説明

マイクロ中空構造体及びその製造方法

【課題】サイズが大きく、光の取り出し効率が高く、高速応答する集積回路と混載できると共に、製造歩留まりや長期信頼性を高めることが可能なマイクロ中空構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】単結晶シリコンからなる基板101の一部に接する、酸化シリコンの壁面で覆われた中空構造体102と、中空構造体の内部に配置された電極とを具備する構造とする。そして、シリコン基板101の表面及び裏面において、中空構造体102の一部を基板101の外部に露出させてマイクロ中空構造体を構成する。このマイクロ中空構造体は、例えば、マイクロ放電管、ガスレーザ、白熱ランプ、赤外線ランプ等に用いることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電管やガスレーザ、白熱ランプや赤外線ランプ等に用いられるマイクロ中空構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン基板上に微小な空洞(マイクロ中空構造体)を形成する技術として、ガスエッチングやウェットエッチングにより犠牲層となるポリシリコンを除去する方法がある。例えば、特許文献1の方法では、シリコン基板上にレジスト膜(マスク層)を形成し、そのマスク層の一部に開口部を形成し、開口部の底面に露出したシリコン表面の自然酸化膜を利用してシリコン基板をガスエッチングする。その後、自然酸化膜を覆うように上層膜を形成し、マイクロ中空構造体を形成する。特許文献1にはマイクロ中空構造体を用いたマイクロ真空管が開示されている。
【0003】
また、特許文献2の方法では、2枚のガラス基板を用意し、それらの一方或いは両方の表面に空洞を形成し、空洞をシールするように2枚のガラス基板をウェハボンディングする。その際、空洞内に放電物質ガスを封入し、空洞の内部或いは外側に電極を配置してガス放電ランプを作製する。
【特許文献1】特開平07−193052号公報
【特許文献2】特開平06−208830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のものは、自然酸化膜の機械的強度の問題から大きなサイズの空洞を形成することは難しい。即ち、同文献のものはレジスト膜(マスク層)の開口の大きさは、開口が一方向に長い場合はその幅が2μm以下であり、或いは直径3μmの円に内包される大きさである。そのため、ガスエッチングのエッチング速度による加工サイズの制限があり、大きなサイズの空洞形成が難しい。
【0005】
また、薄い自然酸化膜を利用するため、製造歩留りに課題が生じる。更に、マイクロ中空構造体の底面を構成する壁面がシリコン基板であるため、発光現象を利用した放電管やレーザ、白熱ランプ、赤外線ランプ等を作製する場合には、シリコン基板による光の吸収が避けられず、光の取り出し効率が低くなる。
【0006】
一方、特許文献2の放電ランプは、ガラス基板を使用しているため、1μm以下の微細加工を利用した高速応答を可能とする集積回路をガラス基板上に形成することは困難である。ガラス基板上の膜のフォトリソグラフィーは、ガラスのうねり等の影響によってピントのズレが発生し、高い解像度が得られないからである。従って、集積回路として駆動回路或いは制御回路をガラス基板上に形成する場合には高速応答に限界がある。また、2枚のガラス基板をウェハボンディングするため、製造歩留まりや長期信頼性が低い。
【0007】
本発明の目的は、サイズが大きく、光の取り出し効率が高く、高速応答する集積回路と混載できると共に、製造歩留まりや長期信頼性を高めることが可能なマイクロ中空構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマイクロ中空構造体は、単結晶シリコンからなる基板の一部に接する、酸化シリコンの壁面で覆われた中空構造体と、中空構造体の内部に配置された電極とを具備している。そして、基板の表面及び裏面において、中空構造体の一部が基板の外部に露出している。
【0009】
また、本発明のマイクロ中空構造体の製造方法は、シリコン基板上に電極層を形成し、その電極層を覆うように第1シリコン層を形成する。次に、少なくとも第1シリコン層とシリコン基板の一部を陽極化成処理によって多孔質シリコンを形成し、その多孔質シリコンを覆うように第2シリコン層を形成する。次いで、その多孔質シリコンの一部を除去し、シリコン基板及び第1シリコン層と第2シリコン層によって囲まれた中空構造体を形成する。更に、中空構造体の一部を開口し、中空構造体の壁面を酸化し、その後、シリコン基板の少なくとも表面及び裏面の一部を開口し、中空構造体の壁面の酸化シリコンを露出させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造工程において自然酸化膜を用いないため製造歩留りが高い。また、マスク層の開口部における高い機械的強度のため、大きなサイズの開口を有するマイクロ中空構造体を得ることができる。更に、マイクロ中空構造体の底面を構成する壁面が透明であるため、発光現象を利用した放電管やレーザ、白熱ランプ、赤外線ランプを作製する場合には、シリコン基板による光の吸収損失が少なく、光の取り出し効率を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係るマイクロ中空構造体を示す図である。本実施形態ではマイクロ中空構造体としてマイクロ放電管の例を示す。図1(a)は断面図、図1(b)は上面図である。シリコン基板101内に酸化シリコンで形成された中空構造体102が形成されている。即ち、中空構造体102は酸化シリコンの壁面で覆われ、単結晶シリコンからなる基板101の一部に接している。
【0013】
また、シリコン基板101の中央付近でシリコン基板101の表面及び裏面がエッチングされ、中空構造体102がシリコン基板101から露出し、放電空間103が形成されている。即ち、中空構造体102の一部がシリコン基板101の表面及び裏面においてシリコン基板101の外部に露出している。
【0014】
中空構造体102の内部には、一対の放電電極104が配置されている。放電電極104にはそれぞれ配線105a、105bが接続され、直流電圧或いは交流電圧が印加される。中空構造体102の内部には窒素やAr、Ne、Xe等の不活性ガスが封入されている。必要に応じてヨウ素や臭素等のハロゲンガスや水銀蒸気が封入される。
【0015】
これら不活性ガス等の封入は、中空構造体102に穿孔した孔を閉塞させると同時に行う。配線105bの一端はシリコン基板101上に形成された放電駆動回路や制御回路を構成する回路部106に接続されている。放電電極104に電圧を印加することにより放電による発光現象が生じる。
【0016】
以上の構造は、ガラス貼り合せやシリコン基板のウェハボンディング等の機械的貼り合せ構造ではないため、中空構造体102の機械的強度が高い。そのため、製造歩留りが高く、破損等の長期信頼性が高くなる。また、シリコン基板101中に中空構造体102が形成できるため、例えば、1μm以下の加工精度の集積回路を形成することが可能となる。よって、小型でばらつきが少なく高速処理が可能な駆動回路及び制御回路をマイクロ中空構造体に混載することができる。
【0017】
更に、ウェハボンディングを用いないため、接合面に起因する割れやクラック、亀裂等がなく、製造歩留まりや長期信頼性を高めることが可能となる。また、マイクロ中空構造体の底面を構成する壁面が透明であるため、シリコン基板101による光の吸収損失が少なく、光の取り出し効率が高い。
【0018】
次に、本実施形態のマイクロ中空構造体(マイクロ放電管)の製造方法について説明する。図2は本実施形態のマイクロ中空構造体の製造工程を示す断面図である。まず、図2(a)に示す工程では、単結晶シリコンからなるシリコン基板201上に犠牲層202と電極層203を成膜する。犠牲層202の厚さは10〜200nm程度とし、電極層203の厚さは500nm〜数μm程度である。
【0019】
その後、放電電極の形状に犠牲層202と電極層203をフォトリソグラフィによりパターニングする。犠牲層202は後述する陽極化成処理で用いる電解液に溶解して電解液が電極層203の下部に広がる空間を形成する役割を持つ。従って、犠牲層202は電解液に溶解する性質がある材料が望ましく、例えば、酸化シリコンやチタン、アルミニウム、クロム等が挙げられる。本実施形態では酸化シリコンを用いる。
【0020】
電極層203は後述の陽極化成処理に用いる電解液に耐える性質が必要である。例えば、電解液にフッ化水素を用いる場合、フッ化水素に溶解しない金属が好適である。更に、後述の中空構造形成のための熱処理や熱酸化等の高温の工程に耐える性質が必要である。例えば、1100℃程度の温度にも耐えられる高融点の導電材料が好適である。この2つの性質を持つ電極材料として、タングステンや白金、モリブデン、タンタル、グラファイト等がある。
【0021】
次に、図2(b)に示す工程では、シリコンがエピタキシャル成長する条件において第1シリコン層204を形成する。但し、電極層203の上には多結晶シリコンが成長するが、電極層203以外の部分において後述の中空構造体の壁面となる部分は、原子レベルで連続性が保たれた構造となる。そのため機械的強度が高くなる。第1シリコン層204はマイクロ放電管において電極層と後述の中空構造体の絶縁性を保てるだけの厚さが必要であり、本実施形態では2μm程度とする。
【0022】
更に、その上に中空構造体を形成する領域以外の全部分を覆うマスク205を、フォトリソグラフィにより形成する。マスク材としては、後述の陽極化成処理に用いられるフッ化水素にして耐性の強いポリイミド膜、窒化膜、耐酸性レジスト等を好適に用いることができる。
【0023】
次いで、図2(c)に示す工程では、単結晶シリコンが露出した部分を介して第1シリコン層204とその下のシリコン基板201上に多孔質シリコン206を形成する。多孔質シリコン206は、例えば、電解液(化成液)中で陽極化成処理(陽極化成)を施すことによって形成することができる。
【0024】
電解液としては、例えば、フッ化水素を含む溶液、フッ化水素とエタノールを含む溶液、フッ化水素とイソプロピルアルコールを含む溶液等が好適である。本実施形態では、49%フッ化水素酸溶液とアルコール溶液を1:1の割合で混合した溶液を用いている。多孔質シリコン206の多孔度は、陽極化成時の電流密度で制御し、膜厚は陽極化成時間で制御する。
【0025】
また、多孔質シリコン206は、多孔度が一定の単層多孔質シリコン層でも、多孔度が異なる複数の多孔質シリコン層で構成してもよい。後述のエピシリコンを成長させるためには、表面側の多孔質シリコンの多孔度に比べて表面以外の部分の多孔度が大きいことが望ましい。
【0026】
なお、第1シリコン層204とシリコン基板201の間には、部分的に犠牲層202と電極層203が存在する。電極層203の下部は化成液が浸透しないため、多孔質シリコンが形成される速度が遅くなり易い。電極層203の下に犠牲層202があると、電解液に含まれるフッ化水素により、電極層203の端部から犠牲層202が溶解し、空間が形成される。
【0027】
その空間に電解液が染み込むことで、電極層203の端部から電極層203下部に電解液が広げられ、電極層203下部にも多孔質シリコンの形成が容易になる。多孔質シリコン層の厚さにより、マイクロ放電管の中空構造体の高さが決まる。本実施形態では約15μm程度としている。
【0028】
次いで、マスク205を剥離した後に単結晶シリコンをエピタキシャル成長させて第2シリコン層207を成膜する。この時、多孔質シリコン206を溶融させない条件でエピタキシャル成長させることが重要であるため、エピタキシャル成長時の基板温度が900℃以上1000℃以下であることが望ましい。
【0029】
なお、第2シリコン層207は必ずしもエピタキシャル成長した単結晶シリコンでなくてもよい。即ち、後述する熱酸化により酸化シリコンが形成できるならば、多結晶シリコンや非晶質シリコン等の非単結晶シリコンでも構わない。第2シリコン層207をエピタキシャル単結晶シリコンで形成することができれば、小型でばらつきが少なく、高速処理が可能な駆動回路及び制御回路を形成することが可能になる。本実施形態では、膜厚2μmの単結晶シリコンを成膜している。
【0030】
次に、図2(d)に示す工程では、ガスエッチングやウェットエッチングにより多孔質シリコン206を除去し、中空構造体209を形成する。或いは、還元性の雰囲気の熱処理によって多孔質シリコン206を除去し、中空構造体209を形成する。ガスエッチングやウェットエッチングの場合、第2シリコン層207の一部をエッチングし、多孔質シリコン206に到達する穿孔208を形成する。
【0031】
この穿孔208を介してエッチング性のあるガスや溶液を用いて多孔質シリコン206を除去することができる。穿孔208を介してエッチングを行うため、従来に比べて高速にエッチングを行うことが可能になる。エッチングは、例えば、ドライエッチングの場合、シリコンのエッチングガスとして、一般的にCFとO、或いはSF、Cl、HBr等が好適に用いられる。
【0032】
また、ウェットエッチングの場合、フッ化水素と硝酸の混合液或いは水酸化カリウム等が好適に用いられる。多孔質シリコンは、単結晶や多結晶、非晶質シリコンに対して、密度が低いため、エッチング速度が高い。よって、選択的に多孔質シリコンのみエッチングが進む。
【0033】
熱処理の場合、シリコン基板201を所定の条件下、例えば、1100℃、3時間の条件において熱処理することで、多孔質シリコン206を除去することができる。この熱処理によって、多孔質シリコン206を構成するシリコンがマイグレーションを起こし、特に、多孔度が大きい場合には、多孔質領域を構成するシリコンがマイグレーションを起こし、多孔質領域は中空構造体209となる。
【0034】
多孔度が小さい場合には、多孔質領域は中空構造体とならず、微小な略球状の孔が多数形成された低密度構造体が形成される。熱処理雰囲気は水素が望ましいが、第2シリコン層207を成膜する際に多孔質シリコン206内部に水素が取り込まれたまま封止されるため、窒素雰囲気で熱処理を行っても多孔質シリコン層は除去される。後述のウェット熱酸化により中空構造体の壁面を酸化するために、熱処理後、第2シリコン層207の一部をエッチングし、穿孔208を形成する。
【0035】
次に、図2(e)に示す工程では、ウェット熱酸化によって酸化シリコンを形成する。穿孔208を介して中空構造体209の壁面であるシリコンも酸化され、酸化シリコンを形成する。本実施形態では酸化シリコンの膜厚は約2μmとする。
【0036】
次いで、図2(f)に示す工程では、第1配線層211によって穿孔208を閉塞させる。第1配線層211はスパッタ等の方法によって成膜する時、不活性ガスとともにスパッタ雰囲気ガスを混合して中空構造体209の内部を封止する。
【0037】
また、後述するダイシング工程後、樹脂成型品やガラスフリット等により不活性ガス等を中空構造体内に封止してもよい。即ち、穿孔部分に外部と連通する貫通孔を伴う不図示の樹脂成型品を接着し、不活性ガス等の雰囲気において樹脂成型品の貫通孔を押し潰すか、或いは加熱することによりガスを中空構造体内に封止する。
【0038】
或いは、シリコン基板201の穿孔部分の周囲に外部と連通する微小な溝を設けてガラスフリットを塗布し、穿孔部分を塞ぐ形でガラス板やセラミック板を貼り付ける。次に、不活性ガス等の雰囲気において加熱処理によってガラスフリットを溶解し、微小な溝をガラスフリットで閉塞しつつ、ガラス基板やセラミック板とシリコン基板を接着する。同時に不活性ガス等を中空構造体209内に封止する。
【0039】
次いで、酸化シリコンを部分的に除去した後に回路部212を形成する。次に、パッシベーション層となる絶縁層213を成膜し、パターニング後、第2配線層214を成膜し、パターニングする。
【0040】
次に、図2(g)に示す工程では、シリコン基板201の表面及び裏面の酸化シリコンをパターニングし、シリコン表面を露出させる。次いで、上部開口部215及び裏面開口部216をエッチングにより形成し、中空構造体209の壁面である酸化シリコンを露出させる。その際、塩素系ガスを用いたガスエッチングやアルカリ等によるシリコンの異方性エッチングによってシリコン部分のみをエッチングすることができる。
【0041】
以上の工程により、シリコン基板201に壁面が露出した中空構造体209を形成した後、ダイシングによりチップを切断する。
【0042】
以上の製造工程により、マイクロ放電管が作製できる。本実施形態によれば、製造工程で再現性や膜厚制御性が低い自然酸化膜を用いないため、製造歩留りが高い。また、製造工程において高い機械的強度のため、10μmを超える大きなサイズの空洞を形成することができる。
【0043】
(実施形態2)
図3は本発明の実施形態2に係るマイクロ中空構造体を示す図である。本実施形態ではマイクロ中空構造体としてマイクロ白熱ランプの例を示す。図3(a)はマイクロ白熱ランプの断面図、図3(b)は上面図である。放電電極104がフィラメント電極304と置き換わった以外は実施形態1と同様である。
【0044】
即ち、シリコン基板301内に酸化シリコンで形成された中空構造体302が形成されている。中空構造体102は図1と同様に酸化シリコンの壁面で覆われ、単結晶シリコンからなる基板の一部に接している。
【0045】
また、シリコン基板301の表面及び裏面がエッチングされ、中空構造体302の一部がシリコン基板301の外部に露出し、マイクロ白熱ランプが形成されている。中空構造体302の内部には、タングステンやタンタル、白金等の高融点金属によるフィラメント電極304が配置されている。
【0046】
フィラメント電極304にはそれぞれ配線305が接続され、直流電圧或いは交流電圧が印加される。中空構造体302の内部には、窒素やAr、Ne、Xe、Kr等の不活性ガスや、ヨウ素や臭素等のハロゲンガスや水銀蒸気が封入されている。これら不活性ガス等の封入及び穿孔の閉塞は、実施形態1と同様に行う。配線305の一方端は、シリコン基板301上に形成された駆動回路やフィラメント保護回路を構成する回路部306に接続されている。
【0047】
フィラメントの抵抗値は消灯時は冷えているため低く、点灯中は高温となるため高くなる。電源投入の瞬間からフィラメントの温度が安定するまで、大きな電流が流れることになり、フィラメントが短寿命化する。同一基板上にフィラメントの保護回路(即ち、電源投入時のフィラメントの大電流を抑制する保護回路)を設けることによりフィラメントの長寿命化が可能である。
【0048】
フィラメント電極304に電流を流すことで、フィラメント電極304が白熱し、発光現象が生じる。本実施形態では、中空構造体302の壁面が純度の高い酸化シリコン、即ち、石英で構成されているため、高温にまで耐えることができる。また、フィラメント電極304との距離が近いため、中空構造体302の壁面は高温になり易い。中空構造体302の内部にハロゲンガスが封入されている場合、昇華したタングステン等の金属がフィラメントへ還元され易く、長寿命となる。
【0049】
本実施形態のマイクロ白熱ランプの製造工程は、実施形態1で述べたマイクロ放電管の製造工程において放電電極をフィラメント電極とする以外は同一である。なお、図2(g)に示す工程において、シリコン基板をエッチングする際に中空構造体の左半分を露出させる点が異なっている。
【0050】
(実施形態3)
図4は本発明の実施形態3に係るマイクロ中空構造体を示す断面図である。本実施形態ではマイクロ中空構造体としてマイクロガスレーザの例を示す。実施形態1及び2と同様にシリコン基板401は単結晶シリコンからなり、中空構造体402の露出部分に全反射ミラー407と半透過ミラー408が形成されている。それ以外は、実施形態1と同様である。即ち、シリコン基板401内に酸化シリコンで形成された中空構造体402が形成されている。中空構造体102は図1等と同様に酸化シリコンの壁面で覆われ、単結晶シリコンからなる基板の一部に接している。
【0051】
また、シリコン基板401の中央付近でシリコン基板401の表面及び裏面がエッチングされ、中空構造体402の一部が基板の外部に露出している。中空構造体402の内部には、タングステン等の高融点金属による放電電極404が配置されている。放電電極404にはそれぞれ配線405が接続され、直流電圧或いは交流電圧が印加される。中空構造体402の内部には、窒素やAr、Ne、Xe、Kr等の一般のガスレーザに用いられるガスが充填されている。
【0052】
配線405の一方端は、シリコン基板401上に形成された駆動回路や制御回路を構成する回路部406に接続されている。中空構造体402に放電が起きると、全反射ミラー407と半透過ミラー408が、封入気体の原子にレーザ光を出させるようにレーザ発光動作を生じる。
【0053】
本実施形態において適当な封入気体は、一般的なガスレーザに通常用いられる材料、例えば、CO、He−Ne、Ar等である。一般的なガスレーザは封入する気体の種類によってレーザ周波数を赤外線から紫外線までの広い範囲で選択することができる。本実施形態によると、シリコン基板上に小型のガスレーザ(マイクロガスレーザ)を多数並べることが可能となる。
【0054】
また、多数のマイクロガスレーザを同じシリコン基板401上に形成された回路部406で駆動及び制御することが可能となる。本実施形態では、半導体集積回路プロセスを用いて形成することができるため、全反射ミラー407と半透過ミラー408を高い精度で平行に配置することが可能となり、高効率のレーザ発振が実現できる。
【0055】
更に、放電電極404と中空構造体402の壁面までの距離をシリコン層の膜厚で正確に制御できるため、放電空間内における気体分子の散乱による光の損失を、最小限に抑えることが可能である。また、全反射ミラー407或いは半透過ミラー408との間に存在する酸化シリコンを制御性の高いウェット熱酸化で行うため、機械的強度を考慮しつつ、極力薄く設計することが可能となり、酸化シリコンによる光吸収損失を最小限に抑えることができる。
【0056】
本実施形態のマイクロガスレーザの製造方法は、実施形態1で述べたマイクロ放電管の製造工程とほぼ同一である。まず、図2で説明したようにシリコン基板401に壁面が露出した中空構造体402を形成した後、全反射ミラー407と半透過ミラー408をスパッタ法や蒸着法等によって形成する。必要に応じてマスク蒸着法等によりパターニングすることができる。
【0057】
中空構造体402へのガス等の封入は、実施形態1と同様に中空構造体402の穿孔の閉塞とともに行う。或いは、穿孔は開口したままとし、チップ全体を気密性の高い樹脂製パッケージに収納し、不活性ガス等を封入してもよい。その場合、封入するガスの容積を中空構造体の容積以上に増やすことができるため、放電によるガス分解で決定されるレーザの寿命を相対的に延ばすことが可能になる。
【0058】
なお、本発明のマイクロ中空構造体は、以上のマイクロ放電管、マイクロ白熱ランプ或いはマイクロガスレーザ以外にも、例えば、マイクロ赤外線ランプ等にも使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態1に係るマイクロ放電管を示す断面図及び上面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るマイクロ放電管の製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態2に係るマイクロ白熱ランプを示す断面図及び上面図である。
【図4】本発明の実施形態3に係るマイクロガスレーザを示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
101、301、401 シリコン基板
102、302、402 中空構造体
103、403 放電空間
104、404 放電電極
105a、105b、305、405a、405b 配線
106、306、406 回路部
201 シリコン基板
202 犠牲層
203 電極層
204 第1シリコン層
205 マスク
206 多孔質シリコン
207 第2シリコン層
208 穿孔
209 中空構造体
210 酸化シリコン
211 第1配線層
212 回路部
213 絶縁層
214 第2配線層
215 上部開口部
216 裏面開口部
304 フィラメント電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコンからなる基板に一部を接する、酸化シリコンの壁面で覆われた中空構造体と、前記中空構造体の内部に配置された電極とを有し、前記基板の表面及び裏面において、前記中空構造体の一部が前記基板の外部に露出していることを特徴とするマイクロ中空構造体。
【請求項2】
シリコン基板上に電極層を形成する工程と、
前記電極層を覆うように第1シリコン層を形成する工程と、
少なくとも前記第1シリコン層と前記シリコン基板の一部を陽極化成処理によって多孔質シリコンを形成する工程と、
前記多孔質シリコンを覆うように第2シリコン層を形成する工程と、
前記多孔質シリコンを除去し、前記シリコン基板及び前記第1シリコン層と前記第2シリコン層によって囲まれた中空構造体を形成する工程と、
前記中空構造体の一部を開口し、前記中空構造体の壁面を酸化する工程と、
前記シリコン基板の少なくとも表面及び裏面の一部を開口し、前記中空構造体の壁面の酸化シリコンを露出させる工程と、
を含むことを特徴とするマイクロ中空構造体の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン基板と前記電極層の間に前記陽極化成処理によって少なくとも一部が除去される犠牲層を形成することを特徴とする請求項2に記載のマイクロ中空構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第1シリコン層及び第2シリコン層の少なくとも一部は、エピタキシャル成長によって形成することを特徴とする請求項2又は3に記載のマイクロ中空構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−99391(P2009−99391A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270144(P2007−270144)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】