説明

マイクロリアクタ

【課題】
大流量あるいは高粘度の流体であったり、異種流体、さらには流量,粘性に差があったりしても対応が可能なマイクロリアクタを得る。
【解決手段】
原料導入流路が形成されたベースプレート1及び原料導入プレート3と、ベースプレート1と原料導入プレート3との間に配置され混合流路9が形成された混合流路プレート2と、が積層され、複数の原料液を混合して排出するマイクロリアクタにおいて、混合流路プレート2に形成され幅方向に縮流された混合流路プレート混合流路9bと、ベースプレート1に形成され下流に向けて深さ方向が増大する流路断面形状とされたベースプレート混合流路9aと、を備え、ベースプレート混合流路9aは混合流路プレート混合流路9bに連通され、混合された原料液を排出する排出孔7に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体や気体などの流体の混合及び化学反応を、1mm未満の微小なスケールで高効率に行うマイクロリアクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学合成や化学分析の分野において、混合・反応時間の短縮及び副反応抑制のために、微細加工技術を用いて製作された数十〜数百μmの流路によって構成される流体混合器が使用されはじめている。このような混合器は、マイクロミキサ、又はマイクロリアクタと呼ばれる。マイクロミキサでは流路の代表長さが短いので、流体の慣性力と粘性力の比を表わす無次元数であるレイノルズ数が小さいため、流れは層流となる。したがって、多種類の流体を混合する場合、主に分子拡散によって混合が進む。
【0003】
そこで、流路の代表長さを小さくするほど、拡散距離が短縮され、迅速な混合が可能となる。また、微小化することにより流路の体積当りの表面積が増えるため、流体への熱伝達率が向上する。これにより、マイクロリアクタで反応熱を伴う化学反応を行う際、反応液体の精密な温度制御が可能となり、反応効率を高めることが可能である。
【0004】
また、流体の速度や流量に応じて、化学反応を安定に実現するため、流体の通流路をなすマイクロチャンネルに、通流方向に沿って複数のマイクロヒータを設け、加熱制御することが知られ、例えば特許文献1に記載されている。
さらに、圧力損失を低減するため、異なる2液のノズルを交互に複数配置して2液が交互に流れる多層流を作り出すことが知られ、例えば特許文献2に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−47839号公報
【特許文献2】特開2006−102681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術において、特許文献1に記載のマイクロリアクタは、単に化学反応の加熱領域長さを制御するだけなので、流路表面から受ける抵抗による圧力損失に関しては考慮されていなく、流量を増やすことや高粘度の液体を流すには困難である。
また、特許文献2に記載のマイクロリアクタは、多層流を形成するため、下流において縮流部を必須とし、単に、縮流するだけでは流速が上昇して圧力損失が増加しやすい。さらに、異なる流量や異なる粘度の2液を流した場合、交互に配置したノズル径を流量や粘度に応じて変更しなければならない。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、大流量あるいは高粘度の流体であったり、異種流体、さらには流量,粘性に差があったりしても対応が可能なマイクロリアクタを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、複数の原料液の一方を導入する原料導入流路が形成されたベースプレートと、他方を導入する原料導入流路が形成された原料導入プレートと、前記ベースプレートと前記原料導入プレートとの間に配置され前記原料液を混合させる混合流路が形成された混合流路プレートと、が積層され、前記複数の原料液を混合して排出するマイクロリアクタにおいて、前記混合流路プレートに形成され幅方向に縮流された混合流路プレート混合流路と、前記ベースプレートに形成され下流に向けて深さ方向が増大する流路断面形状とされたベースプレート混合流路と、を備え、前記ベースプレート混合流路は前記混合流路プレート混合流路に連通され、混合された原料液を排出する排出孔に接続されたものである。
【0009】
また、本発明は、原料液を導入する原料導入流路が形成された原料導入プレートと、該原料導入プレートとの間に配置され前記原料液を混合させる混合流路が形成された混合流路プレートと、が積層され、前記複数の原料液を混合して排出するマイクロリアクタにおいて、前記原料導入プレートと、該前記原料導入プレートの間に配置され幅方向に縮流された混合流路プレート混合流路が形成された前記混合流路プレートと、が複数組重ね合わされ、前記混合流路プレート混合流路に連通され下流に向けて深さ方向が増大する流路断面形状とされたベースプレート混合流路を備えたベースプレートが最下段に配置されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、混合流路を下流に向けて深さ方向が増大する流路断面形状としたので、多層化した混合流を縮流すると共に縮流による圧力損失の増大を抑えることができる。したがって、大流量あるいは高粘度の流体であったり、異種流体、さらには流量,粘性に差があったりしても対応が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、一実施の形態によるマイクロリアクタの構造を示す分解斜視図である。図2は、図1のマイクロリアクタの構造を示す部分平面図とその拡大図である。図3は、図2の部分平面図における原料導入流路と混合流路重なり合い部分の流れ方向に平行な断面図であり、同図(а)は断面a−aの断面図、同図(b)は断面b−bの断面図である。また、図4は、図2の部分平面図における絞り部の断面図であり、同図(c)は断面c−cの断面図、同図(d)は断面d−dの断面図である。
【0012】
マイクロリアクタは、4枚のプレート1〜4を積層した構造となっている。一番下のプレートはベースプレート1であり、原料液の流入孔5,6及び排出孔7と、原料導入流路8a及び、幅方向を縮流すると同時に深さ方向に増大する絞り部と流路断面形状に変化のない混合部を備えるベースプレート混合流路9aが形成されている。
二番目のプレートは、混合流路プレート2であり、2種類の原料液体を混合させるための混合流路プレート混合流路9bが形成される。
三番目のプレートは、原料導入プレート3であり、混合流路プレート2に原料を導入するための原料導入流路8bが形成されている。
四番目のプレートは、上蓋4である。
また、4つのプレートはそれぞれ位置合わせのための位置決め穴10〜13を備えている。位置決め穴10は後記で説明する標準の位置であるが、位置決め穴10〜13はベースプレート1、及び原料導入プレート3の位置が流体の流れ方向に対し前後にずれ、かつそれぞれずれる量が異なる様に設定される。
【0013】
標準の位置決め穴10によって位置決めを行った場合について説明する。
原料導入流路8a,8bの下流端は、図2に示すように三角形の流路凸15,16が形成されており、また、ベースプレート1と原料導入プレート3では、流路凸部の頂点が幅方向に交互に重なるよう半ピッチずれて積層されるように形成してある。また、混合流路との重ね合わせも、流路凸部の上端と下端の間に合わさるように積層される。
原料液の流入孔5,6にそれぞれ異なる2種類の流体を投入すると、流体は原料導入流路8a,8bの流路凸部15,16を通って、図2の矢印14の向きに混合流路9に流れ込む。
【0014】
断面aでは、図3(a)に示すように、原料導入流路8aから混合流路9に流体が流れ込むが、原料導入流路8bからの流体は流れ込まない。一方、断面bでは、図3(b)に示すように、原料導入流路8bから混合流路9に流体が流れ込むが、原料導入流路8aからの流体は流れ込まない。したがって、原料導入流路端の流路凸部15,16の並びに合わせて原料導入流路8a、及び8bから混合流路9へ交互に流体が流れ込むので、混合流路9においては2種類の異なる流体が、幅方向に交互に配列した多層流を形成することになる。
【0015】
混合流路9の下流では、混合流路縮流部17で縮流により幅方向を減少させる。さらに、混合流路絞り部18では縮流部同様に流路幅が減少する一方、図4に示すようにベースプレート1に形成されたベースプレート混合流路9aと混合流路プレート2に形成された混合流路プレート混合流路9bとで混合流路9全体が構成されるので、深さ方向に増大する流路断面形状とされたベースプレート混合流路9aにより、流路深さは増加する。さらに続く混合流路混合部19は流路断面形状には変化は無い。また、ベースプレート混合流路9aのみ深さが変化すれば良いので、加工は容易となる。
【0016】
混合流路絞り部18では、2種類の異なる流体の多層流の幅方向間隔が減少するため拡散距離が減少し、拡散による混合速度が向上する。また、深さ方向を増加させることで、幅方向のみの縮流に比べて流路の圧力損失を低く抑えられる。さらには、流路断面積が増えるために流速が低下し、同じ縮流幅で拡散による混合時間が同じであれば、混合のために必要な混合流路混合部19の流路長さを短く取れるため、さらに圧力損失を低減することが出来る。
混合流路絞り部18の上流断面の深さに対し、最下流の深さは2倍以上、また、最下流断面における深さ:流路幅の比は1:1程度以上であることが望ましい。また、絞り部の断面形状は、断面積が常に一定となることが望ましい。これにより、比較的圧力損失の低いマイクロリアクタを提供でき、従来よりも大流量や高粘度の対象に対応することが可能となる。
【0017】
プレートの積層位置を変えた例として、位置決め穴12によって積層位置を設定した場合を例に取り説明する。図5はこのときのマイクロリアクタの構造を示す部分平面図とその拡大図である。図6は、図5の部分平面図におけるノズル部分の流れ方向に平行な断面図であり、同図(а)は断面a−aの断面図、同図(b)は断面b−bの断面図である。 図2の場合に比べ、位置決め穴12を用いた場合、混合流路プレート2を基準とすると、ベースプレート1は流体の流れ方向と逆方向に移動し、原料導入プレート3は流体の流れ方向に移動している。この結果、原料導入流路8aから混合流路9への流れ込む開口部は減少し、原料導入流路8bから混合流路9へ流れ込む開口部は増加する。
【0018】
そして、2種類の異なる流体を複数の開口部から交互に混合流路に導入する場合、双方の流体の開口部、すなわち多層流の開始点における圧力は等しい。そのため、2種類の流体の流量や粘性によって多層流の各流体の幅が一意に決まるが、この幅と前記開口部の幅が著しく異なっていては、多層流を安定に形成することが困難になる。例として、2種類の流体の流量が大きく異なる場合、流量の少ない流体の導入部位の開口量は、流量の多い方に比べて小さくなくてはならない。
【0019】
本例の場合、特に設計や加工を変更することなく、位置決め穴の選択によって、2種類の異なる流体の導入部の開口量を調整可能であり、2つの異なる流体に対し、異なる流量や異なる粘度の組み合わせに対して柔軟に対応が可能となる。
【0020】
他の実施例について図を用いて説明する。実施例1において、原料導入流路の下流端にある流路凸部の形状を変えたものである。図7は、本実施例の積層したプレートの部分平面とその拡大図である。
原料導入流路の下流端に、半円形の流路凸部21,22を備えている。矢印20の向きに従って、原料導入流路8a,8bから交互に2種類の異なる流体が混合流路に流れ込み、幅方向に多層流を形成する。これにより、加工方法がドリル等により容易となる。原料導入流路の下流端は、幅方向に並ぶ凹凸形状であれば同様の効果が得られるが、積層位置を変えることで開口量を変化させる場合、下流方向に向かって先細りした形状であることが望ましい。
【0021】
図8は、他の実施例によるマイクロリアクタの構造を示す分解斜視図である。図9は、図8のマイクロリアクタの構造を示す部分平面図とその拡大図である。図10は、図8の部分平面図における原料導入流路と混合流路重なり合い部分の流れ方向に平行な断面図であり、同図(а)は断面a−aの断面図、同図(b)は断面b−bの断面図である。
【0022】
一番下のベースプレート30の上に、原料導入プレート40,混合流路プレート50,原料導入プレート60が繰り返し重ね合わせ、一番上に上蓋70が積層されている。また、原料導入プレート40,混合流路プレート50,原料導入プレート60を2回繰り返し積層されている。
ベースプレート30は原料液の流入孔31,32及び排出孔33と、幅方向を縮流すると同時に深さ方向に増大する絞り部と流路断面形状に変化のない混合部を備える混合流路34が形成されている。
原料導入プレート40は、原料液の流入孔41と、原料導入流路42と、混合流路43が形成されている。
混合流路プレート50は、原料液の流入孔51,52と、混合流路53が形成されている。原料導入プレート60は、原料導入流路61と、原料液の流入孔62と、混合流路
63が形成されている。
原料導入流路42,61の下流端は、流路凸部45,55が形成されており、また、原料導入プレート40と原料導入プレート60では、流路凸部の頂点が幅方向に交互に重なるよう半ピッチずれて積層されるように形成してある。さらに、混合流路プレート50の混合流路53との重ね合わせも、流路凸部の上端と下端の間に合わさるように積層される。
【0023】
ベースプレート30の原料の流入孔31,32にそれぞれ異なる2種類の流体を投入すると、流体は原料導入流路42,61の流路凸部45,65を通って、図9の矢印14の向きに混合流路プレート50の混合流路53に流れ込む。
断面aでは、図10(a)に示すように、原料導入流路42から混合流路53に流体が流れ込むが、原料導入流路61からの流体は流れ込まない。一方、断面bでは、図10
(b)に示すように、原料導入流路61から混合流路53に流体が流れ込むが、原料導入流路42からの流体は流れ込まない。このように、原料導入流路端の流路凸部45,65の並びに合わせて原料導入流路42、及び61から混合流路33へ交互に流体が流れ込む。さらに下流では混合流路53は、混合流路43,63と合流し混合流路83となる。このため混合流路83においては2種類の異なる流体が、幅方向に交互に配列した多層流を形成する。
【0024】
混合流路の上下から、原料導入流路を経由して交互に複数の異なる流体を導入し幅方向に多層流を形成する場合、各層流の幅が混合流路の深さよりも小さくなると、深さ方向に均等な多層流を形成することが困難になる。このため、多層流を形成する混合流路の上流部分の深さは、各層流の幅に比べて小さくせざるを得ず、圧力損失が大きくなる原因のひとつとなる。
【0025】
本例によれば、多層流を形成する部分では十分に深さの小さい混合流路のまま、これを積層して合流することで、深さ方向が大きくとも安定した多層流を形成することが可能となり、圧力損失を低減することが可能である。
【0026】
また、この混合流路83の下流(図示しない)は、混合流路縮流部と、混合流路絞り部と、混合流路混合部とを備えることで、さらに圧力損失を抑えて短時間で拡散混合を行うことが可能であり、高流量や高粘性の流体の混合に適用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による一実施の形態を示す斜視図。
【図2】図1の部分平面図。
【図3】図2における断面図。
【図4】図2における断面図。
【図5】一実施の形態において積層位置を変えたときの部分平面図。
【図6】図5における断面図。
【図7】他の実施の形態を示す部分平面図。
【図8】他の実施の形態を示す斜視図。
【図9】図8の部分平面図。
【図10】図9における断面図。
【符号の説明】
【0028】
1 ベースプレート
2 混合流路プレート
3 原料導入プレート
4 上蓋
5,6 原料液の流入孔
7 排出孔
8a,8b 原料導入流路
9 混合流路
9a ベースプレート混合流路
9b 混合流路プレート混合流路
10,11,12,13 位置決め穴
15,16 流路凸部
17 混合流路縮流部
18 混合流路絞り部
19 混合流路混合部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の原料液の一方を導入する原料導入流路が形成されたベースプレートと、他方を導入する原料導入流路が形成された原料導入プレートと、前記ベースプレートと前記原料導入プレートとの間に配置され前記原料液を混合させる混合流路が形成された混合流路プレートと、が積層され、前記複数の原料液を混合して排出するマイクロリアクタにおいて、
前記混合流路プレートに形成され幅方向に縮流された混合流路プレート混合流路と、
前記ベースプレートに形成され下流に向けて深さ方向が増大する流路断面形状とされたベースプレート混合流路と、
を備え、前記ベースプレート混合流路は前記混合流路プレート混合流路に連通され、混合された原料液を排出する排出孔に接続されたことを特徴とするマイクロリアクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、前記ベースプレートに前記原料液の流入孔と、混合された液体の排出孔と、が設けられたことを特徴とするマイクロリアクタ。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、前記原料導入流路の下流端に三角形状の流路を形成し、前記ベースプレートと前記原料導入プレートとの積層位置を変えて前記原料導入流路から前記混合流路への開口量を調整可能としたことを特徴とするマイクロリアクタ。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、前記原料導入流路の下流端に半円形の流路を形成し、前記ベースプレートと前記原料導入プレートとの積層位置を変えて前記原料導入流路から前記混合流路への開口量を調整可能としたことを特徴とするマイクロリアクタ。
【請求項5】
原料液を導入する原料導入流路が形成された原料導入プレートと、該原料導入プレートとの間に配置され前記原料液を混合させる混合流路が形成された混合流路プレートと、が積層され、前記複数の原料液を混合して排出するマイクロリアクタにおいて、
前記原料導入プレートと、該前記原料導入プレートの間に配置され幅方向に縮流された混合流路プレート混合流路が形成された前記混合流路プレートと、が複数組重ね合わされ、前記混合流路プレート混合流路に連通され下流に向けて深さ方向が増大する流路断面形状とされたベースプレート混合流路を備えたベースプレートが最下段に配置されたことを特徴とするマイクロリアクタ。
【請求項6】
請求項1又は5に記載のいずれかのものにおいて、前記ベースプレート混合流路の断面積が略一定とされ深さ方向が増大することを特徴とするマイクロリアクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−93498(P2008−93498A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274578(P2006−274578)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】