説明

マイクロバブル発生ノズル

【課題】 本発明の課題は、閉鎖性海域、湖沼、池、ダム、水棲生物の養殖、汚水処理等の水質改善を目的とし、工業的規模で気泡径のバラツキが少ない平均直径が0.05mm以下の微細気泡を効率的に生成することのできる実用的な装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、水噴流ノズルをオリフィス形状とし、その近傍に気体ノズルを配置した気液二相微細気泡発生装置であり、更には、水噴流ノズルの出口放出孔が二次元スリット又はオリフィスノズルであり、且つ水噴流ノズルの外縁部に気体ノズルを配置した気液二相微細気泡発生装置に係わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡の生成装置及び方法に関わり、詳しくは微細気泡を生成するためのノズルに関わる。
【背景技術】
【0002】
河川、湖沼、内湾等の閉鎖性水域における水質汚染は、近年ことに深刻化しており、低層での無酸素水塊の拡大、赤潮等の発生により、水中生物の減少や養殖魚介類への被害拡大及び上水浄化機能の低下などが問題となっている。そして、これらの水質汚染の原因の一部となる厨房廃水や浴場廃水に対しても、廃水処理が必要となってきている。
汚濁水質の浄化法としては、ろ過法、吸着法、植生浄化法、微生物分解法等様々な対策があるが、空気、酸素又はオゾンをガス成分とする微細気泡を水中に吹き込んで水中酸素濃度を富加する方法(エアレーションと呼ばれる)も重要な手段として報告されている(例えば、非特許文献1)。ここで、微細気泡とはその直径が0.5mm以下の微細なガス気泡を言う。
【0003】
微細気泡は体積に対する比表面積が大きい、水中滞在時間が長い等の理由から、水中に酸素成分を導入して水中の溶存酸素量を増やす効果や、電気的に帯電しており浮遊物等に対する吸着性をもつことから、水中の汚濁物を吸着浮上させる効果を有することが知られている。従って、微細気泡の生成装置や方法として、多くの提案がある。例えば、インジェクション式減圧方式、攪拌方式、エジェクター方式、散気管方式等種々の法式がある(例えば特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
しかしながら、これまで提案された何れの方法も気泡径のバラツキが大きいこと、装置が大型であったり運転コストが高くなること、及び水中生物の生育に悪影響を及ぼすこと等から実用化が遅れている。
【0004】
【非特許文献1】大成博文他、「マイクロバブルの高機能性と水質浄化」、資源処理技術、vol.46,No4,1999,P.52-58
【0005】
【特許文献1】特開2004−290893号
【特許文献2】特開平8−229370号
【特許文献3】WO00/69550号
【特許文献4】特開2003−230824号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明において解決しようとする課題は、上述の公知の技術が抱える問題点を解決することであり、具体的には閉鎖性海域、湖沼、池、ダム、水棲生物の養殖、汚水処理等の水質改善を目的とし、工業的規模で気泡径のバラツキが少ない微細気泡を効率的に生成することのできる実用的な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を解決するため、本発明者が従来から研究開発している気液二相噴流法(非特許文献2)を基本技術として、これを改良することにより本発明に到達した。ここで気液二相噴流法とは、ある深さの液面下に設置したノズルから気液二相噴流を噴出させる、又は、水噴流の近傍に気体ノズルを設置することにより気泡噴流を生じさせる方法である。例えば図1に示すように、比較的高速の水噴流の外縁部に気泡を噴出させると、気泡は水噴流に誘引され速度勾配の大きなせん断層で微細化され微細気泡群となって上昇する。
図2は、これまでに本発明者らにより開発された円形標準ノズルであるが(非特許文献3)、平均空気気泡直径は0.1mmと大きかった。
【0008】
【非特許文献2】社河内 敏彦著、「噴流工学」p193−195、森北出版株式会社、2004年3月発行。
【非特許文献3】大池 崇博、三重大学工学部大学院工学研究科平成13年度修士論文、「気泡噴流の流動特性とその制御」
【0009】
ここにおいて、本発明者は以下のように水噴流ノズルおよびガスノズルを改良することにより、本発明を完成した。すなわち、本発明は、水噴流ノズルをオリフィス形状とし、その外縁部に気体ノズルを配置した気液二相微細気泡発生装置である。オリフィス形状とは流路中に設けられた絞りを意味し、ノズルのオリフィス開口比(流路断面積に対するオリフィス部断面積の比)が小さい程、絞り面積比が大きくなって水噴流の速度勾配が大きくなるため、せん断力も大きくなる。しかし、一方で圧力損失が増加するため、水噴流を発生させるためのモーター消費動力が増加しコスト高となる。
従って、オリフィス形状を有する水噴流ノズルのオリフィス開口比は0.2〜0.8であることが望ましい。
【0010】
上記において、水噴流ノズルの外縁部に気体ノズルを配置するが、外縁部とは気体ノズル出口部から放出される気体が水噴流に誘引される周縁部を云い、水噴流の速度により水噴流ノズルと気体ノズルの距離は異なってくる。水噴流速度が大きいほど、水噴流部への周辺からの流れ込みが強くなり、遠距離でも気体誘引力が強いためである。ここで、水噴流ノズル最外辺と気体ノズル出口部の距離は、0mm〜20mmとするのが一般的であるが必ずしもこれに限定されるものではない。
【0011】
次に、水噴流ノズルの出口放出孔がスリット形状またはオリフィス形状を有する2次元細長孔であり、その外縁部に気体ノズルを配置してなる気液二相微細気泡発生装置に関わる。ここで、水噴流ノズルの出口放出孔がスリット形状またはオリフィス形状を有する2次元細長孔であり、その外縁部に気体ノズルを配置してなる気液二相微細気泡発生装置とは、図3に一例を示すように、2次元的な細長孔の水噴流ノズルの外縁部に気体ノズルを配置した装置を云い、1次元水噴流ノズルよりも水噴流によるせん断層を有効に利用でき、大量のマイクロバブルの生成が可能となる。又、スリット形状とは、流路上にオリフィス状の絞込みがない平滑なノズルを云う。
【発明の効果】
【0012】
本発明による気液二層微細気泡発生ノズルを使用することにより、平均直径が0.05mm以下の空気又は酸素ガスの微細気泡の大量生成が可能となり、河川、湖沼、内湾等の閉鎖性水域、魚介類の養殖場および水族館等における水質劣化を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による気液二相微細気泡発生ノズルを利用して、微細気泡を発生させる場合のシステム概念図を図4に示す。又、オリフィス状の水噴流ノズルの断面拡大図の一例を図5に示す。水噴流ノズルと気体ノズルは、各々個別に用意し適切な位置に設置することもできるが、図6に示すように一体型とするほうが、ノズルの作製、保守および設置の上から合理的である。ここで、ノズルの材質として、海水等に対する耐食性、水噴流に対する耐エロージョン性、ノズル加工性の点から、耐食性鉄合金、真ちゅう等の銅合金又は硬質プラスチックスが一般的に用いられる。
【0014】
微細気泡を大量に発生させる場合は図3に示すように、水噴流ノズルの出口放出孔は2次元細長孔とすることが望ましい。一方、限定された領域の水質を浄化する場合には、図7に示すように1次元の円形状オリフィスノズルを用いても良い。ここで、水噴流ノズルの周囲に配置される気体ノズルは、複数個設置されることが一般的である。
【0015】
以下に本発明の好適な一実施の形態を実施例によって説明するが、本発明の技術的範囲は下記の実施形態によって限定されるものでなく、その要旨を変更することなく様々に改変して実施することができる。
【実施例1】
【0016】
本実施例に用いた装置について、図4に示すシステム概念図を参照しながら説明する。透明なアクリル樹脂製の貯水槽(長さ1150,幅550,高さ800mm,水位:770mm =一定)からの水は,ポンプ,流量調節バルブ,流量計を経て,水槽底面中央に設置された水噴流ノズルから貯水槽へ噴出される。また,エアコンプレッサからの空気は,流量計を経て水噴流ノズルの近傍に設置した空気ノズルから噴出される。座標軸は水噴流ノズル出口中心を原点とし、鉛直上方向をX軸、水平方向をY軸、X−Y
平面に垂直な方向をZ軸とした。
【0017】
水噴流ノズルについては、出口直径d=4.0mm,絞り面積比 A/A=0.64,0.44,0.25 の3種類のオリフィス状ノズル(図7)を準備し、A/A=1 のものを比較ノズルとした。又、空気ノズルは、水噴流ノズルから 6.0mm 離れた十字方向4箇所に、その内1方向にはさらに 2.0mmずつ離れた3箇所に直径d
1.0mmの空気ノズルが設置されており、空気ノズルの高さh は,任意に調節可能とした。
【0018】
次に、微細気泡噴流の気泡径分布及び溶存酸素量を、水噴流流量
=6.0L/min (Re = 31700)、噴出空気流量Q= 0.4L/min、水-空気噴流ノズル中心間距離 L/d = 1.5、空気ノズル本数 n=1(本)について測定した。気泡径分布は、望遠レンズ付きカメラにより撮影した写真から、位置(x,y,z)=(x
= 625〜655, y = 0〜30, z = 0)の 30×30mm の範囲の気泡を目視できる範囲で計測し、気泡径dとその頻度Nを求めた。溶存酸素量は,亜硫酸ソーダ法を用い、貯水内の水の溶存酸素量Cをその温度における飽和酸素量Cs の10%にまで下げた状態から測定を開始し、開始から120分間、30秒ごとに測定した。
【0019】
<試験結果>
図8に気泡径分布を示す。A/Aが小さくなると気泡径0.2mm以下の微細気泡が多くなる。そして、平均気泡径はA/A=0.25 で最小値0.14mmとなった。これは,A/Aが小さくなるとノズル出口での水噴流の速度分布がより矩形に近づき、噴出空気を巻き込む位置でのせん断力が大きくなることによると考えられる.
【0020】
図9に溶存酸素量(C−C/C)を示す。いずれの場合も溶存酸素量Cは時間tの経過とともにも増加し、その増加量はA/Aで最も大きくなり、比較ノズルの場合に比べ溶存酸素量が約23%増加した。
【0021】
以上のように、水噴流の速度勾配の大きな外縁に空気を噴出させると気泡が容易に微少化される。そして
水噴流ノズルをオリフィス形状にすることによりノズル出口での速度分布がより矩形になり、噴流外縁での速度勾配が大きくなる。その結果、気泡直径が0.2mm以下の微細気泡生成量が増加し、水中への溶存酸素量も増加した。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】水噴流により形成されるせん断力により、気体ノズルから放出された気泡が微細化されることを示す概念図である。
【図2】公知の円形状ノズルを示す断面図である。
【図3】本発明による2次元細長形状の気液二相微細気泡発生装置を示す平面図である。
【図4】本発明の気液二相微細気泡発生装置を駆動するためのシステムを示す概念図である。
【図5】本発明による水噴流オリフィスノズルの一例を示す拡大図である。
【図6】本発明による水噴流オリフィスノズルと気体ノズルが一体化された気液二相微細気泡発生装置を示す断面図である。
【図7】本発明による円形状の気液二相微細気泡発生装置の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施例における気泡径と発生頻度を示す図である。
【図9】本発明の実施例における溶存酸素量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリフィス形状を有する水噴流ノズルと、その外縁部に気体ノズルを配置してなる気液二相微細気泡発生装置。
【請求項2】
前記オリフィス形状を有する水噴流ノズルのオリフィス開口比が0.2〜0.8であることを特徴とする請求項1に記載の気液二相微細気泡発生装置。
【請求項3】
水噴流ノズルの出口放出孔がスリット形状またはオリフィス形状を有する2次元細長孔であり、その外縁部に気体ノズルを配置してなる気液二相微細気泡発生装置。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−212562(P2006−212562A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28780(P2005−28780)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】