説明

マイクロ波処理装置

【課題】マイクロ波の周波数が掃引される際に非常に大きい反射電力が発生すると、その反射電力により発生する熱が、半導体素子を破損するおそれがある。
【解決手段】対象物の処理前に、マイクロ波発生手段によりチャープ信号のマイクロ波を対象物に放射させ、検出される反射電力が最小または極小となる周波数を処理周波数として決定し、対象物の処理時に、決定された処理周波数のマイクロ波を発生させることで対象物の処理時に発生する反射電力が低減され反射電力に起因してマイクロ波発生手段が発熱する場合でも、その発熱量が低減される結果、反射電力に起因するマイクロ波発生手段の破損および故障が防止される。またチャープ信号を用いることで1回の掃引で処理周波数が決定できることから従来に比べ対象物の品質が劣化せず、処理時間も短くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波により対象物を処理するマイクロ波処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波発生装置として一般的に用いられるマグネトロンに代えて、半導体素子を用いたマイクロ波発生装置が提案されてきた。半導体素子を用いたマイクロ波発生装置によれば、小型でかつ安価な構成でマイクロ波の周波数を容易に調整することができる。このように、半導体素子を用いたマイクロ波発生装置を備える高周波加熱装置が特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1の高周波加熱装置においては、所定の周波数帯域でマイクロ波の周波数が掃引され、反射電力が最小値を示すときのマイクロ波の周波数が記憶される。そして、記憶された周波数のマイクロ波が加熱室内のアンテナから放射され、対象物が加熱される。これにより、電力変換効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−96486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体素子は放熱部材が接触した状態で用いられる。反射電力により半導体素子が発熱した場合、放熱部材により放熱が行われる。しかしながら、マイクロ波の周波数が掃引される際に非常に大きい反射電力が発生すると、その反射電力により発生する熱が放熱部材の放熱能力を超える場合がある。この場合、半導体素子が破損するおそれがある。また、マイクロ波の周波数が掃引される際、長時間マイクロ波を食品等の加熱対象物に照射されるため対象物の品質が劣化するおそれがあり、処理時間も長くなる課題がある。本発明の目的は、電力変換効率を向上させるとともに、反射電力によるマイクロ波発生装置の破損を防止し、かつ高速で動作するマイクロ波処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るマイクロ波処理装置は、マイクロ波を用いて対象物を処理するマイクロ波処理装置であって、マイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、マイクロ波発生手段により発生されるマイクロ波を対象物に放射する放射部と、放射部からの反射電力を検出する検出手段と、マイクロ波発生手段を制御する制御手段とを備え、制御手段は、対象物の処理前に、マイクロ波発生手段によりチャープ信号のマイクロ波を放射部から対象物に放射させ、検出手段により検出される反射電力が最小または極小となる周波数に基づいて対象物の処理のためのマイクロ波の周波数を処理周波数として決定し、対象物の処理時に、決定された処理周波数のマイクロ波をマイクロ波発生手段により発生させるものである。
【0007】
このように、放射部からの反射電力が最小または極小となる周波数に基づいて決定された処理周波数のマイクロ波が対象物の処理に用いられるので、対象物の処理時に発生する反射電力が低減される。これにより、マイクロ波処理装置の電力変換効率が向上される。また、反射電力に起因してマイクロ波発生手段が発熱する場合でも、その発熱量が低減される。
【0008】
その結果、反射電力に起因するマイクロ波発生手段の破損および故障が防止される。制
御手段は、対象物の処理前に放射部から対象物に放射されるマイクロ波の電力を対象物の処理時に放射部から対象物に放射されるマイクロ波の電力よりも小さい値に設定してもよい。
【0009】
この場合、対象部の処理前にチャープ信号のマイクロ波を放射部から対象物に放射されるマイクロ波の電力が、対象物の処理時に放射されるマイクロ波の電力よりも小さいので、対象物の処理前に、対象物が大きな電力を有するマイクロ波により処理されることを防止できる。
【0010】
それにより、対象物の処理前の電力消費が低減されるとともに、対象物が不所望の条件で処理されることと対象物の品質劣化が防止される。対象物の処理は加熱処理であってもよく、マイクロ波処理装置は、対象物を加熱のために収容する加熱室をさらに備えてもよい。この場合、加熱室の内部に対象物を収容することにより、対象物の加熱処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射部からの反射電力が最小または極小となる周波数に基づいて決定された処理周波数のマイクロ波が対象物の処理に用いられるので、対象物の処理時に発生する反射電力が低減される。これにより、マイクロ波処理装置の電力変換効率が向上され、反射電力に起因する熱によるマイクロ波発生手段の破損および故障が防止される。また、マイクロ波の周波数が短時間で掃引されるため、食品等の劣化を防ぐことができ、かつ高速で処理可能なマイクロ波処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態1に係るマイクロ波発生装置の構成を示すブロック図
【図2】チャープ信号の説明図
【図3】FFT処理結果の例を示す図
【図4】図1のマイクロ波発生装置の制御手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、本発明に係るマイクロ波処理装置について説明する。
【0014】
(1−1)構成の説明
図1は、マイクロ波処理装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施の形態に係るマイクロ波処理装置は、チャープ信号発生装置1、増幅器2、サーキュレータ3、加熱室9、マイコン11を備え、加熱室9にはアンテナ4、対象物8を含み、マイコン11には周波数決定処理5、FFT処理6、A/D変換器7、制御部10を含んでいる。チャープ信号発生装置1では、直線状周波数変調方式により図2のような周波数f0、f1、f2・・・fnと連続可変された信号を出力する(直線状周波数変調方式、チャープ信号発生装置の詳細は、文献:改定レーダ技術 電子情報通信学会発行 P276参照)、例えば周波数帯域ISM(Industrial Scientific and Medical)バンドを用いた場合、2400MHz〜2500MHzの全周波数帯域において、設定された任意のステップで可変された周波数を連続波として発生できる、例えば10MHzステップとした場合、f0=2400MHz、f1=2410MHz、f2=2420MHz・・・fn=2500MHzとなる。また、チャープ信号発生装置1は、マイコン11からの命令により任意の一定周波数の連続波も出力できる。前記増幅器2では前記チャープ信号発生装置1から出力した信号を所望の電力値に増幅させる。サーキュレータ3は、前記増幅器2を安定に動作させると伴に、前記アンテナ4からの反射波を前記A/D変換器7に伝送させる働きをする。アンテナ4は、金属あるいは電磁波
を反射させる材料で生成された加熱室9内に設置され、前記増幅器2で増幅されたチャープ信号を放射させる働きをし、加熱室9を伝搬、反射もしくは直接対象物8にチャープ信号が照射される。ここで加熱室9では構造による固有値や対象物8の位置、大きさ、組成等により固有周波数が決まり、固有周波数以外の周波数は加熱室9外へ反射されることになる。例えば、固有周波数が、2420MHzの場合、チャープ信号が10MHzステップで、f0=2400MHz、f1=2410MHz、f2=2420MHz・・fn=2500MHzで出力された場合、f2の電力は加熱室9内で吸収され、それ以外の周波数の電力は反射されてアンテナ4で受信された後、前記サーキュレータ3を介してマイコン11に伝送される。マイコン11では、前記A/D変換器7によりデジタル信号に変換され、その後FFT処理6にて時間軸から周波数軸に変換計算をすると、周波数単位における反射信号の電力値がわかる。前記の例では、図3に記載のように加熱室9内の固有周波数f2=2420MHzのみ、その他のf0,f1,f3・・・fnより反射電力値が低くい結果となる。前記周波数決定処理5では、FFT処理6の結果を受けて、電力値が最小および極小となる周波数を調べる。前記の例の場合、対象物8を加熱するための最適周波数はf2=2420MHzであると判断し、制御部10では、チャープ信号発生装置1に対して、周波数2420MHzの連続波を出すよう設定を行うとともに、チャープ信号を出力したときの電力値より大きくなるよう増幅器2を調整し、対象物8を過熱させる。
【0015】
(1−2)動作フローの説明
図4は、図1のマイコン11の制御手順を示すフローチャートである。図1のマイコン11は、使用者の操作により対象物の加熱が指令されることにより以下に示すマイクロ波処理を行う。図4に示すように、マイコン11は制御部10により増幅器2を制御することで、予め定められた第1の出力電力を設定する。この第1の出力電力は、後述の第2の出力電力よりも小さい。
【0016】
例えば、定格1000Wの電子レンジに本実施の形態に係るマイクロ波処理装置を適用した場合、第2の出力電力は1000Wとなり第1の出力電力は、これよりも小さい値であれば良く、1000Wの1/5の200Wでもよいし、1/10の100Wに設定してもよい。また、チャープ信号発生装置1の出力電力が0.1Wで第1の出力電力が100Wの場合、増幅器2が1000倍の増幅ができるよう設定をする。
【0017】
次に、制御部10は、チャープ信号発生装置1により発生されるマイクロ波の周波数を例えば2400MHz〜2500MHz(この周波数帯域はISM:Industrial Scientific and Medicalバンドと呼ばれている)の全周波数帯域にかけて設定するとともに、10MHzステップとした場合、f0=2400MHz、f1=2410MHz、f2=2420MHz・・・fn=2500MHzのような設定をし、チャープ信号発生装置1をONさせる。
【0018】
例えば特許文献1の高周波加熱装置においては、所定の周波数帯域でマイクロ波の周波数が掃引され、反射電力が最小値を示すときのマイクロ波の周波数が記憶されるが、1回の掃引に10msの時間を要する場合、ISMバンド全域では、100msの時間が必要となるが、本実施の形態に係るマイクロ波処理装置を適用した場合1回の掃引でよく、10msに抑えることができる。
【0019】
次に図1のA/D変換器7をONにして、検出される信号をFFT処理を行い、反射電力と周波数との関係を算出し結果を記憶する。
【0020】
なお、マイコン11は、マイクロ波の周波数の全周波数帯域における反射電力と周波数との関係を記憶する代わりに、反射電力が極小値を示すときの反射電力と周波数との関係
のみを記憶してもよい。この場合、マイコン11内の記憶装置の使用領域を削減することができる。続いて、周波数決定処理5は、ISMバンドから特定の周波数を抽出する周波数決定処理を行う。この周波数決定処理5では、例えば、記憶した反射電力から特定の反射電力(例えば、最小値)を識別し、その反射電力が得られたときの周波数を本加熱周波数として抽出する。
【0021】
図3の例では、2420MHzを本加熱周波数とする。次に、制御部10は、予め定められた第2の出力電力を設定する。この第2の出力電力は、図1の加熱室9内に配置された対象物を加熱するための電力である。
【0022】
そして、制御部10は、チャープ信号発生装置1を本加熱周波数の連続波に設定し、次に第2の出力電力になるように増幅器2を設定する。例えばチャープ信号発生装置1の出力電力が0.1Wで第2の出力電力が1000Wの場合、増幅器2が10000倍の増幅ができるよう設定をする。次にチャープ信号発生装置1をONすることで本加熱周波数のマイクロ波をアンテナ4から加熱室9内に放射させる。これにより、加熱室9内に配置された対象物が加熱される(本加熱)。
【0023】
(1−3)請求項の各構成要素と実施形態の各部との対応
以下、請求項の各構成要素と実施形態の各部との対応の例について説明するが本発明は下記の例に限定されない。
【0024】
本実施形態においてマイクロ波発生手段とは、チャープ信号発生装置1、増幅器2、サーキュレータ3に相当し、放射部とは、アンテナ4に相当する、検出手段とは、マイコン11に含まれる周波数決定処理5、FFT処理6、A/D変換器7に相当し、制御手段とはマイコン11に含まれる制御部10に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、電子レンジ、プラズマ発生装置、乾燥装置、および酵素反応を促進する装置等、反射電力が発生する処理装置に利用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 チャープ信号発生装置
2 増幅器
3 サーキュレータ
4 アンテナ
5 周波数決定処理
6 FFT処理
7 A/D変換器
8 対象物
9 加熱室
10 制御部
11 マイコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を用いて対象物を処理するマイクロ波処理装置であって、マイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、前記マイクロ波発生手段により発生されるマイクロ波を対象物に放射する放射部と、前記放射部からの反射電力を検出する検出手段と、前記マイクロ波発生手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、対象物の処理前に、前記マイクロ波発生手段によりチャープ信号のマイクロ波を前記放射部から対象物に放射させ、前記検出手段により検出される反射電力が最小または極小となる周波数に基づいて対象物の処理のためのマイクロ波の周波数を処理周波数として決定し、対象物の処理時に、前記決定された処理周波数のマイクロ波を前記マイクロ波発生手段により発生させることを特徴とするマイクロ波処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、対象物の処理前に前記放射部から対象物に放射されるマイクロ波の電力を対象物の処理時に前記放射部から対象物に放射されるマイクロ波の電力よりも小さい値に設定することを特徴とする請求項1記載のマイクロ波処理装置。
【請求項3】
前記対象物の処理は加熱処理であり、対象物を加熱のために収容する加熱室をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ波処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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