説明

マスク

【課題】 呼気に対する十分なフィルタリング(除染)が可能な呼気フィルタを備え、着用者と周囲との自然なコミュニケーションに支障がなく、長時間に亘って着用しても負担が少ない、マスクを提供する。
【解決手段】 マスク100は、着用者の口鼻部を覆う椀状体111と、椀状体111に可撓ホース140を介して連結された呼気フィルタ120を備え、必要に応じて椀状体111に連結された吸気フィルタ130をも備える。椀状体111は、その一部に振動体領域114を有するとともに、着用者の顔面に接する椀状体111の周縁部に粘着剤層112を有する。一端113aが椀状体111に取り付けられ他端113bが着用者の耳孔に挿入される一対の保持部材113を、粘着剤層112に代えてまたは粘着剤層112とともに用いることによって、椀状体111を着用者の顔面に確実に保持するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関し、とくに呼気フィルタを備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に存在する花粉、有害な粉塵やガス、感染性粒子などを吸入しないようにするため、着用者の口部および鼻部を覆うマスクが用いられている。この目的のために提供されている従来のマスクのうち最も簡単なものは、マスク本体を構成する平面状のフィルタ体の両側端に一対の耳かけ紐が取り付けられたものである。このようなマスクは、ガーゼや不織布などによって形成されるフィルタ体のフィルタ効率があまり高くないことや、フィルタ体と着用者の顔面との隙間からフィルタリングされていない空気(汚染空気)が吸入されてしまうといった、問題を有している。
【0003】
もちろん、このような単純な構造のマスクについても、フィルタ体に活性炭層などを設けてフィルタ効率を高めることや、フィルタ体を立体的に形成して着用者の顔面との密着性を高める、といった改良が試みられている。しかし、これらの改良によっても、フィルタ効率を長時間に亘って維持することや、フィルタ体と着用者の顔面との間に隙間が生じないようにすることは、困難である。また、耳かけ紐は、マスクを長時間に亘って着用すると耳の後ろ側に痛みを生じさせ、眼鏡と併用される場合に蔓部と干渉するなど、着用者に不快感を与える要因になる。したがって、上述のような構成のマスクは、もっぱら、着用される時間が短い使捨ての簡易マスクとして用いられる。
【0004】
一方、着用者の口鼻部を覆う椀状の部材(以下、椀状体という。)をフィルタ体とは別に備え、フィルタリングされた空気をこの椀状体の内部に導入して着用者に吸入させるように構成されたマスクが提案されている(例えば、特許文献1)。この構成によれば、椀状体の縁部を着用者の顔面に沿うような立体的形状に形成しておくことや、着用者の顔面に接する椀状体の縁部を柔軟にしておくことなどによって、椀状体と着用者の顔面との間に隙間を生じさせないようにすることが可能になる。すなわち、フィルタ体とは別体の椀状体を用いてマスクを構成することによって、着用者が汚染空気を吸入してしまうことを防ぐことが容易になる。
【0005】
フィルタ体とは別体の椀状体を用いてマスクを構成する場合には、椀状体とフィルタ体とを直接に連結することも、両者を可撓ホースによって連結することもできる。ここで、椀状体とフィルタ体とを直接に連結する場合に、大形で重いフィルタを用いようとすると、椀状体を着用者の顔面に常に密着させておくことが困難になるため、椀状体をベルト等によって着用者の頭部に強く固定する必要が生じる。しかし、椀状体が顔面に強く押しつけられているマスクを長時間に亘って着用することが困難であることは言うまでもない。したがって、椀状体とフィルタ体とが直接に連結されているマスクは、小型軽量のフィルタ体を用いざるを得ず、フィルタ効率を長時間に亘って維持することができない。
【0006】
一方、椀状体とフィルタ体とを可撓ホースを介して連結する場合には、十分な量のフィルタ材が充填された大形のフィルタ体を用いて、高いフィルタ効率を長時間に亘って維持できるマスクを実現することができる。フィルタ体は着用者の胴体部に保持されるのが通常であり、その大きさや重さに関する制約が比較的緩やかだからである。このため、有毒ガスに対する防護用マスクなど、微量の汚染空気であっても着用者が吸入することを許容し得ない場合に用いられるマスクは、少なくとも口鼻部を覆う椀状体に可撓ホースで連結された大形のフィルタ体(吸収缶)を備えているものが多い。
【0007】
ところで、近年、感染性の呼吸器疾患に罹患した者(以下、単に患者ともいう。)から周囲に感染が拡大することを防ぐために、呼気フィルタを備えるマスクが提案されている。つまり、呼気をフィルタリング(除染)するための呼気フィルタを備えるマスクを患者に着用させることによって、周囲への感染を防止しようとする提案である。そのようなマスクの一例は、吸気フィルタおよび呼気フィルタが配されたマスク本体によって患者の口鼻部を覆うように構成されたものである(例えば、特許文献2)。この構成例では、着用者の顔面との間に隙間が生じて空気が漏れることを防ぐために、マスク本体の縁部にシールが配される。
【0008】
また、上記の目的のために提案されている他のマスクは、吸気フィルタを備え患者の頭部全体を覆うフード、およびこのフードとは別体の呼気フィルタを含んで構成されたものである。フード内に吐き出された着用者の呼気は、可撓ホースを介して呼気フィルタに導かれるようにされている(例えば、特許文献3)。この構成例では、フードと着用者の体表との隙間から空気が漏れることを防ぐために、フードの端部に配されたシールが着用者の頸部の周囲に密着するようにされる。
【0009】
しかし、上述したような従来の呼気フィルタを備えるマスクは、いずれも、空気(呼気)漏れを生じないようにすることを重視するあまり、実用性を欠いていると言わざるを得ないものである。例えば、顔面を覆う部分が相当に大きいために、マスクを着用した状態では通常の行動が制約されるという問題がある。また、着用者の口鼻部が椀状体で覆われるために発話が困難になることや、口元がフィルタ体などで覆われるために着用者の表情が分かり難くなることなど、自然なコミュニケーションが困難になるという問題もある。
【0010】
また、頭部全体をフードによって覆う従来のマスクには、着用者が周囲の音や呼び掛けに気づき難くなるなど、コミュニケーション自体を困難にするという問題がある。それに加えて、このようなマスクを長時間に亘って着用する場合にはヘッドフォンを用いる音楽などの聴取、電話の使用、飲料の摂取といった行為が当然に想定されるにもかかわらず、従来のマスクはフードを外さずにこれらの行為を行うことはできないものであった。さらに、着用者の頭部全体をフードによって覆うマスクには、着用者が発熱している場合や息苦しさを感じている場合には著しい苦痛を与え、医療機関において診察や治療を受ける際の障害にもなる、という問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−102324号公報
【特許文献2】特開2005−185749号公報
【特許文献3】特表2007−524429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題をふまえて行われたものであり、着用者が感染性の呼吸器疾患患者である場合でも呼気を十分にフィルタリング(除染)できる呼気フィルタを備え、しかも、着用者と周囲との自然なコミュニケーションに支障がなく、長時間に亘って着用しても負担が少ない、マスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための、本願の請求項1に記載されたマスクは、着用者の口部および鼻部を覆う椀状体と、前記椀状体に可撓ホースを介して連結され前記椀状体から流出する空気をフィルタリングする第1のフィルタ体と、を備えるマスクであって、前記椀状体がその一部に振動体領域を有するとともに前記着用者の顔面に接する周縁部に粘着剤層を有することを特徴とするものである。
【0014】
また、上記の課題を解決するための、本願の請求項2に記載されたマスクは、着用者の口部および鼻部を覆う椀状体と、前記椀状体に可撓ホースを介して連結され前記椀状体から流出する空気をフィルタリングする第1のフィルタ体と、を備えるマスクであって、一端が前記椀状体に取り付けられ他端が着用者の耳孔に挿入される一対の保持部材を備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、上記の課題を解決するための、本願の請求項3に記載されたマスクは、請求項1または請求項2に記載されたマスクにおいて、前記椀状体に連結され前記椀状体に流入する空気をフィルタリングする第2のフィルタ体をさらに備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、上記の課題を解決するための、本願の請求項4に記載されたマスクは、請求項1から請求項3のいずれかに記載されたマスクにおいて、前記第1のフィルタ体および/または前記第2のフィルタ体が繊維わたを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本願の請求項1に記載された発明によれば、着用者の口部および鼻部を覆う椀状体と、前記椀状体に可撓ホースを介して連結され前記椀状体から流出する空気をフィルタリングする第1のフィルタ体と、を備えるマスクであって、前記椀状体がその一部に振動体領域を有するとともに前記着用者の顔面に接する周縁部に粘着剤層を有することにより、着用者の呼気に対してフィルタリングを行うことができる能力を有し、着用者が自然なコミュニケーションを行うことが可能で、しかも、耳かけ紐等を用いることなく長時間に亘って快適に着用できるマスクを提供できる。
【0018】
また、本願の請求項2に記載された発明によれば、着用者の口部および鼻部を覆う椀状体と、前記椀状体に可撓ホースを介して連結され前記椀状体から流出する空気をフィルタリングする第1のフィルタ体と、を備えるマスクであって、一端が前記椀状体に取り付けられ他端が着用者の耳孔に挿入される一対の保持部材を備えることにより、着用者の呼気に対してフィルタリングを行うことができ、着用者が自然なコミュニケーションを行うことが可能で、しかも、耳かけ紐等を用いることなく長時間に亘って快適に着用できるマスクを提供できる。
【0019】
また、本願の請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2に記載されたマスクにおいて、前記椀状体に連結され前記椀状体に流入する空気をフィルタリングする第2のフィルタ体をさらに備えることにより、着用者の呼気および吸気の両方に対してフィルタリングを行うことができ、着用者が自然なコミュニケーションを行うことが可能で、しかも、耳かけ紐等を用いることなく長時間に亘って快適に着用できるマスクを提供できる。
【0020】
さらに、本願の請求項4に記載された発明によれば、請求項1から請求項3のいずれかに記載されたマスクにおいて、前記第1のフィルタ体および/または前記第2のフィルタ体が繊維わたを含むことにより、着用者の呼気および/または吸気に対して高効率のフィルタリングを行うことができ、しかも、使用後にフィルタを完全に焼却可能なマスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態としてのマスクの全体的な構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態としてのマスクの本体部の構成を示す図である。
【図3】各種繊維わたの吸着特性の一例を示す図であり、(a)はアンモニアに対する吸着特性を、(b)は硫化水素に対する吸着特性を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態としてのマスクの全体的な構成を示す図である。このマスク100は、着用者の顔面に着用されるマスク本体部110と、マスク本体部110から排出される空気(呼気)をフィルタリングする呼気フィルタ120(第1のフィルタ)と、マスク本体部110に供給される空気(吸気)をフィルタリングする吸気フィルタ130(第2のフィルタ)と、マスク本体部110と呼気フィルタ120とを連結する可撓ホース140と、マスク本体部110と吸気フィルタ130とを連結する可撓ホース150と、を含んで構成されている。
【0024】
マスク本体部110は、空気が透過しない合成樹脂によって形成された椀状の部材(椀状体)111からなり、着用者の口部および鼻部を覆うとともにその縁部の全周が着用者の顔面に密着するようにされた立体的形状を有している。椀状体111を形成するための材料は、マスク100の着用者の口元を視認できる程度の光透過性や、マスク100の着用者の呼吸に伴って大きく変形しない程度の機械的強度を備え、人体に無害なものであれば、特に限定されない。このような条件を満たし、入手が容易で化学的安定性や加工性に優れる材料として、例えば、シリコーン樹脂やPET(ポリエチレンテレフタレート)を用いることができる。
【0025】
マスク100の着用者の顔面に接する椀状体111の縁部には粘着剤層112が全周に亘って設けられている。椀状体111は、この粘着剤層112によって、耳かけ紐等を用いなくても着用者の顔面に保持される。粘着剤層112を形成するための材料は、人の皮膚に障害を生じないものであって、皮脂や汗によって粘着力が極端に低下せず、温度特性による粘着力の変化が緩やかであり、しかも、粘着力を容易に調整できるものであれば、どのようなものでもよい。このような条件を満たす材料として、例えば、アクリル樹脂を主成分とする糊を用いることができる。
【0026】
椀状体111の一部分には、マスク100の着用者の発話(発声)に伴う椀状体111内の空気振動を外部に効率よく伝達するための、振動体領域114が形成されている。振動体領域114を形成すべき位置は、特に限定されないが、マスク100を着用したときに口部に対向する位置が最も好ましい。なお、振動体領域114を構成する振動体は、椀状体111内の空気振動によって十分に励振されればどのように構成されたものでもよく、椀状体111と一体の薄板状部分として成形された振動板でも、椀状体111の一部に設けられた孔を塞ぐように取り付けられた振動膜でも、差し支えない。
【0027】
振動体領域114は、空気を透過させず、軽量で内部損失が小さく、しかも、マスク100の着用者が咳やくしゃみをしても破れない機械的強度を有している必要がある。また、椀状体111と同様に、マスク100の着用者の口元が視認される程度の透明性を有する材料によって形成されることが望ましい。このような条件を満たす材料として、例えば、椀状体111を形成するための材料と同様に、シリコーン樹脂やPETなどを用いることができる。
【0028】
呼気フィルタ120は、マスク100の着用者の呼気を周囲の空気中に解放される前にフィルタリング(除染)するためのものであり、ケース121と、ケース121の内部に充填されたフィルタ材123と、を含んで構成されている。ケース121は、気体を透過しない柔軟な材料によって形成された変形可能な袋状の容器である。ケース121を形成するための材料として、例えば、ポリエチレン、ビニル樹脂などを用いることができる。ケース121には、その一端側にフィルタリングされた空気を排出するための排出口122が、他端側に可撓ホース140が接続される接続部124が、それぞれ設けられている。
【0029】
吸気フィルタ130は、周囲の空気をフィルタリングしてマスク100の着用者に供給するためのものであり、ケース131と、ケース131の内部に充填されたフィルタ材133と、を含んで構成されている。ケース131は、マスク100の着用者の吸気動作によって容易に変形しない(潰れない)筒状の容器である。ケース131を形成するための材料として、例えば、PETなどを用いることができる。ケース131は、その一端側に周囲の空気を導入するための吸入口132が、他端側に可撓ホース150が接続される接続部134が、それぞれ設けられている。
【0030】
いずれも空気中の有害なガスや感染性粒子などを除去するための手段であるフィルタ材123およびフィルタ材133は、その表面積ができるだけ大きくなるように繊維状にされている。気体に対するフィルタリングの機序は、一般的に、比較的大きな粒子に対しては物理的な通過阻止が、微粒子に対しては表面電荷による静電的な吸着が、反応性を有するガスに対しては化学反応を伴う吸着が、それぞれ支配的であるとされる。したがって、フィルタ材133およびフィルタ材123は、これらの機序を複合的に発揮し得るものであることが望ましい。なお、フィルタ材133およびフィルタ材123として好適な材料については、後に詳述する。
【0031】
呼気用のフィルタ120および吸気用のフィルタ130は、それぞれ、可撓ホース140および可撓ホース150を介して、椀状体111に連結される。可撓ホース140および可撓ホース150は、マスク100の着用者に呼吸に伴う抵抗を感じさせない程度の断面積と、十分な可撓性および折れ曲りやホース内外の圧力差による膨張や潰れを生じない程度の機械的強度とを、備えている必要がある。このような可撓ホースを形成するための材料として、例えば、ポリエチレンやビニル樹脂を用いることができる。なお、呼気用の可撓ホース140は、マスク100の着用者が咳やくしゃみをした際に呼気フィルタ120と協働して椀状体111内の圧力の急上昇を防ぐことができるように、十分な体積を有していることが望ましい。
【0032】
上述した呼気フィルタ120および吸気フィルタ130は、それぞれ、マスク100の着用者の胴体部に保持される。ここで、吸気フィルタ130は、周囲の新鮮な空気を取り入れるために支障がない位置であればどのように保持されてもよく、マスク100の着用者の上着の内側や鞄の中などに保持されても構わない。これに対して、呼気フィルタ120は、マスク100の着用者の腋下など体側部に密着して保持されることが望ましい。これによって可撓ホース140および呼気フィルタ120の内部が体温に近い温度に保たれるため、呼気中の水蒸気が結露することによるフィルタ材123の目詰まりが軽減されるだけでなく、フィルタ材123の表面が水蒸気に覆われることによって微粒子の吸着効率が向上するからである。
【0033】
次に、本発明の一実施形態としてのマスク100の細部の構成について、図1とともに図2をも参照しながら、さらに説明する。図2は、マスク100の本体部110の構成を示す図である。
【0034】
マスク本体部110の椀状体111には、マスク100の着用者の呼気を椀状体111から呼気フィルタ120に送り出すための可撓ホース150が接続される接続部115と、吸気フィルタ130から吸気を受け取るための可撓ホース140が接続される接続部116と、が設けられている。接続部115および接続部116は、いずれも、気密性を保つことができること、可撓ホース内の圧力が急変しても外れないこと、着脱が容易であること、などの要求を満たすために、可撓ホースを軸方向に差し込んだ後に更に回転させてロックする方式であることが望ましい。
【0035】
なお、同様の理由から、前述した呼気フィルタ120と可撓ホース140との接続部124および吸気フィルタ130と可撓ホース150との接続部134についても、可撓ホースを軸方向に差し込んだ後に更に回転させてロックする方式であることが望ましい。
【0036】
接続部115には、マスク100の着用者の呼気を椀状体111内から可撓ホース140を介して呼気フィルタ120に導くための、一方向弁(呼気弁)が設けられている。この呼気弁は、マスク100の着用者の呼気動作によって椀状体111内の圧力が周囲の圧力よりも上昇したときだけ開状態となり、椀状体111内の圧力が周囲の圧力と同程度以下であるときは閉状態を保つ。このような吸気弁は、フラップ弁またはボール弁によって構成することができる。
【0037】
一方、接続部116には、吸気フィルタ130によってフィルタリングされた空気を可撓ホース150を介して椀状体111内に導くための、一方向弁(吸気弁)が設けられている。この吸気弁は、上述した呼気弁とは逆に、マスク100の着用者の吸気動作によって椀状体111内の圧力が周囲の圧力よりも低下したときだけ開状態となり、椀状体111内の圧力が周囲の圧力と同程度以上であるときは閉状態を保つ。このような吸気弁も、呼気弁と同様のフラップ弁またはボール弁によって構成することができる。
【0038】
このように、マスク100のマスク本体部110が上述した呼気弁および吸気弁を備えていることによって、呼気フィルタ120内のフィルタ材123が捕集した汚染物質が椀状体111内に逆流すること、および、マスク100の着用者の呼気が吸気フィルタ130内に逆流することが防止される。
【0039】
ところで、前述したように、マスク100は、着用者の顔面に接する椀状体111の縁部に粘着剤層112が全周に亘って設けられており、耳かけ紐等を用いなくても椀状体111が着用者の顔面に保持されるように構成されている。しかし、マスク100は、粘着剤層112に代えて、または粘着剤層112とともに、椀状体111を着用者の顔面に確実に保持するための一対の保持部材113を備えることもできる。
【0040】
保持部材113は、適度な弾性および可撓性を有する線状、棒状または帯状の部材であり、その一端113aが椀状体111に結合され、他端がマスク100の着用者の耳孔に挿入される。一端113aは、保持部材113と椀状体111とがある程度の可動性を保つように結合されていることが望ましい。また、他端113bは、イヤホンと同様の形状にされており、マスク100の着用者の耳甲介腔に収容される。この状態で保持部材113が前方に引っ張られても、他端113bは耳珠に引掛かるために、耳甲介腔から簡単に脱落することはない。このため、マスク100の椀状体111は、粘着剤層112が形成されていない場合でも、保持部材113によって顔面に確実に保持される。
【0041】
保持部材113は、例えば、ポリエチレンやビニル樹脂などによって形成される。保持部材113が椀状体111の縁部から突出する長さは、一端113aに微小なラチェット機構などを備えることによって調節可能にされる。さらに、他端113bを実際にスピーカが内蔵された機能するイヤホンとして構成することもできる。このような構成によれば、マスク100の着用者は、顔面に本体部110を保持したままの状態で音楽を聴くことや携帯電話を使用することが可能になる。このため、マスク100を長時間に亘って着用する際の負担が低減される。
【0042】
次に、本発明の第1の実施形態としてのマスク100の呼気用のフィルタ材123および吸気用のフィルタ材133として好ましい材料について、説明する。呼気用のフィルタ材および123吸気用のフィルタ材133は、それぞれ異なる材料であっても互いに同じ材料であってもよいが、少なくとも一方が、繊維わたを含むものであることが望ましい。繊維わたは、単独で用いられてもよいが、フィルタ材として従来使用されてきた、活性炭、ゼオライト、ガラス繊維などと適宜組み合わせて用いられても構わない。
【0043】
図3は、繊維わたの吸着特性の一例を示す図であり、図3(a)はアンモニアに対する吸着特性を、図3(b)は硫化水素に対する吸着特性を、それぞれ示している。これらの吸着特性は、フィルタ材としての一定量(1g)の繊維わたが充填されたチャンバ内に一定濃度(1ppm)のアンモニアおよび硫化水素を含む空気をそれぞれ導入し、このアンモニア濃度および硫化水素の時間変化をガスクロマトグラフ法によって測定されたものである。4種類の繊維わた(真綿、綿、カシミヤ、ポリエステル)について吸着特性を測定した結果から明らかなように、繊維わたは概して良好な吸着特性を有しており、とりわけ、ポリエステルおよび真綿は優れた吸着特性を有している。
【0044】
このように、繊維わたは、空気中の有害なガスや感染性粒子などを除去するための手段として好ましい吸着特性を備えており、マスク100の吸気用の呼気用のフィルタ材123およびフィルタ材133として用いることができる。しかも、繊維わたは、フィルタ材として従来用いられているゼオライトやガラス繊維などと異なり、焼却しても残渣を生じないため、使用後に焼却処理することが望ましい呼気用のフィルタ130のフィルタ材123として好適である。
【0045】
以上説明した、本発明の一実施形態としてのマスク100は、着用者の少なくとも口部および鼻部を覆う椀状体111と、椀状体111に可撓ホース140を介して連結され椀状体111から流出する空気をフィルタリングする呼気フィルタ120と、を備え、椀状体111がその一部に振動体領域114を有するとともに着用者の顔面に接する椀状体111の周縁部に粘着剤層112を有することにより、着用者の呼気に対してフィルタリングを行うことができる能力を有しながら、着用者が自然なコミュニケーションを行うことが可能で、しかも、耳かけ紐等を用いることなく長時間に亘って快適に着用できる。
【0046】
また、マスク100は、一端113aが椀状体111に取り付けられ他端113bが着用者の耳孔に挿入される一対の保持部材113を、粘着剤層112に代えて、または粘着剤層112とともに、備えることにより、椀状体111を着用者の顔面に確実に保持することができる。
【0047】
さらに、マスク100は、椀状体111に連結され椀状体111に流入する空気をフィルタリングする吸気フィルタ130をさらに備えることにより、着用者の呼気および吸気の両方をフィルタリングすることもできる。
【0048】
さらにまた、マスク100は、呼気フィルタ120のフィルタ材123および/または吸気フィルタ130のフィルタ材133が繊維わたを含むことにより、高いフィルタ効率を得ることができ、しかも、使用後にフィルタを完全に焼却することができる。
【0049】
なお、以上の説明において、本発明の実施形態としてのマスク100は呼気フィルタ120および吸気フィルタ130をともに備えているものであるとした。しかし、マスク100は、着用する際の状況に応じて、吸気フィルタ130が省略されてもよく、極めて小型の吸気フィルタ130がマスク本体110に直接に連結された構成とすることも可能である。また、呼気フィルタ120および吸気フィルタ130の形態や配置は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に制約されるものではない。
【符号の説明】
【0050】
100 マスク
110 マスク本体部
111 椀状体
112 粘着剤層
113 保持部材
114 振動体領域
115 接続部(呼気弁)
116 接続部(吸気弁)
120 呼気フィルタ
121 ケース
122 排出口
123 フィルタ材
124 接続部
130 吸気フィルタ
131 ケース
132 吸入口
133 フィルタ材
134 接続部
140,150 可撓ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の口部および鼻部を覆う椀状体と、
前記椀状体に可撓ホースを介して連結され前記椀状体から流出する空気をフィルタリングする第1のフィルタ体と
を備えるマスクにおいて、
前記椀状体が、その一部に振動体領域を有するとともに、前記着用者の顔面に接する前記椀状体の周縁部に粘着剤層を有する
ことを特徴とするマスク。
【請求項2】
着用者の口部および鼻部を覆う椀状体と、
前記椀状体に可撓ホースを介して連結され、前記椀状体から流出する空気をフィルタリングする第1のフィルタ体と
を備えるマスクにおいて、
一端が前記椀状体に取り付けられ他端が着用者の耳孔に挿入される一対の保持部材を備える
ことを特徴とするマスク。
【請求項3】
前記椀状体に連結され、前記椀状体に流入する空気をフィルタリングする第2のフィルタ体を、さらに備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスク。
【請求項4】
前記第1のフィルタ体および/または前記第2のフィルタ体が繊維わたを含む
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−200421(P2011−200421A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70385(P2010−70385)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(506013081)
【Fターム(参考)】