説明

マスク及びグラフト重合体抽出液

【課題】鳥インフルエンザウイルスの不活性化、猫、犬、ヒトのカリシウイルスの不活性化及びノロウイルスの不活性化を行うマスクを提供する。
【解決手段】顔部に着用して、少なくとも鳥インフルエンザウイルスの不活性化、猫、犬、ヒトのカリシウイルスの不活性化及びノロウイルスの不活性化を行うマスクであって、セルロース不織布で形成されたマスク基材2を備える。マスク基材2に、スルホン酸基又はアミノ基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物をしみ込ませている。さらに、マスク基材2に、水を含ませた保水性樹脂4を付着させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にマスクに関するものであり、より特定的には、少なくとも鳥インフルエンザウイルスの不活性化、猫、犬、ヒトのカリシウイルスの不活性化及びノロウイルスの不活性化を行うマスクに関する。この発明は、そのようなウイルスを不活性化させ、その他消臭効果等も有するグラフト重合体抽出液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマスクは、マスク基材である不織布の目を細かくするなど物理的に粒子の通過を防ぐだけのものであった。しかし、不織布の目を細かくするだけでは、鳥インフルエンザウイルス、猫、犬、ヒトのカリシウイルス、ノロウイルスが口から体内に入るのを防止することはできなかった。
【0003】
一方、非特許文献1には、ネコカリシウイルス、イヌカリシウイルス、ヒトカリシウイルスが、温度により不活性化し、また、pH、エタノール、紫外線、塩素によって不活性化されることが報告されている。
【非特許文献1】E. Duizer :Inactivation of Caliciviruses. Appl Environ Microbiol.(2004) 70: 4,538‐4,543
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、非特許文献1の、ネコカリシウイルス、イヌカリシウイルス、ヒトカリシウイルスがpHによって不活性化されるという示唆に着目してなされた。
【0005】
本発明の目的は、鳥インフルエンザウイルスの不活性化、猫、犬、ヒトのカリシウイルスの不活性化及びノロウイルスの不活性化を行うことができるように改良されたマスクを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、抗菌力性を有するマスクを提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、消臭力性を有するマスクを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、そのようなウイルスを不活性化させ、その他消臭効果等も有するグラフト重合体抽出液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマスクは、顔部に着用して、少なくとも鳥インフルエンザウイルスの不活性化、猫、犬、ヒトのカリシウイルスの不活性化及びノロウイルスの不活性化を行うマスクであって、セルロース不織布で形成されたマスク基材を備える。上記マスク基材に、スルホン酸基又はアミノ基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物をしみ込ませている。水を含ませた状態が維持され、使用されるのが好ましい。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものをいう。
【0010】
本発明によれば、上記スルホン酸基の酸性水素イオン又はアミノ基より由来する水酸基イオンが、外部から鼻孔、口腔内に進入するウイルスを死滅させることができる。
【0011】
本発明の好ましい実施態様によれば、水を含ませた保水性樹脂が、上記グラフトセルロースの水抽出物とともに上記マスク基材に付着している。保水性樹脂に含まれる水分に上記スルホン酸基の酸性水素イオンが溶け込み、pHが低くなり、外部から口腔内に進入するウイルスを死滅させることができる。
【0012】
この保水性(高吸水性)ポリマーは水分を自身の重さの100倍以上、取り込み、多少の力を加えても、水が外に逃げ出さない。これによって、水を含ませた状態が維持される。水が外に逃げ出さないのは、橋かけされた構造を持つポリマーの中に水が入り、水とポリマーが強く化学結合してしまうからである。通常白色の粉末であるが、水を取り込むと膨潤する。
【0013】
保水性樹脂(高吸水性ポリマー)としては、でんぷん-アクリル酸グラフト系、ポリアクリル酸塩系、ポリビニルアルコール系、酢酸ビニル-アクリル酸塩系、イソブチレン-マレイン酸系やポリN−ビニルアセトアミド系が挙げられる。親水性樹脂鎖の種類を変えることで水に対する吸収能力を変化させることができ、架橋密度を変えることにより、水を吸って膨潤したゲルの強度を変えることができる。コスト的には、ポリアクリル酸塩をベースとしたものが好ましい。
【0014】
他の好ましい実施態様によれば、保水性樹脂を含む層が、上記マスク基材の表面に密着して積層されている。スルホン酸基又はアミノ基の水素イオンを保水性樹脂に含まれる水分に近づけるためである。
【0015】
上記グラフトセルロースは、上記スルホン酸基又はアミノ基とともにカルボキシル基が導入されているのが好ましい。
【0016】
上記保水性樹脂と併用して、多価アルコール又はゼラチンなどの保湿剤も使用することができる。
【0017】
多価アルコールに分類される保湿剤として、グリセロール、キシリトール、d-ソルビトール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、マルチトールが挙げられる。保湿剤として、ゼラチン(Gelatin)も好ましく用いられる。
【0018】
グリセロールは、非常に吸湿性が良く、皮膚に対して柔軟効果があり、うるおいを与える。キシリトールは、糖アルコールの一種で無臭で甘味がある。d-ソルビトールは、動物・植物界に存在し、海藻や果物に多く含まれ、高濃度でも全く毒性・刺激性が無い。ジプロピレングリコールは、無色透明で粘性のある液体でわずかに特異臭があり、製品ののびや滑りを良くする。ブチレングリコールは、無色無臭の液体で、適度な潤湿性と抗菌力があり、毒性が低い。プロピレングリコールは、無臭・透明な液体で、粘度が低いためさっぱりしており使用感に優れる。ポリエチレングリコールは、酸化エチレンの重合体で水溶性の物質であり、分子量によって沢山の種類があり、PEG20、PEG30、PEG32、PEG40、PEG80、PEG120、PEG220、PEG400などがある。ポリオキシエチレンメチルグルコシドは、保湿作用、刺激緩和作用がある。マルチトールは、芽糖のマルトースを還元して得られるマルビットの水溶液であり、吸湿性や保湿性は、グリセロールやソルビトールに比べてやや弱いが、大気中の湿度に影響される事が少ないという特徴を持つ。
【0019】
ゼラチンは、動物の皮膚や骨、腱などの結合組織の主成分であるコラーゲンに熱を加え、抽出したもので、タンパク質を主成分とする。
【0020】
この発明の好ましい実施態様によれば、上記保水層の表面の一部が凸となり、上記マスク基材の表面の一部を窪ませて入り込んでおり、上記マスク基材の表面の他の一部が凸となり、上記保水層の表面の他の一部を窪ませて入り込んでいる。
【0021】
このように構成することにより、両者の接触面積が増え、ウイルスの侵入も効率的に防げる。
【0022】
上記マスク基材は、鼻部および口部を隙間なく覆うように、形状が記憶された形状記憶樹脂で外枠が形成されているのが好ましい。ウイルスを含む外部からの空気を、全てマスクを通過させるためである。
【0023】
この発明の他の局面に従うグラフト重合体抽出液は、セルロース基材に放射線を照射し、反応活性点を生成させてスチレンのグラフト重合を行い、さらにスルホン化又はアミノ化してなる活性化グラフトセルロースを準備し、上記活性化グラフトセルロースを水に浸漬し、かき混ぜ、沸騰させ、冷却後ろ過して得た抽出液に係る。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかるマスクを顔部に着用すると、保水性樹脂中に含まれる水分に上記スルホン酸基の酸性水素イオンが溶け込み、pHが低下し、外部から口腔内に進入するウイルスを、マスクをフィルターにして死滅させることができる。または、保水性樹脂中に含まれる水分に4級アンモニウムイオンが溶け込み、水酸基が放出され、pHが高くなり、外部から口腔内に進入するウイルスを、マスクをフィルターにして死滅させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
鳥インフルエンザウイルスの不活性化、猫、犬、ヒトのカリシウイルスの不活性化及びノロウイルスの不活性化を行うことができるように改良されたマスクを得るという目的を、
マスク基材に、スルホン酸基又はアミノ基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物をしみ込ませるということによって実現した。以下、この発明の実施例を図を用いて説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、実施例1に係るマスクの概念図である。図2は、マスクを構成するマスク基材の断面図である。これらの図を参照してマスク1は、セルロース不織布で形成されたマスク基材2を備える。マスク基材2に、スルホン酸基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物3をしみ込ませている。本実施例によれば、スルホン酸基の酸性水素イオンに、外部から口腔内に進入する鳥インフルエンザウイルス、猫、犬、ヒトのカリシウイルス及びノロウイルスが接触し、これを死滅させることができる。
【実施例2】
【0027】
図3(A)は、実施例2に係るマスクの断面図である。図4は、水(H2O)を含む保水性(高吸水性)樹脂4の概念図である。
【0028】
この保水性樹脂は水分を自身の重さの100倍以上、取り込み、多少の力を加えても、水が外に逃げ出さない。水が外に逃げ出さないのは、橋かけされた構造を持つポリマーの中に水が入り、水とポリマーが強く化学結合してしまうからである。親水性樹脂鎖の種類を変えることで水に対する吸収能力を変化させることができ、架橋密度を変えることにより、水を吸って膨潤したゲルの強度を変えることができる。
【0029】
図3(A)に示す実施例2では、セルロース不織布で形成されたマスク基材2に、スルホン酸基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物3をしみ込ませ、さらに水を含む保水性樹脂4を付着させている。本実施例によれば、保水性樹脂4に含まれる水分に、スルホン酸基の水素イオンが溶け込み、pHが低くなり、外部から口腔内に進入する鳥インフルエンザウイルス、猫、犬、ヒトのカリシウイルス及びノロウイルスはこれに接触し、死滅する。
【0030】
図3(B)では、スルホン酸基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物3をしみ込ませたセルロース不織布であるマスク基材5と、保水性樹脂4をしみ込ませたセルロース不織布である保水層6とを貼りあわせて、マスク基材とした。この場合マスク外側に、保水性樹脂4をしみ込ませたセルロース不織布である保水層6を配置する。このような構成であっても、外部から口腔内に進入する鳥インフルエンザウイルス、猫、犬、ヒトのカリシウイルス及びノロウイルスは、保水性樹脂4をしみ込ませた保水層6を通過するとき、水に濡れ、その後グラフトセルロースの水抽出物3をしみ込ませたマスク基材5の水素イオンに接触し、死滅する。
【0031】
図3(C)に示すように、保水層6の表面の一部6aが凸となり、マスク基材5の表面の一部5aを窪ませて入り込んでおり、一方マスク基材5の表面の他の一部5bが凸となり、保水層6の表面の他の一部6bを窪ませて入り込んでいるように構成すると、両者の境界がジグザグに入り込み、両者の接触面積が増え、ウイルスの侵入も効率的に防げる。
【実施例3】
【0032】
図5は、マスクの形状にかかる。マスクは、上記実施例1,2に示された構造を有するマスク基材を、鼻部および口部を隙間なく覆うように、形状を加工すると、ウイルスを含む外部からの空気を全てマスクを通過させることができる。マスクを通らずに鼻孔内に入ろうとする外気をなくすることにより、鳥インフルエンザウイルス、猫、犬、ヒトのカリシウイルス及びノロウイルスを完全に排除することができる。このような形状は、鼻にフィットするように形状を記憶させた形状記憶樹脂の芯材7で外枠を作り、これにマスク基材を巻きつけることによって実現してもよい。形状記憶樹脂の替わりに形状記憶合金性のワイヤで外枠を作り、これにマスク基材を巻きつけてもよい。
【実施例4】
【0033】
本実施例は、実施例1−3で用いた、スルホン酸基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物の製造方法に関する。図6を参照して、セルロース基材に放射線を照射し反応活性点を生成させた基材にスチレンのグラフト重合を行い、さらにスルホン化してなる、次式で示すスルホン化グラフトセルロースの基体1kgを準備した。
【化1】

【0034】
次にグラフトセルロースの基体を細かくほぐして精製水5リットルに浸漬し、適宜かき混ぜた。その後、加熱器を用いて約2時間ほど沸騰させた。その後、そのまま自然放熱し、室温になるまで静置した。次に抽出後に残るセルロースの基体を分離し、水抽出液を取り出した。この水抽出液は、粘度はなく、pHメータによりpH1.8を示した。セルロース基体からスルホン酸基を有するオリゴマー成分が水に抽出されたものと考えている。抗菌力試験を大腸菌(O157)、サルモネラ、黄色ブドウ球菌等の細菌で行ったところ、殺菌力を有することを確認した。この抽出液を実施例1では、マスクにしみ込ませた。濃縮して、マスクにしみ込ませると、より大きな効果が得られた。
【0035】
この水抽出物は、消臭効果も有していた。体内に入っても無害であった。肌にスキンローションとして塗ると、ヒリヒリ感は生じないで、美顔効果を示した。また、水抽出物をパンに吹き付けると、カビ退治にも有効であり、餅の防腐剤としても有効であった。なお、抽出液を蒸発乾固すると、白色の微粉末が得られた。蒸発乾固して得られたものは、水には溶けなくなっていた。
【0036】
本実施例では、スルホン酸基が単独で導入されたグラフトセルロースを例示したが、次のようなスルホン酸基とカルボン酸基が共に導入されたグラフトセルロースも好ましく用いられる。
【化2】

【実施例5】
【0037】
下記式に示すアミノ基を導入したセルロース基体を水に浸漬させ、アミノ基から水酸イオンを遊離させることにより、水に多量の水酸基が溶け込んでいる液体が得られた。pHは、11.5であった。この液体をマスクにしみ込ませると、外部から口腔内に進入するウイルスを、マスクをフィルターにして死滅させることができる。
【化3】

【0038】
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、鳥インフルエンザウイルスの不活性化、猫、犬、ヒトのカリシウイルスの不活性化及びノロウイルスの不活性化を行うマスクを与える。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1に係るマスクの概念図である。
【図2】マスク基材の断面図である。
【図3】(A) 実施例2に係るマスク基材の断面図である。 (B) 実施例2の変形例に係るマスク基材の断面図である。 (C) 実施例2のさらなる変形例に係るマスク基材の断面図である。
【図4】水を含んだ状態の保水性樹脂の概念図である。
【図5】実施例3のマスクの形状を説明するための図である。
【図6】実施例4に係る、スルホン酸基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物の製造工程のフロー図である。
【符号の説明】
【0041】
1 マスク
2 マスク基材
3 スルホン化グラフトセルロースの水抽出物
4 保水性樹脂
5 マスク基材
6 保水層
7 芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔部に着用して、少なくとも鳥インフルエンザウイルスの不活性化、猫、犬、ヒトのカリシウイルスの不活性化及びノロウイルスの不活性化を行うマスクであって、
セルロース不織布で形成されたマスク基材を備え、
前記マスク基材に、スルホン酸基又はアミノ基が放射線グラフト重合により結合されたグラフトセルロースの水抽出物をしみ込ませているマスク。
【請求項2】
水を含ませた保水性樹脂が、前記グラフトセルロースの水抽出物とともに前記マスク基材に付着している請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
水を含ませた保水性樹脂を含む保水層が、前記マスク基材の表面に密着して積層されている請求項1に記載のマスク。
【請求項4】
前記保水層の表面の一部が凸となり、前記マスク基材の表面の一部を窪ませて入り込んでおり、
前記マスク基材の表面の他の一部が凸となり、前記保水層の表面の他の一部を窪ませて入り込んでいる、請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記グラフトセルロースは、前記スルホン酸基又はアミノ基とともにカルボキシル基が導入されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項6】
前記マスク基材は、鼻部および口部を隙間なく覆うような形状に加工されている請求項1〜5のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項7】
セルロース基材に放射線を照射し、反応活性点を生成させてスチレンのグラフト重合を行い、さらにスルホン化又はアミノ化してなる活性化グラフトセルロースを準備し、
前記活性化グラフトセルロースを水に浸漬し、かき混ぜ、沸騰させ、冷却後ろ過して得たグラフト重合体抽出液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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