説明

マスク保持装置

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、高集積半導体回路素子の製造のためリソグラフィ工程のうち転写工程で用いるマスク保持装置に関するものであり、特にX線露光装置に用いて好適なマスク保持装置に関するものである。
[従来の技術]
従来、露光装置におけるマスク保持装置には真空吸着方式によるものと、磁力による吸着方式のものとが用いられている。磁力による吸着方式のマスク保持装置には、電磁石を使ったものと、永久磁石と電磁石を使ったものがある。
第4図は、電磁力を用いたマスク保持装置の断面を示す。この種の装置は、例えば特開昭60−77434号公報等に開示されているようなものである。同図において、1は少なくとも一部が磁性材料で構成されるマスクフレーム、2はメンブレン、3は吸収体、6は磁力線を発生するためのソレノイドコイル、4は磁路を形成するためのヨーク(マスクホルダ)、7はソレノイドコイルに通電するためのリード線、11はソレノイドコイル6からの発熱を外部に取り去るための冷却水用配管である。
同図の状態で、マスクフレーム1をマスクホルダ4に接しながら、ソレノイドコイル6に通電すると、マスクホルダ4が励磁され、マスクフレーム1はマスクホルダ4に磁気的に吸着保持される。次に、通電をやめると、マスクフレーム1はマスクホルダ4から外れる。
また、第3図は、永久磁石の磁気力を用いたマスク保持装置の断面を示す。この種の装置は例えば特開昭62−216227号公報等に開示されている。同図において、1はマスクフレーム、5はリング状の永久磁石、6a,6bはリング状に巻いてあるソレノイドコイル、4は磁路を形成するためのマスクホルダ、7はソルノイドコイル6a,6bに通電するためのリード線である。同図の構成において、永久磁石5から出ている磁束はマスクフレーム1を通り、マスクホルダ4を介して永久磁石5の下面へと循環し、これによりマスクフレーム1が吸着保持される。次に、永久磁石5の磁束に対して一時的に相殺する磁束をソレノイドコイル6a,6bによって生じさせるとマスクホルダ4とマスクフレーム1との間の吸着力はなくなりマスクフメーム1が外れる。
[発明が解決しようとする課題]
しかしながら、上記従来例ではいずれの場合においても電磁石を使っていることから、ソレノイドコイルの短絡および断線並びにソレノイドコイルに電流を供給する電源の異常、およびソルノイドコイルのON/OFF信号を与えるCPUの異常等に対して何ら対策が施されていなかった。
従って、マスク交換時には、マスクをマスク保持装置に吸着保持する際、ソレノイドコイルに電流が供給状態となっていて、吸着しなかったり、逆にマスク保持装置から外す際にソレノイドコイルへ電流が供給できない状態となっていて離脱できないといった問題を生じていた。
また、X線源にSOR光(シンクロトロン放射光)のような照射エネルギーを用い、地平線に対して水平方向にマスクを照射する場合には、マスクを垂直に立てて保持しなければならない。そのため、上記トラブルが発生した場合、マスクが落下したり、マスク保持装置上で吸着状態を維持して、マスク交換ができなくなるといった問題を生じることになる。
本発明は、上述従来形の問題点に鑑み、極めて微細で高精度な転写マスクの保持が要求されるX線露光装置において露光雰囲気が減圧ヘリウムガス、窒素ガスや真空状態といった特殊な環境の中であっても、極めて高い信頼性のもとでマスクの保持および離脱の動作が行なえるマスク保持装置を提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段および作用]
上記の目的を達成するため、本発明に係るマスク保持装置は、マスクを吸着するための磁力を発生する永久磁石と、その永久磁石が形成する磁束を一時的に相殺する磁束を発生するために、その永久磁石にそれぞれ巻線された第1、第2のソレノイドコイルと、これら第1、第2のソレノイドコイルに励磁電流を供給する電源とを備え、これら第1、第2のソレノイドコイルの両方が正常動作した状態のマスク吸着力と、第1、第2のソレノイドコイルの一方だけが正常動作した状態のマスク吸着力とが近い値となるように永久磁石と各ソレノイドコイルの発生磁力を設定するかまたは各ソレノイドコイルの電流を制御することを特徴とする。
これにより、永久磁石が形成する時束に対して逆の磁束を発生させるソレノイドコイルに係る装置に冗長性を持たせることとなり、安定したマスクの吸着離脱動作を実現することができる。
[実施例]
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
第1図は、本発明の第1の実施例に係るマスク保持装置の断面図を示す。同図において、1は磁性材料から成るマスクフレーム、2はこのマスクフレーム1上に回路パターンを形成するためのメンブレン、3は照射エネルギーを吸収する吸収体、4は磁気回路を構成するためのマスクホルダ、5は円環状の永久磁石(鉛直方向に分極着磁)、6a,6bは永久磁石5の内側および外側のまわりに巻かれたソレノイドコイル、7a,7bはソレノイドコイル6a,6bに電流を供給するためのリード線、8a,8bはソレノイドコイル6a,6bに電流を供給するための電源、9はソレノイドコイル6a,6bにON/OFF信号を与えるCPUである。
永久磁石5の上面から出た磁束は、マスクホルダ4を通って永久磁石5の下面への循環している。また、永久磁石5の吸着力に対し、ソレノイドコイル6a,6b単体での電磁石(ただし、永久磁石の吸着力に対して逆方向)の吸着力を適当な割合に設定すれば、一方のソレノイドコイルの異常時に対応できる。例えば、永久磁石5の吸着力を100とし、ソレノイドコイル6a,6bの吸着力をそれぞれ65,65とすれば、通常の離脱に要する力は30(両ソレノイドコイル6a,6bを合わせた吸着力130と永久磁石5の吸着力100との差)となり、また故障時の離脱に要する力は35(ソレノイドコイル6a,6bの一方の吸着力65と永久磁石5の吸着力100との差)となる。従って、ソレノイドコイル6a,6bの一方の系統に何らかの異常があっても、マスクの保持および離脱の動作を安定して行なうことができる。
上記構成においてマスクフレーム1をマスクホルダ4に近付けると永久磁石5、マスクホルダ4およびマスクフレーム1により磁気回路が形成され、マスクフレーム1は永久磁石5およびマスクホルダ4に吸引され吸着する。離脱する際は永久磁石5の磁束に対して逆の磁束が発生するように、ソレノイド6a,6bに電源8a,8bよりリード線7a,7bを介して通電し、一時的に磁力を相殺して離脱動作を行なう。この場合、電源に不図示の自己診断機能があって誤動作がなく電流が供給できるならば、上述のコイルの吸着力があれば通常時、故障時、いずれの場合においても安定した動作をCPU9から指令することができる。なお、ソレノイドコイルは2つ以上であれば良くまた、電源については2つ以上あることが望ましい。
第2図は、本発明の第2の実施例に係るマスク保持装置の構成を示す。
この第2の実施例では第1図と同様にソレノイドコイル6a,6bを2つの電源8a,8bで駆動しているが、その他にソレノイドコイル6a,6bの断線ならびに短絡を検知するソレノイドコイル異常検出部10a,10b、およびソレノイドコイル6a,6bに対応してCPU11a,11bを配置してある。さらに、これら2つのCPUをコントロールするCPU9を置いている。
上記構成において、通常、離脱動作を行なう場合には、ソレノイドコイル6a,6bのそれぞれに対し、その吸着力が永久磁石5の吸着力の半分となるように励磁電流を供給する。これにより離脱に要する力はほぼゼロとなる。
また、例えばソレノイドコイル6aが短絡または断線した場合には、先ずソレノイドコイル異常検出部10aがこれを検知する。この異常はCPU11aを通じてCPU9に伝わる。CPU9はこの信号を受け、これ以後ソレノイドコイル6bのみによって離脱動作ができるように励磁電流を制御する。すなわち離脱動作の際には、CPU11bを通じてソレノイドコイル6bに離脱動作ができるような電流を供給するようにするのである。
なお、同図において不図示ではあるがそれぞれのCPUおよび電源は自己診断機能を有している。
永久磁石の種類および数、ソレノイドコイルの種類および数、CPUや電源の数等については、様々なバリエーションが考えられるが、ここでは代表的な2つの実施例についてだけ述べた。
[発明の効果]
以上説明したように、本発明によれば、ソレノイドコイルの吸着力を永久磁石の吸着力に対してある一定の割合で設定することにより、ソレノイドコイル故障時においても安定した動作を行なうことができる。
また、それぞれのソレノイドコイルに対して異常検出部、CPU、電源を配置すれば、通常時ならびに故障時でも安定した動作ができるばかりでなく、離脱に要する力もゼロから可変な値で設定することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の第1の実施例に係るマスク保持装置の断面図、
第2図は、本発明の第2の実施例に係に係るマスク保持装置の断面図、
第3図、第4図は従来の磁力によるマスク保持装置の断面図である。
1:マスクフレーム、
2:メンブレン、
3:吸収体、
4:マスクホルダ、
5:永久磁石、
6,6a,6b:ソレノイド、
7,7a,7b:リード線、
8a,8b:電源、
9,11a,11b:CPU、
10a,10b:ソレノイドコイル異常検出部、
12:冷却用水管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】マスクに形成されたパターンをウエハ上に転写する露光装置における該マスクの保持装置であって、該マスクを吸着するための磁力を発生する永久磁石と、該永久磁石が形成する磁束を一時的に相殺する磁束を発生するための、同一の該永久磁石にそれぞれ巻線された第1、第2のソレノイドコイルと、該第1、第2のソレノイドコイルに励磁電流を供給する電源とを備え、該第1、第2のソレノイドコイルの両方が正常動作した状態のマスク吸着力と、該第1、第2のソレノイドコイルの一方だけが正常動作した状態のマスク吸着力とが近い値となるように永久磁石と各ソレノイドコイルの発生磁力が設定されていることを特徴とするマスク保持装置。
【請求項2】マスクに形成されたパターンをウエハ上に転写する露光装置における該マスクの保持装置であって、該マスクを吸着するための磁力を発生する永久磁石と、該永久磁石が形成する磁束を一時的に相殺する磁束を発生するための、同一の該永久磁石にそれぞれ巻線された第1、第2のソレノイドコイルと、該第1、第2のソレノイドコイルに励磁電流を供給する電源と、該第1、第2のソレノイドコイルの各々について異常を検知し、該異常検知情報に基づいて該第1、第2のソレノイドコイルの両方が正常動作した状態のマスク吸着力と、該第1、第2のソレノイドコイルの一方だけが正常動作した状態のマスク吸着力とが近い値となるように各ソレノイドコイルに供給する励磁電流を制御する制御手段とを備えることを特徴とするマスク保持装置。

【第3図】
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【第1図】
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【第2図】
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【第4図】
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【特許番号】第2649556号
【登録日】平成9年(1997)5月16日
【発行日】平成9年(1997)9月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−218525
【出願日】昭和63年(1988)9月2日
【公開番号】特開平2−67716
【公開日】平成2年(1990)3月7日
【出願人】(999999999)キヤノン株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭60−251621(JP,A)
【文献】特開 昭59−159505(JP,A)
【文献】実開 昭58−140609(JP,U)