説明

マイクロカプセル剤

【課題】イミダクロプリドを高濃度で内包するマイクロカプセル製剤、その製造方法及びそれを用いる有害生物防除剤を提供することを目的とする。
【解決手段】イミダクロプリドを水非混和性有機溶剤に懸濁させたスラリーを湿式粉砕した後に、ウレタン系高分子重合体を添加し、これを水中に液滴として分散し、界面重合法によってマイクロカプセル化することにより、マイクロカプセル内にイミダクロプリドを高濃度で内包させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜中にイミダクロプリドを有効成分として内包したマイクロカプセル剤、その製造方法及びそれを用いる有害生物防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シロアリ等の木材害虫、ゴキブリ等の家屋内害虫、ヨトウムシ等の農園芸害虫等の害虫による食害を防ぐため、種々の殺虫組成物が提案されてきた。これらの害虫を防除するための殺虫組成物の有効成分としては、当初、有機塩素系殺虫剤がよく使用されていたが、毒性が高いことや残留毒性が問題となり、より安全性の高い有機リン系、カーバメート系殺虫剤が開発された。その後、温血動物に対する毒性がさらに低いピレスロイド系の殺虫剤や昆虫成長制御剤が開発され広く普及している。
一方、近年、ネオニコチノイド(クロロニコチニル)系という新たな殺虫剤が次々と開発されている。既に欧米では有機リン系やカーバメート系殺虫剤の毒性再評価に伴う適用制限を受け、これらに替わって市場に浸透している。イミダクロプリド(非特許文献1)は代表的なネオニコチノイド系殺虫剤であり、アブラムシ類、コナジラミ類、ウンカ・ヨコバイ類等の半翅目昆虫、コガネムシ類やハムシ類の鞘翅目昆虫防除用の殺虫剤として、世界各国で高く評価されている。日本でも、上記害虫と対象とした農薬、シロアリを対象とした防蟻剤等として広く使用されている。
【0003】
これらの有効成分を含む殺虫剤組成物としては、従来から、油剤、乳剤、懸濁剤、エマルジョン剤、粉剤、粒剤、水和剤等が使用されてきた。しかしながら、これら従来の剤型で散布を行うと、雨により流脱したり水系環境を汚染するという欠点があった。このような問題を解決するためのひとつの方法として、殺虫剤の有効成分をマイクロカプセルで被覆する方法がある。マイクロカプセル化することによって有効成分がカプセル内に封入されるため、紫外線や水分による分解が起こりにくくなり、環境中に流脱することを防ぐことができる。また害虫がマイクロカプセルと接触してカプセルが破壊されることにより有効成分が作用するため、有効成分が効率的に作用するという利点もある。有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤をマイクロカプセル化した殺虫組成物に関しては特許文献1、特許文献2などに記載されている。
【0004】
一方、ネオニコチノイド系殺虫剤はその溶解性の問題から、従来の界面重合法ではうまくマイクロカプセル内に封入できないという問題がある。この問題を解決するために特許文献3、特許文献4では、有効成分を水非混和性有機溶剤に懸濁させたスラリーを湿式粉砕した後、マイクロカプセル被膜を形成することによりカプセル内に封入する方法に関して記載されている。しかしながら、イミダクロプリドをこれらの方法でマイクロカプセル化しようとしても、マイクロカプセル内に高濃度で封入することが困難であった。
【0005】
【特許文献1】特許1088653号公報
【特許文献2】特許1960603号公報
【特許文献3】特開2000−247821号公報
【特許文献4】特開2005−170956号公報
【非特許文献1】続医薬品の開発 第18巻 農薬の開発III 廣川書店 P.629−648
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イミダクロプリドを高濃度で封入するマイクロカプセル剤、その製造方法及びそれを用いる有害生物防除剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究した結果、イミダクロプリドを水非混和性有機溶剤に懸濁させたスラリーを湿式粉砕した後に、ウレタン系高分子重合体を添加することにより前記の問題、すなわちマイクロカプセル外に高濃度のイミダクロプリドが存在するという問題が改良されることを見いだし、本発明を完成した。すなわち本発明は、イミダクロプリドを高濃度で内包したマイクロカプセル剤、その製造方法及びそれを用いる有害生物防除剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のイミダクロプリドマイクロカプセル剤を用いることにより、種々の有害生物を効果的かつ長期間防除できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いられる水非混和性有機溶剤は特に限定されないが、通常はイミダクロプリドをあまり溶解しないものを使用する。これらの溶剤として、ジメチルナフタレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、フタル酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジノニル、アジピン酸ジデシル等のエステル類、灯油、煙霧灯油等の石油系溶剤、椰子油、菜種油、綿実油、ヒマシ油、大豆油、コーン油等の植物油が挙げられる。これらの溶剤は一種を単独に用いても二種以上を併用してもよい。
【0010】
イミダクロプリドをこれらの水非混和性有機溶剤中で湿式粉砕するために使用する粉砕機は、通常フロアブル剤を製造する際に使用するものを用いることができる。具体的には、ビーズミル、サンドミル、アトライター等の媒体を用いる粉砕機、ホモミキサー、ディスパーザー等が挙げられる。
【0011】
湿式粉砕中にスラリーが増粘する場合には分散剤を添加してもよい。そのような分散剤としては、塗料用の顔料湿潤分散剤が使用できる。具体的には、ポリカルボン酸系分散剤、アクリル共重合体系分散剤、高級脂肪酸エステル系分散剤、イミダゾリン系分散剤等が挙げられる。これらの分散剤は一種を単独に用いても二種以上を併用してもよい。
【0012】
湿式粉砕して得たイミダクロプリドのスラリーにウレタン系高分子重合体を添加することにより、続く被膜形成反応によってイミダクロプリドを高濃度で内包したマイクロカプセルを得ることができる。ウレタン系高分子重合体としては、分子量1000〜100000のものが好ましく具体的には、Disperbyk−163(変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量50000、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、Disperbyk−164(変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量10000〜50000、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0013】
本発明のイミダクロプリドを有効成分として内包するマイクロカプセル剤は、従来提案されている界面重合法に準じて製造することができる。これらの方法を用いることによって被膜物質の量、膜厚、平均粒子径を制御することができる。本発明のマイクロカプセルの被膜物質としては、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられるが、ポリウレア、ポリウレタンが好ましい。
【0014】
このようにして得られるマイクロカプセルのスラリーはそのまま有害生物防除剤として使用することもできるが、製剤の安定化のために増粘剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、キレート剤、防錆剤、消泡剤、pH調節剤等を添加しても良い。また、有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、他のネオニコチノイド系殺虫剤、昆虫成長制御剤、殺ダニ剤、防カビ剤、殺菌剤等と混合して用いることもできる。
【0015】
マイクロカプセルの平均粒子径の測定には、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000(島津製作所製)等を用いて行うことができる。本発明組成物のマイクロカプセルの平均粒子径は5μm以上100μm以下であり、好ましくは10μm以上50μm以下である。マイクロカプセルの平均粒子径が5μmより小さいと、昆虫が接触したときに破壊されにくくなるため十分な効力が発揮されない。平均粒子径が100μmを超える場合には安定なマイクロカプセルを調製することが困難になり、またマイクロカプセル組成物の希釈や撹拌の操作によってマイクロカプセルが破壊されやすくなりマイクロカプセルとしての効力の持続性を発揮できない恐れがある。
【0016】
本発明組成物は、木材害虫、屋内害虫、農園芸害虫等、多くの害虫の防除に有効であり、特に残効性を要求される分野への使用が好ましい。本発明組成物が有効な害虫としては、イエシロアリ、ヤマトシロアリ、アメリカカンザイシロアリ等の等翅目昆虫、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ等の網翅目昆虫、ヒラタキクイムシ、タバコシバンムシ、カツオブシムシ類、コガネムシ類等の鞘翅目昆虫、ヨトウムシ、アオムシ、ハスモンヨトウ、オオタバコガ等の鱗翅目昆虫、クロオオアリ、アミメアリ、カブラハバチ等の膜翅目昆虫、コバネイナゴ、コオロギ類等の直翅目昆虫、半翅目昆虫、双翅目昆虫、その他の昆虫やダンゴムシ、ワラジムシ等の昆虫以外の節足動物等が挙げられ、特に匍匐性害虫の防除に適している。
(実施例)
【0017】
次に本発明の実施例及び比較例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に示した配合比率はすべて重量%である。
【実施例1】
【0018】
ビニサイザー40(アジピン酸ジイソブチル、花王株式会社製)250g、ソフトアルキルベンゼン(三菱化学株式会社製)50gを均一に混合して得た溶液に、イミダクロプリド80gを加え、ガラスビーズにて30分間湿式粉砕した。このスラリーにDisperbyk−164(前述)5gを添加し均一に混合した。得られたスラリー96gにスミジュールL−75(芳香族変性ポリイソシアネート、住化バイエルウレタン株式会社製)4gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05(ポリビニルアルコール、日本合成化学工業株式会社製)3gをイオン交換水97gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて回転数3500rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン0.5g、イオン交換水10gを均一に混合したものを添加した。その後、60℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら10時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにイミダクロプリド濃度が8%となるようにケルザンS(キサンタンガム、三晶株式会社製)の0.2%液を加え、実施例1とした。平均粒子径を測定した結果、25μmであった。
【実施例2】
【0019】
ビニサイザー40(前述)150g、ソフトアルキルベンゼン150g、ホモゲノールL95(イミダゾリン系界面活性剤、花王株式会社製)1gを均一に混合して得た溶液に、イミダクロプリド120gを加え、ガラスビーズにて30分間湿式粉砕した。このスラリーにDisperbyk−164(前述)5gを添加し均一に混合した。得られたスラリー96gにスミジュールL−75(前述)4gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05(前述)3gをイオン交換水97gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数3500rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン0.5g、イオン交換水10gを均一に混合したものを添加した。その後、60℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら10時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにイミダクロプリド濃度が10%となるようにケルザンS(前述)の0.2%液を加え、実施例2とした。平均粒子径を測定した結果、25μmであった。
【0020】
(比較例1)
ビニサイザー40(前述)250g、ソフトアルキルベンゼン50g、ホモゲノールL95(前述)1gを均一に混合して得た溶液に、イミダクロプリド120gを加え、ガラスビーズにて30分間湿式粉砕した。このスラリー96gにスミジュールL−75(前述)4gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05(前述)3gをイオン交換水97gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数3500rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン0.5g、イオン交換水10gを均一に混合したものを添加した。その後、60℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら10時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにイミダクロプリド濃度が10%となるようにケルザンS(前述)の0.2%液を加え、比較例1とした。平均粒子径を測定した結果、25μmであった。
【0021】
(比較例2)
ビニサイザー40(前述)150g、ソフトアルキルベンゼン150g、ホモゲノールL95(前述)1gを均一に混合して得た溶液に、イミダクロプリド120gを加え、ガラスビーズにて30分間湿式粉砕した。このスラリーにDisperbyk−109(1−ヒドロキシエチル−2−アルケニルイミダゾリン、ビックケミー・ジャパン株式会社製)5gを添加し均一に混合した。得られたスラリー96gにスミジュールL−75(前述)4gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05(前述)3gをイオン交換水97gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数3500rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン0.5g、イオン交換水10gを均一に混合したものを添加した。その後、60℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら10時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにイミダクロプリド濃度が10%となるようにケルザンS(前述)の0.2%液を加え、比較例2とした。平均粒子径を測定した結果、25μmであった。
【0022】
(比較例3)
ビニサイザー40(前述)150g、ソフトアルキルベンゼン150g、ホモゲノールL95(前述)1gを均一に混合して得た溶液に、イミダクロプリド120gを加え、ガラスビーズにて30分間湿式粉砕した。このスラリーにフローレンG−700(カルボン酸含有変性高分子共重合体、共栄社化学株式会社製)5gを添加し均一に混合した。得られたスラリー96gにスミジュールL−75(前述)4gを添加し均一に混合したものを油相とした。ゴーセノールGL−05(前述)3gをイオン交換水97gに溶解したものを水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数3500rpmで分散しながら油相溶液を添加した。得られた分散液を回転数500rpmで撹拌しながら、エチレンジアミン0.5g、イオン交換水10gを均一に混合したものを添加した。その後、60℃の湯浴に移し回転数500rpmで撹拌しながら10時間反応させ、マイクロカプセル分散液を得た。これにイミダクロプリド濃度が10%となるようにケルザンS(前述)の0.2%液を加え、比較例3とした。平均粒子径を測定した結果、25μmであった。
【0023】
(試験例1) イミダクロプリド膜外濃度測定
実施例1、2及び比較例1〜3の各製剤それぞれ5gにイオン交換水を加えて100mlとした。24時間静置した後にこれらの希釈液をメンブランフィルター(細孔径0.45μm)で濾過し、その濾液を高速液体クロマトグラフィーにて分析しイミダクロプリドの定量を行った。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

本発明組成物である実施例1、2は、比較例1〜3と比べ膜外に存在するイミダクロプリドの濃度が大幅に低く、高濃度でマイクロカプセル内に封入されていることが示唆された。
【0025】
(試験例2) シロアリに対する効力
直径9cmのプラスチックシャーレに砂を32g敷き詰めた。実施例1、2及びイミダクロプリドのフロアブル製剤をイオン交換水で表1に示す希釈倍率に希釈して、砂の上から8ml処理した。処理直後、イエシロアリ職蟻20頭を放ち、それぞれ放飼24時間後に生死を調査し、死虫率を算出した。なお、実験は3反復で行った。その結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

実施例1および2で得られた組成物は、イエシロアリに対しイミダクロプリドフロアブル製剤と同様の高い殺虫活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によるイミダクロプリドのマイクロカプセル製剤は、シロアリを含め多くの有害生物に対し高い防除効果と残効性を示し、有害生物防除剤に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダクロプリドを水非混和性有機溶剤に懸濁させたスラリーを、湿式粉砕した後、ウレタン系高分子重合体を添加し、これを水中に液滴として分散して、液滴の界面に膜を形成させることを特徴とするマイクロカプセル剤の製造方法。
【請求項2】
ウレタン系高分子重合体が、分子量1000〜100000であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセル剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2で製造されたマイクロカプセル剤を含有することを特徴とする有害生物防除剤。
【請求項4】
有害生物がシロアリであることを特徴とする、請求項3に記載の有害生物防除剤。





























【公開番号】特開2007−320914(P2007−320914A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153745(P2006−153745)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【出願人】(000232564)バイエルクロップサイエンス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】