)自己再認識プロセスなどにおいて、学生が行う自己認識診断の結果を示す。自己認識診断は、例えば大学側からアンケート形式ないしはテスト形式にて実行され、学生は、学期開始前、ないしは学期終了後にこの自己認識診断を受ける。アンケートやテストに回答した内容は、診断部(図示せず)により診断される。
【0079】
計測部22は、その診断結果をもとに、能力値の指標として分類した複数の要素、具体的には、ヒューマンパワーの複数のコンピテンシーごとに充実度を計測する。計測部22は、ヒューマンパワーのコンピテンシー、すなわち、問題発見力、独創力、ソリューション力、プレゼンテーション力、変革推進力、コミュニケーション力、リーダーシップ力、オーナーシップ力に応じた充実度をスコアで表示する。充実度は、診断結果に応じて定められる、各コンピテンシーに対応した能力値の絶対的評価である。
【0080】
図13は、計測部22による計測結果の表示を示す。学生は、自己認識診断の結果、すなわち計測部22による計測結果を、自身の端末装置2から確認することができる。計測部22は、スコアから、その学生の強みおよび課題を認識して、それを計測結果に含めてもよい。これにより、学生は自身のヒューマンパワーに関する客観的な判断を取得できる。
【0081】
モデルデータ格納部32は、学生が目指す複数の将来モデルに対して設定されたそれぞれのモデルにおける能力のレベル値を、分類した要素ごとに格納する。将来モデルとは、学生が選択する履修コースに応じて様々なものが存在し、例えば、プロジェクトマネジメントスペシャリストなどの具体的な職業モデルであってもよい。モデルデータ格納部32は、モデルに必要な能力のレベル値(スコア)を、ヒューマンパワーの各コンピテンシーごとに格納しておく。モデルデータ格納部32のデータは、比較部24により読み出される。
【0082】
受付部20は、学生の端末装置2から、将来モデルの選択入力を受け付ける。比較部24は、受付部20において受け付けた将来モデルについて、学生の能力値を計測した計測結果と、当該将来モデルに対して設定された能力のレベル値とを複数の要素ごとに比較する。例えば、既述したプロジェクトマネジメントスペシャリストが学生から将来モデルとして選択された場合に、比較部24は、その学生の計測結果と、モデルデータ格納部32に格納されたプロジェクトマネジメントスペシャリストに必要な能力スコア用いて、ヒューマンパワーの各コンピテンシーの比較を行う。
【0083】
図14は、比較部24による比較結果の表示を示す。学生は、選択したモデルに対して自分にどの能力が不足しているか、またはどの能力がモデルに対して満足しているかを確認することができる。自己診断の計測結果とモデルデータとを重ねて表形式で表現することで、学生は、一目で自分の能力とモデルに必要な能力との差異を知ることができる。比較部24は、計測された能力値と、設定されたモデルのレベル値との比較により、モデルのレベル値に満たない能力値を示した要素につき、その満足しない程度を評価してもよい。例えば、計測結果のスコアとモデルのスコアとを比較して、最も能力向上するべき要素(コンピテンシー)などを評価してもよい。例えば、計測結果のスコアとモデルのスコアの差分が一番大きいものを、能力開発のプライオリティが最も高いコンピテンシーとして位置づけしてもよい。図14には、開発プライオリティの高いコンピテンシーを上から順番に表示している。学生は、この比較結果をもとに、能力開発に必要な履修科目を選択する。なお、モデル名は、プルダウン形式で選択可能であり、学生は、自己の端末装置2を介して、モデル名を変更することもできる。
【0084】
修学目標格納部34は、複数種類の修学コースごとに設定された修学目標を格納する。知的創造システム専攻では、複数の修学コースとして「創造的ITプロフェショナル」、「e-Businessプロフェショナル」、「知的財産プロフェショナル」の3つのコースが設けられており、このそれぞれのコースごとに修学目標が設定されている。修学目標格納部34は、修学目標を、この目標を達成するのに必要なコンピテンシーに対応付けて格納する。
【0085】
科目格納部36は、複数の履修科目を、修学することで向上される能力の要素に対応付けて格納する。すなわち、科目格納部36は、履修科目を、それを修学することで得ることができるコンピテンシーと対応付けて格納している。
【0086】
図15は、学生に提示される科目説明書の一部を示す。例えば、「科目:コンサルティング特論」を修学することで、Y3、Y4、Y5、Z1、Z3、Z4、Z5、Z6、X1、X2、X3、X7の計12のコンピテンシーを修得することが示される。この科目説明書は科目格納部36に格納されたデータにより生成される。このように、科目格納部36は、履修科目を、修得可能なコンピテンシーと対応付けて格納している。具体的には図15に示すように、科目格納部36は、修学することで向上される能力種類を、知識領域、ヒューマンパワー、思考プロセスの3つに分類し、分類した能力種類をさらに細分化したコンピテンシーに対応付けて履修科目を格納している。
【0087】
受付部20が、学生の端末装置2から修学目標および複数の履修科目の選択入力を受け付けると、判定部26が、受け付けた複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が、入力された修学目標に対応しているか否かを判定する。学生はコースを選択して、それぞれのコースに応じた修学目標を決定する。選択したコースに応じて、到達するべきゴールは異なるものとなる。修学目標を達成するためには、それに応じたコンピテンシーを開発向上できる履修科目を選択する必要がある。
【0088】
判定部26は、修学目標格納部34から、選択された修学目標に対応付けられた必要なコンピテンシーを読み出す。また判定部26は、科目格納部36から、選択された履修科目に対応付けられた修得可能なコンピテンシーを読み出す。これらのコンピテンシーを用いて、判定部26は、履修科目により修得可能なコンピテンシーが、修学目標に関して必要なコンピテンシーに対応しているか否かを判定する。判定部26は、複数の履修科目の修学により向上されるコンピテンシーが、修学目標に関して必要なコンピテンシーに対応していない場合に、修学目標を達成可能な履修科目を抽出する。この抽出結果は、提示部30から学生に提示される。なお、判定結果自体が提示部30から提示されてもよい。これにより、学生は、履修科目の選択を変更する機会を与えられ、修学目標に応じた履修を行うことができる。
【0089】
受付部20は、学生の端末装置2から、達成するべき複数の修学目標を記載した目標計画シートを受け付ける。また、受付部20は、学生の端末装置2から、それぞれの修学目標の達成度に応じて作成された目標達成シートを受け付ける。さらに、受付部20は、大学側の教員などにより、目標達成シートによる目標達成具合を証明するための証明シートを受け付ける。証明シートは、教員の端末装置から入力されてもよく、またサーバから直接入力されてもよい。これらのシートは、ファイル作成部28に送られる。
【0090】
ファイル作成部28は、それぞれの修学目標に対応する目標達成シートおよび証明シートを関連付け、受け付けた目標計画シート、目標達成シート、証明シートをまとめて、1つのファイルを作成する。このファイルは、図3においてポートフォリオインテリジェンスファイルとして示したものである。また、目標達成シートと証明シートとの関連付けは、図8に示している。なお、図8では、証明シートを「エビデンス」と記している。このように、目標達成シートと証明シートとを関連付けすることにより、自身の修得度の証明が容易となり、ポートフォリオインテリジェンスファイルの価値を高めることが可能となる。ファイル格納部38は、ファイル作成部28において作成されたファイルを格納する。学生は、このファイルを提示部30を介して端末装置2でチェックすることができ、現在の修学度などを確認できる。
【0091】
図10に目標達成シートの要素と評価項目を示したが、本実施例の教育支援システム1において、目標達成シートは、階層構造を有する構造化文書として作成される。この構造化文書は、木構造ノード群で表現される。教育支援システム1では、学生、教授、大学外の客員教授、ゲストスピーカなど、様々な人間が参加することで、多種多様な知識を蓄積していく。教育支援システム1では、知識を蓄積するだけでなく、蓄積した知識の流通を支援することで、知識を眠らせることなく活用することを目的とする。目標達成シートは、学生が作成する修学体験のレポートとしての役割を果たしており、この目標達成シートを構造化文書として作成することで、先生が学生の不得意な事項を検索して、指導・アドバイスを容易に実現できる環境を提供でき、知識の流通を図る。
【0092】
図16は、構造化文書として作成される目標達成シートの木構造のノード群の概念図を示す。目標達成シートは、学生名(学生ID)や、選択した講義に対応付けられている。構造化文書では、文書の内容が、論理構造と呼ばれて、章、節、図などの文書構成要素からなる木構造ノード群で表現される。ノード(論理構造)は、文書型と呼ばれる構文規則に沿って作成される。例えば、SGML(Standard Generalized Markup Language)では、文書のノードを識別するために各ノードの先頭および末尾に特定の前方マーカおよび後方マーカが書き込まれる。前方マーカおよび後方マーカはそれぞれ開始タグおよび終了タグと呼ばれ、開始タグは、”<(識別文字列)>”で表現され、終了タグは”</(識別文字列)>”で表現される。識別文字列は、該当するノードを識別するものである。
【0093】
図17は、図16に示すCEに関して作成された構造化文書を示す。この構造化文書では、CEに関して、第1の階層レベルに「イントロダクション」、「感情」、「思考・行動」、「成果」の4つの識別文字列で表現されるノードが形成される。また、本実施例では、「成果」のノードの下の第2の階層レベルに、さらに「理解点」と「不理解点」のノードが形成されている。
【0094】
図18は、図16に示すROに関して作成された構造化文書を示す。この構造化文書では、ROに関して、第1の階層レベルに「他者意見の考察」、「統合による成果」の2つの識別文字列で表現されるノードが形成される。本実施例では、CEと同様に、「統合による成果」のノードの下の第2の階層レベルに、さらに「理解点」と「不理解点」のノードが形成されている。
【0095】
図17および図18に示す構造化文書を参照すると、CEにおける「成果」およびROにおける「統合による成果」とが、共通の識別文字列「理解点」、「不理解点」により、階層化されている点に特徴がある。
【0096】
図19は、サーバにおける目標達成シートを管理する構成を示す。サーバ10は、外部からの入力を受け付ける受付部20、外部にデータを提示する提示部30を有する。受付部20および提示部30はネットワーク8からの情報を入出力する機能を有し、またサーバ自身の入力装置および出力装置(図示せず)との間で情報を入出力する機能も有する。
【0097】
サーバ10は、さらに文書作成部50、登録処理部52、検索処理部54および目標達成シート格納部56を備える。既述したように、サーバ10は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0098】
学生が目標達成シートを作成する際、提示部30が、学生の端末装置2に入力画面を提示する。この入力画面は、図10に示すように、修学体験の順、すなわちCE、RO、AC、AEの分類の順に学生に提供されてもよいが、学生は、好きな要素を選択して入力できる。受付部20は、学生から、修学体験に関する入力内容、すなわち目標達成シートの各要素の入力内容を、構造化文書の文書構成要素として受け付ける。
【0099】
文書作成部50は、受付部20において受け付けた複数の文書構成要素の間を関係づけて、階層構造を有する構造化文書を作成する。図16を参照して、第1の階層レベルには、分類に応じた評価項目が入力される必要がある。さらに第2の階層レベルには、CEにおける「成果」とROにおける「統合による成果」に対する詳細な評価項目がさらに入力される必要がある。
【0100】
学生は、自身の端末装置において、提示部30により提示される入力画面を見ながら、入力すべき事項を確認して修学体験の内容を入力していく。文書作成部50は、入力された内容を、例えばSGMLで構造化された文書として作成していく。登録処理部52は、作成された構造化文書を目標達成シート格納部56に格納させる。
【0101】
このとき登録処理部52は、所定の同一階層レベルに位置する複数のノードのいずれかに、学生により文書構成要素が入力されていることを条件として、目標達成シート格納部56への構造化文書の格納を行う。所定の同一階層レベルにおける複数のノードとは、その上の階層におけるノードを共通とするものである。具体的には、CEの第1階層レベルにおける「成果」の下層に位置する第2階層レベルの「理解点」または「不理解点」のいずれか一方に学生からの入力内容が記述されているとき、構造化文書を目標達成シート格納部56に格納する。またROの第1階層レベルにおける「統合による成果」の下層に位置する第2階層レベルの「理解点」または「不理解点」のいずれか一方に学生からの入力内容が記述されているとき、構造化文書を目標達成シート格納部56に格納する。この登録は、分類ごとに実行されてよく、したがってCEにおける「理解点」または「不理解点」のいずれかに入力があれば、CEに関する入力内容の登録を行い、またROにおける「理解点」または「不理解点」のいずれかに入力があれば、ROに関する入力内容の登録を行う。
【0102】
一方、登録処理部52は、所定の同一階層レベルにおける複数のノードのいずれにも学生により文書構成要素が入力されていない場合に、目標達成シート格納部56への構造化文書の格納は行わない。具体的には、CEの第2階層レベルの「理解点」または「不理解点」の双方のノードに入力内容が記述されていないとき、CEに関する入力内容の登録は行わない。同様に、ROの第2階層レベルの「理解点」または「不理解点」の双方のノードに入力内容が記述されていないとき、ROに関する入力内容の登録は行わない。この場合、提示部30は、学生の端末装置に対して登録エラーメッセージを送信し、入力されていないノードへの入力を促してもよい。
【0103】
CEおよびROのいずれにおいても、「理解点」または「不理解点」は、修学体験を行った以上、どちらかには必ず入力するべき内容が存在する。そのため、その両方ともに入力がない場合には、その目標達成シートは未完成と判断し、登録処理部52は目標達成シート格納部56への登録を拒否する。これにより、学生が入力し忘れる事態を回避することができ、目標達成シートを充実させることができる。
【0104】
一方で、「理解点」または「不理解点」のいずれか一方に入力がある場合、全ての内容を理解したか、全ての内容を理解していないかであり、これらはいずれも可能性としてはあり得る。そのため、登録処理部52は「理解点」または「不理解点」のいずれかに入力がある場合には、それをもって、CEにおける「成果」ないしはROにおける「統合による成果」への入力内容の登録を許可することにする。
【0105】
以上は、第2階層レベルのノードへの入力に関して説明したが、第1階層レベルのノードへの入力は必須である。したがって、登録処理部52は、第1階層レベルに入力がない場合、作成した構造化文書を目標達成シート格納部56に格納せず、提示部30が、学生の端末装置に対して登録エラーメッセージを送信する。
【0106】
このようにして登録された目標達成シートに対して、担当講義の先生は、学生の習熟度を見るために、目標達成シートの内容を確認する。先生には、学生の理解している点と理解していない点とを把握し、学生を正しい方向に導くという役割がある。そのため、目標達成シートにおいて、修学体験の結果を示す「成果」、「統合による成果」の重要性は高く、先生は、学生の理解点、不理解点を迅速に閲覧したいという要望がある。
【0107】
本実施例のサーバ10は、目標達成シートを構造化文書として作成しており、ノードを特定する識別文字列をキーとして、目標達成シート格納部56に格納された複数の構造化文書のノードの文書構成要素を検索して抽出する検索処理部54を備えている。また、構造化文書の第2階層レベルにおいては、CEおよびROに関して、学生が理解した内容が入力されている「理解点」と、理解していない内容が入力されている「不理解点」のノードが設定されている。
【0108】
先生は、例えば、「理解点」をキーとして構造化文書を検索することで、目標達成シート格納部56に格納された構造化文書の中から、「理解点」のノードに入力された文書構成要素を抽出する。ここで、第2階層レベルのノードにおいて、共通の識別文字列「理解点」が、CEおよびROにそれぞれ属する異なるノードに対して付与されているために、「理解点」をキーとして検索することで、CEおよびROの第2階層レベルの「理解点」に入力された文書構成要素を同時に抽出することができる。これにより、先生は、学生の理解の習熟度を段階的に同時にみることができ、検索の手間を省略することができる。
【0109】
また、第2階層レベルにおいて共通に付与された識別文字列「不理解点」を検索キーとして検索することで、CEおよびROの第2階層レベルの「不理解点」に入力された文書構成要素を同時に抽出できる。図17および図18を参照すると、この例ではROにおいて「不理解点」には入力された文書構成要素がなく、したがって先生は、この事実から、最終的に学生が完全に修学内容をマスターしたことを把握できる。また、一般に先生は多くの学生を担当しており、教育支援システム1においては、全ての学生の「理解点」、「不理解点」を簡単な検索で抽出できるため、先生の負担を大幅に軽減できる。
【0110】
以上のように、サーバ10が目標達成シートの作成支援を行うことで、学生は、容易に目標達成シートを作成することができ、また先生は、作成された目標達成シートを容易に確認することができる。これにより、学生、先生双方にメリットの高いシステムを構築できる。
【0111】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0112】
1・・・教育支援システム、10・・・サーバ、20・・・受付部、22・・・計測部、24・・・比較部、26・・・判定部、28・・・ファイル作成部、30・・・提示部、32・・・モデルデータ格納部、34・・・修学目標格納部、36・・・科目格納部、38・・・ファイル格納部、40・・・格納部、50・・・文書作成部、52・・・登録処理部、54・・・検索処理部、56・・・目標達成シート格納部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の修学コースごとに設定された修学目標を格納する第1格納部と、
複数の履修科目を、修学することで向上される能力の要素に対応付けて格納する第2格納部と、
修学目標および複数の履修科目の選択入力を受け付ける受付部と、
受け付けた複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が、入力された修学目標に対応しているか否かを判定する判定部と、
を備えることを特徴とする学習支援装置。
【請求項2】
判定部は、複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が修学目標に対応していない場合に、修学目標を達成可能な履修科目を抽出することを特徴とする請求項1に記載の学習支援装置。
【請求項3】
第2格納部は、向上される能力種類を複数に分類し、分類した能力を細分化した要素に対応付けて履修科目を格納することを特徴とする請求項1または2に記載の学習支援装置。
【請求項4】
当該学習支援装置は、ネットワークを介して端末装置からの入力を可能とし、また端末装置への出力を可能とすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の学習支援装置。
【請求項1】
複数種類の修学コースごとに設定された修学目標を格納する第1格納部と、
複数の履修科目を、修学することで向上される能力の要素に対応付けて格納する第2格納部と、
修学目標および複数の履修科目の選択入力を受け付ける受付部と、
受け付けた複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が、入力された修学目標に対応しているか否かを判定する判定部と、
を備えることを特徴とする学習支援装置。
【請求項2】
判定部は、複数の履修科目の修学により向上される能力の要素が修学目標に対応していない場合に、修学目標を達成可能な履修科目を抽出することを特徴とする請求項1に記載の学習支援装置。
【請求項3】
第2格納部は、向上される能力種類を複数に分類し、分類した能力を細分化した要素に対応付けて履修科目を格納することを特徴とする請求項1または2に記載の学習支援装置。
【請求項4】
当該学習支援装置は、ネットワークを介して端末装置からの入力を可能とし、また端末装置への出力を可能とすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の学習支援装置。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図3】
【公開番号】特開2009−223337(P2009−223337A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159796(P2009−159796)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【分割の表示】特願2005−76429(P2005−76429)の分割
【原出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【分割の表示】特願2005−76429(P2005−76429)の分割
【原出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】
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