説明

マイクロチップ、マスターチップ

【課題】複数の液体導入口より導入された濃度の異なる溶液を複数の分岐点と合流点を有する微小流路網において分配と混合を繰り返して溶液の濃度を多段階に調整するマイクロチップに関して、送液の一時停止時や、送液の液流の速度が非常に遅い場合でも、所望の濃度プロファイルを安定に維持できる技術の開発。
【解決手段】液体混合用の主流路24(混合部)同士を、この主流路24よりも流路断面積が小さい接続流路25によって接続したマイクロチップ1、このマイクロチップ1の樹脂成形用のマスターチップを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料の分析等に用いられるマイクロチップに係り、特に、複数の液体導入口より導入された濃度の異なる溶液を複数の分岐点と合流点を有する微小流路網において分配と混合を繰り返して溶液の濃度を多段階に調整するマイクロチップ、該マイクロチップの作成用のマスターチップに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞アッセイを行うためのマイクロチップは、従来のマイクロウエルプレートと比べて高い集積度を実現できる分析方法として期待されている。発明者らが公開している非特許文献1やアメリカのグループの公開している非特許文献2では複数の薬剤の細胞毒性を一度に試験することのできるマイクロチップが記載されている。
一方、一般的に細胞毒性試験を行うにあたっては、非特許文献3に記載されているように広範な濃度範囲での試験を行う必要がある。しかしながら、マイクロチップで取り扱う液体は数ナノリットルのオーダーであり、このような微量の液体を正確に秤量して希釈するのは非常に困難である。
このような問題を解決するために、分岐と合流を繰り返す微小流路網を用いて、濃度の異なる複数の液体の流れを作り出す方法が知られている(例えば、非特許文献4)。
また、この原理に基づき、流路網のデザインを工夫することにより、複雑な様々な濃度プロファイルの溶液を調整する方法が報告されている(例えば、非特許文献5−8)。
【0003】
一般的にこれらの方法では流路網を形成する各流路の流路抵抗を適切に設定し、液体導入口よりシリンジポンプ等を用いて適切な流量で液体を導入することにより、濃度の異なる液体同士を分岐点において適切な比率で分配し、混合部において適切な比率で混合することを可能とし、最下流に存在する液体排出口において望みの濃度の液体を得ることができる。しかしながら、このような分岐点における適切な分配と混合部における適切な混合は、あらかじめ設定された流量で液体導入口より液体を導入している状態においてのみ実現するため、シリンジポンプ内の液が不足し、液体導入口の流量が著しく下がった際に望みの濃度の液体を得ることができない。このことは、多段階の濃度プロファイルを持つ細胞培養用培養液を微量流路網で調整し、その下流で長期間細胞を培養する細胞培養チップに応用する場合に大きな問題となる。つまり、長期間細胞を培養するためにはシリンジポンプ等に適宜培養液を補充する必要があるが、培養液を補充する際に液体の流れが止まると、溶質が拡散によって微小流路内を移動してしまい、各流路の溶質濃度が変化してしまうという問題がある。このことは微量の溶質に短時間暴露されるだけで細胞の状態が変化してしまう細胞毒性試験チップにおいては致命的な問題となる。
また、これらの方法とは異なるが、類似した方法として、分岐と合流を一段階だけ行って多段の濃度プロファイルを作成する方法も報告されている(例えば、非特許文献9−11)。
【0004】
しかしながら、これらの方法では濃度が三桁以上異なる濃度プロファイルを作製することは難しい。一般的な細胞毒性試験に適したマイクロチップのための濃度範囲が数桁に及ぶ多段階の濃度プロファイルを作製するためには分岐と合流を繰り返す構造の利用が望ましい。
さらに、これらの方法とは異なるが、類似した方法として、拡散現象を利用した濃度勾配を作製する方法も報告されている(例えば、非特許文献12)。
しかしながら、拡散現象によって濃度勾配を作製する場合にも、いったんポンプや加圧装置を止めた際に、時間経過に伴って濃度プロファイルが大きく変化してしまうといった欠点がある。
【非特許文献1】Sugiura S., Edahiro J., Kikuchi K., Sumaru K., and Kanamori T.:Cell Culture Microchamber Array with Independent Perfusion Channel for Parallel Drug Toxicity Assay, The proceedings of microTAS 2007, Chemical and Biological Microsystems Society, pp1321-1323 (2007)
【非特許文献2】Wang Z., Kim M.-C., Marquez M. and Thorsen T.: High-Density Microfluidic Arrays for Cell Cytotoxicity Analysis, Lab Chip, 7, 740-745 (2007)
【非特許文献3】Takara K., Sakaeda T., Yagami T., Kobayashi H., Ohmoto N., Horinouchi M., Nishiguchi K. and Okumura K.: Cytotoxic Effects of 27 Anticancer Drugs in Hela and Mdr1-Overexpressing Derivative Cell Lines, Biol. Pharm. Bull., 25, 771-778 (2002)
【非特許文献4】N. L. Jeon, S. K. W. Dertinger, D. T. Chiu, I. S. Choi, A. D. Stroock and G. M. Whitesides: "Generation of Solution and Surface Gradients Using Microfluidic Systems", Langmuir, 16(22), 8311-8316 (2000)。
【非特許文献5】S. K. W. Dertinger, D. T. Chiu, N. L. Jeon, G. M. Whitesides, Generation of gradients having complex shapes using microfluidic networks, Anal. Chem. 73 (2001) 1240-1246.
【非特許文献6】X. Y. Jiang, J. M. K. Ng, A. D. Stroock, S. K. W. Dertinger and G. M. Whitesides: "A Miniaturized, Parallel, Serially Diluted Immunoassay for Analyzing Multiple Antigens", J. Am. Chem. Soc., 125(18), 5294-5295 (2003)
【非特許文献7】K. Campbell, A. Groisman, Generation of complex concentration profiles in microchannels in a logarithmically small number of steps, Lab Chip 7 (2007) 264-272.
【非特許文献8】F. Lin, W. Saadi, S. W. Rhee, S. J. Wang, S. Mittal and N. L. Jeon: "Generation of Dynamic Temporal and Spatial Concentration Gradients Using Microfluidic Devices", Lab Chip, 4(3), 164-167 (2004)
【非特許文献9】M. Yamada, T. Hirano, M. Yasuda and M. Seki: "A Microfluidic Flow Distributor Generating Stepwise Concentrations for High-Throughput Biochemical Processing", Lab Chip, 6(2), 179-184 (2006)
【非特許文献10】H. Bang, S. H. Lim, Y. K. Lee, S. Chung, C. Chung, D. C. Han and J. K. Chang: "Serial Dilution Microchip for Cytotoxicity Test", J. Micromech. Microeng., 14(8), 1165-1170 (2004)
【非特許文献11】#2286 G. M. Walker, N. Monteiro-Riviere, J. Rouse and A. T. O'Neill: "A Linear Dilution Microfluidic Device for Cytotoxicity Assays", Lab Chip, 7(2), 226-232 (2007)
【非特許文献12】B. G. Chung, F. Lin and N. L. Jeon: "A Microfluidic Multi-Injector for Gradient Generation", Lab Chip, 6(6), 764-768 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、マイクロチップ上で細胞毒性試験を行う際には培養液を長期間にわたって供給し続ける必要がある。そのため、一時的に培養液の供給を止めた後も適切な濃度の培養液を供給することのできる流路網の構成が求められる。
【0006】
本発明では、複数の液体導入口より導入された濃度の異なる溶液を複数の分岐点と合流点を有する微小流路網において分配と混合を繰り返して多段階の濃度プロファイルを持つ液体を調整するマイクロチップにおいて、液体導入口からの液体の導入を一時的に止めても濃度プロファイルを維持できる構成のマイクロチップの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
第1の発明は、互いに異なる濃度の液体が導入される複数の液体導入口と、4以上の液体排出口とを具備し、前記液体導入口から導入された液体を前記液体排出口へ導く微小流路網が形成され、前記微小流路網が、複数の分岐点と、複数の合流点とを有し、複数の液体導入口から導入された液体を、分岐と合流を二回以上繰り返すことにより、液体排出口毎に互いに異なる多段階の濃度の溶液を調整するように構成されているマイクロチップであって、前記微小流路網は、互いに異なる濃度の液体を混合するための主流路同士を、前記主流路よりも流路断面積が小さい狭隘部を有する接続流路を介して接続して構成され、
前記接続流路が、前記微小流路網における、前記分岐点から送液方向上流側に延在する主流路と、前記合流点から送液方向下流側に延在する主流路との間の液体流路を構成していることを特徴とするマイクロチップを提供する。
第2の発明は、第1の発明のマイクロチップにおいて、接続流路の前記狭隘部が、主流路に比べて深さが浅く形成された溝であることを特徴とするマイクロチップを提供する。
第3の発明は、第1又は第2の発明のマイクロチップにおいて、前記微小流路網は、前記主流路と、この主流路の送液方向上流端に接続された第1抵抗流路と、前記主流路の送液方向下流端に接続された第2抵抗流路とを有し、前記液体導入口から延在する送液ラインを複数具備し、前記第1抵抗流路及び前記第2抵抗流路は、前記主流路よりも流路断面積が小さく形成され、各送液ラインは、その送液方向上流端が前記液体導入口と連通され、送液方向下流端が前記液体排出口と連通されており、前記接続流路は、その送液方向上流端が、前記送液ラインの前記主流路の送液方向下流端の前記分岐点にて前記主流路に連通され、送液方向下流端が、別の送液ラインの前記主流路の送液方向上流端の前記合流点にて前記主流路に連通されていることを特徴とするマイクロチップを提供する。
第4の発明は、第3記載のマイクロチップにおいて、前記第1抵抗流路及び前記第2抵抗流路と、前記接続流路の前記狭隘部とが、互いの深さを揃えて、前記主流路に比べて深さが浅く形成された溝であることを特徴とするマイクロチップを提供する。
第5の発明は、第1〜4のいずれかの発明のマイクロチップにおいて、液体排出口の下流に微小容器が接続されていることを特徴とするマイクロチップを提供する。
第6の発明は、第5の発明のマイクロチップにおいて、前記微小容器が、細胞培養用容器であることを特徴とするマイクロチップを提供する。
第7の発明は、第1〜6のいずれかの発明のマイクロチップにおいて、前記微小流路網が、各液体導入口に同じ圧力をかけることよって所定の濃度の溶液を調整することができるように設計されていることを特徴とするマイクロチップを提供する。
第8の発明は、第1〜7のいずれかの発明のマイクロチップをレプリカモールディングによって作製するためのマスターチップであって、ベース基板上に形成した、互いに厚さの異なる樹脂層によって、前記主流路を形成するための主流路形成用突条と、前記接続流路を形成するための接続流路形成用突条とが形成され、前記接続流路形成用突条は、前記主流路形成用突条に比べて厚さが小さい樹脂層によって形成され、前記ベース基板からの突出寸法が前記主流路形成用突条に比べて小さいことを特徴とするマスターチップを提供する。
第9の発明は、第8に記載のマスターチップにおいて、前記樹脂層がフォトレジスト層であることを特徴とするマスターチップを提供する。
第10の発明は、第4の発明のマイクロチップを作成するための第8又は第9の発明のマスターチップであって、さらに、前記第1抵抗流路を形成するための第1抵抗流路形成用突条と、前記第2抵抗流路を形成するための第2抵抗流路形成用突条とが、主流路形成用突条に比べて前記ベース基板上の厚さが小さい樹脂層によって形成され、しかも、これら第1、第2抵抗流路形成用突条の前記ベース基板からの突出寸法が前記接続流路形成用突条と同じに揃えられていることを特徴とするマスターチップを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体混合用の主流路同士を、主流路よりも流路断面積が小さい狭隘部を有する接続流路によって接続した構成により、液体導入口からの液体の導入を一時的に止めても、微小流路網における濃度プロファイルを維持することができる。
各主流路における所望濃度の溶液の調整は、微小流路網の分岐点における溶液の分配と合流点における溶液の混合とを対流によって行うことが前提である。前記狭隘部を有する接続流路の採用は、接続流路を介した拡散による主流路間での物質移動を、対流による物質移動に比べて小さくするものである。これにより、液体導入口からの液体の導入を一時的に止めても、濃度プロファイルを維持することを可能にする。
また、液体導入口からの液体の導入を一時的に止める場合以外、例えば、細胞培養のため、微小流路網によって濃度調整した培養液を液体排出口から培養容器へ、非常にゆっくりと長期間に渡って供給する必要がある場合など、微小流路網に液体を非常にゆっくりとした速度で連続的に流す場合も、微小流路網の分岐点と合流点との間における拡散による物質移動が接続流路(詳細には狭隘部)によって抑制されることで、所望の濃度プロファイルを維持できる、といった利点がある。
また、前記狭隘部を有する接続流路の採用は、接続流路の流路長が短くて済むことになり、チップサイズの小型化に寄与する。
また、接続流路の深さを主流路に比べて浅く形成し、接続流路の深さを抵抗流路と深さと揃えた構成は、流路断面積比の大きな流路網を加工する際の加工上の利便性に寄与するとともに、流路網の設計の際に各流路を流れる溶液の流速の予測を可能とするため、各主流路において所望の濃度の溶液の調整が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施したマイクロチップ、マスターチップについて、図面を参照して説明する。
図1、図2に多段階の濃度の溶液を調整する微小流路網の模式図を示す。
図1、図2において、マイクロチップ1は、溝状の微小流路網20が形成されたチップ基板2(図10(g)参照)に、カバープレート3を貼り合わせた構造になっている。微小流路網20は、チップ基板2の片面(以下、流路形成面2aとも言う)に形成されており、前記カバープレート3は、前記チップ基板2に、前記流路形成面2aを覆うようにして貼り合わされている。
なお、チップ基板2、カバープレート3としては、例えば、ポリジメチルシロキシサン(以下、PDMSとも言う)等の、微小流路を持つマイクロチップの材質として周知の合成樹脂製のものを採用できる。
【0010】
図1に示すように、前記微小流路網20は、液体が導入される複数(図1においては2つ)の液体導入口21と、4以上(図1においては8つ)の液体排出口22とを有し、前記液体導入口21から導入された液体を前記液体排出口22へ導くようになっている。
この微小流路網20は、複数の液体導入口21から導入された液体を、分岐と合流を二回以上繰り返すことにより、液体排出口22毎に互いに異なる多段階の濃度の溶液を調整するように構成されている。
【0011】
図1、図2に示す微小流路網20について、具体的に説明する。
図1、図2において、符号23は送液ライン、24は主流路(混合部)、25は主流路24同士を接続する接続流路、26は合流点、27は分岐点、28は第1抵抗流路、29は第2抵抗流路である。
【0012】
微小流路網20は、2つの液体導入口21の一方(以下、第1液体導入口とも言う。図中、符号211を付す。)に連通された1本の送液ライン23(図中、符号231)と、他方の液体導入口21(以下、第2液体導入口とも言う。図中、符号212を付す)から延びる液体供給流路21bに連通され、この液体供給流路21bを介して第2液体導入口212に連通された複数の送液ライン23(図中、符号232〜238)とを具備する。
各送液ライン23の、液体導入口21とは反対側の端部(送液方向下流端)には、それぞれ、液体排出口22が設けられている。
【0013】
各送液ライン23は、主流路24と、この主流路24の送液方向上流端に接続された第1抵抗流路28と、前記主流路24の送液方向下流端に接続された第2抵抗流路29とを具備して構成されている。
第1抵抗流路28及び第2抵抗流路29は、主流路24よりも流路断面積が小さく形成されており、微小流路網20を流れる液体に主流路24よりも大きい流路抵抗を与える。
【0014】
第1液体導入口211に連通する送液ライン231は、その第1抵抗流路28の送液方向上流端が、第1液体導入口211から延びる液体供給流路21aに連通され、この液体供給流路21aを介して第1液体導入口211に連通されている。また、この送液ライン231は、その第2抵抗流路29の送液方向下流端が、液体排出口22に連通されている。
第2液体導入口212に連通する送液ライン232〜238は、その第1抵抗流路28の送液方向上流端が、第2液体導入口212から延びる液体供給流路21bに連通され、この液体供給流路21bを介して第2液体導入口212に連通されている。また、この送液ライン232〜238は、その第2抵抗流路29の送液方向下流端が、液体排出口22に連通されている。
【0015】
なお、各送液ライン23の主流路24はその流路断面積が同じに揃えられている。
また、微小流路網20において、接続流路25、第1、第2抵抗流路28、29以外の流路(例えば、液体供給流路21a、21b)は、その流路断面積が、各送液ライン23の主流路24と同じに揃えられている。
但し、本発明は、各送液ライン23の主流路24の流路断面積にばらつきがある構成や、微小流路網20における、主流路24、接続流路25、第1、第2抵抗流路28、29以外の流路の流路断面積が主流路24の流路断面積と異なっている構成を排除するものではない。
【0016】
この微小流路網20において、符号27を付した分岐点は、送液ライン23の主流路24の送液方向下流端と前記第2抵抗流路29と接続流路25とが互いに連通された連通箇所である。
また、符号26を付した合流点は、送液ライン23の主流路24の送液方向上流端と前記第1抵抗流路28と接続流路25とが互いに連通された連通箇所である。
【0017】
第1液体導入口211に連通する送液ライン231には、主流路24の送液方向下流端を、前記第2抵抗流路29と接続流路25とに分岐した分岐点27が設けられている。この分岐点27では、前記第2抵抗流路29と接続流路25と主流路24とが互いに連通されている。この送液ライン231の主流路24に連通された接続流路25は、第2液体導入口212に連通する送液ライン232〜238の内の一つ(送液ライン232)の主流路24の送液方向上流端の合流点26にて、第1抵抗流路28とともに、主流路24に連通されており、送液ライン231の主流路24から送液ライン232の主流路24へ液体を導入するための液体流路として機能する。
【0018】
第2液体導入口212に連通する送液ライン232〜238の内、符号232〜236の送液ライン23は、主流路24の送液方向下流端を前記第2抵抗流路29と接続流路25とに分岐(2つの流路29、25と主流路24の送液方向下流端とを互いに連通)した分岐点27と、第1抵抗流路28と接続流路25と主流路24の送液方向上流端とを互いに連通させた合流点26とを有し、各送液ライン232〜236の主流路24が、接続流路25を介して縦続に接続されている。また、送液ライン237には、合流点26、分岐点27の内、合流点26のみが設けられている。この送液ライン237の前記合流点26にて、第1抵抗流路28とともに主流路24の送液方向上流端と連通された接続流路25は、接続流路25を介して縦続に接続された送液ライン232〜236の主流路24の内の、第1液体導入口211から導入した液体の移動方向(第1液体導入口211から導入した液体が流入する順番)において最下流に位置する主流路24(送液ライン236の主流路24)の送液方向下流端の分岐点27にて主流路24と連通されており、送液ライン236の主流路24から送液ライン237の主流路24へ液体を導入するための液体流路として機能する。
これにより、この微小流路網20にあっては、第1液体導入口211に導入した液体を、送液ライン231〜237の主流路24に流入させることができる。
また、各接続流路25は、分岐点27側の端部が送液方向上流端、合流点26側の端部が送液方向下流端となっている。
【0019】
第2液体導入口212に連通する送液ライン232〜238の内、符号238の送液ライン23には、接続流路25は接続されていない。この送液ライン238には、他の送液ラインからの液体の導入は無い。
【0020】
第2液体導入口212に連通する送液ライン232〜237の第1抵抗流路28は、これら送液ライン232〜237の内、第1液体導入口211から導入した液体の移動方向(第1液体導入口211から導入した液体が流入する順番)において最上流に位置する送液ライン232から、下流側に位置する送液ラインに行くほど、順次、第1抵抗流路28の液体に与える流路抵抗が大きくなるように形成されている。
送液ライン232〜237の第1抵抗流路28が発生する流路抵抗の違いは、例えば、各送液ライン232〜237の第1抵抗流路28の流路断面積の違いによって実現することも可能であるが、ここでは、各送液ライン232〜237の第1抵抗流路28として、流路断面積が同じものを採用し、この第1抵抗流路28の流路長の違いによって流路抵抗の違いを実現している。
なお、送液ライン231〜238の第1抵抗流路28は、流路断面積が同じに揃えられ、それぞれ、流路長全長にわたって流路断面積が一定に形成されている。
【0021】
また、送液ライン231〜237の第2抵抗流路29は、これら送液ライン231〜237の内、第1液体導入口211から導入した液体の移動方向(第1液体導入口211から導入した液体が流入する順番)において最上流に位置する送液ライン231から、下流側に位置する送液ラインに行くほど、順次、第2抵抗流路29の液体に与える流路抵抗が小さくなるように形成されている。
送液ライン231〜236の第2抵抗流路29が発生する流路抵抗の違いは、例えば、各送液ライン231〜236の第2抵抗流路29の流路断面積の違いによって実現することも可能であるが、ここでは、各送液ライン231〜236の第2抵抗流路29として、流路断面積が同じものを採用し、この第2抵抗流路29の流路長の違いによって流路抵抗の違いを実現している。
【0022】
但し、送液ライン237の第2抵抗流路29については、送液ライン236の第2抵抗流路29に比べて流路断面積を大きくすることで、その流路抵抗を、送液ライン236よりも小さくしている。
しかし、この送液ライン237の第2抵抗流路29についても、送液ライン231〜236の第2抵抗流路29と同じ流路断面積とし、流路長の違いによって(送液ライン236の第2抵抗流路29よりも流路長を短くする)、送液ライン236の第2抵抗流路29よりも小さい流路抵抗を実現した構成とすることも可能であることは言うまでもない。
各送液ライン231〜238の第2抵抗流路29は、それぞれ、流路長全長にわたって流路断面積が一定に形成されている。
【0023】
図示例のマイクロチップ1の微小流路網20は、2つの液体導入口211、212から導入された液体を、分岐と合流を二回以上繰り返すことにより、液体排出口22毎に互いに異なる多段階の濃度の溶液を調整するように構成されている。
2つの液体導入口211、212から微小流路網20に導入した液体の種類が互いに異なるとき、第2液体導入口212に連通する送液ライン232〜237の主流路24が、第2液体導入口212から送液ラインに導入された液体と、接続流路25から導入された液体とを混合する混合部として機能する。各主流路24における所望濃度の溶液の調整は、微小流路網20の分岐点27における溶液の分配と、合流点26における溶液の混合とを、それぞれ主流路24内での拡散によって行うことで実現される。
また、主流路24内に混合を促進する機構を設けても良い。例えば攪拌子等を主流路24の中に導入しても良い。
【0024】
送液ライン23毎に設けられた液体排出口22からは、第1液体導入口211から導入した液体と、第2液体導入口212から導入した液体とが混合された液体が排出(供給)される。送液ライン23毎に設けられた液体排出口22から排出される溶液は、第1液体導入口211から導入した液体の移動方向(第1液体導入口211から導入した液体が流入する順番)において最上流に位置する送液ライン231から、下流側に位置する送液ラインへ行くほど、順次、第1液体導入口211から導入した液体の濃度が低くなり、第2液体導入口212から導入した液体の濃度が高くなる。
また、この微小流路網20は、各液体導入口211、212に同じ圧力をかけることよって、各液体排出口22について個々に設定した所望濃度の溶液を調整することができるように設計されている。
【0025】
前記微小流路網20の接続流路25は、各送液ライン23の主流路24に比べて、流路断面積が小さく形成されている。主流路24に比べて流路断面積が小さい接続流路25は、その全長が、狭隘部(主流路24に比べて流路断面積が小さい狭隘部)として機能する。また、図4に示すように、接続流路25としては、その長手方向の一部分に、主流路24に比べて流路断面積が小さい狭隘部25aを具備する構成ものであっても良い。
この微小流路網20では、接続流路25を介した拡散による主流路24間での物質移動が、対流による物質移動に比べて小さい。このため、液体導入口211、212からの液体の導入を一時的に止めても、微小流路網20における濃度プロファイルを維持することが可能となる。濃度プロファイルを維持できる時間(以下、プロファイル維持時間とも言う)の長さは、接続流路25の流路断面積によって調整可能である。
プロファイル維持時間を長くするには、接続流路25の流路長を大きくすることでも可能であるが、接続流路25の流路断面積によって調整(流路断面積を小さくする)するのであれば、接続流路25の流路長が短くて済み、マイクロチップ1全体の小型化に寄与する。
【0026】
また、全長又は一部が主流路24に比べて流路断面積が小さい狭隘部である接続流路25の採用は、微小流路網20を流れる液体の流速が非常に遅い場合に、微小流路網20の分岐点27と合流点26との間における拡散による物質移動が接続流路25(詳細には狭隘部)によって抑制されることで、所望の濃度プロファイルを安定に維持できる、といった利点がある。
【0027】
図1に示したマイクロチップを用いて、液体導入口より80kPaで加圧して濃度の異なる2種類の液体を送液して濃度プロファイルを確認した後に、一時的に加圧を停止して3時間放置した後に再度80kPaで加圧して濃度プロファイルを確認したところ、加圧停止による濃度プロファイルの変化は確認されなかった。
【0028】
以下、各液体排出口22から細胞培養用の培養液を得るために、微小流路網20に、第1液体導入口211から溶質が高濃度の培養液を導入し、第2液体導入口212から希釈液(以下、希釈用液体とも言う)を導入する場合を例に、全長又は一部が主流路24に比べて流路断面積が小さい狭隘部である接続流路25の採用による効果を検討する。
なお、送液ライン232〜237の主流路24について、以下、混合部24とも言う。
また、微小流路網20の液体排出口22、混合部24、接続流路25、分岐点27、第1抵抗流路28、第2抵抗流路29に関して、分岐点27を、第1液体導入口211から導入した液体が流入される順で、一段目、二段目…として説明することとし、この分岐点27から送液方向上流側に延在する混合部24及び該混合部24の送液方向上流端に連通する第1抵抗流路28、分岐点27から送液方向下流側に延在する第2抵抗流路29及び接続流路25、第2抵抗流路29の送液方向下流端の液体排出口22についても、それぞれ、分岐点27に対応させて、一段目、二段目…として説明することとする。合流点26に関しては、二段目分岐点27から送液方向上流側に延在する混合部24の上流端の合流点26を二段目合流点26と称し、以下、第1液体導入口211から導入した液体が流入される順で、三段目、四段目…として説明することとする。
送液ライン231〜238も、図1、図2において上から、つまり、第1液体導入口211から導入した液体が流入する順で、一段目、二段目…として説明することとする。液体排出口22、混合部24、合流点26、分岐点27、第1抵抗流路28、第2抵抗流路29に関しては、送液ライン23に対応して、一段目、二段目…と称する。
【0029】
図3は、一段目送液ライン231、二段目送液ライン232の付近を拡大して示したものである。
図3に示すように、第1液体導入口211より導入された液体は、一段目分岐点27(図3中、符号271を付す)において分岐し、一段目接続流路25(図3中、符号251)を介して二段目合流点26(図3中、符号262)において希釈用液体と合流する。
なお、図3において、符号241は一段目主流路、242は二段目主流路(混合部)、252は二段目接続流路、272は二段目分岐点、281は一段目第1抵抗流路、291は一段目第2抵抗流路、282は二段目第1抵抗流路、292は二段目第2抵抗流路である。
【0030】
図3に示すように、高濃度液体導入口(第1液体導入口21)より導入された液体が一段目分岐点271において分岐し、一部は一段目液体排出口221に流れ、一部は一段目接続流路251に流れる。一段目接続流路251に流れた液体は二段目合流点262において希釈用液体と合流し、合流点262で希釈された液体は二段目混合部242において混合される。二段目混合部242において混合された液体は二段目分岐点272おいて分岐し、一部は二段目液体排出口222に流れ、一部は二段目接続流路252に流れる。この際に一段目混合部241および二段目混合部242を流れる液体は異なる濃度の液体が流れており、各液体排出口22の下流に微小容器31を設けて細胞を培養することにより、異なる濃度の培養液で細胞を培養することができる。
【0031】
一般に、細胞培養を行う場合、数日から数ヶ月の間培養液を供給し続けなければならない。従って、液体を供給するポンプ等に培養液を補充する際には、一時的に液体を止める必要がある。従来技術においては、この際に、各混合部に存在する液体が混合部間の流路を介して混ざってしまい、溶液の濃度が望まれる濃度と異なってしまうが、本発明においては、接続流路の断面積を小さくすることによってこの問題を回避することができる。また、接続流路を浅くすることによって、断面積が小さく、しかも、深さ・幅の差が小さい接続流路を容易に得ることができる。
【0032】
また、図1、図2の構成の流路網においては各段目の分岐点において培養液を所定の比率で分配し、合流点および混合部において所定の比率で混合することにより、望ましい濃度の溶液を調整する。この分配と合流の比率は各流路を流れる溶液の流量によって決定されるが、これは各段目の第1抵抗流路、第2抵抗流路および接続流路部の流路抵抗を適切に設計することで自在に設定することができる。この際に、接続流路部、第1抵抗流路および第2抵抗流路の流路断面積が他の流路の流路断面積に比べて小さいと流路網の設計の際に他の流路の流路抵抗を無視して計算することができるので、流路網の設計が容易となる。また、接続流路、第1抵抗流路および第2抵抗流路よりも大に抵抗流路を浅くすることによって、断面積が小さく、しかも、深さ・幅の差が小さい接続流路を容易に得ることができる。
【0033】
以下、接続流路の流路断面積と拡散による物質移動との関係について詳細に検討する。
まず、培養液の流れを止めた場合に、N段目(N=1、2、3・・・Nmax)の混合部24の液体中の溶質の接続流路25を介した移動を考える。つまり、N段目の混合部24とN−1段目およびN+1段目の混合部24との接続流路25を介した拡散による物質移動を考える。N段目の混合部24の溶液の濃度をCN[kg/m]とする。一般に、溶液が停止している場合の拡散による物質移動の流束J[kg/m/s]は、以下の式で表される。
【数1】

【0034】
ここで、D[m/s]は拡散定数、c[kg/m]は溶質の濃度、x[m]は接続流路25の長さ方向の座標である。従って、N段目の接続流路25の平均的な流束JNは、接続流路25の長さをLc[m]とすると、以下の式で見積もることができる。
【数2】

【0035】
ここで、接続流路25の断面積をAc[m]、混合部の幅、深さ、断面積および長さをWm[m]、Hm[m]、Am[m]およびLm[m]とする。また、議論を簡略化するために、混合部にミキサーが設置されているとし、溶液を止めた後も混合部において溶液が完全に混合していると仮定すると、接続流路を介した拡散によるN段目の混合部の濃度変化は以下の式で表される。
N=1、つまり一段目の混合部の濃度については以下の式である。
【数3】

N>1、つまり二段目以降の混合部の濃度については以下の式である。
【数4】

N=Nmax、つまりNmax段目の混合部の濃度については以下の式である。
【数5】

【0036】
Nmax=2、つまり、流路が二段の時、これらの微分方程式は容易に解くことができ、溶液を止めた瞬間のN段目の混合部の溶液の濃度をCN,0[kg/m]とすると、送液停止後の一段目と二段目の混合部の濃度変化の解として、以下のような解が得られる。
【数6】

【数7】

【0037】
ここで、本発明を低分子の溶質の広範な濃度範囲における微小容器内での細胞応答を試験すると想定し、各段の希釈率を10倍と想定する、つまり、一段目、二段目の混合部の溶質濃度C1,0およびC2,0を1[kg/m]および0.1[kg/m]とする。また、拡散定数Dをショ糖の水中での拡散定数0.5x10−9[m/s]程度と想定し、混合部の幅Wm[m]、深さHm[m]、断面積Am[m]、および長さLm[m]を、1x10−4[m]、5x10−5[m]、5x10−9[m]、および1x10−3[m]とし、接続流路の長さLc[m]を1x10−4[m]と設定する。
【0038】
図5に送液停止後の各段の混合部の濃度変化に対する接続流路と混合部の断面積比(混合部/接続流路)の影響をプロットした図を示す。
接続流路と混合部の断面積比が1の場合は、送液停止後数分で一段目および二段目の混合部の濃度が接続流路を介した拡散によって変化するが、接続流路と混合部の断面積比を10、または100とすることで、つまり、接続流路を混合部に比べて細くすることで、各段の混合部の濃度変化が抑制されることが読み取れる。
【0039】
また、図6に送液停止後10分後の各段の濃度に対する接続流路と混合部の断面積比(混合部/接続流路)の影響を示す。
接続流路と混合部の断面積比が大きくなるにつれて、つまり、接続流路を混合部に比べて細くすることで送液停止後10分後における各段の濃度変化を抑制できることが読み取れる。図6より、接続流路の断面積を混合部の断面積に対して1/10以下とすることで、10分後においても各段の溶質濃度の変化を抑制することが読み取れる。
【0040】
Nmax>2の時、つまり、流路が三段以上の時、これらの微分方程式(3)、(4)、(5)を解くことは容易でなくなるが、少なくとも一段目の流路に関しては図5、図6に示したような現象が起こることは容易に理解できる。
また、段階希釈によって広範な濃度範囲において多段階の濃度の溶液を調整することを想定している場合、例えば、非特許文献3のように6から8桁ほどの広範な濃度範囲で実験を行う場合には、各段において比較的大きな希釈率で溶液を調整する必要がある。つまり、CがCN+1に比べて非常に大きいので、C>>C >> C>>, ・・・, >>Cmaxと考えて良く、一段目の混合部の濃度に関しては図5、図6とほぼ同じグラフが得られる。
【0041】
次に、ある流量で溶液を流した場合の各段の接続流路の物質移動を考える。
図1,図2に示すN段目の第1抵抗流路、混合部、第2抵抗流路、接続流路を流れる液体の流量をそれぞれQN,1、QN,2、QN,3、QN,4とする。また、N段目の混合部より下流、つまり、混合部、第2抵抗流路、液体排出口の溶液の濃度をCとする。
図1、図2の構成の流路網では溶液を調整するために分岐点および合流点において溶液を所定の比率で分配、混合しており、望ましい濃度の溶液を調整するためには、この分配、混合の際に対流によって物質移動が行われる必要がある。ここでN段目の接続流路における対流による物質移動の流束JN,C[kg/m/s]は接続流路内の平均流速vN,4を用いて以下の式で表される。
【数8】

【0042】
また、拡散による物質移動の流束はJN,D[kg/m/s]は式(1)と同様に以下の式で表される。
【数9】

【0043】
上述のように、望ましい濃度の溶液を調整するためには、対流による物質移動に比べて拡散による物質移動が支配的である必要があり、そのためには一般にJN,C/JN,D>10となるのが好ましい。(8)、(9)式より以下の式が導かれる。
【数10】

【0044】
ここで、上述のように一段目、二段目の混合部の溶質濃度C1,0およびC2,0を1[kg/m]および0.1[kg/m]とし、接続流路の長さLc[m]を1x10−4[m]と設定、拡散定数Dをショ糖の水中での拡散定数0.5x10−9[m/s]程度と想定する。
一方、本発明においては、液体排出口の下流に微小容器(図2の符号31)を設けて細胞を培養することを想定している。
ここでは液体排出口の下流に直径1.5mmの微小容器を設けて細胞を培養することを想定する。この大きさは非特許文献1で用いている微小容器の大きさである。一般的な細胞培養では直径10cmの培養皿に10mL程度の培養液を入れ2日間おきに培養液を交換する。この培養液の交換速度は6ml/mm/day程度の速度に相当する。従って、直径1.5mmの微小容器に供給されるべき培養液の供給速度は1.4x10−14[m/s]となる。上述のような希釈率が10倍の微小流路網においては、接続流路には液体排出口の1/10程度の流量の培養液が通過するため、QN,4=1.4x10−15[m/s]となる。以上の条件を式(10)に代入して計算したJN,C/JN,DとAcの関係を図7に示す。
【0045】
この図より、JN,C/JN,Dが10以上となるためには接続流路断面積Acが3.1x10−10以下である必要がある。接続流路の深さが上述の混合部の深さと同様に5x10−5[m]と仮定すると接続流路の幅は6.2x10−6[m]以下である必要があるが、このように深さ/幅の比率が8程度の流路は現実的に加工が困難である。
この場合、接続流路の幅と深さの比率が1とすると接続流路の幅および深さは1.8x10−5[m]以下であればJN,C/JN,Dが10以上となり、接続流路を混合部に比べて浅くすることにより、現実的に加工できる流路構成が可能となる。
接続流路を混合部に比べて浅くすることは、混合部よりも流路断面積が小さい接続流路の形成を容易にする。
【0046】
また、図8にJN,C/JN,Dが10の場合について、式(10)より導き出した接続流路の断面積Ac[m]と接続流路を流れる溶液の流量QN,4[m/s]の関係を示す。
この図より接続流路内の物質移動が対流によって支配されるために要求される接続流路断面積Acの範囲が読みとれる。接続流路内の物質移動が対流によって支配されるためにはJN,C/JN,Dが10以上であることが好ましいため、ある接続流路を流れる液体の流量QN,4についてこの図より読みとれるAcに比べて小さな値のAcであれば良い。
上述の議論と同様に直径1.5mmの微小容器に培養液を供給することを想定すると、接続流路を流れる液体の流量QN,4は1.4x10−15[m/s]となる。この場合、図8より、接続流路断面積Acは3.1x10−10[m]以下であることが好ましい。接続流路の深さが混合部の深さと同様に5x10−5[m]と仮定すると接続流路の幅は6.2x10−6[m]以下である必要があるが、このように深さ/幅の比率が8程度の流路は現実的に加工が困難である。接続流路の幅と深さの比率が1とすると接続流路の幅および深さは1.8x10−5[m]以下であればJN,C/JN,Dが10以上となり、接続流路を混合部に比べて浅くすることにより、現実的に加工できる流路構成が可能となる。
このことからも、接続流路を混合部に比べて浅くすることで、混合部よりも流路断面積が小さい接続流路の形成が容易になることが判る。
【0047】
次に、混合部に比べて深さが浅い溝である接続流路を持つマイクロチップ1を、レプリカモールディング法により、作成(製造)する場合について説明する。
【0048】
図10(e)、(f)において、符号4は、マイクロチップ1のチップ基板2の作成に用いるマスターチップである。このマスターチップ4は、ベース基板41の片面に互いに厚さが異なる樹脂層42、43が設けられた構成になっている。
ベース基板41は、例えばシリコンウェハ、あるいは、シリコンウェハをダイシングして得たチップ(シリコンチップ)等の板状部材である。
【0049】
樹脂層42、43は、チップ基板2の微小流路網20のうち、浅い構造の流路である接続流路25,抵抗流路28および29を形成するための樹脂層42(以下、浅い流路形成用樹脂層とも言う)と、深い構造の流路である混合部24および液体供給流路21を形成するための樹脂層43(以下、深い流路形成用樹脂層とも言う)とに大別される。深い流路形成用の樹脂層43は、浅い流路形成用樹脂層42に比べて厚さが大きい。そして、このマスターチップ4は、面形成用ベース基板41の表面を基準面4Sとしたとき、前記基準面4Sから突出された部分が、微細流路網20を形成するための流路形成用突条として機能する。
【0050】
前記マスターチップ4の作成方法の一例としては、ベース基板41の片面(樹脂層形成面41a)に塗布したレジストを加熱硬化させてフォトレジスト層44(以下、第1フォトレジスト層とも言う)を形成(図10(a))し、次いで、図10(b)に示すように、フォトマスク45を用いた露光と加熱により、第1フォトレジスト層44に、浅い流路形成用樹脂層42のパターンを焼き付ける。
次に、第1フォトレジスト層44の上に、レジストを塗布して第2フォトレジスト層46を形成する(図10(c))。この第2フォトレジスト層46は、第1フォトレジスト層44(面形成用樹脂層42)よりも膜厚で、第1フォトレジスト層44全体を覆うように形成する。
次いで、図10(d)に示すように、フォトマスク47を用いた露光と加熱により、第2フォトレジスト層46に樹脂層43パターンを焼き付ける。
その後、図10(e)に示す現像工程にて、樹脂層42、43の焼き付け部分を残して、第1、第2フォトレジスト層44、46を除去する。
これにより、所望パターンの樹脂層42、43を有するマスターチップ4が得られる。
【0051】
マスターチップ4を用いて、マイクロチップ1のチップ基板2を、レプリカモールディング法により作成(製造)するには、例えば、マスターチップ4を金型内にセットした状態で、例えばPDMS等を用いてチップ基板2の樹脂成形を行う(図10(f))。これにより、樹脂層42(浅い流路形成用樹脂層)および樹脂層43(深い流路形成用樹脂層)が形成する流路形成用突条によって、微細流路網20を持つチップ基板2が得られる。
そして、図10(g)に示すように、得られたチップ基板2にカバープレート3を貼り合わせることで、マイクロチップ1を組み立てることができる。
【0052】
上述の手法によれば、樹脂層42および樹脂層43の内、流路形成用突条として機能する部分は断面矩形の突条に形成されるため、微細流路網を構成する液体流路は、断面矩形の溝状に形成される。
【0053】
ここで、微細流路網を構成する液体流路の内、主流路24(混合部)よりも流路断面積が小さい接続流路25を、主流路24(混合部)よりも深さが浅い溝として形成するには、図11(a)、(b)に示すように、ベース基板41に、流路形成用樹脂層として、互いに厚さの異なる樹脂層42、43を形成して、前記主流路24を形成するための主流路形成用突条43aと、前記接続流路25を形成するための接続流路形成用突条42aとを得る。接続流路形成用突条42aは、ベース基板41からの突出寸法、基準面4Sからの突出寸法を、主流路形成用突条43aよりも小さくする。
【0054】
また、図11(a)、(b)では、樹脂層42によって、第2抵抗流路29の形成用の第2抵抗流路形成用突条42bをも形成されている構成を例示している。
この場合、第2抵抗流路形成用突条42bは、前記ベース基板41からの突出寸法(換言すれば基準面4Sからの突出寸法)が前記接続流路形成用突条42aと同じに揃っていることになる。
微小流路網20を、接続流路25と第2抵抗流路29とを同じ深さとした構成の場合、上述のように、一つの樹脂層42によって、接続流路形成用突条42aと第2抵抗流路形成用突条42bとを得ることができる。
このことは、接続流路25と第1抵抗流路28、マスターチップ4に形成する第1抵抗流路形成用突条と接続流路形成用突条42aとの関係についても、同様に言える。
【0055】
また、図11(a)、(b)では、主流路形成用突条43aの幅W1、接続流路形成用突条42aの幅W2、第2抵抗流路形成用突条42bの幅W3が同じになっている構成を例示している。
この場合、チップ基板2の微小流路網20として、主流路24、接続流路25、第2抵抗流路29の溝幅が同じに揃ったものが得られることになる。各流路の流路断面積は、各流路の深さによって調整される。
このことは、接続流路25と第1抵抗流路28、マスターチップ4に形成する第1抵抗流路形成用突条と接続流路形成用突条42aとの関係についても、同様に言える。
本発明は、接続流路25、第1抵抗流路28、第2抵抗流路29のいずれか1以上の幅が、主流路24の幅と揃っている構成を含む。
【0056】
図9に、試作したマイクロチップの濃度グラジエント生成機構を評価した結果を示す。
PDMSを用いてマイクロチップを試作した。
接続流路、第1抵抗流路、第2抵抗流路は、幅が20μm、深さが10μmの断面矩形の溝(角溝)であり、断面寸法を揃えた。微小流路網における接続流路、第1抵抗流路、第2抵抗流路以外の流路は、幅が100μm、深さが50μmの断面矩形の溝(角溝)とした。接続流路、第1抵抗流路、第2抵抗流路の、主流路に対する断面積比は25倍である。また、微小流路網は、n段目の混合部における希釈率Dが1/2となるように設計した。
試作したマイクロチップに、第1液体導入口から濃度17wt%のニューコクシン水溶液を送液し、第2液体導入口から希釈用の超純水を送液した。いずれも、送液を75kPaで行った。12時間経過後に、液体排出口から排出された溶液を採取し、吸光度を測定して、検線量から濃度を算出した。得られた結果から、濃度グラジエント生成機構を評価した。図9の結果、ニューコクシン濃度は設定した希釈率にほぼ一致した単調減少を示した。また、混合部の滞留時間を充分に長く設定したことで、高圧(高流量)で薬剤を流しても、充分に2液の拡散混合が生じることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によって開示される多段階の濃度の溶液を調整する微小流路網は、広範な濃度範囲において薬剤の細胞毒性を試験するマイクロチップに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のマイクロチップ、該マイクロチップの微小流路網を模式的に示す図である。
【図2】図1の微小流路網を拡大して模式的に示した図である。
【図3】図2の微小流路網の一段目、二段目の送液ラインの付近を拡大して示した図である。
【図4】微小流路網の接続流路の長手方向の一部のみに狭隘部を設けた例を示す図である。
【図5】送液停止後の各段の混合部の濃度変化を示すグラフである。
【図6】送液停止10分後の各段の混合部の濃度と、接続流路の混合部に対する断面積比との関係を示すグラフである。
【図7】接続流路の断面積AcとJN,C/JN,Dとの関係を示すグラフである。
【図8】接続流路を流れる溶液の流量と接続流路断面積との関係を示すグラフである。
【図9】試作したマイクロチップの濃度グラジエント生成機構を評価した結果を示すグラフである。
【図10】(a)〜(g)は、マイクロチップの製造に用いるマスターチップの作成、マスターチップの製造(組立)手順を説明する図である。
【図11】(a)、(b)は、マスターチップにおいて、接続流路形成用突条、第2抵抗流路形成用突条を、同一の樹脂層によって形成した例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1…マイクロチップ、2…チップ基板、20…微小流路網、21…液体導入口、211…液体導入口(第1液体導入口)、212…液体導入口(第1液体導入口)、23、231〜238…送液ライン、24…主流路(混合部)、25…接続流路、251…狭隘部、26…合流部、27…分岐部、28…第1抵抗流路、29…第2抵抗流路、4…マスターチップ、41…ベース基板、42…樹脂層、43…樹脂層(流路形成用樹脂層)、44…フォトレジスト層(第1フォトレジスト層)、46…フォトレジスト層(第2フォトレジスト層)、42a…接続流路形成用突条、42b…第2抵抗流路形成用突条。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる濃度の液体が導入される複数の液体導入口と、4以上の液体排出口とを具備し、前記液体導入口から導入された液体を前記液体排出口へ導く微小流路網が形成され、前記微小流路網が、複数の分岐点と、複数の合流点とを有し、複数の液体導入口から導入された液体を、分岐と合流を二回以上繰り返すことにより、液体排出口毎に互いに異なる多段階の濃度の溶液を調整するように構成されているマイクロチップであって、
前記微小流路網は、互いに異なる濃度の液体を混合するための主流路同士を、前記主流路よりも流路断面積が小さい狭隘部を有する接続流路を介して接続して構成され、
前記接続流路が、前記微小流路網における、前記分岐点から送液方向上流側に延在する主流路と、前記合流点から送液方向下流側に延在する主流路との間の液体流路を構成していることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロチップにおいて、接続流路の前記狭隘部が、主流路に比べて深さが浅く形成された溝であることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマイクロチップにおいて、
前記微小流路網は、前記主流路と、この主流路の送液方向上流端に接続された第1抵抗流路と、前記主流路の送液方向下流端に接続された第2抵抗流路とを有し、前記液体導入口から延在する送液ラインを複数具備し、前記第1抵抗流路及び前記第2抵抗流路は、前記主流路よりも流路断面積が小さく形成され、
各送液ラインは、その送液方向上流端が前記液体導入口と連通され、送液方向下流端が前記液体排出口と連通されており、
前記接続流路は、その送液方向上流端が、前記送液ラインの前記主流路の送液方向下流端の前記分岐点にて前記主流路に連通され、送液方向下流端が、別の送液ラインの前記主流路の送液方向上流端の前記合流点にて前記主流路に連通されていることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項4】
請求項3記載のマイクロチップにおいて、前記第1抵抗流路及び前記第2抵抗流路と、前記接続流路の前記狭隘部とが、互いの深さを揃えて、前記主流路に比べて深さが浅く形成された溝であることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロチップにおいて、液体排出口の下流に微小容器が接続されていることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項6】
請求項5に記載のマイクロチップにおいて、前記微小容器が、細胞培養用容器であることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロチップにおいて、前記微小流路網が、各液体導入口に同じ圧力をかけることよって所定の濃度の溶液を調整することができるように設計されていることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロチップをレプリカモールディングによって作製するためのマスターチップであって、
ベース基板上に形成した、互いに厚さの異なる樹脂層によって、前記主流路を形成するための主流路形成用突条と、前記接続流路を形成するための接続流路形成用突条とが形成され、
前記接続流路形成用突条は、前記主流路形成用突条に比べて厚さが小さい樹脂層によって形成され、前記ベース基板からの突出寸法が前記主流路形成用突条に比べて小さいことを特徴とするマスターチップ。
【請求項9】
請求項8に記載のマスターチップにおいて、前記樹脂層がフォトレジスト層であることを特徴とするマスターチップ。
【請求項10】
請求項4記載のマイクロチップを作成するための請求項8又は9記載のマスターチップであって、
さらに、前記第1抵抗流路を形成するための第1抵抗流路形成用突条と、前記第2抵抗流路を形成するための第2抵抗流路形成用突条とが、主流路形成用突条に比べて前記ベース基板上の厚さが小さい樹脂層によって形成され、しかも、これら第1、第2抵抗流路形成用突条の前記ベース基板からの突出寸法が前記接続流路形成用突条と同じに揃えられていることを特徴とするマスターチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−109249(P2009−109249A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279711(P2007−279711)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構委託研究、「二次元培養細胞マニピュレーション装置の開発」、産業活力再生特別措置法第19条の適用を受けるもの。
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】