説明

マグネシウム合金材の表面処理方法、及びそれによって処理されたマグネシウム合金材

【課題】マグネシウム合金材に表面処理を施す際に、フッ化水素酸等の有害物を発生させず、且つ工数の少ないマグネシウム合金材の表面処理方法を提供すること。
【解決手段】マグネシウム合金材を、研磨剤とフッ素化合物である媒材と共にバレル研磨を行うマグネシウム合金材の表面処理方法。媒剤としてはフッ素マイカ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化アンモニウムから選択された一つが用いられる。またフッ素化合物の混入量が0.1w%〜5w%の範囲で採用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金材の表面処理方法に関し、更に詳しくは、研磨剤を使ったバレル研磨によるマグネシウム合金材の表面処理方法、及びその表面処理方法によって処理されたマグネシウム合金材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に卑金属に属するマグネシウム合金材の材料(マグネシウム合金材料)は非常に活性な金属であり、実用可能な金属中では最も卑な金属である。
そのためマグネシウム合金材料は表面が酸化等を受けて腐食し易い欠点があり、表面処理を行って耐食性を向上させる必要がある。
耐食性を向上させる方法としては、例えば、マグネシウム合金材の表面に直接塗料(例えばアクリル系等の有機樹脂塗料)を塗布する方法があるが、しかし、直接、マグネシウム合金材に塗料を塗布しても表面の酸化が起き易いために塗装層との密着性が悪く剥離が起き易い。
従って、塗装の前段階でマグネシウム合金材に対し予め表面処理を施すことでマグネシウム合金材と塗料との密着性を向上させている。
その表面処理方法の一つとして、マグネシウム合金材の表面に陽極酸化皮膜を形成させる方法があるが、層を形成しても酸化皮膜自体が微細穴を有するために、それにより腐食の原因となる場合がある。
また、マグネシウム合金材の表面をフッ素化合物と反応させる方法(特許文献1)も知られている。
【0003】
このフッ素化合物を使って表面を処理する方法は、具体的には、フッ素化合物を含む酸性溶液にマグネシウム合金材を浸漬する手法を採用しており、その結果、フッ素化合物が表面に付与されて塗装密着性を低減させるスマット(すなわち、マグネシウム合金材を酸で洗った後に付着する黒色の微粉末)の付着を防止することができる。
【特許文献1】特開2002−275668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、フッ素化合物を使って表面を処理する方法は、フッ素化合物と酸性溶液を混合するので、上記表面処理中に人体に有害なフッ化水素酸が必然的に生成される。
その結果、処理工程における作業環境が極めて悪いものとなる。
また、この表面処理方法は酸洗い、温水洗い及び水洗とそれぞれ水槽が異なる3つの処理工程を経る必要があり、処理対象となるマグネシウム合金材を順次各水槽へと移し変えなければならず工数が多くなる。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになれたものである。
即ち、本発明はマグネシウム合金材に表面処理を施す際に、フッ化水素酸等の有害物を発生させず、且つ工数の少ないマグネシウム合金材の表面処理方法を提供することを目的とする。
更にまた、その表面処理方法によって処理されたマグネシウム合金材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は以上のような背景に対して鋭意工夫を重ねた結果、マグネシウム合金材をバレル研磨する際に、同時にその媒剤としてフッ素化合物を使うことで上記の問題点を解決できることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0007】
すなわち本発明は、(1)、マグネシウム合金材の表面処理方法であって、バレル研磨に使用する媒剤がフッ素化合物であるマグネシウム合金材の表面処理方法に存する。
【0008】
また本発明は、(2)、研磨剤と媒剤を使ったバレル研磨によるマグネシウム合金材の表面処理方法であって、媒剤がフッ素化合物であるマグネシウム合金材の表面処理方法に存する。
【0009】
また本発明は、(3)、媒剤がフッ素マイカ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化アンモニウムから選択された一つである上記(2)記載のマグネシウム合金材の表面処理方法に存する。
【0010】
また本発明は、(4)、媒剤がフッ化アンモニウムである上記(3)記載のマグネシウム合金材の表面処理方法に存する。
【0011】
また本発明は、(5)、研磨材がシリカ、酸化アルミ、ガーネット、炭化ケイ素から選択された一つである上記(2)記載のマグネシウム合金材の表面処理方法に存する。
【0012】
また本発明は、(6)、研磨剤が炭化ケイ素である上記(5)記載のマグネシウム合金材の表面処理方法に存する。
【0013】
また本発明は、(7)フッ素化合物の混入量が0.1w%〜5w%である上記(2)記載のマグネシウム合金の表面処理方法に存する。
【0014】
また本発明は、(8)、上記(1)〜(7)のいずれか1項記載の表面処理方法により製造されたマグネシウム合金材に存する。
【0015】
なお本発明の目的に添ったものであれば上記発明を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、マグネシウム合金材の表面処理方法であって、研磨剤を使ったバレル研磨による際の研磨剤がフッ素化合物であるために、マグネシウム合金材の表面に対して、薄いフッ化マグネシウム皮膜を形成することができる。
このフッ化マグネシウム皮膜自体は極めて緻密で均一であるため塗装時の塗料の密着性を大きく向上させることができる。
また、バレル研磨を行う際に一挙に表面の研磨とフッ化マグネシウム皮膜の形成を達成することが可能であり、従来のフッ化化合物を使った表面処理方法と異なり、表面処理工程として複数の工程を必要とせず工数が低減され、作業効率が向上する。
また、本発明は、表面処理過程で酸性溶液を使うことがないために、フッ化水素酸の発生がなく、処理工程における作業環境が極めて良いものとなる。
またこの表面処理で処理したマグネシウム合金材は塗料の密着性が良く剥がれにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔実施形態〕
本発明は、研磨剤を使ったバレル研磨によるマグネシウム合金材の表面処理方法であって、媒剤がフッ素化合物であることに特徴がある。
バレル研磨は、通常、研磨剤及び媒剤(仕上げ効果を促進する物質)と処理対象物であるマグネシウム合金材とを一緒にバレル容器に投入し該容器を一定時間回転させることにより処理対象物の表面を研磨するものである。本発明では、バレル研磨を行う際の媒剤としては、特にフッ素化合物を使っている。
ここで、研磨剤としては、酸化アルミ、天然石、炭化ケイ素等が採用される。
なお、研磨剤として炭化ケイ素を用いた場合、バレル研磨の際に、他の研磨剤よりも緻密に、研磨ムラなく研磨することが可能であるため、これを用いることが好ましい。
【0018】
またフッ素化合物としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、及びフッ化アンモニウム等が採用される。特に、フッ化アンモニウムは水に対する溶解性が高く、マグネシウム合金材との反応性が大きくなるので、これを採用することがより好ましい。
マグネシウム合金材をバレル研磨することで、その表面が研磨剤の作用により研磨されて表面の微細な凹凸が修正されて無くなり磨かれた状態となる。
一方、同時に、媒剤であるフッ素化合物がマグネシウム合金材の表面に瞬間的に作用して、フッ化マグネシウム皮膜(約0.1μm〜5μm)を形成するのである。
通常、研磨の後は、迅速に表面の酸化が生じるので、その後、表面に対してフッ素化合物を作用させても皮膜が生じにくいものであるが、本発明では、バレル研磨を行うことにより「研磨」とほぼ同時にフッ素化合物を作用させることできるために表面に酸化膜が生じる間もなく皮膜(フッ化マグネシウム皮膜)効果的に形成されるのである。
そして皮膜は極めて緻密で均一であり、処理されたマグネシウム合金材は塗料の密着性が良く剥がれにくい。
【0019】
ところで、本発明は湿式バレル研磨を採用することが好ましいので、研磨剤と媒剤に加え更に水をバレル容器の中に混入する。
そして、媒材であるフッ素化合物の混入量は、0.1w%〜5w%にすることが好ましい。
フッ素化合物の混入量が0.1w%よりも小さい場合、逆にマグネシウム合金材の塗料に対する密着性が減少する。
また、フッ素化合物の混入量が5%よりも大きい場合も同様に密着性が減少する。
なお混入量とは、バレル容器内に混入した水に対する重量%をいう。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
〔実施例1〕
ここではフッ素化合物であるフッ化アンモニウムを添加した研磨剤スラリー(研磨剤、フッ素化合物及び水を混合したもの)を用いて、マグネシウム合金板(材質AZ−31、サイズ:50×20×0.5mm)に対してバレル研磨を行った。
1)バレル容器としては100mlの円筒型容器を用いた。
2)研磨剤:炭化ケイ素(粒度#60、20g)
水:20ml
フ素化合物:フッ化アンモニウム(混入量0.1w%)
3)振とう機で450回/分の条件で30分間研磨した。
【0021】
〔実施例2〕
フッ化アンモニウムの混入量を1w%としたこと以外全て実施例1と同様の手順で行った。
【0022】
〔実施例3〕
フッ化アンモニウムの混入量を2w%としたこと以外は全て実施例1と同様の手順で行った。
【0023】
〔実施例4〕
フッ化アンモニウムの混入量を10w%としたこと以外は全て実施例1と同様の手順で行った。
【0024】
〔実施例5〕
フッ化アンモニウムの混入量を0.05w%としたこと以外は全て実施例1と同様の手順で行った。
【0025】
〔比較例1〕
フッ化アンモニウムを添加しなかったこと以外は全て実施例1と同様の手順で行った。
【0026】
次ぎに本発明であるマグネシウムの表面処理方法によって塗料に対する密着性が向上したことを証明する実験を行った。
本発明により表面処理が施されたマグネシウム合金材にアクリル塗料を塗布し、JIS K 5400基盤目テープ法に準じて、剥離試験を行った。
なお、JIS K 5400基盤目テープ法とは、塗布面上10mm角中に1mm間隔にカッターで切れ目を入れ、100升の碁盤目を作り、粘着テープをその上に貼り付けた後、剥離する試験方法である。
目視では、剥離した升目の確認が困難であったため、剥離した升目の数による評価は採用しなかった。
そこで拡大写真により剥離状況を定性的に評価し、その結果を表1に示す。
【0027】
〔表1〕

【0028】
表1から分かるように、マグネシウム合金材をフッ素化合物と共にバレル研磨することで、塗料の密着性が大きく向上する。
また、フッ化アンモニウムの混入量が10w%以上又は、0.05w%以下となると逆に密着性が低下することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金材の表面処理方法であって、バレル研磨に使用する媒剤がフッ素化合物であることを特徴とするマグネシウム合金材の表面処理方法。
【請求項2】
研磨剤と媒剤を使ったバレル研磨によるマグネシウム合金材の表面処理方法であって、媒剤がフッ素化合物であることを特徴とするマグネシウム合金材の表面処理方法。
【請求項3】
媒剤がフッ素マイカ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化アンモニウムから選択された一つであることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム合金材の表面処理方法。
【請求項4】
媒剤がフッ化アンモニウムであることを特徴とする請求項3記載のマグネシウム合金材の表面処理方法。
【請求項5】
研磨材がシリカ、酸化アルミ、ガーネット、炭化ケイ素から選択された一つであることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム合金材の表面処理方法。
【請求項6】
研磨剤が炭化ケイ素であることを特徴とする請求項5記載のマグネシウム合金材の表面処理方法。
【請求項7】
フッ素化合物の混入量が0.1w%〜5w%であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム合金材の表面処理方法。
【請求項8】
上記請求項1〜7のいずれか1項記載の表面処理方法により製造されたマグネシウム合金材。

【公開番号】特開2007−154247(P2007−154247A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350043(P2005−350043)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】