説明

マイクロ総合分析システム

【課題】マイクロ総合分析システムにおいて、光学的検知手段により精度良く検出することを可能にしたマイクロ総合分析システムを提供する。
【解決手段】微細加工を施すことにより流体通路6が形成され、かつ光透過性の第1基板22と、前記第1基板22の微細加工面を覆うように積層される光透過性の第2基板24とから検査チップ本体が構成され、 前記第1基板22と前記第2基板24との間に画成された液体供給用の微細流路6内に、検体と試薬との混合液を送液するとともに、該微細流路の途中を検出部7として構成し、この検出部7に到達した混合液に光を照射し、その光により検査対象物の情報を自動的に検査するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、前記第1基板22の前記検出部7に対応する領域に開口24aを形成するとともに、この開口24aを透明体もしくは透明体に準じるフィルム28で覆うようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体と試薬とが混合された混合液を検出部に導くとももに、この検出部に配置された光学的検知手段で、混合液内の必要な情報を自動的に検出するようにしたマイクロ総合分析システムに関するもので、詳しくは、検出部における検出を高精度で行うことを可能にするマイクロ総合分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている。
【0003】
これは、μ−TAS(Micro Total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・
チップ(Lab-on-chips)、バイオチップなどとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産物製造分野などでその応用が期待されている。
【0004】
とりわけ遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作などが必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムとしての検査チップは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とすることができるので、その恩恵は多大と言える。
【0005】
臨床検査を始めとする各種検査を行う現場では、場所を選ばず迅速に結果を出すこれらの検査チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。一方、検査チップではそのサイズ、形態からの厳しい制約を受けるため、シンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが要求される。そのため、精度が高く、信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められている。これに好適なマイクロポンプシステムを本発明者らはすでに提案している(特許文献1)。また、このようなポンプシステムを適用して検査チップを検査装置内にセットすることにより、情報の自動分析を可能としたマイクロ総合分析システムが提案されている。
【0006】
マイクロ総合分析システムにおいて、例えば、検査チップは、検査対象となる検体と、該検体の情報を検知するための試薬とが、予め別々の部位に収容され、さらに、これら検体収容部と試薬収容部とが液通路で連通され、この連通路内で検体と試薬とが混合され、下流に向かって送液されながら効率良く反応される構造となっている。
【0007】
このように検査チップと流体制御検出装置とから構成され、必要な情報を自動的に検出するマイクロ総合分析システムでは、流体制御検出装置から適宜な作動流体がマイクロポンプを介して検査チップ側に導出され、この作動流体の送液に伴って検体と試薬とが混合され、所定温度に設定された反応部において反応が行われ、検出部において、適宜な検出手段により必要な情報が検出されている。
【0008】
ここで、前記検出手段とは、検査項目ごとの分析流路上の検出部位に対して、例えばLEDなどから測定光を照射し、フォトダイオード、光電子増倍管などの光学的検出の手段で透過光もしくは反射光を検出する手段である。光学的検出手段として、原理を異にする各種の装置があるが、紫外・可視分光光度計が望ましい。
【特許文献1】特開2001−322099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このように光学的検知手段で検出を行うマイクロ総合分析システムでは、生体物質と試薬とが予め収容された検査チップに対し、さらに効率的で精度の高い検出を行うことが求められている。
【0010】
ところが、これまでの検査チップでは、紫外・可視分光光度計などから照射された光は、検査チップの積層体を構成する光透過性樹脂などを介して検査対象に光が照射されるため、基板がプラスチックで形成されているとしても、プラスチック界面での反射や斜めを通った光がノイズになり易く、さらなる情報の正確さが求められていた。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、検査チップ内に含まれる検査対象物の必要な情報を自動的に検出するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、光学的検知手段により、一層精度良く検出することを可能にしたマイクロ総合分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るマイクロ総合分析システムは、
微細加工を施すことにより流体通路が形成され、かつ光透過性の第1基板と、前記第1基板の微細加工面を覆うように積層される第2基板とから検査チップ本体が構成され、
前記第1基板と前記第2基板との間に画成された液体供給用の微細流路内に、検体と試薬との混合液を送液するとともに、該微細流路の途中を検出部として構成し、この検出部に到達した混合液に光を照射し、その光により検査対象物の情報を自動的に検査するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、
前記第2基板の前記検出部に対応する領域に開口を形成するとともに、この開口を透明体もしくは透明体に準じるフィルムで覆うようにしたことを特徴としている。
【0013】
このような構成の本発明によれば、光の光路となる部分に光の照射を妨げる部位が生じないため、より精度の高い検出を行うことができる。
また、本発明では、前記第2基板の前記開口の少なくともその外周域を有色であるとともに、フィルム側からこの有色領域にレーザーによる熱照射を行うことによって前記フィルムを前記第1基板に熱融着することを特徴としている。
【0014】
このように構成すれば、フィルムの貼付を容易に行うことができる。
さらに、本発明は、前記検出部を構成する微細流路内に、当該微細流路の深さを浅くするランドを設けたことを特徴としている。
【0015】
このような構成の本発明によれば、例えば、検査チップを用いて生体物質の検査を行う場合に、ランドの上部分にストレプトアジピンなどのビオチン親和性タンパク質を吸着させておけば、このビオチン親和性タンパク質が遺伝子増幅反応に使用されるプライマーの5’末端に標識されたビオチンと特異的に結合するので、ビオチンで標識されたプローブまたは増幅された遺伝子を本検出部位で感度良くトラップさせることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るマイクロ総合分析システムによれば、検出部において精度の高い検出を行うことができる。
また、開口の周囲を有色とすることにより、フィルムのレーザーによる熱融着を行うことができる。
【0017】
加えて、検出部を構成する流路内にランドを設ければ、検出に係るノイズを可及的に少なくすることができるとともに、検出の感度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施例に係るマイクロ総合分析システムを示したものである。
このマイクロ総合分析システム10は、樹脂製の一枚のチップからなる検査チップ1と、この検査チップ1を所定位置にセットして、必要な情報を検査する流体制御検出装置2とから構成されている。
【0019】
検査チップ1は、例えば、血液または喀痰などから抽出された遺伝子検体を注入することにより、チップ内でICAN法などによる遺伝子増幅反応およびその検出を自動的に行い複数の遺伝子について同時に遺伝子診断ができるように構成されたものである。この検査チップ1は、縦横の長さが数センチのチップであり、このチップ内に例えば、2〜3μL程度のDNAを滴下し、その後、流体制御検出装置2内に装着するだけで、自動的に増幅反応およびその検出ができる構成となっている。
【0020】
このような検査チップ1の構造を概略的に示せば、図2に示したように構成されている。
すなわち、この検査チップ1は、DNA増幅試薬の収容部4の上流から、作動流体により試薬を送り出し、A,B,Cの3つの流路に3分割した後、検体が収容された検体収容部3aと、ポジティブコントロールが収容されたポジティブコントロール収容部3bと、ネガティブコントロールが収容されたネガティブコントロール収容部3cのそれぞれの上流に設けた開口から作動流体を導入し、その導入された作動流体により、検体3a、ポジティブコントロール3b、ネガティブコントロール3cを押出すことにより、検体中のDNA、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールが上記したDNA増幅試薬と混合される。そして、増幅反応部11において、所定温度、所定時間で増幅反応が行なわれた後、それぞれが2分割され、検出部7に供給される。検出部7で増幅されたDNAは、ここで固定化され、それぞれ検体DNA増幅検出試薬とインターナルコントロール増幅検出試薬により染色され、その染色度合いを、例えば、LEDなどの発光素子8aと受光素子8bなどからなる光学的検出装置により、必要な情報が取り出され、標的のDNAの有無を判定する。なお、検出部7の下流には、検出後の混合廃液を貯留するための廃液収容部に通じる排出部9が形成されている。なお、各液通路には、エアー抜きや液体の合流のタイミングを合わせるための撥水バルブや混合状態が不安定な先頭部を破棄する機構などが設けられ、液体が精密に流れることができるように構成されている。
【0021】
図3は、微細流路6内の、特に流体検出部7の構造を概略的に示したものである。
本実施例の検査チップ1に具備された微細流路6は、微細加工が施された第1基板22と、この第1基板22の微細加工面を覆うように積層される第2基板24との間に構成され、この微細流路6の途中が検出部7として構成されている。
【0022】
第1基板22および第2基板24のうち、少なくとも微細加工が施される第1基板22は、透明体で形成されている。また、第1基板22のうち、検出部7に対応する部分には、検出部7の深さを浅くするランド22aが突出して形成されている。このランド22aは、矩形、円形、台形などどのような形状であっても良い。要は、微細流路6の通常の深さDに対して、この部分の深さdが浅くなれば良い。勿論表面は平滑に形成されていることが好ましい。
【0023】
第1基板22の材料としては、チップの材料として、様々な成形材料が使用可能であり、個々の材料特性に応じて使用される。例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどのフルオロカーボン樹脂、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン系ポリマー、ポリメチルメ
タクリレート、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリオレフィン系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系ポリマー、6−ナイロン、6,6−ナイロンなどのポリアミド系ポリマー、環状シクロオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、酢酸セルロースやニトロセルロースのようなセルロース系ポリマー、各種の無機ガラスなどが挙げられる。
【0024】
また検出方法として蛍光を測定する場合、プラスチック基板自体の蛍光もノイズとして問題となる。このようなノイズを解消するプラスチック基板が提案された(特開2003-130874号公報)。あるいは直鎖状ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、含フッ素樹脂など
の低蛍光性プラスチックを用いてもよい。
【0025】
もっとも本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
一方、第2基板24は、上記第1基板22と同様の材料で形成することができるが、検出部7に相当する領域には開口24aが形成されている。この開口24aは、円形、矩形など形状に限定されるものではない。また、上記した第1基板22が透明体で形成されているのに対し、第2基板は、少なくとも開口24aの外周域が有色で形成されていれば、他の部分は、透明体であろうと有色であろうと限定されるものではない。この有色の範囲は、この開口24aの大きさよりも大きければ良い。すなわち、本実施例では、開口24aは、透明体あるいは透明体に準じるフィルム28で覆い隠されるため、このフィルム28に対しレーザーを照射した場合に、この照射光を受け止めて熱に変換できる範囲であれば良い。したがって、この有色の範囲は,フィルムの大きさに応じて適宜決定すればよい。
【0026】
フィルム28は、透明体、あるいは透明体に準じることが好ましい。このように着色されていなければ、どのような樹脂を用いることもできるがきる。
本実施例による検出部7は、上記のように形成されている。
【0027】
一方、この検出部7に設置された図外の検出装置とは、検査項目ごとの分析流路上の検出部位に対して、例えばLEDなどから測定光を照射し、フォトダイオード、光電子増倍管などの光学的検出の手段で透過光を検出する装置である。光学的検出の手段として、原理を異にする各種の光学装置があるが、紫外・可視分光光度計が望ましい。上記検査デバイスに組み込んだ装置であってもよく、あるいは別途の装置として、使用時に連結する態様であってもよい。
【0028】
このような検出装置により検出部7に供給されてきた検査対象物の必要な情報を検出する場合には、LEDなどの測定光は、透明体からなるフィルム28を透過し、ランド22aを透過する透過光を検出するので、ノイズの侵入が少なく検出結果の向上を図ることができる。また、ランド22aに予めストレプトアビジンなどのビオチン結合性タンパク質(アビジン、ストレプトアビジン、エクストラアビジン(R)、好ましくはストレプトアビジン)を塗布しておけば、プローブ物質に標識されたビオチン、または遺伝子増幅反応に使用されるプライマーの5'末端に標識されたビオチンと特異的に結合する。これによ
り、ビオチンで標識されたプローブまたは増幅された遺伝子が本検出部位で効果的にトラップされる。このように、ランド22aを設けることにより、感度を向上させることができる。
【0029】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されない。
本発明に係るマイクロ総合分析システムは、遺伝子の種々の解析、臨床検査・診断、医薬スクリーニング、医薬、農薬あるいは各種化学物質の安全性・毒性の検査、環境分析、食品検査、法医学、化学、酒造、畜産、農産製造、農林業などで利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明の一実施例によるマイクロ総合分析システムの斜視図である。
【図2】図2は図1に示したマイクロ総合分析システムに使用される検査チップと検査方法の概略を説明する図である。
【図3】図3は、例えば図2に示した検出部における検査チップの構造を示した概略断面図である。
【符号の説明】
【0031】
2 流体制御検出装置
4 試薬収容部
6 微細流路
7 流体検出部
10マイクロ総合分析システム
22 第1基板
22a ランド
24 第2基板
24a 開口
28 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細加工を施すことにより流体通路が形成され、かつ光透過性の第1基板と、前記第1基板の微細加工面を覆うように積層される第2基板とから検査チップ本体が構成され、
前記第1基板と前記第2基板との間に画成された液体供給用の微細流路内に、検体と試薬との混合液を送液するとともに、該微細流路の途中を検出部として構成し、この検出部に到達した混合液に光を照射し、その光により検査対象物の情報を自動的に検査するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、
前記第2基板の前記検出部に対応する領域に開口を形成するとともに、この開口を透明体もしくは透明体に準じるフィルムで覆うようにしたことを特徴とするマイクロ総合分析システム。
【請求項2】
前記第2基板の前記開口の少なくともその外周域を有色であるとともに、フィルム側からこの有色領域にレーザーによる熱照射を行うことによって前記フィルムを前記第1基板に熱融着することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項3】
前記検出部を構成する微細流路内に、当該微細流路の深さを浅くするランドを設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ総合分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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