説明

マガキ蓄養装置

【課題】特殊な技術を要することなく、安定した高品質のマガキを年間を通じて供給することができるマガキ蓄養装置及びマガキの養殖方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るマガキ蓄養装置は、身入状態に養殖されたマガキを蓄養温度に維持する蓄養恒温槽10と、該蓄養恒温槽10に清浄海水を供給する海水前処理手段20と、前記蓄養恒温槽10内の海水を浄化して再使用に供する循環手段30と、を有してなる。そして、本発明においては、蓄養温度は、10〜13℃であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四季を問わずマガキを身入状態で提供することができるマガキ蓄養装置及びマガキの養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広島産のカキは身が大きく、ぷりぷりしているということで有名であるが、カキの旬は冬場で、夏場は食べるものではないと思っている人が多い。このカキとはマガキのことである。広島産のマガキの場合は、3月から5月の間に生殖巣が発達し、栄養をとった身入状態のマガキがメス化して抱卵、放卵することによりやせた水っぽいマガキになることが、夏場にマガキは食べるものでないとされることの原因である。マガキのこのような状態を回避して、年間を通じて美味なカキを食することができるようにする方法又は装置が求められている。
【0003】
このような要請に対し、例えば、夏場を迎え海水の温度が上昇する時期になると、マガキを水深が深く海水温度の低いところに移動し、マガキのメス化、抱卵あるいは放卵を防止してカキの身やせを防止することがなされている。また、特許文献1に提案されているような軟体類の四倍体の作製方法を利用してマガキの三倍体を作製し、メス化を防止することによってカキの身やせを防止することもなされている。
【0004】
一方、マガキの場合ではないが、マガキと同様な身やせの問題を有する岩ガキについて特許文献2に、海水温度が実質的に最も高いときから下降し始めるときの期間のいずれかの時期まで海水中での養成を継続した養殖岩牡蠣を該海水中から取出して、物理的及び/又は化学的剌激を与えて放卵と放精を促進させた後、再び海水中へ戻して短期間に放卵と放精を完遂させ、その後冬季まで養成を続行して再び軟体部重量を回復充実せしめることにより前記岩牡蠣の冬季旬を作り出すことを特徴とする岩牡蠣の養殖方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特表平10-501401号公報
【特許文献2】特開平11-32619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マガキを時期又は海水温度によって水深が深く海水温度の低い場所に移動させる方法は、手間が掛かり、必ずしも適切な温度管理をすることができないという問題がある。また、水深が深いところは酸素量が少ないのでマガキの成育に必要な酸素量の確保ができないというという問題もある。このため、マガキが栄養をとりながらメス化が阻止され、マガキを身入りの良い状態に保持をする(蓄養)ことは容易でなく、安定した高品質のマガキを提供することが容易でないという問題がある。
【0007】
また、マガキの三倍体を作製してこれを養殖する方法は、コストが高くなるという問題があり、三倍体を作製するために特殊な技術、養殖方法を要するという問題がある。特許文献2に提案されている方法をマガキに利用することも考えられるが、その方法は放卵、放精期を人為的に調整するということにあるから、必ず放卵後の身やせした状態が存在するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点、年間を通じて美味なマガキを食したいという要請に鑑み、特殊な技術を要することなく、安定した高品質のマガキを年間を通じて供給することができるマガキ蓄養装置及びマガキの養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマガキ蓄養装置は、身入状態に養殖されたマガキを蓄養温度に維持する蓄養恒温槽と、該蓄養恒温槽に清浄海水を供給する海水前処理手段と、前記蓄養恒温槽内の海水を浄化して再使用に供する循環手段と、を有してなる。そして、本発明においては、蓄養温度は、10〜13℃であるのがよい。
【0010】
また、上記発明においては、さらに、蓄養恒温槽から取り出したマガキを予冷する予冷槽と、予冷されたマガキを-0.8〜-1.5℃に維持する熟成槽と、を有するものとするのがよい。そして、本発明においては、予冷槽内のマガキの冷却速度は、-1℃/2〜3hにするのがよい。
【0011】
本発明に係るマガキの養殖方法は、身入状態に養殖されたマガキを海から取り上げ、10〜13℃の清浄、循環する海水中で畜養し、食用前にその畜養されたマガキを-0.8〜-1.5℃の清浄、循環する海水中で熟成させることにより実施される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るマガキ蓄養装置は、特殊な技術を要することなく、安定した高品質のマガキを年間を通じて供給することができる。また、このような安定した高品質のマガキを作ることができるマガキの養殖方法は、上記マガキ蓄養装置を利用することにより容易に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係るマガキ蓄養装置を説明するレイアウト図である。本マガキ蓄養装置は、図1に示すように、身入状態に養殖されたマガキを蓄養温度に維持する蓄養恒温槽10と、該蓄養恒温槽10に清浄海水を供給する海水前処理手段20と、蓄養恒温槽10内の海水を浄化して再使用に供する循環手段30と、を有している。
【0014】
蓄養恒温槽10は、栄養をとって身入状態に養殖されたマガキを畜養するための一定温度、例えば10〜13℃の所定の温度に維持された恒温槽である。蓄養恒温槽10には清浄な海水が循環しており、カキかご又はカキ棚に収容されたマガキが、海水中に浮遊するプランクトンをえさにしながら蓄養されている。10〜13℃の温度は、マガキのメス化を防止できる温度であり、また、海水中のプランクトンが増殖しやすい温度でもあり好ましい。
【0015】
マガキをカキかごに収容して蓄養する場合は、海水の循環が円滑に行われるとともに、マガキがカキかご内で運動をすることができるので好ましい。
【0016】
海水前処理手段20は、海から汲み上げた海水を所定の温度に予備冷却するとともに清浄な海水にして蓄養恒温槽10に供給する機能を有する。例えば、図1に示すように、ポンプ23により海水は、フィルタ24を通して海水前処理槽21に汲み上げられる。そして、この汲み上げられた海水は、冷却装置22により所定温度に冷却されるとともに、海水前処理槽21に付設された50μm以下の微細な空気泡を発生するマイクロバブル発生装置又は/及びナノメータオーダーの微細な空気泡を発生するナノバブル発生装置、UV発光装置等により清浄化されようになっている。こうして浄化された海水は、ポンプ25により蓄養恒温槽10に供給される。
【0017】
循環手段30は、蓄養恒温槽10内の海水を浄化して循環させる機能を有する。例えば、図1に示すように、ポンプ34により蓄養恒温槽10内の海水がフィルタ35を通して循環されるとともに、同時に冷却装置33により冷却されるようになっている。この循環手段30に対し、海水に真水を混入させる手段を付設することができる。この場合は、植物性プランクトンを増殖させることができるので好ましい。
【0018】
また、上述のマイクロバブル発生装置と同様な装置を蓄養恒温槽10に付設するのがよい。これにより、微細な空気泡(マイクロバブル)の作用と、フィルタ35により海水を浄化することができる。
【0019】
上記マガキ蓄養装置には、図1に示すように、蓄養恒温槽10から取りだしたマガキを所定期間熟成させる熟成槽50を設けるのがよい。これにより旨みのある最適な状態のカキを提供することができる。この場合、熟成槽50の海水温度は-0.8〜-1.5℃程度に維持するのがよい。なお、熟成期間は1〜2週間程度とすることができる。
【0020】
マガキを蓄養恒温槽10から取りだし、熟成槽50に移し替える場合、マガキを蓄養恒温槽10の温度から熟成槽50の温度に急激に冷却するのは好ましくない。例えば、マガキを-1℃/hで冷却すると、その半数が死亡するおそれがある。このため、マガキの冷却速度は-1℃/2〜3hの範囲にするのがよく、図1に示すように予冷槽60を設け、蓄養恒温槽10から取りだしたマガキは、予冷槽60内で所定の冷却速度で充分に冷却した後、熟成槽50に移すのがよい。
【0021】
上記のようにマガキを熟成槽50で低温に保持(熟成)する処理により、マガキの細胞を凍結させずその旨み成分(グリコーゲン)を増加させることができる。熟成槽50をこの温度に維持するのは、海水スラリーアイスを利用するのがよい。海水スラリーアイスは、例えば図1に示すように、海水前処理手段20により得られた冷却海水をスラリー製氷機58により製氷して容易に供給することができる。
【0022】
なお、熟成槽50には、図1に示すようにポンプ54、フィルタ55を設け、熟成槽50内の海水を循環、浄化するようにするのがよい。また、ナノバブル発生装置を設けるのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るマガキ蓄養装置のレイアウト図である。
【符号の説明】
【0024】
10 蓄養恒温槽
20 海水前処理手段
21 海水前処理槽
22 冷却装置
23 ポンプ
24 フィルタ
25 ポンプ
30 循環手段
33 冷却装置
34 ポンプ
35 フィルタ
50 熟成槽
54 ポンプ
55 フィルタ
58 スラリー製氷機
60 予冷槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身入状態に養殖されたマガキを蓄養温度に維持する蓄養恒温槽と、該蓄養恒温槽に清浄海水を供給する海水前処理手段と、前記蓄養恒温槽内の海水を浄化して再使用に供する循環手段と、を有するマガキ蓄養装置。
【請求項2】
蓄養温度は、10〜13℃であることを特徴とする請求項1に記載のマガキ蓄養装置。
【請求項3】
さらに、蓄養恒温槽から取り出したマガキを予冷する予冷槽と、予冷されたマガキを-0.8〜-1.5℃に維持する熟成槽と、を有する請求項1又は2に記載のマガキ蓄養装置。
【請求項4】
予冷槽内のマガキの冷却速度は、-1℃/2〜3hであることを特徴とする請求項3に記載のマガキ蓄養装置。
【請求項5】
身入状態に養殖されたマガキを海から取り上げ、10〜13℃の清浄、循環する海水中で畜養し、食用前にその畜養されたマガキを-0.8〜-1.5℃の清浄、循環する海水中で熟成させるマガキの養殖方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−38999(P2009−38999A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205165(P2007−205165)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(394003645)株式会社土居技研 (3)
【Fターム(参考)】