説明

マグネタイト−鉄複合粉末およびその製造方法

【課題】微細な一次粒径と高いσsを併せ持つ、高性能なマグネタイト−鉄複合粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るマグネタイト−鉄複合粉末は、平均一次粒径が0.3〜0.7μmであり、Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上を合計で0.01mass%以上、10mass%未満、SiOを0.005mass%以上、0.1mass%未満、Pを0.005mass%以上、0.1mass%未満ならびにマグネタイトを含有することを特徴とする。
また、本発明に係るマグネタイト−鉄複合粉末の製造方法は、Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上、SiOおよびPを含有する酸化鉄を、還元性雰囲気下、400℃超、530℃以下の温度で還元処理を行った後、さらに、酸化性雰囲気下で酸化処理を行いマグネタイトを生成させことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収用磁性粉、高周波磁芯、磁性塗料や磁気インク等の磁気識別用顔料、磁性流体、触媒等の用途に用いられる金属磁性粉に関し、特に微細な一次粒径と高い飽和磁化σsを併せ持つマグネタイト−鉄複合粉末と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パソコンのCPU処理速度の高速化、無線LANの普及などに伴い、圧粉磁心に使用される金属磁性粉に対しても、より高い周波数で優れた電磁気特性を有するものが求められている。従来、金属磁性粉は粒子の電気抵抗が低いために、高周波帯域で渦電流損失の影響を受けやすく、高周波での使用が困難とされていた。
【0003】
渦電流損失を抑え、高周波で優れた電磁気特性を実現するためには、金属磁性粉の粒子径を微細にすることが有利である。そこで、本発明者らは、微細な酸化鉄を還元した後に酸化処理を行う方法で、平均一次粒径が1μm程度の微細な金属磁性粉を製造する方法を提案した(特許文献1〜4参照)。
【0004】
これらの方法を用いることで、平均一次粒径が0.7〜5μm程度の微細化を実現することができた。しかし、電子回路の高周波化に伴い、さらに高い周波数で使用可能とする要求が高まり、より微細な金属磁性粉が望まれている。
【0005】
また、自動認識技術の進展に伴い、磁性塗料や磁気インクとして使用される金属磁性粉に対して、より微細かつ均一な粒度分布と高い飽和磁化σsを併せ持つ金属磁性粉が望まれている。
【特許文献1】特許第3867562号公報
【特許文献2】特開2006−206948号公報
【特許文献3】特開2006−274300号公報
【特許文献4】特開2007−146259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが提案した従来の方法(上記特許文献1〜4参照)では、平均一次粒径を0.7μm程度まで微細にすると、還元反応が不十分となり、高い飽和磁化を持つα−Fe相の生成率が低下して、σsが低下するという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情のもとになされたものであり、飽和磁化σsの高い鉄系の粉末を用いて、微細な一次粒径と高いσsを併せ持つ、高性能なマグネタイト−鉄複合粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
マグネタイト−鉄複合粉末の平均一次粒径を0.7μm以下に微細化する手段として、還元温度を低温にする方法がある。しかしながら、還元温度を530℃以下に下げると、還元反応の進行が不十分となり、σsの低いマグネタイト相やウスタイト相の比率が多くなり、高いσsを得ることができない。
【0009】
そこで、本発明者らは、530℃以下の低い還元温度でも還元反応が進行する手段を鋭意検討した。その結果、原料のヘマタイト中に還元反応を促進する成分(Co、Ni、Cu、Cr、Ca)を添加することで、530℃以下の温度でも還元反応が進行し、高いσsを実現できることを見出した。さらに、原料のヘマタイト中に粒成長を抑制する成分(SiO、P)を含有させることで、均一な粒度分布が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、以下のような特徴を有する。
[1]平均一次粒径が0.3〜0.7μmであり、Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上を合計で0.01mass%以上、10mass%未満、SiOを0.005mass%以上、0.1mass%未満、Pを0.005mass%以上、0.1mass%未満ならびにマグネタイトを含有することを特徴とするマグネタイト−鉄複合粉末。
[2]Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上、SiOおよびPを含有する酸化鉄を、還元性雰囲気下、400℃超、530℃以下の温度で還元処理を行った後、さらに、酸化性雰囲気下で酸化処理を行いマグネタイトを生成させて、上記[1]に記載のマグネタイト−鉄複合粉末を製造することを特徴とするマグネタイト−鉄複合粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、飽和磁化σsが190eum/g以上、平均一次粒径が0.3〜0.7μmのマグネタイト−鉄複合粉末およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0013】
まず、本発明のマグネタイト−鉄複合粉末は、平均一次粒径が0.3〜0.7μm、より好ましくは0.4〜0.6μmの範囲内で良好な電磁気特性を示す。平均一次粒径が0.3μm未満では還元処理時における未反応成分の含有比率が高くなるため、高いσsを得ることができない。また、粒子の保磁力Hcが増大し、圧粉磁芯にした時の初透磁率やコアロスが劣化するため、好ましくない。一方、平均一次粒径が0.7μmを超えると、電子部品として使用する場合は高周波の電磁気特性が劣化し、また、塗料として使用する場合は分散性が劣化するため、好ましくない。
【0014】
また、本発明のマグネタイト−鉄複合粉末は、530℃以下の低い温度で還元反応を促進させるために、Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上の合計の含有量を、0.01mass%以上、10mass%未満とすることが重要である。Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上の合計の含有量が0.01mass%未満では、還元温度530℃以下での還元反応を促進する効果が低く、σsが低下するため好ましくない。また、Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上の合計の含有量が10mass%以上の場合、複合粉末の組成自体の磁気モーメントの低下や異相の析出によりσsが低下するため、好ましくない。それぞれの含有量のより好ましい範囲は成分によって異なり、Co、NiおよびCuはそれぞれ0.1〜5mass%、CrおよびCaはそれぞれ0.1〜3mass%である。
【0015】
さらに、本発明のマグネタイト−鉄複合粉末は、還元処理中の粒成長を抑制するために、シリカ(SiO)を0.005mass%以上、0.1mass%未満、および、リン(P)を0.005mass%以上、0.1mass%未満含有させることが重要である。SiOおよびPそれぞれのより好ましい含有量は、0.01mass%以上、0.05mass%未満である。SiOおよびPそれぞれの含有量が、0.005mass%未満では、還元処理中の粒成長の抑制効果が不十分で、0.7μm以下の平均一次粒径を得ることができない。また、SiOおよびPそれぞれの含有量が、0.1mass%を超えると、還元反応が抑制され、還元処理時に未反応成分が多く残留してσsが低下するため、好ましくない。
【0016】
ここで、本発明に係るマグネタイト−鉄複合粉末は、以下のようにして製造される。まず、出発原料として、製造後のマグネタイト−鉄複合粉末中における、Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上の合計の含有量が0.01mass%以上、10mass%未満、さらに、SiOおよびPそれぞれの含有量が0.005mass%以上、0.1mass%未満となる酸化鉄を用いる。次に、これを水素或いは窒素などの還元性雰囲気下で、400℃超、530℃以下の温度で還元処理を行う。その後、さらに、好ましい範囲として酸素濃度1〜10vol.%の酸化性雰囲気下で、粒子表面を酸化処理してマグネタイトを生成させて安定化した後に、炉より取り出す。マグネタイトの好ましい含有量は0.05〜3mass%である。より好ましくは0.08〜1.2mass%である。
【0017】
前記出発原料である酸化鉄中にCo、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上を含有させることで530℃以下の還元温度での還元反応が促進する機構については明らかではないが、NiO、CuO、CoOなどはFeよりも低温で還元される成分であるため、これらの還元成分が核となってFeの還元を促進する機構が考えられる。従って、本発明では、酸化鉄の還元処理過程で原料中にCo、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上の成分が存在することが重要であり、還元後の鉄粉に、後からこれらの成分を添加する方法では、本発明で得られるような粒子径(一次粒径)の微細化と高σsを併せ持つマグネタイト−鉄複合粉末を製造することはできない。なお、処理温度が400℃以下の場合には、酸化鉄の還元反応が進み難い。
【0018】
また、前記出発原料である酸化鉄中にSiOおよびPが存在することで、還元処理中における粒子の肥大化および粒子間のネック成長が抑制され、微細かつ均一な一次粒径の分布が得られることは、SEM観察およびレーザー回折法による粒径分布測定で確認されている。従って、本発明では、酸化鉄の還元処理過程で原料中にSiOおよびPが存在することが重要であり、還元後の鉄粉に、後からこれらの成分を添加する方法では、本発明で得られるような微細かつ均一な一次粒径のマグネタイト−鉄複合粉末を得ることはできない。
【0019】
以上、本発明により、平均一次粒径が0.3〜0.7μm、飽和磁化σsが190emu/g以上、より具体的には、飽和磁化σsが190〜200emu/gのマグネタイト−鉄複合粉末を得ることができる。
【0020】
なお、本発明に係る微細かつ高σsのマグネタイト−鉄複合粉末は、上述の方法により製造した状態のままで使用しても良いが、さらに機械処理や化成処理を施して、粒子表面の平滑性や絶縁性を改良して使用することもできる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の具体的実施例を記載する。
【0022】
[実施例1]
フェライト用酸化鉄(JFEケミカル社製JC−DC、空気透過法により測定した平均粒径0.8μm)に対し、表1に示した添加成分を酸化物の形態で添加し、純水とスチールボールを用いてボールミルで湿式混合した後、乾燥、整粒して各種添加成分を含有する酸化鉄を作製した。これを水素雰囲気中460〜520℃の温度で還元処理して、平均一次粒径の異なる種々の鉄粉を得た。炉内で常温まで冷却した後、炉を開放する前に5vol.%O−N雰囲気で1時間保持することにより、鉄粉の表層にマグネタイトを生成させてから、炉外に取り出した。
【0023】
得られた粉末の構成相をX線回折で測定し、X線回折のα−Feの主要ピーク(d=2.027)とマグネタイト(Fe)の主要ピーク(d=2.533)の強度比からα−Fe相生成率(%)を算出し、マグネタイト含有率(%)は100−[α−Fe相生成率]から算出した。平均一次粒径を空気通過法で測定し、σsをVSM(振動試料型磁力計)で測定した。各試料のSiOおよびPの含有量は、それぞれ0.02〜0.04mass%の範囲であった。
【0024】
本発明例および比較例のα−Fe相生成率(%)、マグネタイト含有率(%)、平均一次粒径、σsを表1に併せて示す。表1に示すように、本発明方法により、530℃以下の低い還元温度で、平均一次粒径0.3〜0.7μm、σs=190〜200emu/gのマグネタイト−鉄複合粉末を得ることができる。
【0025】
【表1】

【0026】
[実施例2]
フェライト用高純度酸化鉄(JFEケミカル社製JC−CPW)に対して,還元後にCo=1mass%となるような量のCoOと、還元後の含有量が表2に示す量となるような量のSiOおよびPを酸化物の形態で添加し、純水とスチールボールを用いてボールミルで湿式混合した後、乾燥、整粒して、所定量のCo、SiOおよびPを含有する酸化鉄を作製した。これを水素雰囲気中500℃の温度で還元処理して、SiO、Pの含有量の異なる種々の鉄粉を得た。炉内で常温まで冷却した後、炉を開放する前に5vol.%O−N雰囲気で2時間保持することにより、鉄粉の表層にマグネタイトを生成させてから炉外に取り出し、表2に示す種々のマグネタイト−鉄複合粉末を得た。
【0027】
得られた粉末に対して、上記実施例1と同様の方法で、α−Fe相生成率、マグネタイト含有率(%)平均一次粒径、σsを測定した。
【0028】
本発明例および比較例のα−Fe相生成率(%)、マグネタイト含有率(%)、平均一次粒径、σsを表2に併せて示す。表2に示すように、本発明により、還元温度500℃で、平均一次粒径0.3〜0.7μm、σs=190〜200emu/gのマグネタイト−鉄複合粉末を得ることができる。
【0029】
【表2】

【0030】
以上の実施例1,2で示した通り、本発明によれば、酸化鉄を530℃以下の還元温度で還元して、平均一次粒径平均一次粒径0.3〜0.7μm、σs=190〜200emu/gの微細かつ高σsを併せ持つマグネタイト−鉄複合粉末を得ることができ、高周波インダクタ、電波吸収体、磁性インク、磁性流体、触媒等に用いて好適なマグネタイト−鉄複合粉末を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒径が0.3〜0.7μmであり、
Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上を合計で0.01mass%以上、10mass%未満、
SiOを0.005mass%以上、0.1mass%未満、
Pを0.005mass%以上、0.1mass%未満ならびに
マグネタイトを含有することを特徴とするマグネタイト−鉄複合粉末。
【請求項2】
Co、Ni、Cu、CrおよびCaの中から選ばれる1種または2種以上、SiOおよびPを含有する酸化鉄を、還元性雰囲気下、400℃超、530℃以下の温度で還元処理を行った後、さらに、酸化性雰囲気下で酸化処理を行いマグネタイトを生成させて、請求項1に記載のマグネタイト−鉄複合粉末を製造することを特徴とするマグネタイト−鉄複合粉末の製造方法。

【公開番号】特開2009−114505(P2009−114505A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289392(P2007−289392)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】