説明

マイクロアレイの選択のためのデバイス及び方法

本発明は、(a)1つ又はそれよりも多い種類の捕捉分子が固定化された基板を有するマイクロアレイを有する少なくとも1つの反応区域であって、反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを更に有する当該反応区域と、(b)非反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域であって、反応区域と流体接続している当該非反応区域と、(c)反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域との間の流体の流れを発生させる及び/又は調節することができる少なくとも1つの輸送手段とを有する標的分子の特異的選択のためのデバイスに関係がある。本発明は、更に、固定化された捕捉分子が、スポット、細長いスポット及び/又はラインの形態でマイクロアレイに設けられたデバイスに関係がある。更なる観点では、本発明は、標的分子を特異的に選択する方法であって、そのようなデバイスに媒体を導入することと、反応区域において相互作用反応を行うことと、相互作用していない又は結合していない標的分子を標的分子の再活性化を可能にする区域に輸送することと、反応区域において再活性化された標的分子との追加の相互作用を行うこととを有する当該方法、及びマイクロアレイを用いるゲノミック選抜(文字通りMGS)とも呼ばれるターゲットエンリッチメントのために標的分子を特異的に選択するためのそのようなデバイスの使用に関係がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)1つ又はそれよりも多い種類の捕捉分子が固定化された基板を有するマイクロアレイを有する少なくとも1つの反応区域であって、反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを更に有する当該反応区域と、(b)非反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域であって、反応区域と流体接続している当該非反応区域と、(c)反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域との間の流体の流れを発生させる及び/又は調節することができる少なくとも1つの輸送手段とを有する標的分子の特異的選択のためのデバイスに関係がある。本発明は、更に、固定化された捕捉分子が、スポット、細長いスポット及び/又はラインの形態でマイクロアレイに設けられたデバイスに関係がある。更なる観点では、本発明は、標的分子を特異的に選択する方法であって、(a)そのようなデバイスに媒体を導入することと、(b)反応区域において相互作用反応を行うことと、(c)相互作用していない又は結合していない標的分子を標的分子の再活性化を可能にする区域に輸送することと、反応区域において再活性化された標的分子との追加の相互作用を行うこととを有する当該方法、及びマイクロアレイを用いるゲノミック選抜(文字通りMGS)とも呼ばれるターゲットエンリッチメントのために、標的分子を特異的に選択するためのそのようなデバイスの使用に関係がある。
【背景技術】
【0002】
1990年代の終わりにおける全ヒトゲノムの配列決定(sequencing)を開始するためのNIHプロジェクト以来、配列決定技術は急速に発展している。特に、2005年に第2世代の配列決定装置の導入以来、配列決定のコストは、10倍低減され、2008年の初めにはヒトゲノム当たり約100万米ドルに下がっている。シーケンシング業界は、現在、近い将来ヒトゲノム当たり約1000米ドルのコストに達することを目的として更にDNA配列決定のコストの削減を目指している。これらの予想及び期待に基づいて、DNAの配列決定、特にゲノムDNAの配列決定は、遺伝的変異の解析、疾患の検出又は疾病素因の解明のため、特に、がんの診断又はがんを発症する傾向の検出のために使用され得る重要な臨床診断ツールになるであろう。しかしながら、臨床的DNA配列決定の主要な用途は、全ゲノムの配列決定ではなく、むしろ病気の原因に含まれることが知られている関連のあるゲノム部分又は遺伝子の再配列決定である。
【0003】
そのような手法の必要条件は、配列決定される標的DNAの効率的な分離である。典型的には、ヒトゲノムのような複雑な真核生物のゲノムは、大きすぎて、例えば、ショートPCR及びロングPCRを含むPCR法による、フォスミドライブラリの構築、BACライブラリの構築、TARクローニングを介した又はセレクタ技術の使用による特定の配列の直接増幅に基づく複雑性の低減なしには探究することができない。
【0004】
ゲノムDNAの複雑性を低減する上述した手順に対する代替案は、ユーザが定義した固有のゲノム配列を複雑な真核生物のゲノムから分離するために開発されたマイクロアレイを用いるゲノミック選抜(MGS)である(WO2008/097887)。この方法は、約300bpの平均サイズのランダムな断片を作り出すためのゲノムDNAの物理的切断と、断片の末端修復と、相補的Tヌクレオチドオーバーハングと固有のアダプタとの連結(ライゲーション)及び参照ゲノム配列から識別される相補配列の高密度オリゴヌクレオチドマイクロアレイとの断片のハイブリダイゼーションと、断片のその後の溶出と、アダプタ配列を用いるPCRを介した断片の増幅とを含んでいる(WO2008/097887)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在のMGSプロトコルの場合、標的領域の約80〜90%のみしか回収されない。従って、標的配列の10%ないし20%は欠けており、幾つかの他の領域は専ら低いレベルで取り扱われ、これは再配列決定アプローチにおいて信頼性の高い変異の発見を妨げる。定量的に標的領域を回収するために遭遇する困難さを説明するこれまで認識されていなかった問題は、典型的なMGSのハイブリダイゼーション混合物では、ゲノムDNAの両方の相補鎖が高コピー数で存在し、これが、補足プローブへの結合ではなく、相補鎖への逆ハイブリダイゼーションに有利に働いてしまうことである。
【0006】
従って、標的分子の効率的で、信頼性の高い、定量的な回収を可能にするゲノム核酸のような標的分子、特に標的DNA分子のための改善された濃縮方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、この要求に応え、標的分子の特異的選択のための手段及び方法を提供する。上記目的は、特に、(a)1つ又はそれよりも多い種類の捕捉分子が固定化された基板を有するマイクロアレイを有する少なくとも1つの反応区域であって、反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを更に有する当該反応区域と、(b)非反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域であって、上記反応区域と流体接続している当該非反応区域と、(c)上記反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する上記非反応区域との間の流体の流れを発生させる及び/又は調節することができる少なくとも1つの輸送手段とを有する標的分子の特異的選択のためのデバイスによって達成される。
【0008】
そのようなデバイスは、捕捉分子に結合していない標的分子の繰り返しの再活性化を有利に可能にし、一方で、標的分子が捕捉分子に既に結合している領域は結合に理想的な温度に保たれる。例えば、マイクロアレイ内のハイブリダイズしていない標的DNA分子は、反復サイクルにおいて有利に変性し、一方で、標的DNA分子が捕捉分子に結合された領域は最適なハイブリダイゼーション温度に保たれる。従って、捕捉分子に結合せず、相補標的分子に結合した標的分子は、再活性化され、相補捕捉分子を見つける更なる機会を与えられる一方で、捕捉分子に既に結合した標的分子は結合されたままであり、これは、特異的に結合した分子の濃縮及び相補標的分子に結合する標的分子の著しい低減をもたらす。
【0009】
本発明の好ましい形態では、上記区域内の温度を制御及び/又は調節する上記ユニットは、該区域内に組み込まれているか、又は外部に位置している。
【0010】
本発明の更なる形態では、上述した反応区域、上述した非反応区域及び上述した輸送手段は、閉ループ若しくは単一の流路で設けられているか、又はチャンバ内に組み込まれている。本発明の特に好ましい形態では、上記チャンバは、流体チャネルを形成する細長いチャンバである。本発明の更に好ましい形態では、上記チャンバは、上述した反応区域の2ないし5つの繰り返しを有し、上記非反応区域は、上述した1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有している。
【0011】
本発明の更に好ましい形態では、上述した閉ループ又は単一の流路は、上記反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する上述した非反応区域との間の連続的な流体のやり取りを可能にする。
【0012】
本発明の更に好ましい形態では、上記デバイスは、混合手段を追加として有している。上記区域間の流体接続の領域内に上記混合手段が存在することが特に好ましい。
【0013】
本発明の更に好ましい形態では、上述した1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域又は上述した流体チャネルを形成する細長いチャンバは、蛇行流路を有している。
【0014】
本発明の更に特に好ましい形態では、上述した反応区域は、上記捕捉分子との核酸のハイブリダイゼーションを可能にすることができるハイブリダイジング区域である。このデバイスは、反応区域を約20℃ないし70℃の温度に保つことができる。約40℃ないし70℃の温度が、更に一層好ましい。
【0015】
本発明の更に特に好ましい形態では、上述した温度制御及び/又は調節ユニットを有する区域は、核酸の変性を仲介することができる変性区域である。このデバイスは、上記非反応区域を約80℃ないし98℃の温度に保つことができる。更に一層好ましい形態では、非反応区域は約95℃の温度に保たれる。
【0016】
本発明の他の好ましい形態では、上記固定化された捕捉分子は、スポット、細長いスポット及び/又はラインの形態で上記マイクロアレイに設けられている。
【0017】
本発明の特に好ましい形態では、上述したラインは、約20°から90°の間の角度で配されている。更に好ましい形態では、上述したラインは、約45°から90°の間の角度で配されている。更に他のより一層好ましい形態では、上述したラインは、流路に対して90°の角度で配されている。すなわち、ラインは流路に対してほぼ垂直である。
【0018】
本発明の他の特に好ましい形態では、上記ラインは、約300nmから30μmの間の幅を有する及び/又は約500nmないし100μmのライン間の距離で、できる限り小さい好ましいライン間の距離で配されている。実験データに基づいて、ライン間の領域は、好ましくはラインの領域よりも小さいことが好ましい。更に、プローブ又はプローブラインによってカバーされない領域は特異的な結合を引き起こし、それによって、標的の選択される断片の割合が低下する。
【0019】
本発明の他の好ましい形態では、上記捕捉分子は、核酸、ペプチド、タンパク質、抗原、抗体、糖鎖及び/又はその類似体を有する群から選択された分子、好ましくは核酸である。平坦な表面を持つ又は磁性粒子のようなビーズ様の素子から成る基板に捕捉分子を配置することが特に好ましい。
【0020】
他の観点では、本発明は、標的分子を特異的に選択する方法であって、(a)本明細書において上述したデバイスの区域に1つ又はそれよりも多い標的分子を含む媒体を導入するステップと、(b)反応区域において上記標的分子と固定化された捕捉分子との相互作用反応を行うステップと、(c)相互作用していない又は結合していない標的分子を1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域に輸送するステップと、(d)1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する上記区域において上記標的分子を再活性化するステップと、(e)再活性化された上記標的分子を上記反応区域に輸送するステップであって、従って、ステップ(b)に従う上記標的分子と固定化された捕捉分子との更なる相互作用を可能にする当該ステップとを有する当該方法に関係がある。媒体の確立された動き及び標的分子の再活性化が反応区域における相互作用の反応の効率を高めるので、この方法の利点は、特に核酸が選択される場合の、長いハイブリダイゼーション時間の回避である。
【0021】
本発明の好ましい形態では、本明細書において上述した標的分子を特異的に選択する方法のステップ(b)ないし(e)が繰り返される。更に好ましい形態では、繰り返しは、2ないし100回であり、所定の回数について連続的に及び/又は並行して行われる。更に他の好ましい形態では、繰り返しは、1分ないし72時間又は5分ないし20時間行われる。10分ないし2時間繰り返しを行うことが最も好ましい。
【0022】
他の観点では、本発明は、標的分子を特異的に選択するための本明細書において上述したデバイスの使用に関係がある。本発明の好ましい形態では、本明細書において上述したデバイスは、ターゲットエンリッチメントを行うために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】マイクロアレイを用いるゲノミック選抜法の模式図である。
【図2】ヒトゲノムの0.1%を選択するために244,000の異なるプローブを有するアジレント社のアレイを用いて行われた古典的なマイクロアレイを用いるゲノミック選抜におけるゲノムDNAの回収率の概要である。回収率は非常に低い。
【図3】1つはハイブリダイゼーションのため、1つは変性のための2つのチャンバを有し、その間において流体が閉ループのポンピングにより連続的にやり取りされるデバイスの模式図である。
【図4】ハイブリダイゼーションチャンバ及び加熱された表面上を流れ、変性が生じる蛇行チャネルの模式図である。量及び特に長さが変性チャネルにおける流体の滞留時間を決定する。
【図5】流体が変性チャネルとハイブリダイゼーションチャネルとを行ったり来たり移動するデバイスの模式図である。接続チャネルは受動的な混合構造体を有しており、これは流体及びその成分の最適な均一化をもたらす。
【図6A】種々の加熱区域を持つ蛇行チャネルを有するデバイスの模式図である。
【図6B】予想される及び測定された蛍光ハイブリダイゼーション強度の対応する図表である。
【図6C】チャネルに沿った温度変化の対応する図表である。
【図7】95℃に設定された種々の加熱区域を有する蛇行チャネルの末端部における高い結合効率を示す画像である。流れの向きは右から左であり、出口は左側にある。
【図8】50℃の温度に設定された蛇行チャネルにおける低い結合効率を示す画像である。流れの向きは右から左であり、出口は左側にある。
【図9】マイクロアレイのレイアウトの模式図であり、プローブのラインは試料の流れに対して本質的に垂直である又は直交している。このレイアウトでは、アレイ表面全体が最適に用いられる。
【図10】代替のマイクロアレイのレイアウトの模式図であり、プローブのラインは試料の流れに対して角度αにある。
【図11】代替のマイクロアレイのレイアウトの模式図であり、プローブのラインは試料の流れに対して角度αにある。このレイアウトでは、ラインは、アレイ全体に及んでいない場合であっても、コーナー部にも存在する。
【図12】代替のマイクロアレイのレイアウトの模式図であり、プローブのラインは、アレイのより幅広のサイドから試料の流れに対して本質的に垂直である又は直交している。
【図13A】本発明に係るデバイスによるハイブリダイゼーション効率の増大を示している。
【図13B】本発明に係るデバイスによるハイブリダイゼーション効率の増大を示している。
【図13C】本発明に係るデバイスによるハイブリダイゼーション効率の増大を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、標的分子の特異的選択のためのデバイス並びに対応する方法及び使用に関連している。
【0025】
本発明は特定の実施の形態に関して説明されるが、この説明は限定的な意味に解釈されるべきではない。
【0026】
本発明の例示的な実施の形態を詳細に説明する前に、本発明を理解するために重要な定義が与えられる。
【0027】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられる場合、「a」及び「an」の単数形は、文脈が複数形を含まないことを明らかに規定する場合を除いて、対応する複数形も含んでいる。
【0028】
本発明に関しては、「約」という用語は、当業者が当該特徴の技術的効果を依然として確実にすると理解する正確さの幅を意味している。この用語は、典型的には、示された数値からの±20%、好ましくは±15%、より好ましくは±10%、更に好ましくは±5%のずれを示すものである。
【0029】
「有する」という用語は限定的ではないことを理解されたい。本発明のために、「より成る」という用語は、「有する」という用語の好ましい形態であるとみなされる。以下において、あるグループが少なくともある数の具体的表現を有するように規定される場合、これは、好ましくはこれらの具体的表現のみより成るグループを含むことも意味する。
【0030】
また、明細書及び特許請求の範囲における「第1」、「第2」、「第3」又は「(a)」、「(b)」、「(c)」、「(d)」等の用語及びこれらに類する用語は、類似する要素を区別するために用いられており、必ずしも連続する順序又は発生順を説明するために用いられるものではない。そのように用いられている用語は適切な状況下において置き換え可能であり、本明細書で説明される本発明の実施の形態は、本明細書中に説明されている又は示されている順序ではない他の順序で動作可能であることを理解されたい。
【0031】
「第1」、「第2」、「第3」又は「(a)」、「(b)」、「(c)」、「(d)」等の用語が使用又は方法のステップに関係がある場合、本明細書で上記又は以下に記載の適用においてそれ以外のことが示されていない限り、ステップ間に時間又は時間間隔の統一性は存在しない。すなわち、各ステップは、同時に行われてもよいし、そのようなステップの間に秒、分、時間、日、週、月又は更には年の時間間隔が存在してもよい。
【0032】
本発明は、異なっていてもよいものとして本明細書において説明される特定の方法論、プロトコル、試薬等に限定されないことを理解されたい。本明細書において用いられる専門用語は、単に特定の実施の形態を説明する目的であり、専ら添付の特許請求の範囲により限定される本発明の範囲を限定するように意図されてはいないことも理解されたい。特に定義されていない限り、本明細書において用いられる技術用語及び科学用語は、当業者により一般に理解されている意味と同じ意味を有している。
【0033】
上記に示したように、本発明は、一観点では、(a)1つ又はそれよりも多い種類の捕捉分子が固定化された基板を有するマイクロアレイを有する少なくとも1つの反応区域であって、反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを更に有する当該反応区域と、(b)非反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域であって、上記反応区域と流体接続している当該非反応区域と、(c)上記反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する上記非反応区域との間の流体の流れを発生させる及び/又は調節することができる少なくとも1つの輸送手段とを有する標的分子の特異的選択のためのデバイスに関係している。
【0034】
本明細書において用いられる「標的分子の選択」という用語は、本発明に係るデバイスの要素又はエンティティと標的分子、例えば周囲の環境に存在する分子との相互作用を意味する。そのような相互作用は、当業者には既知の任意の適切な分子、サブ分子又はマクロ分子相互作用、例えば、親和性相互作用、ファンデルワールス力に基づく相互作用、水素結合に基づく相互作用及び/又は電荷に基づく、例えば異なる電荷を帯びた分子間の相互作用である。そのような相互作用の典型的な例は、タンパク質−タンパク質相互作用、核酸を含むハイブリダイゼーション反応、リガンドのその受容体との結合、対応する抗原又はエピトープとの抗体の結合、タンパク質又は酵素の活性中心との小分子の結合、糖鎖構造とのタンパク質又は核酸の相互作用である。上記相互作用に基づいて、相互作用の相手は、本発明に係るデバイスの1つ又はそれよりも多い要素又はエンティティに結合し、それにより、周囲の環境から選択される。上記標的分子の選択は、好ましくは特異的である。上記標的分子の選択に関連して用いられる「特異的」という用語は、種々の意味を持っており、これは、標的分子の同一性及び/又は相互作用のタイプに大きく依存し、一般に、当該技術分野において既知の適切な規則及び定義に従う。例えば、核酸−核酸相互作用は、完全に若しくは部分的に相互相補的である又は長さ全体若しくは長さ全体のうちの一部にわたって少なくとも約60%ないし99%相互相補的である場合に、特異的であると見なされる。抗体とその抗原との相互作用は、例えば、エピトープの分子及び/又は空間的パラメータが認識される場合にのみ、当該技術分野において既知の基準に従って特異的であると見なされる。リガンドとその受容体との相互作用は、例えば、リガンドが受容体の結合領域に結合することができる及び/又はリガンドが受容体内における又は受容体との分子反応、例えば、下流シグナルの発生を伝達することができる場合にのみ、当該技術分野において既知の基準に従って特異的であると見なされる。
【0035】
本明細書において用いられる「標的分子」という用語は、本明細書において上述したような特異的相互作用を可能にする任意の適切な分子である。本発明のデバイスで選択される標的分子の例は、核酸、タンパク質、ペプチド、任意の形態及び形式のリガンド、抗体、抗原、有機構造体、無機構造体又は有機及び無機構造体の混合物のような小分子、例えば、糖鎖又は糖類、ポリマ、細胞若しくは細胞断片又は細胞のサブポーション、例えば細菌細胞若しくはその断片のようなエンティティ、真核細胞又はその断片、ウイルス粒子又はウイルス、又は、上記の任意の誘導体又は組み合わせである。
【0036】
本明細書において用いられる「周囲の環境」という用語は、上述した相互作用が起こる材料又は媒体を意味する。上記媒体は、例えば、流体媒体、気体媒体である。流体媒体が好ましく、水性媒体、例えば、種々の比率の水を有する媒体が特に好ましい。また、上記媒体は、更なる成分、例えば、塩、イオン、有機又は無機分子を有していてもよく、当業者には既知の任意の適切なバッファで保護されてもよく、色素又は蛍光標識、核酸又はタンパク質の安定剤、例えば、リボヌクレアーゼ阻害剤、デオキシリボヌクレアーゼ阻害剤、プロテイナーゼ阻害剤を有していてもよく、更なる相互作用要素、例えば二次抗体等を有していてもよい。
【0037】
本明細書において用いられる「反応区域」という用語は、本明細書において上述したような相互作用を可能にするのに適したデバイスの部分を意味する。相互作用を可能にするのに適するように、1つ又はそれよりも多いパラメータが反応区域において設定又は調整される。例えば、反応区域内の温度が、当業者には既知の適切な値に調整される。この値は、選択される標的分子及び生じる相互作用のタイプに大きく依存し、核酸が選択されることになるか、タンパク質が選択されることになるか、有機又は無機の小分子が選択されることになるかどうか等で異なる。そのような相互作用に最適な温度は、適切なテキストから、例えば、Lottspeich,F.,and Zorbas H.(1998) Bioanalytik, Spektrum Akademischer
Verlag, Heidelberg / Berlin, Germanyから得られるか、又は、種々の温度において、例えば、4℃から120℃の温度で、好ましくは約20℃から100℃の範囲で反応を繰り返すことにより実験的に決定される。本発明に係る反応区域において、特に液体環境において設定又は調整される更なるパラメータはpHであり、これは0から14まで、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14である。約6.5から8.5の間のpHが好ましく、より好ましくは約7.5のpHである。反応チャンバにおいて設定又は調整される他のパラメータは周囲の材料の流量、特に質量流量である。質量流量は、例えば、約0から1000μg/secまでの間、例えば、0、5、10、50、100、150、500、700、750、800又は1000μg/secである。本発明に係る反応チャンバにおいて設定又は調整される更なるパラメータは、全体の塩又はイオン濃度である。本発明によれば、当業者に既知の任意の適切な全体の塩又はイオン濃度が用いられる。例えば、全体の塩又はイオン濃度は、約0.1mMから1Mの間である。任意のパラメータが、反応区域の全域で均一に存在するか、又は1つ又はそれよりも多い勾配の形で存在する。例えば、反応区域の全域に温度勾配、pH勾配、塩濃度勾配及び/又は流速又は質量流量勾配が存在する。1つよりも多い勾配が存在する場合、それらの勾配は、同じ方向性を持っているか若しくは互いに反対である、又は代替として、種々の方向にあり、例えば、互いに垂直若しくはある角度、例えば、30°、45°、60°を持っている。上記パラメータは、更に、例えばデバイスの使用の過程の間に積極的に変更又は修正されることが可能であり、例えば、ある期間に温度が上昇又は低下する、ある期間にpHが上昇又は低下する及び/又はある期間に流速又は質量流量が上昇又は低下する。反応区域は、閉じられていてもよい、すなわち、キャップ、カバー若しくは蓋を有していてもよいし、開いていてもよい。上記反応区域は、当業者には既知の任意の適切な材料、例えば、金属、ガラス、プラスチック、例えばPMMA又はこれらの任意の誘導体若しくは組み合わせにより構成され得る。加熱/冷却素子の場合、金属材料が用いられる。
【0038】
上記反応区域は、更に、マイクロアレイを有している。本明細書において用いられる「マイクロアレイ」という用語は、アレイ内の捕捉分子と周囲の環境において考えられる相互作用物質、例えば、本明細書において上述した媒体との相互作用のために与えられる規則的なアレイを意味する。アレイは、アドレス可能な領域の任意の2又は3次元の配列、好ましくは2次元の配列を含んでいる。
【0039】
本明細書において用いられる「捕捉分子」という用語は、本明細書において上記に定義された本発明に係るデバイス中の上記環境又は上記媒体からの標的分子との特異的相互作用を可能にする任意の適切な分子である。上記デバイス中の環境又は媒体から標的分子を選択することができる捕捉分子の例は、核酸、タンパク質、ペプチド、任意の形態及び形式のリガンド、受容体、抗体、抗原、有機及び無機構造体、例えば、糖鎖又は糖類、ポリマ、細胞若しくは細胞断片又は細胞のサブポーション、例えば細菌細胞若しくはその断片のようなエンティティ、真核細胞又はその断片、ウイルス粒子又はウイルス、又は、上記の任意の誘導体、類似体又は組み合わせである。核酸、ペプチド、タンパク質、抗原、抗体及び糖鎖から選択された捕捉分子が特に好ましい。核酸である捕捉分子は、更に一層好ましい。
【0040】
本明細書において用いられる「核酸」という用語は、当業者に既知の任意の核酸を意味し、好ましくは、DNA、RNA、PNA、CNA、HNA、LNA又はANAを意味する。上記DNAは、例えば、A−DNA、B−DNA又はZ−DNAの形態である。上記RNAは、例えば、p−RNA、すなわちピラノシル−RNAの形態又はヘアピン型RNA若しくはステムループ型RNAのような構造的に修飾された形態である。上記「PNA」という用語は、ペプチド核酸、すなわち、生物学的研究及び治療に用いられるが、天然に存在することは知られていないDNA又はRNAと類似した人工的に合成されたポリマに関係がある。PNAの骨格(backbone)は、典型的には、ペプチド結合により連結されたN−(2−アミノエチル)−グリシンの繰り返し単位によって構成されている。種々のプリン及びピリミジン塩基が、メチレンカルボニル結合により上記骨格に連結される。PNAは、一般に、最初の(左側の)位置のN末端及び右側のC末端を伴ってペプチドのように表される。上記「CNA」という用語は、アミノシクロヘキシルエタン酸核酸に関係がある。また、この用語は、シクロペンタン核酸、すなわち、例えば2´−デオキシカルバグアノシンを有する核酸分子に関係がある。
【0041】
上記「HNA」という用語は、ヘキシトール核酸、すなわち、標準的な核酸塩基とリン酸化1,5−アンヒドロヘキシトールの骨格とから構築されるDNA類似体に関係がある。上記「LNA」という用語は、固定された核酸に関係がある。典型的には、固定された核酸は、修飾された、従って近づき難い(inaccessible)RNAヌクレオチドである。LNAヌクレオチドのリボース部分は、2´位及び4´位の炭素を接続する追加のブリッジで修飾される。そのようなブリッジは、3´-endo形の構造的な配座においてリボースを固定する。固定されたリボースの配座は、塩基の積み重ね及び骨格の事前組織化(pre-organization)を強化する。これは、熱的安定性、すなわちオリゴヌクレオチドの溶融温度を著しく高める。上記「ANA」という用語は、アラビノ核酸又はその誘導体に関係がある。本発明に関する中で好ましいANAの誘導体は、2´−デオキシ−2´−フロロ−β−D−アラビノヌクレオシド(2´F−ANA)である。更に好ましい実施の形態では、核酸分子は、DNA、RNA、PNA、CNA、HNA、LNA及びANAの任意の1つの組み合わせを有している。LNAヌクレオチドのDNA又はRNA塩基との混合が特に好ましい。更に好ましい実施の形態では、本明細書で上記に定義された核酸分子は、短いオリゴヌクレオチド、長いオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの形態である。
【0042】
アレイの構成要素は、基板上に含まれている。典型的には、アレイ構成要素又は捕捉分子は、基板に固定化されている。本明細書において用いられる「固定化される」という用語は、支持的基板の特定の領域において捕捉分子を適切な場所に配置し、同時に、例えば、洗浄、リンス又は相互作用ステップ等の間、捕捉分子の分離を防ぐ分子間相互作用を介した上記支持的基板への1つ又はそれよりも多い捕捉分子の会合を意味する。典型的には、そのような分子間相互作用は、当業者に知られているように、支持体材料の構造的要素又は官能基と固定化される捕捉分子、例えば核酸の対応する官能基との共有化学結合に基づくものである。上記固定化は、例えば、熱又は光によって捕捉分子を架橋することにより、すなわち、熱若しくは光のようなエネルギー源によって与えられるエネルギーによる又は上記エネルギーによって推進される影響下において両方の構造的要素を結び付ける分子間相互作用又は結合を形成することにより、又は、化学的固定化を介して行われる。
【0043】
典型的には、熱による架橋を介した固定化は、ある温度における基板上の捕捉分子の乾燥及びその後の焼成により行われる。乾燥及び焼成は、疎水性の相互作用により基板に吸着する分子をもたらすと考えられる。この手順は、物理的吸着のサブフォームとして分類される。上記「物理的吸着」という用語は、初めの分離ステップ及び引力ステップを含むプロセスに関係があり、それにより、捕捉分子は物理的吸着プロセスに基づいて反応基と接近した状態になる。任意のそのような支持体材料がほぼどんな表面とも相互作用することが確認されているので、固体支持体への生体分子、例えば核酸の吸着は、ほぼ任意の支持体材料と起こり得る。典型的には、支持体材料と固定化される捕捉分子との相互作用の程度は、支持体材料の性質及び形態と捕捉分子の大きさ及び化学的特性とに依存して変化する。上記相互作用は、典型的には、(i)表面への捕捉分子の輸送ステップ、(ii)表面への吸着ステップ、(iii)吸着した捕捉分子の再配列ステップ、(iv)吸着した捕捉分子の潜在的脱離ステップ及び(v)表面から離れた脱離した捕捉分子の輸送ステップを有する5段階の工程である。上記手順は、ある程度までは脱離の可能性は固有であることを意味するが、結合は典型的には不可逆であり、これは捕捉分子の大きさに依存する。吸着相互作用に関する中で「捕捉分子の大きさ」という用語は、存在する結合サイトの数に関係がある。任意の1つの結合サイトは、原理的にはいつでも基板の表面から解離し得るが、多数の結合サイトの効果は、捕捉分子が全体として結合されたままであることである。例えば約40ないし150℃、好ましくは50ないし120℃、より好ましくは60ないし110℃、更に好ましくは70ないし100℃、最も好ましくは80ないし90℃の温度において熱の形でエネルギーを与えることにより、支持体材料への捕捉分子の物理的吸着が高められ、効率的な固定化のために必要な時間が短縮される。熱による架橋は、当業者には知られている任意の適切な期間、例えば、2分ないし12時間、好ましくは10分ないし8時間、より好ましくは30分ないし6時間、更に好ましくは45分ないし4時間、更により好ましくは1時間ないし3時間、最も好ましくは2時間行われる。熱又は焼成による架橋は、当業者に知られている任意の適切な手段、例えば、乾燥チャンバ又はオーブンにより行われる。温度に加えて、湿度、通気又は換気のような他のパラメータも当業者に知られている適切な値に調整され得る。熱又は焼成による架橋は、また、光による架橋又は化学的固定化のような固定化の他の形態と組み合わせられもする。
【0044】
光による架橋は、捕捉分子と支持体材料との相互作用を引き起こすために、典型的な波長の光、例えば、150ないし550nm、好ましくは200ないし500nmの範囲の光を捕捉分子に与えることにより行われる。典型的には、捕捉分子と支持体材料との間に引き起こされる相互作用は、上記材料との核酸の共有結合である。光による架橋は、例えば紫外線を用いることにより行われる。紫外線架橋は、プローブとの支持体材料の共有結合を確実にするための最も簡単なやり方の1つである。核酸のケースでは、結合は、当業者に知られているように、支持体材料上の対応する適切な官能化学基と反応する核酸分子の塩基、例えば、チミン、グアニン、アデニン、シトシン又はウラシルの残基を介して進む。支持体材料上又は支持体材料中の官能化学基の存在及び数は、適切な化学的活性化プロセスを経て制御及び調整され得る。そのような活性化プロセスは、例えば、支持体材料上又は支持体材料内の特定の局在した官能基を与え、これらの局在した官能基に関する中で捕捉分子と材料との特異的な相互作用を促進する。支持体材料上又は支持体材料中の官能基の存在及び数は、また、固定化される捕捉分子の配向及び自由に影響を及ぼす。例えば、より多数の官能基の存在は、捕捉分子内の種々の場所における固定化につながる。更に、捕捉分子内の対応する反応要素の存在は、支持体材料上の捕捉分子の配向の制御のために用いられ得る。
【0045】
本明細書において述べられる「化学的固定化」は、化学反応に基づく支持体材料と捕捉分子との相互作用である。そのような化学反応は、典型的には熱又は光によるエネルギーの投入に依存しないが、熱、例えば、或る化学反応に最適な温度又は或る波長の光を与えることにより促進される。例えば、化学的固定化は、支持体材料の官能基と捕捉分子の対応する機能的要素との間で起こる。そのような捕捉分子の対応する機能的要素は、分子の化学物質インベントリの一部として存在するか、又は追加として取り入れられる。そのような官能基の例は、アミン基である。典型的には、固定化される捕捉分子、例えば核酸は、官能アミン基を有するか、又は官能アミン基を有するように化学的に修飾される。そのような化学的修飾の方法及び手段は、当業者に既知であり、例えば、Hart等によるOrganische Chemie,
2007, Wiley-Vch又はVollhardt等によるOrganische Chemie, 2005, Wiley-Vchのような有機化学のテキストから得られる。上記固定化される捕捉分子内の上記官能基の局在化は、結合の挙動及び/又は捕捉分子の配向を制御する及び作るために用いられ、例えば、官能基は、捕捉分子の末端若しくはテール領域に配されるか、又は捕捉分子の中央に配される。固定化される捕捉分子の典型的な反応相手は、そのような捕捉分子、例えば、アミン官能基化された核酸のような核酸に結合することができる部分を有している。そのような支持体材料の例は、アルデヒド、エポキシ又はNHS基板である。そのような材料は、当業者に既知である。アミン基の導入により化学反応性の高い捕捉分子と支持体材料とのライゲーションを与える官能基は、当業者に既知である。固定化される捕捉分子の代替の反応相手は、例えば、支持体材料上で利用可能な官能基の活性化により化学的に活性化される必要がある。「活性化された支持体材料」という用語は、相互作用する又は反応性の化学官能基が当業者に既知の化学的修飾の手順により使用可能になった又は確立された材料に関係がある。例えば、カルボキシル基を有する基板は、使用する前に活性化されなければならない。また、核酸中に既に存在する特定の部分と反応する官能基を含む利用可能な基板が存在する。これらの反応には、熱又は紫外線により促進されるものもある。一例は基板の表面のアミン基であり、これはDNAの特定の塩基に結合され得る。
【0046】
代替として、捕捉プローブは、基板に直接合成される。そのような手法に適した方法は、当業者には既知である。例は、アジレント社、アフィメトリクス社、ニンブルジェン社又はフレキシジェンBV社により開発された製造技術である。典型的には、ヌクレオチドの付加が行われることになるスポットを特異的に活性化するミラーのセット及びレーザが用いられる。そのような手法は、例えば、約30μm又はそれよりも大きいスポットサイズを与える。従って、捕捉プローブは、約80ヌクレオチドまでの長さを有する。異なる、同じく考えられる技術では、捕捉プローブは、特別に作成されたスライドガラス上にオリゴモノマが均一に堆積される非接触式のインクジェット印刷プロセスを用いることにより堆積される。当該その場合成プロセスは、典型的には、例えば、デジタル配列ファイルから塩基毎に60merの長さのオリゴヌクレオチドプローブをもたらす。
【0047】
上記「基板」は、当業者に既知の任意の適切な基板である。基板は、任意の適切な形態及び形式を有しており、例えば、平らでもよく、カーブ、例えば、相互作用が生じる区域に向かって凸状又は凹状にカーブしていてもよく、カールされていても、波状の形式を有していてもよい。基板は、また、円形構造で構成されてもよい。例えばアレイに配され得るビーズ様の素子の形態の構成が特に好ましい。ビーズは、基板のグランドの上に置いてもよいし、ロッド等のようなコネクタ素子により反応領域に固定されてもよい。本発明によって想定されるビーズ様の素子の一例は、捕捉分子を有する磁性粒子である。代替として、当業者には既知のコーティングされたビーズが用いられ得る。
【0048】
典型的には、基板は固体の支持体であり、すなわち、主に非液体の堅さがある支持体材料を有しており、それにより支持体材料上の捕捉分子の正確な、追跡可能な位置決めが可能になる。基板の一例は、官能化学基、例えば、アミン基又はアミンにより官能基化された基を有する固体材料又は基板である。本発明によって想定される基板の更なる例は、ナイロン、例えば、ナイトランN(登録商標)、ナイトランSPC(登録商標)又はバイオダインC(登録商標)のような多孔質支持体材料又は多孔質基板である。更なる典型的な支持体材料又は基板の種類は、非多孔質基板である。非多孔質基板の中で特に好ましいものは、ガラス、ポリ−L−リシンでコーティングされた材料、ニトロセルロース、ポリスチレン、環状オレフィンコポリマ(COC)、環状オレフィンポリマ(COP)、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリカーボネートである。ニトロセルロースメンブレンは、一般に核酸の範囲における転移技術に用いられる従来型のメンブレンである。一般に物理的吸着によってニトロセルロースと結合する核酸を得るための方法は、広く知られている形式の先行技術である。ニトロセルロースの主な利点は、入手容易なこと及びよく知られていることである。放射能による信号検出の方法を伴うニトロセルロースメンブレンの使用は、十分に確立されている。ニトロセルロースメンブレンの代替として、ナイロンが、特により大きい物理的強度及び結合能力並びにより広い範囲の与えられる利用可能な表面化学物質のために核酸の結合用に基板として用いられ、これは核酸の吸着を最適化する。ナイロンメンブレン上における固定化は、例えば、光による架橋、特に紫外線架橋又は化学的活性化を介して行われる。ナイロン上における固定化は、繰り返されるプローブの剥離の間、非常に耐久性があることが実証されている。バルク材料として、当業者に既知の任意の好適な材料が用いられ得る。典型的には、ガラス又はポリスチレンが用いられる。ポリスチレンは、通常、親水性の基をほとんど含んでいないので、負に帯電した巨大分子を結合するのに好適な疎水性の材料である。スライドガラス上に固定化される核酸に関して、ガラス表面の疎水性を高めることにより、DNAの固定化が向上することが更に知られている。そのような強化は、相対的により高い密度に集積された構成を可能にする。ポリ−L−リシンによるコーティング又は表面処理に加えて、バルク材料、特にガラスは、例えば、エポキシ−シラン若しくはアミノ−シランを用いたシラン化(silanation)により、シリル化により又はポリアクリルアミドを用いた処理により処理され得る。バルク材料は、また、本明細書において上述したようなメンブレン材料で覆われるか又はコーティングされ得る。
【0049】
典型的なマイクロアレイは、個々の固定化の複数のスポット、フィーチャ、エリア又は個々の分子同一性エリアを含んでいる。例えば、アレイは、2、5、10、50、100、500、750、1000、1500、3000、5000、10000、20000、40000、50000、70000、100000、200000、300000、400000、500000、750000、800000、1000000、1200000、1500000、1750000、2000000又は2100000よりも多い個々の固定化の複数のスポット、フィーチャ、エリア又は個々の分子の同一性エリアを含んでいる。これらのエリアは、約20cmよりも少ない、約10cmよりも少ない、約5cmよりも少ない、約1cmよりも少ない、約1mmよりも少ない、約100μmよりも少ない領域に含まれている。
【0050】
マイクロアレイは、1つ又はそれよりも多い種類の捕捉分子を有している。すなわち、核酸及びタンパク質、タンパク質及び炭水化物等のような1つ又はそれよりも多い異なる種類の分子がマイクロアレイに存在する。代替として、「1つ又はそれよりも多い種類」という用語は、また、同じカテゴリの又は同じ形態若しくは形式、例えば核酸を持つが、分子同一性、例えば、核酸又はタンパク質の場合には配列が同一ではない又は類似していない捕捉分子にも関連している。従って、マイクロアレイは、異なる核酸、異なるタンパク質、異なる炭水化物、異なる抗体若しくは異なるリガンド等又は異なる核酸と異なるタンパク質との任意の組み合わせ等を有している。異なる分子同一性の捕捉分子がマイクロアレイ上に存在する場合、これらの捕捉分子は、部分的に同一であるか又は部分的に類似してもよい、すなわち、特に核酸のケースでは、配列に関して重なっていてもよいし、重なっていなくてもよい。これらの捕捉分子は、任意の適切なエリア又はゲノムの割合、例えば、有機体のゲノム、好ましくは哺乳類のゲノム、より好ましくはヒトゲノムの少なくとも約0.00001、0.00005、0.0001、0.0005、0.001、0.005、0.01、0.02、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.2、0.3、0.4、0.5、0.75、0.8、0.9、1、1.5、2、3、4、5、10、15、20又は30%のようなゲノムの約0.00001%から約30%までを有する及び/又はそのような領域に相補的である。そのようなエリア又は割合は、例えば、約2ないし5000の遺伝子グループ、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、50、100、150、200、350、500、750、1000、1200、1500、2000、2500、3000、4000、5000又は5000よりも多くの遺伝子のグループを有する。そのような遺伝子は、隣接するゲノムエリア又は領域に局在化されていてもよいし、代替としてゲノムの全体にわたって分散していてもよい。遺伝子のサブグループ化、組み合わせ、パターン、例えば発現データから得られるパターン等も考えられる。
【0051】
上記反応区域は、更に、1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有している。本明細書において用いられる「温度制御及び/又は調節ユニット」という用語は、機械的、電気的(抵抗性の)放射、マイクロ波又は約0.5℃から120℃までの範囲内において、好ましくは、約20℃から100℃までの範囲内において、より好ましくは、約35℃から95℃までの範囲内において温度を与える及び/又は保持することができる任意の他の適切な加熱デバイス若しくは素子を意味する。従って、この温度制御及び/又は調節ユニットは、反応区域内の環境温度がある所定の値よりも低い場合はヒーターとして機能し、反応区域内の環境温度がある所定の値よりも高い場合にはクーラーとして機能する。そのため、上記温度制御及び/又は調節ユニットは、環境温度を測定するセンサと、測定された温度が所定の値ではない場合に冷却又は加熱活動の開始を可能にする素子とを有している。所定の値は、任意の適切な値、好ましくは、約0.5℃から120℃までの、好ましくは、約20℃から100℃までの範囲内の、より好ましくは、約35℃から95℃までの範囲内の温度の値である。温度制御及び/又は調節ユニットは、例えば使用のためにそれ自身のインターフェースを介して個々にアドレス可能であってもよいし、同様のユニットのネットワークに組み込まれてもよいし、調節電子デバイスに接続されてもよい。上記反応区域は、好ましくは、1から15個までの温度制御及び/又は調節ユニットを有している。1つよりも多いそのようなユニットが存在する場合、それらの温度は、他のユニットに対して異なっていてもよいし、同じ又はよく似ていてもよい。反応区域のそのようなユニットを種々の温度に設定することにより、例えば反応区域内の温度勾配が生成され得る。好ましくは、上記反応区域は、選択される標的分子と反応区域内の捕捉分子との相互作用に有利に働く温度に設定される。
【0052】
本発明の具体的な実施の形態では、上記反応区域は、バルク反応区域、すなわち、デバイスの素子の大部分を有する反応区域、例えばマイクロアレイ等である。そのような反応区域は、例えば、デバイスの内部及び/又は底部に位置する。
【0053】
本明細書において上述したように、本発明に係るデバイスは、更に、少なくとも1つの非反応区域を有しており、この非反応区域は、該非反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い調節ユニットを有している。従って、このデバイスは、加熱及び/又は冷却素子を伴う第2の又は他の区域を有している。よって、上記反応区域と第2の非反応区域とは、異なる温度を示すことも可能であるし、よく似た温度又は同じ温度を示すことも可能である。好ましくは、少なくとも1つの第2の非反応区域は、上記少なくとも1つの反応区域と比較して異なる温度を有する。例えば、少なくとも1つの反応区域の温度が値xに設定される場合、第2の非反応区域の温度は、x+10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75又は85℃の値に設定される。好ましくは、当該区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域は、反応区域内で捕捉分子によって選択される標的分子の活性化及び/又は再活性化に有利に働く温度に設定される。
【0054】
追加又は代替として、そのような非反応区域は、帯電したエンティティの存在、イオンの存在のような更なるパラメータの変更を可能にするユニット、素子若しくは装置を有するか、又は機械的な力若しくはせん断力等を伝達する。例えば、上記非反応区域は、電流又は電気泳動による流れを確立するのに適している、特定のpH又は特定の化学的若しくは物理的エンティティの存在、例えば、或る酸、塩、溶媒等の存在を確立するのに適している及び/又は強力な媒体の運動を与えるのに適している。上述した追加の機能のどれもが、本発明に係るデバイスの任意の他の部分、例えば、反応区域にも利用可能である。
【0055】
本発明の具体的な実施の形態では、1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域は、表面反応区域である。本明細書において用いられる「表面反応区域」という用語は、本発明に係るデバイスの外側又は表面に位置する本明細書において上記に定義された反応区域を意味する。この表面反応区域は、好ましくは、マイクロアレイを備えていないが、加熱及び/又は再活性化プロセスに好ましく用いられる。
【0056】
上記少なくとも1つの反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域とは、更に接続されている。デバイスに流体媒体が含まれる場合、上記接続は流体接続である。代替として、上記接続は、また、異なっていてもよく、例えば、気体接続又は空間接続であってもよい。本明細書において用いられる「接続」という用語は、或る区域から他の区域への輸送材料、例えば、本明細書において上述した媒体の可能性を与えることを意味する。そのような輸送は、受動的であるか、又は輸送手段により高められる若しくは伝達される。上記デバイスの区域間の接続は、チューブ、パイプ、パイプラインの形態又は一方の区域から他方の区域への拡張(extension)、例えば区域の並置の形態である。そのような区域の並置は、任意の適切な形式を有しており、例えば、区域が横向きに接続されてもよいし、一方が他方の上に接続され又は積み重ねられてもよいし、湾曲した構造を形成してもよい等である。
【0057】
本発明に係るデバイスに存在する「輸送手段」は、一方の区域から他方の区域への又は他方の区域から一方の区域への、すなわち、少なくとも1つの反応区域から1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域への媒体の動き及び/又は輸送を可能にする任意の適切な素子、装置又はユニットである。そのような輸送手段の一例は、ポンプ、例えば、三弁ポンプ(3-valve pump)又は繊毛(cilia)ポンプである。しかしながら、本発明に係るデバイスに好適に組み込まれる任意の他のポンプのタイプ又は形態も考えられる。そのような輸送手段は、反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域との間に位置する及び/又はデバイスの端部に位置する。更に、輸送手段は、デバイスの1つ又はそれよりも多い区域に組み込まれている。上記輸送手段は、好ましくは、デバイス内の流体の流れを調節する。調節は、流量又は流速を或る値に設定及び/又は調節することにより達成される。そのような弁は、輸送される材料、用いられる温度、標的分子又は捕捉分子、標的分子と捕捉分子との間に生じる相互作用のタイプ等に関して設定される又はそれらに依存して作られる。上記輸送手段は、更に、種々の機能間隔で用いられ、例えば或る期間、例えば、約10秒、20秒、30秒、1分、2分、3分、5分、7分、10分、15分、30分、40分、60分等の間用いられ、その後、或る期間、例えば、約10秒、20秒、30秒、1分、2分、3分、5分、7分、10分、15分、30分、40分、60分等の間オフに切り換えられる。このインターバルは、以前のインターバルに従って変更又は修正され得る。すなわち、上記インターバルは、その後のステップにおいてより長くもより短くもなる。デバイスに1つよりも多い輸送手段が存在する場合、全ての輸送手段が機能するか、又はそれらの一部(sub-portion)のみが機能するかのいずれか一方である。アクティブである輸送手段の数及び位置は、上記反応区域及び/又は第2の区域の存在及び位置に従って決定及び設定される。
【0058】
本発明の具体的な実施の形態では、デバイスは、本明細書において上述した1つの反応区域と、1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する1つの非反応区域と、1つの輸送手段とを有している。本発明の更に好ましい実施の形態では、デバイスは、本明細書において上述した1つよりも多い反応区域、1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する1つよりも多い非反応区域及び/又は1つよりも多い輸送手段を有している。例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、50個又は50個よりも多くが一組になった反応区域がデバイスに存在する。代替又は追加として、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、50個又は50個よりも多くが一組になった1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域がデバイスに存在する。代替又は追加として、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、50個又は50個よりも多くが一組になった輸送手段がデバイスに存在する。また、幾つかの反応区域と、1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する1つの非反応区域と、1つ又は幾つかの輸送手段との組み合わせも本発明によって想定される。
【0059】
本発明の更に具体的な実施の形態では、デバイスは、少なくとも1つのバルク反応区域と、少なくとも1つの表面反応区域とを有している。デバイスは、また、1つよりも多い、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、50個又は50個よりも多い数が一組になったバルク及び表面反応区域を有していてもよい。代替又は追加として、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、50個又は50個よりも多くが一組になった輸送手段がデバイスに存在する。これらの全ての区域は、チャンバ内にまとめられてもよいし、例えば本明細書において上述したような接続素子と接続された個々のケーシング内に配されてもよい。
【0060】
1つよりも多い区域のタイプがデバイスに存在する場合、異なるタイプの区域がアレイ状の形態で存在する。すなわち、全てが本質的にグループ化されている。代替として、異なる区域のタイプ、例えば反応区域の後に、1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域及び/又は1つ又はそれよりも多い輸送手段が続いている。
【0061】
1つよりも多い反応区域が存在する場合、それらの反応区域は、異なるマイクロアレイ、すなわち、異なる捕捉プローブを有するマイクアレイを有している。「異なるマイクロアレイ」とは、例えば、ゲノムDNAの異なる部分又はタンパク質、抗体、リガンド等の異なるセットと相互作用することができるマイクロアレイのことである。相互作用の能力は、また、捕捉分子を伴うマイクロアレイ又は区域間においてオーバーラップし得る。捕捉プローブ間の違いは、1つの反応区域内又は1つのマイクロアレイ内においても存在し得る。例えば、特異的な相互作用が、アレイの一方の側のみにおいて可能である。そのような異なる捕捉分子を伴う異なるマイクロアレイ又は区域の1つないし幾つかは、例えば一組の形に組み合わせられ得る。例えば、ゲノムDNAの或る領域は、連続する列、場(field)又は一組の異なるマイクアレイ若しくは捕捉分子によりカバーされる。
【0062】
本発明の更に具体的な実施の形態では、第1の反応区域は、多量の、好ましくは非常に多量の標的分子、例えば、多量の核酸分子のための捕捉分子を有している。それに続く反応区域は、多量ではない標的分子のための捕捉分子を有しており、従って、好ましい実施の形態では、多量から少量までの一連の反応区域が形成される。1つ又はそれよりも多い反応区域の間、例えば、反応区域毎、1つおきに、3つに1つの割合等で又は最も遠い位置に、1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する1つ又はそれよりも多い追加の非反応区域及び/又は1つ又はそれよりも多い輸送手段が点在する。新たな反応区域毎にバックグラウンドが減少するに従って標的分子は捕捉分子とより上手く相互作用するはずなので、そのような構成は、複雑な捕捉分子を特異的に選択するために好ましく用いられる。
【0063】
上記区域は、任意の適切な形態又はデザインで設けられ得る。例えば、全ての区域は、連続的に一列に、例えば本明細書において述べたような蛇行線で設けられてもよいし、例えば円の中心を介して接続されて又はされないで放射状に設けられてもよいし、中心の位置よりも上側又は下側に存在する3次元状の区域で設けられてもよい。
【0064】
本発明の好ましい実施の形態では、区域内の温度を制御及び/又は調節する上記ユニットは、区域内に組み込まれている。例えば、ユニットは、区域の底部、天井部又は壁部に加熱デバイスとして存在する。上記組み込みは、加熱デバイスが好ましくは熱さ又は冷たさの容易な除去を可能にする構造体、例えばガラス又はプラスチック板により覆われるようになされている。代替として、ユニットは、区域内に突起素子として位置し、従って、当該区域に直接熱さ又は冷たさを放散することができる。両形態が組み合わせられることも可能である。更に、1つ又はそれよりも多い輸送手段が本発明に係る区域、例えば反応区域に組み込まれてもよい。上記組み込みは、輸送手段が構造体により覆われるように又は区域内に突起素子として位置するようになされてもよい。
【0065】
本発明の更に好ましい実施の形態では、区域内の温度を制御及び/又は調節する上記ユニットは、外部に設けられている。例えば、ユニットは、区域の上側又は下側に位置し、ペルチェ素子等を用いることにより伝導、対流、放射(赤外線又はマイクロ波)の形で、又は熱い若しくは冷たい気体若しくは液体の形で、マイクロ波の形で熱を放散する。また、冷たい及び/又は熱い液体が流される組み込まれた冷却及び/又は加熱伝送路(channel)又はデバイスが接続される例えば金属より成る塊状の冷却素子が用いられ得る。また、加熱の目的で用いられる超音波と結合したものも想定される。上記加熱は、電気抵抗器における電気的放散及び/又はペルチェ素子によって生成される。上記区域は、更に、或る温度に設定されたチャンバ又は場所に位置してもよい。また、上述の組み込まれた及び外部に与えられる任意の加熱又は冷却ユニットは、当業者には既知の任意の適切なやり方で組み合わされ得る。
【0066】
本発明の更に好ましい実施の形態では、本明細書において上記に定義された反応区域、本明細書において上記に定義された1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域及び/又は本明細書において上記に定義された輸送手段は、閉ループで設けられている。本明細書において用いられる「閉ループ」という用語は、1つの区域から次の区域への材料、例えば流体の一方向の流れ及び対応する当該材料の開始区域への戻りを可能にする上述した区域と手段との配置を意味する。そのような配置は、同一の区域、例えば1つ又はそれよりも多い反応区域全体の材料の連続的な再循環の動きを可能にする。反復は、特に、標的分子と捕捉分子とが近づく可能性を繰り返すことによりこれらの分子の相互作用の数を増やすことを可能にする。接続は、本明細書において上記に定義された、例えばチューブ、パイプ、パイプライン等を介した接続である。そのような構成では、デバイスの種々の部分の流量が必要なだけ調整される。例えば、相互作用領域では低い流量が用いられ、これは標的分子に対する持続的な相互作用の機会を与える。上記閉ループは、更に、1つ又はそれよりも多い入口及び出口点又はポート、例えば、1、2、3、4又は5つの入口部又は出口部を有している。これらのポートにおいて、捕捉分子に結合される標的分子を有する媒体が取り込まれる又は取り除かれる。
【0067】
本発明の他の好ましい実施の形態では、本明細書において上記に定義された反応区域、本明細書において上記に定義された1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域及び/又は本明細書において上記に定義された輸送手段は、単一の流路で設けられている。本明細書において用いられる「単一の流路」という用語は、ループ素子が存在しない区域の線状配置を意味する。そのような配置では、反応区域は、一方の側において輸送手段、例えば、ポンピング区域又はチャンバと結合し、他方の側において本明細書において定義された1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域に接続され、この非反応区域には、今度は輸送手段、例えば、ポンピング区域又はチャンバが続く。接続は、本明細書において上記に定義された、例えばチューブ、パイプ、パイプライン等を介した接続である。従って、輸送手段は、反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域とにわたる行ったり来たりの材料又は媒体の輸送を可能にする。代替として、上記区域は、それらの線状配置が維持されるならば任意の他の組み合わせで配され得る。更なる代替案では、本明細書において上記に定義された区域又は輸送手段を有する分岐された末梢枝が用いられる。
【0068】
本発明の他の好ましい実施の形態では、本明細書において上記に定義された反応区域、本明細書において上記に定義された1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域及び/又は輸送手段は、単一の穴部又はチャンバ内に組み込まれている。そのような組み込みは、本明細書において上記に定義された反応区域、本明細書において上記に定義された1つ若しくはそれ以上の温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域及び/又は輸送手段のごく接近した形態又は隣りの区域の1つの伸張若しくは融合の形態で与えられる。特に好ましい実施の形態では、本発明に係るデバイスは、本明細書において上記に定義されているマイクロアレイと、温度を制御及び/又は調節する1つよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットとを有する反応区域を有し、上記ユニット内の温度は2つ又はそれ以上の異なる値、例えば、標的分子と捕捉分子との相互作用に有利に働く値及び標的分子の活性化及び/又は再活性化に有利に働く値に設定される。従って、輸送手段は、壁部領域に位置するか、又はチャンバの入口又は出口点に配されている。上記チャンバは、また、入口及び出口点のない又は媒体が入ると閉じる密閉可能な入口及び出口点を有する閉鎖系の形態で設けられていてもよい。
【0069】
細長い穴部又はチャンバが特に好ましい。本明細書において用いられる「細長い」という用語は、チャンバの一方の側が他方の側よりも長いチャンバの形を意味する。本明細書において用いられる「より長い」という用語は、約2、4、5、6、10、15、20、30、40又は50倍等を意味する。典型的には、上記チャンバは、下側よりも、例えば、約2、4、5、6、10、15、20、30、40又は50倍幅広である。代替として、当業者には既知のチャンバの任意の他の形態、形状又は配置も本発明によって想定される。
【0070】
そのようなチャンバは、更に特に好ましい実施の形態では、本明細書において上記に定義された反応区域及び/又は本明細書において上記に定義された1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域及び/又は本明細書において上記に定義された輸送手段の任意の適切な反復回数を有する。例えば、これらの区域は、2、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15回存在する。
【0071】
本発明の更に特に好ましい実施の形態では、本明細書において上記に定義された閉ループ又は単一の流路は、少なくとも1つの反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域との間における材料、例えば流体の連続的なやり取りが可能であるように設けられている。本明細書において用いられる「材料の連続的なやり取り」という用語は、述べられている区域における一定の流量を意味する。この用語は、また、上記区域間における定量的なやり取りも意味する。すなわち、1つの区域に存在する全て又はほぼ全ての材料、媒体又は流体は、隣りへ又は異なる区域に輸送される。本明細書において用いられる「ほぼ全ての」という用語は、材料の少なくとも約70、75、80、85、90、95、98、99、99.5又は100%を意味する。対応する材料のやり取りは、上記区域若しくは接続領域内の疎水性若しくは超疎水性材料又は接続チューブ若しくはパイプ等の使用、例えば流路の隅又はコーナー部を回避することによる区域内における局所的な渦及び乱流の回避及び/又は流量の調節等により定量的なやり取り等に伝えられる。流体の材料のやり取りは、一度又は数回、例えば、2、3、4、5、6、7、8,9、10、11、12、13、14、15、20、30、40、50、100、200、500、1000回又はそれよりも多い回数行われる。
【0072】
本発明の更に好ましい実施の形態では、本明細書において上述したデバイスは、更に、混合手段を有している。本明細書において用いられる「混合手段」という用語は、典型的には、材料又は媒体の流路、例えば、流体又は液体の流路に存在し、局所的な渦及び/又は乱流を引き起こすことができる混合構造体を意味する。そのような混合構造体は、例えば、流路内の1つ若しくはそれ以上の分散又は分離棒、流路内のピンプル又は突起部、流路内のカーブの存在又は当業者には既知の任意の他の適切な機械的又は設計素子である。代替として、混合は、ポンピング又は能動的な混合ユニット、例えば、タービン状のユニット、攪拌ユニット、泡立てユニット又は媒体、特に流体攪拌器によっても与えられ得る。これらの素子の使用は、媒体、特に流体の温度に関する区域内における均一性の増大及び/又は選択される標的分子の含有量に関する均一性の増大をもたらす。
【0073】
上記混合手段は、好ましくは、デバイスの区域間を接続する領域、例えば、区域間の流体接続の区域に位置している。例えば、全ての流体接続部又は該接続部の10%、20%、30%、50%、70%、80%又は90%が、そのような混合手段を有している。上記混合手段は、接続部の入口、中間、出口若しくは任意の他の位置に又は接続部全体にわたって存在する。例えば、混合手段は、コネクタ、例えば、チューブ、パイプ又はパイプラインの径の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%を満たしている。
【0074】
本発明の更に好ましい実施の形態では、上述した区域のいずれか及び/又はデバイス全体が、蛇行流路を有している。本明細書において用いられる「蛇行路」という用語は、大きくカーブした及び曲がった、好ましくは、区域の領域の非常に大きな割合を有する流路を意味する。例えば、流路は、区域の領域又はデバイス全体の40%、50%、60%、70%、80%、90%又は95%までが流路によって占められるか又は占有されるようにカーブして及び曲がっている。上記流路は、具体的な実施の形態では、1つ又はそれ以上のマイクロアレイ又は固定化された捕捉分子を有している。本発明の更なる実施の形態では、蛇行流路は、反応区域にのみ存在するか、又は1つ若しくはそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域にのみ存在する。蛇行流路に沿って、輸送手段が、例えば、デバイスの壁部に又は任意の他の適切な場所に位置する。上記蛇行流路は、更に、追加の輸送手段を更に備えた内部ループの生成をもたらす分岐部を備えており、これは蛇行流路に媒体を繰り返し通すことを可能にする。
【0075】
上記デバイスの分岐点又は任意の他の場所は、任意の適切な種類のゲート、入り口又はバルブを備えている。そのような素子は、媒体の流れの方向及び速度を制御することができる。また、上記区域及び/又はコネクタは、更に、媒体中の要素の除去及び検出を可能にするふるい及び/又はフィルタを有している。上記ふるい又はフィルタは、排除する大きさよりも小さい物体のみの通過を可能にする特定の孔径のものである。そのような素子を用いることにより、例えば種々のタイプの細胞、タンパク質のような高分子等が分離される。
【0076】
本発明の更なる特に好ましい実施の形態では、上記デバイスは、核酸標的分子の選択のために設計されたデバイスである。従って、このデバイスは、好ましくは本明細書において上記に定義された選択される標的分子に相補的である核酸捕捉分子のマイクロアレイを有している。更に、このデバイスは、上記マイクロアレイと選択される上記標的分子とのハイブリダイゼーション区域としての役割を果たす1つ又はそれよりも多い反応区域を有している。上記ハイブリダイゼーション区域の温度は、任意の適切な値、例えば、約20℃から70℃まで、約40℃から70℃までの温度又は約20、30、40、42、45、50、55、58、59、60、62、65、67若しくは70℃の温度に保たれる。この温度は、ハイブリダイゼーション反応の1つ又はそれよりも多いパラメータ、例えば、捕捉分子の長さ、媒体の組成、塩又はイオンの濃度、pH、流量等に依存して調整又は設定される。捕捉プローブ分子は、約20から150ヌクレオチドまでの長さを有する。約40から70ヌクレオチドまで、より好ましくは約50ないし60ヌクレオチドの長さを有する捕捉分子が特に好ましい。一般に、より短い捕捉分子はより低いハイブリダイゼーション温度を必要とし、より長い捕捉分子はより高いハイブリダイゼーション温度を必要とする。本発明の特に好ましい実施の形態では、上記反応区域におけるハイブリダイゼーションは、特異的ハイブリダイゼーションである。また、ホルムアミドのかなりの部分を含む反応バッファについてはより低い温度が用いられ、ホルムアミドを含まない反応バッファについてはより高い温度が用いられる。
【0077】
本明細書において用いられる「特異的ハイブリダイゼーション」という用語は、ストリンジェントな条件下での特定の他の核酸、例えば捕捉プローブとの核酸の結合、二本鎖化(duplexing)又はハイブリダイゼーションを意味する。核酸のハイブリダイゼーションに関連する「ストリンジェントな条件」という用語は、配列及び配列の長さに依存し、当業者は知っているように種々の実験パラメータの下で異なる。本発明に関連して使用されるストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件の例は、42℃における50%ホルムアミド、5×SSC及び1%SDSを有するバッファ中でのハイブリダイゼーション又は65℃における5×SSC及び1%SDSを有するバッファ中でのハイブリダイゼーションである。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、37℃における40%ホルムアミド、1MNaCl及び1%SDSのバッファ中でのハイブリダイゼーションも含んでいる。代替として、ハイブリダイゼーションは、65℃において0.5MNaHPO、4.7%SDS、1mMEDTA中において行われ得る。更に追加のストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、60℃又はそれよりも高い温度及び3×SSC(450mM塩化ナトリウム/45mMクエン酸ナトリウム)におけるハイブリダイゼーション又は30%ホルムアミド、1MNaCl及び0.5%サルコシン酸ナトリウム、50mMMES、pH6.5を含む溶液中での42℃における培養を含んでいる。本発明に関連して用いられる洗浄の条件は、例えば、pH7及び少なくとも約50℃又は約55℃ないし約60℃の温度において約0.02モル濃度の塩濃度、約15分間72℃において約0.15MNaClの塩濃度又は約15ないし約20分間少なくとも約50℃又は約55℃ないし約60℃の温度において約0.2×SSCの塩濃度を含んでいる、又は、ハイブリダイゼーション錯体が、15分間室温で0.1%SDSを含む約2×SSCの塩濃度の溶液で2回洗浄され、その後、15分間68℃で0.1%SDSを含む0.1×SSCの溶液で2回洗浄されるか又は同等の条件で洗浄される。代替として、洗浄は、68℃において0.1×SSC/0.1%SDSで行われ得る。洗浄のストリンジェントな条件は、例えば、42℃において0.2×SSC/0.1%SDSでもあり得る。更に、任意の適切な商業的に利用可能なハイブリダイゼーション及び/又は洗浄及び/又は培養バッファ又は媒体等が用いられ得る。
【0078】
本発明に係るハイブリダイゼーション反応に用いられる媒体は、更に、特定の塩、例えばカルボキシル基の塩又は分子のアミノ基の酸付加塩を有している。カルボキシル基の塩は、当該分野において既知の方法により形成され、無機塩類、例えば、ナトリウム、カルシウム、アンモニウム、第二鉄又は亜鉛塩及び同類のもの並びに例えばトリエタノールアミンのようなアミン、アルギニン又はリシン、ピペリジン、プロカイン及び同類のものにより形成される有機塩基を伴う塩を含んでいる。酸付加塩は、例えば、例えば塩酸又は硫酸のような鉱酸を伴う塩及び例えば酢酸又はシュウ酸のような有機酸を伴う塩を含んでいる。本発明の更に好ましい実施の形態では、上記温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域は、変性区域である。本明細書において用いられる「変性区域」という用語は、本発明に係る捕捉分子により結合される標的分子若しくは選択される標的分子の再活性化又は変性を意味する。好ましくは、この用語は、核酸の変性ができる又は核酸の変性に用いられる区域に関連している。本明細書において用いられる「変性」という用語は、二本鎖核酸の2つの一本鎖への分離を意味し、これは鎖間の水素結合が切断されたときに生じる。核酸の変性を可能にするために、変性区域は、約75℃ないし100℃の温度、好ましくは約80℃ないし95℃の温度、例えば、約80、82、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97又は98℃の温度に保たれる。95℃の変性温度が特に好ましい。
【0079】
本発明に係るデバイスに1つよりも多い反応区域及び/又は変性区域が存在する場合、反応区域は個々に異なる温度である及び/又は変性区域は個々に異なる温度である。代替として、全ての変性区域及び全ての反応区域が、同じ又はよく似た温度であってもよい。種々の長さの捕捉分子が、例えばデバイス内の1つよりも多いマイクアレイにおいて用いられる場合、ハイブリダイゼーション温度は適宜に、特に上記の一般的な手法に従って調整される。逆に、形態、例えば、選択される標的分子、すなわち核酸の長さ及び複雑さは、ハイブリダイゼーション温度及び/又は変性温度に影響を及ぼす。これら両方の温度は、これらの分子の長さの減少とともに減少する。
【0080】
更なる観点では、本発明は、新規の改良されたアレイのレイアウトに関係がある。そのようなレイアウトは、任意のタイプのアレイ、例えば、核酸、タンパク質のアレイを有するマイクロアレイに、又は例えば本明細書において上述した若しくは当業者に既知の任意の他の適切なアレイの形態に用いられる。本明細書中の上記の特徴を有するデバイスに関連して用いられる又は使用可能な改善されたレイアウトシステムが特に好ましい。典型的には、新規のアレイのレイアウトは、個々の場所の形態の固定化されたプローブをもはや有しておらず、その代わりに、ライン状にこれらのプローブの構成を与えている。アレイの材料又は素子のこの新規の構成は、スポット又は他のこれまで使用されてきたレイアウトの形態の使用と比較して、相互作用物質、例えば、相補的核酸分子、抗原、リガンド等が対応する捕捉分子を見つける機会が増えるという利点を与える。試料材料の流路を横切るラインの存在は、更に、試料に少なくとも幾つかの場所で各プローブラインを横断させるという利点を与える。従って、ラインは、捕捉分子と相互作用分子、例えば標的分子とのより効率的な相互作用を与えるために捕獲デバイスとして用いられる。ここでは、その後の光学的な検出が必要ないので、すなわち、ラインの存在を通じた結合反応の最適化は、相互作用素子の光学的検出に関するいかなる考察とも無関係に行われるので、ラインを有する新規のレイアウトの存在は、マイクロアレイ技術に基づく選択プロセスに非常に有効であるという更なる利点を与える。すなわち、アレイの構成は、専ら結合の効率を考慮することによって有利に決定され、その後の検出について考慮することなく及び更に重要なことには標的分子と捕捉分子との相互作用の差別化によって有利に決定される。
【0081】
この新規の観点の特定の実施の形態では、上記アレイのレイアウトは、アレイ上の流路に対して約5°ないし約90°の角度で与えられるラインを有している。
【0082】
この新規の観点の更なる特定の実施の形態では、アレイのレイアウトは、アレイ上の流路に対して約45°ないし約90°の角度を持つラインを有している。
【0083】
この新規の観点の更により一層好ましい実施の形態では、アレイのレイアウトは、アレイ上の流路に対して本質的に垂直である又は直交するラインを有している。本明細書において用いられる「本質的に垂直」という用語は、アレイ上の流路に対して約85°ないし95°、好ましくは約90°の角度を意味する。
【0084】
アレイのレイアウトに関連して用いられる「流路」という用語は、アレイに関する材料、例えば、液体又は液体中のプローブの流れ(stream)を意味する。3次元空間における位置及び/又は傾斜を変更することによって、上記流路が固定された位置にアレイを有するデバイスに対して決定されるか、又は上記アレイが流路に対しては配置される。アレイ上の流路の方向は任意の適切な方向であり、例えば、流路は、アレイの任意のサイドから、アレイのあらゆるサイドの任意の場所から又は任意の適切な角度、すなわち、0°から360°までの角度から始まる。流路は、(0°の傾斜を有して)アレイの平面と平行であってもよいし、同じ面にあってもよいし、又は、アレイの平面に対して傾斜を有していてもよい。例えば、流路は、約1°ないし約45°の傾斜を有する。傾斜を有する場合、流路は、アレイよりも上側からアレイの平面に向かって方向づけられる。流路は、アレイの使用中にも、約1°ないし270°ずつ、例えば、約5°、10°、20°、30°、45°、60°、70°、80°、90°、120°、145°、180°、270°等ずつ例えば反対側に変更され又は逆向きにされ得る。
【0085】
アレイが均一ではない長さのサイド、例えば楕円形又は矩形の形を有するケースでは、流路は、好ましくは、より長いサイドと平行に向けられる。この構成では、短い長さのより多くのラインがアレイ上に配される。代替として、流路は、より短いサイドと平行に向けられる。この構成では、長さが増したより少ない数のラインがアレイ上に配される。
【0086】
この新規の観点の他の具体的な実施の形態では、アレイのレイアウトは、同一の又はよく似た長さ及び/又は同一の又はよく似た幅のラインを有する。代替として、アレイのレイアウトは、異なる長さ及び/又は異なる幅のラインを有する。これに関連して用いられる「異なる」という用語は、最も短いラインと最も長いラインとの又は最も細いラインと最も厚いラインとの約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、750、1000又は1000%よりも多くの差を意味する。
【0087】
好ましくは、アレイ内の全てのラインは、アレイの1つのサイドからアレイの対向するサイドに伸びており、流路の当該方向においてカバーされていない領域を残さない。本発明のこの観点の代替の実施の形態では、ラインはアレイの上記サイドよりも前で、例えば、アレイの両方のサイド又は一方のサイドのみよりも前で終わっている。
【0088】
この新規の観点の更なる実施の形態では、ラインは、例えば、流路に対して約90°未満及び約5°を超えた角度で与えられる場合、アレイのコーナー部に向かう方向に延在してもよい。そのような延在が想定される場合、コーナー部のラインは、アレイの他のラインと比較して異なる質であってもよい。それらは、例えば、他のラインよりも厚い。代替として、それらは、他の捕捉分子よりも容易な相互作用パターンを示す捕捉分子を有しており、これはアレイの残りの部分と比較して同様の量のコーナー区域における相互作用をもたらす。更なる代替案では、上記コーナー部のラインは、容易に捕捉される断片の捕捉に用いられる。そのような手法は、最終の配列決定実験において均一なカバーが達成され得るという利点を与える。
【0089】
本発明のこの新規の観点の更なる実施の形態では、各ラインは、異なる捕捉分子を有している。代替として、各ラインは、異なる捕捉分子を有する又は異なる捕捉分子より成る2つ又はそれよりも多い区域を有し、例えば、各ラインは約2から100までの、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40又は50の異なる捕捉分子を有している。ライン内の個々の区域は、直線的に設けられている。代替として、ラインは、異なる捕捉分子を有する区域が点在する状態で、同一の捕捉分子を有する2つ又はそれよりも多い区域を有する。
【0090】
本発明のこの新規の観点の更なる実施の形態では、同一の捕捉分子が、2つ又はそれよりも多いラインに存在し、例えば、1つおき又は2つおき等のラインが、1つの区域内に同一の捕捉分子を有している。更に、1つよりも多いラインは、或る捕捉分子を有している。例えば、或る捕捉分子は、アレイ内の2ないし50ライン、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50又は50よりも多くのラインに存在する。これらのラインは、一方に加えて他方も局在化されているか、又はアレイ中に任意の他の適切なパターンで分散されている。例えば、2つに1つ、3つに1つ、4つに1つ、5つに1つ、6つに1つ、7つに1つ、8つに1つ、9つに1つ、10に1つ、15に1つ、20に1つ、30に1つ、40に1つ、50に1つ、1000に1つ等のラインが、或る又は特定の捕捉分子を有して又はより成っている。
【0091】
本発明のこの新規の観点の更なる実施の形態では、本明細書において上記に定義されたラインは、約10nmから約100μmの、好ましくは約300nmから30μmの幅、例えば、約150nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、750nm、800nm、900nm、1μm、2μm、5μm、7μm、10μm、12μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、50μm、75μm又は100μmの幅を有している。
【0092】
本発明のこの新規の観点の更なる実施の形態では、本明細書において上記に定義されたラインは、任意の適切なかつ技術的に実現可能なライン間の距離で設けられている。上記ライン間の距離は、できる限り小さいことが好ましい。実験により証明されているように、ライン間の領域はラインの領域よりも小さいことが好ましい。また、プローブ又はプローブラインによってカバーされない領域は特異的な結合を引き起こし、それによって、標的の選択される断片の割合が低下する。ライン間の距離は、約25nmないし200μm、好ましくは約500nmないし約100μmであり、例えば、約600nm、700nm、750nm、800nm、900nm、1μm、2μm、5μm、7μm、10μm、12μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、50μm、75μm、100μm、150μm又は200μmである。
【0093】
本発明のこの新規の観点の更なる実施の形態では、任意の適切な量のラインがアレイ上に生成されている。ラインの量は、主に、アレイ上に配される捕捉分子の数及び/又は長さ及び/又は複雑さ、アレイの基板のタイプ、想定されるアレイの全体のサイズ等に依存する。予め定義された例示的な約1000μmのアレイ領域に、約2ないし30,000の数のアレイ、好ましくは約5,000ないし25,000の数のアレイ、より好ましくは約10,000ないし23,000の数のアレイが配され得る。
【0094】
本発明のこの新規の観点の更なる実施の形態では、本明細書において上記に定義されたラインは、種々の堆積の形態、例えば、スポット状、細長いスポット状、円形状のライン、矩形状のライン、らせん状等で設けられ得る。円形状のライン、矩形状のライン、らせん状又は任意の他の曲線状の若しくは接続ラインは単一のレイアウトの形態としても使用され得る。本明細書において用いられる「スポット状」及び「細長いスポット状」という用語は、それぞれ、円盤状の要素又は短く幅広のラインを意味する。
【0095】
種々の堆積の形態の組み合わせがレイアウトとして用いられるケースでは、種々の形態の要素が点在するか、又は同様の素子が区域内に保持され、その後に次の要素のタイプ等が続くかのいずれか一方である。代替として、上記要素は、アレイ上にランダムに分散される。更に、上記要素は、例えば、流路を横切るライン、ライン間に又は流路の境界にスポット等を用いて、アレイ上に流路に依存して堆積されている。
【0096】
本発明のこの観点に係るラインは、例えば、インクジェット技術を含むスポッティング技術を用いて、ディップペンリソグラフィにより、レーザを用いる成長技術若しくはマイクロコンタクトプリンティングにより、又はインプリントリソグラフィ若しくはフォトリソグラフィ技術を用いて当業者には既知の任意の適切な技術を活用して生成される。そのような技術及びそれらの実現は、当業者には既知である。例えば、アフィメトリクス社により提供されるリソグラフィ法が用いられる。
【0097】
本発明の好ましい実施の形態では、本明細書において上述したデバイスは、スポット、細長いスポット又はラインの形態で設けられた固定化された捕捉分子を有している。本明細書において上記に定義されたラインを有するレイアウトの形態の構築が特に好ましい。また、上記固定化された捕捉分子は、異なるレイアウトの形態を混合して、好ましくは本明細書において上記に定義された混合で設けられてもよい。
【0098】
更に好ましい実施の形態では、本発明に係るデバイスは、流路に対して約20°から90°までの角度にあるラインに設けられた固定化された捕捉分子を有している。流路に対して約45°から90°までの角度が更に好ましい。流路に対して約90°の、すなわち、流路に対してラインの垂直方向の角度が特に好ましい。上記ラインは、更に、流路に対して異なる角度、特にアレイのレイアウトの観点に関連して本明細書において上記に定義された角度を有していてもよい。
【0099】
更に好ましい実施の形態では、本発明に係るデバイスは、約300nmから30μmの幅を有するラインを有している。300nmの幅が好ましい。0.5μm、1μm及び10μmの幅も好ましい。更に、上記ラインは、約50nmないし100μmのライン間距離で設けられている。2μmのライン間の距離が好ましい。加えて、上記ラインは、アレイのレイアウトの観点に関連して本明細書において上記に定義された任意の幅を有している。
【0100】
更なる観点では、本発明は、標的分子を特異的に選択する方法であって、(a)本明細書において上記に定義されたデバイスの区域に1つ又はそれよりも多い標的分子を含む媒体を導入するステップと、(b)反応区域において上記標的分子と固定化された捕捉分子との相互作用反応を行うステップと、(c)相互作用していない又は結合していない標的分子を1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域に輸送するステップと、(d)1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する上記非反応区域において上記標的分子を再活性化するステップと、(e)再活性化された上記標的分子を上記反応区域に輸送するステップであって、従って、ステップ(b)に従う上記標的分子と固定化された捕捉分子との更なる相互作用を可能にする当該ステップとを有する当該方法に関係がある。本明細書において用いられる「1つ又はそれよりも多い標的分子を含む媒体」という用語は、媒体中に含まれる本明細書において上記に定義された標的分子、例えば、核酸、タンパク質、ペプチド、任意の形態及び形式のリガンド、抗体、抗原、有機構造体、無機構造体又は有機及び無機構造体の混合物のような小分子、例えば、糖鎖又は糖類、ポリマ、細胞若しくは細胞断片又は細胞のサブポーション、例えば細菌細胞若しくはその断片のようなエンティティ、真核細胞又はその断片、ウイルス粒子又はウイルス、又は、上記の任意の誘導体又は組み合わせを含む媒体を意味する。好ましくは、上記標的分子は、核酸であり、より好ましくはDNA、更に好ましくはゲノムDNA、最も好ましくはヒトゲノムDNAである。
【0101】
媒体中に含まれる上記核酸は、捕捉分子との相互作用を可能にするために予め処理されている。そのような処理は、第1のステップとして核酸分子、例えばゲノムDNAの切断を含んでいる。例えば、物理的切断は、当業者には既知の適切な手順、例えば、国際特許出願公開WO2008/097887号公報から得られる手順に従って行われる。典型的な切断方法は、超音波処理、噴霧又は両者の組み合わせの使用を含んでいる。続いて、核酸分子が修復される。例示的な好適な修復手法は、当業者には既知の平滑末端に基づく末端修復及びリン酸化反応である。追加又は代替として、核酸分子は、アダプタ分子に結合され、これはその後の増幅反応を可能にする。そのようなアダプタ分子は、当業者には既知の任意の適切な方法に従って核酸分子にライゲーションされる。そのようなアダプタは、アダプタ分子のオーバーハングのためにセルフライゲーションを防止又は低減し、標的核酸に関して固有である及び/又は互いに相補的である(国際特許出願公開WO2008/097887号公報も参照されたい。)。任意の上述したステップの後、核酸は、洗浄され、適切な媒体と混合される。そのような媒体の一例は、本明細書において上記に定義されたハイブリダイゼーションバッファ又は溶液である。
【0102】
上記媒体は、当業者には既知の任意の適切な技術に従ってデバイスに導入される。典型的には、上記媒体は、本明細書において上述した入り口の1つ又はそれよりも多くを介してデバイスに導入される。代替として、キャップが持ち上げられ、媒体がデバイスの領域全体に導入され、その後、キャップが再び閉じられる。上記デバイスは、また、他のデバイス、例えば自動検出装置のネットワーク又は装置の結合体にも接続され得る。従って、上記媒体は、好ましくはバルブ及び/又は輸送手段を備えたチューブ又は導管(canal)の導入によりデバイスに自動的に送られる。上記媒体は、本発明に従ってデバイスの任意の区域に導入される。好ましくは、媒体は、当該区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域に導入される。媒体は、上記区域に導入される場合、次のステップを続ける前に、例えば約80ないし99℃、好ましくは95℃の温度への加熱ステップにより活性化される。上記媒体は、その後、好ましくは本明細書において上述した輸送手段を用いることにより反応チャンバに輸送される。
【0103】
続いて、標的分子と固定化された捕捉分子との相互作用反応が行われる。本発明の具体的な実施の形態では、相互作用は、核酸分子間の相互作用である。従って、ハイブリダイゼーション反応の実行が本発明によって特に想定される。そのようなハイブリダイゼーション反応は、当業者には既知の任意の適切なプロトコルに従って、好ましくは本明細書に上述した詳細に従って行われる。約40℃ないし70℃の温度で行われるハイブリダイゼーション反応が特に好ましい。ハイブリダイゼーションは、例えば、約40℃、42℃、44℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃等の温度で行われる。本明細書において上記に定義された核酸を有する核酸捕捉分子が用いられるケースでは、捕捉分子として任意の上述した捕捉分子が用いられ得る。説明された相互作用反応は、1つ又はそれよりも多い捕捉分子と1つ又はそれよりも多い標的分子との相互作用をもたらし、例えば、核酸分子は相補的捕捉分子に結合する。核酸分子間の、例えば標的分子と捕捉分子との相互作用又は結合の能力の程度は、幾つかのパラメータ、例えば、ハイブリダイゼーション温度、バッファ中の塩及び/又はホルムアミドの量、反応区域内の流量等によって調整される。好ましくは、約80%ないし100%の相補性が達成され、より好ましくは85%、90%、95%、97%、98%又は99%の相補性が達成される。更に、相互作用プロセスの結果は、例えば当業者に既知の適切な制御デバイスを用いることによって、例えば、蛍光シグナルの検出等により制御される。
【0104】
捕捉分子と相互作用しなかった又は捕捉分子に結合しなかった標的分子は、例えば、他の相補的一本鎖核酸との相互作用を介して二本鎖になるが、捕捉分子と二本鎖を形成しない核酸のケースでは、その後、反応区域から離れた所へ輸送される。この輸送は、本明細書において上述した輸送手段によって行われる。具体的な実施の形態では、反応区域内において媒体又は材料のやり取り又は置換をもたらす媒体又は材料の一定の又は連続する流れがデバイス内に生成される。結合していない標的分子又は核酸を有する上記媒体又は材料、例えば、ハイブリダイゼーションバッファは、1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域に達する。そのような区域は、反応区域から空間的に分離されているか、又は本発明のデバイスに関連して本明細書において上述したようにそこに組み込まれている。上記区域は、具体的な実施の形態では、反応区域内に使用される温度よりも高い温度に設定される。
【0105】
1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域に達すると、標的分子は再活性化される。この再活性化は、以前の状態、特に標的分子が捕捉分子と相互作用することを可能にする状態の生成を可能にする当業者には既知の任意の適切なプロセスである。反応は、標的分子の種類及び/又は用いられる捕捉分子の種類に依存する。核酸のケースでは、再活性化は、二本鎖構造の融解、すなわち、核酸の変性をもたらす温度の上昇を有する。抗体又はリガンドの相互作用のケースでは、温度、荷電ユニットの存在、イオンの存在、機械的な力又はせん断力等のようなパラメータが変更される。例えば、電流が確立される、pHが変更される、強い媒体の動きが生成される等である。約80℃ないし98℃の温度、より好ましくは約95℃の温度における核酸分子の変性は、特に好ましい。上記再活性化ステップは、任意の適切な長さの時間行われ、例えば、デバイス内の速度又は流量により制御される。典型的には、非反応区域内又は非反応区域付近の流量が低くされるか、又は輸送手段が例えば約0.1秒ないし10分の或る間隔で非連続的に用いられ、これは再活性化プロセスが起こることを可能にする。核酸のケースでは、再活性化又は変性プロセスは、好ましくは、約50%ないし100%の、より好ましくは少なくとも70%の、更に好ましくは少なくとも80%の、最も好ましくは本質的に全ての二本鎖標的分子の変性をもたらす。再活性化プロセスの作用は、更に、当業者には既知の適切な制御メカニズム、例えば、挿入分子の使用、蛍光検出の使用等により制御され得る。
【0106】
続いて、再活性化された、例えば変性した標的分子は、標的分子と捕捉分子との相互作用が生じる反応区域に輸送される。この反応区域は、最初の相互作用スキームにおいて既に用いられた区域と同じ区域であってもよいし、異なる区域であってもよい。例えば、変性区域の近くに点在する一連の反応区域が用いられる場合、再活性化された標的分子は異なる反応区域に輸送される。上述した制御デバイスを用いることにより、媒体中に存在する標的分子の量を調べることが更に可能である。本発明の具体的な実施の形態では、媒体中に存在する標的分子の量に依存して、媒体の輸送が制御される。典型的には、標的分子の元の量の少なくとも0.01、0.1、0.5、1、2、3、4、5、10、20、30、40又は50%よりも多くが媒体中に依然として存在する場合に限ってのみ、輸送が行われる。そのような閾値が達成されないと、輸送手段が停止される及び/又は上記方法が停止される。代替として、上記閾値が達成されない場合、第1の反応区域又は任意の他の反応区域への流れのルーピングを生成することにより、上記工程のステップの継続が考えられる。そのようなルーピングは、本明細書において上述したデバイスのバルブ、代替のチューブ又はパイプ等を使用することにより達成される。
【0107】
本発明の具体的な実施の形態では、上述した方法のステップのいずれもが、個々に又は他のステップから分離して行われ得る。また、ステップの1つ又はそれよりも多くは、取りやめられ又は省略され得る及び/又はステップの順序は任意の適切な様式に入れ替えられ又は変更され得る。例えば、1つ又はそれよりも多い標的分子を含む媒体をデバイスの区域に導入し、反応区域内において上記標的分子と固定化された捕捉分子との相互作用を行い、及び相互作用していない又は結合していない標的分子を1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する区域に輸送した後、上記方法は停止されてもよい。代替として、含まれる輸送ステップが存在しなくてもよく、媒体が例えば温度の勾配中でその場で再活性化、例えば変性されてもよい。そのような方法は、本明細書において以下に定義される熱による溶出と組み合わせられ得る。
【0108】
本発明の更に好ましい実施の形態では、上記相互作用反応を行うステップ、上記相互作用していない又は結合していない標的分子を1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する区域に輸送するステップ及び1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域において標的分子を再活性化するステップ及び/又は再活性化された上記標的分子を上記反応区域に輸送するステップは、1ないし数回繰り返されてもよい。この繰り返しは、例えば、1000回、好ましくは100回まで行われる。上記ステップは、更に、特に一連の区域が用いられる場合、順番に、すなわち次々に行われてもよいし、並行して行われてもよい。上記ステップは、例えば再循環のやり方で連続的にも行われ得る。また、必要に応じて、両方の変形例が組み合わせられてもよい。
【0109】
更に具体的な実施の形態では、上記方法は、任意の適切な時間行われる。例えば、上記方法は、約0.5分から150時間まで、好ましくは約1分ないし72時間、より好ましくは約5分ないし20時間行われる。より一層好ましくは、上記方法は10分ないし2時間行われる。実行時間は、例えば、捕捉分子及び/又は標的分子の種類、構造、量、複雑さに依存して作られる。
【0110】
輸送、相互作用及び/又は再活性化ステップの終了後、相互作用した又は結合した標的分子は、当業者には既知の任意の適切な手順に従ってマイクロアレイから回収される。例えば、核酸のケースでは、結合したDNAの断片は、例えば国際特許出願公開WO2008/097887号公報、特にこの文献の実施例3ないし13に説明されているプロトコルに従ってマイクロアレイから溶出される。高温、例えば、90ないし99℃、例えば95℃の温度に基づく核酸の溶出が好ましい。対応するタンパク質又はリガンドの相互作用のケースでは、適切な回収又は溶出の手順が用いられる。そのような手順、例えば、高い塩濃度、95℃のような高温の使用、又はNaOHの使用は、当業者には既知であり、Lottspeich,F.,and Zorbas H.(1998) Bioanalytik, Spektrum Akademischer
Verlag, Heidelberg / Berlin, Germanyのようなテキストから得られる。従って、回収された分子は、その後、更に処理又は分析される。核酸のケースでは、上記分子は、PCRにより更に増幅される及び/又は配列決定手順のために直接的に用いられる。
【0111】
本発明の具体的な実施の形態では、高温に基づく溶出は、本明細書において上記に定義された区域内の温度を制御及び/又は調節するユニットを用いて行われる。例えば、反応区域中に存在する本明細書において上記に定義された区域内の温度を制御及び/又は調節するユニットは、増大した要素、例えば核酸の溶出を引き起こす約95℃の温度まで加熱される。そのようなステップは、典型的には、最初の標的とされていない分子、例えばゲノムDNAの一部が洗い流された後、行われる。これらの要素は、その後、任意の適切な手段によって、例えば、輸送手段を活用して、リザーバ、受け入れユニット、ボウル等を用いて回収される。そのような溶出は、他の区域における更なる相互作用ステップの実行中若しくはデバイス全体の実行中又は並行する測定反応の終了後に行われる。更なる実施の形態では、溶出した分子は、例えば、同じ捕捉分子又は異なる種類の捕捉分子若しくはマイクロアレイとの同じデバイス内における更なる相互作用のためにも用いられ得る。そのような手法は、1種類の標的分子中に存在する2つ又はそれよりも多い異なる特徴を選択するために用いられる。
【0112】
更なる観点では、本発明は、標的分子、特に本明細書において上述した標的分子を特異的に選択するための本発明のデバイスの使用に関係がある。そのような標的分子の例は、核酸、タンパク質、ペプチド、任意の形態及び形式のリガンド、抗体、抗原、有機構造体、無機構造体又は有機及び無機構造体の混合物のような小分子、例えば、糖鎖又は糖類、ポリマ、細胞若しくは細胞断片又は細胞のサブポーション、例えば細菌細胞若しくはその断片のようなエンティティ、真核細胞又はその断片、ウイルス粒子又はウイルス、又は、上記の任意の誘導体又は組み合わせである。核酸、より好ましくはDNA分子の、更により好ましくはゲノムDNA分子、例えばヒト又は哺乳類のゲノムDNA分子の選択のための本発明に係るデバイスの使用が、特に好ましい。これらのゲノムDNA分子は、捕捉分子中の相補エリアの存在に従って選択される。典型的には、ゲノム部分の一部、例えば、有機体のゲノム、好ましくは哺乳類のゲノム、より好ましくはヒトゲノムの少なくとも約0.00001、0.00005、0.0001、0.0005、0.001、0.005、0.01、0.02、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.1、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.2、0.3、0.4、0.5、0.75、0.8、0.9、1、1.5、2、3、4、5、10、15、20又は30%のようなゲノムの約0.00001%ないし約30%が、この手法によって選択される。そのようなエリア又は割合は、例えば、約2ないし5000の遺伝子グループ、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、50、100、150、200、350、500、750、1000、1200、1500、2000、2500、3000、4000、5000又は5000よりも多くの遺伝子のグループを有する。そのような遺伝子は、隣接するゲノムエリア又は領域に局在化されていてもよいし、代替としてゲノムの全体にわたって分散していてもよい。遺伝子のサブグループ化、組み合わせ、パターン、例えば発現データから得られるパターン等も考えられる。標的分子の前処理、調製、捕捉分子の調製、分子の溶出、後処理等は、当該分野において既知の適切な手順に沿って、例えば、マイクロアレイを用いるゲノミック選抜(MGS)の手順、国際特許出願公開WO2008/097887号公報に説明されている配列決定前の濃縮の手順、標的捕獲の手順に従って行われる。特に好ましい実施の形態では、本発明のデバイス又は方法が、例えば、マイクロアレイを用いるゲノム選抜、標的捕獲又は配列決定前の濃縮を行うターゲットエンリッチメントに用いられる。
【0113】
以下の実施例及び図面は、例示の目的のために与えられる。従って、実施例及び図面は限定するように解釈されるべきではないことが理解される。当業者は、明らかに本明細書で挙げられた原理の更なる変更を目論むことができるであろう。
【実施例】
【0114】
実施例1−アミノシランの表面により官能基化されたガラス基板上におけるスポットのアレイのオリゴヌクレオチド(ON)と捕捉ONとのハイブリダイゼーション
300μmのピッチを持つアレイ状にPBS中でオリゴヌクレオチド(ON)(19b)を印刷することによって約100マイクロメートルの径のスポットを作った。乾燥後、ONのポリA部を表面に存在するアミノ基に架橋するために紫外線放射により基板を照射し、続いて洗浄ステップを行った。レーザ切断感圧接着剤(PSA)層を用いて基板上にガラスのカバーを配した。PSAの形状は、蛇行状のチャネルが作られるように選択した。これらのデバイスは、3×6mmの領域の6つの個々に制御可能な区域及び集積温度センサを有するパターニングされたヒータデバイス上に配した。
【0115】
補足プローブの配列に対して相補的な配列を有し、蛍光標識(Atto700)を備えた異なる濃度の一本鎖(ss)及び二本鎖(ds)オリゴヌクレオチドの溶液を、6μl/分の速度で蛇行チャネルを通して送り出し、30分間流れの方向において以下の温度設定、すなわち、50/50/95/95/50/50℃で6つの加熱区域を持つデバイスを加熱した。このフローオーバーインキュベーションの終わりに、PBSの洗浄溶液を、室温で5分間上記チャネルを通して送り出した。乾燥後、デバイスを共焦点蛍光スキャナ上に置き、スポットの強度を読み取った。図7は、10nMの濃度のdsON溶液の場合について示された流れの方向での蛇行チャネル内の得られた強度の典型的な結果を示している。蛍光強度は、蛇行チャネルの入り口部において非常に低かったが、出口部では、すなわち、自由ssONが表面において相補的ON捕捉プローブにハイブリダイズするようにdsONが変性する95℃の区域を通った後、非常に高かった。
【0116】
図8は、中央部において95℃の代わりに50℃を用いた温度設定を除き、図7についてと同じ条件下での培養後に得られた蛍光パターンを示している。これらの条件の下では、結合の効率が高められず、蛍光強度が低いままであるので、変性が生じなかった。
【0117】
実施例2
アミノシランマイクロアレイのスライド上において、マイクロチャネル内の(6μl/分の)流れの条件の下でAtto700により標識され、0.1%SDSを加えたSSC3xバッファ中で30分間温度を制御されたPCR産物(114bp)とのハイブリダイゼーション試験を行った。ハイブリダイゼーション後、非特異的結合を低減するために0.2%SDSを伴うSSCバッファ中でマイクロチャネルを5時間洗浄した。共焦点スキャナによって捕捉スポット及び参照スポット上の蛍光強度を測定し、捕捉スポットからのシグナルをバックグラウンド除去して、参照スポットの強度に標準化した。
【0118】
図13は、ハイブリダイゼーションチャネル内の流れの条件下におけるまとめられた変性により得られたハイブリダイゼーションの効率の向上を示している。
(A)この実験の設定では、試料は、50℃に保持されて入り口からハイブリダイゼーションステップまで100μmのチャネル内を流れ、90℃の変性区域中を流れた後、試料は第2のハイブリダイゼーション区域に導入され、ここで、高効率で50℃においてハイブリダイゼーションが生じ、最後に出口を通って出る。
(B)グラフは、(A)の捕捉スポットの上部の行のことを指しており、蛍光シグナルは、まとめられた変性が生じてハイブリダイゼーションが生じると、100倍増えている。
(C)ハイブリダイゼーションチャネルデバイス内でまとめられた変性により得られたハイブリダイゼーションの効率の向上は、90℃で10分の外部における変性ステップの後、デバイスに注入される試料により生成されたハイブリダイゼーションシグナルと比較して150%蛍光シグナル強度を増加させている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1つ又はそれよりも多い種類の捕捉分子が固定化された基板を有するマイクロアレイを有する少なくとも1つの反応区域であって、反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを更に有する当該反応区域と、
(b)非反応区域内の温度を制御及び/又は調節する1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する少なくとも1つの非反応区域であって、前記反応区域と流体接続している当該非反応区域と、
(c)前記反応区域と1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する前記非反応区域との間の流体の流れを発生させる及び/又は調節することができる少なくとも1つの輸送手段と
を有する、標的分子の特異的選択のためのデバイス。
【請求項2】
前記非反応区域内の温度を制御及び/又は調節する前記温度制御及び/又は調節ユニットが、前記非反応区域内に組み込まれた、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
前記反応区域、前記非反応区域及び前記輸送手段が、閉ループで設けられた、請求項1又は2記載のデバイス。
【請求項4】
前記閉ループが、前記反応区域と前記非反応区域との間の流体の連続的なやり取りを可能にする、請求項3記載のデバイス。
【請求項5】
混合手段を追加として有し、好ましくは前記反応区域と前記非反応区域との間の流体接続の領域内に有する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
蛇行流路を有する、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記反応区域が、前記捕捉分子との核酸のハイブリダイゼーションを可能にすることができるハイブリダイジング区域である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
温度制御及び/又は調節ユニットを有する前記非反応区域が、核酸の変性を仲介することができる変性区域である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記固定化された捕捉分子が、スポット、細長いスポット及び/又はラインの形態で前記マイクロアレイに設けられた、請求項1ないし8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ラインが、流路に対して約20°から90°の間の角度で配された、請求項9記載のデバイス。
【請求項11】
前記ラインが、約300nmから30μmの間の幅を有する及び/又は約500nmないし100μmのライン間の距離に配された、請求項9又は10記載のデバイス。
【請求項12】
前記捕捉分子が、核酸、ペプチド、タンパク質、抗原、抗体、糖鎖及び/又はその類似体を有する群から選択された分子である、請求項1ないし11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
標的分子を特異的に選択する方法であって、
(a)請求項1ないし12のいずれか一項に記載のデバイスの区域に1つ又はそれよりも多い標的分子を含む媒体を導入するステップと、
(b)反応区域において前記標的分子と固定化された捕捉分子との相互作用反応を行うステップと、
(c)相互作用していない又は結合していない標的分子を1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する非反応区域に輸送するステップと、
(d)1つ又はそれよりも多い温度制御及び/又は調節ユニットを有する前記非反応区域において前記標的分子を再活性化するステップと、
(e)再活性化された標的分子を前記反応区域に輸送するステップであって、従って、ステップ(b)に従う前記標的分子と固定化された捕捉分子との更なる相互作用を可能にする当該ステップと
を有する、当該方法。
【請求項14】
ステップ(b)ないし(e)が、少なくとも2回繰り返される請求項13記載の方法。
【請求項15】
標的分子を特異的に選択するための請求項1ないし12のいずれか一項に記載のデバイスの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【公表番号】特表2013−503605(P2013−503605A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526172(P2012−526172)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053839
【国際公開番号】WO2011/027268
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】