マイクロチップ
【課題】比重の異なる第1成分と第2成分とを含む検体中の第1成分と第2成分とを分離するための分離部を備えるマイクロチップにおいて、流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことができ、取り出された第1成分について正確かつ信頼性の高い検査または分析を行なうことができるマイクロチップを提供する。
【解決手段】内部に流体回路を有するマイクロチップであって、互いに比重の異なる第1成分と第2成分とを含有する検体を流体回路内に導入するための検体導入口を有し、流体回路は、検体導入口に接続され、検体導入口から導入された検体の計量を行なうための所定の容積を有する検体計量部と、検体計量部に接続され、計量された検体の全量を収容できる容量を有する部位であって、計量された検体の全量を収容するとともに、収容された検体中の第1成分と第2成分とを分離するための分離部とを含むマイクロチップである。
【解決手段】内部に流体回路を有するマイクロチップであって、互いに比重の異なる第1成分と第2成分とを含有する検体を流体回路内に導入するための検体導入口を有し、流体回路は、検体導入口に接続され、検体導入口から導入された検体の計量を行なうための所定の容積を有する検体計量部と、検体計量部に接続され、計量された検体の全量を収容できる容量を有する部位であって、計量された検体の全量を収容するとともに、収容された検体中の第1成分と第2成分とを分離するための分離部とを含むマイクロチップである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験または分析操作を、数cm〜10cm角で、厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査または分析ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0004】
マイクロチップは、その内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検査または分析の対象である検体(たとえば、血液等)と混合あるいは反応させる、または該検体を処理するための液体試薬を保持するための液体試薬保持部;該検体や液体試薬を計量するための計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;該混合液について検査または分析を行なうための検出部などの各部位と、これら各部位を適切に接続する微細な流路とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体(または検体中の特定成分)および/または液体試薬の計量、検体(または検体中の特定成分)と液体試薬との混合、ならびに得られた混合液の検出部への導入等の処理を行なうことができる。なお、マイクロチップ内でなされる、各種液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、またはこれらのうちの2種以上の混合物もしくは反応物など)のある部位から他の部位への移送、計量、混合などの処理を以下では「流体処理」ということがある。
【0005】
たとえば特許文献1には、血液検査用チップとして好適に用いられるマイクロチップが開示されている。当該文献に開示されるマイクロチップは、マイクロチップ内に導入された全血から血球成分を分離し、血漿成分を取り出すための血球分離部を流体回路の一部として備えており、血漿成分のみを用いた検査を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−133805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図28は、特許文献1(図3〜4、6〜12)に記載される2層の流体回路を備えるマイクロチップを構成する第2の基板の一部を拡大して示す上面図および下面図である。図28(a)は第2の基板を上から見たときの図であり、マイクロチップの第1の流体回路(上側流体回路)およびそこに存在する液体(検体など)の位置を示している。図28(b)は第2の基板を下から見たときの図であり、マイクロチップの第2の流体回路(下側流体回路)およびそこに存在する液体(検体など)の位置を示している。なお、図28(b)では、図28(a)に示される第1の流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の流体回路を示している。
【0008】
図28を参照して、検体として全血を用いた場合を例に挙げて、特許文献1に記載のマイクロチップを用いた流体処理の例を説明する。まず、検体導入口120’から全血600’を導入した後、マイクロチップに対して、図28における下向きに遠心力を印加する。これにより、全血600’は、貫通穴20a’を通って第2の流体回路に移動し、ついで、流量制限部700’を通って血球分離部420’に導入される〔図28(b)参照〕。血球分離部420’に導入された全血は、上記下向きの遠心力によって遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。一方、血球分離部420’から溢れた全血は、貫通穴20b’を通って第1の流体回路に移動し、廃液溜め430’に収容される〔図28(a)参照〕。図28(a)および(b)は、以上の流体処理を行なったときの状態を示したものである(特許文献1の図6に相当)。
【0009】
上記のような構成の流体回路を有する特許文献1のマイクロチップには以下に示す点において改善の余地があった。すなわち、特許文献1のマイクロチップにおいては、血球分離部420’の上方に流量制限部700’を設け、その流路幅を狭くして、血球分離部420’に導入する際の全血600’の流量および液幅を制限することにより、全血600’が血球分離部420’内に確実に誘導され、かつ血球分離部420’が全血600’で充填されるように設計しているが、流量制限部700’の流路幅が狭いことによって、全血600’の全量が流量制限部700’を通過するまでの間に、全血600’が流量制限部700’にて遠心分離され、血漿成分の比率が高くなった層と血球成分の比率が高くなった層とに分離する、いわゆる「前分離」が生じることがあった。前分離が生じた状態の全血600’を血球分離部420’に導入すると、実際の血球濃度(採取した検査対象である全血の血球濃度)よりも高い血球濃度を有する全血が血球分離部420’内に収容され、実際の血球濃度よりも低い血球濃度を有する全血がオーバーフローして廃液溜め430’に収容されることになる。このような成分含有量の変動が生じると、マイクロチップ内で行なう流体処理に必要な量の血漿成分が得られず(特許文献1における検体計量部401,402,403,404,405,406に送液される血漿成分中に血球成分が混入する。)、検査不良の原因となり得る。
【0010】
一方、前分離を防止するために、流量制限部700’の流路幅を広くすると、全血600’が血球分離部420’の底部に達する前に血球分離部420’の挟部421’を満たし、血球分離部420’内部の空気の排出を阻害して、血球分離部420’に全血600’が充填されなくなる「詰まり現象」が生じやすくなる。かかる詰まり現象が生じた場合にも、必要量の血漿成分を得ることができなくなるため、検査不良の原因となり得る。
【0011】
そこで本発明は、互いに比重の異なる第1成分(たとえば血漿成分)と第2成分(たとえば血球成分)とを含む検体(たとえば全血)中の第1成分と第2成分とを遠心分離により分離するための分離部を備えるマイクロチップにおいて、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことができ、もって、取り出された第1成分について正確かつ信頼性の高い検査または分析を行なうことができるマイクロチップ(たとえば血液検査用マイクロチップ)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1の基板と、該第1の基板上に積層され、基板表面に溝を備える第2の基板とを含み、該溝および第1の基板における第2の基板側表面から構成される空間を含む流体回路を有するマイクロチップであって、流体回路内に、互いに比重の異なる第1成分と第2成分とを含有する検体を導入するための検体導入口を有し、流体回路は、検体導入口に接続され、検体導入口から導入された検体の計量を行なうための所定の容積を有する検体計量部と、検体計量部に接続され、計量された検体の全量を収容できる容量を有する部位であって、計量された検体の全量を収容するとともに、収容された検体中の第1成分と第2成分とを分離するための分離部とを含むマイクロチップを提供する。
【0013】
分離部は、計量された検体を収容するための開口と、分離された第1成分を収容するための第1成分収容部と、分離された第2成分を収容するための第2成分収容部とをこの順で含む構造であることができる。第1成分収容部の容積は、計量された検体の体積より大きいことが好ましい。
【0014】
本発明のマイクロチップは、第1の基板と、該第1の基板上に積層され、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、該第2の基板上に積層される第3の基板とを含むものであってもよい。この場合、流体回路は、第1の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第2の流体回路とを含む。このような2層の流体回路を有するマイクロチップにおいては、たとえば、第1の流体回路が検体計量部を有し、第2の流体回路が分離部を有する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロチップによれば、検体中の第1成分と第2成分とを分離するための分離部の前(すなわち、流体回路における検体移動方向の上流側)に検体の所定量を計量するための検体計量部を設け、かつ分離部を、計量された検体の全量を収容できる容量にしているため、仮に上述のような前分離が生じた場合であっても、分離部に収容された検体の成分含有量の変動は生じず、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことができ、もって、取り出された第1成分について正確かつ信頼性の高い検査または分析を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のマイクロチップを構成する第2の基板の一例を一部拡大して示す平面図である。
【図2】本発明のマイクロチップの一例を示す外形図である。
【図3】本発明のマイクロチップを構成する第2の基板の一例を示す上面図である。
【図4】本発明のマイクロチップを構成する第2の基板の一例を示す下面図である。
【図5】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の全血計量、試薬計量工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図6】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の全血移動工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図7】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の血球分離工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図8】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の血漿成分計量工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図9】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第1ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図10】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第2ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図11】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第1ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図12】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第2ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図13】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の検出部導入工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図14】本発明のマイクロチップの他の一例を示す上面図である。
【図15】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理のサンプル管収容工程における液体の状態を示す図である。
【図16】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の試薬計量工程における液体の状態を示す図である。
【図17】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の全血計量工程における液体の状態を示す図である。
【図18】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の血漿分離工程における液体の状態を示す図である。
【図19】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の血漿成分計量工程における液体の状態を示す図である。
【図20】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第1ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図21】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第2ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図22】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第3ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図23】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第1ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図24】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第2ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図25】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第3ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図26】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の検出部導入工程における液体の状態を示す図である。
【図27】図26に示されるマイクロチップの検出部に光を照射し、光学測定を行なう様子を示す図である。
【図28】特許文献1に開示される2層の流体回路を備えるマイクロチップの一部を拡大して示す上面図および下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが有する流体回路を用いて行なうことができるチップであり、少なくとも、第1の基板と、該第1の基板上に積層され、基板表面に溝を備える第2の基板とから構成される。マイクロチップの流体回路は、上記溝および第1の基板における第2の基板側表面から構成される空間を含む。マイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm〜10cm程度、厚さ数mm〜数cm程度とすることができる。
【0018】
また、本発明のマイクロチップは、第1の基板と、該第1の基板上に積層され、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、該第2の基板上に積層される第3の基板とを含むものであってもよい。この場合、流体回路は、第1の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第2の流体回路との2層構造を有する。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第2の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。
【0019】
流体回路を2層構造とすることにより、流体回路の集積化および高密度化が可能となり、これにより、より複雑な流体処理が可能なマイクロチップを得ることができる。また、基板面積(マイクロチップ面積)を小さくすることができる。これにより、基板貼り合わせ時における各基板の平面性を確保しやすくなり、基板貼り合わせ時における基板全体にわたっての圧力均一性が得られやすくなるため、接着不良を防止することができる。
【0020】
基板同士を貼り合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)、接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザー等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法(レーザー溶着);超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。なかでもレーザー溶着法が好ましく用いられる。
【0021】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、スチレン−ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)などの有機材料;シリコン、ガラス、石英などの無機材料等を用いることができる。なかでも、流体回路の形成のし易さ等を考慮すると、樹脂を用いることが好ましく、より好ましくは、スチレン−ブタジエン共重合体等のスチレン系樹脂である。スチレン−ブタジエン樹脂は、スチレンに起因する良好な透明性と、ブタジエンに起因する良好な粘性とを併せ持つため、微細パターンを形成するために、樹脂と金型の接触面積が非常に高くなる場合であっても、割れることなく、形状を維持したまま、樹脂を金型から容易に離型することができる。
【0022】
マイクロチップが第1の基板と、基板表面に溝を備える第2の基板とから構成される場合、第2の基板は、光学測定の際、検出光が照射される部位を含んでいることから、透明基板とすることが好ましい。第1の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよいが、レーザー溶着を行なう場合には、光吸収率を増大できることから、不透明基板とすることが好ましく、基板を樹脂から構成し、該樹脂中にカーボンブラック等の黒色顔料を添加することにより黒色基板とすることがより好ましい。
【0023】
マイクロチップが第1の基板と、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、第3の基板とから構成される場合、レーザー溶着の効率性の観点から、第2の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第1および第3の基板は、検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第1および第3の基板を透明基板とすると、第2の基板に設けられた貫通穴と、透明な第1および第3の基板とから検出部(光学測定用キュベット)を形成でき、マイクロチップ表面と略垂直な方向から該検出部に光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0024】
第2の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。溝の形状は適切な流体回路構造となるように決定される。
【0025】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路は、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、および、これらのうちの2種以上の混合物または反応物など)に対して適切な流体処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
【0026】
本発明のマイクロチップにおいて流体回路は、検体の計量を行なうための所定の容積を有する検体計量部と、検体中の成分の分離を行なう分離部とを少なくとも備える。ここで、「検体」とは、流体回路内に導入される、マイクロチップが行なう検査または分析等の対象となる物質であり、たとえば全血である。検体は、互いに比重の異なる第1成分と第2成分とを含んでおり、検体から取り出されて、検査または分析等のための流体処理に供されるべき第1成分は、通常、第2成分より比重が小さい。検体は、第1の基板(または第3の基板)を厚み方向に貫通し、流体回路に接続された貫通穴からなる検体導入口から流体回路内に導入される。
【0027】
上記検体計量部は、検体導入口に接続され、検体導入口から導入された検体の計量を行なうための部位である。また、上記分離部は、検体計量部に接続され、計量された検体の全量を収容するとともに、収容された検体中の第1成分と第2成分とを分離するための部位である。すなわち、これらの部位は、検体導入口→検体計量部→分離部の順で直列的に接続されており、検体は、マイクロチップへの適切な方向の遠心力の印加により、この順で各部位を移動する。
【0028】
上記のような配置で検体計量部および分離部を設けることにより、検体計量部と分離部との間に上述のような流量制限部を設けた場合であっても、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことが可能となる。すなわち、検体導入口、検体計量部、分離部をこの順で有する本発明のマイクロチップにおいては、検体導入口から導入された検体は、遠心力の印加により、所定の容積を有する検体計量部に収容され、当該所定の量の検体が計量される〔過剰分の検体はオーバーフローし、溢出液収容部(廃液溜め)に収容される〕。「所定の量」とは、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を含有している量またはそれ以上の量である。
【0029】
ついで、検体計量部と分離部との間に流量制限部が存在する場合には、計量された検体は、この流量制限部を通って分離部に導入される。この際、分離部は、計量された検体の全量を収容できる容量を有しているため、計量された検体の全量が分離部に収容されることとなる。したがって、仮に流量制限部において、上述のような「前分離」が生じた場合であっても、分離部に収容された検体の成分組成は、検体導入口から導入される検体と等しく、成分含有量の変動は生じない。よって、分離部には、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を含有している量またはそれ以上の量で検体が収容されるので、これを遠心分離することにより、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことができる。
【0030】
なお、流量制限部はなくてもよいが、計量された検体を確実に分離部へ誘導するために流量制限部を設ける方が好ましい。
【0031】
図1は、本発明のマイクロチップを構成する第2の基板の一例を一部拡大して示す平面図であり、後述する第1の実施の形態に係るマイクロチップ100を構成する第2の基板の一部を示したものである。後述するように、このマイクロチップ100は、2層の流体回路を有しており、図1は下側流体回路(第2の流体回路)の一部を示している。図1を参照して、マイクロチップ100は、その下側流体回路の一部として、流量制限部700と分離部420とを備える。図示されるように、分離部420は、流量制限部700の端部直下に設けられる、検体を受け入れるための開口421と、遠心分離により分離された第1成分を収容するための第1成分収容部422と、分離された第2成分を収容するための第2成分収容部424とをこの順で含む構造であることが好ましい。第1成分収容部422と第2成分収容部424とは、比較的容量の小さい(幅の狭い)空間からなる挟部423によって接続されている。分離部420は、この狭部423内に第1成分と第2成分との界面が位置するように設計される。遠心分離により第1成分収容部422に収容された第1成分は、次工程にて、マイクロチップに対して図1における右向きの遠心力を印加することにより、狭部423および第2成分収容部424に収容された液体(主に第2成分からなる)から分離されて取り出される。なお、流量制限部700と、図1に示されていない検体計量部(上側流体回路内に配置されている)とは、貫通穴30によって接続されている。
【0032】
流量制限部700の流路幅などの影響により、上記構成のマイクロチップにおいても、上述のような「詰まり現象」が生じることを完全には否定できない。したがって、詰まり現象が生じても必要量の第1成分を確実に得ることができるよう、分離部420における第1成分収容部422の容積を、計量された検体の体積(すなわち、検体計量部の容積)より大きくしておくことが好ましい。これにより、詰まり現象が生じた場合であっても、第1成分収容部422のみで、計量された検体の全量を収容することができるため、詰まり現象により検体が分離部420からオーバーフローして、分離部420に収容される検体量が不足するという不具合を防止することができる。第1成分収容部422の容積は、当該領域の溝の深さや第1成分収容部422を画する壁Kの長さの調整により容易に調整することができる。
【0033】
本発明のマイクロチップは、たとえば血液検査用マイクロチップとして好適に用いることができ、この場合、上記分離部を、流体回路内に導入された全血から、血球成分(第2成分)を分離除去し、血漿成分(第1成分)を抽出するための血球分離部として利用することができる。取り出された血漿成分は、流体回路内で必要な流体処理が施され、検査または分析に供される。
【0034】
流体回路は、上記検体計量部および分離部以外の他の部位を有していてもよい。他の部位としては、特に限定されるものではないが、液体試薬を保持するための試薬保持部;取り出された第1成分(たとえば血漿成分)を計量するための第1成分計量部;液体試薬を計量するための試薬計量部;計量された液体試薬と計量された第1成分とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査または分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)を行なうための検出部などを挙げることができる。これらの各部位は、それぞれ1つのみであってもよいし、2以上あってもよい。また、本発明のマイクロチップは、これら例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。
【0035】
なお、「液体試薬」とは、マイクロチップが行なう検査または分析の対象となる検体(第1成分)を処理する、または該検体と混合あるいは反応される試薬であり、通常、マイクロチップ使用前にあらかじめ流体回路の試薬保持部に内蔵されている。
【0036】
流体回路が2層構造である場合、上記各部位は、第1の流体回路内、第2の流体回路内のいずれに配置されていてもよいが、流体回路の高集積化および高密度化の観点から、検体計量部を第1の流体回路内に配置した場合には、分離部は第2の流体回路内に配置することが好ましい。
【0037】
本発明のマイクロチップが試薬保持部を有する場合においては、マイクロチップ表面(第1または第3の基板表面)には、内部の試薬保持部まで貫通する貫通穴である試薬導入口が設けられるのが通常である。このようなマイクロチップは、通常、試薬導入口から液体試薬が注入された後、マイクロチップ表面に当該試薬導入口を封止するためのラベルまたはシールが貼着されて、使用に供される。
【0038】
検体の計量;検体からの第1成分の抽出;第1成分および液体試薬の計量;第1成分と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定することにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0039】
第1成分と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液は、特に限定されないが、たとえば、混合液を収容した検出部に光を照射し、透過する光の強度(透過率)を検出する方法;検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定などの供され、検査または分析が行なわれる。
【0040】
以下、実施の形態を示して、本発明を詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図2は、本発明のマイクロチップの一例を示す外形図であり、図2(a)は上面図、図2(b)は側面図、図2(c)は下面図である。図2に示されるマイクロチップ100は、透明基板である第1の基板101、黒色基板である第2の基板102および透明基板である第3の基板103をこの順で貼り合わせてなる〔図2(b)参照〕。これら基板の縦横の長さは、特に限定されないが、本実施形態においては、横(図2におけるA)およそ62mm×縦(図2におけるB)およそ30mmとしている。また、本実施形態において、第1の基板101、第2の基板102および第3の基板103の厚み(それぞれ図2のC、DおよびE)は、それぞれ約1.6mm、約9mm、約1.6mmとしている。ただし、これらに限定されるものではない。
【0041】
第1の基板101には、その厚み方向に貫通する試薬導入口110(本実施形態において合計11個)および検体(たとえば全血)をマイクロチップの流体回路内に導入するための検体導入口120が形成されている。本実施形態のマイクロチップ100は、通常、液体試薬を試薬導入口110から注入した後、試薬導入口110を封止用ラベル等により封止して、実使用に供される。
【0042】
第2の基板102には、その両面に形成された溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴が形成されており、これに第1の基板101および第3の基板103を貼り合わせることによって、マイクロチップ内部に2層の流体回路が形成されている。なお、以下では、第1の基板101における第2の基板102側表面および第2の基板102における第1の基板101側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第1の流体回路」、第3の基板103における第2の基板102側表面および第2の基板102における第3の基板103側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第2の流体回路」と称する。これら2つの流体回路は、第2の基板102に形成された厚み方向に貫通する貫通穴によって連結している。以下、第2の基板102の両面に形成された流体回路(溝)の構成について詳細に説明する。
【0043】
図3および図4に、それぞれ第2の基板102の上面図および下面図を示す。図3は、第2の基板102の上側流体回路(第1の流体回路)を示しており、図4は、下側流体回路(第2の流体回路)を示している。なお、図4では、図3に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の基板102の下側流体回路を示している。本実施形態のマイクロチップ100は、1つの検体について6項目の検査または分析を行なうことができる多項目チップであり、その流体回路は、6項目の検査または分析を行なうことができるよう、6つのセクション(図3におけるセクション1〜6)に分けられている〔ただし、第1成分計量部設置領域(下側流体回路上部領域)においてこれらのセクションは互いに接続されている〕。このように、本発明によれば、2層の流体回路を有するため、流体回路の集積化・高密度化が可能であり、比較的小さな面積を有しているにもかかわらず、多項目の検査または分析が可能なマイクロチップを提供できる。
【0044】
上記各セクションには、第1の流体回路(上側流体回路)内に、液体試薬が内蔵された試薬保持部が1つまたは2つ設けられている(図3における試薬保持部301a、301b、302a、302b、303a、303b、304a、304b、305a、305bおよび306aの合計11個)。図2における検体導入口120から導入された検体は、計量され、ついで血球成分が分離除去された後、各セクションに分配されるとともに計量されると、別途計量された各セクション内の1種または2種の液体試薬と混合されて、それぞれ検出部311、312、313、314、315、316に導入される。各セクションの各検出部に導入された混合液は、たとえば、マイクロチップ表面と略垂直な方向から検出部に光を照射し、その透過光の透過率を測定する等の光学的測定に供され、該混合液中の特定成分の検出等がなされる。これら一連の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより、液体試薬、検体、第1成分または第1成分と液体試薬との混合液を、各セクションに設けられた2層の流体回路内の各部位へ適切な順序で移動させていくことにより行なわれる。マイクロチップへの遠心力の印加は、たとえば上記した遠心装置に載置して行なうことができる。
【0045】
各試薬保持部は、第2の基板102を貫通する貫通穴を介して試薬計量部と接続されている。たとえば、セクション1の試薬保持部301a(図3参照)と試薬計量部411a(図4参照)とは、貫通穴21bによって接続されている。他の試薬保持部および試薬計量部についても同様である。このように、2層の流体回路を設け、これらを貫通穴によって連結させることにより、比較的面積の小さなマイクロチップであっても、第1の流体回路−第2の流体回路相互間を移動させることにより流体回路を効率的に利用することができ、複雑な液体移動等も制御可能となる。
【0046】
また、上記各セクションには、その第2の流体回路(下側流体回路)内に、検体から分離された第1成分を計量する第1成分計量部(図4における検体計量部401、402、403、404、405、406の合計6個)および液体試薬を計量する試薬計量部(図4における試薬計量部411a、411b、412a、412b、413a、413b、414a、414b、415a、415bおよび416aの合計11個)が設けられている。各第1成分計量部は、流路によって直列的に接続されている(図4参照)。
【0047】
また、本実施形態のマイクロチップ100は、マイクロチップ内に導入された検体を計量する検体計量部500(図3参照)、流量制限部700(図4参照)、および、計量された検体から第2成分を分離し、第1成分(液体試薬と混合される成分)を取り出すための分離部420を備えている(図4参照)。第1成分と第2成分との分離は、遠心分離によりなされる。検体計量部500と流量制限部700とは、貫通穴30によって接続されている。
【0048】
また、マイクロチップ100は、図3に示されるように、計量時において検体計量部および第1成分計量部から溢れ出た検体または第1成分を収容するための溢出液収容部330a,330b、ならびに、計量時において試薬計量部から溢れ出た液体試薬を収容するための溢出試薬収容部331a、331b、332a、332b、333a、333b、334a、334b、335a、335bおよび336aが設けられている。溢出液収容部330bは、流路16a(図4参照)、厚み方向に貫通する貫通穴26aおよび流路16b(図3参照)を介して第1成分計量部406に接続されている。また、各溢出試薬収容部は、対応する試薬計量部に、流路および貫通穴を介して接続されている。たとえば、セクション1において、試薬保持部301a内に収容される液体試薬を計量するための試薬計量部411aと、溢れ出た液体試薬を収容する溢出試薬収容部331a(図3参照)とは、流路11a(図4参照)、厚み方向に貫通する貫通穴21aおよび流路11b(図3参照)を介して接続されている。他の溢出試薬収容部についても同様である。
【0049】
このように、マイクロチップが、溢出液収容部および溢出試薬収容部(以下、まとめて溢出収容部と称することがある。)を備えることにより、当該溢出収容部における溢出物の有無を検出することによって、検体、第1成分または液体試薬が遠心操作により確実に計量部に移送され、かつ当該計量部が、被計量物で満たされたかどうかを容易に確認することができる。すなわち、溢出収容部に溢出物が存在することが検知されれば、計量部において検体、第1成分または液体試薬が正確に計量されたことが保証される。これにより、検査または分析の信頼性を向上させることができる。
【0050】
ここで、溢出収容部内に、溢出物が存在するか否かを検知する方法としては、たとえば、当該溢出収容部に対して、透明基板である第1の基板101側から光を照射し、その反射光の強度を測定する方法を好ましく用いることができる。用いる光は、特に制限されず、たとえば波長400〜1000nm程度の単色光(たとえばレーザー光)であってもよいし、白色光等の混合光であってもよい。反射光の強度の測定は、たとえば市販の反射センサなどを用いて行なうことができる。
【0051】
上記反射光強度の測定を行なうことにより溢出物の有無を検知する方法においては、基本的には、溢出収容部内に溢出物が導入される前に、溢出収容部に対して、第1の基板101側から光を照射することにより得られる反射光強度と、計量部に被計量物が導入された後に、溢出収容部に対して、第1の基板側から光を照射することにより得られる反射光強度との比を求め、当該強度比から溢出物の有無を検知する。すなわち、当該比(導入後の反射光強度/導入前の反射光強度)が1より小さい場合(導入後の反射光強度がより小さい場合)には、溢出収容部内に、溢出物が存在すると判断される。ただし、マイクロチップ間の製造振れが小さく、溢出物導入前の反射光強度が、マイクロチップ間でほぼ一定とみなすことができる場合には、溢出物導入前における反射光強度の測定は省略することが可能である。
【0052】
このように、本実施形態のマイクロチップ100は、各液体試薬に対応する合計11個の溢出試薬収容部と2個の溢出液収容部を有しており、これらは、第1の流体回路(上側流体回路)内に配置されている(図3参照)。すべての溢出収容部を一方の流体回路に配置することにより、反射光強度測定の際、マイクロチップを裏返す必要がなく、簡便かつ迅速にすべての溢出収容部における溢出物の有無を検知することができる。また、これらの溢出収容部、とりわけ溢出試薬収容部および溢出液収容部330bは、第2の基板表面に形成された一方の流体回路内において、同一円の円周上に配置されることが好ましい(図3参照。マイクロチップ100では、合計11個の溢出試薬収容部と1個の溢出液収容部330bがこのような配置となっている。)。当該円は、マイクロチップに遠心力を付与するためにマイクロチップを公転させる際の公転中心を中心とする円であることが好ましい。より具体的には、マイクロチップは、通常、回転自在な円形状ステージを有する遠心装置の該円形状ステージ上に載置されて遠心力が印加されることから、公転中心を中心とする円とは、当該円形状ステージの回転中心を中心とする円ともいうことができる。このように、同一円の円周上に溢出収容部を配置することにより、固定された光源(または光源と反射光強度測定手段とが一体化された装置)から光を照射するとともに、マイクロチップを載置した円形状ステージを回転させて、各溢出収容部を、当該照射光の光軸上に順に配置していくことにより反射光強度を測定することができるため、反射光強度の測定を簡便かつ迅速に行なうことができる。
【0053】
次に、本実施形態のマイクロチップ100を用いた流体処理の一例を、図5〜13を参照して説明する。図5〜13は、流体処理の各工程における第2の基板102の上面(第1の基板側表面)の液体(検体、第1成分、液体試薬および第1成分と液体試薬との混合液)の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。各図における(a)が第2の基板上面(第1の流体回路)の液体の状態を示す図であり、(b)が第2の基板下面(第2の流体回路)の液体の状態を示す図である。なお、図5〜13の(b)においては、図4と同様に、図5〜13の(a)に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の基板102の下側流体回路を示している。また、以下の説明においては、セクション1の流体回路における流体処理についてのみ説明するが、他のセクションについても同様の処理がなされており、このことは、図面を参照することにより明確に理解することができる。さらに、以下では、検体が全血である場合を例に説明するが、検体の種類はこれに限定されるものではない。
【0054】
(1)全血計量、液体試薬計量工程
まず、本工程において、図3および4に示される状態にあるマイクロチップに対して、図5における下向き(以下、単に下向きという。図6〜13についても同様であり、また、他の方向についても同様である。)に遠心力を印加する。これにより、第1の基板101の検体導入口120(図2参照)から導入された全血600は、検体計量部500に導入され、計量される。検体計量部500からオーバーフローした全血600は、溢出液収容部330aに収容される〔図5(a)参照〕。また、この下向きの遠心力印加により、液体試薬保持部301a、301b内の液体試薬は、それぞれ貫通穴21b、21cを通って試薬計量部411a、411bに至り、計量される〔図5(b)参照〕。各液体試薬計量部から溢れた液体試薬は、それぞれ貫通穴21a、21dを通って、上面側流体回路内の溢出試薬収容部331a、331bに収容される〔図5(a)参照〕。この段階で、液体試薬に関し液量異常がない場合、溢出試薬収容部332bを除いてすべての溢出試薬収容部内に液体試薬が存在することとなる。なお、本工程に先立ち、試薬保持部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、液体試薬の存在を確認してもよい。また、全血計量、液体試薬計量工程以前の段階で、試薬計量部、混合部、検出部に光を照射し、その反射光強度を測定することにより、これらの部位に液体試薬や検体が存在しないかどうかを確認してもよい。
【0055】
(2)全血移動工程
次に、右向きの遠心力を印加する。これにより、検体計量部500内の計量された全血600は、貫通穴30を通って、下側流体回路の待機部701に移動する〔図6(b)参照〕。
【0056】
(3)血球分離工程
次に、下向きの遠心力を印加する。これにより、待機部701の計量された全血600の全量が、流量制限部700を通って、分離部420に導入される〔図7(b)参照〕。分離部420に導入された全血600は、分離部420にて遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。各液体試薬は再度、試薬計量部に収容される。
【0057】
(4)血漿成分計量工程
次に、右向きの遠心力を印加する。これにより、分離部420において分離された第1成分収容部内の血漿成分は、第1成分計量部401に導入され(同時に第1成分計量部402、403、404および405,406にも導入される)、計量される〔図8(b)参照〕。計量部から溢れた血漿成分は、貫通穴26aを通って上側流体回路内に移動する〔図8(a)参照〕。なお、この段階で、各第1成分計量部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、第1成分計量部における血漿成分の存在を確認してもよい。
【0058】
(5)第1混合工程
次に、下向きの遠心力を印加する。これにより、計量された液体試薬(試薬保持部301aに保持されていた液体試薬)と、第1成分計量部401にて計量された血漿成分とが、試薬計量部411aにおいて混合される〔第1混合工程第1ステップ、図9(b)参照〕。この際、下側流体回路の混合部441aには、液体試薬が残存している。なお、この段階で、各試薬計量部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、試薬計量部における混合液の存在を確認してもよい。また、この段階で溢出液収容部330bの反射光強度を測定することにより、検体導入不足等の不具合をいち早く検知することができる。
【0059】
次に、右向きの遠心力を印加することにより、混合液は、混合部441aに残存していた液体試薬とさらに混合される〔第1混合工程第2ステップ、図10(b)参照〕。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図10に示される状態と同様の状態を得る。
【0060】
(6)第2混合工程
次に、上向きの遠心力を印加する。これにより、混合部441a内の混合液は、貫通穴21eを通って上側流体回路の混合部441bに至り、計量されたもう一方の液体試薬(試薬保持部301b内に保持されていた液体試薬)もまた、貫通穴21eを通って混合部441bに至り、これらは混合される〔第2混合工程第1ステップ、図11(a)参照〕。なお、この段階で、各混合部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、混合部における混合液の存在を確認してもよい。
【0061】
次に、左向きの遠心力を印加することにより、図12(a)に示されるように、混合液が移動し、混合が促進される〔第2混合工程第2ステップ、図12(a)参照〕。また、この左向きの遠心力により、溢出試薬収容部332bに液体試薬が収容されることとなる〔図12(a)参照〕。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図12に示される状態と同様の状態を得る。
【0062】
(7)検出部導入工程
最後に、下向きの遠心力を印加する。これにより、混合液は検出部311に導入される〔他の混合液についても同様、図13(a)および(b)参照〕。また、溢出試薬収容部331a、331bおよび溢出液収容部330bには、液体試薬または血漿成分が収容された状態となる。他の溢出試薬収容部についても同様である。検出部に充填された混合液は、光学測定に供され、検査・分析が行なわれる。たとえば、マイクロチップ表面に対して略垂直な方向から光を照射し、その透過光を測定することにより、混合液中の特定成分の検出等がなされる。また、この際、溢出液収容部330bおよび各溢出試薬収容部に光を照射し、その反射光の強度を測定することにより、血漿成分または液体試薬の有無を確認する。血漿成分または液体試薬の有無の確認は必ずしもこの段階で行なわれる必要はないが、血漿成分または液体試薬が、すべての溢出液収容部および溢出試薬収容部に収容され得る状態となるのはこの段階であるため、操作の簡略化のためには、検出部導入工程後に血漿成分または液体試薬の有無の確認を行なうことが好ましい。
【0063】
<第2の実施形態>
図14は、本発明のマイクロチップの他の一例を示す上面図である。図14に示されるマイクロチップ800は、黒色基板である第1の基板と、基板表面に溝を備える透明な第2の基板との積層体からなり、図14は、第2の基板側から見たときの上面図である。マイクロチップ800は、第2の基板が有する溝および第1の基板における第2の基板側表面から構成される空間からなる「1層」の流体回路を有する。
【0064】
図14を参照して、本実施形態のマイクロチップ800が有する流体回路は、検体(全血等)を収容したサンプル管(キャピラリー等)を収容するためのサンプル管収容部801;検体を計量する検体計量部802;計量された検体から第2成分を分離し、第1成分(液体試薬と混合される成分)を取り出すための分離部803;第1成分と混合される液体試薬R1、R2をそれぞれ保持する試薬保持部804,805(図15を併せて参照);液体試薬R1、R2をそれぞれ計量するための試薬計量部806,807;分離された第1成分を計量するための第1成分計量部808;第1成分と液体試薬との混合を行なう混合部809,810;第1成分、液体試薬R1およびR2の混合液を収容し、光学測定を行なうための検出部811;から主に構成される。なお、本実施形態のマイクロチップ800は流量制限部を有しない。
【0065】
本実施形態のマイクロチップ800を用いた流体処理の一例を、図15〜27を参照して説明する。図15〜27は、流体処理の各工程におけるマイクロチップ内の液体の状態(位置等)を示したものである。以下では、検体が全血である場合を例に説明するが、検体の種類はこれに限定されるものではない。
【0066】
まず、サンプル管収容部801内に、全血600を含んだサンプル管900(キャピラリー等)を収容する(サンプル管収容工程、図15)。なお、マイクロチップ800の試薬保持部804,805には、それぞれ液体試薬R1、R2が予め保持されている。次に、図15に示される状態にあるマイクロチップに対して、図15における左向き(以下、単に左向きという。図16〜27についても同様であり、また、他の方向についても同様である。)に遠心力を印加する(試薬計量工程、図16)。これにより、サンプル管900内の全血は、領域Aに排出される。また、液体試薬R1が、試薬計量部806に導入され、計量される。試薬計量部806からオーバーフローした液体試薬R1は、領域Bに収容される。
【0067】
次に、下向きの遠心力を印加する(全血計量工程、図17)。これにより、全血600は、検体計量部802に導入され、計量される。検体計量部802からオーバーフローした全血600は、領域Bに収容される。また、計量された一部の液体試薬R1は、領域Cに移動する。
【0068】
次に、右向きの遠心力を印加する(血漿分離工程、図18)。これにより、計量された全血600の全量が、分離部803に導入される。分離部803に導入された全血600は、分離部803にて遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。また、この右向きの遠心力により、液体試薬R2が、試薬計量部807に導入され、計量される。試薬計量部807からオーバーフローした液体試薬R2は、領域Dに収容される。
【0069】
次に、上向きの遠心力を印加する(血漿成分計量工程、図19)。これにより、分離部803において分離された血漿成分は、第1成分計量部808に導入され、計量される。第1成分計量部808から溢れた血漿成分は、領域Eに収容される。
【0070】
次に、右向きの遠心力を印加する(第1混合工程第1ステップ、図20)。これにより、計量された液体試薬R1と、第1成分計量部808にて計量された血漿成分とが、混合部809において混合される。ついで、上向きの遠心力を印加し(第1混合工程第2ステップ、図21)、さらに右向きの遠心力を印加することにより(第1混合工程第3ステップ、図22)、液体試薬R1と血漿成分との混合を促進させる。
【0071】
次に、下向きの遠心力を印加する(第2混合工程第1ステップ、図23)。これにより、液体試薬R1と血漿成分との混合液と、計量された液体試薬R2とが、混合部810において混合される。ついで、左向きの遠心力を印加し(第2混合工程第2ステップ、図24)、さらに下向きの遠心力を印加することにより(第2混合工程第3ステップ、図25)、液体試薬R2との混合を促進させる。
【0072】
最後に、右向きの遠心力を印加することにより、血漿成分と液体試薬R1と液体試薬R2との混合液を検出部811に導入し(検出部導入工程、図26)、検出部811に光を照射して光学測定を行なう(図27)。
【0073】
以上、本発明のマイクロチップを、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明のマイクロチップは、上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、本発明のマイクロチップは、必ずしも多項目チップである必要はなく、1種類の検査または分析のみを行なう単項目チップであってもよい。また、本発明においては、上記した各部位のすべてを有している必要はなく、いずれか1種以上の部位を有していなくてもよい。あるいは、上記されていない他の部位を有していてもよい。また、マイクロチップが備える各部位の数も特に限定されるものではない。
【0074】
さらに、本発明のマイクロチップが有する流体回路は、上記実施形態の構造に限定されるものではなく、種々の構造を採り得る。
【符号の説明】
【0075】
11a,11b,16a,16b 流路、20a’,20b’,21a,21b,21c,21d,21e,26a,30 貫通穴、100,800 マイクロチップ、101 第1の基板、102 第2の基板、103 第3の基板、110 試薬導入口、120,120’ 検体導入口、301a,301b,302a,302b,303a,303b,304a,304b,305a,305b,306a,804,805 試薬保持部、311,312,313,314,315,316,811 検出部、330a,330b 溢出液収容部、331a,331b,332a,332b,333a,333b,334a,334b,335a,335b,336a 溢出試薬収容部、401,402,403,404,405,406,808 第1成分計量部、411a,411b,412a,412b,413a,413b,414a,414b,415a,415b,416a,806,807 試薬計量部、420,803 分離部、420’ 血球分離部、421 血球分離部の開口、422 第1成分収容部、423,423’ 狭部、424 第2成分収容部、430’ 廃液溜め、441a,441b,809,810 混合部、500,802 検体計量部、600,600’ 全血、700,700’ 流量制限部、701 待機部、801 サンプル管収容部、900 サンプル管。
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験または分析操作を、数cm〜10cm角で、厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査または分析ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0004】
マイクロチップは、その内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検査または分析の対象である検体(たとえば、血液等)と混合あるいは反応させる、または該検体を処理するための液体試薬を保持するための液体試薬保持部;該検体や液体試薬を計量するための計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;該混合液について検査または分析を行なうための検出部などの各部位と、これら各部位を適切に接続する微細な流路とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体(または検体中の特定成分)および/または液体試薬の計量、検体(または検体中の特定成分)と液体試薬との混合、ならびに得られた混合液の検出部への導入等の処理を行なうことができる。なお、マイクロチップ内でなされる、各種液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、またはこれらのうちの2種以上の混合物もしくは反応物など)のある部位から他の部位への移送、計量、混合などの処理を以下では「流体処理」ということがある。
【0005】
たとえば特許文献1には、血液検査用チップとして好適に用いられるマイクロチップが開示されている。当該文献に開示されるマイクロチップは、マイクロチップ内に導入された全血から血球成分を分離し、血漿成分を取り出すための血球分離部を流体回路の一部として備えており、血漿成分のみを用いた検査を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−133805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図28は、特許文献1(図3〜4、6〜12)に記載される2層の流体回路を備えるマイクロチップを構成する第2の基板の一部を拡大して示す上面図および下面図である。図28(a)は第2の基板を上から見たときの図であり、マイクロチップの第1の流体回路(上側流体回路)およびそこに存在する液体(検体など)の位置を示している。図28(b)は第2の基板を下から見たときの図であり、マイクロチップの第2の流体回路(下側流体回路)およびそこに存在する液体(検体など)の位置を示している。なお、図28(b)では、図28(a)に示される第1の流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の流体回路を示している。
【0008】
図28を参照して、検体として全血を用いた場合を例に挙げて、特許文献1に記載のマイクロチップを用いた流体処理の例を説明する。まず、検体導入口120’から全血600’を導入した後、マイクロチップに対して、図28における下向きに遠心力を印加する。これにより、全血600’は、貫通穴20a’を通って第2の流体回路に移動し、ついで、流量制限部700’を通って血球分離部420’に導入される〔図28(b)参照〕。血球分離部420’に導入された全血は、上記下向きの遠心力によって遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。一方、血球分離部420’から溢れた全血は、貫通穴20b’を通って第1の流体回路に移動し、廃液溜め430’に収容される〔図28(a)参照〕。図28(a)および(b)は、以上の流体処理を行なったときの状態を示したものである(特許文献1の図6に相当)。
【0009】
上記のような構成の流体回路を有する特許文献1のマイクロチップには以下に示す点において改善の余地があった。すなわち、特許文献1のマイクロチップにおいては、血球分離部420’の上方に流量制限部700’を設け、その流路幅を狭くして、血球分離部420’に導入する際の全血600’の流量および液幅を制限することにより、全血600’が血球分離部420’内に確実に誘導され、かつ血球分離部420’が全血600’で充填されるように設計しているが、流量制限部700’の流路幅が狭いことによって、全血600’の全量が流量制限部700’を通過するまでの間に、全血600’が流量制限部700’にて遠心分離され、血漿成分の比率が高くなった層と血球成分の比率が高くなった層とに分離する、いわゆる「前分離」が生じることがあった。前分離が生じた状態の全血600’を血球分離部420’に導入すると、実際の血球濃度(採取した検査対象である全血の血球濃度)よりも高い血球濃度を有する全血が血球分離部420’内に収容され、実際の血球濃度よりも低い血球濃度を有する全血がオーバーフローして廃液溜め430’に収容されることになる。このような成分含有量の変動が生じると、マイクロチップ内で行なう流体処理に必要な量の血漿成分が得られず(特許文献1における検体計量部401,402,403,404,405,406に送液される血漿成分中に血球成分が混入する。)、検査不良の原因となり得る。
【0010】
一方、前分離を防止するために、流量制限部700’の流路幅を広くすると、全血600’が血球分離部420’の底部に達する前に血球分離部420’の挟部421’を満たし、血球分離部420’内部の空気の排出を阻害して、血球分離部420’に全血600’が充填されなくなる「詰まり現象」が生じやすくなる。かかる詰まり現象が生じた場合にも、必要量の血漿成分を得ることができなくなるため、検査不良の原因となり得る。
【0011】
そこで本発明は、互いに比重の異なる第1成分(たとえば血漿成分)と第2成分(たとえば血球成分)とを含む検体(たとえば全血)中の第1成分と第2成分とを遠心分離により分離するための分離部を備えるマイクロチップにおいて、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことができ、もって、取り出された第1成分について正確かつ信頼性の高い検査または分析を行なうことができるマイクロチップ(たとえば血液検査用マイクロチップ)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1の基板と、該第1の基板上に積層され、基板表面に溝を備える第2の基板とを含み、該溝および第1の基板における第2の基板側表面から構成される空間を含む流体回路を有するマイクロチップであって、流体回路内に、互いに比重の異なる第1成分と第2成分とを含有する検体を導入するための検体導入口を有し、流体回路は、検体導入口に接続され、検体導入口から導入された検体の計量を行なうための所定の容積を有する検体計量部と、検体計量部に接続され、計量された検体の全量を収容できる容量を有する部位であって、計量された検体の全量を収容するとともに、収容された検体中の第1成分と第2成分とを分離するための分離部とを含むマイクロチップを提供する。
【0013】
分離部は、計量された検体を収容するための開口と、分離された第1成分を収容するための第1成分収容部と、分離された第2成分を収容するための第2成分収容部とをこの順で含む構造であることができる。第1成分収容部の容積は、計量された検体の体積より大きいことが好ましい。
【0014】
本発明のマイクロチップは、第1の基板と、該第1の基板上に積層され、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、該第2の基板上に積層される第3の基板とを含むものであってもよい。この場合、流体回路は、第1の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第2の流体回路とを含む。このような2層の流体回路を有するマイクロチップにおいては、たとえば、第1の流体回路が検体計量部を有し、第2の流体回路が分離部を有する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロチップによれば、検体中の第1成分と第2成分とを分離するための分離部の前(すなわち、流体回路における検体移動方向の上流側)に検体の所定量を計量するための検体計量部を設け、かつ分離部を、計量された検体の全量を収容できる容量にしているため、仮に上述のような前分離が生じた場合であっても、分離部に収容された検体の成分含有量の変動は生じず、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことができ、もって、取り出された第1成分について正確かつ信頼性の高い検査または分析を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のマイクロチップを構成する第2の基板の一例を一部拡大して示す平面図である。
【図2】本発明のマイクロチップの一例を示す外形図である。
【図3】本発明のマイクロチップを構成する第2の基板の一例を示す上面図である。
【図4】本発明のマイクロチップを構成する第2の基板の一例を示す下面図である。
【図5】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の全血計量、試薬計量工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図6】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の全血移動工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図7】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の血球分離工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図8】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の血漿成分計量工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図9】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第1ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図10】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第2ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図11】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第1ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図12】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第2ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図13】図2〜図4に示されるマイクロチップを用いた流体処理の検出部導入工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図14】本発明のマイクロチップの他の一例を示す上面図である。
【図15】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理のサンプル管収容工程における液体の状態を示す図である。
【図16】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の試薬計量工程における液体の状態を示す図である。
【図17】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の全血計量工程における液体の状態を示す図である。
【図18】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の血漿分離工程における液体の状態を示す図である。
【図19】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の血漿成分計量工程における液体の状態を示す図である。
【図20】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第1ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図21】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第2ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図22】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第1混合工程第3ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図23】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第1ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図24】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第2ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図25】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の第2混合工程第3ステップにおける液体の状態を示す図である。
【図26】図14に示されるマイクロチップを用いた流体処理の検出部導入工程における液体の状態を示す図である。
【図27】図26に示されるマイクロチップの検出部に光を照射し、光学測定を行なう様子を示す図である。
【図28】特許文献1に開示される2層の流体回路を備えるマイクロチップの一部を拡大して示す上面図および下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが有する流体回路を用いて行なうことができるチップであり、少なくとも、第1の基板と、該第1の基板上に積層され、基板表面に溝を備える第2の基板とから構成される。マイクロチップの流体回路は、上記溝および第1の基板における第2の基板側表面から構成される空間を含む。マイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm〜10cm程度、厚さ数mm〜数cm程度とすることができる。
【0018】
また、本発明のマイクロチップは、第1の基板と、該第1の基板上に積層され、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、該第2の基板上に積層される第3の基板とを含むものであってもよい。この場合、流体回路は、第1の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第2の流体回路との2層構造を有する。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第2の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。
【0019】
流体回路を2層構造とすることにより、流体回路の集積化および高密度化が可能となり、これにより、より複雑な流体処理が可能なマイクロチップを得ることができる。また、基板面積(マイクロチップ面積)を小さくすることができる。これにより、基板貼り合わせ時における各基板の平面性を確保しやすくなり、基板貼り合わせ時における基板全体にわたっての圧力均一性が得られやすくなるため、接着不良を防止することができる。
【0020】
基板同士を貼り合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)、接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザー等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法(レーザー溶着);超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。なかでもレーザー溶着法が好ましく用いられる。
【0021】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、スチレン−ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)などの有機材料;シリコン、ガラス、石英などの無機材料等を用いることができる。なかでも、流体回路の形成のし易さ等を考慮すると、樹脂を用いることが好ましく、より好ましくは、スチレン−ブタジエン共重合体等のスチレン系樹脂である。スチレン−ブタジエン樹脂は、スチレンに起因する良好な透明性と、ブタジエンに起因する良好な粘性とを併せ持つため、微細パターンを形成するために、樹脂と金型の接触面積が非常に高くなる場合であっても、割れることなく、形状を維持したまま、樹脂を金型から容易に離型することができる。
【0022】
マイクロチップが第1の基板と、基板表面に溝を備える第2の基板とから構成される場合、第2の基板は、光学測定の際、検出光が照射される部位を含んでいることから、透明基板とすることが好ましい。第1の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよいが、レーザー溶着を行なう場合には、光吸収率を増大できることから、不透明基板とすることが好ましく、基板を樹脂から構成し、該樹脂中にカーボンブラック等の黒色顔料を添加することにより黒色基板とすることがより好ましい。
【0023】
マイクロチップが第1の基板と、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、第3の基板とから構成される場合、レーザー溶着の効率性の観点から、第2の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第1および第3の基板は、検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第1および第3の基板を透明基板とすると、第2の基板に設けられた貫通穴と、透明な第1および第3の基板とから検出部(光学測定用キュベット)を形成でき、マイクロチップ表面と略垂直な方向から該検出部に光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0024】
第2の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。溝の形状は適切な流体回路構造となるように決定される。
【0025】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路は、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、および、これらのうちの2種以上の混合物または反応物など)に対して適切な流体処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
【0026】
本発明のマイクロチップにおいて流体回路は、検体の計量を行なうための所定の容積を有する検体計量部と、検体中の成分の分離を行なう分離部とを少なくとも備える。ここで、「検体」とは、流体回路内に導入される、マイクロチップが行なう検査または分析等の対象となる物質であり、たとえば全血である。検体は、互いに比重の異なる第1成分と第2成分とを含んでおり、検体から取り出されて、検査または分析等のための流体処理に供されるべき第1成分は、通常、第2成分より比重が小さい。検体は、第1の基板(または第3の基板)を厚み方向に貫通し、流体回路に接続された貫通穴からなる検体導入口から流体回路内に導入される。
【0027】
上記検体計量部は、検体導入口に接続され、検体導入口から導入された検体の計量を行なうための部位である。また、上記分離部は、検体計量部に接続され、計量された検体の全量を収容するとともに、収容された検体中の第1成分と第2成分とを分離するための部位である。すなわち、これらの部位は、検体導入口→検体計量部→分離部の順で直列的に接続されており、検体は、マイクロチップへの適切な方向の遠心力の印加により、この順で各部位を移動する。
【0028】
上記のような配置で検体計量部および分離部を設けることにより、検体計量部と分離部との間に上述のような流量制限部を設けた場合であっても、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことが可能となる。すなわち、検体導入口、検体計量部、分離部をこの順で有する本発明のマイクロチップにおいては、検体導入口から導入された検体は、遠心力の印加により、所定の容積を有する検体計量部に収容され、当該所定の量の検体が計量される〔過剰分の検体はオーバーフローし、溢出液収容部(廃液溜め)に収容される〕。「所定の量」とは、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を含有している量またはそれ以上の量である。
【0029】
ついで、検体計量部と分離部との間に流量制限部が存在する場合には、計量された検体は、この流量制限部を通って分離部に導入される。この際、分離部は、計量された検体の全量を収容できる容量を有しているため、計量された検体の全量が分離部に収容されることとなる。したがって、仮に流量制限部において、上述のような「前分離」が生じた場合であっても、分離部に収容された検体の成分組成は、検体導入口から導入される検体と等しく、成分含有量の変動は生じない。よって、分離部には、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を含有している量またはそれ以上の量で検体が収容されるので、これを遠心分離することにより、マイクロチップ内における流体処理に必要な量の第1成分を確実に分離して取り出すことができる。
【0030】
なお、流量制限部はなくてもよいが、計量された検体を確実に分離部へ誘導するために流量制限部を設ける方が好ましい。
【0031】
図1は、本発明のマイクロチップを構成する第2の基板の一例を一部拡大して示す平面図であり、後述する第1の実施の形態に係るマイクロチップ100を構成する第2の基板の一部を示したものである。後述するように、このマイクロチップ100は、2層の流体回路を有しており、図1は下側流体回路(第2の流体回路)の一部を示している。図1を参照して、マイクロチップ100は、その下側流体回路の一部として、流量制限部700と分離部420とを備える。図示されるように、分離部420は、流量制限部700の端部直下に設けられる、検体を受け入れるための開口421と、遠心分離により分離された第1成分を収容するための第1成分収容部422と、分離された第2成分を収容するための第2成分収容部424とをこの順で含む構造であることが好ましい。第1成分収容部422と第2成分収容部424とは、比較的容量の小さい(幅の狭い)空間からなる挟部423によって接続されている。分離部420は、この狭部423内に第1成分と第2成分との界面が位置するように設計される。遠心分離により第1成分収容部422に収容された第1成分は、次工程にて、マイクロチップに対して図1における右向きの遠心力を印加することにより、狭部423および第2成分収容部424に収容された液体(主に第2成分からなる)から分離されて取り出される。なお、流量制限部700と、図1に示されていない検体計量部(上側流体回路内に配置されている)とは、貫通穴30によって接続されている。
【0032】
流量制限部700の流路幅などの影響により、上記構成のマイクロチップにおいても、上述のような「詰まり現象」が生じることを完全には否定できない。したがって、詰まり現象が生じても必要量の第1成分を確実に得ることができるよう、分離部420における第1成分収容部422の容積を、計量された検体の体積(すなわち、検体計量部の容積)より大きくしておくことが好ましい。これにより、詰まり現象が生じた場合であっても、第1成分収容部422のみで、計量された検体の全量を収容することができるため、詰まり現象により検体が分離部420からオーバーフローして、分離部420に収容される検体量が不足するという不具合を防止することができる。第1成分収容部422の容積は、当該領域の溝の深さや第1成分収容部422を画する壁Kの長さの調整により容易に調整することができる。
【0033】
本発明のマイクロチップは、たとえば血液検査用マイクロチップとして好適に用いることができ、この場合、上記分離部を、流体回路内に導入された全血から、血球成分(第2成分)を分離除去し、血漿成分(第1成分)を抽出するための血球分離部として利用することができる。取り出された血漿成分は、流体回路内で必要な流体処理が施され、検査または分析に供される。
【0034】
流体回路は、上記検体計量部および分離部以外の他の部位を有していてもよい。他の部位としては、特に限定されるものではないが、液体試薬を保持するための試薬保持部;取り出された第1成分(たとえば血漿成分)を計量するための第1成分計量部;液体試薬を計量するための試薬計量部;計量された液体試薬と計量された第1成分とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査または分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)を行なうための検出部などを挙げることができる。これらの各部位は、それぞれ1つのみであってもよいし、2以上あってもよい。また、本発明のマイクロチップは、これら例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。
【0035】
なお、「液体試薬」とは、マイクロチップが行なう検査または分析の対象となる検体(第1成分)を処理する、または該検体と混合あるいは反応される試薬であり、通常、マイクロチップ使用前にあらかじめ流体回路の試薬保持部に内蔵されている。
【0036】
流体回路が2層構造である場合、上記各部位は、第1の流体回路内、第2の流体回路内のいずれに配置されていてもよいが、流体回路の高集積化および高密度化の観点から、検体計量部を第1の流体回路内に配置した場合には、分離部は第2の流体回路内に配置することが好ましい。
【0037】
本発明のマイクロチップが試薬保持部を有する場合においては、マイクロチップ表面(第1または第3の基板表面)には、内部の試薬保持部まで貫通する貫通穴である試薬導入口が設けられるのが通常である。このようなマイクロチップは、通常、試薬導入口から液体試薬が注入された後、マイクロチップ表面に当該試薬導入口を封止するためのラベルまたはシールが貼着されて、使用に供される。
【0038】
検体の計量;検体からの第1成分の抽出;第1成分および液体試薬の計量;第1成分と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定することにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0039】
第1成分と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液は、特に限定されないが、たとえば、混合液を収容した検出部に光を照射し、透過する光の強度(透過率)を検出する方法;検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定などの供され、検査または分析が行なわれる。
【0040】
以下、実施の形態を示して、本発明を詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図2は、本発明のマイクロチップの一例を示す外形図であり、図2(a)は上面図、図2(b)は側面図、図2(c)は下面図である。図2に示されるマイクロチップ100は、透明基板である第1の基板101、黒色基板である第2の基板102および透明基板である第3の基板103をこの順で貼り合わせてなる〔図2(b)参照〕。これら基板の縦横の長さは、特に限定されないが、本実施形態においては、横(図2におけるA)およそ62mm×縦(図2におけるB)およそ30mmとしている。また、本実施形態において、第1の基板101、第2の基板102および第3の基板103の厚み(それぞれ図2のC、DおよびE)は、それぞれ約1.6mm、約9mm、約1.6mmとしている。ただし、これらに限定されるものではない。
【0041】
第1の基板101には、その厚み方向に貫通する試薬導入口110(本実施形態において合計11個)および検体(たとえば全血)をマイクロチップの流体回路内に導入するための検体導入口120が形成されている。本実施形態のマイクロチップ100は、通常、液体試薬を試薬導入口110から注入した後、試薬導入口110を封止用ラベル等により封止して、実使用に供される。
【0042】
第2の基板102には、その両面に形成された溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴が形成されており、これに第1の基板101および第3の基板103を貼り合わせることによって、マイクロチップ内部に2層の流体回路が形成されている。なお、以下では、第1の基板101における第2の基板102側表面および第2の基板102における第1の基板101側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第1の流体回路」、第3の基板103における第2の基板102側表面および第2の基板102における第3の基板103側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第2の流体回路」と称する。これら2つの流体回路は、第2の基板102に形成された厚み方向に貫通する貫通穴によって連結している。以下、第2の基板102の両面に形成された流体回路(溝)の構成について詳細に説明する。
【0043】
図3および図4に、それぞれ第2の基板102の上面図および下面図を示す。図3は、第2の基板102の上側流体回路(第1の流体回路)を示しており、図4は、下側流体回路(第2の流体回路)を示している。なお、図4では、図3に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の基板102の下側流体回路を示している。本実施形態のマイクロチップ100は、1つの検体について6項目の検査または分析を行なうことができる多項目チップであり、その流体回路は、6項目の検査または分析を行なうことができるよう、6つのセクション(図3におけるセクション1〜6)に分けられている〔ただし、第1成分計量部設置領域(下側流体回路上部領域)においてこれらのセクションは互いに接続されている〕。このように、本発明によれば、2層の流体回路を有するため、流体回路の集積化・高密度化が可能であり、比較的小さな面積を有しているにもかかわらず、多項目の検査または分析が可能なマイクロチップを提供できる。
【0044】
上記各セクションには、第1の流体回路(上側流体回路)内に、液体試薬が内蔵された試薬保持部が1つまたは2つ設けられている(図3における試薬保持部301a、301b、302a、302b、303a、303b、304a、304b、305a、305bおよび306aの合計11個)。図2における検体導入口120から導入された検体は、計量され、ついで血球成分が分離除去された後、各セクションに分配されるとともに計量されると、別途計量された各セクション内の1種または2種の液体試薬と混合されて、それぞれ検出部311、312、313、314、315、316に導入される。各セクションの各検出部に導入された混合液は、たとえば、マイクロチップ表面と略垂直な方向から検出部に光を照射し、その透過光の透過率を測定する等の光学的測定に供され、該混合液中の特定成分の検出等がなされる。これら一連の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより、液体試薬、検体、第1成分または第1成分と液体試薬との混合液を、各セクションに設けられた2層の流体回路内の各部位へ適切な順序で移動させていくことにより行なわれる。マイクロチップへの遠心力の印加は、たとえば上記した遠心装置に載置して行なうことができる。
【0045】
各試薬保持部は、第2の基板102を貫通する貫通穴を介して試薬計量部と接続されている。たとえば、セクション1の試薬保持部301a(図3参照)と試薬計量部411a(図4参照)とは、貫通穴21bによって接続されている。他の試薬保持部および試薬計量部についても同様である。このように、2層の流体回路を設け、これらを貫通穴によって連結させることにより、比較的面積の小さなマイクロチップであっても、第1の流体回路−第2の流体回路相互間を移動させることにより流体回路を効率的に利用することができ、複雑な液体移動等も制御可能となる。
【0046】
また、上記各セクションには、その第2の流体回路(下側流体回路)内に、検体から分離された第1成分を計量する第1成分計量部(図4における検体計量部401、402、403、404、405、406の合計6個)および液体試薬を計量する試薬計量部(図4における試薬計量部411a、411b、412a、412b、413a、413b、414a、414b、415a、415bおよび416aの合計11個)が設けられている。各第1成分計量部は、流路によって直列的に接続されている(図4参照)。
【0047】
また、本実施形態のマイクロチップ100は、マイクロチップ内に導入された検体を計量する検体計量部500(図3参照)、流量制限部700(図4参照)、および、計量された検体から第2成分を分離し、第1成分(液体試薬と混合される成分)を取り出すための分離部420を備えている(図4参照)。第1成分と第2成分との分離は、遠心分離によりなされる。検体計量部500と流量制限部700とは、貫通穴30によって接続されている。
【0048】
また、マイクロチップ100は、図3に示されるように、計量時において検体計量部および第1成分計量部から溢れ出た検体または第1成分を収容するための溢出液収容部330a,330b、ならびに、計量時において試薬計量部から溢れ出た液体試薬を収容するための溢出試薬収容部331a、331b、332a、332b、333a、333b、334a、334b、335a、335bおよび336aが設けられている。溢出液収容部330bは、流路16a(図4参照)、厚み方向に貫通する貫通穴26aおよび流路16b(図3参照)を介して第1成分計量部406に接続されている。また、各溢出試薬収容部は、対応する試薬計量部に、流路および貫通穴を介して接続されている。たとえば、セクション1において、試薬保持部301a内に収容される液体試薬を計量するための試薬計量部411aと、溢れ出た液体試薬を収容する溢出試薬収容部331a(図3参照)とは、流路11a(図4参照)、厚み方向に貫通する貫通穴21aおよび流路11b(図3参照)を介して接続されている。他の溢出試薬収容部についても同様である。
【0049】
このように、マイクロチップが、溢出液収容部および溢出試薬収容部(以下、まとめて溢出収容部と称することがある。)を備えることにより、当該溢出収容部における溢出物の有無を検出することによって、検体、第1成分または液体試薬が遠心操作により確実に計量部に移送され、かつ当該計量部が、被計量物で満たされたかどうかを容易に確認することができる。すなわち、溢出収容部に溢出物が存在することが検知されれば、計量部において検体、第1成分または液体試薬が正確に計量されたことが保証される。これにより、検査または分析の信頼性を向上させることができる。
【0050】
ここで、溢出収容部内に、溢出物が存在するか否かを検知する方法としては、たとえば、当該溢出収容部に対して、透明基板である第1の基板101側から光を照射し、その反射光の強度を測定する方法を好ましく用いることができる。用いる光は、特に制限されず、たとえば波長400〜1000nm程度の単色光(たとえばレーザー光)であってもよいし、白色光等の混合光であってもよい。反射光の強度の測定は、たとえば市販の反射センサなどを用いて行なうことができる。
【0051】
上記反射光強度の測定を行なうことにより溢出物の有無を検知する方法においては、基本的には、溢出収容部内に溢出物が導入される前に、溢出収容部に対して、第1の基板101側から光を照射することにより得られる反射光強度と、計量部に被計量物が導入された後に、溢出収容部に対して、第1の基板側から光を照射することにより得られる反射光強度との比を求め、当該強度比から溢出物の有無を検知する。すなわち、当該比(導入後の反射光強度/導入前の反射光強度)が1より小さい場合(導入後の反射光強度がより小さい場合)には、溢出収容部内に、溢出物が存在すると判断される。ただし、マイクロチップ間の製造振れが小さく、溢出物導入前の反射光強度が、マイクロチップ間でほぼ一定とみなすことができる場合には、溢出物導入前における反射光強度の測定は省略することが可能である。
【0052】
このように、本実施形態のマイクロチップ100は、各液体試薬に対応する合計11個の溢出試薬収容部と2個の溢出液収容部を有しており、これらは、第1の流体回路(上側流体回路)内に配置されている(図3参照)。すべての溢出収容部を一方の流体回路に配置することにより、反射光強度測定の際、マイクロチップを裏返す必要がなく、簡便かつ迅速にすべての溢出収容部における溢出物の有無を検知することができる。また、これらの溢出収容部、とりわけ溢出試薬収容部および溢出液収容部330bは、第2の基板表面に形成された一方の流体回路内において、同一円の円周上に配置されることが好ましい(図3参照。マイクロチップ100では、合計11個の溢出試薬収容部と1個の溢出液収容部330bがこのような配置となっている。)。当該円は、マイクロチップに遠心力を付与するためにマイクロチップを公転させる際の公転中心を中心とする円であることが好ましい。より具体的には、マイクロチップは、通常、回転自在な円形状ステージを有する遠心装置の該円形状ステージ上に載置されて遠心力が印加されることから、公転中心を中心とする円とは、当該円形状ステージの回転中心を中心とする円ともいうことができる。このように、同一円の円周上に溢出収容部を配置することにより、固定された光源(または光源と反射光強度測定手段とが一体化された装置)から光を照射するとともに、マイクロチップを載置した円形状ステージを回転させて、各溢出収容部を、当該照射光の光軸上に順に配置していくことにより反射光強度を測定することができるため、反射光強度の測定を簡便かつ迅速に行なうことができる。
【0053】
次に、本実施形態のマイクロチップ100を用いた流体処理の一例を、図5〜13を参照して説明する。図5〜13は、流体処理の各工程における第2の基板102の上面(第1の基板側表面)の液体(検体、第1成分、液体試薬および第1成分と液体試薬との混合液)の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。各図における(a)が第2の基板上面(第1の流体回路)の液体の状態を示す図であり、(b)が第2の基板下面(第2の流体回路)の液体の状態を示す図である。なお、図5〜13の(b)においては、図4と同様に、図5〜13の(a)に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の基板102の下側流体回路を示している。また、以下の説明においては、セクション1の流体回路における流体処理についてのみ説明するが、他のセクションについても同様の処理がなされており、このことは、図面を参照することにより明確に理解することができる。さらに、以下では、検体が全血である場合を例に説明するが、検体の種類はこれに限定されるものではない。
【0054】
(1)全血計量、液体試薬計量工程
まず、本工程において、図3および4に示される状態にあるマイクロチップに対して、図5における下向き(以下、単に下向きという。図6〜13についても同様であり、また、他の方向についても同様である。)に遠心力を印加する。これにより、第1の基板101の検体導入口120(図2参照)から導入された全血600は、検体計量部500に導入され、計量される。検体計量部500からオーバーフローした全血600は、溢出液収容部330aに収容される〔図5(a)参照〕。また、この下向きの遠心力印加により、液体試薬保持部301a、301b内の液体試薬は、それぞれ貫通穴21b、21cを通って試薬計量部411a、411bに至り、計量される〔図5(b)参照〕。各液体試薬計量部から溢れた液体試薬は、それぞれ貫通穴21a、21dを通って、上面側流体回路内の溢出試薬収容部331a、331bに収容される〔図5(a)参照〕。この段階で、液体試薬に関し液量異常がない場合、溢出試薬収容部332bを除いてすべての溢出試薬収容部内に液体試薬が存在することとなる。なお、本工程に先立ち、試薬保持部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、液体試薬の存在を確認してもよい。また、全血計量、液体試薬計量工程以前の段階で、試薬計量部、混合部、検出部に光を照射し、その反射光強度を測定することにより、これらの部位に液体試薬や検体が存在しないかどうかを確認してもよい。
【0055】
(2)全血移動工程
次に、右向きの遠心力を印加する。これにより、検体計量部500内の計量された全血600は、貫通穴30を通って、下側流体回路の待機部701に移動する〔図6(b)参照〕。
【0056】
(3)血球分離工程
次に、下向きの遠心力を印加する。これにより、待機部701の計量された全血600の全量が、流量制限部700を通って、分離部420に導入される〔図7(b)参照〕。分離部420に導入された全血600は、分離部420にて遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。各液体試薬は再度、試薬計量部に収容される。
【0057】
(4)血漿成分計量工程
次に、右向きの遠心力を印加する。これにより、分離部420において分離された第1成分収容部内の血漿成分は、第1成分計量部401に導入され(同時に第1成分計量部402、403、404および405,406にも導入される)、計量される〔図8(b)参照〕。計量部から溢れた血漿成分は、貫通穴26aを通って上側流体回路内に移動する〔図8(a)参照〕。なお、この段階で、各第1成分計量部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、第1成分計量部における血漿成分の存在を確認してもよい。
【0058】
(5)第1混合工程
次に、下向きの遠心力を印加する。これにより、計量された液体試薬(試薬保持部301aに保持されていた液体試薬)と、第1成分計量部401にて計量された血漿成分とが、試薬計量部411aにおいて混合される〔第1混合工程第1ステップ、図9(b)参照〕。この際、下側流体回路の混合部441aには、液体試薬が残存している。なお、この段階で、各試薬計量部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、試薬計量部における混合液の存在を確認してもよい。また、この段階で溢出液収容部330bの反射光強度を測定することにより、検体導入不足等の不具合をいち早く検知することができる。
【0059】
次に、右向きの遠心力を印加することにより、混合液は、混合部441aに残存していた液体試薬とさらに混合される〔第1混合工程第2ステップ、図10(b)参照〕。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図10に示される状態と同様の状態を得る。
【0060】
(6)第2混合工程
次に、上向きの遠心力を印加する。これにより、混合部441a内の混合液は、貫通穴21eを通って上側流体回路の混合部441bに至り、計量されたもう一方の液体試薬(試薬保持部301b内に保持されていた液体試薬)もまた、貫通穴21eを通って混合部441bに至り、これらは混合される〔第2混合工程第1ステップ、図11(a)参照〕。なお、この段階で、各混合部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、混合部における混合液の存在を確認してもよい。
【0061】
次に、左向きの遠心力を印加することにより、図12(a)に示されるように、混合液が移動し、混合が促進される〔第2混合工程第2ステップ、図12(a)参照〕。また、この左向きの遠心力により、溢出試薬収容部332bに液体試薬が収容されることとなる〔図12(a)参照〕。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図12に示される状態と同様の状態を得る。
【0062】
(7)検出部導入工程
最後に、下向きの遠心力を印加する。これにより、混合液は検出部311に導入される〔他の混合液についても同様、図13(a)および(b)参照〕。また、溢出試薬収容部331a、331bおよび溢出液収容部330bには、液体試薬または血漿成分が収容された状態となる。他の溢出試薬収容部についても同様である。検出部に充填された混合液は、光学測定に供され、検査・分析が行なわれる。たとえば、マイクロチップ表面に対して略垂直な方向から光を照射し、その透過光を測定することにより、混合液中の特定成分の検出等がなされる。また、この際、溢出液収容部330bおよび各溢出試薬収容部に光を照射し、その反射光の強度を測定することにより、血漿成分または液体試薬の有無を確認する。血漿成分または液体試薬の有無の確認は必ずしもこの段階で行なわれる必要はないが、血漿成分または液体試薬が、すべての溢出液収容部および溢出試薬収容部に収容され得る状態となるのはこの段階であるため、操作の簡略化のためには、検出部導入工程後に血漿成分または液体試薬の有無の確認を行なうことが好ましい。
【0063】
<第2の実施形態>
図14は、本発明のマイクロチップの他の一例を示す上面図である。図14に示されるマイクロチップ800は、黒色基板である第1の基板と、基板表面に溝を備える透明な第2の基板との積層体からなり、図14は、第2の基板側から見たときの上面図である。マイクロチップ800は、第2の基板が有する溝および第1の基板における第2の基板側表面から構成される空間からなる「1層」の流体回路を有する。
【0064】
図14を参照して、本実施形態のマイクロチップ800が有する流体回路は、検体(全血等)を収容したサンプル管(キャピラリー等)を収容するためのサンプル管収容部801;検体を計量する検体計量部802;計量された検体から第2成分を分離し、第1成分(液体試薬と混合される成分)を取り出すための分離部803;第1成分と混合される液体試薬R1、R2をそれぞれ保持する試薬保持部804,805(図15を併せて参照);液体試薬R1、R2をそれぞれ計量するための試薬計量部806,807;分離された第1成分を計量するための第1成分計量部808;第1成分と液体試薬との混合を行なう混合部809,810;第1成分、液体試薬R1およびR2の混合液を収容し、光学測定を行なうための検出部811;から主に構成される。なお、本実施形態のマイクロチップ800は流量制限部を有しない。
【0065】
本実施形態のマイクロチップ800を用いた流体処理の一例を、図15〜27を参照して説明する。図15〜27は、流体処理の各工程におけるマイクロチップ内の液体の状態(位置等)を示したものである。以下では、検体が全血である場合を例に説明するが、検体の種類はこれに限定されるものではない。
【0066】
まず、サンプル管収容部801内に、全血600を含んだサンプル管900(キャピラリー等)を収容する(サンプル管収容工程、図15)。なお、マイクロチップ800の試薬保持部804,805には、それぞれ液体試薬R1、R2が予め保持されている。次に、図15に示される状態にあるマイクロチップに対して、図15における左向き(以下、単に左向きという。図16〜27についても同様であり、また、他の方向についても同様である。)に遠心力を印加する(試薬計量工程、図16)。これにより、サンプル管900内の全血は、領域Aに排出される。また、液体試薬R1が、試薬計量部806に導入され、計量される。試薬計量部806からオーバーフローした液体試薬R1は、領域Bに収容される。
【0067】
次に、下向きの遠心力を印加する(全血計量工程、図17)。これにより、全血600は、検体計量部802に導入され、計量される。検体計量部802からオーバーフローした全血600は、領域Bに収容される。また、計量された一部の液体試薬R1は、領域Cに移動する。
【0068】
次に、右向きの遠心力を印加する(血漿分離工程、図18)。これにより、計量された全血600の全量が、分離部803に導入される。分離部803に導入された全血600は、分離部803にて遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。また、この右向きの遠心力により、液体試薬R2が、試薬計量部807に導入され、計量される。試薬計量部807からオーバーフローした液体試薬R2は、領域Dに収容される。
【0069】
次に、上向きの遠心力を印加する(血漿成分計量工程、図19)。これにより、分離部803において分離された血漿成分は、第1成分計量部808に導入され、計量される。第1成分計量部808から溢れた血漿成分は、領域Eに収容される。
【0070】
次に、右向きの遠心力を印加する(第1混合工程第1ステップ、図20)。これにより、計量された液体試薬R1と、第1成分計量部808にて計量された血漿成分とが、混合部809において混合される。ついで、上向きの遠心力を印加し(第1混合工程第2ステップ、図21)、さらに右向きの遠心力を印加することにより(第1混合工程第3ステップ、図22)、液体試薬R1と血漿成分との混合を促進させる。
【0071】
次に、下向きの遠心力を印加する(第2混合工程第1ステップ、図23)。これにより、液体試薬R1と血漿成分との混合液と、計量された液体試薬R2とが、混合部810において混合される。ついで、左向きの遠心力を印加し(第2混合工程第2ステップ、図24)、さらに下向きの遠心力を印加することにより(第2混合工程第3ステップ、図25)、液体試薬R2との混合を促進させる。
【0072】
最後に、右向きの遠心力を印加することにより、血漿成分と液体試薬R1と液体試薬R2との混合液を検出部811に導入し(検出部導入工程、図26)、検出部811に光を照射して光学測定を行なう(図27)。
【0073】
以上、本発明のマイクロチップを、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明のマイクロチップは、上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、本発明のマイクロチップは、必ずしも多項目チップである必要はなく、1種類の検査または分析のみを行なう単項目チップであってもよい。また、本発明においては、上記した各部位のすべてを有している必要はなく、いずれか1種以上の部位を有していなくてもよい。あるいは、上記されていない他の部位を有していてもよい。また、マイクロチップが備える各部位の数も特に限定されるものではない。
【0074】
さらに、本発明のマイクロチップが有する流体回路は、上記実施形態の構造に限定されるものではなく、種々の構造を採り得る。
【符号の説明】
【0075】
11a,11b,16a,16b 流路、20a’,20b’,21a,21b,21c,21d,21e,26a,30 貫通穴、100,800 マイクロチップ、101 第1の基板、102 第2の基板、103 第3の基板、110 試薬導入口、120,120’ 検体導入口、301a,301b,302a,302b,303a,303b,304a,304b,305a,305b,306a,804,805 試薬保持部、311,312,313,314,315,316,811 検出部、330a,330b 溢出液収容部、331a,331b,332a,332b,333a,333b,334a,334b,335a,335b,336a 溢出試薬収容部、401,402,403,404,405,406,808 第1成分計量部、411a,411b,412a,412b,413a,413b,414a,414b,415a,415b,416a,806,807 試薬計量部、420,803 分離部、420’ 血球分離部、421 血球分離部の開口、422 第1成分収容部、423,423’ 狭部、424 第2成分収容部、430’ 廃液溜め、441a,441b,809,810 混合部、500,802 検体計量部、600,600’ 全血、700,700’ 流量制限部、701 待機部、801 サンプル管収容部、900 サンプル管。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、前記第1の基板上に積層され、基板表面に溝を備える第2の基板とを含み、前記溝および前記第1の基板における前記第2の基板側表面から構成される空間を含む流体回路を有するマイクロチップであって、
互いに比重の異なる第1成分と第2成分とを含有する検体を前記流体回路内に導入するための検体導入口を有し、
前記流体回路は、
前記検体導入口に接続され、前記検体導入口から導入された検体の計量を行なうための所定の容積を有する検体計量部と、
前記検体計量部に接続され、計量された検体の全量を収容できる容量を有する部位であって、計量された検体の全量を収容するとともに、収容された検体中の前記第1成分と前記第2成分とを分離するための分離部と、
を含むマイクロチップ。
【請求項2】
前記分離部は、計量された検体を収容するための開口と、分離された第1成分を収容するための第1成分収容部と、分離された第2成分を収容するための第2成分収容部と、をこの順で含み、
前記第1成分収容部の容積は、計量された検体の体積より大きい請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
第1の基板と、前記第1の基板上に積層され、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、前記第2の基板上に積層される第3の基板とを含み、
前記流体回路は、
前記第1の基板における前記第2の基板側表面および前記第2の基板における前記第1の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第1の流体回路と、
前記第3の基板における前記第2の基板側表面および前記第2の基板における前記第3の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第2の流体回路と、
を含む請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記第1の流体回路が前記検体計量部を有し、前記第2の流体回路が前記分離部を有する請求項3に記載のマイクロチップ。
【請求項1】
第1の基板と、前記第1の基板上に積層され、基板表面に溝を備える第2の基板とを含み、前記溝および前記第1の基板における前記第2の基板側表面から構成される空間を含む流体回路を有するマイクロチップであって、
互いに比重の異なる第1成分と第2成分とを含有する検体を前記流体回路内に導入するための検体導入口を有し、
前記流体回路は、
前記検体導入口に接続され、前記検体導入口から導入された検体の計量を行なうための所定の容積を有する検体計量部と、
前記検体計量部に接続され、計量された検体の全量を収容できる容量を有する部位であって、計量された検体の全量を収容するとともに、収容された検体中の前記第1成分と前記第2成分とを分離するための分離部と、
を含むマイクロチップ。
【請求項2】
前記分離部は、計量された検体を収容するための開口と、分離された第1成分を収容するための第1成分収容部と、分離された第2成分を収容するための第2成分収容部と、をこの順で含み、
前記第1成分収容部の容積は、計量された検体の体積より大きい請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
第1の基板と、前記第1の基板上に積層され、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、前記第2の基板上に積層される第3の基板とを含み、
前記流体回路は、
前記第1の基板における前記第2の基板側表面および前記第2の基板における前記第1の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第1の流体回路と、
前記第3の基板における前記第2の基板側表面および前記第2の基板における前記第3の基板側表面に設けられた溝から構成される空間からなる第2の流体回路と、
を含む請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記第1の流体回路が前記検体計量部を有し、前記第2の流体回路が前記分離部を有する請求項3に記載のマイクロチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
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【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2012−127724(P2012−127724A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277838(P2010−277838)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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