説明

マグネシウム合金材の表面処理方法

【目的】 マグネシウム合金材の表面に、孔食や剥離を生じることなくNi−Pメッキ層等の如く耐食性,耐摩耗性,摺動性等の諸特性を有するメッキ層を容易に形成する。
【構成】 マグネシウム合金材2の表面2aにゾルゲル法によるゾルゲルコーティング処理を施して緻密なゾルゲル層5を形成し、しかる後に、前記ゾルゲル層5の表面5aにメッキ処理(例えば、Ni−Pメッキ処理)を施す。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マグネシウム合金材の表面処理方法に関し、更に詳しくは、マグネシウム合金材の表面に耐食性,耐摩耗性,摺動性等を有するメッキ層を形成するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、自動車やオートバイのバルブリテーナ,ウォーターポンプ,ロッカーアーム等の軽量化のために、その材質としてマグネシウム(Mg)合金が使用されている。
【0003】このマグネシウム合金は他の金属材料に比べて耐食(耐酸化性)及び耐摩耗性等の点で特性が劣るため、これらの特性の改善を図るべくマグネシウム合金材に種々の表面処理を施す必要がある。
【0004】ここで、従来より行なわれているマグネシウム合金材の表面処理方法について述べると、陽極酸化処理によって表面に酸化マグネシウム(MgO)層を形成する方法、メッキ処理によってニッケル(Ni)等のメッキ被膜を形成する方法、クロメート処理によって耐酸化性被膜を形成する方法、化成処理によって金属化合物層を形成する方法等がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の如き従来の表面処理方法では、次のような問題点がある。すなわち、陽極酸化処理では緻密な被膜を得ることができない。また、ニッケルメッキ等では特殊なメッキ液を必要とする上に、メッキ処理がデリケートで、メッキ層の均一化が難しく、さらにクロメート処理を行なう必要がある。また、クロメート処理では被膜の強度が低く、化成処理では被膜の強度及び耐食性が低いという欠点がある。
【0006】このように、陽極酸化処理,クロメート処理,化成処理にてマグネシウム合金材の表面に被膜を形成するようにしても、被膜が弱いため、この被膜が施された部分を摺動面として使用することができない。従って、これらの処理方法は、マグネシウム合金材の表面処理としては支障を生じる場合がある。一方、図6に示すようにメッキ処理にてマグネシウム合金材20の表面20a上にメッキ層21を形成した場合には、メッキ層21は不均一なため、孔食22を生じてしまうおそれがある。また、メッキ層21が緻密でない場合にはメッキ層21の剥離が容易に起りやすい。
【0007】本発明は、上述の如き種々の実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、マグネシウム合金材の表面に耐食性(耐酸化性),耐摩耗性,摺動性等に優れたメッキ層を容易に施すことができ、しかも孔食や剥離を生じることがないようなマグネシウム合金材の表面処理方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために、本発明では、マグネシウム合金材の表面にゾルゲル法によるゾルゲルコーティング処理を施して緻密なゾルゲル層を形成し、しかる後に、前記ゾルゲル層の表面をメッキ処理するようにしている。
【0009】
【作用】ゾルゲル法によりマグネシウム合金材の表面に得られる緻密なゾルゲル層(セラミック膜)を介して、Ni−Pメッキ等のメッキ層が孔食や剥離を生じることのない状態で容易に形成される。
【0010】
【実施例】以下、本発明の実施例に付き図1〜図5を参照して説明する。
【0011】図1(A)及び(B)は、本発明に係る方法により表面処理される自動車のバルブリテーナ1を示すものである。このバルブリテーナ1は軽量化のためにマグネシウム合金材2を基材とするものであり、図1(B)において斜線Aで示す面部が摺動面3として構成されている。
【0012】ここで、バルブリテーナ1の製造工程を詳述すると、次の通りである。
【0013】まず、マグネシウム合金材(例えば、AZ91合金)を所定形状に加工する。なお、この際の加工による表面粗さはRz(十点平均粗さ)1.6Z又は0.8Zである(最大6.3Z)。
【0014】次に、加工面の脱脂・洗浄を行ない、しかる後に、ゾルゲル法(金属アルコキシド法)によってマグネシウム合金材2上にゾルゲルコーティング処理を施す。
【0015】すなわち、ゾルゲルコーティング処理に当っては、まず、図2に示すように、成形加工されたマグネシウム合金材2を例えばCH3 Si(OC2 5 3 溶液4に侵して引き上げ速度0.2〜0.6mm/secでディッピング処理を行ない、300〜500℃の条件下で5〜10分間にわたり焼成処理する。そして、このディッピング処理及び焼成処理を2〜10回繰り返し行なうことにより、マグネシウム合金材2の表面2a上に0.2〜1μm程度の被膜を形成する。しかる後に、350〜400℃の条件下で5分〜20時間にわたって熱処理を行なうことにより、図3(A)に示す如くマグネシウム合金材2の表面上にCH3 SiOxから成る柔軟な(弾性率が低い)ゾルゲル層5を形成する。
【0016】次いで、脱脂・洗浄を行なった後に、図3(B)に示すように前記ゾルゲル層5の表面5a上にNi−Pメッキを施して、耐食性,耐摩耗性及び摺動性を有するNi−P被膜から成るメッキ層(表面処理層)6を得る。
【0017】また、本発明に係る方法は図4(A)及び(B)に示す如きウォーターポンプのケーシング7の摺動面8(斜線Aで示す部分)を表面処理するに際しては、所定形状に加工したマグネシウム合金材2を脱脂・洗浄した後に、既述と同様のゾルゲルコーティング処理を施してマグネシウム合金材2上にゾルゲル層を形する次いで、脱脂・洗浄した後に、摺動面8以外のケーシング部分をマスキングした状態の下でこの摺動部8上のゾルゲル層にNi−Pメッキ処理を施し、このゾルゲル層上に5〜40μmの厚さのNi−Pメッキ層を形成する。そして、この後に、300〜400℃の条件下で1〜2時間にわたって熱処理することにより耐摩耗性が強く要求されるマグネシウム合金材2の摺動面8上に耐摩耗性のNi−P等から成るメッキ層(表面処理層)を得る。
【0018】また、本発明に係る方法は、図5に示す如きロッカーアーム9の摺動面10の表面処理にも適用可能である。なお、この場合、ローカーアーム9の孔11は軸部のため、モーメントに影響がない。従って、この孔11にはメタル部材を挿入し、摺動面には既述のウォーターポンプのケーシング7と同様の表面処理にてNi−Pメッキ層等を形成する。
【0019】以上のようにしてNi−Pメッキ層を形成するようにした場合には、ゾルゲル法によりマグネシウム合金材2の表面2a上に緻密なゾルゲル層5すなわちセラミックス膜を形成するようにしたので、従来では均一性や歩留りの点で困難であったNi−Pメッキ処理等を比較的容易に行なうことができると共に、得られるNi−Pメッキ層6によりマグネシウム合金材2の表面2aに良好な耐酸化性,耐摩耗性及び摺動性を付与することができる。また、上述のNi−Pメッキ層は孔食や剥離等の不都合を生じることもない。
【0020】以上、本発明の実施例に付き述べたが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基いて各種の変更が可能である。例えば、本発明は、バルブリテーナ1,ウォーターポンプのハウジング7,ロッカーアーム9等に限らず、軽量化のためにマグネシウム合金材を用いる種々の部材の表面処理に適用可能である。また、ゾルゲル層上に行なうメッキ処理としては、Ni−Pメッキに限らず、用途に応じた種々の特性を有するメッキ材を用いることができる。
【0021】
【発明の効果】以上の如く、本発明は、マグネシウム合金材の表面に緻密なゾルゲル層(セラミックス膜)を形成してこのゾルゲル層の表面にメッキ処理を施すようにしたものであるから、緻密なゾルゲル層の存在によりNi−P等のように耐食性(耐酸化性),耐摩耗性,摺動性等を有する各種のメッキ層を容易に形成することができ、しかも剥離や孔食等の発生をなくすことができる。従って、本発明により表面処理されたマグネシウム合金材から成る各種の部材に、マグネシウム合金の軽量性を備えつつ必要に応じて優れた耐食性,耐摩耗性,摺動性その他の特性を付与せしめることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)はバルブリテーナの正面図、(B)はバルブリテーナの断面図である。
【図2】マグネシウム合金材のディッピング処理装置の概念図である。
【図3】(A)はマグネシウム合金材の表面にゾルゲル法によりゾルゲル層を形成した状態を示す断面図、(B)はこのゾルゲル層の表面にNi−Pメッキ層を形成した状態を示す断面図である。
【図4】(A)はウォーターポンプのケーシングの斜視図、(B)は前記ケーシングの断面図である。
【図5】ロッカーアームの側面図である。
【図6】従来の方法によりマグネシウム合金材の表面にNi−Pメッキ層を直接的に形成した場合を示す断面図である。
【符号の説明】
2 マグネシウム合金材
2a 表面
3,8,10 摺動面
5 ゾルゲル層(セラミックス膜)
5a 表面
6 Ni−Pメッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 マグネシウム合金材の表面にゾルゲル法によるゾルゲルコーティング処理を施して緻密なゾルゲル層を形成し、しかる後に、前記ゾルゲル層の表面をメッキ処理するようにしたことを特徴とするマグネシウム合金材の表面処理方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開平5−320929
【公開日】平成5年(1993)12月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−134620
【出願日】平成4年(1992)5月27日
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)