マグネシウム基複合材料
【課題】 本発明の目的は、機械的特性、耐食性、耐熱性等に優れたマグネシウム基複合材料を提供することにある。
【解決手段】 マグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界上にマグネシウムと金属もしくは半金属との化合物である分散化合物が分散されたマグネシウム基複合材料であって、
金属組織の顕微鏡写真から求めた、マグネシウム合金の結晶粒径、および前記分散化合物の粒子径が、次の条件(A)、(B)を満たすマグネシウム基複合材料。
(A)マグネシウム合金の平均結晶粒径が5μm以下であり、かつマグネシウム合金の結晶粒の内、その結晶粒径が10μm以上のものが面積比15%以下である。
(B)前記分散化合物の粒子のうち、粒子径が10μm以上のものが面積比30%以下である。
【解決手段】 マグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界上にマグネシウムと金属もしくは半金属との化合物である分散化合物が分散されたマグネシウム基複合材料であって、
金属組織の顕微鏡写真から求めた、マグネシウム合金の結晶粒径、および前記分散化合物の粒子径が、次の条件(A)、(B)を満たすマグネシウム基複合材料。
(A)マグネシウム合金の平均結晶粒径が5μm以下であり、かつマグネシウム合金の結晶粒の内、その結晶粒径が10μm以上のものが面積比15%以下である。
(B)前記分散化合物の粒子のうち、粒子径が10μm以上のものが面積比30%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネシウム基複合材料、特にその機械的特性、耐食性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品等に用いられる構造用機械部品に対する軽量化へのニーズは大きく、
最軽量材料として知られているマグネシウム合金の利用に注目が集まっている。一方、マグネシウム合金は低硬度、低剛性、摩耗性、腐食性などの欠点が指摘されており、マグネシウム合金の機械的特性、耐食性を改善するための様々が試みが提案されている。例えば、特許文献1、2には、Mg合金粉末とSi(もしくはSiO2)粉末とを混合し、反復的塑性加工法(BMA法)により製造したマグネシウム基複合材料について記載されている。該マグネシウム基複合材料は母相となるMg合金中にMg2Siが分散したものであり、これにより強度・硬度等の機械的特性および耐食性の向上を図っている。
【0003】
ここで、特許文献1、2に記載された方法について少し説明する。BMA法とは図1に示すプレス機を用い、Mg合金粉末とSi(もしくはSiO2)粉末からなる圧縮成形体を製造する方法である。
このプレス機は下型にダイ100(臼)を備え、上型に2種類の成形ピン102,1004を備えている。ダイ100は有底円筒状をなしており、上部が開放された収容空間を有している。上型には成形ピン102、104を交互にダイ100の真上に位置させる切替機構が設けられている。一方の成形ピン102は平坦な下面を有し、その径はダイ100の収納空間の内径とほぼ等しい。他方の成形ピン104は細長い棒形状をなしており、その径は収容空間の内径より小さい。
【0004】
図1(a)に示すように、上記収容空間内に、数mm程度のマグネシウム合金のチップと粒径数ミクロンから数十ミクロンのSiまたはSiO2の粉末を数%(混合材料に対する重量%)とを混合させた原料Mを充填する。次に、図1(a)、(b)に示すように、成形ピン102をダイ100の真上に位置させてから下降させて、原料Mを偏平な円柱形状に押し固める。
次に成形ピン102を上昇させてから他の成形ピン104をダイ100の真上に位置させるように切り替えた後、図1(c)、(d)に示すように、成形ピン104を下降させて原料Mの中央に圧入する。これにより原料Mは成形ピン104により後方押出しされて成形ピン104の周囲に盛り上がり、中央に深い穴が生じる。次に図1(e)に示すように成形ピン104を上昇させた後、図1(f)、(b)に示すように、成形ピン102をダイ100の真上に位置させてから下降させて、原料Mを再び圧縮する。この成形ピン102の下降により、原料Mは周囲の盛り上がった部位が中央の深い穴に埋められるようにして押し固められ、再び偏平な円柱形状になる。上記のように成形ピン102、104による変形(押し固め、後方押し出し)を繰り返すことによって原料Mにおけるマグネシウム合金チップが微細化され、シリコン粉末がマグネシウム合金中に分散される。そして、最後に原料Mを押し固めることで圧縮成形体を得る。
【0005】
特許文献1、2に記載の方法ではこうして得られた圧縮成形体を加熱して、MgとSiを反応させ、Mg2Siを生成させる。そして、Mg2Siを有する加熱圧縮成形体に温間塑性加工を施すことでマグネシウム基複合材料を得ている。
【特許文献1】国際公開WO2003/027342号
【特許文献2】特開2004−225080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に示されたようなマグネシウム基複合材料も、機械的特性、耐食性等に関してまだ十分満足のいくものではなかった。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、機械的特性、耐食性、耐熱性等に優れたマグネシウム基複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、マグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界上にマグネシウムと金属もしくは半金属との化合物である分散化合物が分散されたマグネシウム基複合材料であって、金属組織の顕微鏡写真から求めた、マグネシウム合金の結晶粒径、および前記分散化合物の粒子径が、次の条件(A)、(B)を満たすことを特徴とする。
(A)マグネシウム合金の平均結晶粒径が5μm以下であり、かつマグネシウム合金の結晶粒の内、その結晶粒径が10μm以上のものが面積比15%以下である。
(B)前記分散化合物の粒子のうち、粒子径が10μm以上のものが面積比30%以下である。
【0008】
上記のマグネシウム基複合材料において、前記分散化合物は金属または半金属の酸化物または炭化物もしくは珪化物であることが好適である。
上記のマグネシウム基複合材料において、前記分散化合物はMg2Siであることが好適である。
上記のマグネシウム基複合材料において、前記分散化合物の含有量が(0.1質量%から5質量%)であることが好適である。
なお、特許請求の範囲および明細書中では「マグネシウム合金」という用語を純マグネシウム金属も含めた意味で用いる。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるマグネシウム基複合材料によれば、母材となるマグネシウム合金の結晶粒径、および分散化合物の粒子径が上記(A)、(B)の条件を満たしているため、分散化合物がマグネシウム合金の結晶粒界に均一に分布しているため、機械的特性、耐食性、耐熱性等の材料特性に優れたものとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、マグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界上にマグネシウムと金属もしくは半金属との化合物である分散化合物が分散されたマグネシウム基複合材料であり、金属組織の顕微鏡写真から求めた、マグネシウム合金の結晶粒径、および前記分散化合物の粒子径が、次の条件(A)、(B)を満たすことを特徴とする。
(A)マグネシウム合金の平均結晶粒径が5μm以下(さらに好適には3μm以下)、かつマグネシウム合金の結晶粒の内、その結晶粒径が10μm以上のものが面積比15%以下(さらに好適には10%以下、より好ましくは5%以下)である。
(B)前記分散化合物の粒子のうち、粒子径が10μm以上のものが面積比30%以下(さらに好適には15%以下、より好ましくは10%以下)である。
【0011】
ここで、分散化合物が「マグネシウム合金の結晶粒界上に分散された」とは、分散化合物が、溶融法で製造したものと異なり、マグネシウム合金の結晶粒内には存在せず、分散化合物がマグネシウム合金の結晶粒を取り囲むように分散していることを意味する。このため、本発明にかかるマグネシウム複合金属は、例えば従来の溶融法で製造したものよりも、結晶粒の粗大化が生じにくく、耐熱性が高い。
【0012】
また、マグネシウム合金の結晶粒が上記の条件(A)を満たしていることから、従来のもの(特許文献1、2等)よりも優れた機械的特性が得られる。また、分散化合物が上記条件(B)を満たしているため、従来のものよりも、分散化合物が均一に分散しており、機械的特性、耐食性、耐熱性などに優れた特性を示す。
また、本発明で用いられる分散化合物としては、金属または半金属の酸化物または炭化物もしくは珪化物が挙げられるが、特にMg2Siが好適である。
また、上記のマグネシウム基複合材料において、前記化合物の含有量が0.1質量%から5質量%、より好ましくは0.5質量%から4質量%であることが好適である。
【0013】
次に本発明にかかるマグネシウム基複合材料の好適な製造方法について説明する。
<製造方法>
本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、マグネシウム合金粉末と前記分散化合物粉末と混合した混合粉末を、(a)互いに交差して連なる複数の直線状の成形穴を有する型内に収容した状態で、上記成形穴内に挿入された押圧部材の前進、後退に伴い、上記混合原料を一の成形穴で押し固め、更にこの押し固めた混合原料を押し崩しながら他の成形穴へと送り込み、この押し固め、押し崩しを繰り返すことにより、圧縮成形体を作成する工程と、(b)該圧縮成形体を作成する工程にて得られた圧縮成形体を温間押し出し形成する工程と、を備えた製造方法で製造することが好適である。
【0014】
ここで、マグネシウムもしくはマグネシウム合金粉末は、サイズが0.5mm〜5mmであることが好適である。また、分散化合物粉末の平均粒子径は5μm〜100μm、より好ましくは10μm〜50μmであることが好適である。
圧縮成形体を作成する工程で、加える圧力は250kg/cm2〜400kg/cm2であることが好適である。
また、押し出し形成を行う工程での温度は、250℃〜400℃であることが好適である。
【0015】
<圧縮形成工程>
本実施形態にかかる圧縮形成工程では、図2に示したような装置を用いて上記のマグネシウム合金チップとMg2Si粉末を混合した混合粉末を用い、圧縮成形体を得ることが好適である。
図2に示した装置10は、直方体形状の型12を備えており、型12には直線状の4つの成形穴14a,14b,14c,14dが形成されている。各成形穴14a〜14dは同一の断面形状(好ましくは同一径の断面円形)をなしており、型10の中心の交差部15にて放射状に連結されている。また、各成形穴14a〜14dは、この順序で周方向に90°の角度間隔をなして同一平面上(垂直面または水平面上)に配置されている。
成形穴14a〜14dには、それぞれ各成形穴14a〜14dとほぼ等しい断面形状の押圧部材16a〜16d(第1〜第4の押圧部材)がスライド可能に挿入されており、各成形穴に沿って前進、後退するようになっている。これらの押圧部材16a〜16dの前進、後退は駆動手段18a〜18dによって行われる。駆動手段は油圧シリンダ等で構成される。また、制御手段20では各該駆動手段18a〜18dの圧力情報、位置センサからの情報等を基に、各駆動手段の制御を行う。
【0016】
まず、図3(a)に示すように、押圧部材16aを抜いた状態で混合粉末を成形穴14aに装填する。この際、押圧部材16b,16c,16dの前進方向側(型の内部へ向う方向)側の端部は、交差部15に隣接する成形穴14b、14c、14dの奥端と一致する位置にある(以下、この位置を前進位置と呼ぶ)。各押圧部材16b、16c、16dは、駆動手段18b、18c、18dによって後退(型の外部へ向う方向)不能な状態で拘束され、実質的に固定された状態にある。そして、押圧部材16aを成形穴14aに挿入した後、以下のシーケンス制御を開始する。
【0017】
最初に押圧部材16aについて押し固め工程を実行する。押圧部材16aを駆動手段18aにより成形穴14a内部へ押し込む。すると他の押圧部材16b〜16dは固定されているので混合粉末は成形穴14b〜14dに向わずに成形穴14aにおいて押し固められ、円柱形状の塊になる。この塊は所定の強度を持っているが、比較的脆いものである。この押し固め状態は所定の加圧状態で短時間、例えば2秒程度維持される。
次に押圧部材16aについて押し崩し工程を実行する。駆動手段18aにより押圧部材16aを更に高い圧力で押し込むと同時に、駆動手段18bにより押圧部材16bを後退可能にする。すると、図3(b)、(c)に示すように押圧部材16aは前進位置まで押し込まれ、混合粉末は成形穴14aから交差部15を経て成形穴14bへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16bは流れ込んだ原料Mに押されて後退する。そして、押圧部材16aの前端が成形穴14a奥端に達したときに押し崩し工程が完了する。
【0018】
次に押圧部材16bについて上記同様の押し固め工程を実行する。つまり、図3(d)に示すように、押圧部材16a,16c,16dを前進位置で固定し、押圧部材16bを駆動手段18bにより内部へ押し込むことで、混合粉末を押し固める。
次に押圧部材16bについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16cを後退可能な状態(フリーな状態)にし、押圧部材16bを押し込む。すると、図3(e)、(f)に示すように押圧部材16bは前進位置まで押し込まれ、混合粉末は成形穴14bから交差部15を経て成形穴14cへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16cは流れ込んだ混合粉末に押されて後退する。
【0019】
同様に押圧部材16cについて押し固め工程を実行する。つまり、図3(g)に示すように押圧部材16a,16b,16dを前進位置で固定し、押圧部材16cを駆動手段18cにより型12内部へ押し込むことで、混合粉末を押し固める。
次に押圧部材16cについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16dを後退可能な状態(自由な状態)にし、押圧部材16cを押し込む。すると、図3(h)、(i)に示すように押圧部材16cは前進位置まで押し込まれ、混合粉末は成形穴14cから交差部15を経て成形穴14dへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16dは流れ込んだ混合粉末に押されて後退する。
【0020】
同様に押圧部材16dについて押し固め工程を実行する。つまり、図3(j)に示すように押圧部材16a,16b,16cを前進位置で固定し、押圧部材16dを駆動手段18dにより型12内部へ押し込むことで、混合粉末を押し固める。
次に押圧部材16dについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16aを後退可能な状態(自由な状態)にし、押圧部材16dを押し込む。すると、図3(k)、(l)に示すように押圧部材16dは前進位置まで押し込まれ、混合粉末は成形穴14dから交差部15を経て成形穴14aへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16aは流れ込んだ混合粉末に押されて後退する。
【0021】
図3(a)〜(l)に示された工程を任意回数繰り返し行った後、最後に押し固め工程を行うことで圧縮成形体を得る。このように、混合粉末は押し固め工程により一旦押し固められた後で、押し崩し工程で交差部を通過する際にほぼ全断面領域で大きなせん断力、摩擦力を受けて押し崩されるため、混合粉末の微細化、均一な分散化を効率よく行うことができる。
【0022】
また、より均一な微細化、分散化を行うために、上記押し固め及び押し崩し工程の間に図4に示すような攪拌工程を行うことが好適である。
まず、図4(a)に示すように、押圧部材16cを前進位置で固定状態にし、押圧部材16b、dは後進可能なフリーの状態にする。この状態で押圧部材16aを押し込むと、図4(b)、(c)に示すように、混合粉末は成形穴14aから交差部15を経て成形穴14b、14dへ流れ込む。すると、押圧部材16bと16dは混合粉末に押されて後退する。
押圧部材16aを前進位置にまで押し込んだ後、図4(d)に示すように押圧部材16aを固定状態、押圧部材16cをフリーな状態にし、押圧部材16bと16dを押し込む。すると、図4(e)、(f)に示すように成形穴14b、14dに存在した混合粉末は、成形穴14cに流れ込む。ここで、押圧部材14cは混合粉末に押されて後退する。
押圧部材14b、14dを図4(f)に示すようにその前進位置にまで押し込んだのち、図4(g)に示すように押圧部材16b、16dを固定状態、押圧部材16aをフリーの状態にする。そして、図4(h)、(i)に示すように押圧部材16cをその前進位置にまで押し込むと、混合粉末は成形穴14cから交差部15を経て成形穴14aに至り、押圧部材14aは混合粉末に押されて後退する。
【0023】
このような攪拌工程を上記押し固め及び押し崩し工程の間に設けることで、より効率よく微細化、分散化することができる。
上記実施形態では、型に成形穴を4つ設けた構成の装置における例を示したが、これに限定されず、成形穴を複数、例えば2〜6つ設けた構成の装置を用いてもよい。また、型を固定して押圧部材毎に駆動手段を設ける装置構成の場合を説明したが、駆動手段を一つにして型を回転させる構成の装置を用いてもよい。
【0024】
<押し出し成形工程>
上記で得られた圧縮成形体を予備加熱し、一定時間保持した後、公知の装置を用い押し出し加工を行い、マグネシウム基複合材料を得る。ここで、予備加熱温度はマグネシウム合金の種類により変化するが、加熱炉設定温度で300℃〜550℃が好適である。また、上記の押し出し加工時の温度は、250℃〜400℃が好適であり、より好ましくは250℃〜350℃が好適である。
以上のようにして得られたマグネシウム基複合材料は以下で見るように、上記の条件(A)、(B)を満たし、マグネシウム合金母材中にMg2Siが均一に分散されたものとなる。
【実施例1】
【0025】
以下に本発明の実施例を詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<結晶粒径分布>
・製造例1−1
マグネシウム合金(AZ31)チップ98質量%と、Mg2Siの粉末2質量%を混合したものに、オレイン酸を加え、混合粉末を得た。ここで、マグネシウム合金チップの平均サイズは、1.5mmであり、Mg2Si粉末は、平均粒径70μmのものを用いた。
該混合粉末Aを上記図2に示した装置によって圧縮成形体とした。上記の圧縮成形体の形成工程における処理回数(ただし、図3の(a)〜(l)で示した微細化工程および図4(a)〜(i)の攪拌工程を合わせたものを一回と数える)は160回とした。得られた圧縮成形体を予備加熱温度450℃で加熱し、公知の押し出し成形装置により温度400℃、押出し径7mm、押出し比28で押し出し形成し、マグネシウム基複合材料を得た。
【0026】
・製造例1−2
マグネシウム合金(AZ31)チップ98質量%と、SiO2の粉末2質量%を混合したものに、オレイン酸を加え、混合粉末を得た。ここで、マグネシウム合金チップの平均サイズは1.5mmであり、SiO2粉末は平均粒径20μmのものを用いた。
混合粉末を上記図2に示した装置によって圧縮成形体とした。上記の圧縮成形体の形成工程における処理回数(ただし、図3の(a)〜(l)で示した微細化工程および図4(a)〜(i)の攪拌工程を合わせたものを一回と数えた)は160回とした。得られた圧縮成形体を予備加熱温度550℃で加熱し、公知の押し出し成形装置により温度470℃、押出し径7mm、押出し比28で押し出し形成し、マグネシウム基複合材料を得た。
【0027】
・製造例1−3
マグネシウム合金(AM60)チップ98質量%と、SiO2の粉末2質量%を混合したものに、オレイン酸を加え、混合粉末を得た。ここで、マグネシウム合金チップの平均サイズは、1.5mmであり、SiO2粉末は、平均粒径20μmのものである。
該混合粉末AをBMA法、つまり上記図1に示した装置によって、圧縮成形体とした。上記の圧縮成形体の形成工程における処理回数(ただし、図1の(b)〜(f)を一回と数える)は160回とした。得られた圧縮成形体を予備加熱温度460℃で加熱し、公知の押し出し成形装置により温度460℃、押出し径7mm、押出し比34で押し出し形成し、マグネシウム基複合材料を得た。
【0028】
上記製造例1−1〜1−3で製造したマグネシウム基複合材料のSiの分布を分布電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)法で調べ、金属組織の電子顕微鏡写真(150μm×150μmの領域)からマグネシウム合金の結晶粒径、分散化合物(Mg2Si)の結晶粒径を調べた。結果を表1に示す。また、図5Aに製造例1−1の電子顕微鏡写真を、図5Bにそれに対応するSiの分布図を示す。また、図5Cは図5Aの倍率を大きくしたもの、図5Dはそれに対応するSiの分布図である。図6Aは製造例1−2の電子顕微鏡写真であり、図6Bはそれに対応するSiの分布図である。ただし、図6Aの倍率は図5Cと同じ倍率とした。さらに、図7Aには製造例1−3の電子顕微鏡写真を、図7Bにはそれに対応するSiの分布図を示した。また、図7Cは図7Aの倍率を大きくしたもの、図7Dはそれに対応するSiの分布図である。
【0029】
【表1】
上記図7A〜7D、および表1から分かるように、従来のBMA法で製造した製造例1−3はMg合金の結晶粒径はある程度微細化しているものの、Mg2Siの分散が非常に不均一であった。それに対し、図5A〜5D、図6A、6Bから分かるように製造例1−1、1−2はMg合金の結晶粒径が高度に微細化され、Mg2Siも均一に分散していた。また、製造例1−1はMg2Siの径が、製造例1−2よりもやや大きいものの、Mg合金の微細化の点では勝っていた。
製造例1−1に対し、0.2%耐力、引張強度、伸びを調べると、それぞれ302MPa,354MPa,9.9%であり、良好な特性が得られた。
【0030】
<耐熱性>
次に耐熱性を調べるために、本発明にかかるマグネシウム複合材料と、通常のマグネシウム合金との熱処理前、熱処理後のマイクロビッカース硬度(Hv)を調べた。
マグネシウム基複合材料としては、マグネシウム合金(AZ31)チップ99.5質量%と、Mg2Siの粉末0.5質量%を混合したものに、オレイン酸を加えた混合粉末を用いて上記製造例1−1と同様な方法で製造したもの(処理回数120回)を用いた。また、比較のためのマグネシウムは、マグネシウム合金(AZ31)チップのみを粉末原料として、上記製造例1−1と同様な方法で製造したもの(処理回数120回)を用いた。
熱処理は、製造された材料を300℃で15分間保持することで行った。また、硬度は3回測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
表2から分かるように、通常のマグネシウム合金は熱処理によって硬度が下がったが、本発明にかかるマグネシウム複合材料は熱処理によっても硬度が下がることがなかった。
【0032】
<耐食性>
本発明にかかるマグネシウム複合材料の耐食性を調べた。測定は、電気化学測定システム(北斗電工(株)製HZ−5000)によった。
図8に0.1MNaCl水溶液中におけるアノード分極曲線を示す。図8中でAZ−31−4%として示したものが本発明に対応するマグネシウム複合材料であり、マグネシウム合金粉末96質量%とSiO2粉末4質量%を混ぜた粉末原料から、図2に示した装置によって圧縮成形体を形成し(処理回数80回)、押出し加工を施すことで製造したものである。また、図8中でAZ31−0%として示したものは、マグネシウム合金粉末のみから、図2に示した装置によって圧縮成形体を形成し(処理回数80回)、押出し加工を施すことで製造したものである。図8中でAZ31と示したものは通常のマグネシウム合金の押出し材である。図8のグラフから明らかなように、結晶粒径を微細化した押出し材(AZ31−0%)は、微細化を施していない通常の押出し材(AZ31)よりも耐食性が向上していることが分かる。Mg2Siを分散させた本発明のマグネシウム複合材料(AZ−31−4%)は、結晶粒径を微細化した押出し材(AZ31−0%)よりも更に耐食性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】BMA法の説明図
【図2】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造において用いられる装置の概略構成図
【図3】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造工程の説明図
【図4】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造工程の説明図
【図5A】製造例1−1のマグネシウム基複合材料の電子顕微鏡写真
【図5B】製造例1−1のマグネシウム基複合材料のEPMAによるSi分布の図
【図5C】図5Aの倍率を変えた電子顕微鏡写真
【図5D】図5Bの倍率を変えたSi分布の図
【図6A】製造例1−2のマグネシウム基複合材料の電子顕微鏡写真
【図6B】製造例1−2のマグネシウム基複合材料のEPMAによるSi分布の図
【図7A】製造例1−3のマグネシウム基複合材料の電子顕微鏡写真
【図7B】製造例1−3のマグネシウム基複合材料のEPMAによるSi分布の図
【図7C】図7Aの倍率を変えた電子顕微鏡写真
【図7D】図7Bの倍率を変えたSi分布の図
【図8】分極曲線のグラフ
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネシウム基複合材料、特にその機械的特性、耐食性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品等に用いられる構造用機械部品に対する軽量化へのニーズは大きく、
最軽量材料として知られているマグネシウム合金の利用に注目が集まっている。一方、マグネシウム合金は低硬度、低剛性、摩耗性、腐食性などの欠点が指摘されており、マグネシウム合金の機械的特性、耐食性を改善するための様々が試みが提案されている。例えば、特許文献1、2には、Mg合金粉末とSi(もしくはSiO2)粉末とを混合し、反復的塑性加工法(BMA法)により製造したマグネシウム基複合材料について記載されている。該マグネシウム基複合材料は母相となるMg合金中にMg2Siが分散したものであり、これにより強度・硬度等の機械的特性および耐食性の向上を図っている。
【0003】
ここで、特許文献1、2に記載された方法について少し説明する。BMA法とは図1に示すプレス機を用い、Mg合金粉末とSi(もしくはSiO2)粉末からなる圧縮成形体を製造する方法である。
このプレス機は下型にダイ100(臼)を備え、上型に2種類の成形ピン102,1004を備えている。ダイ100は有底円筒状をなしており、上部が開放された収容空間を有している。上型には成形ピン102、104を交互にダイ100の真上に位置させる切替機構が設けられている。一方の成形ピン102は平坦な下面を有し、その径はダイ100の収納空間の内径とほぼ等しい。他方の成形ピン104は細長い棒形状をなしており、その径は収容空間の内径より小さい。
【0004】
図1(a)に示すように、上記収容空間内に、数mm程度のマグネシウム合金のチップと粒径数ミクロンから数十ミクロンのSiまたはSiO2の粉末を数%(混合材料に対する重量%)とを混合させた原料Mを充填する。次に、図1(a)、(b)に示すように、成形ピン102をダイ100の真上に位置させてから下降させて、原料Mを偏平な円柱形状に押し固める。
次に成形ピン102を上昇させてから他の成形ピン104をダイ100の真上に位置させるように切り替えた後、図1(c)、(d)に示すように、成形ピン104を下降させて原料Mの中央に圧入する。これにより原料Mは成形ピン104により後方押出しされて成形ピン104の周囲に盛り上がり、中央に深い穴が生じる。次に図1(e)に示すように成形ピン104を上昇させた後、図1(f)、(b)に示すように、成形ピン102をダイ100の真上に位置させてから下降させて、原料Mを再び圧縮する。この成形ピン102の下降により、原料Mは周囲の盛り上がった部位が中央の深い穴に埋められるようにして押し固められ、再び偏平な円柱形状になる。上記のように成形ピン102、104による変形(押し固め、後方押し出し)を繰り返すことによって原料Mにおけるマグネシウム合金チップが微細化され、シリコン粉末がマグネシウム合金中に分散される。そして、最後に原料Mを押し固めることで圧縮成形体を得る。
【0005】
特許文献1、2に記載の方法ではこうして得られた圧縮成形体を加熱して、MgとSiを反応させ、Mg2Siを生成させる。そして、Mg2Siを有する加熱圧縮成形体に温間塑性加工を施すことでマグネシウム基複合材料を得ている。
【特許文献1】国際公開WO2003/027342号
【特許文献2】特開2004−225080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に示されたようなマグネシウム基複合材料も、機械的特性、耐食性等に関してまだ十分満足のいくものではなかった。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、機械的特性、耐食性、耐熱性等に優れたマグネシウム基複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、マグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界上にマグネシウムと金属もしくは半金属との化合物である分散化合物が分散されたマグネシウム基複合材料であって、金属組織の顕微鏡写真から求めた、マグネシウム合金の結晶粒径、および前記分散化合物の粒子径が、次の条件(A)、(B)を満たすことを特徴とする。
(A)マグネシウム合金の平均結晶粒径が5μm以下であり、かつマグネシウム合金の結晶粒の内、その結晶粒径が10μm以上のものが面積比15%以下である。
(B)前記分散化合物の粒子のうち、粒子径が10μm以上のものが面積比30%以下である。
【0008】
上記のマグネシウム基複合材料において、前記分散化合物は金属または半金属の酸化物または炭化物もしくは珪化物であることが好適である。
上記のマグネシウム基複合材料において、前記分散化合物はMg2Siであることが好適である。
上記のマグネシウム基複合材料において、前記分散化合物の含有量が(0.1質量%から5質量%)であることが好適である。
なお、特許請求の範囲および明細書中では「マグネシウム合金」という用語を純マグネシウム金属も含めた意味で用いる。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるマグネシウム基複合材料によれば、母材となるマグネシウム合金の結晶粒径、および分散化合物の粒子径が上記(A)、(B)の条件を満たしているため、分散化合物がマグネシウム合金の結晶粒界に均一に分布しているため、機械的特性、耐食性、耐熱性等の材料特性に優れたものとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、マグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界上にマグネシウムと金属もしくは半金属との化合物である分散化合物が分散されたマグネシウム基複合材料であり、金属組織の顕微鏡写真から求めた、マグネシウム合金の結晶粒径、および前記分散化合物の粒子径が、次の条件(A)、(B)を満たすことを特徴とする。
(A)マグネシウム合金の平均結晶粒径が5μm以下(さらに好適には3μm以下)、かつマグネシウム合金の結晶粒の内、その結晶粒径が10μm以上のものが面積比15%以下(さらに好適には10%以下、より好ましくは5%以下)である。
(B)前記分散化合物の粒子のうち、粒子径が10μm以上のものが面積比30%以下(さらに好適には15%以下、より好ましくは10%以下)である。
【0011】
ここで、分散化合物が「マグネシウム合金の結晶粒界上に分散された」とは、分散化合物が、溶融法で製造したものと異なり、マグネシウム合金の結晶粒内には存在せず、分散化合物がマグネシウム合金の結晶粒を取り囲むように分散していることを意味する。このため、本発明にかかるマグネシウム複合金属は、例えば従来の溶融法で製造したものよりも、結晶粒の粗大化が生じにくく、耐熱性が高い。
【0012】
また、マグネシウム合金の結晶粒が上記の条件(A)を満たしていることから、従来のもの(特許文献1、2等)よりも優れた機械的特性が得られる。また、分散化合物が上記条件(B)を満たしているため、従来のものよりも、分散化合物が均一に分散しており、機械的特性、耐食性、耐熱性などに優れた特性を示す。
また、本発明で用いられる分散化合物としては、金属または半金属の酸化物または炭化物もしくは珪化物が挙げられるが、特にMg2Siが好適である。
また、上記のマグネシウム基複合材料において、前記化合物の含有量が0.1質量%から5質量%、より好ましくは0.5質量%から4質量%であることが好適である。
【0013】
次に本発明にかかるマグネシウム基複合材料の好適な製造方法について説明する。
<製造方法>
本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、マグネシウム合金粉末と前記分散化合物粉末と混合した混合粉末を、(a)互いに交差して連なる複数の直線状の成形穴を有する型内に収容した状態で、上記成形穴内に挿入された押圧部材の前進、後退に伴い、上記混合原料を一の成形穴で押し固め、更にこの押し固めた混合原料を押し崩しながら他の成形穴へと送り込み、この押し固め、押し崩しを繰り返すことにより、圧縮成形体を作成する工程と、(b)該圧縮成形体を作成する工程にて得られた圧縮成形体を温間押し出し形成する工程と、を備えた製造方法で製造することが好適である。
【0014】
ここで、マグネシウムもしくはマグネシウム合金粉末は、サイズが0.5mm〜5mmであることが好適である。また、分散化合物粉末の平均粒子径は5μm〜100μm、より好ましくは10μm〜50μmであることが好適である。
圧縮成形体を作成する工程で、加える圧力は250kg/cm2〜400kg/cm2であることが好適である。
また、押し出し形成を行う工程での温度は、250℃〜400℃であることが好適である。
【0015】
<圧縮形成工程>
本実施形態にかかる圧縮形成工程では、図2に示したような装置を用いて上記のマグネシウム合金チップとMg2Si粉末を混合した混合粉末を用い、圧縮成形体を得ることが好適である。
図2に示した装置10は、直方体形状の型12を備えており、型12には直線状の4つの成形穴14a,14b,14c,14dが形成されている。各成形穴14a〜14dは同一の断面形状(好ましくは同一径の断面円形)をなしており、型10の中心の交差部15にて放射状に連結されている。また、各成形穴14a〜14dは、この順序で周方向に90°の角度間隔をなして同一平面上(垂直面または水平面上)に配置されている。
成形穴14a〜14dには、それぞれ各成形穴14a〜14dとほぼ等しい断面形状の押圧部材16a〜16d(第1〜第4の押圧部材)がスライド可能に挿入されており、各成形穴に沿って前進、後退するようになっている。これらの押圧部材16a〜16dの前進、後退は駆動手段18a〜18dによって行われる。駆動手段は油圧シリンダ等で構成される。また、制御手段20では各該駆動手段18a〜18dの圧力情報、位置センサからの情報等を基に、各駆動手段の制御を行う。
【0016】
まず、図3(a)に示すように、押圧部材16aを抜いた状態で混合粉末を成形穴14aに装填する。この際、押圧部材16b,16c,16dの前進方向側(型の内部へ向う方向)側の端部は、交差部15に隣接する成形穴14b、14c、14dの奥端と一致する位置にある(以下、この位置を前進位置と呼ぶ)。各押圧部材16b、16c、16dは、駆動手段18b、18c、18dによって後退(型の外部へ向う方向)不能な状態で拘束され、実質的に固定された状態にある。そして、押圧部材16aを成形穴14aに挿入した後、以下のシーケンス制御を開始する。
【0017】
最初に押圧部材16aについて押し固め工程を実行する。押圧部材16aを駆動手段18aにより成形穴14a内部へ押し込む。すると他の押圧部材16b〜16dは固定されているので混合粉末は成形穴14b〜14dに向わずに成形穴14aにおいて押し固められ、円柱形状の塊になる。この塊は所定の強度を持っているが、比較的脆いものである。この押し固め状態は所定の加圧状態で短時間、例えば2秒程度維持される。
次に押圧部材16aについて押し崩し工程を実行する。駆動手段18aにより押圧部材16aを更に高い圧力で押し込むと同時に、駆動手段18bにより押圧部材16bを後退可能にする。すると、図3(b)、(c)に示すように押圧部材16aは前進位置まで押し込まれ、混合粉末は成形穴14aから交差部15を経て成形穴14bへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16bは流れ込んだ原料Mに押されて後退する。そして、押圧部材16aの前端が成形穴14a奥端に達したときに押し崩し工程が完了する。
【0018】
次に押圧部材16bについて上記同様の押し固め工程を実行する。つまり、図3(d)に示すように、押圧部材16a,16c,16dを前進位置で固定し、押圧部材16bを駆動手段18bにより内部へ押し込むことで、混合粉末を押し固める。
次に押圧部材16bについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16cを後退可能な状態(フリーな状態)にし、押圧部材16bを押し込む。すると、図3(e)、(f)に示すように押圧部材16bは前進位置まで押し込まれ、混合粉末は成形穴14bから交差部15を経て成形穴14cへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16cは流れ込んだ混合粉末に押されて後退する。
【0019】
同様に押圧部材16cについて押し固め工程を実行する。つまり、図3(g)に示すように押圧部材16a,16b,16dを前進位置で固定し、押圧部材16cを駆動手段18cにより型12内部へ押し込むことで、混合粉末を押し固める。
次に押圧部材16cについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16dを後退可能な状態(自由な状態)にし、押圧部材16cを押し込む。すると、図3(h)、(i)に示すように押圧部材16cは前進位置まで押し込まれ、混合粉末は成形穴14cから交差部15を経て成形穴14dへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16dは流れ込んだ混合粉末に押されて後退する。
【0020】
同様に押圧部材16dについて押し固め工程を実行する。つまり、図3(j)に示すように押圧部材16a,16b,16cを前進位置で固定し、押圧部材16dを駆動手段18dにより型12内部へ押し込むことで、混合粉末を押し固める。
次に押圧部材16dについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16aを後退可能な状態(自由な状態)にし、押圧部材16dを押し込む。すると、図3(k)、(l)に示すように押圧部材16dは前進位置まで押し込まれ、混合粉末は成形穴14dから交差部15を経て成形穴14aへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16aは流れ込んだ混合粉末に押されて後退する。
【0021】
図3(a)〜(l)に示された工程を任意回数繰り返し行った後、最後に押し固め工程を行うことで圧縮成形体を得る。このように、混合粉末は押し固め工程により一旦押し固められた後で、押し崩し工程で交差部を通過する際にほぼ全断面領域で大きなせん断力、摩擦力を受けて押し崩されるため、混合粉末の微細化、均一な分散化を効率よく行うことができる。
【0022】
また、より均一な微細化、分散化を行うために、上記押し固め及び押し崩し工程の間に図4に示すような攪拌工程を行うことが好適である。
まず、図4(a)に示すように、押圧部材16cを前進位置で固定状態にし、押圧部材16b、dは後進可能なフリーの状態にする。この状態で押圧部材16aを押し込むと、図4(b)、(c)に示すように、混合粉末は成形穴14aから交差部15を経て成形穴14b、14dへ流れ込む。すると、押圧部材16bと16dは混合粉末に押されて後退する。
押圧部材16aを前進位置にまで押し込んだ後、図4(d)に示すように押圧部材16aを固定状態、押圧部材16cをフリーな状態にし、押圧部材16bと16dを押し込む。すると、図4(e)、(f)に示すように成形穴14b、14dに存在した混合粉末は、成形穴14cに流れ込む。ここで、押圧部材14cは混合粉末に押されて後退する。
押圧部材14b、14dを図4(f)に示すようにその前進位置にまで押し込んだのち、図4(g)に示すように押圧部材16b、16dを固定状態、押圧部材16aをフリーの状態にする。そして、図4(h)、(i)に示すように押圧部材16cをその前進位置にまで押し込むと、混合粉末は成形穴14cから交差部15を経て成形穴14aに至り、押圧部材14aは混合粉末に押されて後退する。
【0023】
このような攪拌工程を上記押し固め及び押し崩し工程の間に設けることで、より効率よく微細化、分散化することができる。
上記実施形態では、型に成形穴を4つ設けた構成の装置における例を示したが、これに限定されず、成形穴を複数、例えば2〜6つ設けた構成の装置を用いてもよい。また、型を固定して押圧部材毎に駆動手段を設ける装置構成の場合を説明したが、駆動手段を一つにして型を回転させる構成の装置を用いてもよい。
【0024】
<押し出し成形工程>
上記で得られた圧縮成形体を予備加熱し、一定時間保持した後、公知の装置を用い押し出し加工を行い、マグネシウム基複合材料を得る。ここで、予備加熱温度はマグネシウム合金の種類により変化するが、加熱炉設定温度で300℃〜550℃が好適である。また、上記の押し出し加工時の温度は、250℃〜400℃が好適であり、より好ましくは250℃〜350℃が好適である。
以上のようにして得られたマグネシウム基複合材料は以下で見るように、上記の条件(A)、(B)を満たし、マグネシウム合金母材中にMg2Siが均一に分散されたものとなる。
【実施例1】
【0025】
以下に本発明の実施例を詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<結晶粒径分布>
・製造例1−1
マグネシウム合金(AZ31)チップ98質量%と、Mg2Siの粉末2質量%を混合したものに、オレイン酸を加え、混合粉末を得た。ここで、マグネシウム合金チップの平均サイズは、1.5mmであり、Mg2Si粉末は、平均粒径70μmのものを用いた。
該混合粉末Aを上記図2に示した装置によって圧縮成形体とした。上記の圧縮成形体の形成工程における処理回数(ただし、図3の(a)〜(l)で示した微細化工程および図4(a)〜(i)の攪拌工程を合わせたものを一回と数える)は160回とした。得られた圧縮成形体を予備加熱温度450℃で加熱し、公知の押し出し成形装置により温度400℃、押出し径7mm、押出し比28で押し出し形成し、マグネシウム基複合材料を得た。
【0026】
・製造例1−2
マグネシウム合金(AZ31)チップ98質量%と、SiO2の粉末2質量%を混合したものに、オレイン酸を加え、混合粉末を得た。ここで、マグネシウム合金チップの平均サイズは1.5mmであり、SiO2粉末は平均粒径20μmのものを用いた。
混合粉末を上記図2に示した装置によって圧縮成形体とした。上記の圧縮成形体の形成工程における処理回数(ただし、図3の(a)〜(l)で示した微細化工程および図4(a)〜(i)の攪拌工程を合わせたものを一回と数えた)は160回とした。得られた圧縮成形体を予備加熱温度550℃で加熱し、公知の押し出し成形装置により温度470℃、押出し径7mm、押出し比28で押し出し形成し、マグネシウム基複合材料を得た。
【0027】
・製造例1−3
マグネシウム合金(AM60)チップ98質量%と、SiO2の粉末2質量%を混合したものに、オレイン酸を加え、混合粉末を得た。ここで、マグネシウム合金チップの平均サイズは、1.5mmであり、SiO2粉末は、平均粒径20μmのものである。
該混合粉末AをBMA法、つまり上記図1に示した装置によって、圧縮成形体とした。上記の圧縮成形体の形成工程における処理回数(ただし、図1の(b)〜(f)を一回と数える)は160回とした。得られた圧縮成形体を予備加熱温度460℃で加熱し、公知の押し出し成形装置により温度460℃、押出し径7mm、押出し比34で押し出し形成し、マグネシウム基複合材料を得た。
【0028】
上記製造例1−1〜1−3で製造したマグネシウム基複合材料のSiの分布を分布電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)法で調べ、金属組織の電子顕微鏡写真(150μm×150μmの領域)からマグネシウム合金の結晶粒径、分散化合物(Mg2Si)の結晶粒径を調べた。結果を表1に示す。また、図5Aに製造例1−1の電子顕微鏡写真を、図5Bにそれに対応するSiの分布図を示す。また、図5Cは図5Aの倍率を大きくしたもの、図5Dはそれに対応するSiの分布図である。図6Aは製造例1−2の電子顕微鏡写真であり、図6Bはそれに対応するSiの分布図である。ただし、図6Aの倍率は図5Cと同じ倍率とした。さらに、図7Aには製造例1−3の電子顕微鏡写真を、図7Bにはそれに対応するSiの分布図を示した。また、図7Cは図7Aの倍率を大きくしたもの、図7Dはそれに対応するSiの分布図である。
【0029】
【表1】
上記図7A〜7D、および表1から分かるように、従来のBMA法で製造した製造例1−3はMg合金の結晶粒径はある程度微細化しているものの、Mg2Siの分散が非常に不均一であった。それに対し、図5A〜5D、図6A、6Bから分かるように製造例1−1、1−2はMg合金の結晶粒径が高度に微細化され、Mg2Siも均一に分散していた。また、製造例1−1はMg2Siの径が、製造例1−2よりもやや大きいものの、Mg合金の微細化の点では勝っていた。
製造例1−1に対し、0.2%耐力、引張強度、伸びを調べると、それぞれ302MPa,354MPa,9.9%であり、良好な特性が得られた。
【0030】
<耐熱性>
次に耐熱性を調べるために、本発明にかかるマグネシウム複合材料と、通常のマグネシウム合金との熱処理前、熱処理後のマイクロビッカース硬度(Hv)を調べた。
マグネシウム基複合材料としては、マグネシウム合金(AZ31)チップ99.5質量%と、Mg2Siの粉末0.5質量%を混合したものに、オレイン酸を加えた混合粉末を用いて上記製造例1−1と同様な方法で製造したもの(処理回数120回)を用いた。また、比較のためのマグネシウムは、マグネシウム合金(AZ31)チップのみを粉末原料として、上記製造例1−1と同様な方法で製造したもの(処理回数120回)を用いた。
熱処理は、製造された材料を300℃で15分間保持することで行った。また、硬度は3回測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
表2から分かるように、通常のマグネシウム合金は熱処理によって硬度が下がったが、本発明にかかるマグネシウム複合材料は熱処理によっても硬度が下がることがなかった。
【0032】
<耐食性>
本発明にかかるマグネシウム複合材料の耐食性を調べた。測定は、電気化学測定システム(北斗電工(株)製HZ−5000)によった。
図8に0.1MNaCl水溶液中におけるアノード分極曲線を示す。図8中でAZ−31−4%として示したものが本発明に対応するマグネシウム複合材料であり、マグネシウム合金粉末96質量%とSiO2粉末4質量%を混ぜた粉末原料から、図2に示した装置によって圧縮成形体を形成し(処理回数80回)、押出し加工を施すことで製造したものである。また、図8中でAZ31−0%として示したものは、マグネシウム合金粉末のみから、図2に示した装置によって圧縮成形体を形成し(処理回数80回)、押出し加工を施すことで製造したものである。図8中でAZ31と示したものは通常のマグネシウム合金の押出し材である。図8のグラフから明らかなように、結晶粒径を微細化した押出し材(AZ31−0%)は、微細化を施していない通常の押出し材(AZ31)よりも耐食性が向上していることが分かる。Mg2Siを分散させた本発明のマグネシウム複合材料(AZ−31−4%)は、結晶粒径を微細化した押出し材(AZ31−0%)よりも更に耐食性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】BMA法の説明図
【図2】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造において用いられる装置の概略構成図
【図3】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造工程の説明図
【図4】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造工程の説明図
【図5A】製造例1−1のマグネシウム基複合材料の電子顕微鏡写真
【図5B】製造例1−1のマグネシウム基複合材料のEPMAによるSi分布の図
【図5C】図5Aの倍率を変えた電子顕微鏡写真
【図5D】図5Bの倍率を変えたSi分布の図
【図6A】製造例1−2のマグネシウム基複合材料の電子顕微鏡写真
【図6B】製造例1−2のマグネシウム基複合材料のEPMAによるSi分布の図
【図7A】製造例1−3のマグネシウム基複合材料の電子顕微鏡写真
【図7B】製造例1−3のマグネシウム基複合材料のEPMAによるSi分布の図
【図7C】図7Aの倍率を変えた電子顕微鏡写真
【図7D】図7Bの倍率を変えたSi分布の図
【図8】分極曲線のグラフ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界上にマグネシウムと金属もしくは半金属との化合物である分散化合物が分散されたマグネシウム基複合材料であって、
金属組織の顕微鏡写真から求めた、マグネシウム合金の結晶粒径、および前記分散化合物の粒子径が、次の条件(A)、(B)を満たすマグネシウム基複合材料。
(A)マグネシウム合金の平均結晶粒径が5μm以下であり、かつマグネシウム合金の結晶粒の内、その結晶粒径が10μm以上のものが面積比15%以下である。
(B)前記分散化合物の粒子のうち、粒子径が10μm以上のものが面積比30%以下である。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネシウム基複合材料において、
前記分散化合物は金属または半金属の酸化物または炭化物もしくは珪化物であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマグネシウム基複合材料において、
前記分散化合物はMg2Siであることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のマグネシウム基複合材料において、前記分散化合物の含有量が0.1質量%から5質量%であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項1】
マグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界上にマグネシウムと金属もしくは半金属との化合物である分散化合物が分散されたマグネシウム基複合材料であって、
金属組織の顕微鏡写真から求めた、マグネシウム合金の結晶粒径、および前記分散化合物の粒子径が、次の条件(A)、(B)を満たすマグネシウム基複合材料。
(A)マグネシウム合金の平均結晶粒径が5μm以下であり、かつマグネシウム合金の結晶粒の内、その結晶粒径が10μm以上のものが面積比15%以下である。
(B)前記分散化合物の粒子のうち、粒子径が10μm以上のものが面積比30%以下である。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネシウム基複合材料において、
前記分散化合物は金属または半金属の酸化物または炭化物もしくは珪化物であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマグネシウム基複合材料において、
前記分散化合物はMg2Siであることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のマグネシウム基複合材料において、前記分散化合物の含有量が0.1質量%から5質量%であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【公開番号】特開2007−51305(P2007−51305A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235085(P2005−235085)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
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