説明

マイクロチャネル装置を用いた標的分子の検出、分離または単離

【課題】試料から所望の標的細胞または標的分子を検出または単離するのに有用なマイクロフロー装置、キット、および方法の提供。
【解決手段】漏出に対抗して密閉されるように本体13と接触するクロージャプレートとを備え、マイクロチャネル配置が、該マイクロチャネルのベース面と一体となりかつそこから前記クロージャプレートの表面へ突出する複数の横セパレータ柱を含み、該柱が、前記ランダム流路を提供する。封鎖剤を付着させたランダム流路を備えるマイクロフロー装置に試料を含む液体を通過させることにより、所望の標的細胞または標的分子が検出および/または単離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
序文
本発明は一般に、標的細胞または標的分子の検出または単離に関し、より詳細には所望の標的細胞または標的分子を検出または単離するのに有用な装置、キット、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
異種細胞集団からの希少細胞の効果的な単離および収集は、疾病の診断および治療、例えば遺伝子治療における使用、ならびに基礎科学研究のための使用における単離細胞集団への需要の増加により、高い関心を保っている。例えば、病理学的に変化した細胞、例えば癌細胞を、より大きな正常細胞集団から分離することができ、その後、浄化した細胞集団を、患者に移植して戻してもよい。
【0003】
1つの顕著な要求は、初期の胎児診断、例えば妊娠中の潜在的な染色体異常の初期スクリーニングを可能とする、異種母体細胞集団からの特定の胎児細胞の単離に対するものである。胎児細胞は、羊水穿刺および絨毛生検などの方法により獲得されている;しかし、そのような方法は、とりわけ胎児に対し危険を引き起こす可能性がある。いくつかの胎児細胞はまた、循環母体血中に存在する。これらの細胞は非常に少ない数ではあるが胎児から母体血流に渡るからである。母体細胞に対する胎児細胞の割合は約数ppmにすぎない。このように、母体血中の主な母体細胞集団から希少な胎児細胞を単離および収集することに関連する重要な課題が存在する。これらの課題はまた、胎児細胞の頸管粘液からの分離においても存在し、これらの課題はまた、体液などからの他の希少な細胞の収集、ならびに少量しか存在しない他の生物分子の検出および単離にとっても共通である可能性がある。
【0004】
細胞分離はしばしば、特異的な親和性リガンドを有する細胞表面で分子をターゲティングし、標的細胞集団を固相に選択的、可逆的に付着させることにより達成される。非特異的に吸着された細胞はその後、洗浄により除去され、続いて分析のために標的細胞が解放される。そのような特異的な親和性リガンドは抗体、レクチン、受容体、または、タンパク質、ホルモン、糖質、もしくは生物活性を有する他のそのような分子に結合する他のリガンドであってもよい。
【0005】
カラム分離の他に、標的細胞を、たとえば体液などで見出されうる様々な細胞集団から分離するための他の方法も開発されている。公開された米国特許出願第2004/038315号(特許文献1)は、キャピラリー管の内側管腔表面に解放可能なリンカーを付着させ、その後、所望の結合細胞が、切断試薬により解放され、回収される。米国公開特許出願第2002/132316号(特許文献2)は、マイクロチャネル装置を使用して、移動光学勾配場(moving optical gradient field)を使用することにより細胞集団を分離する。米国特許第6,074,827号(特許文献3)は「濃縮チャネル」を有するように構成されたマイクロ流体装置の使用を開示し、ここで、電気泳動を使用して特定の核酸が試料から分離、識別される。所望の標的生物材料を保持する抗体または他の結合フラグメントの任意の使用もまた言及されている。米国特許第6,432,630号(特許文献4)は、生物粒子を含む流体の流れを、選択偏向が使用されているチャネルを通して誘導するためのマイクロフローシステムを開示し、そのようなシステムを使用して胎児細胞を母体血試料から分離しうることが示されている。これらの特許および公開出願の開示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0006】
米国特許第6,454,924号(特許文献5)は、分析物を含有する液体が、一般的に、上に捕捉剤が付着された直立した柱の上に配置された試料表面を通過して下方に流れるようにされ、そのような柱の側面はそれらが規定するチャネル内での流れを促進するように疎水性とされている、マイクロ流体措置を開示する。
【0007】
K.TakahashiらはJ. Nanobiotechnology,2,5(2004年6月13日)(6pp)(非特許文献1)(参照により本明細書に組み入れられる)において、オンチップ細胞選別システムを開示し、この場合、複数のマイクロ流体入口通路が、ガラスプレートに結合されたPDMSプレート(フォトレジストエポキシ樹脂製のマスター鋳型で製造)に構築された中心細胞選別領域へと至る。PDMSプレートに寒天ゲル電極が設けられ、これは、静電力の適用により望ましくない細胞の分離を促進し、これらの細胞を、合流する短い細胞選別領域を流れて通る間に、緩衝液の平行な連続流中に誘導する。柱を使用して物理的に大きなダスト粒子をトラップする前置フィルタもまた図示される。公開された国際出願WO2004/029221号(特許文献6)は、細胞分離、例えば母体RBCの選択溶解による母体血からの胎児RBCの分離に使用することができる、同様に構成されたマイクロ流体装置を開示する。細胞を含む試料はまた、全細胞を分離するマイクロ流体チャネル装置に導入してもよく;これは複数の円筒障害物を含み、障害物の表面は、それらに適切に連結された結合部分、例えば抗体を有し、その部分が試料中の細胞に結合する。米国特許第5,637,469号(特許文献7)は、結合部分、例えば抗体が対象の生物分子を捕捉するように表面に固定され、インサイチューでその生物分子が分析できる、100μmまたはそれ以下の深さの複数のチャネルを有するマイクロ流体装置を開示する。米国特許第5,147,607号(特許文献8)は、抗体がマイクロチャネル内に固定されたイムノアッセイ、例えばサンドイッチアッセイを実行するための装置の使用を教示する。チャネルの底面から上方に延在し、抗体が固定される、一群の突起部を含む陥凹領域をマイクロチャネル内に提供することができる。
【0008】
開示内容が参照により本明細書に組み入れられる、同時係属中の米国特許出願第11/038,920号(特許文献9)および同第60/678,004号(特許文献10)は、細胞分離のために、例えば母体血から胎児赤血球を、または頸管粘液からトロホブラストを分離するために使用することができるマイクロ流体装置を開示する。マイクロ流体チャネルは一組の不規則なパターンの横柱を含み、これらは直線および流線流を妨害するように戦略的に配置され、これにより、該柱を含む領域の表面に適切に連結された封鎖剤(sequestering agent)、例えば抗体により効果的に標的細胞が捕捉される。前記の簡単に記述された2つの適用は、細胞または他の生物材料を体液などから単離するための改善された分離法を提供するが、この技術分野は初期の段階と考えられ、標的細胞または標的分子を検出または単離するための改善された装置および方法に対する調査が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/038315号
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/132316号
【特許文献3】米国特許第6,074,827号
【特許文献4】米国特許第6,432,630号
【特許文献5】米国特許第6,454,924号
【特許文献6】WO2004/029221号
【特許文献7】米国特許第5,637,469号
【特許文献8】米国特許第5,147,607号
【特許文献9】米国特許出願第11/038,920号
【特許文献10】米国特許出願第60/678,004号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K.Takahashiら、J. Nanobiotechnology,2,5(2004年6月13日)(6pp)
【発明の概要】
【0011】
本発明の発見は、ランダムフローパターン、とりわけランダム流体マルチチャネル配置により提供されるランダムフローパターンを使用して、標的分子または標的実体を単離または検出することができることである。したがって、本発明は標的分子、とりわけ標的細胞または標的生物分子を単離または検出するのに有用な装置および方法を提供する。
【0012】
1つの態様では、本発明はマイクロフロー装置を提供する。マイクロフロー装置は、入口手段、出口手段、および入口手段と出口手段との間に延びるマイクロチャネル配置を備えるランダム流路を有する本体;該流路が漏出に対抗して密閉されるように本体と接触するクロージャプレートを備え、マイクロチャネル配置が、該マイクロチャネルのベース面と一体となりかつそこからクロージャプレートの表面へ突出する複数の横セパレータ柱(transverse separator post)を含み、該柱がランダム流路を提供することができるパターンで配置される。
【0013】
別の態様では、本発明は、本発明の装置とマイクロチャネルおよびクロージャプレートの表面を封鎖剤でコーティングするための使用説明書をと含むキットを提供する。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、マイクロチャネルおよびクロージャプレートの表面が封鎖剤でコーティングされている本発明の装置を含むキットを提供する。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は試料中の標的分子を単離または捕捉する方法を提供する。この方法は試料を含む液体物体を本発明の装置のマイクロチャネルを通して流す段階を含み、ここで、マイクロチャネルおよびクロージャプレートの表面は、標的分子に結合することができる封鎖剤でコーティングされている。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は試料中の標的分子を検出する方法を提供する。この方法は、試料を含む液体物体を本発明の装置のマイクロチャネルを通して流す段階を含み、ここで、マイクロチャネルおよびクロージャプレートの表面は、標的分子に結合して標的分子を検出することができる封鎖剤でコーティングされている。
【0017】
さらに別の態様では、本発明は試料中の標的分子を検出する方法を提供する。この方法は、試料を含む液体物体を本発明の装置のマイクロチャネルを通して流す段階であって、マイクロチャネルおよびクロージャプレートの表面が標的分子に結合することができる封鎖剤でコーティングされている、段階;クロージャプレートを前記物体から分離し、標的分子をクロージャプレートの表面上に露出させ、該標的分子を検出する段階を含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】マイクロチャネル経路で作製されたセパレータ柱を備える収集領域が存在する、本発明の1つの態様の様々な特徴を具体化したマイクロフロー装置のための本体の底面斜視図である。
【図2】横セパレータ柱が配置された図1の収集領域の一部を示す拡大部分図である。
【図3】図1の本体の底面図である。
【図4】図1で示した本体を上部および下部プレートならびに管状スリーブと共に組み入れた装置の分解斜視図である。
【図5】スリーブなしで組み立てられた装置を示す図4の線5-5についての断面図である。
【図6】スリーブが緩く取り囲む図5の組立装置を示す端面図である。
【図7】スリーブが組立装置上に収縮された図6と同様の図面である。
【図8】細胞回収法における図7の装置の使用を示す概略図である。
【図9】装置を通して試料を流し、連結部を除去し、プラグを装置の入口および出口に挿入した後の図7の装置の斜視図である。
【図10】プラグが除去され、熱収縮スリーブに切れ目を入れた、図9と同様の斜視図である。
【図11】熱収縮スリーブを完全に切断し、部分的に開け、本体の上面から上プレートを移動させた装置を示す、図10と同様の図である。
【図12】切断したスリーブおよび上プレートを完全に除去した後の、剛性の下プレートから上方にはがした本体を示す、図11と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましい態様の詳細な説明
本発明の発見は、ランダム流路、とりわけランダム流体マルチチャネル配置により提供されるランダム流路を使用して、標的分子を単離または検出することができることである。したがって、本発明は標的分子、とりわけ標的細胞または標的生物分子を単離または検出するのに有用な装置、キット、および方法を提供する。
【0020】
本発明の1つの局面によれば、入口手段、出口手段、および入口手段と出口手段との間に延びるマイクロチャネル配置を含むランダム流路を有する本体を備え、ここで、流路が、例えば、流路を流れる試料が実質的に漏出しないように被覆または密閉された、装置が提供される。流路および/またはマイクロチャネル配置は、任意の公知のまたは最近発見された、流路を備える本体を被覆または閉鎖するための手段、例えば流路を通って流れる試料の漏出を実質的に遮断することができる任意の材料を用いて、被覆することができる。好ましい態様では、被覆手段は容易に、かつ迅速に除去することができる。本体中の流路および/またはマイクロチャネル配置を被覆するための手段の例としては、剛性または可撓性とすることができるプレートまたは蓋、ポリマー材料または金属箔製のシートなどの包装材料が挙げられるが、それらに限定されない。
【0021】
被覆手段は単純に本体に接触するように置かれて流路を被覆および/または密閉することができ、または圧力を適用し、カバーおよび流路を有する本体を一緒に保持することができ、または封止剤を使用して一時的にカバーを流路を有する本体に接着させることができる。さらに、被覆手段がプレートまたは蓋である場合、平ら/平面とすることができる、または高くなった側面を有することができる。
【0022】
本発明の1つの態様によれば、流路を有する本体はプレート、例えばクロージャプレートで被覆される。プレートは当業者に公知の任意の適切な材料、例えばポリマー材料またはガラスで作製することができる。1つの態様では、プレートはガラス製である。別の態様では、プレートは顕微鏡スライドガラスである。好ましくはプレートは剛性である。さらに、プレートはコーティングされなくてもよく、またはポリマー材料でコーティングされてもよい。任意の適切なポリマー材料、例えばポリジメチルシロキサンを使用してプレートをコーティングしてもよい。
【0023】
流路を有する本体を被覆するために使用されるプレートは任意の形状またはサイズとすることができる。好ましい態様では、プレートは平らである。別の態様では、プレートは少なくとも流路と同じ幅である。さらに別の態様では、プレートは流路よりも広い。
【0024】
好ましい態様では、プレートは少なくとも流路を備える本体と同じ幅である。好ましくはプレートは本体より広い。1つの態様では、本体の幅はプレートの幅の約40%と約90%の間、または約40%と約80%の間、または約40%と約70%の間である。別の態様では、本体の幅はプレートの幅の約50%と約90%の間、または約50%と約80%の間、または約50%と約70%の間である。さらに別の態様では、本体の幅はプレートの幅の約60%と約90%の間、または約60%と約80%の間、または約60%と約70%の間である。
【0025】
好ましい態様では、プレートは流路を備える本体と漏出防止接触を形成し、それにより、そこに備えられる流路が、流路を通って流れる試料の漏出に対抗して密閉される。これは当業者に公知の任意の手段により達成させることができる。そのような手段の例としては、流路を取り囲み、任意で圧力または力を適用してプレートおよび流路を有する本体を一緒に保持する平らな面対面接触、または一時的にプレートを流路を有する本体に接着させるための封止剤の使用が挙げられるが、それらに限定されない。好ましい態様では、良好な密閉がプレートと流路を有する本体との間で達成され、これは容易に、かつ迅速に解放される。
【0026】
したがって、1つの態様では、プレートは流路を備える本体と面対面接触を形成し、それにより、プレートの上面は本体の平らな底面と隣接し、圧力が適用されてプレートが本体と接触して保持され、それにより、流路が漏出に対抗して密閉される。好ましい態様では、プレートは本体に接着されない。別の好ましい態様では、シートを使用してプレートおよび本体を取り囲み、それらを押し付けて互いに面対面接触させ、流路を漏出しないように密閉する。好ましくは、シートは容易に除去可能である。シートは、ポリマー材料を含むがそれに限定されない当業者に公知の任意の適切な材料で作製することができる。
【0027】
さらに、シートは、本体およびプレートの周囲に包装され、それらを一緒に押し付けるオープンシート(open sheet)または「収縮包装」材料として市販されている可能性のあるポリマー材料のスリーブもしくは包装とすることができる。好ましい態様では、シートまたはスリーブは本体およびプレートを、少なくともマイクロチャネルの長軸全長にわたって取り囲む。別の好ましい態様では、最初は本体およびプレートの周囲に緩く取り付けられ、縮むとそれらを一緒に押し付けるスリーブまたは包装を使用して、流路を漏出から密閉する。スリーブまたは包装の収縮は当業者に公知の任意の適切な手段により実行することができる。好ましくは、熱、例えば温風を使用してスリーブまたは包装を収縮させる。使用するシートまたは包装の種類によって、当業者は、本体およびプレートの分離が望ましい場合に包装を除去する方法を理解している。例えば、オープンシートを本体およびプレートの周りに包装し、それらを共に押し付ける場合、その後簡単に開くことができる。本体およびプレートにぴったりと適合するように収縮するスリーブを用いる場合、包装に切れ目を入れ、その後、装置から切り取るまたははがすことができる。
【0028】
マイクロフロー装置の本体は、ケイ素、石英ガラス、ガラス、およびポリマー材料を含むが、それらに限定されない任意の研究室で許容される材料から作製することができる。1つの態様では、ポリマー材料、好ましくは光学的に透明で、かつ少なくともいくらか可撓性であるポリマー材料が使用される。使用してもよい適切なプラスチックとしてはポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ならびに許容される研究室材料用途において周知の他のポリマー樹脂が挙げられる。好ましい態様では、本体は可撓性ポリマー材料から作製される。マイクロチャネル配置を有する可撓性本体は、プレートが本体に接着されずにプレートと密に隣接することにより、密閉を容易にする。好ましくは、使用するポリマー材料はPDMSである。
【0029】
本体は流路およびマイクロチャネル配置を収容するのに適切な任意の形状に製造または成形することができる。好ましい態様では、本体は実質的に平行六面体の形状で成形される。
【0030】
別の態様では、本体は本体とカバープレートとの分離を容易にする手段を含む。そのような手段の例としては、本体とプレートとを分離するために使用することができる、本体またはプレートのいずれかから延びるタブ、またはそれらのいずれかに取り付けられたハンドルが挙げられるが、それらに限定されない。好ましい態様では、本体は一端、好ましくは長軸端から延びるタブを有する。好ましくは、タブは一般に、本体を被覆するために使用されるプレートと接触しない本体の上面と整合される。
【0031】
別の態様では、本体は任意でキャップにより上面が被覆される。好ましくは、キャップは本体の上に重ねられる。この態様では、本体およびプレートを共に押し付けるスリーブまたは包装は好ましくはキャップも取り囲み、それにより、取り囲んだ包装は本体をキャップとカバープレートとの間に挟む。キャップは任意の適切な研究室用材料、例えば、本体材料と同じ材料であってもそうでなくてもよいポリマー材料で作製することができる。キャップの上面は平らにすることができ、または湾曲させることができ、平らな側面または隆起した側面を有することができる。好ましい態様では、キャップの上面は平らで、隆起した側面を有する。好ましくは、隆起側面は斜めであり、より好ましくは、長軸に沿って斜めになっている。
【0032】
好ましい態様では、キャップは本体内の流路よりも少なくともわずかに長く、少なくともわずかに広く、それにより、流路の全周囲について本体とカバープレートとの間で有効な密封が確保される。好ましくは、キャップは本体の長さよりわずかに短い長さを有する。
【0033】
キャップの幅は好ましくは本体の幅より短いまたは本体の幅に等しい。1つの態様では、キャップは最も幅広い寸法で、本体の幅の約60%〜100%の間に等しい幅を有する。別の態様では、キャップは最も幅広い寸法では本体の幅の約70%〜100%の間、好ましくは本体の幅の約75%〜100%の間、より好ましくは本体の幅の約80%〜100%の間、さらに好ましくは本体の幅の約90%〜100%の間に等しい幅を有する。
【0034】
上記のように、好ましい態様では、取り囲み包装は本体をキャップとカバープレートとの間に挟む。したがって、キャップの寸法は、本体をキャップとカバープレートとの間に挟む際に包装により適用される力が本体全体の幅にわたって広がり、それにより流路の全周囲に沿って密封が確保されるように、選択することができる。
【0035】
キャップは任意で、横方向にキャップを通って延びる一対の開口を備え、該開口は、本体内で入口手段および出口手段とそれぞれ整合される。この態様では、取り囲み包装は任意で、一対の間隔を空けた、好ましくは、キャップ内の開口と整合された円形の孔を備える。
【0036】
本発明の1つの態様では、入口手段および出口手段はそれぞれ、入口および出口通路である。入口および出口通路は任意の配向、例えば、垂直または角度がある/斜め、および任意の形状の断面、例えば概円形、概長方形などの断面を有することができ、同一平面にある中心線または軸を有しても有さなくてもよい。別の好ましい態様では、入口および出口通路は実質的に円形の断面を有する。別の好ましい態様では、入口通路は概円錐形状である。
【0037】
1つの態様では、入口および出口通路の軸は角度がある/斜めであり、それぞれ、本体の底面に対し約120°と約150°との間の角度で、好ましくは約130°と140°との間の角度で、より好ましくは約135°で整合される。別の態様では、入口および出口通路の軸は好ましくは共通の垂直面内に存在し、この面は本体の底面に対し垂直である。好ましい態様では、入口および出口通路の軸は、共通の垂直面内で、互いに80°〜100°の間の角度で、より好ましくは互いに約90°で角度配向される。
【0038】
入口および出口通路は任意で1つまたは複数のリザーバまたはウエルに接続させてもよい。好ましい態様では、入口通路は一端のリザーバおよび他端のウエル、例えば流路端に接続される。好ましくはそのようなリザーバ/ウエルの組み合わせは約50μl〜約1000μlの液体試料、好ましくは少なくとも約50μl〜約500μlを保持する能力を有する。好ましい態様では、リザーバは少なくとも0.2mlの内部体積を有する。
【0039】
本発明のマイクロチャネル配置はランダム流路を提供することができる任意のマイクロチャネルパターンとすることができる。本発明によれば、ランダム流路は、最小限の、例えば不十分な量の流線流もしくは反復流パターンを含む、またはそれらを含まない、任意の流路とすることができる。1つの態様では、本発明のランダム流路は流線流または反復流パターンを含まない流路である。別の態様では、本発明のランダム流路は、直線流を妨害または阻止する流路である。さらに別の態様では、本発明のランダム流路は、当業者に公知の数学的にランダムなパターンに対応する流路である。
【0040】
本発明のランダム流路は、当技術分野で公知のまたは最近発見された任意の適切な手段を用いて提供することができる。例えば、本発明のランダム流路は、マイクロチャネルのベース面と一体となり、そこから突出し、本発明のランダム流路を提供することができるパターンで配置された、複数の横セパレータ柱を有するマイクロチャネル配置を用いて発生させることができる。好ましい態様では、柱はベース面に対し実質的に垂直に整合される。一般に、マイクロチャネル配置、例えば単一ユニットまたは領域内の柱は、サイズ、例えば断面サイズおよび形状が変動する可能性がある。例えば、本発明のマイクロチャネル配置は、少なくとも2つまたは3つの異なる断面サイズ、例えば、大、小、および中の柱を含むことができる。本発明のマイクロチャネル配置はまた、1つまたは複数の形状を有する柱を含むことができる。通常、異なるサイズおよび/または形状を有する本発明の柱は、本発明のランダムパターンに従い、連続してまたは均一に分布される。
【0041】
1つの態様では、柱の平均断面サイズはマイクロチャネル配置を通して流される標的分子のサイズに関連する。通常、柱の平均断面サイズと標的分子サイズとの間の相対比率は約0.5:5、0.5:8、1:5、1:8、2:5、2:9、3:5、または3:8である。別の態様では、柱の断面積は、その中に柱を含むマイクロチャネルのベース面の断面積の約20%〜約75%を占める。さらに別の態様では、柱の総体積(例えば、固体体積分率)はマイクロチャネルの総体積の約15%〜約25%(例えば、空隙体積分率)である。さらに別の態様では、2つの柱間の最小距離は柱の最小断面サイズに関連し、例えば、柱の最小断面サイズに等しい。
【0042】
本発明の1つの態様によれば、本発明の柱は、数学アルゴリズム、例えばコンピュータプログラムにより発生させたランダムパターンに対応するパターンで配置させることができる。例えば、ある予め決定されたパラメータ、例えば、柱の総数および2つの柱間の最小距離に基づいてランダムパターンを発生させる数学アルゴリズムを使用することができる。特に、数学アルゴリズムにより、各サイズ群の柱の総数および2つの柱間の最小距離を識別することにより発生させたランダムパターンを得ることができる。
【0043】
本発明の他の態様によれば、マイクロチャネル配置の表面、例えばマイクロチャネル配置内の流路の表面ならびのカバープレートの表面、例えばマイクロチャネル配置を通って流れる試料と接触する表面を、任意で、少なくとも1つの封鎖剤で部分的にまたは完全にコーティングすることができる。通常、封鎖剤は特定の様式で標的分子、例えば細胞または生物分子と相互作用し、標的を物理的に隔離することができる任意の実体とすることができる。
【0044】
本発明の封鎖剤は核酸、例えばDNA、RNA、PNA、またはオリゴヌクレオチド、リガンド、タンパク質、例えば受容体、ペプチド、酵素、酵素阻害剤、酵素基質、免疫グロブリン(特に抗体またはその断片)、抗原、レクチン、修飾タンパク質、修飾ペプチド、生体アミン、および複合糖質を含むことができる。合成分子、例えば、ある特異的な結合活性を有するように設計された薬物、および合成リガンドもまた使用することができる。「修飾」タンパク質またはポリペプチドは、新しい化学部分の添加により、現存の化学部分の除去により、または除去と添加の両方のいくつかの組み合わせにより変更された分子内の1つまたは複数のアミノ酸を有するタンパク質またはペプチドを意味する。この変更は天然および合成修飾の両方を含んでもよい。天然修飾としては、リン酸化、硫酸化、グリコシル化、ヌクレオチド添加、および脂質化が挙げられるが、それらに限定されない。合成修飾としては、ヒドロゲル、微細構造、ナノ構造、例えば量子ドット、または他の合成材料への結合を促進する化学リンカーが挙げられるが、それらに限定されない。さらに、修飾は現存する官能部分、例えば、ヒドロキシル、スルフヒドリルまたはフェニル基の除去、または天然の側鎖またはポリペプチドアミドバックボーンの除去もしくは変更を含む可能性がある。
【0045】
複合糖質の例としては、天然および合成の直鎖および分枝オリゴ糖、修飾多糖、例えば糖脂質、ペプチドグリカン、グリコサミノグリカンまたはアセチル化種、ならびに異種オリゴ糖、例えばN-アセチルグルコサミンまたは硫酸化種が挙げられるが、それらに限定されない。天然由来の複合糖質の例はキチン、ヒアルロン酸、硫酸ケラチン、硫酸コンドイタン、ヘパリン、セルロース、ならびにアルブミンおよびIgGなどの修飾タンパク質上で見られる糖部分である。
【0046】
本発明のさらに別の態様によれば、マイクロチャネルの表面、例えば、マイクロチャネル内の流路の表面およびカバープレートの表面、例えば、流路に暴露された、または流路を流れる試料と接触したカバープレートの表面は、コーティングしてもよく、例えば直接または間接的に少なくとも1つまたは2つもしくはそれ以上の封鎖剤に連結または結合される。1つの態様では、2つまたはそれ以上のそのような薬剤の組み合わせを本発明のマイクロチャネルの表面、例えばベース面および/または柱の表面、および/またはマイクロチャネルに暴露させたプレートの表面に固定し、そのような組み合わせを2つの実体の混合物として添加することができる、または連続して添加することができる。
【0047】
本発明の別の局面によれば、本発明の装置と任意で使用説明書を含むキットとが提供される。1つの態様では、本発明のキットは本発明の装置を含み、ここで、マイクロチャネルおよびカバープレートの表面は封鎖剤でコーティングされず、キットは任意でマイクロチャネルおよびプレートの表面を封鎖剤でコーティングするための使用説明書を含む。別の態様では、本発明のキットはマイクロチャネルおよびカバープレートの表面が封鎖剤でコーティングされた本発明の装置を含み、キットは任意でそのような装置を使用するための使用説明書を含む。
【0048】
本発明のさらに別の局面によれば、標的分子、例えば標的生物分子を単離/捕捉または検出するための本発明の装置を使用する方法を提供する。これらの標的生物分子は広範囲の細胞、ならびに核酸、タンパク質、ペプチド、ウイルス、糖質などのいずれかであってよい。1つの態様では、標的生物分子は標的細胞である。本出願全体を通して「細胞」という用語が使用されるが、封鎖剤に特異的な表面リガンドを同様に有する細胞片および/またはレムナントが含まれることを理解すべきである。1つの態様では、本発明の標的細胞は新生物、例えば癌または腫瘍細胞である。別の態様では、本発明の標的細胞は、例えば胎児を有する被験体からの血液または頸管粘液試料中の胎児細胞である。さらに別の態様では、試料中に存在する標的細胞は非常に少なく、例えば、試料中の標的細胞対総細胞集団の比率は約1:107、1:108、または1:109未満である。
【0049】
本発明の装置により捕捉された標的分子は、インサイチューでまたはマイクロチャネルの表面からの解放後に、検出または分析することができる。例えば、細胞は、インサイチューで直接、FISHまたは任意の他の適切な方法により検出することができる。ヌクレオチドおよびタンパク質はまた、インサイチューで直接、本発明のマイクロチャネルの表面から解放される前または後のいずれかで分析することができる。
【0050】
本発明の1つの態様では、本発明は、試料を含む液体物体を本発明のマイクロチャネルを通して流す段階を含み、マイクロチャネルの表面およびカバープレートの上面が標的分子に結合することができる封鎖剤でコーティングされた、試料中の標的分子を検出または単離する方法を提供する。試料が流れると直ちに包装が除去され、上面に露出された標的分子を有するカバープレートが本体から分離される。標的分子は、ここで、例えばカバープレート自体の上面で検出することができ、または次の精製もしくは分析のために収集することができる。
【0051】
別の態様では、捕捉された標的分子を含むマイクロチャネル配置が分離前に洗浄される。さらに別の態様では、捕捉された標的分子を含むマイクロチャネル配置を化学試薬で処理し、捕捉した標的分子をマイクロチャネルおよびプレートの表面から、洗浄工程後、ただし本体をプレートから分離する前に、解放する。さらに別の態様では、本発明のマイクロフロー装置は標的分子が解放され、解放された標的分子を、本体をプレートから分離する前にクロージャプレートの上面で収集させた後、遠心力にかける。別の態様では、本体は可撓性ポリマー材料により製造され、本体の一端に備えられたタブを用いてカバープレートからはがされる。
【0052】
本発明の1つの特定の態様によれば、収集領域17に至る入口15および収集領域から出て行く出口19を有するマイクロチャネル配置を含む、規定された流路を中に有する本体13を含むマイクロフロー装置11を提供する。当技術分野で周知のように、装置は現在、MEMS(マイクロ-エレクトロ-メカニカルシステム)と呼ばれる分野において、チップ、ディスクなどの上に構築された一体型マイクロ流体装置の一部とすることができる;しかし、体液試料から単離した生物分子の分析は好ましくは、装置11の分解後に実行される。
【0053】
図1および3は、試料液が流される流路が形成された本体13の底面図である。流路は、それぞれ、本体13の平らな底面23に設けられた空洞21に至る、またはそこから出て行く、斜めに配向された入口および出口通路15、19を備える。通路15、19は好ましくは、同じ垂直面に存在する中心線を有する。空洞21は液体試料のためのウエルとして機能することができる拡大された入口セクション25、および斜めの出口通路19に至る短い放出セクション27を含んでもよい。入口および出口通路はどちらも、本体13の対向する上部平面29(図4)で終了する。収集領域17は、液体流路に対し横方向に整合され、不規則な、一般的にランダムなパターンでフローチャネルの収集領域部分の幅全体にわたって配置された、複数の直立柱31を含む。柱31のパターンは、収集領域17を通る直線流が最小限であるかまたは全くないものであり、かつ流線流ストリームが妨害または阻止されるようなものであり、流路に沿って流される液体と柱の表面との間で良好な接触が確保される。柱は収集領域17の平らなベース33と一体であり、このベースは底面23と平行であり、柱はそこに垂直に延在し、本体13の平らな底面23に垂直な表面が提供される。平らなクロージャプレート35は底面23に隣接し、以下で詳細に記載されるように、フローチャネルを封鎖する。分流器37が流路内の収集領域17に続く入口およびそこから出て行く出口に隣接して配置される。これらの分流器はより均一に液体の流れを分配し、液体は収集領域17の入口端に送達され、そこから放出される。
【0054】
装置を通る流れは、例えばシリンジポンプなどを用いるポンピングにより達成してもよいが、好ましくはウエル25に至る入口通路15に取り付けられた円錐形リザーバ39(図8)から液体を引き出す真空により達成される。好ましくはそのようなリザーバ/ウエルの組み合わせは、約50μl〜約500μl、好ましくは少なくとも約200μlの液体試料を保持する能力を有する。
【0055】
フローチャネルの設計は、相応な範囲内の装置を通る流速、例えば約0.05〜5mm/秒の速度の収集領域17内の流れを生成させる標準Harvard Apparatus注入シリンジポンプを使用する母体血の注入で、乱流の発生を伴わずに、該領域を通る流線流の実質的な乱れが存在するようなものであり;これは、異なるサイズの柱のランダム配置および収集領域17全体にわたる柱31の相対空間により得られる。デッドスポットのない、比較的滑らかな非流線流が、約0.05〜5mm/秒、好ましくは約0.1〜2mm/秒、より好ましくは約0.1〜1mm/秒の平均流速で達成され、かつさらに好ましくは平均流速は約0.2〜1mm/秒で維持される。好ましい態様では、規定サイズの入口ウエルからの吸引により所望の流速が達成される。
【0056】
本体13は研究室で許容される任意の適切な材料から製造されてもよいが、ポリマー材料、好ましくは光学的に透明で、かつ少なくともいくらか可撓性のポリマー材料を使用することが望ましい。使用してもよい適切なプラスチックとしては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ならびに許容される研究室材料用途のために周知の他のポリマー樹脂が挙げられる。可撓性のPDMSが好ましい。パターニングされた空洞を有するそのような本体は、従来の成形技術および鋳造技術から選択されるものなどの任意の従来法を用いて作製してもよい。マイクロチャネル配置を有する可撓性本体13は、接着せずにプレート35の平らな上面と密接に隣接させることにより、密閉を促進する。そのようなプレート35は、堅いまたは剛性のポリマー材料から作製してもよく、または単純に、ガラス製のカバープレート、例えば顕微鏡スライドガラスであってもよい。プレートの組成によって、薄いPDMS膜を接着させることが望ましい可能性がある。
【0057】
本体13は、当技術分野で周知のように、および参照により本明細書に組み入れられるJ. Nanobiotechnology論文に記載されているように、厚いネガティブフォトレジストで作製することができるマスター鋳型またはネガティブ鋳型構造を用い、光リソグラフィーを用いて、ポリマー材料から作製してもよい。例えば、構造層は、市販の標準グレードのエポキシ樹脂(EPON SU-8)フォトレジストおよび硬化剤(SU-8 2025)の混合物から形成することができ、これらはシリコンウエハ基板上で2000rpmでスピンさせ、例えば、40または50μmの厚さのそのようなフォトレジストを提供してもよい。厚さは収集領域17内の流路の高さを決定する。膜は正確に水平なホットプレート上で60℃で3分間、その後、95℃で7分間の露光前焼成に供せられ、全体に均一な厚さが確保され、得られた試料が室温まで冷却される。Karl Suss Contact Mask Alignerを使用して、膜を、最終装置における流路に対し所望のパターンで露光する。その後、膜を65℃で2分間、その後95℃で5分間ポストベークし、その後、市販のSU-8現像剤で、現像中に光撹拌を適用しながら、5分間現像させる。これによりエポキシ樹脂フォトレジスト中にネガティブパターン鋳型が生成され、これがその後、PDMSまたは他の適切なポリマー樹脂中のパターニング柱本体の複製のための成形マスターとして使用される。
【0058】
一例として、PDMS組成物は、10:1の重量比のPDMSプレポリマーおよび硬化剤(Sylgard 184kit, Dow Corning)の混合物から調製される。混合物を真空に供し、混合中に形成する可能性のある気泡を抜き、その後、エポキシ樹脂マスター鋳型上に注ぎ、これを所望の深さの空洞に配置し、所望の厚さの本体を生成させる。マスター鋳型は任意で、適切な金属(例えば、金)の薄層(〜50nm)で予めコーティングし、硬化後のPDMSレプリカのリリースを改善してもよい。PDMS本体の硬化は80℃で90分間実施してもよく;しかしながら、最初にPDMSを硬化不足とすることにより、以下で記載するように柱表面を含む収集領域のその後の官能化が容易になる可能性がある。
【0059】
収集領域17におけるマイクロチャネル配置およびパターニング柱31のレイアウトおよび寸法はマスター鋳型の作製の露光工程で使用されるマスクにより決定される。空洞21の深さはマスター鋳型のSU-8層の厚さにより制御され、これはスピンコーティング条件により決定される。図2は、好ましい、一般にランダム配向で配置された、収集領域17内の柱31を示す空洞21の拡大部分図を示す。
【0060】
おそらく図4でもっともよく示されているように、1つの態様のマイクロフロー装置11は4つの主部品を含む。好ましくは平行六面体の一般形状を有するように成形された本体13、および平底クロージャプレート35の他に、上面が平らなキャッププレート41および周囲ポリマー包装43が存在する。キャッププレート41は底クロージャプレートとほぼ同じ厚さを有してもよく、同じ堅いまたは剛性のポリマー材料から製造してもよい。キャッププレートは、流路を提供する本体13の底面中の空洞21より少なくともわずかに長く、少なくともわずかに広い寸法を有し、そのため、空洞の全周囲の周りで、本体13の底面23とクロージャプレートの上面45との間で効果的な密閉が確保される。好ましくは、キャッププレート41は本体13の主部分の長さよりもわずかにだけ小さな長さを有し、最も幅広い箇所で、本体の幅の約75%と100%との間の幅を有する。キャッププレート41の長軸側縁47は、図4および6で最もよく示されているように、好ましくは斜めになっている。キャッププレートの各長軸端には切り欠きまたは開口49が設けられ、本体13の上面29内の入口および出口へのアクセスが提供される。
【0061】
前述したように、本体13は好ましくは可撓性のポリマー材料、例えば、PDMSから成形され、好ましくは1つの長軸端から延在し、一般に上面29と整合されたタブ51を有する。タブ51は以下でより詳細に記載されているように、試料の標的生物分子の分離後の本体13と平らなプレート35との分離を容易にする。空洞21の周囲での良好な密閉およびその後の本体と平らなクロージャプレート35との容易な分離を実行するために、迅速に軽減することができる様式でクロージャプレートの上面45に対し本体13を押し付けるように配置される。ポリマーシート材料の包装43は好ましくは、そのような密閉圧力を生成させるために使用され、これは、単純に、市販の「収縮包装」材料である配向ポリマーシートのスリーブとしてもよい。キャッププレート41の寸法は、プレート35と41との間に本体を挟む際にこの包装により適用される力が本体13全体の幅にわたって広がるように選択され、このように、空洞21の周囲全体で密封が確保される。図4で示されるように、スリーブ43には一対の孔53が備えられ、これらは、最終組立装置11における入口および出口通路15、19と整合するように配置される。
【0062】
サブアセンブリが、クロージャプレート35上の本体13およびその上の定位置のキャッププレート41から作製されると、このサブアセンブリは図6に示されるようにスリーブ43に挿入される。孔49は入口および出口通路15、19と整合され、その後、該アセンブリはスリーブを熱収縮させる温風などによる加熱に供せられ、その周囲の長さが劇的に減少し、このように、プレート35、41を互いに向かって押し付ける力が適用され、本体13がそれらの間に密閉して挟まれ、図7に示される構造が得られる。キャッププレート41の実質的な幅はこの力を均一に広がらせ、本体13の底面23内の空洞21の周囲全体に沿って密閉が存在することが確保される。
【0063】
図7で示される組み立てられた装置は、標的生物分子、例えば母体血から、または頸管粘液からの胎児細胞を回収するための操作において使用する準備ができている。流路の内側、特に収集領域17を構成する全ての面は、誘導体化され、または好ましくはコーティングが施され、対象の標的生物分子に特異的な封鎖剤の直接または間接的な付着が促進される。パターン柱収集領域17のコーティング表面は様々な様式で誘導体化することができ、当技術分野で公知のように、全ての表面に、所望の標的細胞または他の生物分子に特異的な封鎖剤を付着させることができる。1つの態様では、全ての表面が親水性層でコーティングされる。好ましい態様では、全ての表面がPEG、PPGのイソシアネート官能性ポリマー、またはそのコポリマーを含む親水性透過性ヒドロゲルでコーティングされる。好ましくは、少なくとも1μmの厚さの親水性透過性ヒドロゲルが、PEG、PPGまたはそれらのコポリマーおよびポリイソシアネートの反応生成物であるイソシアネート官能性プレポリマーを含む水性混合物から全ての表面にコーティングされる。
【0064】
封鎖剤はマイクロチャネルおよびプレートの全ての表面に直接または間接的に結合されてもよい。1つの態様では、封鎖剤は親水性リンカーまたはヒドロゲル層を介して結合される。別の態様では、封鎖剤はヒドロゲル中のイソシアネート基に直接または間接的に結合されてもよい。そのようなコーティングおよび封鎖剤の付着の詳細は、前記2つの係属中の米国特許出願で説明されており、それらの開示は参照により本明細書に組み入れられる。例えば、間接的な結合では、アビジンなどの結合剤を、コーティングを実行するために使用されるプレポリマーの水溶液の一部として含んでもよく、この場合、アビジンはそのようなイソシアネート基に共有結合により結合され、続いて、装置がその後使用される分離法において対象の特定の生物分子に特異的な所望のビオチン化抗体の付着のための基盤を提供する。
【0065】
収集領域全体を通しての1つまたは複数の封鎖剤、例えば抗体の付着は、その中の表面を、ウレタン結合により重合され、反応性イソシアネート基を含む約2,000〜6,000ダルトンのMWのPEG、PPGまたはそのコポリマーを含むイソシアネート-官能性ポリマーである特定の親水性ヒドロゲル物質の薄層でコーティングすることにより促進され、それにより、封鎖剤がより効果的に実行する。1つの態様では、親水性ヒドロゲルの層は少なくとも1μmの厚さである。そのようなコーティング材料の調製の詳細は、本出願の譲受人に譲渡された、2004年12月23日に出願された同時係属中の米国特許出願第11/021,304号に開示されている。封鎖剤は直接または間接的にヒドロゲルコーティングに付着させることができるが、間接固定が好ましく、最初に結合される中間作用物または物質の使用が企図される。中間作用物として結合対を使用することが望ましい可能性があり;例えば、ストレプトアビジン、または他の種の抗体に対して誘導される抗体(Ab)をヒドロゲルコーティングに付着させてもよく、これはその後、ビオチン化抗体またはそのような他の種の抗体に結合する。封鎖剤としての抗体の使用は細胞分離において好ましい場合があり、それらの付着は米国特許第5,646,404号において記載されており、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。そのような抗体は、遊離イソシアネートまたは等価な基、例えばポリエーテルイソシアネートなどを有する層でコーティングされた表面に、水溶液中の抗体を塗布することにより、効果的に結合させることができる。遊離イソシアネート基を有する親水性透過性ポリウレタン系ヒドロゲル層の使用が特に好ましく;そのようなことが同時係属中の2つの特許出願で開示され、以下、実施例において記載される。
【0066】
抗体を使用する場合、好ましくはそのような中間作用物を介して、当技術分野で周知の任意の機序を使用して、適切に付着させる。例えば、抗体を2-アミノチオランで処理しチオール化し、得られたチオール化抗体を、PEG-マレイミドで処理した柱と結合させてもよい;または、抗体を、反応性イソシアネート基またはチオシアネート基を有する適切な親水性コーティングに直接共有結合により結合させてもよい。
【0067】
抗体または他の封鎖剤をパターン柱収集領域17全体で定位置に配すると、マイクロフロー装置11は使用可能な状態になる。体液、例えば血液試料または尿試料、または標的細胞または他の生物分子群を含むいくつかの別の前処理液を、標準シリンジポンプから注意深く入口通路内に放出させることにより、または真空ポンプなどにより、下端が通路15内に受け入れられる試料リザーバ39からそこを通るように引き込むことにより、収集領域17を通る流路に沿って移動させる。リザーバは試験のための所望の体積の試料を保持してもよく、または周期的に補充されてもよい。通路15は好ましくは円錐台形であり、使用されると、そのような円錐形リザーバの端と結合するように設計される。ポンプは装置を通って約0.5〜10μl/分の間の流れが生じるように動作させてもよく;約0.01ccの体積を有する装置では、約3〜5μl/分の流速を使用してもよい。体液、または処理および/または分析すべき他の細胞を含む液体によって、当技術分野において公知のように、前処理工程を使用してその体積を減少させ、および/またはそれから望ましくない生物分子を除去してもよい。
【0068】
封鎖剤(例えば、抗体)を本体内の収集領域17のベース、柱、および側壁、ならびにこの領域内のクロージャプレート35の対向する上面45に付着させる。透過性ヒドロゲル内または上で自然の3次元構造を確保することができる封鎖剤は、適切に結合されると、驚くほど効果的である。
【0069】
図8に示されるように、マイクロフロー装置11を、重力を利用するように動作させ、重力ベクトルの向きにより、均一な流れを形成させ、処理される液体中の細胞または他の生物分子と収集領域17中の装置の内側の表面との間での結合接触を改善させる。この態様では、装置11はベースまたはスタンド55上で、水平に対し約30°と60°の間のある角度で支持される。好ましくは約45°で傾斜させる。定位置に任意の適切な様式で、例えば、その上縁をベース55の斜めの表面に、クランププレート57および一対のネジ59を用いて締めることにより固定する。収集領域17内の複数の柱31がこのように同様に水平に対して45°の角度で配向される。入口および出口通路への接続を容易にするために、これらの2つの通路は、本体13を構築する際に同様に整合される。1つの態様では、入口通路15は本体の平らな底面23に対し約120°と約150°との間の角度で、より好ましくは約130°と140°の間の角度で整合され、角度は、装置が図8で示されるように水平に対して45°で整合されるものである場合、最も好ましくは約135°である。
【0070】
出口通路19の軸または中心線が同様に整合される。さらに、入口および出口通路の軸は好ましくは共通の垂直面内に存在し、この面は本体13の平らな底面23に垂直であり、これらの軸は好ましくはその平面内で互いに対し80°と100°の間、より好ましくは約90°で配向される。図8に示される、この好ましい動作配向では、入口通路15は垂直であり、出口通路19は水平であり、重力により液体試料が装置へ供給され、水平方向に引き出されることにより、出口流の一部として全く上方に移動する必要なく、流れが滑らかに出て行く。
【0071】
少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つの異なる直径を有するべきである柱31の不規則パターンが図2に示されており、前記係属中の米国出願においてより詳細に記載されている。この柱パターンが、収集領域を通る直線流を阻止し、または最小に抑え、流線流を不安定化し、渦を形成し、それにより、そのような液体試料中の細胞がこれらの渦の中で混合力ベクトル(mixed force vector)に供せられることが見出されている。水平に対しそのような角度、例えば約45°で動作させると、緩衝水溶液の密度より大きな密度を有する細胞に対し追加の力ベクトルを加える際に相乗効果を有すると考えられることが、現在、見出されている。これらのベクトルは収集領域を通る流路の中心線に対し約45°で配向され、細胞を液体流路から外に誘導し、収集領域内の表面と接触させる傾向があり、標的細胞の捕捉において結果的に有意に有益な効果が得られる。
【0072】
驚くべきことに、約50〜約200μmの高さ、好ましくは約100μmの高さおよび約2〜4mmの幅の収集領域17内における、異なる断面サイズの柱31、例えば、少なくとも2、3、または4つの異なるサイズの、直径約50〜約150μm、好ましくは直径約70〜約130μmの円形断面柱の1組のランダムまたは不規則パターンにより、柱間の最小空間が50〜70μm、好ましくは約60μmである場合、液体試料流からの細胞の捕捉が特に効果的に推進されると思われる。全てがベース33に対し垂直な平行線により形成される側壁を有する柱の断面積が、収集領域の体積の約15%〜25%の間を占めるようなものであることが、特に好ましい。
【0073】
液体試料が装置を通って完全に通過すると、標的細胞が試料中に存在すれば、その大部分が収集領域内に捕捉されている。その後、緩衝剤で洗浄し、試料の一部であり、収集領域17で抗体または他の封鎖剤により強く捕捉されなかったが、ヒドロゲル-コート表面に非特異的に結合されている可能性のある、無関係な生物材料を除去する。有効な緩衝液を用いた洗浄は、実質的に全ての非特異的に結合した材料を除去することにより領域をパージし、収集領域内に付着した標的細胞のみを残すことが期待される。
【0074】
一旦、緩衝液による洗浄が完了すると、捕捉細胞を適切に解放する化学試薬で収集領域17を充填してもよく、好ましくは装置11は水平に整合されている。解放は当技術分野において公知の適切な方法により、例えば、化学的に(例えば、pHの変化)、または酵素切断剤などの使用により実施してもよい。例えば、封鎖剤を切断するために、またはそのような薬剤と細胞との間の結合を切断するために試薬を適用してもよく、収集領域内の固体表面への連結または結合から標的細胞を遊離させる。抗体などを付着させ、その後捕捉されたリガンドを効果的に除去する、その両方において特異的な方法は、米国特許第5,378,624号において記載されている。例えば、標的細胞の表面特性に特異的な抗体を使用することにより細胞が隔離される場合、トリプシンまたは別の適切なプロテアーゼ、例えばプロナーゼまたはプロテイナーゼKを含む溶液で処理することにより解放を実施してもよい。また、コラゲナーゼを使用して他の封鎖剤からの解放を実施してもよく、特異的に切断可能なリンカーを使用して、封鎖剤を付着させてもよい。そのような切断中、マイクロチャネルからの入口15および出口19は好ましくは簡単な栓61で塞がれ(図9を参照されたい)、装置11はそのような解放後遠心分離に供してもよい。遠心分離は約500gに等しい速度で約5分間、栓61を定位置に存在させ、装置を、遠心力がクロージャプレート35の平面45に対し標的生物分子を押し付けるように配向させて実施してもよく、ここで生物分子が収集される。遠心分離完了時に、装置を図9に示すように配向させると、収集領域17中の生物分子はプレート上面45に存在し、そこに付着する傾向がある。その後、装置11の分解を実行する。
【0075】
図7で示されるように、本体13の各長軸側縁のすぐ外側に開いた三角断面領域63が存在する。この開いた領域63は、ナイフまたは外科用メスにより熱収縮ポリマー包装43を切断して、包装がもはや装置を取り囲んでいないようにすることを容易にする(図10を参照されたい)。切断されたスリーブ43が開かれると(図11を参照されたい)、所望であれば、平らな上部キャッププレート41が容易に除去される。いったん熱収縮スリーブ43が切断され、開かれると、これらの2つの部品間に物理的な接着は存在しないためである。親指と人差し指の間でタブ51をつかむと、本体13は底クロージャプレートの上面45から容易にはがされる(図12を参照されたい)。これらは単純に押し付けられて互いに隣接接触しているだけであり、表面間には何の接着もないためである。
【0076】
結果として、標的生物分子はカバープレート35の上面に存在し、プレート自体の平らな表面45上に存在する間、FISHまたは任意の他の適切な分析によって、容易に顕微鏡観察に供することができる。また、これらは、当技術分野で公知の分子診断を用いることにより、容易に分析に利用することができる。
【0077】
下記実施例は、頸管粘液抽出物からトロホブラスト細胞を隔離するためのこの型のプロトタイプマイクロフロー装置の効果的な使用を説明する。下記実施例は、当然、本発明のある態様のみを例示するにすぎず、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。
【実施例】
【0078】
実施例1
生物分子を分離するためのマイクロフロー装置を、図面にあるようなプロトタイプ装置を提供するように構築させる。本体13をPDMSから形成させ、キャッププレート41を定位置に配すると、位置関係的に配向されたポリマーの熱収縮スリーブ43により平らなガラスプレート35に対して押し付けられ、フローチャネルが封鎖される。収集領域17全体の内側表面は、室温で30分間、Dow Corning Z-6020またはZ-6011の10体積%溶液とともにインキュベートすることにより、誘導体化される。エタノールで洗浄した後、室温の脱脂乳で約1時間処理し、薄いカゼインコーティングを生成させる。10%エタノール水で洗浄後、処理を実行し、内側表面全てを約6000の平均MWを有するイソシアネート-キャップPEGトリオールをベースとする透過性ヒドロゲルでコーティングする。1重量部のポリマー対6部の有機溶媒、すなわち、アセトニトリルおよびDMFを用いてプレポリマー溶液を生成させ、これを、BSAを含むpH8.0の100mMホウ酸ナトリウムに溶解した1mg/ml抗体溶液と混合する。特異的なコーティング調製物はAcn/DMFに溶解した100mgプレポリマー;0.25mg/mlの抗体混合物を含むホウ酸緩衝水溶液350μL;および1mg/mlのBSAを含むホウ酸緩衝水溶液350μLを含む。調製物は約2重量%のポリマーを含む。頸管粘液試料からトロホブラストを単離するために、例えば、抗体混合物は、胎児由来のトロホブラストの外側表面が有するリガンドに特異的なTrop-1およびTrop-2に対する抗体を含む。調製物を25℃で2時間、マイクロフロー装置11内でインキュベートさせる。このインキュベーション期間後、フローチャネルを1% BSA/PBSで洗い流すと、胎児トロホブラスト細胞を単離するように設計された抗体コート表面が得られる。
【0079】
そのような角度をつけて配置されたマイクロフロー装置の有効性を試験するために、BeWoおよびJurkat細胞の混合物を含む供給液を使用する。BeWo細胞はTrop-1およびTrop-2抗原を発現するので、それらを選択し、一方、Jurkat細胞はどちらも発現せず、このように陰性対照細胞として機能する。
【0080】
十分な試験供給溶液を3つの実行のために調製する:溶液は1% BSA/PBS緩衝液中に約1,500のBeWo細胞および約1,500のJurkat細胞を含む。供給溶液は3つのアリコートに分割され、各アリコートは約500のBeWo細胞および約500のJurkat細胞を含む。3つの同一のマイクロフロー装置を垂直から45°配向させ、1アリコートの混合細胞供給液を、真空ポンプによりもたらされる吸引の結果により、各々を通して流す。異なる流速を使用する:1μl/分、3μl/分、および5μl/分。
【0081】
これらの試験装置を通して流した後、PBS緩衝液を用いて洗浄し、各装置をその後顕微鏡で検査する。捕捉した細胞の2つの群各々を、顕微鏡を用いて手作業で別個に計数する。標的BeWo細胞に関しては、より低い流速で、約75%のBeWo細胞が収集チャネル領域で捕捉されることが見出された。この値は3μl/分の中流速で約82%まで上昇し、5μl/分の試験した最も高い流速で約60%のままである。他方、収集領域でのJurkat細胞の非特異的結合は最も低い流速で比較的高く、すなわち約45%であるが;3μl/分でわずか約15%まで、最も高い流速で5%未満まで降下する。45°配向での性能は優れていると考えられ、計算から、約0.27mm/秒の収集チャンバ領域を通過する速度に等しい流速で動作させることにより、標的細胞が良好に収集され、非特異的結合細胞の混入が最小に抑えられる。
【0082】
実施例2
同じ構成の別のマイクロフロー装置を同様に、Trop-1およびTrop-2抗体を有する透過性ヒドロゲルでコーティングする。妊娠中の母親(妊娠8〜12週)由来の頸管粘液をHAM媒質(InVitrogen)で10mlまで希釈し、DNAse(120単位)を用いて37℃で30分間処理する。100μm細胞濾過器を通して濾過した後、細胞を1500RPMで30分間スピンさせる。細胞ペレットをHAM媒質(100μl)中に再懸濁させ、出口チューブを真空ポンプに接続させ、頸管粘液抽出物のこの細胞懸濁液約50μlを垂直に配向させた円錐形リザーバに供給することにより、Trop-1およびTrop-2でコーティングされたマイクロフロー装置に通過させる。ポンプを動作させ、室温で、好ましくは約3〜5μl/分の速度で、マイクロフロー装置を通過する試料液の遅い連続流を発生させる。この期間中、収集領域中の表面に付着されたTrop-1およびTrop-2抗体は、試料中に存在するトロホブラストを捕捉する。試料全体が送達された後、緩徐な洗浄を1%BSA/PBS緩衝水溶液で実施する。この緩衝水溶液約100μlを、装置を通して、約10分の期間にわたり、供給し、装置内のフローチャネルから非特異的に結合された生物材料を除去する。各々PBS+1% BSA 100μlを用いた2回の追加の洗浄を約10分の期間にわたり実施し、確実に除去する。
【0083】
洗浄が完了した後、装置内の流路を0.25%プロナーゼ溶液であふれされ、装置への入口および装置からの出口を栓で遮断する。装置を水平配向で約20分間27℃でインキュベートする。この期間が完了すると、装置を遠心分離器にいれ、500gで約5分間スピンさせ、今分離させた細胞を遠心力により平らなヒドロゲルコートクロージャプレートの表面に押しつける。遠心分離の終わりにプロナーゼ水溶液を装置から排出させる。ポリマー熱収縮スリープを本体の1つの側縁に沿って三角領域で切断し、開き、上部キャッププレートをその後本体から持ち上げる。タブをつかみ、本体を下の平らなクロージャプレートから注意深く剥がす。平らなプレートの表面に付着した細胞を、トロホブラスト由来の細胞に特異的なサイトケラチン-7およびサイトケラチン-17で染色する。トロホブラストとして識別された細胞はその後、FISH技術を用いて容易に分析される。
【0084】
本発明について、本発明を実施するために発明者に現在公知の最もよいモードを構成するある好ましい態様に関して記載してきたが、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲から逸脱せずに、当業者にとって明らかな様々な変更および改変が可能であることを理解すべきである。例えば、マイクロチャネルが規定される基板の作製のためにある好ましい材料が記載されているが、このような研究室用装置に適していると当技術分野で周知なものとして使用してもよい広範囲の構造材料が存在する。一般に、母体血試料からの胎児細胞または頸管粘液抽出物からのトロホブラストの分離について強調してきたが、本発明は、様々な血液細胞、例えば、有核赤血球、リンパ球など、転移性癌細胞、幹細胞などを単離するのに有用であることを理解すべきであり;さらに、別の生物学的材料、例えば、タンパク質、糖質、ウイルスなども液体試料から分離される可能性がある。試料が細胞の特異的なサブ集団を含む場合、捕捉される不要な細胞群を標的とすることにより負の濃縮を実行することができる。
【0085】
本明細書で特に特定した米国特許および出願全ての開示が参照により本明細書に明確に組み入れられる。本発明の特定の特徴は添付の特許請求の範囲において強調される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口手段、出口手段、および入口手段と出口手段との間に延びるマイクロチャネル配置を備えるランダム流路を有する本体と;
該流路が漏出に対抗して密閉されるように本体と接触するクロージャプレートとを備え、
前記マイクロチャネル配置が、該マイクロチャネルのベース面と一体となりかつそこから前記クロージャプレートの表面へ突出する複数の横セパレータ柱(transverse separator post)を含み、
該柱が、前記ランダム流路を提供することができるパターンで配置される、
マイクロフロー装置。
【請求項2】
柱がベース面に対し実質的に垂直に整列される、請求項1記載の装置。
【請求項3】
柱が数学アルゴリズムにより生成されるランダムパターンで配置される、請求項1記載の装置。
【請求項4】
柱が、数学アルゴリズムにより、柱の総数および2つの柱の最小距離を用いて生成されたランダムパターンで配置される、請求項1記載の装置。
【請求項5】
柱が少なくとも2つの異なる断面サイズを有する、請求項1記載の装置。
【請求項6】
柱の平均断面サイズが、マイクロチャネルを通して流される標的分子のサイズに関連する、請求項1記載の装置。
【請求項7】
柱の断面が、マイクロチャネルのベース面の断面の約20%〜約75%を占める、請求項1記載の装置。
【請求項8】
柱の総体積が、マイクロチャネルの総体積の約15%〜約25%である、請求項1記載の装置。
【請求項9】
2つの柱の間の最小距離が、柱の最小断面サイズに関連する、請求項1記載の装置。
【請求項10】
本体およびクロージャプレートを取り囲み、それらを押し付けて互いに表面対表面接触させることで、流路を漏出に対抗して密閉するポリマーシート包装をさらに備える、請求項1記載の装置。
【請求項11】
本体が可撓性ポリマー材料から成形され、シート包装が、マイクロチャネルの少なくとも長軸全長にわたって本体およびプレートを取り囲む、請求項1記載の装置。
【請求項12】
本体がその一端から延びるタブを備える、請求項1記載の装置。
【請求項13】
本体が、本体の上に重ねられたキャップを伴う実質的に平行六面体の形状で成形され、シート包装が、該キャップとクロージャプレートとの間に挟まれた本体と共に、該キャップおよびクロージャプレートを取り囲む、請求項1記載の装置。
【請求項14】
キャップに、それを通って横方向に延びる一対の開口が形成され、該キャップが本体の入口手段および出口手段とそれぞれ整合される、請求項13記載の装置。
【請求項15】
取り囲み包装が、キャップ内の開口と整合される一対の間隔を空けた孔を有するポリマー材料の熱収縮スリーブである、請求項14記載の装置。
【請求項16】
キャップが本体の幅より小さいかまたはそれに等しい幅、および傾斜のついた長軸側面を有する、請求項13記載の装置。
【請求項17】
キャップが、最も広い寸法のところで、本体の幅の約75%〜100%に等しい幅を有する、請求項13記載の装置。
【請求項18】
本体が、クロージャプレートの幅の約50%〜80%に等しい幅を有する、請求項1記載の装置。
【請求項19】
入口手段および出口手段が実質的に円形断面の通路を備え、該通路が、クロージャプレートと接触している本体の表面に対し120°〜150°でそれぞれ整合される軸を有する、請求項1記載の装置。
【請求項20】
軸が互いに80°〜100°で角度が整合される、請求項19記載の装置。
【請求項21】
リザーバが入口通路に受け入れられ、該リザーバが少なくとも約0.2mlの内部体積を有する、請求項19記載の装置。
【請求項22】
マイクロチャネルの表面およびクロージャプレートの表面が親水性層でコーティングされる、請求項1記載の装置。
【請求項23】
マイクロチャネルの表面およびクロージャプレートの表面が、PEG、PPGのイソシアネート官能性ポリマーまたはそのコポリマーを含む親水性透過性ヒドロゲルでコーティングされている、請求項1記載の装置。
【請求項24】
マイクロチャネルの表面およびクロージャプレートの表面が封鎖剤(sequestering agent)でコーティングされている、請求項1記載の装置。
【請求項25】
封鎖剤が、親水性リンカーまたはヒドロゲル層によりマイクロチャネルの表面に結合される、請求項1記載の装置。
【請求項26】
請求項1記載の装置とマイクロチャネルの表面およびクロージャプレートの表面を封鎖剤でコーティングするための使用説明書とを含む、キット。
【請求項27】
マイクロチャネルの表面およびクロージャプレートの表面が封鎖剤でコーティングされている、請求項1記載の装置を含むキット。
【請求項28】
以下の段階を含む、試料中の標的分子を単離または捕捉する方法:
試料を含む液体物体を請求項1記載の装置のマイクロチャネルを通して流す段階であって、マイクロチャネルの表面およびクロージャプレートの表面が、標的分子に結合することができる封鎖剤でコーティングされている、段階。
【請求項29】
以下の段階を含む、試料中の標的分子を検出する方法:
試料を含む液体物体を請求項1記載の装置のマイクロチャネルを通して流す段階であって、マイクロチャネルの表面およびクロージャプレートの表面が、標的分子に結合することができる封鎖剤でコーティングされている、段階;および
標的分子を検出する段階。
【請求項30】
以下の段階を含む、試料中の標的分子を検出する方法:
試料を含む液体物体を請求項1記載の装置のマイクロチャネルを通して流す段階であって、マイクロチャネルの表面およびクロージャプレートの表面が、標的分子に結合することができる封鎖剤でコーティングされている、段階;
クロージャプレートを本体から分離し、標的分子を該クロージャプレートの表面で露出させる段階;および
標的分子を検出する段階。
【請求項31】
捕捉された標的分子を含むマイクロチャネル配置が、前記分離の前に洗浄される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
マイクロチャネルが化学試薬で処理され、捕捉された標的分子が前記分離の前に該マイクロチャネルの表面から解放される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
解放後、装置が遠心力に供せられ、解放された標的分子が前記分離の前にクロージャプレート表面上で収集される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
本体が、可撓性ポリマー材料で作製され、その1つの長軸端に設けられたタブを用いてクロージャプレートから剥がされる、請求項30記載の方法。
【請求項35】
試料が、約0.2〜約1mm/秒の平均液体流速でマイクロチャネルを通して流される、請求項30記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−152230(P2012−152230A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−118310(P2012−118310)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【分割の表示】特願2010−58590(P2010−58590)の分割
【原出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(507240956)バイオセプト インコーポレイティッド (8)
【Fターム(参考)】