説明

マグネシウム合金の製造方法

【課題】LPSO相の析出熱処理を長時間行わなくても高強度化を維持することである。
【解決手段】本発明の一態様は、Znをa原子%含有し、Gd、Tb、Tm及びLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でb原子%含有し、残部がMgからなり、aとbは下記式(1)〜(3)を満たす鋳造物を形成する工程と、前記鋳造物に溶体化処理を施すことにより、前記鋳造物に析出物を残存させる工程と、前記析出物が残存する鋳造物に塑性加工を行うことにより塑性加工物を形成する工程と、を具備し、前記溶体化処理を施す工程では前記鋳造物に長周期積層構造相が析出されず、前記塑性加工を行う工程では前記塑性加工物に長周期積層構造相が析出されることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法である。
(1)0.2≦a≦5.0
(2)0.5≦b≦5.0
(3)0.5a−0.5≦b

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Mg−Zn−Gd合金は、鋳造直後の合金材(以下、「鋳造まま材」という。)では長周期積層構造相(以下、「LPSO相」という。)は発現せず、その鋳造まま材に溶体化処理(520℃×2hr)を行い、その後析出処理(400℃で10hr)を行うことでLPSO相が析出する。特許文献1に開示されているように、通常はLPSO相を析出させた後に押出加工などの塑性加工を行うことで高強度化が達成される。
【0003】
しかし、上述のようにLPSO相を析出するための熱処理条件が長時間かつ複雑工程であるため、工程数の増加、高負荷、高温析出であるためエネルギー効率も悪く、実産業向きではないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4139841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、LPSO相の析出熱処理を長時間行わなくても高強度化を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、Znをa原子%含有し、Gd、Tb、Tm及びLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でb原子%含有し、残部がMgからなり、aとbは下記式(1)〜(3)を満たす鋳造物を形成する工程と、
前記鋳造物に溶体化処理を施すことにより、前記鋳造物にMgと希土類元素の化合物、MgとZnの化合物、Znと希土類元素の化合物及びMgとZnと希土類元素の化合物からなる析出物群から選択される少なくとも1種類の析出物を残存させる工程と、
前記少なくとも1種類の析出物が残存する鋳造物に塑性加工を行うことにより塑性加工物を形成する工程と、
を具備し、
前記溶体化処理を施す工程では前記鋳造物に長周期積層構造相が析出されず、
前記塑性加工を行う工程では前記塑性加工物に長周期積層構造相が析出されることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法である。
(1)0.2≦a≦5.0
(2)0.5≦b≦5.0
(3)0.5a−0.5≦b
【0007】
本発明の一態様は、Znをa原子%含有し、Gd、Tb、Tm及びLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でb原子%含有し、残部がMgからなり、aとbは下記式(1)〜(3)を満たす鋳造物を形成する工程と、
前記鋳造物に溶体化処理を施すことにより、前記鋳造物にMgと希土類元素の化合物、MgとZnの化合物、Znと希土類元素の化合物及びMgとZnと希土類元素の化合物からなる析出物群から選択される少なくとも1種類の析出物を残存させる工程と、
前記少なくとも1種類の析出物が残存する鋳造物に塑性加工を行うことにより塑性加工物を形成する工程と、
を具備し、
前記溶体化処理を施す工程では前記鋳造物に長周期積層構造相が析出されず、
前記塑性加工を行う工程では前記塑性加工物に長周期積層構造相が析出されることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法である。
(1)0.2≦a≦3.0
(2)0.5≦b≦5.0
(3)2a−3≦b
【0008】
上記の本発明の一態様によれば、鋳造物に溶体化処理を施すことにより前記少なくとも1種類の析出物を残存させ、この少なくとも1種類の析出物が残存する鋳造物に塑性加工を行っている。このため、塑性加工を行う工程で鋳造物に長周期積層構造相を析出させることができ、且つ長周期積層構造相の少なくとも一部を湾曲又は屈曲させることができる。つまり、前記塑性加工物は、hcp構造マグネシウム相及び長周期積層構造相を有する結晶組織を備え、前記長周期積層構造相の少なくとも一部が湾曲又は屈曲している。
【0009】
また、上記の本発明の一態様によれば、鋳造物に塑性加工を行うことにより、塑性加工後の塑性加工物の硬さ及び降伏強度を塑性加工前の鋳造物に比べて向上させることができる。
【0010】
また、本発明の一態様において、前記少なくとも1種類の析出物がMgGd化合物であっても良い。
【0011】
また、本発明の一態様において、前記鋳造物にYb、Sm及びNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、cは下記式(4)及び(5)を満たすことも可能である。
(4)0≦c≦3.0
(5)0.5≦b+c≦6.0
【0012】
また、本発明の一態様において、前記鋳造物にLa、Ce、Pr、Eu及びMmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、cは下記式(4)及び(5)を満たすことも可能である。
(4)0≦c≦2.0
(5)0.5≦b+c≦6.0
【0013】
尚、Mm(ミッシュメタル)とは、Ce及びLaを主成分とする複数の希土類元素の混合物又は合金であり、鉱石から有用な希土類元素であるSmやNdなどを精錬除去した後の残渣であり、その組成は精錬前の鉱石の組成に依存する。
【0014】
また、本発明の一態様において、前記鋳造物にYb、Sm及びNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、La、Ce、Pr、Eu及びMmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でd原子%含有し、c及びdは下記式(4)〜(6)を満たすことも可能である。
(4)0≦c≦3.0
(5)0≦d≦2.0
(6)0.5≦b+c+d≦6.0
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様を適用することで、LPSO相の析出熱処理を長時間行わなくても高強度化を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】試験片1〜6、比較片1〜12それぞれに室温(R.T.)で引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を示すグラフである。
【図2】試験片1〜6、比較片1〜12に250℃の温度で引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を示すグラフである。
【図3】比較片1(鋳造まま+押出加工)、試験片1(溶体化処理+押出加工)及び比較片7(LPSO相析出+押出加工)それぞれの結晶組織を示す写真である。
【図4】試験片7〜13、比較片13〜19それぞれに室温(R.T.)で引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を示すグラフである。
【図5】試験片7〜13、比較片13〜19に250℃の温度で引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0018】
本発明の一態様は、作業工程の削減による高効率化と軽負荷化を目指したもので有り、従来技術と同等の強度と延性が得られるのであればエネルギー効率の向上と環境配慮が実工業部材としてより鮮明にしようとするもので、製造コストを下げ、高強度マグネシウム合金を得ようとするものである。
【0019】
本発明の一態様は、従来のMg−Zn−(Gd,Tb,Tm,Lu)合金の製造プロセスの工程省略に関するものである。従来のマグネシウム合金の発明は、その多くが強度の向上を目的とするものであるが、実用化にあたり、成形性の向上が必要となる。すなわち、本発明の一態様は、従来よりも延性の高いマグネシウム合金の製造方法である。
【0020】
なお、本発明の一態様の産業上の利用分野としては、従来のMg−Zn−Gd合金押出材と同一箇所に適用が可能である。強度を剛性にて規格化した場合、強度を用いる。その際に降伏応力が高いMg合金を車両部材・内外装品に用いることは構造設計の観点からも軽量化が期待でき、エネルギー効率の向上とCO抑制が可能であるため、自動車や鉄道車両といった我が国の基幹産業への利用が見込まれる。
【0021】
(実施の形態1)
本発明の一態様に係るマグネシウム合金は、Mg、Zn及びGd又はTb又はTm又はLuを含む3元以上の合金である。このマグネシウム合金はZnをa原子%含有し、Gd、Tb、Tm及びLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でb原子%含有し、残部がMgから成り、aとbは下記式(1)〜(3)を満たすような組成範囲を有する。また、aとbは下記式(1')〜(3')を満たすような組成範囲を有することがより好ましい。
(1)0.2≦a≦5.0
(2)0.5≦b≦5.0
(3)0.5a−0.5≦b
(1')0.2≦a≦3.0
(2')0.5≦b≦5.0
(3')2a−3≦b
【0022】
尚、Gdのさらに好ましい上限含有量は、経済性及び比重の増加を考慮すると、3原子%未満である。
また、前記マグネシウム合金におけるGdの含有量とZnの含有量の比は、2:1又はそれに近い比であることが特に好ましい。このような含有量の比にすることより高強度高靭性を特に向上させることができる。
【0023】
また、前記マグネシウム合金にYb、Sm及びNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、cは下記式(4)及び(5)を満たすことも可能である。これらの元素を含有することにより、結晶粒を微細化させる効果、金属間化合物を析出させる効果が得られる。
(4)0≦c≦3.0
(5)0.5≦b+c≦6.0
【0024】
また、前記マグネシウム合金にLa、Ce、Pr、Eu及びMmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、cは下記式(4)及び(5)を満たすことも可能である。これらの元素を含有することにより、結晶粒を微細化させる効果、金属間化合物を析出させる効果が得られる。
(4)0≦c≦2.0
(5)0.5≦b+c≦6.0
【0025】
また、前記マグネシウム合金にYb、Sm及びNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、La、Ce、Pr、Eu及びMmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でd原子%含有し、c及びdは下記式(4)〜(6)を満たすことも可能である。これらの元素を含有することにより、結晶粒を微細化させる効果、金属間化合物を析出させる効果が得られる。
(4)0≦c≦3.0
(5)0≦d≦2.0
(6)0.5≦b+c+d≦6.0
【0026】
また、前記マグネシウム合金にDy、Ho及びErからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で0原子%超1.5原子%以下含有することも可能である。また、前記マグネシウム合金にYを合計で0原子%超1.0原子%以下含有することも可能である。これらの希土類元素を含有させることにより、長周期積層構造相の形成を促進させることができる。
【0027】
また、前記マグネシウム合金にAl、Th、Ca、Si、Mn、Zr、Ti、Hf、Nb、Ag、Sr、Sc、B及びCからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で0原子%超2.5原子%以下含有することも可能である。これらの元素を含有することにより、高強度高靭性を維持したまま、他の性質を改善することができる。例えば、耐食性や結晶粒微細化などに効果がある。
【0028】
上記の組成からなるマグネシウム合金を溶解して鋳造し、マグネシウム合金鋳造物を作る。鋳造時の冷却速度は1000K/秒以下であり、より好ましくは100K/秒以下である。このマグネシウム合金鋳造物としては、インゴットから所定形状に切り出したものを用いる。このマグネシウム合金鋳造物には、Mgと希土類元素の化合物、MgとZnの化合物、Znと希土類元素の化合物及びMgとZnと希土類元素の化合物からなる析出物群から選択される少なくとも1種類の析出物が析出されている。なお、このマグネシウム合金には長周期積層構造相が形成されていない。
【0029】
次いで、マグネシウム合金鋳造物に溶体化処理を施す。この溶体化処理では、上記の少なくとも1種類の析出物を残存させる。また、この溶体化処理ではマグネシウム合金に長周期積層構造相が形成されない。
【0030】
次に、前記マグネシウム合金鋳造物に塑性加工を行う。この塑性加工の方法としては、例えば押出し、ECAE(equal−channel−angular−extrusion)加工法、圧延、引抜及び鍛造、これらの繰り返し加工、FSW(摩擦攪拌溶接)などの塑性変形を伴う加工を用いる。また、前記塑性加工は、圧延、押出し、ECAE、引抜加工及び鍛造のうち単独でも組み合わせでも可能である。なお、押出比は5以上であることが好ましい。
【0031】
また、上記の塑性加工は、例えば押出し温度が250℃以上500℃以下、押出しによる断面減少率が5%以上である押出加工、例えば圧延温度が250℃以上500℃以下、圧下率が5%以上である圧延加工、例えば温度が250℃以上500℃以下、ECAEのパス回数が1パス以上であるECAE、例えば温度が250℃以上500℃以下、断面減少率が5%以上である引抜加工、例えば250℃以上500℃以下、加工率が5%以上である鍛造加工であっても良い。
【0032】
また、前述したYb、Sm及びNdそれぞれは、それらとMgとZnの3元合金では、鋳造物に長周期積層構造の結晶組織を形成しない希土類元素であってマグネシウムに固溶限があるものである。
【0033】
また、前述したLa、Ce、Pr、Eu及びMmそれぞれは、それらとMgとZnの3元合金では、前記マグネシウム合金鋳造物に長周期積層構造の結晶組織を形成しない希土類元素であってマグネシウムに固溶限が殆ど無いものである。
【0034】
また、本発明の一態様においては、前記塑性加工物を形成する工程の後に、前記塑性加工物に熱処理を施す工程を追加しても良い。この際の熱処理条件は、温度が150℃〜450℃、処理時間が1分〜1500分であることが好ましい。
【0035】
本実施の形態によれば、鋳造物に溶体化処理を施すことにより上記の少なくとも1種類の析出物を残存させ、この少なくとも1種類の析出物が残存する鋳造物に塑性加工を行っている。このため、塑性加工を行う工程で鋳造物に長周期積層構造相を析出させることができ、且つ長周期積層構造相の少なくとも一部を湾曲又は屈曲させることができる。
【0036】
つまり、上記のように塑性加工を行った塑性加工物は、常温においてα−Mg相及び少なくとも一部が湾曲又は屈曲した長周期積層構造相の結晶組織を有する。また、前記塑性加工を行った後の塑性加工物については、塑性加工を行う前の鋳造物に比べてビッカース硬度及び降伏強度がともに上昇する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
まず、本発明の実施例によるマグネシウム合金の試験片および比較片を作製した。
【0038】
図1は、試験片1〜6、比較片1〜12それぞれに室温(R.T.)で引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を示すグラフである。図2は、試験片1〜6、比較片1〜12に250℃の温度で引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を示すグラフである。図1、図2に示す「Y.S.」は降伏応力であり、「El.」は伸びである。試験片および比較片それぞれの製造方法は下記のとおりである。
【0039】
(試験片1〜6)
Znを1原子%、Gdを2原子%含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるマグネシウム合金を真空溶解炉に投入して溶解を行った。次に、加熱溶解した材料を金型に入れて鋳造し、φ29mm×L60mmのインゴット(鋳造材)を作製した。次に、インゴットに520℃の温度で2時間の溶体化処理を行った。次に、押出温度350℃において押出比10、押出速度2.5mm/秒として塑性加工(押出加工)を行った。次に、試験片2〜6の押出材に200℃〜400℃の範囲で1時間熱処理を施した後に引張試験を行った。なお、試験片1の押出材には熱処理を施していない。
【0040】
(比較片1〜6)
Znを1原子%、Gdを2原子%含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるマグネシウム合金を真空溶解炉に投入して溶解を行った。次に、加熱溶解した材料を金型に入れて鋳造し、φ29mm×L60mmのインゴット(鋳造材)を作製した。次に、押出温度350℃において押出比10、押出速度2.5mm/秒として塑性加工(押出加工)を行った。次に、比較片2〜6の押出材に200℃〜400℃の範囲で1時間熱処理を施した後に引張試験を行った。なお、比較片1の押出材には熱処理を施していない。比較片1〜6には溶体化処理を行っていない。
【0041】
(比較片7〜12)
Znを2原子%、Yを2原子%含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるマグネシウム合金を真空溶解炉に投入して溶解を行った。次に、加熱溶解した材料を金型に入れて鋳造し、φ29mm×L60mmのインゴット(鋳造材)を作製した。次に、インゴットに520℃の温度で2時間の溶体化処理を行った。次に、インゴットに400℃で10時間の熱処理を行うことにより、インゴットにLPSO相を析出させた。次に、押出温度350℃において押出比10、押出速度2.5mm/秒として塑性加工(押出加工)を行った。次に、比較片8〜12の押出材に200℃〜400℃の範囲で1時間熱処理を施した後に引張試験を行った。なお、比較片7の押出材には熱処理を施していない。
【0042】
図1及び図2において、参照符号16Yは試験片1〜6の降伏応力を示すグラフであり、参照符号16Eは試験片1〜6の伸びを示すグラフであり、参照符号17Yは比較片1〜6の降伏応力を示すグラフであり、参照符号17Eは比較片1〜6の伸びを示すグラフであり、参照符号18Yは比較片7〜12の降伏応力を示すグラフであり、参照符号18Eは比較片7〜12の伸びを示すグラフである。
【0043】
図1及び図2によれば、試験片1〜6のように溶体化処理後にLPSOの析出処理を行うことなく、押出加工を行うことで、押出加工中にLPSO相を析出せしめ、高強度マグネシウム合金を作製できることが確認された。室温での引張試験では、試験片1によって得られる押出加工材の降伏応力が385MPa、伸びが7.2%を示す。なお、比較片7によって得られる押出加工材の降伏応力は392MPa、伸びは6.5%である。また、試験温度を250℃としたときの試験片1によって得られる押出加工材の降伏応力が298MPa、伸びが21.5%を示す。なお、比較片7によって得られる押出加工材の降伏応力は310MPa、伸びは20.5%である。
また、200℃〜400℃の範囲で熱処理を施した後に引張試験を行うと熱処理温度325℃までは強度に変化は無く、延性は改善する。すなわち、熱処理を行っても強度低下を最小限に抑止する一方で延性は向上するといった特徴を有し、熱処理温度が高くともこれらは達成される。つまり、Mg−Zn−Gd合金では多少の強度低下はあるものの325℃までは熱的に安定している。図1及び図2においては、左から熱処理無し、200℃、300℃、325℃、350℃、400℃の熱処理温度でプロットしている。耐力は多少低下するが、伸びは大きく改善していることが分かる。
【0044】
図1及び図2に示すように、室温と高温(250℃)に於ける強度特性に大きな変化が無いことから、400℃で10時間のLPSO相の析出処理工程を削減できることが確認された。ここで、本実施例の鍵は、溶体化処理時に析出物(例えばMgGd化合物)を全て消しきらずに残存させる点にある。残存する析出物によって押出加工中に受ける熱及び加工によりLPSO相を析出できたものと考えられる。
【0045】
試験片1〜6及び比較片1〜12に200℃〜400℃の範囲で熱処理を施した後に引張試験を行うと熱処理温度300℃までは機械的特性に変化は無く、その後熱処理温度を高くしても強度の低下傾向と延性の向上傾向はほぼ同一であった。
【0046】
また、鋳造まま材をそのまま押出加工した比較片1〜6の強度は著しく低下し、延性は高い傾向にあった。
また、溶体化処理し、そのまま押出加工した試験片1〜6は、比較片7〜12と同程度の強度と延性を有していた。
また、従来プロセス材である比較片7〜12の強度と延性は、従来より報告されている程度であった。
【0047】
図3は、比較片1(鋳造まま+押出加工)、試験片1(溶体化処理+押出加工)及び比較片7(LPSO相析出+押出加工)それぞれの結晶組織を示す写真である。試験片1では、析出、化合物がありLPSO相が現出している。
【0048】
(実施例2)
まず、本発明の実施例によるマグネシウム合金の試験片および比較片を作製した。
【0049】
図4は、試験片7〜13、比較片13〜19それぞれに室温(R.T.)で引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を示すグラフである。図5は、試験片7〜13、比較片13〜19に250℃の温度で引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を示すグラフである。図4、図5に示す「Y.S.」は降伏応力であり、「El.」は伸びである。試験片および比較片それぞれの製造方法は下記のとおりである。
【0050】
(試験片7〜13)
Znを1原子%、Gdを2原子%含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるマグネシウム合金を真空溶解炉に投入して溶解を行った。次に、加熱溶解した材料を金型に入れて鋳造し、φ29mm×L60mmのインゴット(鋳造材)を作製した。次に、インゴットに520℃の温度で2時間の溶体化処理を行った。次に、押出温度350℃において押出比10、押出速度2.5mm/秒として塑性加工(押出加工)を行った。次に、試験片7〜13の押出材に300℃の温度で0.1〜1000時間熱処理を施した後に引張試験を行った。
【0051】
(比較片13〜19)
Znを2原子%、Yを2原子%含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるマグネシウム合金を真空溶解炉に投入して溶解を行った。次に、加熱溶解した材料を金型に入れて鋳造し、φ29mm×L60mmのインゴット(鋳造材)を作製した。次に、インゴットに520℃の温度で2時間の溶体化処理を行った。次に、インゴットに400℃で10時間の熱処理を行うことにより、インゴットにLPSO相を析出させた。次に、押出温度350℃において押出比10、押出速度2.5mm/秒として塑性加工(押出加工)を行った。次に、比較片13〜19の押出材に300℃の温度で0.1〜1000時間熱処理を施した後に引張試験を行った。
【0052】
図4及び図5において、参照符号19Yは試験片7〜13の降伏応力を示すグラフであり、参照符号19Eは試験片7〜13の伸びを示すグラフであり、参照符号20Yは比較片13〜19の降伏応力を示すグラフであり、参照符号20Eは比較片13〜19の伸びを示すグラフである。
【0053】
図4に示すように、室温引張試験では、試験片7〜13及び比較片13〜19の押出材の熱的安定性が同じ傾向にあった。
【0054】
図5に示すように、高温引張試験(250℃)では、熱処理時間の増加に伴う機械的特性の低下が試験片7〜13及び比較片13〜19の押出材で同じ傾向にあったが、降伏応力は試験片7〜13の押出材のほうが高かった。
【符号の説明】
【0055】
16Y 試験片1〜6の降伏応力
16E 試験片1〜6の伸び
17Y 比較片1〜6の降伏応力
17E 比較片1〜6の伸び
18Y 比較片7〜12の降伏応力
18E 比較片7〜12の伸び
19Y 試験片7〜13の降伏応力
19E 試験片7〜13の伸び
20Y 比較片13〜19の降伏応力
20E 比較片13〜19の伸び

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znをa原子%含有し、Gd、Tb、Tm及びLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でb原子%含有し、残部がMgからなり、aとbは下記式(1)〜(3)を満たす鋳造物を形成する工程と、
前記鋳造物に溶体化処理を施すことにより、前記鋳造物にMgと希土類元素の化合物、MgとZnの化合物、Znと希土類元素の化合物及びMgとZnと希土類元素の化合物からなる析出物群から選択される少なくとも1種類の析出物を残存させる工程と、
前記少なくとも1種類の析出物が残存する鋳造物に塑性加工を行うことにより塑性加工物を形成する工程と、
を具備し、
前記溶体化処理を施す工程では前記鋳造物に長周期積層構造相が析出されず、
前記塑性加工を行う工程では前記塑性加工物に長周期積層構造相が析出されることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
(1)0.2≦a≦5.0
(2)0.5≦b≦5.0
(3)0.5a−0.5≦b
【請求項2】
Znをa原子%含有し、Gd、Tb、Tm及びLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でb原子%含有し、残部がMgからなり、aとbは下記式(1)〜(3)を満たす鋳造物を形成する工程と、
前記鋳造物に溶体化処理を施すことにより、前記鋳造物にMgと希土類元素の化合物、MgとZnの化合物、Znと希土類元素の化合物及びMgとZnと希土類元素の化合物からなる析出物群から選択される少なくとも1種類の析出物を残存させる工程と、
前記少なくとも1種類の析出物が残存する鋳造物に塑性加工を行うことにより塑性加工物を形成する工程と、
を具備し、
前記溶体化処理を施す工程では前記鋳造物に長周期積層構造相が析出されず、
前記塑性加工を行う工程では前記塑性加工物に長周期積層構造相が析出されることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
(1)0.2≦a≦3.0
(2)0.5≦b≦5.0
(3)2a−3≦b
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記鋳造物にYb、Sm及びNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、cは下記式(4)及び(5)を満たすことを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
(4)0≦c≦3.0
(5)0.5≦b+c≦6.0
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記鋳造物にLa、Ce、Pr、Eu及びMmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、cは下記式(4)及び(5)を満たすことを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
(4)0≦c≦2.0
(5)0.5≦b+c≦6.0
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記鋳造物にYb、Sm及びNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でc原子%含有し、La、Ce、Pr、Eu及びMmからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計でd原子%含有し、c及びdは下記式(4)〜(6)を満たすことを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
(4)0≦c≦3.0
(5)0≦d≦2.0
(6)0.5≦b+c+d≦6.0
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項において、
前記鋳造物を形成する工程は、Al、Th、Ca、Si、Mn、Zr、Ti、Hf、Nb、Ag、Sr、Sc、B及びCからなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で0原子%超2.5原子%以下含有する鋳造物を形成する工程であることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項において、
前記塑性加工は、圧延、押出し、ECAE、引抜加工及び鍛造、これらの繰り返し加工、FSW加工のうちの少なくとも一つを行うものであるマグネシウム合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214852(P2012−214852A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81570(P2011−81570)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(801000050)財団法人くまもとテクノ産業財団 (38)
【Fターム(参考)】