説明

マイクロチップ

【課題】抗原・抗体など試料中のターゲットなどの捕捉率を高め、ターゲットを認識する認識物質とターゲットとの反応生成物の濃度を、反応場の場所にかかわらず均一化する。
【解決手段】遠心力により微粒子と試料とを接触させることで、ターゲットと認識物質との接触時間が、混合槽12中の場所にかかわらず均一化される。さらに、回転方向を変えることにより、微粒子と試料とを混合槽12で均一に混合するので、混合液中の反応物の濃度が混合槽12の場所にかかわらず均一化される。均一な濃度を有する混合液が得られれば、混合工程後の後工程には、混合液全てを用いなくてもその一部を抽出して用いればよい。従って、混合工程の後工程に用いる部分に導入する溶液の量を減らし、マイクロチップ10全体を小型化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップの使用方法、マイクロ流路及びマイクロチップに関し、生体物質を分離、混合、検出するために利用されるマイクロ流路及びこれを備えたマイクロチップの使用方法、マイクロ流路及びマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、微量試料で簡便に短時間で高精度な免疫分析を可能とすることを目的とする免疫分析装置が開示されている。図7は、この免疫分析装置の構成を示す斜視図である。免疫分析装置101の導入部105から導入された溶液は、反応場103に固定された微粒子102と反応する。
【特許文献1】特開2001−004628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1の免疫分析装置では、溶液を微粒子102と接触させるためには、ポンプが用いられると推測される。この免疫分析装置101は、遠心操作可能な構成を有していないからである。しかしポンプでの送液では、流路の位置にかかわらず、流速を一定に制御することが困難である。これは、低流速の場合や、溶液が何らかのジャンクションを通過する場合、顕著に表れる。その結果、溶液中の抗原や抗体を確実に捕捉することができず、試料などの溶液と微粒子との接触時間が、反応場103の場所によって変わってしまい、抗原抗体反応などにより生じる反応物の濃度が反応場103内で不均一になる。
【0004】
図8は、インク液と、試料中のターゲットと反応する認識物質が固定された微粒子と、をポンプの送液により接触させた場合の実験例を示す写真である。反応場としてのチャンバTの導入口MからチャンバT内に導入された試料溶液は、ポンプ口Qに取り付けられるポンプにより、導入口Mからポンプ口Qに流動する。その途中で、試料溶液とチャンバT内の微粒子とが接触することにより、ターゲットと認識物質との反応を生じさせる。ターゲットの濃度は、チャンバTの粒子の色の変化により示されている。ポンプにより試料溶液を送液するに従い、導入口Mを中心としてターゲットがチャンバT内に広がっていく。ただし、その濃度は、導入口M近傍が高く、導入口Mから離れるに従い低くなり、チャンバの隅部ではターゲットを目視で確認できないほどである。
【0005】
図8が示すように、ポンプで反応場に送液した場合、ターゲットと認識物質との反応は反応場内で不均一になってしまう。これでは、反応場内で生成された反応液を部分抽出し、その後の処理に用いることが難しい。反応場内での濃度の不均一さが後段の処理に影響することを防止するためには、反応場内の反応液全てを後段の処理に用いる必要がある。このため、反応場の後段の各部分、例えば検出部や混合槽において、試料や試薬の量を減量することが難しく、マイクロチップ自体の大きさを小型化しにくいという問題がある。
【0006】
本発明は、抗原・抗体など試料中のターゲットなどの捕捉率を高め、溶液中に存在する物質の濃度を、反応場の場所にかかわらず均一化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明1は、遠心力を用いて試料を処理するマイクロチップを提供する。このマイクロチップは、以下の要素を供えている。
・前記試料中のターゲットを認識する第1認識物質または前記第1認識物質を認識する第2認識物質が粒状担体に固定化されてなる微粒子と、前記試料と、を混合する混合槽、
・前記混合槽に連結されているマイクロ流路。
【0008】
このマイクロチップにおいて、前記混合槽は、前記微粒子を流動可能な状態に保持している。
遠心力により微粒子と試料とを接触させることで、ターゲットと第1認識物質との接触時間または第1認識物質と第2認識物質との接触時間が、混合槽中の場所にかかわらず均一化される。さらに、回転方向を変えることにより、微粒子と試料とを混合槽で均一に混合するので、混合液中の反応物の濃度が混合槽の場所にかかわらず均一化される。
【0009】
上記のように均一な濃度を有する混合液が得られれば、混合工程後の後工程には、混合液全てを用いなくてもその一部を抽出して用いればよい。従って、混合工程の後工程に用いる部分に導入する溶液の量を減らし、マイクロチップ全体を小型化することができる。混合工程の後工程に用いる部分としては、例えば第2の混合槽や検出部を挙げることができる。また、混合槽の下流側にさらにミキシングのための流路を設けている場合、その流路を短くしたり省略するなどにより、マイクロチップ全体を小型化することができる。
【0010】
微粒子は、予め混合槽に保持されている。混合槽内の微粒子は、予め第1認識物質または第2認識物質が固定化された粒状担体でもよいし、第1認識物質または第2認識物質が固定化されていない粒状担体であってもよい。後者の場合、第1認識物質または第2認識物質を含む試薬を混合槽に導入することにより、混合槽内部で粒状担体に第1認識物質または第2認識物質を固定化し、微粒子を生成することができる。その後、生成された微粒子と、試料と、を遠心力により接触させることで、試料中のターゲットを第1認識物質に、または前記第1認識物質を第2認識物質に認識させることができる。
【0011】
本発明2は、前記発明1において、前記マイクロ流路と前記混合槽との連結部分における前記マイクロ流路の径が、前記混合槽内部の前記微粒子の径よりも大きく形成されて居るマイクロチップを提供する。このマイクロチップは、前記連結部分に形成され、前記混合槽からの前記微粒子の流出を防止する流出止め柱をさらに備えている。
マイクロ流路の最小径が微粒子の径よりも大きい場合、流出止め柱を設けておくことにより、マイクロチップの運搬中などに微粒子が混合槽から外部に漏れてしまうことを防ぐ。また、流出止め柱を設けることにより、マイクロ流路の径を大きく設計できるので、マイクロチップ自体の作製が容易になる。
【0012】
本発明3は、前記発明1において、前記マイクロ流路と前記混合槽との連結部分における前記マイクロ流路の径が、前記微粒子の径よりも小さく形成されているマイクロチップを提供する。
マイクロ流路の最小径が微粒子の径よりも小さい場合、マイクロチップの運搬中などに微粒子が混合槽から外部に漏れてしまうことを防ぐことができる。
【0013】
本発明4は、発明1〜3において、前記混合槽の壁面の一部が、所定の回転方向に沿って湾曲して形成されているマイクロチップを提供する。
混合槽の壁面が回転方向に沿って形成されていると、回転方向に沿ってマイクロチップが回転した場合、混合槽の内容物が湾曲した壁面に沿って移動しやすい。そのため、微粒子と試料とを均一に混合しやすくなる。
【0014】
2以上の回転軸を中心としてマイクロチップを回転させる場合、それぞれの回転方向に沿った湾曲面を混合槽が有していることが好ましい。異なる回転方向に沿って回転させることにより、それぞれの回転において内容物が混合されやすくなる。その結果、混合液の濃度がさらに均一化されやすくなる。
本発明5は、前記発明1〜4において、前記マイクロ流路が、前記混合槽における混合時に、前記混合槽の内容物の圧力を受ける壁面以外の壁面に連結されているマイクロチップを提供する。
【0015】
マイクロ流路は、混合槽における混合工程で、混合液の圧力を受けない壁面に連結されていることが好ましい。例えば、マイクロ流路は、混合時に混合液の圧力を受ける壁面と対向する壁面などに連結されていることが好ましい。試料を混合槽に導入するマイクロ流路や、混合液を後段の工程のために排出するマイクロ流路から混合槽外部に、混合液が流出することを防止しやすくなる。
【0016】
本発明6は、前記発明1〜5において、前記マイクロ流路が、所定の第1回転方向と所定の第2回転方向とにマイクロチップ自身が回転している場合に、混合槽内の混合液が漏れない位置に連結されているマイクロチップを提供する。
混合槽内の微粒子と試料とを回転により混合するには、実際にはマイクロチップを少なくとも2方向に回転する必要がある。一方向の回転だけでは、遠心力が一方向にしか働かず、混合液の濃度を均一化することができないからである。そのため、マイクロ流路の連結部分は、第1回転方向と第2回転方向とにマイクロチップが回転しているときに、混合液が漏れない位置に設けられる。なお、マイクロチップの回転軸は、3つ以上あっても構わない。
【0017】
本発明7は、前記発明1〜6において、前記粒状担体が多糖類系粒状ゲル、ラテックス粒子、または磁性ビーズであるマイクロチップを提供する。
多糖類系粒状ゲル、例えばキトパール(富士紡績株式会社製;登録商標)は、抗原や抗体、酵素などを固定化する担体としての機能に加え、回転により破壊されない強度を有している。そのため、本発明の粒状担体として好適に用いることができる。
【0018】
本発明8は、前記発明1のマイクロチップの使用方法を提供する。この使用方法は、第1の回転方向に前記マイクロチップを回転させ、その後前記第1の回転方向とは異なる第2の回転方向に前記マイクロチップを回転させることにより、前記微粒子と前記試料とを前記混合槽内で混合する混合ステップを含む。
混合槽に導入された試料と、認識物質が固定化された微粒子と、を2方向の回転により混合する。混合槽の場所にかかわらず、認識物質と試料との接触時間はおおむね均一になる。さらに少なくとも異なる2つの回転方向にマイクロチップを回転させるため、微粒子と試料との混合液の濃度を、混合槽内部の位置にかかわらず均一化することができる。
【0019】
本発明9は、前記発明8において、以下のステップをさらに含むマイクロチップの使用方法を提供する。
・前記第1及び第2回転方向とは異なる第3回転方向に前記マイクロチップを回転させることにより、前記混合槽内の混合液の一部を前記マイクロ流路のいずれかにより排出する排出ステップ、
・前記排出ステップで排出された混合液の一部を用い、前記試料中のターゲットの分析を行う分析ステップ。
【0020】
発明8で得られる混合液の濃度は混合槽の場所にかかわらず均一であるため、混合槽内の混合液の一部を抽出するだけで、後工程を実行することができる。そのため、後工程に必要とされる試薬の量などを削減することができる。
本発明10は、前記発明8,9において、前記混合ステップを繰り返す混合繰り返しステップをさらに含むマイクロチップの使用方法を提供する。
【0021】
異なる方向の回転を繰り返すことにより、混合液の濃度の均一化を高めることができる。
本発明11は、前記発明8〜10において、前記混合槽内の混合液が遠心力を受けて押しつけられる壁面内に、前記マイクロ流路と前記混合槽との連結部が含まれないよう、前記第1回転方向及び前記第2回転方向を調整するマイクロチップの使用方法を提供する。
【0022】
混合時に、マイクロ流路から混合液が外部に漏れないよう、回転方向を調整する。これにより、遠心分離などに用いられる回転力により、混合槽内の溶液を混合することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマイクロチップを用いれば、遠心力により微粒子と試料とを接触させることで、ターゲットと第1認識物質との接触時間または第1認識物質と第2認識物質との接触時間が、混合槽中の場所にかかわらず均一化される。さらに、回転方向を変えることにより、微粒子と試料とを混合槽で均一に混合するので、混合液中の反応物の濃度が混合槽の場所にかかわらず均一化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<第1実施形態>
(1)マイクロチップの全体構成
図1は、第1実施形態にかかるマイクロチップの平面図である。本発明が対象とするマイクロチップは、試料中のターゲットとターゲットを認識する物質と微粒子とを混合する工程において、溶液の移動にポンプを使わず遠心力を用いることを前提としたマイクロチップである。
【0025】
図1のマイクロチップ10は、以下の構成要素を有している。
(a)試料導入部
試料導入部11は、試料を外部からマイクロチップ10内部に導入する。試料導入部11は、導入した試料を一時的に保持する機能を有していてもよい。
(b)混合槽
混合槽12は、認識物質が固定化された粒状担体(以下、微粒子という)または認識物質固定化前の粒状担体を、流動可能な状態に保持している。混合槽12は、少なくとも試料と微粒子とが混合される空間であり、さらに試薬が混合される場合もある。固定化される認識物質は、試料中のターゲットと反応する第1認識物質か、または前記第1認識物質と反応する第2認識物質である。ターゲットと第1認識物質との組み合わせ、及び第1認識物質と第2認識物質との組み合わせは、例えば、酵素−基質、助酵素−酵素、抗原−抗体、リガンド−レセプター、DNA−DNA、DNA−RNA、RNA−RNA、PNA−DNA、PNA−RNAからなる群から選択される少なくとも1種である。混合槽12については、詳細を後述する。
【0026】
(c)マイクロ流路
マイクロ流路13a,b(以下、まとめてマイクロ流路13という)は、混合槽12に連結され、混合槽12に試料や試薬を導入したり、混合槽12内の混合液を外部に排出したりする。マイクロ流路13において、混合槽12との連結部分における径は、混合槽12内部の微粒子の径よりも大きく形成されている。ただし連結部分には、流出止め柱17a,bが形成されている。流出止め柱17a,bとマイクロ流路13との間隔は、微粒子の径よりも小さくなるように調整されている。これにより、いかなる回転方向がマイクロチップ10に印加されても、混合槽12内部の微粒子がマイクロ流路13に流出することを防止する。
【0027】
流出止め柱17a,bは、1つの流路13a、bに対して複数本設けても良い。その場合には、流出止め柱17a,bの間隔が微粒子の径を超えないように調整される。
(d)予備混合槽
予備混合槽14は、試料導入部11と混合槽12との間に設けられた空間である。予備混合槽14は、試薬を保持している。試料導入部11から導入された試料と試薬とは、予備混合槽14で混合される。混合された試料と試薬とは、マイクロ流路13aを通って混合槽12に移動する。予備混合槽14に保持される試薬は、例えば第1認識物質としての酵素標識抗体である。酵素標識抗体は、試料中のターゲットと反応する。さらに、酵素標識抗体は、酵素の働きによって発色反応を促進する。予備混合槽14の大きさや形状は特に限定されない。予備混合槽14は、例えば10〜30μL程度の体積を有している。
【0028】
(e)比色反応部
比色反応部15は、試薬を保持する空間である。混合槽12から比色反応部15に導入された混合液と、比色反応部15内の試薬とは、さらに混合される。試薬としては、混合液内に含まれる酵素などの標識物質と反応し、一定の色を発色する物質が選択される。本発明では、混合槽12内の混合液の濃度は均一化されており、混合液の全量を比色反応部15に移動させる必要がないため、比色反応部15の容量や保持する試薬の量を抑えることができる。比色反応部15の大きさや形状は特に限定されないが、例えば10〜100μL程度の体積を有している。
【0029】
(f)検出部
検出部16には、比色反応部15において所定の色を発色した反応物質が導入される。検出部16に導入された発色反応物質は、所定の検出方法により、その濃度や量などが検出される。検出方法は、光学的方法が一般的に用いられる。光学的検出方法を用いる場合、検出部16には、内部に光を照射し、その反射光や透過光、散乱光などを検出できるよう、光の入射口や光路、光の出射口が形成されている。検出部16は、例えば10mm程度の長さを有し、断面積が0.25〜1mm2程度の一定形状を有している。
【0030】
(2)混合槽
(2−1)混合槽の形状
前記混合槽12の壁面の一部は、所定の回転方向に沿って湾曲して形成されている。混合槽12の壁面が回転方向に沿って形成されていると、微粒子と試料との混合を促進し、混合液中の反応物の濃度を均一化しやすい。
【0031】
本発明のマイクロチップ10は、2以上の異なる回転方向(以下、第1回転方向、第2回転方向という)にマイクロチップ10を回転させ、混合槽12内の微粒子と試料とを混合する。混合槽12内の微粒子と試料とを回転により混合するには、一方向の回転だけでは、混合液の濃度を均一化することができないからである。そのため、混合槽12は、第1回転方向に沿った湾曲面W1及び第2回転方向に沿った湾曲面W2を有していることが好ましい。微粒子と試料との混合を促進することができ、ひいては混合液の濃度の均一性を高めることができる。
【0032】
第1回転方向の回転で生じる遠心力F1と、第2回転方向の回転で生じる遠心力F2とは、なす角度が180度に近いほど混合を促進しやすいが、より小さな角度、例えば90度程度の角度でも混合することができる。しかし、湾曲面W1、W2は、滑らかに連続していることが好ましい。回転方向が変わるときに、微粒子が混合槽12内壁に沿って移動しやすいからである。
【0033】
(2−2)混合槽とマイクロ流路との連結
マイクロ流路13は、混合槽12における混合時に、混合槽12の内容物の圧力を受ける壁面以外の壁面に連結されている。言い換えれば、マイクロ流路13は、前述の第1回転方向と第2回転方向とにマイクロチップ10が回転している場合、混合槽12内の混合液が漏れないような位置に連結されている。この例では、湾曲面W1,W2以外の面に、マイクロ流路13は連結されている。
【0034】
これにより、試料を混合槽12に導入するマイクロ流路13aや、混合液を比色反応部15に排出するマイクロ流路13bから混合槽12外部に、混合液が流出することを防止しやすくなる。
なお、マイクロ流路13aは、所定の第3回転方向にマイクロチップ10を回転させたとき、図中矢印Finの方向に働く遠心力により予備混合槽14から混合槽12内部に液体が導入される位置及び向きに、予備混合槽14と混合槽12とを連結している。これにより、予備混合槽14内の液体は、マイクロ流路13aを通って混合槽12に導入される。
【0035】
また、マイクロ流路13bは、所定の第4回転方向にマイクロチップ10を回転させたとき、図中矢印Foutの方向に働く遠心力により、混合槽12内部の混合液が流出可能な位置及び向きに連結されている。これにより、混合液は、マイクロ流路13bを通って比色反応部15に導入される。
(2−3)混合槽内の粒状担体
粒状担体は、予め混合槽12に保持されている。粒状担体には、予め第1認識物質または第2認識物質が固定化されていてもよいし、固定化されていなくてもよい。後者の場合、試料を混合槽12に導入するに先立ち、第1認識物質または第2認識物質を含む試薬を混合槽12に導入する。これにより、混合槽12内部で粒状担体に第1認識物質または第2認識物質を固定化し、微粒子を生成することができる。その後、混合槽12内に試料を導入し、生成された微粒子と試料とを遠心力により接触させることで、試料中のターゲットを第1認識物質に、または第1認識物質を第2認識物質に、認識させることができる。
【0036】
第1認識物質または第2認識物質が固定化される粒状担体は、第1認識物質または第2認識物質と共有結合を生成しやすい粒子が好ましい。粒状担体の粒径は、数100μmを超えないことが好ましい。さらに、粒状担体は、マイクロチップ10が遠心分離にかけられても、混合槽12内部で破壊されない程度の強度を有していることが好ましい。このような条件を充足する粒状担体の一例として、多糖類系粒状ゲル、ラテックス粒子、磁性ビーズを挙げることができる。
【0037】
多糖類系粒状ゲルの好ましい例としては、キトパール(富士紡績株式会社製:登録商標)が挙げられる。なお、キトパールを粒状担体として用いる場合、混合槽12に緩衝液を保持させ、キトパールの乾燥を防止する。キトパールと緩衝液とを合わせた容量は、例えば16μリットル程度であり、この中でキトパールが占める容量は10マイクロリットル程度である。
【0038】
磁性ビーズの一例としては、Fe3O4, γ-Fe2O3, Co-γ-Fe2O3, (NiCuZn)O・Fe2O3, (CuZn)O・Fe2O3, (Mn・Zn)O・Fe2O3, (NiZn)O・Fe2O3, SrO・6Fe2O3, BaO・6Fe2O3, SiO2で被覆したFe2O3、各種の高分子材料(ナイロン、ポリアクリルアミド、タンパク質など)とフェライトとの複合微粒子、磁性金属微粒子などを挙げることができる。
なお、マイクロチップの各機能部の配置や数、形状などは、上記の例に限定されない。例えば、導入部11から混合槽12に至る各機能部の配置や形状、混合槽12から検出部16に至る各機能部の配置や形状は、必要に応じて適宜設計変更することができる。
【0039】
(3)マイクロチップにおける反応プロセス
次に図2及び図3を用い、図1のマイクロチップ10における反応プロセスの流れについて説明する。
図2は、予備混合槽14に第1認識物質としての標識抗体が、混合槽12に第2認識物質を固定化した微粒子が、それぞれ保持されている場合の処理プロセスを示す。この図では、第2認識物質として、第1認識物質と抗原抗体反応を示す固定化抗原/抗体を考える。
【0040】
まず、試料導入部11から予備混合槽14にターゲットを導入し(S1)、予備混合槽14でターゲットと第1認識物質とを混合して反応させる(S2)。次いで、反応液を混合槽12に導入し(S3)、固定化抗原/抗体と、ターゲットと第1認識物質との反応物質と、第1認識物質と、を混合する(S4)。これにより、第1認識物質と固定化抗原/抗体とが反応し、第1認識物質が微粒子に捕捉される。微粒子に捕捉された第1認識物質は混合槽12内に留まる。一方、第1認識物質と反応したターゲットが微粒子に捕捉されることなく比色反応部15に導入され、いわゆるB/F分離が行われる(S5)。その後、比色反応部15に導入された、標識抗体とターゲットとの反応物質を発色物質と混合し、標識抗体におけるHRPの活性によって発色させる。発色した混合液を例えば吸光度測定し、得られた結果を換算することにより、試料中のターゲットを定量することができる。
【0041】
図3は、予備混合槽14に標識ターゲットが、混合槽12に第1認識物質を固定化した微粒子が、それぞれ保持されている場合の処理プロセスを示す。この図では、第1認識物質として、ターゲットと抗原抗体反応を示す固定化抗原/抗体を考える。
まず、試料導入部11から予備混合槽14にターゲットを導入し、予備混合槽14でターゲットと標識ターゲットとを混合する(S11)。次いで、混合液を混合槽12に導入し(S12)、固定化抗原/抗体と、ターゲットと、標識ターゲットと、を混合する(S13)。これにより、ターゲット及び標識ターゲットと固定化抗原/抗体とが反応し、ターゲット及び標識ターゲットの一部が微粒子に捕捉される。微粒子に捕捉されたターゲット及び標識ターゲットは混合槽12内に留まる。一方、残りのターゲット及び標識ターゲットは、微粒子に捕捉されることなく比色反応部15に導入され、いわゆるB/F分離が行われる(S14)。その後、比色反応部15に導入された、標識ターゲット及びターゲットを発色物質と混合し、標識ターゲットにおけるHRPの活性によって発色させる。発色した混合液を例えば吸光度測定し、得られた結果を換算することにより、標識ターゲットを定量する。最初に用いた標識ターゲットの量と試料の量との比と、定量した標識ターゲットの量と、からターゲットを定量することができる。
【0042】
(4)マイクロチップの使用方法
図4は、図1のマイクロチップ10の使用方法の説明図である。ここでは、混合槽12には、第1認識物質または第2認識物質が固定化された粒状担体が予め保持されている場合を説明する。以下の使用方法は、試料導入ステップ、第1混合ステップ、第2〜第4混合ステップ及び排出ステップを含む。
【0043】
(4−1)試料導入ステップ
まず、図4(a)に示すように、第3回転方向にマイクロチップ10を回転させ、図中矢印Finで示す方向の遠心力を印加する。これにより、試料導入部11の試料及び予備混合槽14の試薬を、混合槽12に導入する。これにより、試料中のターゲットと混合槽12中の第1認識物質と、または予備混合槽14から導入される第1認識物質と混合槽12中の第2認識物質と、が接触する。混合槽12における反応物質同士の接触時間は、混合槽12内部の場所にかかわらずほぼ均一となる。
【0044】
(4−2)第1混合ステップ
次いで図4(b)に示すように、第1回転方向にマイクロチップ10を回転させ、図中矢印F1で示す方向の遠心力を印加する。これにより、混合槽12内の液体と微粒子とを攪拌/混合する。混合液に異なる方向の遠心力が加わることで、被検出物質の濃度の均一性を高めることができる。第1回転方向中の遠心力F1と、試料を混合槽に導入する時に印加される遠心力Finとが180度に近いほど、反応物質の濃度を均一化しやすい傾向にある。 (4−3)第2〜第4混合ステップ
図4(c)に示すように、第2回転方向にマイクロチップ10を回転させ、第2混合ステップを行う。これにより、混合槽12内の液体と微粒子とを攪拌/混合する。混合液に異なる方向の遠心力が加わることで、被検出物質の濃度の均一性をさらに高めることができる。第1回転方向に回転中に働く遠心力F1と、第2回転方向に回転中に働く遠心力F2とが180度に近いほど、反応物質の濃度を均一化しやすい傾向にある。
【0045】
なお、混合槽内の微粒子と試料とを回転により混合するには、実際にはマイクロチップを少なくとも異なる2方向に回転する必要がある。一方向の回転だけでは、遠心力が一方向にしか働かず、混合液の濃度を均一化することができないからである。なお、マイクロチップの回転軸は、3つ以上あっても構わない。
その後、再度第1回転方向にマイクロチップ10を回転させ(図4(b))、第3混合ステップを行う。さらにその後もう一度第2回転方向にマイクロチップ10を回転させ(図4(c))、第4混合ステップを行う。このように、回転方向を変えることにより遠心力F1,F2を繰り返し印加し、混合液中の反応物質の濃度の均一性をさらに高めることができる。
【0046】
回転方向の変化は少なくとも1回行い(前記第1混合ステップ)、その後は試料や試薬の粘度、粒状担体の大きさや重さ、混合槽12の形状などに応じ、第2,第3・・・の混合ステップを適宜実行すればよい。必要に応じ、第5,第6・・・混合ステップを実行してもよい。
第1〜第4混合ステップにおいて、混合槽12内の混合液が遠心力を受けて押しつけられる壁面内に、マイクロ流路13a,bと混合槽12との連結部が含まれないよう、各今号ステップにおける回転方向を調整する。回転方向が3つ以上の場合も同様である。混合槽12から混合液が外部に流出するのを防止するためである。
【0047】
(4−4)排出ステップ
混合の終了後、図4(d)に示すように、第4回転方向にマイクロチップ10を回転させる。これにより、混合液を混合槽12から比色反応部15に移動させる。このとき、混合槽12中の混合液全てを比色反応部15に移動させる必要はない。混合液中の反応部の濃度は、混合槽12の場所によらず均一化されているので、その一部を比色反応部15に移動させれば足りる。そのため、比色反応用試薬の量を抑えることができる。その後、比色反応部15で発色した反応液を検出部16に導入し、反応物質の分析や測定を行うことにより、ターゲットの検出を行う。
【0048】
なお、混合槽12の後段の処理は、比色反応や検出・分析・測定処理に限定されない。マイクロチップ10の使用目的に応じ、必要な機能部をマイクロチップ10に設け、それらの機能部を用いた処理を実行することができる。
<実験例>
本発明に係るマイクロチップ10を作成し、作成したマイクロチップ10を用いて実験を行った。図5は、本発明のマイクロチップ10の一実験例を示す写真である。この実験において、粒状担体としてはキトパールを、認識物質としては抗イディオタイプ抗体を、ターゲットとしてはCRPを、ターゲットを含む試料としてはPBSで調整したCRP入り溶液を用いた。また、試料溶液の量は12μL、キトパールの量は10μLであった。
【0049】
図5(a)は、図中矢印方向の遠心力Finが発生する回転方向にマイクロチップ10を回転し、混合槽12に試料を導入した段階を示す。この段階では、微粒子のうち図中上面側に位置するものが、ターゲットと反応している。
図5(b)、(c)、(d)は、それぞれ順に、図中矢印方向の遠心力F1が発生する第1回転方向、遠心力F2が発生する第2回転方向、次いでもう一度第1回転方向に、10秒ずつマイクロチップ10を回転した後の状態を示す。回転方向を変えて回転する度に、微粒子とターゲットとの反応が進行していることが分かる。また、微粒子の中で反応した微粒子と未反応の微粒子とは、偏りなく均等に分布していることが分かる。
【0050】
〔効果〕
遠心力により微粒子と試料とを接触させることで、ターゲットと第1認識物質との接触時間または第1認識物質と第2認識物質との接触時間が、混合槽12中の場所にかかわらず均一化される。さらに、回転方向を変えることにより、微粒子と試料とを混合槽12で均一に混合するので、混合液中の反応物の濃度が混合槽12の場所にかかわらず均一化される。
【0051】
上記のように均一な濃度を有する混合液が得られれば、混合工程後の後工程には、混合液全てを用いなくてもその一部を抽出して用いればよい。従って、混合工程の後工程に用いる部分に導入する溶液の量を減らし、マイクロチップ10全体を小型化することができる。混合工程の後工程に用いる部分としては、例えば第2の混合槽や検出部16を挙げることができる。また、混合槽12の下流側にさらにミキシングのための流路を設けている場合、その流路を短くしたり省略するなどにより、マイクロチップ10全体を小型化することができる。
【0052】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係るマイクロチップ20の平面図である。第1実施形態のマイクロチップ10と同様の機能を有する構成要素については、同一の符号番号を付して示している。本実施形態のマイクロチップ20では、マイクロ流路13の径が、混合槽12との連結部分において、混合槽12内部の微粒子の径よりも小さく形成されている。これにより、いかなる回転方向がマイクロチップ10に印加されても、混合槽12内部の微粒子がマイクロ流路13に流出することを防止することができる。本実施形態のマイクロチップ20の他の構成、マイクロチップ20を用いた処理プロセス、マイクロチップ20の使用方法などについては、前記第1実施形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のマイクロチップは、医療、食品、創薬などの分野で使用される臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ、タンパク質分析チップ、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップ、バイオセンサなどに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のマイクロチップの一実施形態を示す平面図
【図2】本発明のマイクロチップを用いた処理プロセス(1)の説明図
【図3】本発明のマイクロチップを用いた処理プロセス(2)の説明図
【図4】本発明のマイクロチップの使用方法を説明するための一連動作を示す平面図
【図5】本発明に係るマイクロチップの使用方法の実験例における一連の動作を示す平面写真
【図6】第2実施形態に係るマイクロチップの平面図
【図7】従来のマイクロチップの構成を示す斜視図
【図8】従来のマイクロチップの使用方法を説明する平面写真
【符号の説明】
【0055】
10:マイクロチップ
11 試料導入部
12:混合槽
13a,13b:マイクロ流路
14:予備混合槽
15:比色反応部
16:検出部
W1,W2:混合槽の湾曲面
F1:第1回転における遠心力
F2:第2回転における遠心力
Fin:第3回転における遠心力
Fout:第4回転における遠心力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心力を用いて試料を処理するマイクロチップであって、
前記試料中のターゲットを認識する第1認識物質または前記第1認識物質を認識する第2認識物質が粒状担体に固定化されてなる微粒子と、前記試料と、を混合する混合槽と、
前記混合槽に連結されているマイクロ流路と、を備え、
前記混合槽は、前記微粒子を流動可能な状態に保持している、
マイクロチップ。
【請求項2】
前記マイクロ流路と前記混合槽との連結部分における前記マイクロ流路の径が、前記混合槽内部の前記微粒子の径よりも大きく形成されており、
前記連結部分に形成され、前記混合槽からの前記微粒子の流出を防止する流出止め柱をさらに備える、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記マイクロ流路と前記混合槽との連結部分における前記マイクロ流路の径が、前記微粒子の径よりも小さく形成されている、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記混合槽の壁面の一部は、所定の回転方向に沿って湾曲して形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記マイクロ流路は、前記混合槽における混合時に、前記混合槽の内容物の圧力を受ける壁面以外の壁面に連結されている、請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記マイクロ流路は、所定の第1回転方向と所定の第2回転方向とにマイクロチップ自身が回転している場合に、混合槽内の混合液が漏れない位置に連結されている、請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記粒状担体は、多糖類系粒状ゲル、ラテックス粒子、または磁性ビーズである、請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項8】
請求項1に記載のマイクロチップの使用方法であって、
第1の回転方向に前記マイクロチップを回転させ、その後前記第1の回転方向とは異なる第2の回転方向に前記マイクロチップを回転させることにより、前記微粒子と前記試料とを前記混合槽内で混合する混合ステップを含む、マイクロチップの使用方法。
【請求項9】
前記第1及び第2回転方向とは異なる第3回転方向に前記マイクロチップを回転させることにより、前記混合槽内の混合液の一部を前記マイクロ流路のいずれかにより排出する排出ステップと、
前記排出ステップで排出された混合液の一部を用い、前記試料中のターゲットの分析を行う分析ステップと、
をさらに含む、請求項8に記載のマイクロチップの使用方法。
【請求項10】
前記混合ステップを繰り返す混合繰り返しステップをさらに含む、請求項8または9に記載のマイクロチップの使用方法。
【請求項11】
前記混合ステップにおいて、前記混合槽内の混合液が遠心力を受けて押しつけられる壁面内に、前記マイクロ流路と前記混合槽との連結部が含まれないよう、前記第1回転方向及び前記第2回転方向を調整する、請求項8、9または10に記載のマイクロチップの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−155484(P2007−155484A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350585(P2005−350585)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】