説明

マイクロストリップ線路付き基板、コプレーナ線路付き基板、及び、差動マイクロストリップ線路付き基板

【課題】簡単な構成にて、誘電損失が低減されるマイクロストリップ線路付き基板を提供する。
【解決手段】マイクロストリップ線路付き基板(100)は、誘電体からなる基板(102)と、基板(102)の一方の表面に設けられた信号線(104)と、基板(102)の他方の表面に設けられた接地電極(106)と、基板(102)に設けられ、信号線(104)と接地電極(106)との間で生じる電界が通過する空間を規定する溝(108)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロストリップ線路付き基板、コプレーナ線路付き基板、及び、差動マイクロストリップ線路付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられる回路基板には、マイクロストリップ線路、コプレーナ線路、又は、差動マイクロストリップ線路が設けられている。
マイクロストリップ線路、コプレーナ線路、及び、差動マイクロストリップ線路は、電気信号の伝送経路として用いられるが、電気信号の高周波化に伴い、誘電損失に基づく伝送損失が問題になっている。
【0003】
そこで、特許文献1が開示するマイクロストリップ線路では、信号線及び接地電極としての2つの導体薄膜が空気を介して対向させられている。このマイクロストリップ線路によれば、空気の比誘電率が基板よりも低いため、誘電損失が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−64101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示するマイクロストリップ線路は、2つの導体薄膜が別々の基板に設けられ、これら基板が支持体によって支持されており、構成が複雑である。
また、特許文献1が開示する技術は、信号線と接地線が基板の同一面に設けられるコプレーナ線路に適用することは困難である。
一方、差動マイクロストリップ線路においては、信号線同士が基板の同一面にて隣接しており、信号線同士の間に電界が集中し、信号線間に位置する基板の存在により誘電損失が発生する。このため、特許文献1が開示する技術によって、差動マイクロストリップ線路の誘電損失を充分に低減するのは困難である。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされ、その目的の一つは、簡単な構成にて、誘電損失が低減されるマイクロストリップ線路付き基板を提供することである。
また、本発明の目的の一つは、簡単な構成にて、誘電損失が低減されるコプレーナ線路付き基板を提供することである。
更に、本発明の目的の一つは、簡単な構成にて、誘電損失が低減される差動マイクロストリップ線路付き基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様によれば、誘電体からなる基板と、前記基板の一方の表面に設けられた信号線と、前記基板の他方の表面に設けられた接地電極と、前記基板に設けられ、前記信号線と前記接地電極との間で生じる電界が通過する空間を規定する溝とを備えるマイクロストリップ線路付き基板が提供される。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、誘電体からなる基板と、前記基板の一方の表面に設けられた信号線と、前記信号線の両側に設けられた接地線と、前記基板に設けられ、前記信号線と前記接地線との間で生じる電界が通過する空間を規定する溝とを備えるコプレーナ線路付き基板が提供される。
【0009】
更に、本発明の一態様によれば、誘電体からなる基板と、前記基板の一方の表面に設けられた第1の信号線と、前記第1の信号線に沿って設けられた第2の信号線と、前記基板の他方の表面に設けられた接地電極と、前記基板に設けられ、前記第1の信号線と前記第2の信号線との間で生じる電界が通過する空間を規定する溝とを備える差動マイクロストリップ線路付き基板が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構成にて、誘電損失が低減されるマイクロストリップ線路付き基板が提供される。
また、本発明によれば、簡単な構成にて、誘電損失が低減されるコプレーナ線路付き基板が提供される。
更に、本発明によれば、簡単な構成にて、誘電損失が低減される差動マイクロストリップ線路付き基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態のマイクロストリップ線路付き基板を概略的に示す断面図である。
【図2】第2実施形態のマイクロストリップ線路付き基板を概略的に示す断面図である。
【図3】変形例のマイクロストリップ線路付き基板を概略的に示す断面図である。
【図4】(a)は、図2のマイクロストリップ線路付き基板の製造方法において、基板に溝を形成する工程を説明するための図であり、(b)は、溝を形成した基板に他の基板を接着する工程を説明するための図である。
【図5】第3実施形態のコプレーナ線路付き基板を概略的に示す断面図である。
【図6】(a)は、第4実施形態のコプレーナ線路付き基板を概略的に示す断面図であり、(b)は、変形例のコプレーナ線路付き基板を概略的に示す断面図である。
【図7】第5実施形態の差動マイクロストリップ線路付き基板を概略的に示す断面図である。
【図8】(a)は、第6実施形態の差動マイクロストリップ線路付き基板を概略的に示す断面図であり、(b)は、変形例の差動マイクロストリップ線路付き基板を概略的に示す断面図である。
【図9】第7実施形態の差動マイクロストリップ線路付き基板を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る、マイクロストリップ線路付き基板100(以下、単に線路付き基板100ともいう)の概略的な断面図である。
線路付き基板100は、例えばガラスエポキシ樹脂等の誘電体からなる基板102を有する。基板102には、図示しないけれども、LSI(大規模集積回路)等の電気素子やコネクタ等が実装される。
【0013】
基板102の一方の面には、電気素子同士又は電気素子とコネクタを電気的に接続するために、所定パターンにて、信号線104が形成されている。信号線104は、例えば、銅等の導体薄膜からなり、エッチングによって成形される。
基板102の他方の面には、接地電極106が設けられている。接地電極106は、例えば、基板102の全面にわたって設けられた、銅等の導体薄膜からなる。
【0014】
そして、基板102には、2本の溝108が形成されている。これらの溝108は、信号線104の両側に沿って延び、信号線104の近傍にて開口している。溝108は、例えば、エンドミル又はドリルによって基板102を切削することによって形成される。
【0015】
上述した第1実施形態のマイクロストリップ線路付き基板100によれば、信号線104から接地電極106に向かう電界が、溝108,108を通過する。換言すれば、溝108,108は、電界が通過する基板102の領域に空間を形成している。
溝108,108には空気が存在し、空気の比誘電率は基板102よりも低い。このため、信号が信号線104を伝搬するときに、誘電損失が抑制され、この結果として伝送損失が抑制される。
【0016】
〔第2実施形態〕
図2は、第2実施形態に係る、マイクロストリップ線路付き基板120(以下、単に線路付き基板120ともいう)の概略的な断面図である。なお、前出の実施形態と同一の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。以下、第3実施形態乃至第7実施形態の説明についても同様である。
【0017】
線路付き基板120においては、好ましい態様として、溝122が基板102を貫通している。
また、線路付き基板120においては、好ましい態様として、溝122によって、信号線104の直下の基板102の部分も削られている。従って、溝122の幅方向にて、溝122の端が、信号線104の端を超えて、信号線104の下に位置している。そして、基板102の他方の面に、銅などの導体薄膜からなる接地電極124、及び、例えばガラスエポキシ樹脂等の誘電体からなる基板126が設けられている。
【0018】
図3は、変形例のマイクロストリップ線路付き基板140(以下、単に線路付き基板140ともいう)の概略的な断面図である。線路付き基板140の溝142は、基板102の他方の面においては開口しているが、基板102の一方の面においては開口していない。基板102の一方の面側に位置する溝142の底壁144は、信号線104の近傍に位置しており、可及的に薄い厚さを有することが好ましい。
【0019】
第2実施形態の線路付き基板120は、例えば、以下の製造方法により作製される。まず、図4(a)に示したように、基板102の他方の面から一方の面に向けて、エンドミル等の切削工具Tを用いて溝122を形成する。この後、図4(b)に示したように、基板102の他方の面に、一方の面に接地電極124が設けられた基板126を接着することにより、線路付き基板120が作製される。
また線路付き基板140は、溝142を貫通させずに底壁144を残す以外は、線路付き基板120と同様の製造方法を用いて製造することができる。
【0020】
上述した第2実施形態のマイクロストリップ線路付き基板120及び変形例のマイクロストリップ線路付き基板140によれば、第1実施形態のマイクロストリップ線路付き基板100に比べて、溝122,142が信号線104の下まで広がっていることにより、信号線104から接地電極124に向かう電界のうち、空気を通過する電界の割合がより高くなる。
【0021】
また、溝122,142が接地電極124まで達していることにより、接地電極124に向かう電界のうち、空気を通過する電界の割合がより高くなる。これらの結果、信号が信号線104を伝搬するときに、誘電損失がより一層抑制され、この結果として伝送損失がより一層抑制される。
【0022】
〔第3実施形態〕
図5は、第3実施形態に係る、コプレーナ線路付き基板200(以下、単に線路付き基板200ともいう)の概略的な断面図である。
線路付き基板200では、基板102の一方の面に、信号線201の両側に銅等の導体薄膜からなる2本の接地線202が更に設けられている。接地線202は、所定の間隔を存して、信号線201と平行に延びている。そして、溝108は、信号線201と接地線202との間にて開口している。
【0023】
上述した第3実施形態のコプレーナ線路付き基板200によれば、信号線201から接地線202及び接地電極106に向かう電界が、溝108,108を通過する。特に、電界は、信号線201と接地線202の間に集中するが、この集中する電界が溝108,108を通過する。換言すれば、溝108,108は、電界が通過する基板102の領域に空間を形成している。
ここで、溝108,108には空気が存在し、空気の比誘電率は基板102よりも低い。このため、信号が信号線201を伝搬するときに、誘電損失が効果的に抑制され、この結果として伝送損失が抑制される。
【0024】
〔第4実施形態〕
図6(a)は、第4実施形態に係る、コプレーナ線路付き基板220(以下、単に線路付き基板220ともいう)の概略的な断面図である。
線路付き基板220では、好ましい態様として、溝122が基板102を貫通している。
また、線路付き基板220においては、好ましい態様として、溝122によって、信号線201及び接地線202の直下の基板102の部分も削られている。従って、溝122の幅方向にて、溝122の端が、信号線201の端及び接地線202の端を超えて、信号線201及び接地線202の下に位置している。そして、基板102の他方の面に、銅などの導体薄膜からなる接地電極124、及び、例えばガラスエポキシ樹脂等の誘電体からなる基板126が設けられている。
【0025】
線路付き基板220は、第2実施形態の線路付き基板120と同様の製造方法を用いて製造することができる。
【0026】
図6(b)は、変形例に係る、コプレーナ線路付き基板240(以下、単に線路付き基板240ともいう)の概略的な断面図である。線路付き基板240の溝142は、基板102の他方の面においては開口しているが、基板102の一方の面においては開口していない。基板102の一方の面側に位置する溝142の底壁144は、信号線201と接地線202の間に位置しており、可及的に薄い厚さを有することが好ましい。
線路付き基板240は、溝142を貫通させずに底壁144を残す以外は、第2実施形態の線路付き基板120と同様の製造方法を用いて製造することができる。
【0027】
上述した第4実施形態のコプレーナ線路付き基板220及び変形例のコプレーナ線路付き基板240によれば、第3実施形態のコプレーナ線路付き基板200に比べて、溝122,142が信号線201及び接地線202の下まで広がっていることにより、信号線201から接地線202に向かう電界のうち、空気を通過する電界の割合がより高くなる。
【0028】
また、溝122,142が接地電極124まで達していることにより、接地電極124に向かう電界のうち、空気を通過する電界の割合がより高くなる。これらの結果、信号が信号線201を伝搬するときに、誘電損失がより一層抑制され、この結果として伝送損失がより一層抑制される。
〔第5実施形態〕
図7は、第5実施形態に係る、差動マイクロストリップ線路付き基板300(以下、単に線路付き基板300ともいう)の概略的な断面図である。
線路付き基板300では、基板102の一方の面に、信号線(第1の信号線)301とともに、銅等の導体薄膜からなる信号線(第2の信号線)302が設けられている。信号線302は、信号線301と電磁的に結合するように所定の間隔を存して、信号線301と平行に延びている。そして、溝108は、信号線301と信号線302との間にて開口している。
【0029】
上述した第5実施形態の差動マイクロストリップ線路付き基板300によれば、信号線301から信号線302及び接地電極106に向かう電界が、溝108を通過する。特に、電界は、信号線301と信号線302の間に集中するが、この集中する電界が溝108を通過する。換言すれば、溝108,108は、電界が通過する基板102の領域に空間を形成している。
ここで、溝108には空気が存在し、空気の比誘電率は基板102よりも低い。このため、差動信号が信号線301及び信号線302を伝搬するときに、誘電損失が効果的に抑制され、この結果として伝送損失が抑制される。
【0030】
〔第6実施形態〕
図8(a)は、第6実施形態に係る、差動マイクロストリップ線路付き基板320(以下、単に線路付き基板320ともいう)の概略的な断面図である。
線路付き基板320では、好ましい態様として、溝122が基板102を貫通している。
また、線路付き基板320においては、好ましい態様として、溝122によって、信号線301及び信号線302の直下の基板102の部分も削られている。従って、溝122の幅方向にて、溝122の端が、信号線301の端及び信号線302の端を超えて、信号線301及び信号線302の下に位置している。そして、基板102の他方の面に、銅などの導体薄膜からなる接地電極124、及び、例えばガラスエポキシ樹脂等の誘電体からなる基板126が設けられている。
【0031】
線路付き基板320は、第2実施形態の線路付き基板120と同様の製造方法を用いて製造することができる。
【0032】
図8(b)は、変形例の差動マイクロストリップ線路付き基板330(以下、単に線路付き基板330ともいう)の概略的な断面図である。線路付き基板330の溝142は、基板102の他方の面においては開口しているが、基板102の一方の面においては開口していない。基板102の一方の面側に位置する溝142の底壁144は、信号線301と信号線302の間に位置しており、可及的に薄い厚さを有することが好ましい。
線路付き基板330は、溝142を貫通させずに底壁144を残す以外は、第2実施形態の線路付き基板120と同様の製造方法を用いて製造することができる。
【0033】
上述した第6実施形態の差動マイクロストリップ線路付き基板320及び差動マイクロストリップ線路付き基板330によれば、第5実施形態の差動マイクロストリップ線路付き基板300に比べて、溝122,142が信号線301及び信号線302の下まで広がっていることにより、信号線301から信号線302に向かう電界のうち、空気を通過する電界の割合がより高くなる。
【0034】
また、溝122,142が接地電極124まで達していることにより、接地電極124に向かう電界のうち、空気を通過する電界の割合がより高くなる。これらの結果、差動信号が信号線301及び信号線302を伝搬するときに、誘電損失がより一層抑制され、この結果として伝送損失がより一層抑制される。
【0035】
〔第7実施形態〕
図9は、第7実施形態に係る、差動マイクロストリップ線路付き基板340(以下、単に線路付き基板340ともいう)の概略的な断面図である。
線路付き基板340では、信号線301及び信号線302の両側に溝108,108が設けられており、第5実施形態の差動マイクロストリップ線路付き基板300に比べて、更に誘電損失が抑制され、伝送損失が抑制される。
【0036】
最後に、本発明は、上述した第1乃至第7実施形態に限定されることはなく、これら実施形態に種々の変更を加えた形態も含む。
【符号の説明】
【0037】
100,120 マイクロストリップ線路付き基板
102,126 基板
104,201 信号線
106,124 接地電極
108,122 溝
202 接地線
301 信号線(第1の信号線)
302 信号線(第2の信号線)
200,220 コプレーナ線路付き基板
300,320,330,340 差動マイクロストリップ線路付き基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体からなる基板と、
前記基板の一方の表面に設けられた信号線と、
前記基板の他方の表面に設けられた接地電極と、
前記基板に設けられ、前記信号線と前記接地電極との間で生じる電界が通過する空間を規定する溝と
を備えるマイクロストリップ線路付き基板。
【請求項2】
前記溝は前記基板の一方の面から他方の面まで延びている、
請求項1に記載のマイクロストリップ線路付き基板。
【請求項3】
前記溝は前記基板の他方の面から一方の面に向けて掘られた、
請求項1又は2に記載のマイクロストリップ線路付き基板。
【請求項4】
誘電体からなる基板と、
前記基板の一方の表面に設けられた信号線と、
前記信号線の両側に設けられた接地線と、
前記基板に設けられ、前記信号線と前記接地線との間で生じる電界が通過する空間を規定する溝と
を備えるコプレーナ線路付き基板。
【請求項5】
前記基板は、他方の表面に接地電極を更に有し、
前記溝は、前記基板の一方の面から他方の面まで延びている、
請求項4に記載のコプレーナ線路付き基板。
【請求項6】
前記溝は前記基板の他方の面から一方の面に向けて掘られた、
請求項4又は5に記載のコプレーナ線路付き基板。
【請求項7】
誘電体からなる基板と、
前記基板の一方の表面に設けられた第1の信号線と、
前記第1の信号線に沿って設けられた第2の信号線と、
前記基板の他方の表面に設けられた接地電極と、
前記基板に設けられ、前記第1の信号線と前記第2の信号線との間で生じる電界が通過する空間を規定する溝と
を備える差動マイクロストリップ線路付き基板。
【請求項8】
前記溝は、前記基板の一方の面から他方の面まで延びている、
請求項7に記載の差動マイクロストリップ線路付き基板。
【請求項9】
前記溝は前記基板の他方の面から一方の面に向けて掘られた、
請求項7又は8に記載の差動マイクロストリップ線路付き基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−138751(P2012−138751A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289559(P2010−289559)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】