説明

マグロ用飼料、マグロの肉質改変方法

【課題】梅調味液の有効利用の観点と特徴あるマグロの育成の観点から、梅調味液を用いてマグロの肉質を改変する技術を提供する。
【解決手段】梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液又は該梅調味液に乳酸菌を添加して発酵させた乳酸発酵梅調味液をサバ類などのマグロ給餌用餌に含ませることによりマグロ用飼料を製造し、これを養殖マグロ又は畜養マグロに与えることで、マグロの肉質を改変する。これにより、梅調味液の有効利用と、特徴あるマグロの育成という二つの課題解決を同時に達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロ用の飼料及びマグロの肉質を改変させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
梅果実の全国における収穫量は約12万トンであり、和歌山県の紀南地域では、そのうちの7万トンが生産され、その5万トンが梅干しに加工されている。梅干しは、大きく分けて、収穫した生梅を、生梅に対して15〜20重量%の塩を添加して塩漬けし、1ヶ月〜数ヵ月後に取り出し、天日干しすることによって製造される古来からの梅干し(白干し)と、白干しを糖及びアミノ酸等を含む調味液に浸漬し、低塩で旨みが付加された味梅干しの2種類が製造されている。後者の場合、梅干しを漬けた後に、梅調味液と呼ばれる副産物が多量に生成される。例えば、紀南地域においては、約250の梅干し製造業者から年間3〜4万トンもの梅調味液が副生されている。
【0003】
この梅調味液は、そのまま浅漬け用の調味液に利用されたり、イオン交換膜電気透析法で塩分を除去した上で再度梅調味液として利用されるなど、一部が再利用されているが、再利用されている割合はわずかであり、その大部分は廃棄物処理業者に引き取られて処理されている。そして、廃棄物処理業者が収集した梅調味液は、陸上ではなく、主に海洋投棄により処理されている。
【0004】
しかしながら、「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」及び「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年議定書」に基づき、2007年11月からわが国では海洋投棄が全面禁止となった。
【0005】
そのような状況の中、一部の梅加工業者では活性汚泥処理施設を導入し、活性汚泥方式で梅調味液の処理が行われるようになった。しかしながら、このような処理施設を所有している梅加工業者はほんのわずかであり、梅加工業界全体では未だ梅調味液の処理の問題を抱えているのが実情である。また、梅調味液はBODが数十万ppmの液体であるために、しばしばバルキング(汚泥沈降性不良)が起きる等、処理が困難であるという問題があった。従って、味梅干しの製造過程で生成される梅調味液をいかに有効利用するかが大きな課題となっていた。
【0006】
梅調味液の有効利用の手段の一つとして、本発明者らは、梅調味液を塩分濃度10重量%以下まで脱塩し、乳酸菌を加え、発酵させて得られた発酵産物に食塩を加え、さらに食塩塊に成形して家畜用飼料にすることを提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−211036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、マグロの個体数が減少していることを受けて、マグロの漁獲量制限について国際的に検討され始めている。これに対して世界のマグロ需要は増加する一方であり、日本食ブームも手伝って、中国、ロシア、欧州、米国などでマグロを食する人々が多くなっているのが実情である。
【0009】
そのため、マグロの養殖技術や畜養技術を確立し、わが国においてもマグロの安定供給の実現に向けた取り組みが急務となっている。また、地域活性化や地域ブランド創造の観点から、他のマグロとは異なる特徴的な品質をアピールしなければ、消費者からは注目されず地域活性化やブランド化は困難である。
【0010】
そこで、本発明は、梅調味液の有効利用の観点と特徴あるマグロの育成の観点から、梅調味液を用いてマグロの肉質を改変する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が鋭意検討した結果、マグロ給餌用の餌に梅調味液又は乳酸発酵梅調味液を含有させたマグロ用飼料を養殖マグロに与えると、マグロの肉質が改変するとの知見を得た。
【0012】
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませ、マグロの肉質を改変する、マグロ用飼料を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませたマグロ用飼料をマグロに与えてマグロの肉質を改変する、マグロの肉質改変方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液に、乳酸菌を加え、発酵させて得られる乳酸発酵梅調味液を含ませ、マグロの肉質を改変する、マグロ用飼料を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液に、乳酸菌を加え、発酵させて得られる乳酸発酵梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませたマグロ用飼料をマグロに与えてマグロの肉質を改変する、マグロの肉質改変方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、梅調味液又は乳酸発酵梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませたものを養殖又は畜養マグロに与えることで、マグロ本来の品質を保持しつつ、脂質成分や旨み成分が従来の養殖又は畜養マグロとは異なる肉質のマグロに改変することができるため、梅調味液の有効利用と、特徴あるマグロの育成という二つの課題解決を同時に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】クロマグロの赤身部位について、切り身の色調を蛍光灯の下で目視観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.梅調味液を含むマグロ用飼料
本実施形態のマグロ用飼料は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液(以下、単に「梅調味液」という)をマグロ給餌用餌に含ませ、マグロの肉質を改変するものである。
【0019】
前記マグロとは、スズキ目サバ科マグロ属に分類される魚をいい、クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガ(Thunnus tonggol)を含む。
【0020】
前記梅調味液には、調味液の成分や、それに漬け込む梅干し(白干し)の塩分量によって異なるが、一般には、グルコース、フラクトース、ショ糖等の糖分を1〜20重量%、食塩等の塩分を1〜20重量%、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、酢酸等の有機酸、セリン、アラニン、アスパラギン酸等のアミノ酸、ミネラル等を含んでいる。また、それらの成分に加えて、赤シソ、赤キャベツ、赤ダイコン、紫サツマイモ等から抽出した色素を含有したり、必要に応じてカツオ味、昆布味等を付加してもよい。
【0021】
前記梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませることにより、マグロの肉質を改変させることができる。具体的には、脂質や脂肪酸(エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)などの脂質成分が増え、マグロの商品価値を高めることができる。また、クエン酸等の有機酸は殺菌作用を有するので、従来マグロ用飼料に添加されていた抗菌剤が不必要になるか、あるいは減量することもできる。
【0022】
なお、前記梅調味液には塩分が含まれているが、特に脱塩する必要はない。通常、家畜等に梅調味液を添加する場合は脱塩処理を行う必要があるが、マグロは本来、塩分を体外に排出する能力を備えているため、脱塩処理を省略することができる。但し、脱塩処理を行っても何ら問題はない。
【0023】
また、前記梅調味液は市販されているものを使用することもできる。例えば、株式会社東農園から販売されている「梅調味液G」を使用することもできる。
【0024】
前記マグロ給餌用餌としては、冷凍していない生餌でも冷凍処理された冷凍餌でもよく、マグロ用の人工飼料(配合飼料)でもよい。前記生餌又は冷凍餌としては、例えば、サバ類、イワシ類、サンマ、イカ類が挙げられ、マグロの年齢、嗜好性、生育状況に応じて適宜変更することができる。
【0025】
前記梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませる手段は特に制限はなく、例えば、梅調味液をマグロ給餌用餌に浸漬する方法、注射する方法、塗布する方法、混合する方法、練りこむ方法など、種々の方法を採用することができる。例えば、サバ類をマグロ給餌用餌として使用する場合は、梅調味液の原液にサバ類を室温で約2日間浸漬して所望のマグロ用飼料を得ることができる。また、注射器で梅調味液の原液をサバ類に約10ml注入し、約1日冷蔵させて、ある程度梅調味液がサバ類の体内に浸透させることで所望のマグロ用飼料を得ることができる。
【0026】
本実施形態のマグロ用飼料は、栄養豊富な梅調味液をそのまま有効利用することができ、マグロにとっても、従来のマグロ給餌用餌に栄養分がプラスされたものを摂取できるため好ましいものといえる。また、本実施形態のマグロ用飼料をマグロに与えることにより、マグロの肉質、特に脂質や脂肪酸(エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)などの脂質成分が増え、マグロの商品価値を高めることができるため、ブランドマグロの創出に利用することもできる。
【0027】
2.梅調味液を含むマグロ用飼料を使用するマグロの肉質改変方法
本実施形態のマグロの肉質改変方法は、上記1のようにして得られたマグロ用飼料をマグロに与えることで、マグロの肉質を改変するものである。
【0028】
前記マグロは養殖マグロでも畜養マグロでもよい。本実施形態において「養殖」とは、生簀(いけす)や筏(いかだ)などの施設で人為的に増やし育てることをいい、「畜養」とは、天然のマグロを捕獲し、生簀(いけす)や筏(いかだ)などの施設で一定期間育成することをいう。
【0029】
前記マグロ用飼料を与える回数や量は、従来の養殖又は畜養方法と同様である。但し、短い期間では肉質は改善することができないため、少なくとも前記マグロ用飼料を1ヵ月以上にわたって与えることが好ましい。
【0030】
その他の事項については、上記1に記載した事項を適用することができるため、詳細については省略する。
【0031】
3.乳酸発酵梅調味液を含むマグロ用飼料
本実施形態のマグロ用飼料は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液(以下、単に「梅調味液」という)に、乳酸菌を加え、発酵させて得られる乳酸発酵梅調味液を含ませ、マグロの肉質を改変するものである。
【0032】
前記マグロとは、スズキ目サバ科マグロ属に分類される魚をいい、クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガ(Thunnus tonggol)を含む。
【0033】
前記梅調味液には、調味液の成分や、それに漬け込む梅干し(白干し)の塩分量によって異なるが、一般には、グルコース、フラクトース、ショ糖等の糖分を1〜20重量%、食塩等の塩分を1〜20重量%、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、酢酸等の有機酸、セリン、アラニン、アスパラギン酸等のアミノ酸、ミネラル等を含んでいる。また、それらの成分に加えて、赤シソ、赤キャベツ、赤ダイコン、紫サツマイモ等から抽出した色素を含有したり、必要に応じてカツオ味、昆布味等を付加してもよい。
【0034】
前記乳酸発酵梅調味液は、前記梅調味液に、乳酸菌を加え、発酵させて得られるものである。梅調味液中には糖質が存在するため、これを乳酸菌の培養培地として利用することができる。そして、乳酸菌を加えて乳酸発酵させると、梅調味液中に乳酸菌が大量に増殖し、マグロの肉質改善効果が期待できるものである。
【0035】
乳酸菌の種類、及び乳酸発酵の条件は、梅調味液の成分等に応じて適宜設定することができるが、乳酸菌としては、糖質から乳酸のみを産生するホモ型乳酸菌が好ましい。
【0036】
前記梅調味液を乳酸発酵させる際には、梅調味液の塩分濃度を予め10重量%以下まで低下させることが好ましい。乳酸菌は本来ある程度の耐塩性を有するが、10重量%以下、好ましくは6重量%以下まで低下させることにより、乳酸菌が増殖し易くなり、発酵を効率的に行うことができる。塩分濃度は、上述のイオン交換膜電気透析法等の方法で脱塩したり、水で希釈する等の方法により低下させることができる。
【0037】
また、乳酸発酵を行う際には、種々の栄養源を添加することができる。例として、ペプトン、酵母エキス等の有機態窒素が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0038】
また、前記乳酸発酵梅調味液は市販されているものを使用することもできる。例えば、株式会社東農園から販売されている「乳酸発酵梅調味液」を使用することもできる。
【0039】
前記乳酸発酵梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませることにより、マグロの肉質を改変させることができる。具体的には、グルタミン酸などの旨み成分が増え、マグロの商品価値を高めることができる。また、乳酸やクエン酸等の有機酸は殺菌作用を有するので、従来マグロ用飼料に添加されていた抗菌剤が不必要になるか、あるいは減量することもできる。
【0040】
前記マグロ給餌用餌としては、冷凍していない生餌でも冷凍処理された冷凍餌でもよく、マグロ用の人工飼料(配合飼料)でもよい。前記生餌又は冷凍餌としては、例えば、サバ類、イワシ類、サンマ、イカ類が挙げられ、マグロの年齢、嗜好性、生育状況に応じて適宜変更することができる。
【0041】
前記乳酸発酵梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませる手段は特に制限はなく、例えば、乳酸発酵梅調味液をマグロ給餌用餌に浸漬する方法、注射する方法、塗布する方法、混合する方法、練りこむ方法など、種々の方法を採用することができる。例えば、サバ類をマグロ給餌用餌として使用する場合は、乳酸発酵梅調味液の原液にサバ類を室温で約2日間浸漬して所望のマグロ用飼料を得ることができる。また、注射器で乳酸発酵梅調味液の原液をサバ類に約10ml注入し、約1日冷蔵させて、ある程度乳酸発酵梅調味液がサバ類の体内に浸透させることで所望のマグロ用飼料を得ることができる。
【0042】
本実施形態のマグロ用飼料は、栄養豊富な梅調味液を乳酸菌の培養培地として有効利用することができ、マグロにとっても、従来のマグロ給餌用餌に乳酸菌や栄養分がプラスされたものを摂取できるため好ましいものといえる。また、本実施形態のマグロ用飼料をマグロに与えることにより、マグロの肉質、特にグルタミン酸などの旨み成分が増え、マグロの商品価値を高めることができるため、ブランドマグロの創出に利用することもできる。
【0043】
4.乳酸発酵梅調味液を含むマグロ用飼料を使用するマグロの肉質改変方法
本実施形態のマグロの肉質改変方法は、上記3のようにして得られたマグロ用飼料をマグロに与えることで、マグロの肉質を改変するものである。
【0044】
前記マグロは養殖マグロでも畜養マグロでもよい。本実施形態において「養殖」とは、生簀(いけす)や筏(いかだ)などの施設で人為的に増やし育てることをいい、「畜養」とは、天然のマグロを捕獲し、生簀(いけす)や筏(いかだ)などの施設で一定期間育成することをいう。
【0045】
前記マグロ用飼料を与える回数や量は、従来の養殖又は畜養方法と同様である。但し、短い期間では肉質は改善することができないため、少なくとも前記マグロ用飼料を1ヵ月以上にわたって与えることが好ましい。
【0046】
その他の事項については、上記3に記載した事項を適用することができるため、詳細については省略する。
【実施例】
【0047】
1.前処理等
(1)給餌対象マグロ
給餌対象マグロとして、和歌山県串本町の生け簀で養殖されている2年半ものクロマグロ(約500匹/生簀)を使用した。
【0048】
(2)梅調味液及び乳酸発酵調味液
梅調味液として、東農園社製「梅調味液G」(食塩相当量10.0±1.0%、pH3.0±0.5、糖度34.0±3.0%、酸度(クエン酸換算)3.0±0.5%)を使用した。この梅調味液には、梅酢、酵母エキス、砂糖、還元水飴、本みりん、リンゴ酢、オリゴ糖、蜂蜜、調味料(アミノ酸等)、酒精、酸味料、甘味料、野菜色素、ビタミンBが含まれている。
【0049】
乳酸発酵梅調味液として、東農園社製「乳酸発酵梅調味液」(食塩相当量14.0±1.5%、pH4.5±0.5、糖度45.0±3.0%、乳酸10.0±2.0%)を使用した。この乳酸発酵梅調味液には、上記梅調味液に含まれている成分のほか、乳酸菌とその発酵生産物が含まれている。
【0050】
(3)餌の処理
クロマグロの給餌用餌として、冷凍サバ1ブロック(約70kg)に、梅調味液又は乳酸発酵梅調味液約30Lを添加し、48時間浸漬したものを使用した。なお、比較例として、梅調味液又は乳酸発酵梅調味液の代わりに海水を添加したサバを使用した。
【0051】
梅調味液又は乳酸発酵梅調味液が給餌用サバへ浸透している度合いを確認するため、浸漬処理された給餌用サバの各部位のpHを測定した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
なお、梅調味液又は乳酸発酵梅調味液の浸漬時間を16時間に設定した場合について検討したが、48時間浸漬処理した場合と同様の傾向であった。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
2.給餌方法
生け簀を「対照群」、「梅調味液浸漬餌群」、「乳酸発酵梅調味液浸漬餌群」の3グループに分け、対照群のクロマグロには比較例1のサバを、梅調味液浸漬餌群のクロマグロには実施例1のマグロ用飼料を、乳酸発酵梅調味液浸漬餌には実施例2のマグロ用飼料を、それぞれ1日1回70kgを給餌した。なお、各群間で餌の喰いつきの差は確認されなかった。
【0056】
給餌開始から78日後に生け簀からクロマグロを採取し、活けしめと脱血を実施した後に解体して切り身を製造した。
【0057】
3.評価
(1)官能評価
クロマグロの切り身の官能評価を、順位法で行った。クロマグロの腹中のトロの部位を成人健常者55名に醤油やわさびは使用せずに試食してもらい、外観3項目(肉色が好ましい・透明感がある・つや(てり)がある)、におい1項目(血なまぐささがない)、味3項目(うま味があり、おいしい・脂がのっている、水っぽさがない)、テクスチャー3項目(もちもち感がある(ねばりけがある)・歯ごたえがある(弾力がある)・歯切れがよい(食べた時にサクッと切れる))及び総合評価について、1位から3位の順位づけをしてもらった。得られた結果を集計し、総合順位を決定した。
【0058】
比較例1のサバを与えたクロマグロは大間産天然クロマグロ(卸値12,000円/kg)と同等以上の高い評価を得ているマグロである(山中ら,「消費地におけるクロマグロの官能検査」,海洋水産エンジニアリング,2008年7月)。それにも関わらず、実施例1(梅調味液浸漬餌)及び実施例2(乳酸発酵梅調味液浸漬餌)のマグロ用飼料を与えたクロマグロに対する評価は総合的に高いものとなった。すなわち、総合評価として実施例1のマグロ用飼料を与えたクロマグロに1位をつけた人数が23名と比較例1の14名より多く、また、実施例2のマグロ用飼料を与えたクロマグロに1位をつけた人数は18名と実施例1と同様に比較例1より多かった。
【0059】
(2)肉眼観察(色調)
クロマグロの赤身部位について、切り身の色調を蛍光灯の下で目視観察した。結果を図1に示す。比較例1と比べて実施例1(梅調味液浸漬餌)のマグロ用飼料を与えたクロマグロの切り身の色調は若干明るい赤色を呈していると思われた。また、実施例2(乳酸発酵梅調味液浸漬餌)のマグロ用飼料を与えたクロマグロの切り身は他と比べて明らかに赤色が鮮やかであることが観察された。
【0060】
(3)脂肪および脂肪酸分析・遊離グルタミン酸分析
クロマグロの赤身部位及び大トロ部位について、日本食品分析センターに分析依頼し、脂質、脂肪酸(エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)及び遊離グルタミン酸を測定した。なお、脂質はソックスレー抽出法、脂肪酸はガスクロマトグラフ法、遊離グルタミン酸はアミノ酸自動分析法で測定した。
【0061】
結果を表3に示す。各数値(%)は、比較例1のクロマグロを基準(100%)としたときの値である。表3に示すように、実施例1(梅調味液浸漬餌)のマグロ飼料を与えたクロマグロの脂質や脂肪酸については、比較例1のサバを与えたクロマグロと比較して高い傾向にあることが判明した。また、実施例2(乳酸発酵梅調味液浸漬餌)のマグロ用飼料を与えたクロマグロの遊離グルタミン酸は、比較例1のクロマグロと比較して高い傾向にあることが判明した。
【0062】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませ、マグロの肉質を改変する、マグロ用飼料。
【請求項2】
前記マグロが、クロマグロである、請求項1に記載のマグロ用飼料。
【請求項3】
前記肉質が、脂質成分である、請求項1又は2に記載のマグロ用飼料。
【請求項4】
梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませたマグロ用飼料をマグロに与えてマグロの肉質を改変する、マグロの肉質改変方法。
【請求項5】
前記マグロが、クロマグロである、請求項4に記載のマグロの肉質改変方法。
【請求項6】
前記肉質が、脂質成分である、請求項4又は5に記載のマグロの肉質改変方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のマグロの肉質改変方法により育成されたマグロ。
【請求項8】
梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液に、乳酸菌を加え、発酵させて得られる乳酸発酵梅調味液を含ませ、マグロの肉質を改変する、マグロ用飼料。
【請求項9】
前記マグロが、クロマグロである、請求項8に記載のマグロ用飼料。
【請求項10】
前記肉質が、旨み成分である、請求項8又は9に記載のマグロ用飼料。
【請求項11】
梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液に、乳酸菌を加え、発酵させて得られる乳酸発酵梅調味液をマグロ給餌用餌に含ませたマグロ用飼料をマグロに与えてマグロの肉質を改変する、マグロの肉質改変方法。
【請求項12】
前記マグロが、クロマグロである、請求項11に記載のマグロの肉質改変方法。
【請求項13】
前記肉質が、旨み成分である、請求項11又は12に記載のマグロの肉質改変方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項に記載のマグロの肉質改変方法により育成されたマグロ。

【図1】
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