説明

マスキング方法

【課題】漏れ試験時における被検査加工物の曲面をなす開口面(油溝等が開口する面)のシールを容易かつ確実に行なう。
【解決手段】被検査加工物21の漏れ試験を行なう空間22が開口する開口面23が曲面をなす該開口面23のマスキング方法であって、プレス治具3と被検査加工物21の開口面23との間に曲面シール部材1とプレート2とを重ね合わせて介在させた状態で、プレス治具3を被検査加工物21に近づけ、曲面シール部材1を、開口面23に当接させこの開口面23に押し広げながら押圧して、被検査加工物21の開口面23を密閉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査加工物に形成された溝、穴等の空間、特に曲面部における溝、穴等の空間の漏れ試験に好適なマスキング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工物(完成品、半完成品、部品等を含む。)、例えばエンジン部品における油溝や油孔の良否の検査方法として、次のような方法が知られている。それは、上記の溝等を形成する空間が開口する開口面をシール部材で塞いで密閉空間を作り、そこに加圧気体を充満させ又は内部気体を低圧化させて気体の漏れを観察する漏れ試験(リークテスト)を行なう方法である。
この漏れ試験は、油溝や油孔の良否の検査方法として有効であるが、軸受部材に形成される油溝のように曲面をなす開口面における溝、穴等の空間の漏れ試験については、その空間のマスキング(シール)は平面部におけるマスキングほど簡単ではなく、工夫を要する。
【0003】
特許文献1には、従来のこの種のマスキング技術が開示されている。
これは、被検査加工物の曲面をなす開口面のシールに、その開口面より僅かに大きな曲率のシール部材を用いるというマスキング手法であって、漏れ試験時に上記開口面の縁端部分から漏れが生じやすいという、それまでの問題を解決しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−160189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来技術では、被検査加工物の開口面のシールを確実に行なうためには上記開口面へのシール部材の装着に必要以上の荷重を要する。
これは、シール部材を、被検査加工物の開口面に対して僅かに大きな曲率をつけて形成しているので、このシール部材を上記開口面へ装着する際に同シール部材の肩部分(両端近傍部分)がこの肩部分と接触する部材を擦り、装着に必要とする荷重が高くなるからである。このようにシール部材の装着のための荷重が高くなると、シール部材に摩耗や損傷が生じ易くなる。
そこで、漏れ試験時に上記のような高い荷重を与えることなく、被検査加工物の開口面のシールを容易かつ確実に行なえるマスキング方法の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、漏れ試験時における被検査加工物の曲面をなす開口面(油溝等が開口する面)のシールを容易かつ確実に行なうことのできるマスキング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、マスキング方法を下記各態様の構成とすることによって解決される。
各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴及びそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0008】
以下の各項のうち、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、各々対応する。
【0009】
(1) 被検査加工物に形成された漏れ試験を行なう空間が開口する開口面が曲面をなす該開口面のマスキング方法であって、プレス治具と前記被検査加工物の開口面との間に曲面シール部材とプレートとを重ね合わせて介在させた状態で、前記プレス治具及び前記被検査加工物が相互に近づく方向に該プレス治具又は被検査加工物を移動させ、前記曲面シール部材を、前記被検査加工物の開口面に当接させた後に、該開口面に押し広げながら押圧して、前記被検査加工物の開口面を密閉することを特徴とするマスキング方法。
(2) 前記プレス治具及び前記被検査加工物が相互に近づく方向の移動は、前記プレス治具の移動によって行なわれることを特徴とする(1)項に記載のマスキング方法。
(3) 前記プレス治具は前記被検査加工物の下方側に固定されていることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載のマスキング方法。
【発明の効果】
【0010】
(1)項に記載の発明によれば、曲面シール部材を、被検査加工物の開口面に当接させた後に、該開口面に押し広げながら押圧して、被検査加工物の開口面を密閉するようにしたので、漏れ試験時における被検査加工物の曲面をなす開口面(油溝等が開口する面)のシールを容易かつ確実に行なうことができるという効果を奏する。
(2)項に記載の発明によれば、プレス治具及び被検査加工物が相互に近づく方向の移動をプレス治具の移動により行なうので、被検査加工物を上下方向に移動させることなくマスキングできるという効果を奏する。
(3)項に記載の発明によれば、プレス治具を被検査加工物の下方側に固定しているので、被検査加工物をプレス治具上方側の加工物搬送ラインにおいてマスキングする位置に容易に位置付けできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明方法の一実施形態に用いられる部材、治具等を示す図である。
【図2】同上部材、治具等の本実施形態におけるマスキング手順開始時の状態を示す側面図である。
【図3】同じくマスキング手順中間時の状態を示す側面図である。
【図4】同じくマスキング手順完了時の状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、本発明によるマスキング方法の一実施形態に用いられる部材、治具等を示す図で、(a)は上面図、(b)は側面図である。
本実施形態は、例えば油溝等の弧状溝を形成する空間が開口する面(開口面)のように、被検査加工物に形成された漏れ試験を行なう空間が開口する開口面が曲面をなす場合に、同開口面をマスキング(シール)する方法である。
図1に示すように、本実施形態では、上記のような被検査加工物の開口面のマスキングに当たって、曲面シール部材1、プレート2、プレス治具3及び曲面シール治具4が用いられる。
【0013】
上記曲面シール部材1は、図2〜図4に示す被検査加工物21に形成された弧状溝(油溝)22が開口する曲面をなす開口面23を直接マスキングする部材で、上記被検査加工物21の開口面23の曲率よりも小さい曲率の曲面に形成されている。
上記プレート2は、柔軟に曲り変形可能な非金属材からなり、曲面シール部材1の曲率とほぼ同等の曲率を有する弧状に形成されて、同曲面シール部材1の内周面〔図1(b)中、下面〕に重ね合わされて曲面シール体5を構成する。曲面シール部材1は、このプレート2の内側に填め込み固定されている。
【0014】
曲面シール体5は、プレス治具3に形成された対向する一対のプレートガイド3a,3a相互間に配置されている。この場合、曲面シール体5は、曲面シール部材1を上側(図2に示す被検査加工物21の開口面23側)にして配置されている。
プレート2両側面の左右方向中央部(弧状の頂部)からは、各々ピン6が突出している。各ピン6は、一対のプレートガイド3a,3aの各々弧状をなす上端部の中央(頂部)近傍にあって上下方向に穿設された長孔3b内に挿通され、プレート2(曲面シール体5)を、長孔3bの長さ寸法分だけ上下方向に移動可能に位置決め保持している。
【0015】
上記長孔3bの長さ寸法は、図4に示すマスキング手順完了時において、曲面シール部材1が被検査加工物21の開口面23を密閉可能に設定されている。
【0016】
上記プレス治具3の一対のプレートガイド3a,3a相互間には、上端面が弧状に形成されたプレス部材3cが固定されている。一対のプレートガイド3a,3a及びプレス部材3cを備えてなるプレス治具3は曲面シール治具4上に固定されている。
【0017】
上記プレス部材3cの大きさ及び上端面の弧状の曲率等は、同プレス部材3cが次のような機能を発揮できるように設定されている。
すなわちプレス部材3cは、図示マスキング手順開始前及び図2に示すマスキング手順開始時において、その両肩部(上端面の左右両端側部分)で曲面シール体5(プレート2)内周側の左右両端部分を支持して同曲面シール体5を自重による降下位置に保持可能に形成されている。
またこのプレス部材3cは、図3に示すマスキング手順中間時において、曲面シール部材1を、プレート2を介して被検査加工物21の開口面23に当接させた後に、同開口面23に押し広げながら押圧する。そして、図4に示すマスキング手順完了時において、同曲面シール部材1により被検査加工物21の開口面23を密閉可能に形成されている。
【0018】
なお、図2〜図4中の24は、一端が被検査加工物21の注油口25に連通し、他端が同被検査加工物21の弧状溝22に連通する直線状の油孔である。弧状溝22の漏れ試験は、注油口25を用いて気体を加減圧導入し、油孔24から弧状溝22に至って行なわれるので、弧状溝22に加えて油孔24も同時に漏れ試験される。
また、図2〜図4中の26は、被検査加工物21の上面シール部材である。この上面シール部材26は、漏れ試験時にはその中央に穿設された貫通孔27を検査加工物21の注油口25に連通させた状態で検査加工物21上に密着載置される。弧状溝22及び油孔24の漏れ試験は、上記のような上面シール部材26の貫通孔27を通して、開口がマスキングされた弧状溝22に向けて気体を加減圧導入して行なわれる。
【0019】
次に、図1に示す曲面シール部材1、プレート2、プレス治具3及び曲面シール治具4等を用いた本実施形態に係るマスキング手順について図2〜図4を参照して説明する。
いま、曲面シール部材1及びプレート2(曲面シール体5)、プレス治具3並びに曲面シール治具4が図1に示すように用意されているとする。
マスキング手順開始に当たっては、図2に示すように、曲面シール治具4上に固定され、曲面シール体5が組み付けられたプレス治具3の上方に、被検査加工物21を位置させる。詳しくは、被検査加工物21の開口面23を、プレス治具3の曲面シール体5に対向させて位置付けする。
【0020】
そして、図2に示す状態において、プレス治具3及び被検査加工物21が相互に近づく方向に、プレス治具3及び被検査加工物21のうちの少なくともいずれか一方を移動させる。図示例では、被検査加工物21を静止状態に置き、同被検査加工物21に向けてプレス治具3を移動させる(矢印ア参照)。
また、上面シール部材26を、その貫通孔27を検査加工物21の注油口25に連通した状態で検査加工物21上に位置するように移動させる(矢印イ参照)。
なお、プレス治具3の移動は曲面シール治具4を介して行なわれる。
【0021】
図3は、マスキング手順中間時、具体的には、マスキング手順開始から曲面シール部材1が被検査加工物21の開口面23に当接した時の状態を示す。この状態まではプレス治具3には、プレス治具3自身(曲面シール体5を含む。)を移動させるためだけの力が与えられる。この状態では、被検査加工物21の開口面23は密閉されていない。
【0022】
次に、プレス治具3及び被検査加工物21のうちの少なくともいずれか一方に、プレス治具3及び被検査加工物21間を加圧する力が与えられる。図3に示す例では、静止状態にある被検査加工物21方向へのクランプ力F1をプレス治具3に与える。この時、上面シール部材26には被検査加工物21に密着させるためのクランプ力F2が与えられる。
【0023】
上記のように、プレス治具3にクランプ力F1が与えられると、このクランプ力F1はプレート2を介して曲面シール部材1に与えられる。その結果、曲面シール部材1は、図4に示すように被検査加工物21の開口面23に押し広げられながら押圧され、被検査加工物21の開口面23、つまり検査加工物21の弧状溝22の開口を密閉し、マスキングを完了する。
【0024】
この時、上面シール部材26は、その貫通孔27が検査加工物21の注油口25に連通した状態で検査加工物21上に密着されている。したがって、この状態において、上面シール部材26の貫通孔27を通して、開口がマスキングされた弧状溝22に向けて気体を加減圧導入して、弧状溝22及び油孔24の漏れ試験が行なえる。
プレス治具3を上述とは逆に移動することにより、曲面シール部材1が下降して被検査加工物21の開口面23の閉塞が解除(開口面23が開放)される。
【0025】
以上述べたように本実施形態では、曲面シール部材1による被検査加工物21の開口面23(弧状溝22の開口)のマスキングを、曲面シール部材1を被検査加工物21の開口面23に押し広げて行なう。つまり曲面シール部材1は、図2〜図3に示すようにマスキング完了時まで上記開口面23の曲率よりも小さい曲率の曲面となっていて、同開口面23への装着に際して高い荷重を要することなく容易に装着(マスキング)できる。
またこのマスキングは、曲面シール部材1を被検査加工物21の開口面23に押し広げながら押圧して行なうので、被検査加工物21の開口面23の縁端部分からの漏れも生じさせることなく確実に行なうことができる。
要するに従来技術では、開口面の曲率に対して大きな曲率の曲面シール部材を開口面側に押圧して開口面に装着する。しかし本実施形態では、曲面シール部材1を開口面23に押し広げながら押圧して、つまり、開口面23の曲率に対して小さな曲率の曲面シール部材1を開口面23側に押圧し、曲面シール部材1の中央部から両端側部分に向けて徐々に開口面23に装着してゆく。この方法のほうが、小さな押圧力で容易かつ確実に開口面23への曲面シール部材1の装着、つまり開口面23のマスキングが可能であり、本発明の課題を達成できる。
【符号の説明】
【0026】
1:曲面シール部材、2:プレート、3:プレス治具、21:被検査加工物、22:弧状溝(漏れ試験を行なう空間)、23:開口面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査加工物に形成された漏れ試験を行なう空間が開口する開口面が曲面をなす該開口面のマスキング方法であって、
プレス治具と前記被検査加工物の開口面との間に曲面シール部材とプレートとを重ね合わせて介在させた状態で、前記プレス治具及び前記被検査加工物が相互に近づく方向に該プレス治具又は被検査加工物を移動させ、
前記曲面シール部材を、前記被検査加工物の開口面に当接させた後に、該開口面に押し広げながら押圧して、前記被検査加工物の開口面を密閉することを特徴とするマスキング方法。
【請求項2】
前記プレス治具及び前記被検査加工物が相互に近づく方向の移動は、前記プレス治具の移動によって行なわれることを特徴とする請求項1に記載のマスキング方法。
【請求項3】
前記プレス治具は前記被検査加工物の下方側に固定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマスキング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83601(P2013−83601A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224865(P2011−224865)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】